著者
新庄 貞昭 高橋 誠史 木村 秀敬 白井 暁彦 宮田 一乗
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.167-178, 2007 (Released:2008-05-27)
参考文献数
42

本解説では,グラフィックプロセッサ(GPU)を取り巻く環境やその利用法,開発環境の現状,およびGPUのコンピュータビジョンへの適用事例を紹介し,GPUコンピューティングの可能性を探る.GPUはプログラマブルシェーダの導入後,シェーダのバージョンアップにあわせてスペックの向上が行われてきた.またCPUと比較して制約は多いが,プログラミングを工夫することにより速度向上が可能である.GPUは幅広く利用されているが,特筆すべき適用事例としてコンピュータビジョン,物理シミュレーションがあり,汎用計算においては分散コンピューティングによるナノテクへの応用も報告されている.本解説では,GPUに加えて最近のCPUアーキテクチャの革新であるマルチコアプロセッサCPUについても触れるとともに,最新OSのひとつであるWindows Vistaでのグラフィックユーザインタフェースへの利用にも触れ,今後の応用の可能性を探る.
著者
美馬 義亮 木村 健一 柳 英克
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.39-45, 2002 (Released:2008-07-30)
参考文献数
10
被引用文献数
4 1

人間が図柄の構想を行い、コンピュータ上でそれらを表現するというスタイルのツールは広く用いられているが、コンピュータが図柄を生成する作業に関わるようなシステムは少数である。ThinkingSketch は、創造性をもった図柄生成に関する発想を対話的に支援することを目的とする。本システム上では。1)既存の絵画や写真などから生成されたカラーパレットを参考にして、作品の中で色彩を割り当てる。(=色のトレース)、 2)既存の絵画や写真の表現を下地にしてなぞる作業を通じてオリジナルな図形プリミティブを作成する。(=形のトレース)、 3)画面の中に 乱数によるプリミティブを配置する。4)パラメータと生成ルールにより多数の絵画を生成し、構図の構築、評価を繰り返し行う。このような検討作業を通じ、生成ルールやプリミティブのチューニングを行い、望ましいパターンの生成確率を上げる。ユーザはこの過程の中で自己の好む絵画スタイルの存在を意識し、それらを吟味することが容易になる。加えて、このような枠組みは熟練者への表現における生産性向上の支援にも利用可能であることを報告する。
著者
木村 博子
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.5-13, 2020 (Released:2021-04-01)

In the age of globalism, to live together with diverse people is a pressing issue. However, the growing disparity of society due to economic inequality makes it more difficult to realize. Music therapy has aimed to help people with disabilities to play a more active part in society since the 1980s. Community Music Therapy emerged in Europe with the aim of changing not people but society in general in order to be more accessible for those with disabilities. Community Music Therapy applies principles of social justice and equality and works within communities in order to realize an inclusive society through “Musicking.” Musicking is an innate ability of human being to perform music, regardless of talent or musical skills. It involves not only the performance of and listening to music but also various activities that enable music to happen, including management of concerts, advertising of music events, backstage work and so on. Community Music Therapy aims to convey the voices of people who suffer from exclusion and isolation to society and its policy lies in the belief that every human being has right to live with dignity without been excluded from community. It can be defined as a (small) social change for creating a more free and equal society through music, which is a pleasant medium for all.
著者
木村 雅史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.235-260, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
8

本稿の目的は、仙台市郊外A市の高齢者向け介護予防事業であるaサロン活動の支援者である地域サポーターへのインタビューを通して、地域サポーターがaサロン外における社会的役割や経験との関係性のなかで、どのようにサロン運営やサポート実践を行っているのかをアーヴィング・ゴフマンの相互行為儀礼論の視点から描き出すことである。 本稿では、aサロンのメンバーに対する地域サポーターの配慮や地域サポーター間の配慮のルールを相互行為儀礼と捉え、特徴の異なるX、Y、Zの三地区のaサロンについて分析を行った。X地区では、メンバー間の平等性と地域サポーター間の平等性が相互行為儀礼を通じて二重に維持されていた。Y地区では、地域サポーター自身が高齢化傾向にあるなかで地域サポーターの将来的な居場所づくりとして活動が捉え直されており、相互行為儀礼はさほど強く意識されていなかった。Z地区では、地域サポーターの個人的資源を活用したサポート活動が重視されており、相互行為儀礼は、地域サポーターがメンバーに対して適切な配慮を行うことと、地域サポーターが自らの個人的資源を活動に役立てることを両立させる調整的な役割を担っていた。 本稿の分析で明らかになったのは、メンバーと地域サポーターの適切な関係性やそれを維持する地域サポーターの適切な振る舞いを定義する役割を担っているのが相互行為儀礼であるという点である。
著者
木村 雅史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.133-155, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
23

本稿の目的は、アーヴィング・ゴフマン独自の「状況の定義」論として展開されている『フレーム分析』の分析枠組を対面的相互行為とメディアを介したコミュニケーション(以下、CMC)の両者を統合的に分析する枠組として捉え直した上で、その枠組をソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)上の相互行為実践に適用し、ゴフマンの分析枠組の意義を明らかにすることである。 まず、二、三節では、『フレーム分析』の理論的資源を成すジェームズの下位宇宙論やシュッツの多元的現実論に対するゴフマンの評価を検討することで、『フレーム分析』の意義を明らかにした。四節では、「状況の定義」の獲得や移行、メディアの効果に関するゴフマンの枠組を検討した。五節では、SNS上の相互行為実践を題材に対面的相互行為とCMCを往還するかたちで獲得、展開される「状況の定義」について記述、分析した。 本稿で明らかにした『フレーム分析』の意義とは、複数の経験領域間を往還するかたちで獲得、展開される「状況の定義」の重層性やその移行関係を記述する「多層的現実論」ともいうべき分析視点である。多層的現実論は、CMCが対面的相互行為に常に隣接し、影響を与えている今日のメディア状況において、対面的相互行為が担う機能や意味を考察する際、有効な枠組を提供するものとなる。
著者
木村 雅史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.49-74, 2015-01-30 (Released:2022-02-06)
参考文献数
19

