著者
二村 太郎 荒又 美陽 成瀬 厚 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.225-249, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
67
被引用文献数
3 1

生理学・生物地理学の研究者であるジャレド・ダイアモンドが1997年に上梓したノンフィクション『銃・病原菌・鉄』は,一般書として英語圏で幅広い読者を獲得し,2000年に刊行された日本語版も売れ行きを大きく伸ばしていった.地理的条件の違いがヨーロッパ(ユーラシア)の社会経済的発展を優位にしたと主張する本書については,そのわかりやすさとダイナミックな内容ゆえに多くの書評が発表された.しかしながら,本書は英語圏では地理学者をはじめ学術界から数々の強い批判を受けてきたのに対し,日本では多方面から称賛されており,また地理学者による発信は皆無に近い.本稿は主に書評の検討を通して英語圏と日本における本書の受容過程を精査し,その差異と背景について明らかにする.また,これらの検討を通じて本稿では,諸外国からの地理学的研究成果の積極的な導入が必要であるとともに,より批判的な視点が求められることを論じていく.
著者
二村 太郎 荒又 美陽 成瀬 厚 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.225-249, 2012
被引用文献数
1

生理学・生物地理学の研究者であるジャレド・ダイアモンドが1997年に上梓したノンフィクション『銃・病原菌・鉄』は,一般書として英語圏で幅広い読者を獲得し,2000年に刊行された日本語版も売れ行きを大きく伸ばしていった.地理的条件の違いがヨーロッパ(ユーラシア)の社会経済的発展を優位にしたと主張する本書については,そのわかりやすさとダイナミックな内容ゆえに多くの書評が発表された.しかしながら,本書は英語圏では地理学者をはじめ学術界から数々の強い批判を受けてきたのに対し,日本では多方面から称賛されており,また地理学者による発信は皆無に近い.本稿は主に書評の検討を通して英語圏と日本における本書の受容過程を精査し,その差異と背景について明らかにする.また,これらの検討を通じて本稿では,諸外国からの地理学的研究成果の積極的な導入が必要であるとともに,より批判的な視点が求められることを論じていく.
著者
杉山 和明
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.239-259, 2008-10-28

本稿の課題は,英語圏人文地理学における農村性と若者に関する研究の枠組みを援用しつつ,浜松都市圏東部に暮らす高校生を調査参加者として,かれらが日頃訪れるさまざまな場所についての語りを取り上げ,若者集団の主体的な行動を明らかにするとともに,それらの空間に対していかなる意味づけを行い,どのような場所感覚を抱くのかを考察することである。注目すべき調査結果として挙げられるのは以下の3点である。第一に,都市性/農村性の相対性の意識が認められ,都市性と農村性の対比が日常の場所感覚のなかで常に関係づけられていること,第二に,こうした都市性/農村性の意識をもたらす背景にあるのは,かれらの暮らす近隣住区に均質化された消費空間の進出が続いており,かれらにとって肯定的な意味が付与された場所となっていること,第三に,空間行動では男子高校生に比べて女子高校生の移動性が優位であり,学年による行動領域の階層が認められたことである。
著者
荒又 美陽 大城 直樹 山口 晋 小泉 諒 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.273-295, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
34
被引用文献数
3

東京は2020年にオリンピック・パラリンピック競技大会を開催することとなった.同メガイベントの招致は,1964年には高度成長を促進させたのに対し,今回はグローバル化に伴う脱工業化に合わせた都市改造となる可能性がある.本論文は,その流れを検討するために,1988年ソウル,1998年長野,2012年ロンドンのオリンピック大会の都市・地域開発,また伊勢志摩サミット開催地のセキュリティ面での対策とそれぞれの現在までのインパクトを,現地調査及び資料に基づいて分析するものである.明らかになったのは以下の点である.ソウルと長野の開発は,一方は経済成長,他方は財政状況悪化の象徴として扱われているが,いずれも現在まで残る都市基盤や地域産業の基礎を提供した.またロンドンは社会的剥奪の大きい地の再開発という一つの型を作り出したことに特徴があり,伊勢志摩では過剰な警備がその後の観光資源となるという意外な結果を生み出している.
著者
成瀬 厚 杉山 和明 香川 雄一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.567-590, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
85
被引用文献数
3 3 1

