著者
道上 達広 長谷川 直 春山 純一
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.225-232, 2015-09-25 (Released:2017-08-25)

月や火星には深さ・直径共に数10mから100mにおよぶ縦孔が近年,探査機によって多数観測されるようになった.また縦孔の中には,地下空洞に開いた「天窓」であることが確実なものもある.こうした縦孔は,科学的に多くの興味があるとともに将来的に人類が月や火星に進出したとき,長期滞在に適する基地として有望な場所でもある.月の大きな縦孔については,地下空洞の天井に隕石衝突が引き金となって形成された可能性が示唆されている.本研究では,月に見られる楕円形の大きな縦孔が,隕石の斜め衝突によって形成された可能性を,実験的研究によって明らかにした.
著者
後藤 和久 飯嶋 耕崇 和田 浩二 今村 文彦 常 昱
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.207-213, 2013-12-25 (Released:2017-08-25)

天体が海洋に衝突した場合,巨大津波の発生が懸念される.本稿では,太平洋への隕石落下頻度を検討し,数値計算に基づき日本への衝突津波リスク評価を予察的に行った.その結果,他の災害に比べれば衝突津波の発生頻度は低いものの,現実的な災害リスクとして認識する必要があることがわかった.衝突津波のリスクは確率的に評価が可能なため,現在の量的津波予報のような形でデータベース化することが可能であると考えられる.将来的には,衝突から津波伝播・遡上までの一連の過程の計算を連続的に行うことが望ましい.数値計算技術の高度化が進めば,火星の古海洋の存在可能性の検討など,惑星科学分野での応用範囲も広いと考えられる.
著者
荒川 政彦 和田 浩二 はやぶさ2 SCI/DCAM3 チーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.152-158, 2013-09-25 (Released:2017-08-25)

はやぶさ2には小型の衝突装置(SCI)が搭載されており,これは秒速2kmで小惑星表面に衝突してクレーターを形成する.このクレーターは小惑星内部を覗くための小窓であり,リモートセンシング観測やサンプル回収から,小惑星表面の宇宙風化や浅内部構造に関する知見を得る.一方, SCIが衝突する様子は分離カメラ(DCAM3)により撮影され,イジェクタカーテンの拡大する様子や小惑星周囲を飛び交うダストを観察する. SCIによる小惑星への衝突は宇宙衝突実験ともいえる.我々はこの世界で最初の小惑星における宇宙衝突実験の機会を利用して,微小重力下における「本物の小惑星物質」のクレーター形成過程を明らかにする.
著者
呉羽 真
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.174-181, 2017-12-25 (Released:2018-02-09)

本稿では,京都大学宇宙総合学研究ユニット(以下では「宇宙ユニット」と略記する)が中心になって推進している「宇宙倫理学」という学問分野を紹介する.まず,同ユニットにおける宇宙倫理学プロジェクトの概要を述べる.次いで,惑星科学と関係の深い宇宙倫理学の具体的な話題として,惑星保護に関連した宇宙環境の価値3 3 3 3 3 3 3 の問題と,宇宙科学と社会のコンフリクトに関連した科学の価値3 3 3 3 3 の問題について解説する.最後に,宇宙倫理学が惑星科学との間に築きうる関係性について,筆者の期待を交えつつ論じる.
著者
松本 徹
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.68-76, 2019-03-25 (Released:2019-08-16)

本稿では最近のイトカワ粒子の研究についてレビューする.イトカワの母天体では熱変成が進んでいたと考えられるが,その内部では岩石の隙間をH2O氷と有機物由来の流体が流れていた痕跡が見つかった.この母天体が破壊されて小惑星イトカワが形成したタイミングはArやU-Pbの同位体比を用いた年代測定から推定されている.イトカワの形成後,その表面では太陽風や微小隕石の衝突による宇宙風化(反射スペクトルの変化)が進んでいたが,レゴリスの流動や粒子の破砕が活発に起こり宇宙風化の進行を妨げていた証拠が示された.粒子の表面に見つかった数多くの微小な衝突クレーターは,小天体を取り巻く微小ダストの特性を知る手がかりになるのかもしれない.
著者
橘 省吾 浦川 聖太郎 吉川 真 中村 良介 石黒 正晃
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.4-13, 2013-03-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

