著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.35-44, 2008-01-31
被引用文献数
1

本稿では,明治中期において,「意匠」が重要な概念として用いられた各種の文化に関わる言説の語用を確認し,当時に「意匠」が示した意味内容について考察を行った。明治思想において重要な言説でありその影響が極めて大きかった『美術真説』のなかで,フェノロサが説く'power of subject'が大森惟中によって「意匠ノカ」と訳出された。『美術真説』に啓発された近代文学論において,西洋概念アイデア(idea)に対置される日本語として「意」あるいは「意匠」が用いられた。また,修辞学におけるinventionに「意匠」の語を用いて説明した例がみられる。さらに,目的論の論旨におけるdesign(adaptation of means to ends)を説くために「意匠」が用いられた。「意匠」は,各種の制作活動等において主体が客体をどのようなものとするか案出する思考行為を示しており,また,主体が案出した意図として客体に内在し他者が感受する概念として認知されるものを示すこともあることが確認された。「意匠」は、制作した主体の存在をよく認識させることばとして選択され使用されていたと推測される。
著者
李 艶 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.37-46, 2010-01-31
被引用文献数
1

本稿は、約千年の歴史を有する景徳鎮磁器産業を支えてきた磁器手づくり工房の様態を、文献ならびに現地調査採集資料に基づいて明らかにしたものである。その結果、次のことを明らかにした。(1)景徳鎮では、工房ごとに定められ制作工程を担う精緻な分業体制が布かれながらも、それらの工房が相互的・全体的に結びつき、巨大な磁器生産組織が構築されていた。(2)細分化された分業に基づく工房における磁器づくりのなかで個々の制作工程にかかわる技術・技法の構築、合理的施設の創出が促進された。(3)職人たち自らによる同業者組合が組織され、景徳鎮に居住するおよそすべての人びとが伝統的磁器生産にかかわる都市が構築された。(4)磁器生産を介しての世界との交流・交易を通して500〜600年間ほど世界の磁器市場を独占した景徳鎮の核をなしていたのが伝統的磁器手づくり工房であった。
著者
堀口 利枝 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.57-66, 2009-11-30

本稿は、絵巻物にみられる「笠」の意匠を観察・解析したものである。調査対象とした平安時代から室町時代のおよそ400年間に制作された絵巻物33巻の中に、人々が使用する「笠」の図像が1153点みられた。それらの図像の観察を通して、本稿では「笠」の意匠の特質を下記のように析出した。(1)平安時代は巾子のある「笠」のみであったが、鎌倉時代以降には、「笠」の材料や製作方法の進展とも関連し、巾子のない「笠」や塗りの「笠」がみられ多様な「笠」の文化が繰り広げられる。(2)「笠」は、上流者から庶民に至るまで多くの階層で使用されていたが、階層ごとに、使用者と「笠」の種類・形状との間に一定の関係性がみられる。(3)「笠」の使用目的は、風雨・風雪・陽光などを避ける物理的・実用的機能のみならず、女や僧・尼たちの間では顔・面を覆い隠す道具でもあった。(4)祭りに登場する「笠」には特異な風流が施され、神が降り立つための標、降り立った神そのものの標としての役割を果たした。
著者
趙 英玉 田中 みなみ 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究. 研究発表大会概要集 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.46, pp.208-209, 1999-10-15
被引用文献数
1

In the Q'ing dynasty, the Man ethnic was superior to Han ethnic, and became a ruler of China.The authors analyse the characteristic of motifs and meanings of the nobles' cloth ornaments in this dynasty expressed by the novel of "The Dream of the Red Chamber" and attempt to classify the symbolic order of the nobles of Han. The result can be outlined as follows : 1)The cloth ornaments for both male and female became similar in Q'ing dynasty. 2)The use of border decoration influenced from the nomadic Man ethnic became popular. 3)This dynasty saw the emergece stylistic change in decoration, from realistic to abstracts. The decorative styles of Han previously derived from Confucious thinking was altered by the styles of Man's nobles.
著者
深澤 琴絵 植田 憲 朴 燦一 宮崎 清 樋口 孝之
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.47-56, 2007-11-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
32

