著者
木村 一雅 北澤 春樹 齋藤 忠夫
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.88-101, 2018 (Released:2018-08-18)
参考文献数
36

GOSをはじめとするプレバイオティクスオリゴ糖はヒト消化管下部でビフィズス菌を優位に増加させ,便性をはじめとする腸内環境の改善に有用な働きをする。しかし,構造が異なる市販各種オリゴ糖製品がビフィズス菌によりどの程度利用されるのかについて,詳細な検討をした報告は見られない。そこで,乳糖を対照として,市販オリゴ糖類であるガラクトオリゴ糖(GOS),ラクトスクロース(LS),ゲンチオオリゴ糖(GEO),イソマルトオリゴ糖(IMO),ニゲロオリゴ糖(NOS),キシロオリゴ糖(XOS),フラクトオリゴ糖(FOS),長鎖フラクトオリゴ糖(Fib),およびFOSの構成オリゴ糖成分について,主要なヒト由来ビフィズス菌7菌種16菌株による増殖性と培地中のオリゴ糖構成糖質の消長をHPLCで解析した。 市販オリゴ糖のうち,対照に用いた乳糖およびGOS, LS, NOS, GEOの各オリゴ糖は被験ビフィズス菌16菌株すべてが高いkliett値を与え増殖した。一方FOSおよびFib,は B. breve の4菌株中2菌株, B. bifidum の4菌株すべてで生育が見られず,XOSは B. breve, B. bifidum, B. infantis の計10菌株すべてで生育が見られず, B. adolescentis, B. longum で生育の遅延が認められた。IMOは B. bifidum の4菌株中3菌株で生育が認められなかった。 FOSで,生育の見られなかった B. breve,B. bifidum について,FOSを構成するフラクトースおよびKes,Nisの利用性について検討したが,それらの6菌株はいずれも単糖のFruは利用できるが,Kes,Nisでは生育しなかった。 Glcを構成糖とするNGO,GEOは,オリゴ糖中に多量の単糖を含有しており,高いklett値を与えた菌株の培養においても培養上清中にはDP2以上のオリゴ糖成分が残存した。一方,IMOについては高い生育の見られた菌株においては,単糖およびDP3のオリゴ糖成分が顕著に減少した。 本研究の結果から,ビフィズス菌の高い増殖性を示したオリゴ糖は,単糖よりもDP2,DP3以上の糖鎖が選択的に利用される傾向が見られた。またXOSやFOSの培養上清中の残存糖質の解析では,klett値が増加した菌株では顕著な単糖の増加が見られた。 GOSやLSは乳糖の骨格にGalまたはFruが結合することで難消化性となり大腸に到達する。大腸内で糖鎖が分解し乳糖が生成すると,それはビフィズス菌の良好な炭素源となる。 プレバイオティクスとしてのオリゴ糖の大腸内での機能は,共生微生物による糖鎖の分解や生成する糖鎖の利用性も重要な要素と考えられた。
著者
吉永 亮 前田 ひろみ 土倉 潤一郎 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 木村 豪雄 山方 勇次 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.383-389, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蜂刺症とムカデ咬症に対して,受傷直後から黄連解毒湯エキスと茵蔯五苓散エキスを中心とした漢方治療を併用し,翌日には著明に改善した5例を報告する。症例1は70歳男性,30分前に左手背をスズメバチに刺されて受診した。症例2は43歳男性,20分前に左顔面をスズメバチに刺され受診した。症例3は55歳男性,10分前に左下腿をスズメバチに刺され受診した。症例4は39歳男性,60分前に右大腿をスズメバチに刺され受診した。症例5は35歳男性,20分前に右第1趾をムカデに咬まれて受診した。5例とも受診後直ちに漢方治療を開始し,以後,数時間おきに間隔を詰めて治療を継続したところ,翌日には疼痛と皮膚の紅斑と腫脹が改善した。蜂刺症,ムカデ咬症に対して漢方治療を行うことで速やかな治癒に貢献できる。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.627-633, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
9
被引用文献数
4 2