近年, 日本の人文地理学において, 言語資料を分析する研究が増加しつつある. 本稿では, そのような論文を方法論的な観点から批判的に検討することを目的とする. まずは日本の地理学における言語資料分析を概観し, 言説概念の英語圏地理学への導入・批判を紹介することを通じて, 地理学研究で言語の分析をすることの意義を探求した. 人文地理学における言語の分析は, 単に新たな研究の素材の発掘や量的分析を補完する質的分析にとどまらない可能性を有している. それは, 社会を根源的に見直す概念となり得る. 現在の研究に不足しているのは, 言語資料の分析方法に関する詳細な検討, 関係する主体のアイデンティティの問題, そしてその言葉の生産過程における政治性への認識, である. 地理学的言説分析とは, 生産された言葉が発散するように地理空間に流通し, それを人々が消費し, 解読することによって, 意味的に収束させていく過程を分析し, また同時に, その意味的収束において発信者と受信者のアイデンティティと記述要素としての地理的要素との関係を論じていくことである.
著者
小泉 諒 杉山 和明 荒又 美陽 山口 晋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.232-261, 2021 (Released:2021-08-03)
参考文献数
58
被引用文献数
3

本稿は,2018年の平昌冬季五輪で浮き彫りとなった五輪招致と南北関係,セキュリティ,環境問題,そして跡地や競技施設の利用にかかわる論点を,ボイコフの「祝賀資本主義」の議論を踏まえ検討した.平昌の五輪招致活動は3度にわたったが,会場計画を含めて,その時々の国内および国際的な政治状況に大きく左右されてきた.国家的なセキュリタイゼーションは平昌でも見られ,東京五輪の関係者による視察が行われたことから,レガシーとして引き継がれる点も多いと考えられる.また平昌冬季五輪開催において国際的な批判の対象となった環境問題は自然林の伐採であり,46年前の札幌冬季五輪と比較しても環境負荷には改善が見られない.長野では大会後の利用困難が見通されていたにもかかわらず競技施設の建設が進められ,平昌もまた同様の事態となった.
著者
杉山 和明
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-409, 1999-08-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
59
被引用文献数
5 2

In recent years, there has been much debate over the social production of space and the relationship between social subject and space. The author, emphasizing the social structural context, contributes to this debate by identifying social space focused on one district. This paper seeks to reveal the significant relationship in which society and space are reconstructed in the late modern era, considering the differences between subjective space and objective space, mass behavior during weekend nights, and the factors influencing the mechanism of perception. To put it concretely, the purpose of this paper is to explain how youths, between the ages of 15 and 29, use the space and act in the night amusement quarter applying the concept of social space, and to examine the experiences of this generation using the ethnographical method.A case study was carried out in the EKIMAE district, the redeveloped area in front of Toyama station, Toyama City. EKIMAE is a commonly used name for the space. Social space refers to subjective social space expressed as a mental map depicted in the youths' own way. On the other hand, objective social space is the space bounded by the regulator of public space, the Toyama Police Department, which is a police patrolling area defined by their own territorial perception in order to monitor and control the populace. Neither space, objective and subjective, is an official administrative district.The remarkable result of various examinations of these spaces is that NANPA spot, a place where girl or boy hunting are conducted, is equivalent to subjective social space and plays an important role for the youth to maintain their identity. Examining the way in which commodities were selected by the youth in the questionnaire, it was demonstrated that various commodities are obstacles to their entry. Furthermore, when they participate in the space as an actor or observer, space functions as theater in a high consumption society. As such, the space where youths encounter one another is constructed as subjective social space and they therefore tend to feel their perceived territory as home.This analysis assists us in understanding the quality of late modern places and how subject and place become inextricably intertwined in the context of social structure.
著者
杉山 和明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.11, pp.644-666, 2002-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
67
被引用文献数
4 3

本稿では,1993~1998年に富山県において紛糾した「有害」環境問題を取り上げ,さまざまな場面ごとに諸集団が用いた多様なポリティクスを有するクレイムを通じて,テレホンクラブ等の施設が青少年にとって「有害」なものとして位置づけられる過程を考察した.法規制に賛同する警察を中心とした諸集団が盛んに用いた,「有害」環境によって青少年の健全さが失われるとするレトリックが,最も正当なものとして「地域」から支持され,当該施設は立地規制を受けた.同時に,優位な集団が主張した健全さという表象によって,逆にそこから逸脱している青少年が「有害」な存在として問題化されることになった.このような,問題が及ぶとされる地理的スケールの中で「有害」な意味を帯びた施設や主体を排除する活動は,「無害」な環境と主体のみで構成されなければならないとする地域アイデンティティを創出し強化するのである.

1 0 0 0 OA 若者の地理

著者
杉山 和明
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.26-42, 2003-02-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
153
被引用文献数
3 1

Since the late 1980s, the epistemology of cultural politics that derives from British cultural studies and contemporary critical social theories-referred to as the 'the cultural turn in social sciences and humanities'-has been taken seriously in Anglophone human geography. The purpose of this paper is to investigate the recent progression in youth studies, especially after the deep impact of the cultural turn in Anglophone human geography, and how to apply it in the Japanese context.The author will present four themes concerning geographies of youth: (1) Youth, cultural politics and positionality, (2) home, school and regional community around youth, (3) the progression from production to consumption society and youth in urban spaces and (4) problematizing youth and privatization of public spaces, all of which focus on cultural politics intertwined among various times and spaces.Presenting various research points, the author will identify three significant theoretical aspects in which the geographies of youth mainly rely: the question of the social construction of subjects, the cultural politics of place and identity, and the ethics behind subject positions. The author insists that Japanese human geographers should consider these issues, despite the difficulties involved in their direct introduction into Japanese empirical studies and, that, furthermore, this is necessary in order to explore research practices regarding the studies of youth in the future.
著者
杉山 和明
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.26-42, 2003
被引用文献数
1 1

