著者
森 一平
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.5-25, 2011-12-30 (Released:2012-12-03)
参考文献数
30

本稿は,「知っている」ということがいかなることであるのか,このことを,それが成立するための条件を問うことで,明らかにしようとするものである。この条件とは,「知っている」という記述が,状況において適切なものであるための条件である。本稿ではこの条件を,相互行為の組織のされ方のなかに見出していく。 本稿ではこの問いをとりわけ,IRE 連鎖に着目することで解いていく。IRE 連鎖は,「知識の確認」のために用いられることが知られており,そのときそれは,「知っている」ということを前景化する装置になる。この場合,IRE 連鎖の成立条件を問うことが,「知っている」ということの成立条件を問うことと重なるのである。 本稿では,「概念分析としての相互行為分析」という方針のもとで,相互行為が分析される。概念分析とは表現同士の結びつき方の分析であり,相互行為の分析も,行為の記述表現同士の結びつき方を明らかにすることによって検討することができる。この点で,概念分析と相互行為分析の方針は一致することになる。 相互行為の分析を通して明らかになるのは,「知っている」ということが,「知らない」ことの可能性を条件として,初めて成立する現象であるということである。「知らない」ことの可能性は,さまざまな実践的課題に導かれながら,多様なあり方で現出することで,「知っている」という言語ゲームを多重的に構成している。
著者
森 一平
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.153-172, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
20

本稿の目的は,授業会話における順番交替組織の一側面を明らかにすることである。小学校の授業会話においては,教師から児童たちへと発言の順番が移行するさい,主に一斉発話と挙手によってこれが成し遂げられる。しかし両者は,ともに同じく教師の質問によって児童たちに要求される。では,授業会話の参与者たちはいかにしてこの2種類の要求を区別し,またいかにしてそれに応えているのだろうか。本稿はこの問いを解くことを通して,上記の目的を果たそうとするものである。 分析の結果明らかになったのは次のことである。第1に教師は,基本的にはsK+質問と sK+/K-質問という2種類の質問を使い分けることによって,一斉発話と挙手の要求をそれぞれ区別していた。第2に児童たちは,事前の発言をきちんと聞いていたことを示しうるような適切なタイミングで挙手を開始していた。第3に,教師の要求に対して児童たちが誤った,あるいは分散した反応を示してしまった場合には,これを事後的に適切な反応へと方向づける付加的な技法が用いられていた。 一斉発話と挙手は授業会話において,その限られた発言の機会を児童たちへとなるべく公平に行き渡るよう分配するための,あるいは授業全体をより効果的なしかたで組織するための,有益な道具として用いることができる。本稿の知見は,この2つの道具を区別し使い分けるための,基礎的な技法を明らかにしたものである。
著者
五十嵐 素子 平本 毅 森 一平 團 康晃 齊藤 和貴
出版者
北海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は「アクティブ・ラーニング」の導入の影響を考えるために、学習活動の実際やそれが可能になる社会環境的条件、教師に求められる実践力の検討を行うことを目的としている。昨年度は、コロナウイルス感染対策のための学内業務(遠隔講義作成・各種事務対応)の増大や、学校現場における調査ができない状況が続いたため、今年度は現場の教員経験を持つ者を分担者に加えることによって体制の見直しを図った。その結果、新規分担者のアドバイスを得ながら、既存データの事例の検討、分析を進めることができた。その成果はすでに出版社に原稿として提出しており、次年度に出版される予定である。