著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一 Kim Ryonghwa Arisa Nakano Motokazu Ando
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144,

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144, 2014 (Released:2014-10-29)

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一 Kim Ryonghwa Arisa Nakano Motokazu Ando
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144, 2014-09

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
安藤 元一 上遠 岳彦 川嶋 舟 Motokazu Ando Kamito Takehiko Kawashima Shu 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 国際基督教大学生命科学デパートメント 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Life Science International Christian University Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.275-286,

学生が大学入学前にどのような野生動物関連の知識と体験を有しているか,東京農大生を対象に2002年と2012年にアンケート調査した。野外で見たことのある動物は2002年には鳥類>哺乳類>魚類>爬虫類>両生類の順であったが,2012年には爬虫類,両生類,魚類が大きく減少した。後者は水辺などに行かねば見られない動物であることから,この10年間に若年層の自然に触れる機会が減少していると思われた。野生動物に関する知識や意識における10年間の変化は少なかった。野生動物の目撃場所では,自宅周辺や里山が多く,旅行中の目撃頻度は減少傾向にあった。学生がイメージできる野生動物関連職業の数は少なく,動物園や研究職など一部職種に集中していた。好きな日本産動物の上位は陸生の中・大型哺乳類で占められ,食虫目や翼手目への関心は極めて低かった。好きな世界の動物では動物園で見ることのできるライオン,パンダ,ゾウ,コアラ,トラなどの大型獣が上位であった。野生動物に関する情報源としては特定のテレビ番組が大きな役割を果たしており,本では動物図鑑がよく利用されていた。動物系学科で学ぶ学生(東京農業大学)と非動物系の学生(国際基督教大学)を比較すると,野生動物教育の経験を除いて,アンケート結果は類似しており,入学前における野生動物経験の多寡は大学選択に影響していなかった。動物系の異なる研究室(野生動物学と動物介在療法)に所属する学生の野生動物経験を比較したところ,回答傾向は概ね類似したが,後者では鳥類や獣害に対する関心が若干低かった。
著者
和久 大介 穴田 美佳 小川 博 安藤 元一 佐々木 剛 Waku Daisuke Mika Anada Hiroshi Ogawa Motokazu Ando Takeshi Sasaki
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.144-150,

ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)はユーラシア大陸に広く分布する中型食肉目である。本種には11の亜種がおり,欧州亜種L. l. lutra,東南アジア亜種L. l. barang,中国亜種L. l. chinensis などが国内外の動物園や水族館で飼育されている。欧州の動物園や水族館にはA-line(L. l. lutra)とB-line(L. l. lutraとL. l. barangが交雑した可能性がある系統)という2つのlineが存在し,日本の動物園や水族館にも導入されている。本来は同じ亜種内で繁殖がおこなわれるが,日本では本種の個体数が少ないためA-lineとB-lineで繁殖がおこなわれている。実際にB-lineが東南アジア亜種の遺伝子を持っているか評価がおこなわれ,B-lineとA-lineの間に違いがあることが示された。ただし先行研究では,解析配列が307bpと短いことが問題として上げられる。本研究ではミトコンドリア(mt)DNA Cytochrome bの全長配列(1140bp)をA-line,B-line各1個体,中国亜種2個体から決定し,先行研究で決定されたB-lineの配列を含む4配列を加えて配列比較,系統解析をおこなった。その結果,A-line,B-lineそれぞれが特徴的な変異サイトを示し,系統解析では先行研究と同じようにB-lineは中国亜種とクレイドを形成し,A-lineは欧州亜種独自のクレイドを形成した。よって解析したB-lineのmtDNAは東南アジア亜種に由来する可能性がある。2015年現在,日本のB-line個体は全て本研究で解析したB-lineの子や孫である。亜種間交雑が示唆された国内のB-lineは,本種の繁殖・維持に活用できるが,A-lineや中国亜種の系統維持に活用することはできない。
著者
大岩 幸太 宮崎 雪乃 岩田 萌実 小川 博 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.200-208, 2014-12-15

