著者
瀬戸 寿一 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.259-274, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
47

本稿は京都の景観計画への活用を目的とした調査において,市民調査員に良好と判断された通り景観の特徴を考察するものである.その際に(1)京町家GISデータを用いて「良好な通り景観」の選定に関わる景観要素を定量分析した.また(2)市民調査員や居住者が「良好な通り景観」をどのような意識に基づき選定したかについて,発話などの資料を用いて定性的に検討した.その結果,(1)定量分析では,「良好な通り景観」が既存の景観保全地区以外にも,日常生活を印象づける長屋建ての多い通りなどで選定された.(2)定性分析では,当該地域の居住者にとって,伝統的な外観意匠を残す京町家を中心とする,過去と現在とであまり変化の見られない景観に高い関心を持つことが明らかとなった.以上の結果から,市民参加型調査で選定された「良好な通り景観」の情報を景観計画に活用するには,定量分析のみならず,市民の景観に対する意識に関する定性分析も必要であることが示唆された.
著者
花岡 和聖 中谷 友樹 矢野 桂司 磯田 弦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.227-242, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
27
被引用文献数
2 3

本稿では,京町家のモニタリングを意図した外観調査事業から得られる資料に基づき,京都市西陣地区を対象に,京町家の取壊しと建替えを規定する要因を定量的に把握し考察する.その際に,①京町家自体の特性(構造特性と利用状況),②土地利用規制,③近傍の環境特性と関連する指標群を分析した.その結果,①京町家の取壊しは,京町家の建て方や老朽化の程度を示す建物状態,伝統的外観要素の保存状態,高さ規制,周辺環境を表す近傍変数によって規定されていた.また②近傍変数は,土地利用別に異なる空間的な範域を有し,その影響力も土地利用規制と同程度であることがわかった.さらに③京町家からの土地利用転換では,土地利用規制と近傍の環境特性に加えて,従前の京町家自体の特性が土地利用転換を強く規定していた.以上から,京町家の建替えは,時空間的な連鎖を伴って進展していると考察される.
著者
上杉 昌也 矢野 桂司
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.11-22, 2017-06-30 (Released:2019-12-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1

This study aims to investigate the association between individual travel behaviors, neighborhood built environment, and social area type based on a geodemographics dataset. Neighborhood environment includes population density, land use mixture, road density, service level of public transportation, destination accessibility, and topography. By using person trip survey data for Kyoto Prefecture residents in 2010, the results of multilevel logistic analysis showed that social area type can explain the variations of travel mode choice for commuting behavior―particularly the use of public transportation and vehicle, even after controlling for neighborhood environment and individual characteristics such as gender, age, occupation, and household vehicle ownership. On the other hand, there was little evidence of association between mode choice for shopping and social area type.
著者
矢野 桂司 磯田 弦 中谷 友樹 河角 龍典 松岡 恵悟 高瀬 裕 河原 大 河原 典史 井上 学 塚本 章宏 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.12-21, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究では,地理情報システム(GIS)とバーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して,仮想的に時・空間上での移動を可能とする,歴史都市京都の4D-GIS「京都バーチャル時・空間」を構築する.この京都バーチャル時・空間は,京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を世界に向けて公開・発信するための基盤として,京都をめぐるデジタル・アーカイブ化された多様なコンテンツを時間・空間的に位置づけるものである.京都の景観要素を構成する様々な事物をデータベース化し,それらの位置を2D-GIS上で精確に特定した上で,3D-GIS/VRによって景観要素の3次元的モデル化および視覚化を行う.複数の時間断面ごとのGISデータベース作成を通して,最終的に4D-GISとしての「京都バーチャル時・空間」が形作られる.さらにその成果は,3Dモデルを扱う新しいWebGISの技術を用いて,インターネットを介し公開される.
著者
矢野 桂司 中谷 友樹 磯田 弦 高瀬 裕 河角 龍典 松岡 恵悟 瀬戸 寿一 河原 大 塚本 章宏 井上 学 桐村 喬
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.464-478, 2008-04-25
被引用文献数
2 19