本稿は、「風呂敷」の語が定着するようになる以前の飛鳥時代から平安時代初期にかけての「包み」の文化の様態、すなわち、「包み」の素材・仕立て方・「包むもの」と「包まれるもの」との関連などを、聖徳太子遺品、正倉院御物、古書などを通して調査・解析したものである。その結果、次の諸点が明らかになった。(1)日本における現存する最古の「包み」は、飛鳥時代の仏教合戦に用いられた聖徳太子遺品で、それが今日の「風呂敷」の原初形態といえる。(2)奈良時代には、さまざまな正倉院御物を保護するための「包み」が出現する。御物はまず「包み」に包まれ、その後、袋や櫃に入れられて保存された。租庸調の産物を利用して「包み」に仕立てたものや舶来品の布を用いて「包み」の制作がなされた。(3)奈良時代から平安時代にかけての「包み」の平均寸法は約1mである。また、「包み」の仕立て・寸法・使い方は、「包まれるもの」との関係性によって工夫されていた。(4)「包み」を表す漢字はすでにAD100年頃の『説文解字』にみられ、魂に活力を付与して再生する意味が込められて「包み」が使用されていた。(5)『延喜式』には、渤海国や新羅との交易に「包み」が積極的に用いられたことが記されている。
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.63-72, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
27

「剪黏」とは、割れた茶碗の破片や色ガラスなどを利用して必要な形に刻み、作品の表面に一つ一つ丁寧に貼ることによって制作される、寺廟建築の屋根装飾である。本稿では、文献調査ならびに中国南部沿岸地域および台湾における現地調査に基き、「剪黏」の起源・変遷・制作過程について考察した。その結果、次の諸点を明らかにした。(1)中国大陸における「剪黏」は、南部沿岸の泉州地域において、清時代1700年前後に生誕したと思われる。また、ほぼ同時代に、その制作方法が台湾に伝えられた。(2)「剪黏」制作の主たる素材は、かつては茶碗や花瓶などの破片であったが、最近では、専用陶片が使用されるようになっている。専用陶片の出現は、「剪(切る)」と「黏(貼る)」からなる本来の「剪黏」造形における「剪(切る)」の作業を不要にし、職人の即興的創作性を喪失させた。この傾向は、台湾において著しい。(3)「剪黏」の主たる制作過程は、針金による原形制作、筋肉材の原形への付着、外観材の粘着に分けられる。
著者
伊藤 拓 宮崎 清乃 野口 益枝 大淵 友子 野口 和美 山出 新一 可児 一孝
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.175-180, 2003-07-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

片眼の詐病が疑われる症例を経験した。初回検査時、受傷眼の矯正視力は0.05であった。しかし、詐病を疑い視力検査法を工夫したことにより、再検時には0.5まで確認することができた。この方法は、受傷眼にピンホールを装用し、非受傷眼に凸レンズによる不完全遮閉を行うもので、両眼開放視力検査の応用である。この視力検査を行うにあたっては、不完全遮閉の目的で装用する凸レンズの度数が非常に重要である。そのため今回は、どのような度数で遮閉するのが適当かを検討する目的で、正常者7名(14眼)を対象に、各眼の完全矯正値に-1.0Dから+5.0Dを加えた状態で、負荷度数による視力の変化を測定した。視力測定はノートパソコンを利用したランドルト環単独視標を用い、恒常法で行った。得られた視力値は各負荷度数とも個人差が見られ、+1.0D付近で最も個人差が大きかった。負荷度数の増加に伴い、視力の低下は緩やかになった。+3.0Dの負荷では、0.15以上の視力を得られたものはいなかった。十分かつ安定した遮閉効果がある凸レンズをもって健眼の遮閉を行うには、+3.0D以上を用いるのが適当である事が示唆された。
著者
西村 宏紀 田中 みなみ 曽和 具之 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 47
巻号頁・発行日
pp.424-425, 2000-10-16 (Released:2017-11-08)

This study focuses on the effect of symbols in MANGA expression. There are several techniques adding symbols on the face to express the certain emotions. This study aims to grasp 1) the effect of symbols in expression of emotions and 2) difference of acception between MANGA familiar group and unfamiliar group. As the result, the following assertions can be made : (1) There are several symbols that can express the certain emotions by adding symbols to the expressionless face. (2) Besides these are not effective for MANGA unfamiliar group, these are effective for MANGA familiar group in some case. We should be careful in adding MANGA symbols to aim the effect for the MANGA unfamiliar group.
著者
李 煕周 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.1-10, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
65
被引用文献数
1

「閨房歌辭」は、朝鮮時代後期の女性たちが日々の暮らしを綴つたものである。本稿では、「閨房歌辭」にみられる「針仕事:バヌジル」の観察を通して朝鮮時代後期の「針仕事文化」の特性を考察し、次の諸点を明らかにした。(1)「針仕事」は、女性が16歳までに習得しなければならない大切な徳目として位置づけられていた。そして、一着の衣服をつくれることが一人前の成人女性としての証そのものとされた。(2)「針仕事」を通して、母と娘は、技術伝承だけでなく、女性に対する厳しい社会環境を共に越えようとする連帯性を培った。(3)「針仕事」は、女性自身の存在を表現する手段のひとつであった。また、「針仕事」の仕上がり具合が、女性の存在を社会的に認証する礎となっていた。(4)結婚生活は辛い家事労働の集積そのものであった。女性は、夜を徹して、「針仕事」を中心とする家事労働を貫徹した。(5)女性は、「針」と自分自身とを同等化することによって、辛い家事労働を乗り越えようとした。また、このような志向は、針仕事が韓国女性の生活そのものであったことを示している。
著者
朱 寧嘉 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1_39-1_48, 2012 (Released:2012-07-11)
参考文献数
34