厚木市の中山間地域と平地農業地域における獣害に対する住民感情を2009-2010年にアンケート調査し,1,462件の回答を得た。販売農家は中山間地域で9割以上,平地農業地域で5割が獣害被害を受けていた。いずれの地域でも農作業への関わりの高い住民は野生動物に強い「怒り」を感じるのに対し,農作業への関わりが低くなると「かわいい,うれしい」と感じる傾向が見られた。捕獲駆除については,中山間地域では農作業に関わりの高い住民の賛成率が高まる傾向があったのに対し,平地農業地域では逆の傾向がみられた。性別で見ると,男性の捕獲駆除賛成率が中山間地において高かったのに対し,女性における地域差は少なかった。行政への要望として,中山間地域では情報提供や資金・物品提供など農地を守るために直接役立つ対策への要望が強かったが多いのに対し,駆除の促進への要望順位は低かった。しかし,アンケートから判明した住民の求める要望と,行政が行っている実際の獣害対策を比較すると,住民の要望が反映されているのは駆除対策だけであった。
著者
高中 健一郎 山縣 瑞恵 安藤 元一 小川 博 TAKANAKA Kenichiro Mizue YAMAGATA Motokazu ANDO Hiroshi OGAWA
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-117, 2011-09

側溝に落下して死亡する小型哺乳類が多いことから,本研究では側溝の深さと側溝内の水位が小型哺乳類の脱出成功率にどのように影響するかを調べると共に,保全対策として脱出用スロープの形状を検討した.脱出できなくなる道路側溝の深さは,モグラ類(ヒミズ,アズマモグラおよびコウベモグラ)では15cm,ジネズミでは24cm,スミスネズミおよびハタネズミは30cmであった.アカネズミおよびヒメネズミは深さ30cmの溝からは概ね脱出可能であり,静かな環境では深さ45cmからも一部の個体が脱出できた.脱出に際して地上性のアカネズミはよじ登りよりもジャンプを用いる傾向が強く,半樹上性のヒメネズミはよじ登りを多用した.側溝内に止水がある場合,ネズミ類は小さな側溝からは水位にかかわらず脱出できたが,大きな側溝ではスミスネズミやハタネズミは水位1cm以上で,アカヤズミとヒメネズミは水位5cm以上で脱出できない個体が現れた.ネズミ類の保護対策としては側溝の深さをできるだけ浅くすることが望ましく,モグラ類についてはスロープ付き側溝を用いることが望ましい.スロープには1.5~4.5cm間隔で段差を付け,傾斜角度を45°以下にするとともに,スロープを側壁で挟んで通路幅を5cm程度にとどめることが望ましい.
著者
山田 啓貴 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.57-62, 2015-06-19

近年における野生動物自動撮影カメラの大部分は,焦電型センサーを用いており,背景温度と対象動物の体表温度との温度差を検知して作動する。本研究の目的は,背景温度と動物体表温度が動物の検知率に与える影響を明らかにすることである。実験には3機種のカメラ(FieldNote Duo,LtlAcorn5210およびTrophyCam Basic Model)を用い,表面温度38℃の被写体の検知率をさまざまな背景温度のもとで調べるとともに,数種類の鳥獣の体表温度を異なる気温条件で調べた。センサーカメラの検知率は,対象動物と背景温度の差が6℃以下になると低下しはじめた。背景温度としての地温が高くなる夏季の昼間には,野外でこのような状況が生じる可能性がある。動物の体表温度は顔面部分では高い値を示したが,胴体部分では毛皮や羽毛の断熱効果によって背景温度と変わらぬ低い値を示すことも多かった。そのため,撮影範囲に胴体部分しか写らないような状況では,夏季以外の季節にも動物を検知できない場合があると予想される。
著者
安藤 元一 上遠 岳彦 川嶋 舟 Motokazu Ando Kamito Takehiko Kawashima Shu
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.275-286, 2013-03

学生が大学入学前にどのような野生動物関連の知識と体験を有しているか,東京農大生を対象に2002年と2012年にアンケート調査した。野外で見たことのある動物は2002年には鳥類>哺乳類>魚類>爬虫類>両生類の順であったが,2012年には爬虫類,両生類,魚類が大きく減少した。後者は水辺などに行かねば見られない動物であることから,この10年間に若年層の自然に触れる機会が減少していると思われた。野生動物に関する知識や意識における10年間の変化は少なかった。野生動物の目撃場所では,自宅周辺や里山が多く,旅行中の目撃頻度は減少傾向にあった。学生がイメージできる野生動物関連職業の数は少なく,動物園や研究職など一部職種に集中していた。好きな日本産動物の上位は陸生の中・大型哺乳類で占められ,食虫目や翼手目への関心は極めて低かった。好きな世界の動物では動物園で見ることのできるライオン,パンダ,ゾウ,コアラ,トラなどの大型獣が上位であった。野生動物に関する情報源としては特定のテレビ番組が大きな役割を果たしており,本では動物図鑑がよく利用されていた。動物系学科で学ぶ学生(東京農業大学)と非動物系の学生(国際基督教大学)を比較すると,野生動物教育の経験を除いて,アンケート結果は類似しており,入学前における野生動物経験の多寡は大学選択に影響していなかった。動物系の異なる研究室(野生動物学と動物介在療法)に所属する学生の野生動物経験を比較したところ,回答傾向は概ね類似したが,後者では鳥類や獣害に対する関心が若干低かった。
著者
高中 健一郎 安藤 元一 小川 博 土屋 公幸 吉行 瑞子 天野 卓
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-9, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
37
被引用文献数
1