地球外始原物質(より古い情報を記憶する物質)の科学は私たちの太陽系の歴史を銀河の歴史と実証的につなげる唯一の手段である.「はやぶさ」「はやぶさ2」の探査天体よりさらに始原的な情報が残されている可能性が高く,また来る10年に往復探査が可能な天体である107P/Wilson-Harrington(彗星/小惑星遷移天体)へのサンプルリターン探査を提案する.本探査計画は惑星物質科学の進展のみならず,太陽系初期につくられる揮発性物質を多く含む小天体の物理的特性を明らかにできる探査であり,惑星形成論においても大きな貢献をなすものである.
著者
倉本 圭 川勝 康弘 藤本 正樹 玄田 英典 平田 成 今村 剛 亀田 真吾 松本 晃治 宮本 英昭 諸田 智克 長岡 央 中川 広務 中村 智樹 小川 和律 大嶽 久志 尾崎 正伸 佐々木 晶 千秋 博紀 橘 省吾 寺田 直樹 臼井 寛裕 和田 浩二 渡邊 誠一郎 MMX study team
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.207-215, 2018-09-25 (Released:2018-12-21)

火星衛星Phobosからのサンプルリターンに挑む火星衛星探査計画 (Martian Moons eXploration: MMX) は,現在,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) プリプロジェクトとして,2024年の打ち上げと5年の往還期間を設定し,精力的な検討・初期開発が進められている.MMXは,サンプル分析,Deimosを加えた火星衛星の近接観測,そして火星大気および火星圏のモニタリング観測を組み合わせることにより,惑星に寄りそう衛星という切り口と視座から,太陽系における大気と水を湛えたハビタブル惑星の形成と進化の解明に迫ろうとしている.
著者
渡邊 誠一郎 はやぶさ2プロジェクトチーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.23-31, 2013
参考文献数
14

「はやぶさ」後継機としてC型小惑星をめざす「はやぶさ2」は開発の山場を迎えている.初期太陽系の記憶を留め,物質混合の指標に富む始原天体の試料を持ち帰り,鉱物-水-有機物相互作用による物質進化の多様性を実証し,地球への物質供給の様態を解明する.さらに宇宙衝突実験を行って微小重力瓦礫天体(微惑星アナログ)の物理特性を調べ,地下の物質を回収をも試みる.地上観測ではスペクトルも自転軸の向きも不確定な天体である.その天体の素顔をさまざまな装置で観測しつつ,そのデータからリアルタイムで運用オプションを選択し,着地と試料回収を試みる.洗練された技術による自在な運用が,科学成果を最大にする理工一体の探査の姿を連載していく.
著者
津田 雄一
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.149-155, 2014-06-25 (Released:2017-08-25)

はやぶさ2は,小惑星サンプルリターン探査技術を推し進めるミッションであり,初代はやぶさの技術蓄積を橋頭保として,サンプルリターン探査技術を確実なものとし,かつ新たな探査技術を実証するプログラムである.はやぶさ2は,基本設計思想は初代はやぶさを踏襲することで,開発期間の短縮とヘリテージに依拠した信頼性確保を目指している.一方で,システム設計には,工学上の挑戦的要素を随所に配して,探査技術の発展とミッション価値の増大に貢献している.小天体探査を工学面で持続的に発展させるには,技術の継承と革新の両面をにらみながら,ミッションを組み立てていくことが重要である。はやぶさ,はやぶさ2,そしてその次へ.我が国の小天体探査は続く.
著者
佐々木 貴教 スチュワート グレン・R 井田 茂
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.254-261, 2011
参考文献数
23