頭痛は日常診療で訴えの多い症状の一つであり,漢方治療では頭痛以外の随伴症状などによって,様々な漢方薬を使い分ける。今回,当帰芍薬散が有効な頭痛の症例を報告した。症例1-4は更年期障害,症例5は月経困難症が背景にみられた。症例3では頭痛のほか,めまい,むくみ,手先のしびれなど様々な症状が当帰芍薬散で改善した。また,症例4は呉茱萸湯が無効であり,一方,症例5は呉茱萸湯である程度頭痛は軽快したが,残存した排卵期または月経前と前半の頭痛に対して,当帰芍薬散を併用して症状が改善した。当帰芍薬散を用いた頭痛の11症例をまとめて検討したところ,頭痛は片頭痛が多く,月経や冷えで増悪傾向であった。当帰芍薬散は五苓散や半夏白朮天麻湯と鑑別が必要となることもあるが,当帰芍薬散では月経周期や更年期症状などいわゆる「血証」と関わりのある頭痛で,頭重感またはめまいを訴える比較的虚証の人に有効であると考えられた。
著者
木村 元
出版者
芝浦工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,一般確率論に基づく量子情報理論の一般化,並びに量子力学の原理的特徴づけを目指すものである.特に量子論を特徴づける物理原理(実験検証可能な法則)の完成は,量子基礎論の悲願の1つでもある.当年度は,特に量子力学の物理原理の追求として,主に一般確率論における情報対称性に着目して研究を進めた.情報対称性は2019年Banikらにより導入され,量子暗号などで重要となる最適な状態識別に関する量子論や古典論で成り立つ対称性に着目した原理である.本研究では,Banikらの定義に最適測定に関する非一意性に基づく曖昧性を指摘し,弱情報対称性と強情報対称性を導入し,多くの一般確率モデルが弱対称性によって排除されないこと,また,強情報対称性を量子論が満たすことを示し,情報対称性の物理原理としての整備を行った.加えて,状態識別問題の幾何学的なアプローチとして,以前に研究代表者らが考案したヘルムホルツ・アンサンブルの方法があるが,情報対称性の可否をヘルムホルツ・アンサンブルを用いて検証する方法を開発した.これらは現在投稿準備中である.また,以前に開発した誘導エントロピー法に基づく各種エントロピー間の関連性を調査しており,測定エントロピーと情報エントロピーが,正六角形モデルにおいて誘導法で結ばれる兆候を得ている(少なくとも数値的には一致).これは,既に得られている正四角形モデルにおける結果の一般化に相当し,現在厳密な証明を試みている.その他にも,引き続き一般確率論の情報理論の構築を,状態空間幾何との関連性から検討中である.特に,非自明な合成系上の相関(エンタングルメント)や測定の整備を行っている.
著者
西村 馨 木村 能成 那須 里絵 岡本 美穂 佐藤 かな美
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

集団不適応の中学生に対するグループセラピーを実践し、参加者(合計14名)のほぼ全員が学校での適応状態の改善を見た。グループでの治療展開について、個人の未形態の情緒が対人関係的出来事(対人トラウマの再演)をもたらし、その理解が相互の関係性を深化させ、さらに現実的アクションへと至るプロセスが見出された。このようなグループセラピーの構造、治療的活動、基礎技法、セラピストの姿勢、グループ発達段階に応じた介入について整理した。また、本グループによる教師研修(1名)、カウンセラー研修(3名)の検討により、子どもの感情に一層接近する感覚の向上とやりとりの柔軟化が見出された。
著者
木村 義子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.88-95, 2019 (Released:2019-12-20)

2019年5月16日~19日の4日間、カナダ・トロントで、第74回アメリカ世論調査協会(American Association for Public Opinion Research :AAPOR)年次総会が開催された。本稿はその参加報告である。AAPORは、米国だけでなく世界各国から、調査関係者や学術関係者が千人規模で一堂に会す大規模な学会で、今年の大会テーマは設定されていなかったが、Survey Design(調査設計)に関するセッションも多く、Survey Designの変換期を体現する大会であった。筆者は、Web-Push Survey(ウェブプッシュサーベイ)という、調査相手に郵便で調査を依頼し、インターネットによる回答を促す調査方式について、方式を開発した世界的権威ドン・ディルマン(Don A. Dillman)氏が、その目的や実践例を指導するショートコースにも参加した。ディルマンのWeb-Push Surveyは世界的に広がっているが、大会冒頭に行われた基調講演では、Web-Push Surveyを導入し、インターネットによる回答率を7割弱に伸ばした、カナダの国勢調査(2016年)の事例も紹介された。その他、スマートフォンの様々なセンサーで測定されたデータと調査データを組み合わせた実践例や、統合データの透明性に関するセッション、高齢者の日常生活に関するデータを取得するため、アプリとウエアラブル端末と調査を組み合わせた事例などを本稿ではとりあげた。大会を通じて、何か解が見つかったわけではなく、調査以外のビッグデータやデータ統合も、それぞれが課題を抱えていることを実感した。
著者
岡 真由美 深井 小久子 木村 久 向野 和雄
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.139-144, 1999-07-25 (Released:2009-10-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