バーチャル京都は,歴史都市京都の過去,現在,未来を探求することを目的に,コンピュータ上に構築されたバーチャル時・空間である。本研究では,最先端のGISとVR技術を用いて,複数の時間スライスの3次元GISからなる4次元GISとしてのバーチャル京都を構築する。本研究は,まず,現在の京都の都市景観を構築し,過去にさかのぼる形で,昭和期,明治・大正期,江戸期,そして,京都に都ができた平安期までの都市景観を復原する。<br> バーチャル京都を構築するためには以下のようなプロジェクトが行われた。a)京都にかかわる,現在のデジタル地図,旧版地形図,地籍図,空中写真,絵図,景観写真,絵画,考古学資料,歴史資料など位置参照可能な史・資料のGIS データの作成,b)京町家,近代建築,文化遺産を含む社寺など,現存するすべての建築物のデータベースおよびGISデータの作成,c)上記建築物の3次元VRモデルの構築,d)上記GISデータを用いた対象期間を通しての土地利用や都市景観の復原やシミュレーション。<br> バーチャル京都は,京都に関連する様々なデジタル・アーカイブされたデータを配置したり,京都の繊細で洗練された文化・芸術を世界に発信したりするためのインフラストラクチャーである。そして,Webでのバーチャル京都は,歴史的な景観をもつ京都の地理学的文脈の中で,文化・芸術の歴史的データを探求するためのインターフェイスを提供する。さらに,バーチャル京都は,京都の景観計画を支援し,インターネットを介して世界に向けての京都の豊富な情報を配信するといった重要な役割を担うことになる。
著者
上杉 昌也 矢野 桂司
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.253-271, 2018 (Released:2018-07-02)
参考文献数
51
被引用文献数
1 2

本稿は,都市内での教育水準の空間的不均衡とジオデモグラフィクスに基づく居住者特性との関係を明らかにし,近隣地区における社会経済的要因の影響を除いた教育水準の学校間格差について評価するものである。対象地域として社会経済的な居住分化が比較的明瞭で,2013年から「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の学校別の結果が公表されている大阪市を選んだ。全国学力テストの平均正答率を教育水準とみなすと,都市の空間構造に対応した教育水準の不均衡が存在し,近隣スケールにおいてもジオデモグラフィクスに基づく社会地区類型と通学先の学校の教育水準には一定の関係が見出された。また社会地区類型間で教育水準格差が存在することも示唆され,社会地区類型の差異により学校間の教育水準の変動の約半分が説明された。そのため学校の教育水準の評価においてはその学校の置かれた地域条件を考慮することが不可欠であるといえる。さらに,実際の学力テストに基づいて計測される教育水準からこの地域条件の影響を取り除いた実質的な学校効果は,教育水準が高い学校ほど大きいことも明らかになった。これらの知見は,ジオデモグラフィクスが地域間や社会集団間の教育格差を明らかにするだけでなく,空間的公正の観点からそれらの格差解消に向けた政策ターゲットの特定においても有用であることを示すものであるといえる。
著者
矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.367-387, 1991-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
5 6

Wilsonのエントロピー最大化モデル以降,さまざまな空間的相互作用モデルが開発されてきた(石川, 1988). 従来,これらモデルの類似性については部分的に指摘されてきたが,それらを技術論的に統合しようと試みたものはみられない.本研究は,これらの新しい空間的相互作用モデルを,最尤法に依拠する一般線形モデルの枠組みによって統合した.そして,一般線形モデルの代表的な汎用ソフトであるGLIMを用いて, 1) 対数正規型重力モデル, 2) ポアソン重力モデル, 3) エントロピー最大化モデル, 4) 競合着地モデル, 5) 対数線形モデル,のキャリブレーションを,簡単な数値例を用いて示した.このような一般化の結果,近年展開されているさまざまな空間的相互作用モデルのキャリブレーションに関する技術論的な問題は,あまり重要でないことがわかった.むしろ,対象とする空間的相互作用システムのモデル化に対して,発地区,着地区あるいは当該地区間の関係を示す変数として,,どのような変数を採用し,モデルを特定するかといった概念化が,今後の空間的相互作用モデル研究の重要な課題となることを指摘した.
著者
中谷 友樹 矢野 桂司 井上 茂 花岡 和聖 伊藤 ゆり 田淵 貴大 埴淵 知哉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は(1)日本社会を対象としたADI指標(地理的剥奪指標)の提案と、(2)小地域(近隣地区レベル≒町丁字スケール)におけるADIと健康指標との関連性を近隣環境要因の媒介に着目した評価、の2点である。ADIについては、貧困・剥奪に関連した国勢調査の小地域統計資料を利用して算出し、各種の健康指標との関連性を分析した。結果として、主観的健康感やがんの生存率など、各種の健康指標の悪化と地理的剥奪の高さとの関連性を報告し、その背景となる近隣環境との関係を考察した。これらを通して、健康の地理学における学際的研究の推進とともに、日本における小地域統計を利用した統計の高度利用について検討した。
著者
浅見 泰司 山田 育穂 貞広 幸雄 中谷 友樹 村山 祐司 有川 正俊 矢野 桂司 原 正一郎 関野 樹 薄井 宏行 小口 高 奥貫 圭一 藤田 秀之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