巨大ガス惑星周りの衛星は,惑星集積の最終段階に形成された周惑星円盤内で作られたと考えられている.これまでに複数の衛星形成モデルが提案されてきたが,木星の衛星系と土星の衛星系の特徴の違いを,その形成過程から説明することはできていない.そこで本研究では,木星と土星の形成過程が衛星形成に与える影響に注目した.最新の惑星形成理論をもとに,われわれは以下の2つの仮説をおいた:1)木星系では原始惑星系円盤に溝が形成され,土星本体の形成が遅い土星系では溝が形成されない,2)また溝形成の違いに伴って衛星形成時の周木星円盤には内縁が生じ,周土星円盤には内縁が生じない.以上の違いを考慮して,周惑星円盤における衛星形成のシミュレーションを行った結果,現在のような2種類の異なる衛星系が必然的に生まれうることがわかった.このように衛星形成は母惑星の形成過程に大きく影響される.逆に言うと,衛星は木星と土星の形成過程や系外巨大ガス惑星の形成過程を解く鍵となりうる.
著者
千秋 博紀 滝田 隼 荒井 武彦 福原 哲哉 田中 智 岡田 達明 関口 朋彦 坂谷 尚哉 はやぶさ2TIRチーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.120-125, 2015

TIR(中間赤外カメラ)は,8から12ミクロンの波長帯で熱輻射の2次元イメージングを行う.ターゲット天体の1自転分の撮像から表層物質の熱履歴をもとめ,そこから熱物性を推定する.表層物質の熱物性は,ミッション遂行に必要な情報であるばかりでなく,その後の天体の運命を決める重要な情報である.
著者
笠羽 康正 三澤 浩昭 土屋 史紀 笠原 禎也 井町 智彦 木村 智樹 加藤 雄人 熊本 篤志 小嶋 浩嗣 八木谷 聡 尾崎 光紀 石坂 圭吾 垰 千尋 三好 由純 阿部 琢美 Cecconi Baptiste 諸岡 倫子 Wahlund Jan-Erik JUICE-RPWI日本チーム
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.96-107, 2016

<p>欧州宇宙機関(ESA)木星探査機JUICEに搭載される電波・プラズマ波動観測器RPWI(Radio Plasma Wave Instruments)は,欧州チームにとり米土星探査機カッシーニ搭載のRPWS,日本チームにとり月探査機かぐや・ジオスペース探査衛星ERG・日欧水星探査機BepiColombo搭載の電波・プラズマ波動・レーダー観測器群からの発展展開となる.木星・衛星周回軌道への初投入となる低温電子・イオンおよびDC電場観測機能,電磁場三成分のプラズマ波動観測機能,電波の方向探知・偏波観測機能,および高度オンボード処理によるパッシブ表層・地下探査レーダー機能や波動-粒子相互作用検出機能の実現により,木星磁気圏の構造・ダイナミクスおよびガリレオ衛星群との相互作用,氷衛星の大気・電離圏および氷地殻・地下海へのアクセスを狙う.2016年7月に仙台で行なった「RPWIチーム会合」での最新状況を踏まえ,1970年代に遡る本チームの経緯・目標・展望を述べる.</p>
著者
礒田 颯 市川 瑞 植松 千春 及川 雄也 山口 正勝
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.148-154, 2012

本報告は,高等学校授業科目「課題研究」において約7ヶ月間で行った研究成果である.本研究では,人の立ち入ることのできない環境(火山地帯,宇宙等)での活動を想定した無人探査ロボット(以下,ローバー)を,高校生自らの手で設計から製作を行い,伊豆大島において動作検証を行った報告である.本ローバーは,不整地の走破能力を備えるため,駆動部には「ロッカーボギー機構」を採用している.独自の運用システムを開発し,オペレーター側とローバー側の双方向から,リアルタイムでデータの送受信を行い,ローバーの動作状況の監視も可能としている.校内での模擬不整地の走破実験,および,伊豆大島三原山溶岩砂漠地帯における実証実験では,一定の条件下において安定した走行を行えることを確認した.
著者
桑原 歩 黒川 宏之 谷川 享行 井田 茂
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.176-185, 2023-09-25 (Released:2023-10-05)