また、新規分担者の参加によって、現場の実践についてより理解が深まり、コロナ禍下での実践上の工夫について知見を得ることができた。具体的には、2021年6月12日(土)日本子ども社会学会(オンライン)においてラウンドテーブルⅡ「子どもの遊びと学びをコロナ禍の下で考える-相互行為とメディアの観点から-」を複数の分担者で企画した。そこでは、学校全体での感染防止対策によって導入された、行動に関わる制限的な規範の変化(黙食、児童同士が直接的な身体接触を避ける)などを、むしろ、新しい実践を導入していくきっかけとして捉えていく子どもたちの様子や、そうした試みを支援していく教師の実践があることが報告された。また、コロナ禍下の学校では、対面でありながら、直接的な身体接触を避けるという規範があるため、身体やコミュニケーションを媒介する、様々なメディア(音楽、相手に渡せる道具や物など)を活用し、そのメディアの性質を積極的に取り入れることで、新しい遊びや流行を創り出す様子がうかがえた。こうした研究は授業実践自体を対象としたものではないが、同様の児童と教師のあり方が授業実践でもみられた可能性があることが示唆された。
著者
三木 文雄 生野 善康 INOUE Eiji 村田 哲人 谷澤 伸一 坂元 一夫 田原 旭 斎藤 玲 富沢 磨須美 平賀 洋明 菊地 弘毅 山本 朝子 武部 和夫 中村 光男 宮沢 正 田村 豊一 遠藤 勝美 米田 政志 井戸 康夫 上原 修 岡本 勝博 相楽 衛男 滝島 任 井田 士朗 今野 淳 大泉 耕太郎 青沼 清一 渡辺 彰 佐藤 和男 林 泉 勝 正孝 奥井 津二 河合 美枝子 福井 俊夫 荒川 正昭 和田 光一 森本 隆夫 蒲沢 知子 武田 元 関根 理 薄田 芳丸 青木 信樹 宮原 正 斎藤 篤 嶋田 甚五郎 柴 孝也 池本 秀雄 渡辺 一功 小林 宏行 高村 研二 吉田 雅彦 真下 啓明 山根 至二 富 俊明 可部 順三郎 石橋 弘義 工藤 宏一郎 太田 健 谷本 普一 中谷 龍王 吉村 邦彦 中森 祥隆 蝶名林 直彦 中田 紘一郎 渡辺 健太郎 小山 優 飯島 福生 稲松 孝思 浦山 京子 東 冬彦 船津 雄三 藤森 一平 小林 芳夫 安達 正則 深谷 一太 大久保 隆男 伊藤 章 松本 裕 鈴木 淳一 吉池 保博 綿貫 裕司 小田切 繁樹 千場 純 鈴木 周雄 室橋 光宇 福田 勉 木内 充世 芦刈 靖彦 下方 薫 吉井 才司 高納 修 酒井 秀造 西脇 敬祐 竹浦 茂樹 岸本 広次 佐竹 辰夫 高木 健三 山木 健市 笹本 基秀 佐々木 智康 武内 俊彦 加藤 政仁 加藤 錠一 伊藤 剛 山本 俊幸 鈴木 幹三 山本 和英 足立 暁 大山 馨 鈴木 国功 大谷 信夫 早瀬 満 久世 文幸 辻野 弘之 稲葉 宣雄 池田 宣昭 松原 恒雄 牛田 伸一 網谷 良一 中西 通泰 大久保 滉 上田 良弘 成田 亘啓 澤木 政好 三笠 桂一 安永 幸二郎 米津 精文 飯田 夕 榊原 嘉彦 螺良 英郎 濱田 朝夫 福山 興一 福岡 正博 伊藤 正己 平尾 文男 小松 孝 前川 暢夫 西山 秀樹 鈴木 雄二郎 堀川 禎夫 田村 正和 副島 林造 二木 芳人 安達 倫文 中川 義久 角 優 栗村 統 佐々木 英夫 福原 弘文 森本 忠雄 澤江 義郎 岡田 薫 熊谷 幸雄 重松 信昭 相沢 久道 瀧井 昌英 大堂 孝文 品川 知明 原 耕平 斎藤 厚 広田 正毅 山口 恵三 河野 茂 古賀 宏延 渡辺 講一 藤田 紀代 植田 保子 河野 浩太 松本 慶蔵 永武 毅 力富 直人 那須 勝 後藤 純 後藤 陽一郎 重野 秀昭 田代 隆良
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.914-943, 1987
被引用文献数
2

