著者
矢野 桂司
雑誌
じんもんこん2007論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.47-54, 2007-12-13

地理情報科学が進展する中で、様々な地理・空間データが構築されている。その中で、個人の名前のデータベースがGISでの利用を前提に利用可能な状態にある。英国ではすでに苗字プロジェクトとして、苗字マップをはじめ、ジオデモグラフィクス研究との関わりで新たな研究トピックスを形成しつつある。本研究では、町丁目までの位置情報をもつ約4500万件の日本の苗字データを用いて、日本の苗字マップの分析と、その応用可能性について言及する。
著者
永田 彰平 中谷 友樹 矢野 桂司 秋山 祐樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.背景と目的<br> 健康的な生活を支える食料品へのアクセスが剥奪される地域的状況はフードデザートと呼ばれ、特定の社会集団の健康水準を低下させる要因として指摘されてきた。日本社会では、中心商業地の衰退に伴う店舗の閉鎖や都市的な環境で広がる社会的疎外が、高齢者を中心とする徒歩によって生鮮食料品を購買していた居住者に深刻な影響をもたらすと危惧されている(岩間, 2011)。2011年3月に発生した東日本大震災では、津波被災地区を中心に発生した被災による食料品購買機会の喪失が問題となっている(岩間ほか, 2012)。<br> フードアクセスをめぐる課題を受け、近年では生鮮食料品を販売する店舗へのアクセスを評価する地図成果物が公開されるようになった。例えば、農林水産研究所が公開している食料品アクセスマップでは、500mと定義された徒歩圏内にスーパー等の食料品購買機会を得られない地区が示されている(薬師寺・高橋, 2012)。ただし、徒歩圏内に購買機会のない環境が長期的に維持されている場合には、その環境に適応した食料品の確保(例えば、自動車による購買行動)がなされているとも考えられる。そのため、本研究では徒歩での購買行動が可能であった地区において購買機会が失われた状況が、フードアクセスの問題を最も深刻に被る地区と想定した。<br> また、フードデザート問題は、欧米社会にみられる大都市部の貧困地区の健康問題から提起されてきた論点ではあるが(中谷, 2010)、こうした問題発生地区の社会的位置付けを、日本全体を対象として俯瞰する試みはなされてこなかった。これを踏まえて、本研究では近年の生鮮食料品販売店舗の閉鎖に伴って生じた、徒歩でのフードアクセスの喪失地区を特定し、当該地区を社会地区類型(ジオデモグラフィクス)を利用して評価することを試みる(中谷・矢野, 2014)。対象期間は、震災発生前の2010年からその3年後の2013年とした。<br><br>2.資料と方法<br>(1) 座標付き電話帳データベースであるテレポイントPack!(全国版)の2011年2月(2010年10月発行の電話帳と対応)と2014年2月版(2013年10月発行の電話帳と対応)を用いて、生鮮食料品購入可能店舗の抽出を行った。業種はスーパー(生協等店舗を含む)、その他の食料品店(コンビニ、個人商店等)に区別し、店舗名等から実質的な小売店舗であるものに限定した。<br> (2) GIS環境において直線距離500m圏を徒歩圏として、時期別に徒歩圏での食料品アクセス可能範囲を特定するレイヤを生成した。また、両レイヤのオーバーレイによって、食料品店舗への徒歩アクセスの変化を識別した。さらに、各圏域に含まれる人口を基本単位区の人口統計(2010年)を平滑化して推計した。<br> (3) 食料品アクセスの衰退地区に居住する人口を、町丁字等単位の社会地区類型別に比較した。社会地区類型にはMosaic Japan 2010年版(エクスペリアンジャパン(株))を利用した。<br><br>3.徒歩フードアクセスの喪失マップと地区類型<br>徒歩によるフードアクセスが近年失われた地区の全国分布図を作成し、当該地区の地域別・社会地区類型別の特徴を、業種別に検討した。抽出された食料品購入可能店舗の総数は減少しており、とくに津波被災地区ではスーパー以外の店舗の減少が著しい。<br>地区類型別の整理の一例として下図に、2010年において徒歩圏内にスーパーのある地区に居住していた人口の内、2013年にスーパーへの徒歩アクセスを失った割合(%)を、Mosaic Group別に示す(人口密度が低いグループほど上に配置してある)。徒歩によるフードアクセスの喪失は、地区の社会的属性に応じても特徴的に異なることがわかる。<br><br>本研究は,厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究「日本人の食生活の内容を規定する社会経済的要因に関する実証的研究」(研究代表者:村山伸子)および科学研究補助金・基盤研究(B)「GISベースの日本版センサス地理学の確立とその応用に関する研究」による成果の一部である.