Since the late 1980s, the epistemology of cultural politics that derives from British cultural studies and contemporary critical social theories-referred to as the 'the cultural turn in social sciences and humanities'-has been taken seriously in Anglophone human geography. The purpose of this paper is to investigate the recent progression in youth studies, especially after the deep impact of the cultural turn in Anglophone human geography, and how to apply it in the Japanese context.<br>The author will present four themes concerning geographies of youth: (1) Youth, cultural politics and positionality, (2) home, school and regional community around youth, (3) the progression from production to consumption society and youth in urban spaces and (4) problematizing youth and privatization of public spaces, all of which focus on cultural politics intertwined among various times and spaces.<br>Presenting various research points, the author will identify three significant theoretical aspects in which the geographies of youth mainly rely: the question of the social construction of subjects, the cultural politics of place and identity, and the ethics behind subject positions. The author insists that Japanese human geographers should consider these issues, despite the difficulties involved in their direct introduction into Japanese empirical studies and, that, furthermore, this is necessary in order to explore research practices regarding the studies of youth in the future.
著者
杉山 和明
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、公共空間における若者の行動に対する社会からまなざしに着目し、青少年を取り巻く社会環境の変容がもたらす諸問題への行政と地域社会の対応を明らかにすることである。前半期には、まず、事例研究として、1990年代後半以降の青少年の時間・空間行動規制、ならびに地域における犯罪対策と法整備の展開を考慮しつつ、大阪府、愛知県、東京都における諸集団による都市空間への監視活動の展開とその問題点を検討し、なかでも大阪府の事例について4月にサンフランシスコで開かれた国際学会(AAG)において発表を行った。また、浜松圏の当該高校に通う生徒たちに対して以前行ったインタビューをもとに、かれらにとって相反する多義的な意味をもつ農村の場所感覚について検討し、大型小売店が相次いで進出し郊外化とスプロール化が進展する都市近郊農村の問題点について考察した。その成果を学術誌(地理科学学会『地理科学』)へ投稿し、現在、二度の査読を経て掲載に近づいている状況である。後半期には、前半期に行った国際学会における発表をもとに、事例として、近年改正された大阪府青少年健全育成条例において強化された青少年による夜間外出禁止条項について検討し、ローカルな青少年の社会環境に影響を与える条例の改正が、防犯政策と緊密な関係にあり、新自由主義下のガバナンスの変容に連動していることを明らかにした。その成果は学術誌(大阪市立大学都市文化研究センター『都市文化研究』)に掲載された。認識論、方法論の観点から、近年、日本の地理学関係の主要学会誌に様々な言語資料を中心的な分析対象とする研究が増加していることに鑑み、日本の地理学者による研究を学説史的な手法で詳細に吟味し、言説を対象とした研究の問題点を指摘するとともに今後の可能性を提示した論文が学術誌(日本地理学会『地理学評論』)に掲載された。
著者
杉山 和明
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.73-89, 2002-04-28
被引用文献数
3

The purpose of this paper is to explain how the myth of new `harmful' environments for juveniles was constructed through discourses of local newspapers and how related practices were regulated spatially by the juvenile protection ordinance. In particular, this paper focuses on social problems concerning the regulation of Telephone Dating Services in Toyama Prefecture, Japan during 1993-1998. Around 1993, the residents gradually begun to center .their concern around the location of Telephone Dating Services in urban spaces because they resulted in harmful influences on juveniles. Dating services have different businesses styles, but their main purpose is to mediate between men and women using telecommunications. Schoolgirls who use such services, especially high school girls 15-18 years old, actively meet unknown men. The local daily newspapers reported these incidents often and these incidents have increasingly become the focus of local police. Since residents have made these claims, it has become necessary for local government to protect juveniles from such harmful environments. Neighborhood residents thought that keeping juveniles away from such environments and abolishing these harmful influences were necessary. Most of the institutional responses from neighborhood watch groups have included attempts to prevent girls from suffering sexual abuses committed by vicious men. To put it simply, it was merely the result of stereotyped discourses in the coverage of local newspapers that revitalized the movement to exclude these kinds of the services in urban spaces. The police department has integrated many groups related to rural society into movements to purify such environments and many neighborhoods have signed petitions to regulate such services in order to create a place that was constituted by subjects and spaces that were considered unpolluted. Therefore the regulation was enforced more quickly in Toyama Prefecture than nationally.