あいまいな時空間情報概念の整理、あいまいな時空間情報に既存の時空間情報分析を行った時の影響分析、まわり、となりなどの日常的に使われながらも意味があいまいな空間関係の分析ツールの開発、時空間カーネル密度推定手法の開発、歴史地名辞書の構築と応用分析、あいまいな時間の処理方法の提案、古地図と現代地図を重ねるツールの開発、あいまいな3次元地形情報の分析、SNSの言語情報の空間解析、あいまいなイラストマップのGPS連動ツールの開発、スマートフォン位置情報データの分析、アーバンボリュームの測定と応用、あいまいな敷地形状の見える化などの研究成果を得た。
著者
崔 雄 西浦 敬信 矢野 桂司 八村 広三郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.381, pp.365-370, 2011-01-13

本研究では,バーチャル・へリテージ研究の一環として,京都祇園祭りの山鉾巡行の様子をバーチャルに再現することを試みた.ここでは,京都の街路モデルには「バーチャル京都」の成果を利用し,その上に,4基の山と鉾を配置し,さらに,この中の一つの鉾(船鉾)の曳方,音頭取り,車方などの巡行関係者の人物モデルとそのアニメーションを付与した.また,巡行当日,世界中から集まる観客に関しても,それぞれアニメーションをつけたものとして,街路上に配置した.音響についても,実際の囃子や観客の話声などの音場を記録し,これを3D映像に付与している.これらは,リアルタイム・インタラクティブなコンテンツとして再現し,20人の被験者による評価実験も行い,良好な結果を得た.現状では,実際の山鉾巡行の規模には遠く及ばないが,今後さらに多くの山と鉾,また観客や巡行関係者の数を増やし,また,解説等のリンクを付与していくことを考えている.また,鉾の上の囃子舞台の上に乗って,巡行時の揺れや振動を仮想体験できるようなシステムを構築することも計画している.
著者
矢野 桂司
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.4, pp.586-600, 2012-08-25 (Released:2012-09-03)
参考文献数
24