小型哺乳類の側溝への落下状況を明らかにすることを目的とし,静岡県富士宮市にある水が常時流れている約1.5 kmの側溝(深さ45 cm × 幅45 cm,水深10~25 cm,流速約1.3~1.6 m/s)において,2001年6月から2004年9月の間に落下個体調査を131日行った.その結果,食虫目6種,齧歯目7種,合計2目3科13種152個体の落下・死亡個体が確認でき,側溝への落下は1日あたり平均1.16個体の頻度で起きていることが明らかになった.落下していた種は周辺に生息する小型哺乳類種の種数81%に及び,その中にはミズラモグラ(Euroscaptor mizura)などの準絶滅危惧種も含まれていた.また,ハタネズミ(Microtus montebelli)の落下が植林地より牧草地において顕著に多くみられ,落下する種は側溝周辺の小型哺乳類相を反映していると思われた.側溝への落下には季節性がみられ,それぞれの種の繁殖期と関連している可能性が示唆された.以上のことから,このような側溝を開放状態のまま放置しておくのは小動物にとって危険であり,側溝への落下防止策および脱出対策を講じる必要があると考える.
著者
キム ヒョンジン ハン ソンヨン 佐々木 浩 安藤 元一 Kim Hyeonjin Sungyong Han Hiroshi Sasaki Motokazu Ando 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻 Korean Otter Research Center 筑紫女学園大学短期大学部幼児教育科 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Animal Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Korean Otter Research Center Department of Early Childhood Education Chikushi Jogakuen University Junior College Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-38,

ユーラシアカワウソLutra lutraが経済成長に伴う環境変化からどのような影響を受けるのか調べることを目的に,工業集積の進む韓国慶尚南道の海岸における本種の生息痕を1982年,1991-94年,2002年および2009年にわたってモニタリングした。慶尚南道馬山地域における糞密度は,1990年代には減少傾向を示したが,2000年代後半には回復傾向に転じた。回復傾向は釜山市などでも見られた。本種が安定的に生息する海域のCODは約4mg/L以下のレベルであった。糞が多く見られたのは,岬の湾口にある磯海岸,海岸近くの小島,河川の人工湖などであり,これらは餌資源の多いことや,隠れ場所として適していることが共通していた。本種は人工護岸のわずかな隙間や,沖合の水産養殖イカダの上をサインポストとして利用しており,人工環境への適応力も備えていた。調査期間中に調査地の陸域における各種経済指標は高い伸びを示したが,湾奥部におけるカワウソが生息しない地域が若干広がったことを除くと,陸域における経済発展や開発は本種の生息に直接的な影響は与えないことがわかった。Distribution of otter spraints along sea coasts at Masan area of Gyeongsangnam-do, Korea was monitored for 27 years from 1982, 1991-94, 2002 to 2009. Densities of spraints once decreased in the 1990's. In the late 2000's, however, this turned to a tendency to increase, although recovery was insufficient. Similar recovery was also identified in Busan. Spraints were not found at areas that were far from the closed-off section of the bay by 0-9km. The otters were able to inhabit up to the vicinity of industrialized area. At coasts where otter spraints were regularly found, COD level was around 4mg/L. Spraints were often found at rocky coasts along capes, heads of bays, small islets and reservoirs, indicating that prey fish was abundant in those areas. At coasts with steep artificial walls, otters managed to find landing places by locating narrow gaps and harbors. Otherwise, they used coastal fishpens as signposts, indicating their adaptability to artificial environments. Economic indicators in the land area of the investigation place heightened considerably during the monitoring period. The above findings indicate that terrestrial economic growth does not necessarily lead to the decrease of the otter population.
著者
安藤 元一 椎野 綾 鳥海 沙織
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.260-268, 2012-03

