著者
松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.47-60, 2016 (Released:2019-12-01)
参考文献数
21

有権者を取り巻く投票環境の変化は投票率にどのような影響を及ぼすのだろうか。本稿では投票環境として市町村内の投票所数とその投票時間に注目し,それらの変化が市町村内の投票率に与える影響を推定する。2005年から2012年の3回の衆院選における34都府県の市町村パネルデータを用いた分析によると,1万人あたり投票所数が1つ増えると投票率は0.17%ポイント上昇し,また市町村内の全ての投票所で投票時間が2時間短縮されると投票率が0.9%ポイント下落する。これらの効果は市町村の人口規模や人口密度にかかわらず一定である。投票環境の制約を少しでも取り除き投票の利便性を高めるためにこれまでにもさまざまな制度の変更が提案・実施されているが,本稿の研究結果は投票所の設置数や開閉時間を見直すだけでも投票率が上昇する可能性があることを示唆している。
著者
飯田 健 上田 路子 松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-153, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
25

昨今の日本政治において「世襲議員」は国会議員の最大で3分の1を占めるなど顕著な存在となっている。これまでマスコミ,評論家,政治学者などが世襲議員について再三論じてきたが,そもそも印象論的な議論も少なくなく,厳密な実証分析を行ったものは多くは存在しない。そこでわれわれは新たに構築した包括的なデータセットを用いて世襲議員の属性や政策に対する影響力を実証的に分析し,世襲議員をめぐる今後の議論に一つの材料を提供したい。本論文では,まず世襲議員の特徴を非世襲議員との比較において明らかにする。そして政策に対する影響力の一例として,世襲議員の補助金分配過程への影響を検証する。分析の結果,世襲議員は選挙における地盤や資源に恵まれており,選挙に強く,当選回数が多いということ,さらに世襲議員は自分が代表する地域により多くの補助金をもたらすということが示された。
著者
小林 良彰 平野 浩 谷口 将紀 山田 真裕 名取 良太 飯田 健 尾野 嘉邦 マッケルウェイン ケネス 松林 哲也 築山 宏樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2012

本研究では、18回(全国調査14回、自治体調査3回、国際比較調査1 回)にわたって実施し、下記の新たな知見を得た。(1)投票行動研究から民主主義研究への進化(2)日米韓における代議制民主主義の分析を通した比較政治学 (3)日本の地方自治体レベルにおける代議制民主主義の分析 (4)政治意識の形成と変容の解明(5)マルチメソッド比較による新しい調査方法の確立 (6)政治関連データベースの構築。これらを通して、海外の研究機関から申し入れを受け、代議制民主主義に関する国際共同研究拠点を構築した。
著者
松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.58-72, 2017 (Released:2020-03-01)
参考文献数
22

期日前投票制度の創設により投票率は変化したのだろうか。投票するタイミングや場所の選択肢が増えたことにより普段は投票に行かない人々が参加するようになったのであれば,投票率は向上したはずである。一方,この制度を利用しているのが普段から投票に行く人々であれば,投票率は大きく変化していないだろう。本稿は2005年から2014年にかけての衆院選における市区町村パネルデータを用い,市区町村内の期日前投票所数の増加により投票率が上昇したという暫定的エビデンスを提示する。この結果は,期日前投票制度が普段は投票に行かない人々の参加を促した可能性を示唆する。さらに,選挙の投票所数も投票率と密接に関連していることも示し,期日前投票所数と選挙日投票所数のどちらの変化が投票率により大きな影響を及ぼすかを議論する。
著者
飯田 健 上田 路子 松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-153, 2011

昨今の日本政治において「世襲議員」は国会議員の最大で3分の1を占めるなど顕著な存在となっている。これまでマスコミ,評論家,政治学者などが世襲議員について再三論じてきたが,そもそも印象論的な議論も少なくなく,厳密な実証分析を行ったものは多くは存在しない。そこでわれわれは新たに構築した包括的なデータセットを用いて世襲議員の属性や政策に対する影響力を実証的に分析し,世襲議員をめぐる今後の議論に一つの材料を提供したい。本論文では,まず世襲議員の特徴を非世襲議員との比較において明らかにする。そして政策に対する影響力の一例として,世襲議員の補助金分配過程への影響を検証する。分析の結果,世襲議員は選挙における地盤や資源に恵まれており,選挙に強く,当選回数が多いということ,さらに世襲議員は自分が代表する地域により多くの補助金をもたらすということが示された。
著者
松林 哲也 上田 路子 澤田 康幸
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では(1)自殺報道が一般の人々の自殺に与える影響、(2)これまでの自殺対策の効果の検証、(3)人々を取り巻く制度環境が自殺に与える影響、の3課題についての研究を推進してきた。統計分析の結果、著名人の自殺報道に対しツイート上で大きな反応があった場合にのみ自殺者数が増えること、経済状況の好転が自殺率の低下につながっている可能性があること、鉄道駅のホームドアには強い自殺防止効果があること、早生まれの若者の自殺率が高いこと、学年暦と若者の自殺数には強い相関があること、誕生日前後には自殺が増えることなどが明らかになった。
著者
松林 哲也 上田 路子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.94-109, 2012 (Released:2017-09-29)
参考文献数
31
被引用文献数
4