This paper presents a brief history of geography in the United Kingdom, how it was institutionalized, referring to external impacts on research and teaching. Although geography has a long history in the United Kingdom as an intellectual activity, extending back to the Age of Exploration in the late 16th century, it has only been institutionalized as an academic discipline in universities since the end of the 19th century. Geography was established as a discipline offering an integrated study of complex reciprocal relationships among human societies and physical components of the Earth. By the early 1960s, quantitative and theoretical revolutions were having considerable impacts not only in the United States but also in the United Kingdom. Since then, geography has become a popular subject in elementary and secondary education, as well as higher education, in the UK. Although spatial science expanded rapidly in the 1960s, and continued to do so in the early 1970s, it never became part of the mainstream of human geography. Some fundamental critiques of the positivist approach led to the emergence of humanistic geography and radical geography. The following decades were turbulent for human geography—exciting but confusing—in part because human geographers were busy exploring new ideas. Then, the GIS revolution occurred in the late 1980s in the USA and the UK, which greatly affected geography. Around the same time, as new aspects of social and cultural geography came to be sufficiently established, differences between spatial science and new social and cultural geography became apparent. By the end of the 20th century, geography was firmly established in UK universities. Geography is taught to a large number of students and attracts many applicants to universities. However, changes in funding regimes and school curricula have influenced education and research. One major change in UK geography in the 1990s can be found in its research orientation. Previously, geography was an integrated area of study, based on physical and human geography, and its focus was on how much a university department could cover in terms of disciplines. However, after a new funding regime, called Research Assessment Exercise (RAE), was introduced, all geography departments came to be graded according to the quality of their research. External assessments of both research through the RAE and teaching through QAA have greatly affected how geography is practiced. Although UK geography remains an apparently successful and vibrant intellectual discipline, it might have suffered from fragmentation. Like all disciplines, geography has become fragmented and diversified in recent decades, because of its greater breadth and depth of knowledge. Based not only on substantive but also on epistemological and methodological differences, it is usually divided into physical and human geography. Moreover, human geography can be distinguished by the two major approaches of spatial analysis and social theory. This is because geography has become a community of sub-communities and individual departments, responding to research and teaching assessments. Despite fragmentation, geography in the United Kingdom continues to develop in the university and school systems, and has a substantive international reputation for the quality of its scholarship.
著者
中谷 友樹 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.506-521, 2008-04-25 (Released:2010-06-02)
参考文献数
37
被引用文献数
3 6

To detect spatio-temporal pattern of crime clusters/hotspots, the possibilities of three-dimensional mapping methodologies for crime event data are explored using two approaches: three dimensional kernel-density mapping using a volume rendering technique and visualisation of cylindrical significant clusters that can be detected by space-time scan statistics. Both approaches are intended to visualise spatio-temporal domains with high densities of crime in a three-dimensional space composed of two geographical dimensions and one time dimension. The proposed three-dimensional mapping methodologies are evaluated through application to a dataset of snatch-and-run offences in Kyoto City during the period 2003-2004. The results are summarized as follows: (a) Three-dimensional crime mapping enables effective visualisation of the geographical extents and duration of crime hotspots simultaneously. This method is particularly useful to identify geographical diffusion and movements of crime clusters/hotspots compared to traditional dynamic analyses of crime mapping using cross-sectional maps with arbitrary time intervals.  (b) In practice, the roles of three-dimensional kernel mapping and space-time scan statistics should be complementary. Space-time scan statistics provide clear-cut domains of crime clusters/hotspots that can be used for secondary analyses, such as evaluation of socio-environmental and temporal characteristics focusing on detected domains. However, we should note that the method assumes cylindrical geometrical-constrains of space-time domains. Three-dimensional kernel density mapping provides fuzzy domains with high densities of crime and a useful basis to assess the validity of the assumption of spatial scan statistics and to investigate detailed space-time sequences of crime clusters/hotspots. (c) Empirical analyses of the snatch-and-run offence dataset in Kyoto City revealed constant clusters/hotspots during the study period in central Kyoto and around Kyoto Station as well as transient clusters/hotspots around several railway stations in the suburbs. Temporal differences of transient clusters show geographical movements of hotspots from the north to the south via the west. We also identified that outbreaks of snatch-and-run offences alternated between a pair of cluster areas. These results suggesting so-called displacement phenomena indicate the need to monitor crime events and effects of crime-preventive actions in a widespread space-time context.
著者
上杉 昌也 上村 要司 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.153-160, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
39

人口減少期にある日本では,大都市圏においても急速な高齢化や転出に伴う空き家・空き地の増大が予想される.本研究では,人口動態の異なる東京・大阪・広島・福岡の4つの都市圏を対象に,空き家予防の観点から,将来(2030年)の空き家の立地状況について推計し,その空間構造を小地域単位かつ都市圏規模で明らかにした.特に,ミクロな空間スケールでの地理的および社会人口学的特性が把握できるジオデモグラフィクスを活用することで,都市圏内部の多様性や都市圏間の特徴の違いが定量的に示された.地区特性によって空き家化の進行の度合いや要因は異なることから,空き家問題に携わる自治体や民間事業者等においては,将来的に空き家対策に取り組むべき優先地域を特定し,地区レベルの特性に応じた空き家予防策を展開してくことが求められる.
著者
山本 峻平 佐藤 弘隆 髙橋 彰 河角 直美 井上 学 矢野 桂司
雑誌
じんもんこん2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.199-206, 2017-12-02