センサーカメラによる自動撮影調査は,野生動物研究に広く使われている。しかし調査によって設置方法や使用機種が異なるために,調査結果を定量的に比較することが困難である。本研究ではセンサーカメラの機種による性能差を明らかにすることを目的に,フィルムカメラ 1機種(FieldNoteIIa),デジタルカメラ 5機種(FieldNoteDS8000, FieldNoteDS60, GAME SPY D40, Cuddeback Expert およびTSC30) および単体センサー 1機種(TrailMaster550)を対象とし,各機種のシャッター・タイムラグ,動物検知可能距離,種判別可能距離,検知可能画角,および電池寿命を実験的に比較した。タイムラグは 0.6秒から 4.5秒まで機種に大きな差があった。大型の動物を検知できる距離は 7m から 27 m までの差があった。しかし検知距離が長い機種ではフラッシュ光はその距離まで届かなかった。小動物を近距離で撮影した場合,デジタルカメラはすべて被写体が白飛びして種判別が困難であったが,フィルムカメラでは 20cm まで近接しても判別できた。 センサーの水平検知可能画角も機種によって10~150°と大きな差があり,タイムラグが長いカメラほど検知画角が狭くなる傾向があった。電池寿命はいずれの機種も常温で 3週間程度はあり,実用上問題なかった。米国の会社が発売する 3機種は,見通しのきく森林において動きの遅い大型獣の存在を確認するための,ハンティング用調査に適した性能を有していた。国産の 3機種は近距離の中小動物撮影に適し,汎用性の高い機種といえる。一般的な自然環境調査においては,他の調査と比較できる方法を用いることが重要である。しかしカメラ性能の差が大きくてモデルチェンジが頻繁という現状では,定量的な比較のためには機種の統一を目指すよりも,撮影面積を一定にするなどカメラの設置方法^5) を工夫する方が現実的と思われる。Trail camera photography has become a common practice in wildlife field studies. Quantitative comparison of different survey results, however, remains difficult partly because different cameras are used in different studies. This study aims at clarifying performances of film-and digital-sensor cameras under experimental conditions. Seven camera types were tested : a film camera(FieldNoteIIa), five digital cameras (FieldNoteDS8000, FieldNoteDS60, Cuddeback Expert, GAMESPYD40, TSC30)and a separate-type sensor(TrailMaster550). Time lags from sensing to triggering varied from 0.6 sec. of FN IIa to 4.5 of TSC30. Detectable distances were from 7m of FN IIa to 27 m of TSC30. Identifiable distance of TSC30, however, was no more than 12 m due to the lack of speedlight power. Horizontal detectable angles also varied from 10° of Expert to 150° of TrailMaster. When shooting close up photos of small-size animals, images of digital cameras tended to be overexposed and not to allow species identification. This was not the case in the film camera that allowed identifiable close up shot as near as 20 cm. Battery satisfactorily lasted for more than three weeks in all cameras. Cameras distributed by US companies generally had longer detectable distances, narrow detectable angles and longer triggering time that were suitable in detecting big game in woodlands of good visibility. Cameras made in Japan had more compact size, shorter detectable distances and wider detectable angles and broader dynamic ranges. These were desirable performances for use in rural thickets in Japan. For comparing different survey results, it seemed more practical to standardize rules of camera installation rather than unifying camera performances.
著者
安藤 元一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.165-176, 2005 (Released:2006-12-27)
参考文献数
36
被引用文献数
6

環境影響評価や環境教育の場における巣箱調査の効率向上に資するため, 樹上性齧歯類の巣箱利用を東京都, 神奈川県, 山梨県, 石川県および滋賀県の天然針葉樹林, 落葉樹林, スギ造林地および寺社境内の16カ所において延べ2,664個の巣箱を用いて調査した. ニホンモモンガは天然針葉樹林で最高27%の宿泊率を記録し, 落葉樹林では調査地毎の差が大きかった. ヤマネは落葉樹林を好んだが, 利用率は他種より低かった. ヒメネズミは造林地を含め最も普遍的な巣箱利用者であった. 各調査地の8~11月における平均巣箱痕跡率は, ニホンモモンガで5%, ヤマネで2%およびヒメネズミで10%であった. モモンガとヒメネズミは巣材によって生息を確認できるが, ヤマネについては宿泊個体の現認による慎重な調査が望まれる. 各調査地における最初の巣箱利用痕跡は, 概ね設置1年以内に確認可能であり, 利用度の経年変化は見られなかった. 巣箱は夏季に多く利用され, 巣箱サイズは利用率に影響しなかった. 春に巣箱を設置し, 鳥類繁殖期をさけて夏~秋の数カ月間に延べ300個程度の巣箱を点検すれば, 複数年の調査をしないでも調査地の樹上性齧歯類相はおおむね把握できるといえる.
著者
原口 美帆 安藤 元一 Haraguchi Miho Motokazu Ando 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.128-136,

