著者
横山 仁史 髙垣 耕企 神原 広平 神人 蘭 岡本 泰昌
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.295-306, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
20

心理療法のエビデンスは介入前後の標的指標の差に基づくものが多く、その治療効果がどのように実施された結果得られたのかについて定量的な情報は乏しい。心理療法は言語を主手段とするが、近年、言語情報に対してデータ駆動型の計算アプローチによって客観的かつ再現可能なモデルを生成するトピックモデルが注目されている。本研究では、構造化された1事例の行動活性化中の会話データから、時系列構造を有する動的トピックモデルが治療セッション内容を抽出可能かについて検討を行った。結果として、会話に関する潜在的な四つのトピックが抽出され、それらの量的変動過程が治療プログラムを反映していることが示された。本研究は動的トピックモデルを心理療法中の会話に対して用いた最初の研究であり、これによる実際の治療プロセスの定量化と作用エビデンスの蓄積が期待できる。
著者
小野田 慶一 岡本 泰昌 国里 愛彦 岡田 剛 山脇 成人
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
脳と精神の医学 (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.249-254, 2009-09-25 (Released:2010-10-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年,抑うつと衝動性の関係性が指摘されている。我々は抑うつ傾向と,遅延報酬選択課題における衝動性の関連を検討した。衝動性の変数として,遅延報酬選択課題における行動データを指数関数及び双曲線モデルにフィットさせて算出した割引率を用いた。抑うつ傾向は,指数関数モデルの割引率と負の相関を示した。この結果は,抑うつが強い個人ほど遅延報酬に対する割引が強く,衝動性が高いことを示唆している。
著者
岡本 泰昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.194-198, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
9
被引用文献数
6 12

われわれはストレスの適応破綻の脳内メカニズムを明らかにするために,脳機能画像解析法を用いた検討を行っている.本稿ではその研究成果を中心に報告したい.まずストレス事象がどこで認知されるかを明らかにするために対人関係ストレスに関連する単語の認知の機能局在に関する検討を行った.次にストレスが脳内機構に与える影響について明らかにするために急性ストレスの感覚入力系に及ぼす影響について検討した.最後に予測がストレスへの適応破綻の防止に有効であると考え,ストレス事象の予測に関する脳科学的検討を行った.その結果,ストレス事象は脳内において認知されること,急性ストレスにより脳内機構の一部に変化が生じること,予測がストレス事象の入力を抑制する可能性が考えられた.さらに,これらの機能において前頭葉が重要な役割を果たしていることが推定された.
著者
吉野 敦雄 岡本 泰昌 神人 蘭 森 麻子 山脇 成人
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.260-266, 2017-12-20 (Released:2018-05-31)
参考文献数
17

Chronic pain affects many people and decreases their physical or emotional functioning and their quality of life, and impairs their ability to work. Psychological factors such as depression and less activities lead to chronicity of pain, and multidimensional treatments including psychotherapy for chronic pain patients are required. Cognitive behavioral therapy (CBT) is one of the psychotherapy treatments, and is required positive attitude that patients objectively monitor one’s own emotion, sensation, and social environments and that they continuously modify these maladaptive behavior and cognition, rather than negative attitude. By using acquired skills, they can learn to be able to control their symptoms by themselves. Many meta–analyses show that CBT is more useful for pain experiences, mental health, and social functioning than only drug medication. We have also developed a CBT program for patients with chronic pain since 2011 and have confirmed the improvement of subjective pain perception, depression, anxiety, and QOL after CBT. In this manuscript, we report the concrete program. Furthermore, clinical effects of our program were variable, and lastly, psychosocial or neuroscientific considerations were given to make this program more effective in the near future.
著者
酒井 翠 中野 高志 丸野 由希 岡田 剛 高村 真広 岡本 泰昌 山脇 成人 吉本 潤一郎
雑誌
2018年度 情報処理学会関西支部 支部大会 講演論文集 (ISSN:1884197X)
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018-09-21

うつ病に関連する脳の構造的異常についてこれまで様々な報告がなされてきたが、治療効果や環境的要因の影響も大きく、バイオマーカになり得るだけの決定的な結論には未だ至っていない。本研究では、治療効果の影響が少ないと考えられる抑うつエピソード発症早期のうつ病患者群と健常対照群の脳の構造的な差異についてvoxel-based morphometry (VBM)法を用いて解析し、先行研究の再現性を検証した。
著者
松永 美希 鈴木 伸一 岡本 泰昌 吉村 晋平 国里 愛彦 神人 蘭 吉野 敦雄 西山 佳子 山脇 成人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.181-191, 2012
参考文献数
29