本研究では,1978(昭和53)年に全面廃止となった京都市電の写真資料に撮影位置の情報を付加させたデータベースを構築し,それを活用した過去の記憶のアーカイブの可能性について検討する.過去の京都市電の写真の撮影位置を特定するには,過去の大縮尺の地図などを用いることが有効である.しかし,都市景観の急速な変化から,撮影場所を特定することが難しい場合も多い.そこで,本研究では,クラウドソーシングを用いた撮影場所の特定方法を提案した.また,一般市民を対象とした京都市電の写真の展示会を実施し,過去の写真と大縮尺の地図を用いて,人々の過去の記憶のアーカイブの作成を行った.その結果,写真や史資料に残らない,当時の生活や体験などに関する記憶を蓄積することが可能となった.
著者
山本 峻平 髙橋 彰 佐藤 弘隆 河角 直美 矢野 桂司 井上 学 北本 朝展
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

デジタル技術とオープンデータ化の進展によりデータベースの活用が注目されている。近年では、インターネット環境の充実により画像や写真に関するデータベースの制作が多くなってきている。例えば、横浜市図書館や長崎大学図書館における古写真データベースなどがあげられる。これらの写真は明治・大正頃の写真や絵ハガキを中心に構成されるが、当時の都市景観がわかるデータベースとして貴重である。発表者らも立命館大学において戦後の京都市電を主な題材とした『京都の鉄道・バス写真データベース(以下京都市電DB)』を公開している(http://www.dh-jac.net/db1/photodb/search_shiden.php)。京都市電DBの活用策としては市電車両を被写体としながらも当時の都市景観が背景として写りこんでいることから、景観研究や都市研究に活用できること、また、年代が戦後から廃線の1978年までの時代であり、記憶の呼び起こし、まちあるきや観光への応用が期待できる。<br>近年、まちあるきが人気を集め、テレビや雑誌などで特集が組まれ、関連する書籍が多く出版されている。その中で、景観の変化や復原、相違点を探すことが行われているが、過去の景観を示す資料は探しだすことは容易ではない。そのような資料の一つとして京都市電DBを活用することが期待される。<br>写真データベースに収蔵されている写真を現地に赴き照合することで、当時の景観との差異が発見でき、まちあるきのアクティビティとして楽しむことができる。また、まちあるきの利用だけではなく、当時の景観との比較から眠っていた当時の記憶が呼び起こされ、記憶のアーカイブなどの研究へも活用できる。<br>本研究は、写真データベースのまちあるきツールとしての有用性の検証を行うとともに、記憶を呼び起こすツールとしての有効性についても検証を行なう。<br>本研究では、国立情報学研究所の北本氏を中心とした研究グループが開発を行っている、アンドロイド・スマートフォン用アプリ、「メモリーグラフ」をアレンジし、「KYOTOメモリーグラフ」アプリを作成し、使用する。アプリには当時の写真が位置情報を持った形で収蔵されおり、それを基に撮影された場所に赴く。次に、スマートフォンの画面に当時の写真を半透明で表示することが出来るので、今昔の写真を重ね合わせ、当時と現在の同アングルの撮影が可能となる。また、撮影された写真には位置情報が付加され、撮影場所の地図による表示やGISと連動することができる。さらに、撮影した写真にはタグが入力でき、コメントや思い出などを入力することができる。これらのデータはスマートフォン内部だけでなく、サーバーに保存することができ、撮影された今昔の写真データや付加されたコメントなどのメタデータをアーカイブし蓄積することができるようになっている。また、当時の写真を現在の風景と重ねる行為は撮影位置や傾きなど撮影時の条件に近づけなくてはならず、当時の撮影者の追体験が得られる。現在、実証実験と位置づけ、プロジェクトメンバー及び近接の関係者数人を被験者として「KYOTOメモリーグラフ」を利用したまちあるきを数回実施する予定である。被験者にはこちらで用意したスマートフォンを貸与するほか、各自のスマートフォンを用いる。今回の実験は、グループで実施し、機器やアプリへの習熟度、安全性、行動観察などを検証する。