著者
栗田 佳代子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.234-242, 1996-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
3

In many areas of educational and psychological research, the t test is among the most popular statistical analysis methods. One of the assumptions for the t test is the independence of observations, which is important but rarely satisfying in real data. The power analysis for the t test also requires the independence assumption. The effects of the violation of this assumption has been extensively studied with respect to the probability of Type I error, but not regarding the power. The purpose of this study is to investigate the biasing effects of non-independence of observations on the power of the t test by means of computer simulation. In this study, the non-independence of observations is defined by the intraclass correlation coefficients within subgroups of observations. The result suggests that the magnitude of the bias can be considerable depending upon the population effect size, intraclass correlation coefficient, and the size of subgroups.
著者
犬塚 美輪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.152-162, 2002-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
22 8

本研究の目的は, 説明文読解方略について, 具体的な認知的活動を表す構造を示し, その併存的妥当性および交差妥当性を検討するとともに, 学年による方略使用の違いを検討することである。調査1では, 読解方略は,「意味明確化」「コントロール」「要点把握」「記憶」「モニタリング」「構造注目」「既有知識活用」の7カテゴリに分類できることが示され, これらのカテゴリは,「部分理解方略」「内容学習方略」「理解深化方略」の3因子のもとにまとめられることが示唆された。これらの因子は, さらに上位の因子である「読解方略使用傾向」のもとにまとめられた。調査2では, 発話思考法を用いて, 上述のカテゴリの併存的妥当性を示した。最後に, 調査3では, 方略構造の交差妥当性が示され, さらに, 学年間の比較から「要点把握」「構造注目」「既有知識活用」において学年による方略使用の違いを見出した。このことから, これら3つのカテゴリに属するような方略が, 年齢によって発達するものであることが示唆された。
著者
大沢 知隼 橋本 塁 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.300-312, 2018-12-30 (Released:2018-12-27)
参考文献数
42
被引用文献数
4 4

本研究の目的は,集団ソーシャルスキルトレーニング(集団SST)の効果を左右する個人差として報酬への感受性に着目し,スキルの遂行に随伴する報酬のひとつである笑顔刺激に対する注意バイアス修正訓練によって,ソーシャルスキルの維持と般化が促進されるかどうか検討することであった。小中学生を,標準的な集団SSTを行う標準群と,集団SSTに加えて注意バイアス修正訓練を行う注意訓練群に振り分けた。ターゲットスキルの獲得がなされなかった可能性のある者を除外し,報酬への感受性の高低群に分けて分析を行った結果,小中学生ともにすべての条件において,獲得されたターゲットスキルが介入1か月後まで維持および刺激般化されることが示された。また反応般化については,攻撃行動は小学生のすべての条件で低減した一方で,向社会的スキルは小中学生ともに注意訓練群においてのみ増加が見られた。このことから,たとえターゲットスキルが維持および刺激般化されたとしても,スキルの種類によっては反応般化が起こりにくいこと,そして反応般化が起こりにくいスキルであっても,注意バイアス修正訓練を併用することで相応の反応般化が促される可能性があることが示唆された。
著者
岡田 涼 解良 優基
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.376-388, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
62

本研究では,「学級の目標構造の知覚は児童・生徒にどの程度共有されているか」という問いについて,級内相関係数に対するメタ分析によって検討した。系統的な文献検索によって,34論文から38研究を収集した(N=44,807)。得られた級内相関係数は120個(熟達目標構造89個,遂行目標構造31個)であった。メタ分析によって推定された級内相関係数の値は,熟達目標構造の知覚が.14,遂行目標構造の知覚が.09であった。それぞれの目標構造の下位側面については,熟達目標構造が.13―.20,遂行目標構造が.05―.14であった。調整変数として,評定の対象(学級,教師)と平均クラスサイズの効果を検討したが,効果はみられなかった。本研究で推定された級内相関係数の値について,マルチレベル分析の適用,他の学級風土研究での級内相関,個人の目標志向性の級内相関,の3点から検討し,最後に目標構造の知覚から教育実践に対する示唆について論じた。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.34-44, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
8 3

本研究は, 学級の荒れと学級の雰囲気の関係を検討することを目的として行われた。公立中学校8校の37学級の中学生1~3年生 (男子544名, 女子587名, 計1, 131名) を対象に,(1) 向学校感情,(2) 問題行動の経験,(3) 学級の荒れ,(4) 不良少年のイメージをたずねる質問紙を実施した。(2) の問題行動の経験尺度から, 生徒を問題生徒, 一般生徒に分け,(3) の学級の荒れ尺度から, 学級を通常学級と困難学級に分けた。そして, 一般学級と困難学級において, 生徒がもつ問題行動や学校生活に対する意識=学級の雰囲気にどのような違いがあるのかを検討した。その結果, 全体として, 通常学級に比べ困難学級の生徒のほうが, 不良少年がやっていることをより肯定的に評価し, 彼らに対する否定感情および関係を回避する傾向が低く, 学校生活にもより否定的な感情を抱いていた。この結果から, 学級が荒れることには, 問題生徒だけでなく, 一般生徒の不良少年や学校生活に対する意識の違いが関係していると考えられた。したがって, 問題行動の防止・解決には, 問題行動をする生徒だけでなく, 問題行動をしない一般生徒に対しても関わる必要性があることが示唆された。
著者
三和 秀平 解良 優基 松本(朝倉) 理惠 濵野 裕希
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.260-275, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
33