近年の観測から,多くの原始惑星系円盤においてダストの空間分布にリング・ギャップ構造が見つかっている.ダストのリング・ギャップ構造の惑星による起源として,従来研究の多くは海王星質量以上の惑星 (≳ 15 地球質量) によるガスギャップ形成の影響を議論してきた.本研究は,∼ 1–20 地球質量程度の小質量惑星に着目する.円盤内に埋もれた小質量惑星は,自身の重力によって周囲のガスの流れを乱す.円盤内に存在する小さなダストはガスの流れの影響を強く受ける.本稿では,小質量惑星が駆動するガス流れ場がダストの動力学に及ぼす影響に関する我々の研究について解説し,ガス流れ場によるダストのリング・ギャップ構造形成シナリオを新たに提案する.そして,本稿が提案するシナリオの観測的検証に向けた議論を行い,ガス流れ場が惑星成長率に及ぼす影響と系外惑星の質量-軌道半径分布への示唆についても議論する.
著者
堀 安範
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.42-49, 2022-03-25 (Released:2022-04-15)

探査機CassiniおよびJunoのその場観測によって,木星および土星の大気構造や組成,内部 構造に関する理解が深化した.短周期ガス惑星の存在や直接撮像による遠方ガス惑星の発見とともに,TypeII型惑星移動,そして円盤不安定シナリオの再考と小石集積モデルの台頭に見られるように,木星および土星の形成および軌道進化に対する理論も急速に進展している.そこで,本稿では,最新の観測結果から明らかになった木星および土星の姿を紹介しながら,太陽系のガス惑星形成の現状および未解決な諸問題を整理する.
著者
倉本 圭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.123-127, 2023-06-25 (Released:2023-07-07)

火星衛星探査計画MMX (Martian Moons eXploration) の探査機開発が,来年の打ち上げに向け佳境に入っています.今号から,MMX計画について紹介する連載を開始することにしました.色々な切り口から,MMXの魅力,奥行き,面白さを,お届けしたいと思います.第一弾の今回は,MMXの目的地である火星の月と,MMX計画の狙いと概要について,紹介します.
著者
高橋 典嗣 吉川 真
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.228-233, 2013-12-25 (Released:2017-08-25)

ロシア,ウラル地域チェリャビンスク州に隕石が落下し,天体衝突による自然災害が発生した.隕石落下から43日後の3月30日に出発し,現地に赴いた.チェバルクリ湖の氷上には隕石落下の傷跡が,市街地には被害状況が残されていた.現地では,隕石爆発地点の計測,隕石落下地域の推定と隕石が採集された場所の確認,市街地の被害状況等を視察した.調査の過程で隕石を含む貴重な関連資料を収集することができた.本稿では調査全般について,及び調査で得られた知見について報告する.
著者
平田 直之 宮本 英昭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.271-280, 2011-12-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
22

土星系の魅力的な衛星は,タイタンやエンセラダスだけではない.カッシーニ探査機の活躍によって得られたさまざまな知見は,その他大勢の小型衛星も,太陽系科学において極めて興味深い対象であることを示している.小型衛星は,その小さな重力場や弱い熱的変成履歴という意味で小惑星と対比できるだけでなく,その特徴的な形態や表層の状態が,ほかの衛星や周囲の環と複雑な相互作用の結果であることから,土星系における衛星や環の形成や進化の鍵を握っていると考えられる.本稿では,こうした多様性に富む土星系小型衛星の姿と推定される内部構造,さらには進化史について概説するとともに,今後の探査で期待される観測について議論する.