本稿は、中国・浙江省の嘉興地域において繰り広げられてきた船上生活を取り上げ、前報において導出した「ものづくり」「生活づくり」のデザイン指針である「少物」デザインが、どのように体現されてきたかを明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果、以下を明らかとした。(1)船上生活をする人びとは、陸上生活者にとっては廃材・端材とみなされるものですら資源と認め、徹底的に使い尽くす知恵を培ってきた。(2)人びとは、きわめて限られた「もの」「空間」「エネルギー」「風水」を、それぞれの特質を見極めつつ、「混用」「多用」「代用」「転用」「愛用」に基づいて循環的に利活用しながら生活を構築してきた。(3)陸上生活者との交流は、陸の民に水環境の存在を身近に引き合わせる貴重な機会を創出する役割を担ってきた。今日の中国において求められている「節約型社会」の構築にとって、きわめて優れた「少物」デザイン要素が認められた。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.11-20, 2004-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本稿は,明治期の主要な英和・和英辞書,専門用語辞書によって,日本語「意匠」と英語単語との対応関係を調査し,「意匠」の意味の考察を行なったものである。今日,designと「意匠」の対応は,おおむね「形状・色彩・横様などの結合的な考案」という意味に受けとめられている。「意匠」は,明治初期の主要な英和辞書において,構成する字義の訓「こころだくみ」として解釈された語義から,「ムナヅモリ」の漢字表記として用いられた意味合いが強く,designの'amental plan'の語義に対応していた。これは,美術や工芸の制作に限らない,一般の語法としての「心中における計画・工夫」の意であり,文脈に応じて,「企て」「胸算用」「工夫」などの類義として用いられた。調査対象とした辞書においては,図像を示すdesignへの対応はみられなかった。また,明治10年代に,哲学上の目的論(Teleology)において'adaptation of means toends'の意味で用いられるdesignに対して「意匠」があてられたことが確認された。
著者
劉 俊哲 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.3_93-3_102, 2012 (Released:2012-11-30)
参考文献数
53

本稿は、中国の南京に伝わる伝統的な「秦淮灯彩」の歴史の源流、変遷、沿革と歴史の諸相を考察したものである。特に、「秦淮灯会」活動を明確に記載した文献の調査を通して、南北朝時代から清末、民国までの歴史を回顧した。その結果、以下の知見が得られた。(1)古くから「秦淮灯会」は、「秦淮灯彩」を用いながら一連の具体的な活動を通して長期間に当該地域の活性化に果たす役割がある。(2)「秦淮灯彩」をはじめ、当該地域に盛んになった手工業から生み出した伝統的な生活文化は、人びとが地域のなり立ちを確認する重要な契機を提供していた。(3)「秦淮灯彩」は身分、年齢、性別を問わず、当該地域の人びとに共有された。そのため、「秦淮灯彩」のあった姿を明らかにすることは、人間関係、調和社会の構築を強調している中国には、現実的な意義がある。(4)近年では、機器導入するによる、量産が多くなされるととに、「秦淮灯彩」の質と意匠の低下が激しい現状を迎えている。今後、伝統的なものづくりを、いかに継承していくかが大きな課題となっているといえよう。
著者
頼 瓊琦 趙 英玉 田中 みなみ 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 47
巻号頁・発行日
pp.148-149, 2000-10-16 (Released:2017-11-08)

This is one of the results of a series study, color image survey in Asian countries. This paper reports study result of vivid, pale and dark tone color image perceived by Asian country students, including Taiwan, Japan, Korea and five cities in china. Results show that there are basic similar feelings toward different tone colors among subjects, nevertheless the Country, such as vivid color is active, pale color is passive and soft yet subtle differences exist too. The researchers assumes the former is the basic mutual color feeling and the later is the cultural influence imposed on subjects.
著者
宮崎 清宏 山中 知紗 野村 朋江 政岡 由紀
出版者
高知県農業技術センター
雑誌
高知県農業技術センター研究報告 = Bulletin of the Kochi Agricultural Research Center (ISSN:09177701)
巻号頁・発行日
no.29, pp.35-38, 2020-03