本稿は女性の市町村議会への参入を説明するために,市町村の人口規模の役割に注目する。市町村の人口規模が小さい場合,当選に必要な票数が少ないので候補者は個人として議席を争う傾向にある。候補者中心の選挙では,男性に比べ政治的意欲や資源が乏しいことが知られている女性の立候補や当選は難しくなるだろう。結果として女性候補者や議員の割合が低くなると予測できる。一方で,市町村の人口規模が大きい場合,当選に必要な票数が多くなるため,男女とも政党の候補者として議席を争う可能性が高まる。女性は政党の組織的支援や政党ラベルの効果を享受できるため,候補者としての不利な立場を解消することができ,結果として立候補や当選の可能性が高まると考えられる。これらの議論から,市町村の人口規模の拡大に伴う当選必要票数の増加は,女性候補者や議員の比率を上昇させるという仮説を立てる。仮説検証には1990年後半から2010年にかけての平成の大合併を挟んだ市町村の人口規模の変化を利用する。
著者
尾野 嘉邦 石綿 はる美 三輪 洋文 横山 智哉 中村 航洋 松林 哲也 粕谷 祐子 木村 泰知 河村 和徳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、人々のジェンダーバイアスとその政治的影響を包括的に検証し、「指導的地位」に占める者の間に大きな男女格差が生じる要因と解決策を明らかにすることである。それにより、政治や社会において男女共同参画をさらに進めるだけでなく、男女それぞれが個人として、多様な選択やキャリアの実現を可能とするための方策を考える。そのために、①議事録などのテキストデータを機械学習によって分析するテキストマイニング、②サーベイ実験などの実験的手法により因果関係の解明を目指す行動実験、③世界各国の専門家を対象とした大規模なサーベイによる国際比較調査、という複数の手法を用いて、学際的かつ国際的に研究を行う。
著者
飯田 健 松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.101-119, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
51

本稿は選挙研究における因果推論の方法を概観する。まず因果関係とは何を意味するのかについて日本の社会科学研究における代表的な知見をまとめ,その応用における問題点を指摘する。次に近年主流となりつつある潜在的結果にもとづいた因果的効果の定義を紹介し,その枠組みの中で観察データを用いた回帰分析の問題点を指摘する。次に厳密な因果推論を行うために必要となる方法とその応用例を紹介する。第一に,サーベイ実験やフィールド実験などの実験アプローチ,第二にイベントを利用した自然実験などの疑似実験アプローチ,第三にマッチングを用いた統計学的アプローチの特徴とその応用研究についてまとめる。
著者
松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.47-60, 2016

有権者を取り巻く投票環境の変化は投票率にどのような影響を及ぼすのだろうか。本稿では投票環境として市町村内の投票所数とその投票時間に注目し,それらの変化が市町村内の投票率に与える影響を推定する。2005年から2012年の3回の衆院選における34都府県の市町村パネルデータを用いた分析によると,1万人あたり投票所数が1つ増えると投票率は0.17%ポイント上昇し,また市町村内の全ての投票所で投票時間が2時間短縮されると投票率が0.9%ポイント下落する。これらの効果は市町村の人口規模や人口密度にかかわらず一定である。投票環境の制約を少しでも取り除き投票の利便性を高めるためにこれまでにもさまざまな制度の変更が提案・実施されているが,本稿の研究結果は投票所の設置数や開閉時間を見直すだけでも投票率が上昇する可能性があることを示唆している。
著者
上田 路子 山川 香織 松林 哲也
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

計画していた4つの研究計画のうち、17年度は主に「自殺報道が自殺者数に与える影響の解明」及び「経済実験」の準備の二つを行った。<自殺報道が自殺者に与える影響の解明> 著名人の自殺やいじめ自殺に関するメディア報道をきっかけに自殺が社会全体に広がっていく「ウェルテル効果」は各国でその存在が確認されている。しかし、なぜ自殺に関する報道が自殺者数を増やすのかという因果メカニズムはこれまで明らかになっていない。そこで、自殺報道に接したときに一般の人々や自殺リスクの高い人々がどのような反応を示すかを調べることを目的として、2010年から2014年に自殺によって亡くなった著名人の死後ツイッターに投稿されたポストを分析し、その量と内容を検討した。また、量や内容と自殺者数の関係も分析した。分析の結果、自殺報道後にツイッターで反応が大きかった著名人の自殺の場合には、一般の自殺者数が増えることが明らかになった。一方、新聞やテレビなどでは報道数が多かったとしても、ツイッター上で反応が少なかった場合、自殺者の増加を伴わないことも確認した。先行研究は主に新聞報道の量や内容と報道後の自殺者数の関連を調べてきたが、本研究の結果は新聞やテレビなどのメディアにおける報道を分析対象とするだけでは、一般の人の反応を探るには不十分なことを示唆している。なお、この結果は英文学術誌(Social Science and Medicine)に研究論文として発表した。現在はツイッターに投稿された内容の感情分析を行っているところであり、結果は18年度中に論文として発表する予定である。<経済実験> 実験の実施に支障が出るため、詳細は明らかにすることができないが、実験の準備を進めた。18年度中には実験を行う予定にしている。