Clavulanic acid (以下CVAと略す) とticarcillin (以下TIPCと略す) の1: 15の配合剤, BRL28500 (以下BRLと略す) の呼吸器感染症に対する有効性と安全性をpiperacillin (以下PIPCと略す) を対照薬剤として, welI-controlled studyひこより比較検討した.<BR>感染症状明確な15歳以上の慢性呼吸器感染症 (慢性気管支炎, びまん性汎細気管支炎, 感染を伴った気管支拡張症・肺気腫・肺線維症・気管支喘息など) およびその急性増悪, 細菌性肺炎, 肺化膿症を対象とし, BRLは1回1.6g (TIPC1.5g+CVA0.1g) 宛, PIPCは1回2.0g宛, いずれも1日2回, 原則として14日間点滴静注により投与し, 臨床効果, 症状改善度, 細菌学的効果, 副作用・臨床検査値異常化の有無, 有用性について両薬剤投与群間で比較を行い, 以下の成績を得た.<BR>1. 薬剤投与314例 (BRL投与161例, PIPC投与153例) 中, 45例を除外した269例 (BRL投与138例, PIPC投与131例) について有効性の解析を行い, 副作用は293例 (BRL投与148例, PIPC投与145例) について, 臨床検査値異常化は286例 (BRL投与141例, PIPC投与145例) について解析を実施した.<BR>2. 小委員会判定による臨床効果は, 全症例ではBRL投与群78.8%, PIPC投与群79.4%, 肺炎・肺化膿症症例ではBRL投与群 (79例) 82.1%, PIPC投与群 (73例) 79.5%, 慢性気道感染症症例ではBRL投与群 (59例) 74.6%, PIPC投与群 (58例) 79.3%の有効率で, いずれも両薬剤投与群間に有意差を認めなかった.<BR>3. 症状改善度は, 肺炎・肺化膿症症例では赤沈値の14日後の改善度に関してPIPC投与群よりBRL投与群がすぐれ, 慢性気道感染症症例では胸部ラ音, 白血球数, CRPの3日後の改善度に関してBRL投与群よりPIPC投与群がすぐれ, それぞれ両薬剤投与群間に有意差が認められた.<BR>4. 細菌学的効果はBRL投与群68例, PIPC投与群57例について検討を実施し, 全体の除菌率はBRL投与群75.0%, PIPC投与群71.9%と両薬剤投与群間に有意差は認められないが, Klebsiella spp. 感染症においては, BRL投与群の除菌率87.5%, PIPC投与群の除菌率16.7%と両薬剤群間に有意差が認められた. また, 起炎菌のPIPCに対する感受性をMIC50μg/ml以上と50μg/ml未満に層別すると, MIC50μg/ml未満の感性菌感染例ではBRL投与群の除菌率69.6%に対してPIPC投与群の除菌率94.7%とPIPCがすぐれる傾向がみられ, 一方, MIC50μg/ml以上の耐性菌感染例ではPIPC投与群の除菌率12.5%に対して, BRL投与群の除菌率は66.7%と高く, 両薬剤間に有意差が認められた.<BR>5. 副作用解析対象293例中, 何らかの自他覚的副作用の出現例はBRL投与群5例, PIPC投与群11例で, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>6. 臨床検査値異常化解析対象286例中, 何らかの異常化が認められた症例は, BRL投与141例中45例 (31.9%), PIPC投与145例中28例 (19.3%) で, 両薬剤投与群間に有意差が認められた. 臨床検査項目別にみると, GPT上昇がBRL投与140例中26例 (18.6%), PIPC投与140例中14例 (10.0%), BUN上昇がBRL投与128例中0, PIPC投与127例中4例 (3.1%) と, それぞれ両薬剤投与群間での異常化率の差に有意傾向が認められた.<BR>7. 有効性と安全性を勘案して判定した有用性は, 全症例ではBRL投与群の有用率 (極めて有用+有用) 76.3%, PIPC投与群の有用率の74.8%, 肺炎・肺化膿症症例における有用率はBRL投与群81.0%, PIPC投与群75.3%, 慢性気道感染症症例における有用率はBRL投与群70.0%, PIPC投与群74.1%と, いずれも両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>以上の成績より, BRL1日3.2gの投与はPIPC1日4gの投与と略同等の呼吸器感染症に対する有効性と安全性を示し, とくにβ-lactamase産生菌感染症に対しても有効性を示すことが確認され, BRLが呼吸器感染症の治療上有用性の高い薬剤であると考えられた.