著者
上杉 昌也 矢野 桂司
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.253-271, 2018
被引用文献数
2

<p>本稿は,都市内での教育水準の空間的不均衡とジオデモグラフィクスに基づく居住者特性との関係を明らかにし,近隣地区における社会経済的要因の影響を除いた教育水準の学校間格差について評価するものである。対象地域として社会経済的な居住分化が比較的明瞭で,2013年から「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の学校別の結果が公表されている大阪市を選んだ。全国学力テストの平均正答率を教育水準とみなすと,都市の空間構造に対応した教育水準の不均衡が存在し,近隣スケールにおいてもジオデモグラフィクスに基づく社会地区類型と通学先の学校の教育水準には一定の関係が見出された。また社会地区類型間で教育水準格差が存在することも示唆され,社会地区類型の差異により学校間の教育水準の変動の約半分が説明された。そのため学校の教育水準の評価においてはその学校の置かれた地域条件を考慮することが不可欠であるといえる。さらに,実際の学力テストに基づいて計測される教育水準からこの地域条件の影響を取り除いた実質的な学校効果は,教育水準が高い学校ほど大きいことも明らかになった。これらの知見は,ジオデモグラフィクスが地域間や社会集団間の教育格差を明らかにするだけでなく,空間的公正の観点からそれらの格差解消に向けた政策ターゲットの特定においても有用であることを示すものであるといえる。</p>
著者
河原 大 矢野 桂司 中谷 友樹 磯田 弦 河角 龍典 高瀬 裕 井上 学 岩切 賢 塚本 章宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.118, 2004

<b>_I_ 研究目的</b><br>本研究の最終的な目的は、2・3次元GISとVR(Virtual Reality)技術を活用して、歴史都市京都のバーチャル時・空間を構築することにある。そのためには、過去における京都の町並みの景観を構成するコンテンツを特定し、それらの精確な位置情報を収集する必要がある。本発表では、現在から過去にさかのぼる形で、現在、戦後、大正の3時期を設定し、各時期の京都のバーチャル時・空間を構築する。<br><b>_II_ 京都の景観コンテンツ -京町家を中心として-</b><br> 京都では第二次大戦の被害が少なかったこともあり、神社・寺院や近世末から戦前に建てられた京町家や近代建築などが多数現存している。したがって、現在の京都バーチャル・シティーを構築したのちに新しく建てられた建物を京町家に置き換えていくことで、過去の町並みの景観復原をおこなうことが可能になる。 以下では、現代、戦後、大正の順に、京都の町並みの中で主要な景観コンテンツである京町家の特定をしていく。<br><b>1)現代</b> 現在における京都市のバーチャル・シティーのベースとして、本研究では、現在もっとも精度が高い3次元都市モデルであるMAP CUBE<sup>TM</sup>を用いることにする。MAP CUBE<sup>TM</sup>は、2次元都市地図(縮尺は2500分の1精度)上のポリゴンの建物形状を2次元GISのベース((株)インクリメントP)として、各建物の高さをレーザー・プロファイラーにより計測し((株)パスコ)、建物の3次元形状を作成したもの((株)CAD CENTER)である(そのレーザーの計測間隔は約2mで、高さ精度は±15cmである)。また、各各建物の3次元VRモデルは、MAP CUBE<sup>TM</sup>の3次元形状モデルに、現地でのデジタル撮影により取得された画像を、テクスチャ・マッピングしたものである。なお、建物以外の地表面に関しては、空中写真などをテクスチャ・マッピングすることができる(専用の3次元GISソフトUrban Viewerによって、操作することができる)。<br> 京都市は、平成10年に『京町家まちづくり調査』として、都心4区を中心とする範域の京町家の悉皆外観調査を実施し、約28,000件もの京町家を特定した。本研究では、この調査データを効率よく2次元GIS化するとともに、1998年以降の変化を補足する追跡調査を実施している。