本稿の課題は、アーヴィング・ゴフマンの後期の著作『フレーム分析』(Goffman 1974)において提示されている「人-役割図式(person-role formula)」概念を、ゴフマン独自の「状況の定義」論として展開されている『フレーム分析』の問題設定、概念枠組との関連において検討し、その意義を明らかにすることである。 人-役割図式概念を検討するにあたって、まず、二節では、『フレーム分析』の基本的な問題設定や概念の検討を行う。この作業を通して、「アクティヴィティー」概念が状況が定義された状態を記述するために設定されていること、「フレーム」概念がアクティヴィティーの獲得や変化を生み出している原理として設定されていることを確認する。三節では、二節の作業を踏まえた上で、人-役割図式概念やその関連概念(役割-役柄図式、バイオグラフィー)の検討を行う。こうした作業を通して、人に関する認知が「状況の定義」が獲得され、変化していく際の重要な資源を構成していることを示す。 四節では、三節までの作業を踏まえた上で、人-役割図式論の要点を整理する。最後に、人-役割図式論の意義を、個別の状況や「状況の定義」の多層性のもとに、そこに参加している人々の自己の立ち現れ方の多層性を描き出していく視角の提供として結論づける。
著者
木村 隆之
出版者
経営哲学学会
雑誌
経営哲学 (ISSN:18843476)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.75-89, 2020-10-31 (Released:2021-06-08)
参考文献数
28

近年、地方創生やソーシャル・ビジネスへの注目の高まりから、経営学領域においても地域活性化を事例とする研究が増えている。なかでも代表的なのはソーシャル・イノベーション(SI)・プロセスモデルに関する議論があるが、そこにおける地方自治体の存在は、正当化の源泉であり資源と事業機会を提供するという行政の役割概念と同一視されてきた。しかし、地方自治体は、法制度の整備や制度設計により、地域内外の資源を新結合し地域活性化を強力に推進し得る、強力な変革主体として分析可能である。本論文は、地方自治体をSIプロセスの中心に捉え直すことで、地方自治体が社会企業家としての行動をとることの可能性について指摘するものである。社会企業家が社会問題の解決を目指し、動員可能な資源を利用した事業を開発することで社会問題の解決を図るのであれば、地方自治体もまた、地方自治を取り巻く制度的環境の下で構造的不公平に晒されている存在であり、地域活性化のために自らの裁量で動員可能な資源を用いた事業を構想し実行する。さらには地域内で生じた草の根的なSIを、国政レベルに紐づけることにより資源動員を行うという独自の役割を果たしていくことが可能な存在である。そのことを経験的に裏付けるために、島根県隠岐郡海士町の島嶼活性化事例を分析する。島嶼などの閉鎖された土地や過疎化が進む地域では特に、地方自治体が企業家的役割を担わねばならない。海士町事例では、自治体が主導となり島の資源を利用し、外需を獲得するという方策をとり、海士町でビジネスを試みようとする島外起業家たちの自助努力を取り込みつつ、民間企業が設立されていった。更に、外部人材獲得を継続するために町営の事業が進められ、多数のヒット商品や新会社設立を生み出していった。この様に海士町は自治体が企業家的役割を担うという、これまでのSI研究とは異なる地方自治体の役割を明らかにしている。
著者
木村 美幸
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.128, no.11, pp.1-26, 2019 (Released:2021-09-02)

本稿では、海軍志願兵募集や「海軍と地域」研究の課題に大きくかかわる海軍と在郷軍人の問題について、海軍の在郷軍人会に対する姿勢に注目して検討した。 海軍は、一九一〇年に在郷軍人会ができると、財源の問題と在郷軍人統制に対する立場の違いから不参加となった。不参加としたものの在郷軍人会に加入する海軍軍人もおり、制度上陸軍のみの団体である不都合を改善するため、一九一四年に在郷軍人会へ正式加入した。加入後に出された勅語には田中義一の影響などがあり、海軍の反対にもかかわらず「陸海一致」の文言が盛り込まれ、これ以降在郷軍人の「陸海一致」の根拠として使用された。 在郷軍人会に加入したものの、陸軍中心の状況は変わらなかった。一九一九年頃には第一次世界大戦の影響によって海軍も在郷軍人統制に力を入れることになり、在郷軍人会からの分離を含めて海軍在郷軍人の立場向上が模索された。一九二一年になると、各地に海軍在郷人の私的団体が結成されていく。これに対し海軍省人事局は、海軍在郷軍人が少数であり在郷軍人会に加入しなければならない地域を考慮して否定的な態度をとるが、志願兵募集状況を勘案した結果、在郷軍人会から分離しない形で事業を行う海軍班を、一九二五年に設置した。 海軍班は各地に設置され、海軍志願兵募集活動や宣伝活動などを地域で担った。しかし、海軍軍人は陸軍軍人と合同の分会の事業も行う必要があり、海軍軍人の不満が高まった。このため、海軍軍人のみで事業の出来る海軍分会を一九三六年に設置した。しかし、陸軍中心の状況は変わらず、海軍関係の事業のみでなく通常の分会としての活動も求められたため、海軍在郷軍人の不満が解消されることはなかった。 以上のように、海軍は独自の在郷軍人統制組織を持たず在郷軍人会に加入し続けた。ただし、これは決して在郷軍人のことを軽視していたからではなく、地域における在郷軍人の立場に配慮した結果であった。