- 著者
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山本 登志哉
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.44-63, 2013 (Released:2020-07-09)
「文化現象」という対象を研究するにあたって,我々はいくつかの理論的困難に出会ってきた。この理論論文の中で我々は,比較文化心理学と文化心理学という文化に関わる心理学の両者が,個人と文化集団の関係を理論的に理解するときに,どうしても直面してしまう困難について検討することを試み,それを明らかにした。その困難の最も重要な点は,文化集団というものが,その外延も内包も明確に定義できない,という著しい曖昧さを持っていながら,それと同時に人間としての発達や我々の日常の社会生活に対して極めて大きな影響力を持っている,固定的な実体としても我々の前に現れるという矛盾した性格である。この困難な問題に対して,我々は現在新たに展開中である「差の文化心理学」の視点から,文化現象のこの矛盾した性質を理解する新たな理論的道筋を示し,さらには「拡張された媒介構造」(EMS)という我々の概念を用いてそれらを分析する新たな方法を提起した。