この調査によって、現時点での京町家の建物形状(ポリゴン)、建物類型、建物状態などが2次元GISとしてデータベース化されている。<br> 本研究ではさらに、2次元GISとして特定された現在の京町家データベースを、Urban Viewerを用いて、3次元表示させていく。<br><b>2)戦後</b> 戦後の京町家の分布状態を明らかにするために、空中写真から京町家を特定し2次元GIS化した。具体的には、1948年の米軍撮影空中写真、1961年の国土地理院撮影空中写真、1974年の国土地理院撮影空中写真、1987年国土地理院撮影空中写真、2000年中日本航空撮影空中写真の53 年間13 年ごと5期の空中写真について判読を実施した。<br> 都心地域(北は御池通、南は四条通一筋南の綾小路通、東は河原町通、西は烏丸通の3 筋西の西洞院通に囲まれる東西約1100m 南北約800m の範域)において、1948年時点で約6,250件、1961年時点で約5,900件、1974年時点で約4,550件、1987年時点で約2,900件、2000年時点で約1,800件と、京町家が減少していることが判明した。また、その場合、大通りに面する京町家から内側へと次第に減少していく傾向が明らかになった。<br><b>3)大正</b> 大正期の京町家の空間的分布を明らかにするために、『大正元年京都地籍図』(立命館大学附属図書館所蔵)をデジタル化し、さらに2次元GISを用いて、当時の地割をベクタ化した。この地籍図は約1200_から_2000分の1の縮尺で、現在の都心とその周辺地域の範囲を合計375枚でカバーしている。<br>各地割ごとに京町家が建てられていたと想定し、すでに竣工された近代建築についても特定した上で、地割の大きさにあわせて、3次元のバーチャル・シティー上に京町家を配置し、町並みの景観を復原していくことができる。<br><b>_III_ 京都のバーチャル時・空間</b><br> 本研究では、京都の町並みの景観を構成する重要なコンテンツとして京町家をとりあげ、悉皆外観調査、過去の空中写真、過去の地籍図を最大限に活用して、現在、戦後、大正の京町家の2次元GISをデータベース化するとともに、3次元都市モデルにそれら京町家を統合し、京都バーチャル時・空間を構築した。<br>その結果、歴史都市京都の町並みの変遷を3次元的に視覚化させ、時・空間上での景観復原を可能とした。
著者
上杉 昌也 樋野 公宏 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.11-23, 2018
被引用文献数
2

<p>本研究は,居住者の社会経済的な属性に基づいて近隣地区を類型化したジオデモグラフィクスデータを用いて,社会地区類型による手口別の窃盗犯発生パターンの特徴を明らかにするものである.東京都市圏の12都市を対象とした分析の結果,社会地区類型による空き巣・ひったくり・車上狙いの窃盗犯の発生パターンの違いを明らかにした.またこの社会地区類型は,地区の建造環境や都市間の差を統制しても犯罪発生に対して一定の説明力をもっており,特に空き巣において顕著であった.これらの知見は手口に応じた防犯施策の重点地区の特定など,近隣防犯活動へのジオデモグラフィクスの活用可能性を示すものといえる.</p>
著者
上杉 昌也 樋野 公宏 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.11-23, 2018 (Released:2018-03-16)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本研究は,居住者の社会経済的な属性に基づいて近隣地区を類型化したジオデモグラフィクスデータを用いて,社会地区類型による手口別の窃盗犯発生パターンの特徴を明らかにするものである.東京都市圏の12都市を対象とした分析の結果,社会地区類型による空き巣・ひったくり・車上狙いの窃盗犯の発生パターンの違いを明らかにした.またこの社会地区類型は,地区の建造環境や都市間の差を統制しても犯罪発生に対して一定の説明力をもっており,特に空き巣において顕著であった.これらの知見は手口に応じた防犯施策の重点地区の特定など,近隣防犯活動へのジオデモグラフィクスの活用可能性を示すものといえる.
