著者
石川 敬史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_96-1_116, 2019 (Released:2020-06-21)
参考文献数
21

一七七六年にイギリス領北アメリカ植民地がヨーロッパ諸国に公表した 「独立宣言」 は、イギリス本国において一六八八年の名誉革命を経て形成された議会主権が植民地にも及ぶという主張に対する異議申し立てであった。 一七八三年のパリ条約で独立が承認されたアメリカ合衆国は、条約義務の履行のために統一的な国家を創設する必要に迫られたが、「独立宣言」 に記された革命の原則が、主権を有する国家の設立の足枷となったのである。 アメリカにおいて主権的国家の設立の最大の障害となったのは、アメリカ入植以来約一六〇年にわたって主権を行使してきた一三諸邦の存在であり、それらを超えて存在する国家主権とは彼らの経験にないものであった。 本稿では、ジョン・アダムズ、アレクザンダー・ハミルトン、ジェイムズ・マディソンら、「建国の父たち」 の議論を中心に、初期共和政体における主権国家の創設の試みを検討し、特にアメリカにおいては、司法権力がアメリカ合衆国における主権的機能の担い手となった経緯を明らかにするものである。
著者
石川 敬史 中岡 貴裕
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.159-171, 2021-03-28

埼玉県立浦和図書館は1972年1 月18日に一日図書館「むさしの号」の巡回を開始した。大型バスを改造して約4,500冊積載の書架を装備し,大規模団地を対象に2 時間から5 時間半に及んだ活動は,新聞などにおいて大きく報道された。本研究では,一日図書館の成立と最盛期の活動内容を実証的に明らかにするため,当時,一日図書館の活動に関わった元図書館員へのインタビュー記録に基づきながら,関係資料も用いて分析した。その結果,一日図書館の巡回の背景には,団地建設や人口増による図書館利用への要求や,市町村の図書館設置への機運の醸成があった。同時に,一日図書館の成立と活動を遡ると,巡回先を調整し,住民の中へ入り込み巡回を重ねる過程において,一日図書館を媒介としながら人と人との関係性を積み重ね,個々の地域との結びつきを深めていたことが明らかになった。1970年代の一日図書館は,単に大規模団地へ大量の本を運んでいたのではなく,埼玉県立図書館を核とする「図書館」ネットワークを運んでいた。
著者
石川 敬史
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.8-13, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)

公立図書館による移動図書館車の台数はゆるやかに減少傾向にあるが,近年は各地でさまざまな特徴をみることができる。本稿では,自動車という移動手段に焦点を当てた「移動する活動」(「はたらく自動車」の活動)を対象として,公立図書館による移動図書館をはじめ,民間団体等による本に関する活動,さらには移動博物館車,移動天文台車,移動販売車における活動事例を読み進める。これらを踏まえながら,こうした「はたらく自動車」の特質について,①メディアとしての自動車,②想いを運ぶ自動車,③地域の「時計」になる自動車,④境界を越える自動車,という4点の視角から序論的に解読した。
著者
石川 敬史 渡辺 哲成
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.268-271, 2018-06-01 (Released:2018-06-01)

十文字学園女子大学司書課程と日本事務器株式会社は,2013年より産学連携による教育実践を積み重ねてきた。これらの実践の目的は,学生と企業社員らが図書館システムを通して図書館の可能性をともに創造することであり,両者がとともに学びあうプロセスを重視している。本稿ではこうした実践のうち,①Pepperと図書館システムとの連携づくり(2016年度),②手話・字幕つきOPACガイダンス動画の制作(2017年度)を中心に,「学生傍聴」による図書館システムリプレイス(2017年度)についても報告する。産学連携による学びあいは,多くの学生や企業社員らを巻き込みながら広がっていく。
著者
石川 敬史
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

移動図書館は,単に図書を運ぶ手段ではなく,図書館の理念を実現するための一つの手段であった。同時に,何らかの移動手段によって図書館資料を運び,図書館員によるサービスを展開していた。戦後初期における日本の移動図書館は,図書の貸出のみならず,映画会などの文化を地域に運び,地域と図書館を確実につないでいた。「移動」する「図書館」活動は,多くの人々を巻き込み,地域や図書館のエンパワーメントにつながる。
著者
石川 敬史
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.187-201, 2018-03-24

移動図書館とは、単に図書を運ぶ自動車ではなく、地域に「図書館」が「移動」する活動である。「館(やかた)」の多様な蔵書や図書館活動のうち、何を選択して運ぶかが重要である。しかし、日本の移動図書館の台数は、東日本大震災以降もほぼ横ばいが続き、豊かな移動図書館活動が確実に広がっているとはいえず、移動図書館担当者が集う場も十分ではない。これからの移動図書館活動の可能性を拓くためにも、まずは現在の移動図書館活動の傾向や特徴や課題を明らかにする必要がある。そこで本研究では、戦後期から行われた複数の移動図書館実態調査を踏まえながら、埼玉県内の公立図書館(1県,63市町村)を対象に、移動図書館活動の実態を調査した。方法は質問紙調査とし、①廃止理由、②積載資料、③巡回方法・ステーション数、④業務内容・人員、⑤今後の展望等に関する設問に回答いただいた。こうした回答と、国内における過去の実態調査の結果とを比較し、今後の移動図書館活動の課題と展望について、①図書館資料の「移動」へ、②図書館員の「移動」へ、③図書館の「移動」への3点の視角から考察した。
著者
大谷 弘 古田 徹也 一ノ瀬 正樹 片山 文雄 石川 敬史 乘立 雄輝 青木 裕子 佐藤 空 野村 智清
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