子どもが教科に対して認知する利用価値や興味の変化および分化を検討するために,学習塾に通う小学校4年生から中学校3年生を対象に調査を行った。その結果,実践的利用価値では,英語のみ中学校1年生で高くなるが,他の教科では学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。制度的利用価値では,英語では学年が上がると増加する傾向が,理科と社会では学年が上がると低下する傾向がみられた。興味では数学と英語を除き学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。このように,利用価値の認知や興味の変化は,教科や価値・興味の側面ごとに異なることが示された。また,教科間の相関関係を見ていくと,数学-理科のような距離の近い科目の興味は学年が上がっても,一定の相関係数を維持していた。一方で,数学-国語のような距離の遠い科目の興味は学年が上がるにつれて相関が弱くなり,中学校3年次には相関がみられなくなっていた。このことより,学年が上がるにつれて距離の遠い科目の興味が分化することが示唆された。一方で,利用価値では相関係数は低下する傾向にはあるものの,一定の値を保っていた。また,英語に関しては他の教科とは異なった傾向を示していた。
著者
石本 啓一郎 石黒 広昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.333-345, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

文字獲得はこれまで主に文字形態に焦点をあててきたが, 本研究では思考の媒介手段としての文字の機能に焦点をあてる。子どもが産出する物理的な線を総称して「インスクリプション」と呼び, それが想起の媒介手段として機能する発達過程を明らかにすることが本研究の目的である。ヴィゴツキーの「二重刺激の機能的方法」に基づき, 呈示文を後で思い出せるようにインスクリプションの産出を促すメモかき課題を3歳から7歳の80人に実施した。子どもが産出したインスクリプションの形態と, それによる想起成績の関係を検討したところ, インスクリプションは年齢と共に図像, 文字へと順次移行し, 想起手段として役立つようになっていった。さらに, 想起手段として文字を産出した者とそれ以外の者の課題遂行過程を比較検討したところ, 図像利用者は呈示文の意味を記すのに対して, 文字利用者は呈示文の音韻を記そうとしていた。インスクリプションはその形態変化を伴いながら, 媒介手段にほとんどならない多様な線画の状態から, 図像, そして文字に媒介された行為を形成する段階へと順次移行していく。
著者
神谷 哲司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.160-173, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
59
被引用文献数
2 3

本研究では,世界的に自立した消費者であることが求められるようになっている中,ファイナンス効力感尺度の開発を目的とした。インターネット調査によって収集された20代から60代の男女689名を分析対象とした。因子分析の結果,ファイナンス理解,日常的計画性,適切なローン・クレジットの取引,ライフプラン設計,金融商品・高額商品の検討の5次元から構成される29項目が抽出され,各次元の内的整合性,ファイナンスに関する知識,満足感,行動ならびに,特性的自己効力感およびLocus of Controlによる併存的妥当性,再検査法による信頼性の検討で十分な値が得られた。ただし,再調査時のデータによる探索的因子分析結果では,5因子に収束せず,3因子が示された。また,年代,性別,婚姻状況による検討では,すべての尺度で年長世代の方がより得点が高いこと,また,ファイナンス理解,日常的計画性,金融商品・高額商品の検討で性差が見られ,適切なローン・クレジットの取引,ライフプラン設計,金融商品・高額商品の検討については非婚者よりも既婚者の方が高いことが示された。以上より,因子構造の安定性に課題は残るものの,一定程度の妥当性と信頼性が確認された。
著者
古池 若葉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.367-377, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

The purpose of this study was to clarify the kinds of strategies utilized to depict emotions in drawings and their developmental processes. Children aged 5, 6, 7, 9 and 11 (N=187), were asked to create a series of drawings depicting emotions (happy, sad, angry) in trees, and to report on their strategies. Drawings and reports were analyzed in relation to how children operated their knowledge when drawing. Two major findings were as follows.(1) Five kinds of strategies were identified from the reports: facial expressions (e. g., crying face for sad), gestures (e. g., drooping for sad), image scheme (e. g., a small tree for sad), emotion-evoking situations (e. g., a tree injured by a woodcutter for sad), and symbols (e. g., a tree in the rain for sad). These suggested that children utilized their knowledge toward emotions when drawing.(2) Drawings were scored in terms of the reported strategies and combination of the strategies. The results showed that as children grew they added more and more strategies to their repertoire, and depicted emotions while using more and more strategies.
著者
堀野 緑
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.148-154, 1987-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
21 13