1. 葉ニンニク,カイラン,シュンギク,夏秋ホウレンソウ,水耕ミツバの呼吸量は,貯蔵温度が高いほど多かった。また,収穫日の呼吸量が最も多く,翌日には大きく減少するが,2日以降は徐々に少なくなった。2. カイラン,シュンギクの収穫翌日までの呼吸量は,主茎が側枝より多かった。3. 葉ニンニクを垂直または水平置きで貯蔵した場合の呼吸量の違いは判然としなかった。
著者
黄 世輝 田中 みなみ 三橋 俊雄 加藤 純一郎 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.51-60, 1997-03-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
18

台湾の寺廟文化は、中国大陸から渡来した漢民族による移民社会の成立とともに、地域生活と密接な関係を保ちながら発達してきた。本研究では、台湾・鹿港の文化的、社会的象徴といえる龍山寺を対象に、地域づくりにかかわる龍山寺の役割とその可能性について検討した。その結果、鹿港の地域づくりにかかわる龍山寺のあり方について、以下に示す五つの方向性について提示した。1)宗教活動の場として清浄な環境を保ちながら仏教教義の広がりに努める。2)教育の場として歴史的資産を保護、伝承しながら郷土教育を推進する。3)文化活動の場として住民参加型の文芸活動を展開する。4)観光活動の場として龍山寺の文化的価値を内外に発信する。5)憩い・交流の場として寺廟文化の情報センターの役割を担う。総じて、龍山寺は地域づくりの拠点として多くの住民が参加できる活動を展開することができる。
著者
趙 英玉 朴 燦一 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.31-40, 2000
参考文献数
55

清代、漢民族の被服は満州族に影響され、大きく変化した。本研究は、小説『紅楼夢』にみられる被服文様を対象に、清代の文様の特徴を、文様がもつ身分象徴や吉祥などの意味性の側面と装飾形式の側面から分析・考察した。その結果、以下のように清代の被服文様がもつ意味性や形式の特性の一端を明らかにした。1)身分文様 : 身分文様を施した礼服に、縁文様を加えて飾ることにより、身分を区別する傾向がみられ、一つの文様の意味が薄れると別の文様を加え、その意味を強くするという新しい文様の使い方が明らかになった。2)吉祥文様 : 吉祥文様は、ほとんどがその文様形式に意味が内包され、図像のモチーフより形式にこだわった吉祥文化であることがうかがえる。3)装飾文様 : 装飾文様は、身分象徴と吉祥的な意味性を特に有さないが、その文様構成の点で、身分文様や吉祥文様と類似した文様構成がなされていたことがうかがえた。
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1-10, 2002-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
15

本論文は、台湾における寺廟建築の装飾技術「剪粘」を支えた職人集団の出自と組織構成の解析を中心として、その実像を明らかにしたものである。歴史的資料の解析、ならびに、「剪粘」職人へのインタビューを通し、次の諸点を明らかとしてた。(1)台湾における「剪粘」職人の起源は、17世紀後半に中国大陸東南海岸一帯から渡台した漢人たちが、寺廟建設のために招請した中国大陸の建築職人である。(2)建築職人は、大別して「大木」「小木」「土水」「石作」「漆絵」「陶塑」から構成されていたが、「剪粘」は、「泥塑」「交趾陶」とともに、「陶塑」に帰属していた。(3)「剪粘」の職人集団は「師匠」「出師」「未出師」からなり、技術伝承は「異姓拝師」「家族伝授」による「師徒制」に依拠していた。(4)個々の「剪粘」職人集団には請負仕事における空間的テリトリーがあり、たいていの場合、テリトリーの遵守が規範とされていた。(5)1970年代からの台湾の工業化の伸展とともに、「専用陶片」や既製の装飾部材が出現し、伝統的な寺廟の装飾技術としての「剪粘」は衰退の一途を辿っている。
著者
肖 穎麗 宮崎 清 植田 憲 張 福昌
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.57-66, 2008
参考文献数
22

中国における意匠権に関する認識の実態を明らかにする一環として、伝統工芸「惠山泥人」の特質と発展史を概観したうえで、江蘇省無錫市泥人研究所、無錫惠山泥人工場においてその制作に従事している職人へのアンケートならびに聴き取り調査を実施した。その結果は、次の3点に要約される。(1)職人たちは、知的財産権としての意匠権という概念を特段に意識化したかたちとして持ち合わせていない。(2)他の親方職人が行った仕事を盗んで真似ることは、職人の世界では禁忌とされていた。すなわち、意匠の盗用などは、元来、職人たちの世界ではありえなかった。それが、職人文化である。(3)個々の職人たちの意匠権に関する認識は必ずしも高くないものの、真摯にものづくりに取り組む気質のなかで、社会的規範として、意匠権保護が自ずとなされていた。しかし、伝統的な工芸文化のなかに経済的利益を目的とした意匠の模倣・盗用が生起しつつあることを考えると、「惠山泥人」を自らの風土に対応して展開される生活文化の造形表現として位置づけ、その文化的価値の再認識が求められる。