明治時代から現在に至るハンターの関心事項の変遷を探るため,1891-2008年に発行された狩猟雑誌4誌(猟之友,銃猟界,狩猟と畜犬,狩猟界)の記事内容を調査した.雑誌1冊あたりの総ページ数,記事総数,広告数は,1950年代から1970年にかけての狩猟ブームの折に急増し,以降は減少傾向が続いた。これらの傾向は狩猟人口の変化と一致していたが,猟犬関連の記事にはそうした相関は見られなかった。記事が扱う鳥獣は,1950年代までは鳥類が主であったが,1980年代からは獣類の方が多くなった。クマは実際の捕獲数と比べて記事の数が多く,ハンターの関心の高さがうかがえた。獣類記事の中では1970年代までウサギが多かったが,1980年代以降はシカ・イノシシが8割以上を占めた。これらの傾向も実際の狩猟頭数や有害駆除頭数の変化を反映しており、狩猟がスポーツから獣害対策の手段に変化したことを示していた。This study was intended to investigate the change of article contents in hunters' magazines and animal/bird-related books for about 120 years from Meiji Era to the present. The following four hunters' magazines that were published during 1891-2008 were investigated: `Ryo-no-tomo (Friends of hunters)', `Juuryo-kai (Hunting gun world)', `Shuryo-to-chikken (Hunting and dog)' and `Shuryokai (Hunting world). Total page numbers per copy of hunting magazines steadily increased towards 1970 and started to decrease slowly thereafter. Total number of articles and the number of advertising articles also showed similar trends. Except for wartime (1918 and 1940), those changes were in proportion with the population number of registered hunters. Among advertising articles, those about hunting guns were dominant from the 1950s through 1970s. From 2000s, advertisements on hunting-related materials such as traps and clothing became the majority. In particular increase of trap-related advertisements increased sharply. In articles of hunting techniques, main target animals were birds in the 1950s, but shifted to mammals in the 1980s. Mammal-related articles were mainly on hares until the 1970s, but they shifted to deer and wild boars after the 1980s, occupying more than 80% of articles. This seemed to be a reflection that the number of hunted hares started to decrease after the 1970s and the number of hunted deer and wild boar for wildlife damage control increased after 2000. It turned out that the increase and decrease of total page numbers in hunting magazines was in proportion to the population of hunter, with the exception of wartime. They also reflected levels of wildlife damage and the actual hunting head count.
著者
安藤 元一 船越 公威 白石 哲
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-43, 1983-07
被引用文献数
3
著者
高中 健一郎 安藤 元一 小川 博 土屋 公幸 吉行 瑞子 天野 卓
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-9, 2008-06-30
被引用文献数
1

小型哺乳類の側溝への落下状況を明らかにすることを目的とし,静岡県富士宮市にある水が常時流れている約1.5 kmの側溝(深さ45 cm × 幅45 cm,水深10~25 cm,流速約1.3~1.6 m/s)において,2001年6月から2004年9月の間に落下個体調査を131日行った.その結果,食虫目6種,齧歯目7種,合計2目3科13種152個体の落下・死亡個体が確認でき,側溝への落下は1日あたり平均1.16個体の頻度で起きていることが明らかになった.落下していた種は周辺に生息する小型哺乳類種の種数81%に及び,その中にはミズラモグラ(<i>Euroscaptor mizura</i>)などの準絶滅危惧種も含まれていた.また,ハタネズミ(<i>Microtus montebelli</i>)の落下が植林地より牧草地において顕著に多くみられ,落下する種は側溝周辺の小型哺乳類相を反映していると思われた.側溝への落下には季節性がみられ,それぞれの種の繁殖期と関連している可能性が示唆された.以上のことから,このような側溝を開放状態のまま放置しておくのは小動物にとって危険であり,側溝への落下防止策および脱出対策を講じる必要があると考える.<br>
著者
岩下 明生 小林 大輔 太田 季絵 小川 博 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.209-217, 2014-12-15