Intensive orthopticsにより良好な結果を得た陳旧性の後天性眼球運動障害例の治療経過と視能矯正管理の方法について報告した。症例は33歳の男性で、主訴は複視と動揺視である。第4脳室周囲上衣腫の摘出後に眼球運動障害、複視、眼振が出現した。約2年後、当科に入院し40日間視能訓練を施行した。退院後、北里大学病院眼科で眼振に対する治療を開始した。視能訓練の効果は、斜視角の改善率、融像能率、日常生活上の不自由度で判定した。治療前は融像衰弱(融像能率0%)であった。眼位は9Δ内斜位と右眼2Δ上斜位斜視で輻湊不全と眼振を伴っており、核上、核間、核下性眼球運動障害を示した。視能訓練は、Visual orientation trainingとConvergence trainingを行った。訓練8日目には輻湊近点の改善が認められ、融像能率は66%、改善率は82%になった(第I期)。訓練9日目よりFusion lock trainingを行い、訓練40日目に融像能率は78%になった(第II期)。退院後はSG fusion trainingと眼振治療を行った。訓練1年目に動揺視は軽減し、融像能率が100%、改善率が92%になった(第III期)。不自由度は訓練前100点から訓練後22点に回復した。本例において視能訓練が奏効したポイントは、斜視角が小さいこと、融像衰弱であったこと、患者の訓練意欲にあると考えた。
著者
木村 恵介
出版者
千葉大学
巻号頁・発行日
2007

学位:文学
著者
下畑 享良 木村 暁夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.825-832, 2021 (Released:2021-12-22)
参考文献数
33

抗IgLON5抗体関連疾患は,2014年に睡眠時随伴症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害と,タウオパチーを示唆する病理所見を呈する疾患として報告された.これまで八つの臨床病型が報告されている.睡眠時随伴症と閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併する患者,また運動異常症,運動ニューロン病,認知症患者において特徴的な睡眠時随伴症を合併する場合は,血清ないし脳脊髄液の抗IgLON5抗体を測定することが望ましい.一般に予後は不良であるが,免疫療法により改善する症例も報告されており,早期診断による病初期からの免疫療法が,予後を改善する可能性がある.
著者
川島 春佳 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.359-365, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
21

アレルギー性鼻炎は,鼻粘膜のアレルギー性疾患であるが,様々な要因が増悪因子となる。今回,随証治療により用いた当帰芍薬散が奏功したアレルギー性鼻炎の4症例について報告する。症例1は31歳女性。冷え・月経不順に対して当帰芍薬散の内服を開始したところ,元々あった鼻炎症状が改善し,休薬により鼻炎症状が再燃した。症例2は40歳女性。子宮筋腫に対して内服していた桂枝茯苓丸加薏苡仁から当帰芍薬散に転方して,毎年認めていた花粉症状が軽快した。症例3は49歳女性。多種類の漢方薬を内服しても改善しなかった鼻炎症状が,当帰芍薬散に転方して速やかに消失した。症例4は65歳女性。葛根湯加川芎辛夷の内服後も残存した鼻炎症状に対し当帰芍薬散を併用して症状が改善した。古典では,当帰芍薬散の鼻炎に関する記載は見当たらないが,陰虚証で,水毒に加えて瘀血・血虚を認める鼻炎には,当帰芍薬散も鑑別処方の一つと考えられる。
著者
木村 雄二郎
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1-2, pp.127-145, 1963-06-20
著者
木村 拓 廣瀬 和紀 國松 勇介 谷 望未 佐藤 いずみ 小倉 由莉 瀬野 真文 竹田 隆之
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.90-97, 2020-12

症例は、76歳女性。咳嗽、労作時呼吸困難で近医受診、上気道炎として加療後、低酸素血症をきたし京都第二赤十字病院呼吸器内科へ紹介された。胸部CTで胸膜直下、気管支血管束周囲に広範なconsolidation、すりガラス影を認めた。筋症状を伴わず、特徴的な皮疹を認め、臨床的無筋症性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎と診断した。入院後ステロイド、シクロスポリンで加療したが改善なく、第8病日に抗MDA5抗体陽性が判明し、シクロフォスファミドパルス療法、第14病日から血漿交換療法を併用したが改善なく、第29病日に永眠された。本症例は入院時に重度の呼吸不全を認め、入院直後から集学的治療を行っても救命は困難と考えられた。しかし、呼吸不全が軽度で画像上の肺障害が少ない症例で集学的治療の有効性を示す報告もあり、本疾患が疑われる軽症例では抗MDA5抗体の結果を待たずに集学的治療の検討が必要と考えられた。
著者
西野 吉則 木村 隆志 鈴木 明大 城地 保昌 別所 義隆
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.18-23, 2017-02-28 (Released:2017-03-07)
参考文献数
23

X-ray free-electron lasers (XFELs) with femtosecond pulse duration offer an innovative solution to transcend the spatial resolution limitation in conventional X-ray imaging for biological samples and soft matters by clearing up the radiation damage problem using the “diffraction-before-destruction” strategy. Building on this strategy, the authors are developing a method to image solution sample under controlled environment, pulsed coherent X-ray solution scattering (PCXSS), using XFELs and phase retrieval algorithms in coherent diffractive imaging (CDI). This article describes the basics of PCXSS and examples of PCXSS measurement, for a living cell and self-assemblies of gold nanoparticles, performed by the authors using SACLA. An attempt toward the industrial application of PCXSS is also described.