著者
森 一平
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.22, pp.186-197, 2009

The purpose of this paper is to elucidate one aspect of the scholastic socialization. This is the socialization through which Kindergartners are oriented to the methodology of 'A and Bs attending to the same thing' as a scholastic skill. This paper demonstrates that two respective designs of two interaction formats, 'adjacency pair' and 'adjacency triple', are used to cohort the kindergartners, make the teacher's and kindergartners' states facing each other, and then, achieve the methodology of 'A and Bs attending to the same thing'. These procedures are describable as one aspect of the scholastic socialization that orients kindergartners to a skill mainly required in schools.
著者
森 一平
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.71-91, 2009-11-30

This paper elucidates the process of socialization in a class of three-year-old children in a kindergarten as a local practice performed by class members. Classical studies of socialization have examined the process of socialization only based on the simplified logic that "learning norms". This paper reveals the process of "school socialization" as detailed everyday practices. By analyzing the interaction between the members in a kindergarten class, this paper reveals four things, as follows. First, adjacency pair, a form of "repetition pair," is used for accomplishing the task of transmitting propositional knowledge and maintaining classroom order. Second, DRE (direction/response/evaluation), a adjacency triple, is used for accomplishing the task of transmitting school norms such as "sitting looking toward the blackboard" and producing-maintaining classroom order to facilitate the later work of knowledge production. Third, the school norm of "sitting looking toward the blackboard" transmitted through the DRE method is constituted by a "blend" of propositional and know-how knowledge. Fourth, DRE is used in situations that involve all the kindergartners, and thus differs from QRE (question/response/evaluation), which is frequently used toward a single learner. These procedures of "repetition pair" and "DRE" provide important insights for studies of socialization because they demonstrate one of the root aspects of socialization, "scholastic socialization" as "socialization toward socialization," and simultaneously, these procedures provide suggestions for studies of classroom practices that are not revealed by capturing classroom interactions only as QRE and adjacency triple.
著者
森 一平
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF EDUCATIONAL SOCIOLOGY
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.153-172, 2014

本稿の目的は,授業会話における順番交替組織の一側面を明らかにすることである。小学校の授業会話においては,教師から児童たちへと発言の順番が移行するさい,主に一斉発話と挙手によってこれが成し遂げられる。しかし両者は,ともに同じく教師の質問によって児童たちに要求される。では,授業会話の参与者たちはいかにしてこの2種類の要求を区別し,またいかにしてそれに応えているのだろうか。本稿はこの問いを解くことを通して,上記の目的を果たそうとするものである。<BR> 分析の結果明らかになったのは次のことである。第1に教師は,基本的にはsK+質問と sK+/K-質問という2種類の質問を使い分けることによって,一斉発話と挙手の要求をそれぞれ区別していた。第2に児童たちは,事前の発言をきちんと聞いていたことを示しうるような適切なタイミングで挙手を開始していた。第3に,教師の要求に対して児童たちが誤った,あるいは分散した反応を示してしまった場合には,これを事後的に適切な反応へと方向づける付加的な技法が用いられていた。<BR> 一斉発話と挙手は授業会話において,その限られた発言の機会を児童たちへとなるべく公平に行き渡るよう分配するための,あるいは授業全体をより効果的なしかたで組織するための,有益な道具として用いることができる。本稿の知見は,この2つの道具を区別し使い分けるための,基礎的な技法を明らかにしたものである。