神奈川県内の哺乳類の生息状況が異なる2つの緑地においてスタンプ板を用いた足跡トラップの有効性を検証するために,スタンプ板と自動撮影カメラを「けもの道」に設置して両者の調査効率を比較した。両手法におけるタヌキやアライグマなどの中型食肉目の出現頻度には正の相関が得られた。しかし,その値自体はスタンプ板調査よりも自動撮影調査の方が4-5倍高かった。動物のスタンプ板に対する反応をみると,アライグマとイエネコでは他種よりもスタンプ板の上を通過する割合が1.5-1.7倍高かったのに対し,アナグマでは他種よりも板の脇をすり抜ける割合が2-3倍高く,スタンプ板への反応には種間差が存在した。すなわち,スタンプ板調査は自動撮影調査よりも動物の検出力に劣るが,主要な中型食肉目の生息確認のような定性的な調査には十分な能力を有していた。さらにスタンプ板調査では低価格で盗難の可能性も低く,取り扱いが容易であるという利点があった。スタンプ板調査における実用的な方法の長短所を議論した。
著者
キム ヒョンジン ハン ソンヨン 佐々木 浩 安藤 元一 Kim Hyeonjin Sungyong Han Hiroshi Sasaki Motokazu Ando 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻 Korean Otter Research Center 筑紫女学園大学短期大学部幼児教育科 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Animal Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Korean Otter Research Center Department of Early Childhood Education Chikushi Jogakuen University Junior College Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-38,

ユーラシアカワウソLutra lutraが経済成長に伴う環境変化からどのような影響を受けるのか調べることを目的に,工業集積の進む韓国慶尚南道の海岸における本種の生息痕を1982年,1991-94年,2002年および2009年にわたってモニタリングした。慶尚南道馬山地域における糞密度は,1990年代には減少傾向を示したが,2000年代後半には回復傾向に転じた。回復傾向は釜山市などでも見られた。本種が安定的に生息する海域のCODは約4mg/L以下のレベルであった。糞が多く見られたのは,岬の湾口にある磯海岸,海岸近くの小島,河川の人工湖などであり,これらは餌資源の多いことや,隠れ場所として適していることが共通していた。本種は人工護岸のわずかな隙間や,沖合の水産養殖イカダの上をサインポストとして利用しており,人工環境への適応力も備えていた。調査期間中に調査地の陸域における各種経済指標は高い伸びを示したが,湾奥部におけるカワウソが生息しない地域が若干広がったことを除くと,陸域における経済発展や開発は本種の生息に直接的な影響は与えないことがわかった。
著者
徳田 宝成 岩下 明生 小川 博 安藤 元一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.191, 2013 (Released:2014-02-14)

アライグマが高密度に生息している神奈川県鎌倉市において,緑地と市街地が混在した環境における夏季の胃内容物を調べ,他地域における先行研究と比較した.供試材料は鎌倉市において 6~ 8月に被害報告を受けて捕獲駆除された 39個体のアライグマである.取り出した胃は冷凍保存し,解凍後0.5mmメッシュの篩で水洗し内容物をハンドソーティングで分類した.供試した 39個体中 24個体に内容物を確認でき,目レベルの分類では 24項目を確認できた(グルーミング等による毛等,同時採食と考えられる地衣類,イネ科,その他植物,石は評価から除外した).出現頻度は,動物質において甲虫目 (58% )が最も高く,次いでヨトウムシ等のチョウ目(38%),アメリカザリガニ等の甲殻類 (29% )となった.植物質においてクワ等の果実類 (38% )が最も高く,次いでクルミ目 (4% )となった.人由来の食物をみるとピーマン等の農作物 (4%),パンの残飯 (4%)の出現はわずかであった.しかし,プラスチックの破片や袋等の人工的な無機物 (54% )は高率で出現した.同定不能の内容物も 67%存在した.これらのことから夏季における鎌倉市のような環境では,緑地を主要な採餌場とし動物質を多く利用しており,市街地の利用は相対的に少ないことが知られた.本研究と他地域の比較を行うために各地域における多様度指数 H’を比較したところ,鎌倉市が 3.5であるのに対し,いすみ市では2.9,原産地の米国では 1.7~ 2.6となり,鎌倉市の方が高い傾向が見られた.また Piankaの重複度指数 αを用いて各地域間の重複度を算出したところ,本研究‐各地域間においてはいすみ市が 0.62で最も高く,原産地の米国では 0.45~ 0.57となり,本研究と各地域における重複度は低かった.