本稿では、広島大学病院において心理士が中心になって実施しているうつ病の集団認知行動療法(cognitive behavioral group therapy:CBGT)について、薬物療法との併用効果を検討した。当院のCBGTプログラムは、心理教育、セルフモニタリング、行動活性化、認知再構成といった技法を用いた12セッションから構成されている。本プログラムの効果を検討するため、うつ病患者74名について、CBGT前・後・12ヵ月後で、ベック抑うつ質問票(BDI)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、DSM-IVの全体的機能評価(GAF)、36-item Short-Form Health Survey(SF-36) 、自動思考尺度改訂版(ATQ-R)、非機能的態度尺度(DAS)を実施した。その結果、CBGT後において抑うつ症状(BDI,HAM-D)、非機能的認知(DAS,ATQ-R)の得点が有意に減少しており、また社会的機能(GAF,SF-36)の得点は有意に上昇していた。したがって、すべての指標において改善が認められた。またこれらの改善は1年以上維持されている可能性が示唆された。
著者
国里 愛彦 高垣 耕企 岡島 義 中島 俊 石川 信一 金井 嘉宏 岡本 泰昌 坂野 雄二 山脇 成人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-31, 2011

本研究は、環境中の報酬知覚について測定する自己記入式尺度の EnvironmentalReward Observation Scale (EROS) 日本語版を作成し、信頼性と妥当性の検討を行うことを目的とした。大学生と専門 学校生を対象に調査を行い、414名(男性269名、女性145名;平均年齢18.89±0.93歳)を解析対象 とした。探索的・確認的因子分析の結果、日本語版EROSは1因子構造を示した。信頼性において、 日本語版EROSは十分な内的整合性と再検査信頼性を示した。項目反応理論による検討を行った結果、 広範囲な特性値において測定精度の高いことが示された。日本語版EROSは、抑うつ・不安症状や行 動抑制傾向との負の相関、行動賦活傾向と正の相関を示した。不安症状を統制した場合、日本語版 EROSはアンヘドニア症状との相関が最も強い値を示した。以上より、日本版EROSの構成概念妥当 性が確認された。
著者
岡本 泰昌 岡田 剛 吉村 晋平 国里 愛彦 西山 佳子 土岐 茂 小野田 慶一 山脇 成人
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3+4, pp.140-148, 2010 (Released:2012-01-01)
参考文献数
20

【要旨】 近年、うつ病の病態を捉えるために、種々の画像解析手法を用いて脳機能を直接測定しようとする研究が精力的に行われている。これらの研究結果から、様々な生理的な機能を持つ神経回路やそれらの回路の相互作用がうつ病の症状形成に関与していると考えられる。本稿では、われわれが機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてうつ病の認知に関わる神経生理学的基盤を明らかにするために行っている研究結果を中心に紹介する。まず、ストレスがうつ病の発症や症状持続に様々な作用を及ぼしていることから、ストレスの認知の性差について検討し、前頭前野、扁桃体が重要な働きをしていることを明らかにした。次に、既に妥当性や機能局在が明らかになっている神経心理課題や新たにうつ病の認知的特徴に関連して作成した認知課題を用いて、うつ病の脳活動の変化について明らかにした。さらに、これらの脳機能変化は治療反応性や回復の指標となる可能性について検証した。また、セロトニンのヒトの脳における神経生理学的役割に着目し、セロトニンは線条体-前頭前野回路を介して報酬の見通しを制御することを明らかにした。これらの研究結果を踏まえ、うつ病の認知、病態、治療に関わる神経生理学的基盤について考察した。
著者
岡本 泰昌 木下 亜紀子 小野田 慶一 吉村 晋平 松永 美希 高見 浩 山下 英尚 上田 一貴 鈴木 伸一 山脇 成人
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.237-243, 2007-03-31 (Released:2016-12-01)

In this article, we present our neuroimaging studies by functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI) about the brain mechanism of cognition toward elucidation of pathophysiology in depression. The first and second data show the brain mechanism (Kurosaki et al., 2005; Ueda et al., 2003) related to dysfunctional beliefs and systematic cognitive errors identified by Beck (1967), and the third is that (Tanaka et al., 2004) related to differential activation hypothesis proposed by Teasdale (1988). Lastly, we also show the change of brain function before and after cognitive behavioral group therapy (CBGT). Depressed patients before the CBGT showed attenuated activation in the dorsolateral prefrontal cortex, parietal cortex, and striatum were activated during the task. After the CBGT, the brain activation in good responders was restored as same as that in healthy control. However, in poor responder, there was no change on brain activation between before and after CBGT.
著者
吉田光佑 清水優 吉本潤一郎 土岐茂 高村真広 岡本泰昌 山脇成人 銅谷賢治
雑誌
研究報告バイオ情報学(BIO)
巻号頁・発行日
vol.2013-BIO-34, no.4, pp.1-2, 2013-06-20