現代のように多様な価値観や情報が溢れる時代においては、我々の実践的文脈を離れた理性の明証性に訴えるような(通俗的な)個人主義的啓蒙思想は説得力を欠く。個人主義的啓蒙思想の理念に訴えるのでもなく、また権威に盲従するのでもなく、我々の実践に根差した形で思考し行為することの意義を徹底的に考える哲学としての常識哲学は、今日ますますその重要性を高めている。本研究の目的は、これまで十分に検討されてこなかったこの常識哲学の展開を哲学と思想史の両面から明らかにし、その洞察と限界を見極めるとともに、それを通して現代の我々が様々な問題について思考する際に常識の果たすべき役割を明らかにすることである。
著者
宇野 重規 谷澤 正嗣 森川 輝一 片山 文雄 石川 敬史 乙部 延剛 小田川 大典 仁井田 崇 前川 真行 山岡 龍一 井上 弘貴 小野田 喜美雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究の二年目にあたる平成30年度は定例の研究会を続け、通史的な視点の確立と全体的枠組みの決定を目指した。その目的は、共和主義、立憲主義、リベラリズムを貫く座標軸を見定めることにあった。この目的に向けて、まずは18世紀における共和主義と立憲主義の関係について集中的に検討を行った。その成果は、社会思想史学会において分科会「アメリカ政治思想史研究の最前線」を企画し、石川敬史が「初期アメリカ共和国における主権問題」報告することにつながった。この報告は主権論に即して、初期アメリカにおける思想対立をヨーロッパの思想との連続性において捉えるものであった。第二にプラグマティズムとリベラリズムの関係についても考察を進めた。具体的には研究会を開催し、研究代表者である宇野重規が「プラグマティズムは反知性主義か」と題して報告を行なった。これはプラグマティズムをアメリカ思想史を貫く反知性主義との関係において考察するものであり、プラグマティズムの20世紀的展開を検討することにもつながった。さらに小田川大典が「アメリカ政治思想史における反知性主義」と題して報告を行い、アメリカ思想史の文脈における反知性主義について包括的に検討した。さらに上記の社会思想史学会においては、谷澤正嗣が「A・J・シモンズの哲学的アナーキズム」と題して報告を行っている。これは現代アメリカのリベラリズム研究におけるポイントの一つである政治的責務論において重要な役割を果たしたシモンズの研究を再検討するものである。人はなぜ自らの政治的共同体に対して責務を負うのか。この問題を哲学的に検討するシモンズの議論は、アメリカ思想におけるリベラリズムと共和主義の関係を考える上でも重要な意味を持つ。シモンズを再検討することも、本年度の課題である通史的な視点の確立に向けて大きな貢献となった。
著者
青木 裕子 古田 徹也 大谷 弘 片山 文雄 石川 敬史 佐藤 空 野村 智清
出版者
武蔵野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究グループは科研費受給期間中コンスタントに研究成果を発表した。主な活動を四点挙げる。第一に「常識と啓蒙研究会」を年二回開催した。第二に、2018年3月に日本イギリス哲学会第42回研究大会においてセッション「コモン・センスとコンヴェンション―18世紀英米思想における人間生活の基盤」のコーディネイトと研究報告を行った。第三に、2019年10月に武蔵野大学政治経済研究所主催のオール英語の国際シンポジウムをコーディネイトし、本研究グループと米国の研究者が研究報告を行った。第四に、2020年2月には本研究プロジェクトの最終報告として『「常識」によって新たな世界は切り拓けるか』(晃洋書房)を出版した。
著者
石川 敬史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_96-1_116, 2019

<p>一七七六年にイギリス領北アメリカ植民地がヨーロッパ諸国に公表した 「独立宣言」 は、イギリス本国において一六八八年の名誉革命を経て形成された議会主権が植民地にも及ぶという主張に対する異議申し立てであった。</p><p> 一七八三年のパリ条約で独立が承認されたアメリカ合衆国は、条約義務の履行のために統一的な国家を創設する必要に迫られたが、「独立宣言」 に記された革命の原則が、主権を有する国家の設立の足枷となったのである。</p><p> アメリカにおいて主権的国家の設立の最大の障害となったのは、アメリカ入植以来約一六〇年にわたって主権を行使してきた一三諸邦の存在であり、それらを超えて存在する国家主権とは彼らの経験にないものであった。</p><p> 本稿では、ジョン・アダムズ、アレクザンダー・ハミルトン、ジェイムズ・マディソンら、「建国の父たち」 の議論を中心に、初期共和政体における主権国家の創設の試みを検討し、特にアメリカにおいては、司法権力がアメリカ合衆国における主権的機能の担い手となった経緯を明らかにするものである。</p>
著者
宇野 重規 小田川 大典 森川 輝一 前川 真行 谷澤 正嗣 井上 弘貴 石川 敬史 仁井田 崇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究はアメリカ政治思想史を、共和主義と立憲主義という視点から捉え直そうとする試みである。その際に、建国の思想から、19世紀における超越主義とプラグマティズム、20世紀におけるリベラリズム、リバタリアニズム、保守主義へとつながる固有の思想的発展と、マルクス主義やアナーキズムを含む、ヨーロッパからの思想的影響の両側面から検討することが大きな主題であった。3年間の検討をへて、ヨーロッパの王政に対する独特の意識が、アメリカ共和政とそのコモン・センスに対する信頼を生む一方で、政府権力に対し個人の所有権の立場から厳しい制約を課す立憲主義を発展させてきた、アメリカ思想の弁証法的発展が明らかにされた。