著者
矢野 桂司 鎌田 遼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<br>&nbsp;本研究の目的は、国内外の図書館・博物館などが所蔵する日本で作製・出版された過去の地図・絵図などの古地図を、総合的・横断的にインターネット上で検索、閲覧、分析することができる、オープンソースによるWebGISベースでのポータルサイト『Japan Old Maps Online(仮)』を構築し、ボランタリーなクラウドソーシングを活用しながら、伝統的な人文学の「蛸壺的な」研究スタイルを、学際的・国際的な協働でのプロジェクト型研究に革新することにある。<br>&nbsp;近年、人文学で扱う紙ベースの学術資料のデジタル化と、それらのによる公開が急速に進んでいる。日本においても、『国立国会図書館デジタルコレクション』がその代表で、国立国会図書館に所蔵されている多くの学術資料がデジタル化され、インターネット上に公開されている。その学術資料の中には、本研究が対象とする日本の地図・絵図などの古地図も含まれる。例えば、『国立国会図書館デジタルコレクション』には2,644件もの絵図が含まれている。この他、国土地理院の『古地図コレクション』(300件)をはじめ、東京都立図書館、国際日本文化センター、歴史民俗博物館、各大学図書館など多くの古地図を所蔵する機関が独自に公開を積極的に進めている。しかし、それらインターネット上に公開されたデジタル古地図を総合的・横断的に検索できる効果的なWebGISベースのポータルサイトは日本に存在していない。<br>&nbsp;2000年代中葉から、伝統的な人文学においても、ICTを活用して学術資料のアーカイブ構築、文化コンテンツの分析、学術成果の公開や展示の方法などを、文系・理系の連携・融合・統合によって複数の研究者によるプロジェクト型の研究スタイルをもつデジタル・ヒューマニティーズが展開している。その中で、地理空間情報を扱う歴史GISは、人文学の空間的ターンとしての地理人文学(GeoHumanities)あるいは空間人文学(Spatial Humanities)などの人文学の新しい学問分野の形成において中心的な役割を果たしている。日本における歴史GIS、ひいては伝統的な人文学を、学際的・国際的な協働による新たなプロジェクト型の研究スタイルに飛躍的に展開させるためにも、その基礎資料となる日本の古地図を総合的に・横断的に検索し、さらにGIS分析を可能とするポータルサイトの構築が急務である。 <br>&nbsp;本研究が目標とする国内外に散在する日本の古地図のポータルサイトを構築するためには、大きく、1)ポータルサイトそのものを構築し運営するための基盤づくり(オープンソースによるシステム開発)と、2)そのポータルサイトに取り込む日本の古地図の情報収集(各機関が所蔵する地図目録とメタデータ、デジタル化、さらには権利関係の処理など)が必要となる。 まず、ポータルサイトのシステム開発に関しては、全てを新たに独自開発するのではなく、Harvard大学空間解析センター(CGA)のWorldMapを拡張したHarvard HypermapやMapWarperなどのオープンソースソフトウェアと、古地図を共有するための既存のプラットフォームであるOld Maps Online(OMO)などのコンテンツを活用し、日本の古地図に特化した多言語対応型のポータルサイトを構築する。 <br>&nbsp;本研究が対象とする日本の古地図は、基本的に、日本で作製され、日本を描いた紙地図である。時代的には、近世以前と近代のものを順に整備するが、最終的には、現在のボーンデジタルなものをも含めて運用できるものとする。<br>&nbsp;前述したOMOには、すでに多くの地図が登録されているが、日本の古地図は必ずしも多くない。さらに、OMOに地図画像を提供している機関のすべての地図がデジタル化され、公開されているわけでもない。例えば、OMOに参加している大英博物館には約600件の日本の古地図があるが、それらは未だデジタル化されていないし、Harvard大学図書館が所蔵する122の日本の古地図のうちデジタル化され公開されているものは現時点で25件に過ぎない。また、UCB東アジア図書館が所蔵する三井コレクションの中には江戸時代から明治にかけての日本の古地図2,200件余りが含まれているが、デジタル化が完了しているものは800件で、今後、残りのデジタル化が必要である。ポータルサイトの構築の過程には、図書館・博物館の地図部門のキュレータと古地図を対象あるいは活用する研究者、そしてそれらをICT技術でつなぐ3者の協働でのプロジェクト型研究が必須で、このような国際的・学際的な協働は、伝統的な人文学を革新する原動力となる。
著者
八村 広三郎 赤間 亮 矢野 桂司 遠藤 保子 西浦 敬信 崔 雄 古川 耕平 阪田 真己子 李 亮 中村 美奈子 丸茂 美惠子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

モーションキャプチャ技術などを利用して,無形文化財のデジタル・アーカイブと,そのデジタルデータを利用して,動作解析,動作認識,コンテンツ制作などに利用するための広汎な研究を行った.具体的な成果は,複数演技者による舞踊動作における同期現象の解明,祇園祭山鉾巡行の記録とVR再現,仮想ダンスコラボレーション,身体動作データベースと身体動作の類似性に基づく,データ検索手法,舞踊譜Labanotation を用いた舞踊動作の記録と動作の再現のためのシステムLabanEditorの開発.また,これの能の仕舞動作への適用.ストリートダンス身体動作の教育支援システム,などである.