うつ病の診断及び治療等において従来の経験に頼った手法ではなく、機能的核磁気共鳴 (fMRI) 技術を用いる研究が盛んに行われている。本研究では、言語流暢性課題におけるうつ病患者の fMRI データを対象に、L1 正則化付きロジスティック回帰を用いることで、より精度の高い客観的診断および関わりのある脳領域の特定を行った。
著者
岡本 泰昌
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

うつ病はネガティブな情動刺激に対する自己関連付けをおこなう特徴を有する。これまでの画像研究の結果から、自己関連づけ処理と内側前頭前野(MPFC)と前帯状回(ACC)の機能の関連が指摘されているが、うつ病を対象としたこれらの機能異常は明らかになっていない。そこでわれわれはいくつかの検討を行い、以下のような知見を得た。ネガティブ刺激の自己関連付けにおいてうつ病患者の内側前頭前野・前帯状回の活動は対象健常者より有意な活動上昇が認められた。さらに、うつ病患者を対象として認知行動療法(CBT)後には、ネガティブ感情語の自己関連付けにおいてCBT後に内側前頭前野、腹側前帯状回の活動が有意に低下することが明らかになった。われわれの研究の結果は、CBTによって自己に対するネガティブな認知に関わる脳機能が変容することによりうつ病の症状が改善することを明らかにした。
著者
山脇 成人 岡本 泰昌 山下 英尚 高見 浩
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

脳血管性うつ病(vascular depression: VD)の認知情報処理に関連する脳機能障害と部位を明らかにし、病態に基づいた治療法を開発することおよびVDの存在が脳卒中後のリハビリテーションにおよぼす影響を明らかにして脳卒中患者のリハビリテーションの予後を改善させることを目的として以下のような検討をおこなった。1)脳卒中患者の障害部位と抑うつの臨床症状の特徴との関連、2)VDの長期予後についての検討、3)機能的MRIを用いたVDで認められる機能障害についての検討、4)脳卒中後うつ病とリハビリテーションとの関連。その結果、1)両側の基底核が障害されていた患者ではApathy Scale(意欲低下の程度を示す)の得点が有意に高く、左側前頭領域が障害されていた患者ではZung Self-Rating Depression Scale(抑うつ期分の程度を示す)が有意に高値で,あった、2)VD群ではnon-VD群と比較してうつ病相期間(平均2.6年対1.3年)、入院回数(平均1.1回対0.4回)ともに有意に多く、経過観察期間中に認知症を発症した割合(18%対4%)も有意に高かった。3)言語流暢性課題を用いた。血管障害の有無で比較すると、有意な差は認めなかったが、これまでのうつ病相の回数で比較すると複数回のうつ病相を経験した患者では前帯状回の活性が低下していた,4)脳卒中患者では抑うつ、意欲低下の程度と機能障害の程度と相関していた。以上の結果より脳卒中患者では障害部位の違いにより認められやすいうつ病の症状に違いがあり、左側前頭領域が障害されていた患者で典型的なうつ病症状が、両側の基底核が障害されていた患者で意欲の障害といったより器質的な症状が認められやすいこと、VDではうつ病自体の長期的予後が低く、持続的な器質性の認知障害をきたしやすいこと、老年期うつ病患者の認知機能の低下や脆弱性には血管障害の存在とともにうっ病の再発の多さが関連していること、脳卒中後のリハビリテーションの進行に抑うつが影響を及ぼすことが明らかとなった。
著者
田中 沙織 銅谷 賢治 岡田 剛 上田 一貴 岡本 泰昌 山脇 成人
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.157, pp.37-42, 2002-06-20

強化学習において「メタパラメタ」の設定は非常に重要かつ困難な問題である.本研究では神経修飾物質のセロトニンが報酬予測の時間スケールを決定するという仮説の検証に向けた準備実験を行った.長期と短期の報酬予測を行うタスクを用意し,実行中の脳活動をfMRIにより測定したところ,長期の報酬予測では視床下核,視床背内側核,淡蒼球などの基底核と,皮質では帯状回後部,前頭前野,頭頂後頭側頭連合野に顕著な活動が見られた.これに対し,短期の報酬予測では被核,帯状回前部に目立った活動が見られた。これらの結果は,時間スケールの異なる報酬予測は,異なるネットワークを介して行われていることを示唆していた。さらに強化学習理論に基づいた解析を行ったところ,長期の報酬の予測誤差に関連する部位は視床下核,淡蒼球であった.この結果は,大脳基底核の強化学習モデルを支持するとともに,さらに機能ごとに詳細化されたモデルを構築するうえで重要な手がかりになることと思われる.