The present article focuses on the conce pt of achievement motive which currently presents certain difficulties to investigators due to a lack of consensus on its meaning. Two investigations were undertaken with 447 undergraduate students (237 male, 210 female): (1) to develop a scale for measuring achievement motive in terms of Social Need Achievement (SA) and Personal Need Achievement (PA) and (2) to clarify the relationships between personal traits related to achievement motive. Results indicated that: (1) Challenge Success Need (CSN) should be incorporated into the co ncept of achievement motive: (2) SA has little relation to personal traits while PA is related to self-actualization, and CSN being possibly related to toughness and vitality ; and (3) there are differences between males and females concerning achievement motive. The results, in general, proved the need for a multi-faced definition of achievement motive.
著者
小山 義徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.73-85, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
29
被引用文献数
6 1

英語を外国語として学ぶ日本人学習者を対象に, 英単語の学習方略が英語の文法・語法上のエラー生起に与える影響を検討した。研究1では, 半構造化面接を行って収集した項目をもとに高校生182名・大学生84名を対象に調査を行い英単語学習方略尺度を作成した。研究2では, 学習者が英語のエラーを犯す頻度を測定するために, 高校生157名を対象に調査を行い英語の文法・語法エラーテストを作成した。研究3においては, 研究1, 2で作成した尺度を用いて高校生123名と大学生301名を対象に, 英単語学習方略がエラー生起に与える影響を検討した。その結果, 英語と日本語の意味を対にして覚える対連合方略の使用が英語の文法・語法エラーの生起と関連があることが明らかになった。
著者
溝川 藍
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.410-420, 2021-12-30 (Released:2021-12-28)
参考文献数
40
被引用文献数
4

子育てや保育・教育の現場では,子どもにとっての失敗経験に対して,大人が肯定的な言葉かけを行うことがある。先行研究からは,他者の心に関する理解が未発達な子どもほど,失敗場面でのほめ言葉を肯定的に受け入れることが示されているものの,児童期以降の発達的変化に関しては未解明である。本研究では,児童を対象に質問紙調査を実施し(N=455,6―12歳),失敗したにもかかわらず教師からほめられた際の反応について,二次の誤信念理解とエンゲージメント(学習への取り組みの指標)との関連から検討した。その結果,失敗場面でのほめ言葉に対する反応は,年齢が高いほど,また感情的エンゲージメントが低いほどネガティブであることが示された。さらに,ほめ方と二次の誤信念理解と行動的エンゲージメントの二次の交互作用が認められ,失敗場面で「よくできたね」と結果についてほめられた際に,行動的エンゲージメント高群においては,二次の誤信念理解ができない児童ほど,怒り感情を経験しやすいことが示された。これらの結果から,ほめ方やほめる状況だけでなく,心の理解の発達や学習への取り組みの個人差を考慮して言葉かけを行う必要性が示唆された。

2 0 0 0 OA 依存性の研究

著者
江口 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.45-58, 1966-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
113
被引用文献数
1
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.p1-11, 1978-03
被引用文献数
5

本研究は,性質としての性役割が4つの評価次元-個人的評価・社会的評価・男性役割期待・女性役割期待-においてどのように評価されているかを明らかにするとともに,その役割観の違いには,どのような要因が関与しているかを検討することを目的とした。そのため,20代~50代の既婚男女約800名が調査対象として選定された。また,性役割測定のためのスケールが考案され,それは因子分析によって抽出された3つの役割要素(Masculinity, Humanity, Femininity)から構成されている。結果は以下のようにまとめられる。 1) 個人的評価においても社会的評価においても,女性役割より男性役割にはるかに高い価値が付与されており,男性役割の「優位性」が確認された。しかし,両評価次元のいずれにおいても,Humanityに最も高い価値が付与されるという事実を見逃すことは出来ない。 2) 男性役割期待は社会的望ましさと一致するが,女性役割期待は社会的望ましさとは一致しない,あるいはそれとは独立した形での期待が存在する。 3) 男性役割期待,女性役割期待のいずれにおいても,性別による役割期待の分化が明瞭になされている。しかし,性に規定された役割のみが期待されているわけではなく,男性にも女性にもHumanityという要素が多く望まれている。 4) 女性の側における自己の価値意識と周囲からの役割期待の不一致は,多くの役割葛藤を生んでいることを示唆している。 5) Masculinity, Humanity, Femininityという性役割における3つの要素の関係(三角形仮説)は,M型,H型,F型の役割観を持つ個人間の関係にも妥当であることが確認された。 6) 3型の各々,の役割観を持つ者の特徴として,F型の者は対人的価値指向が,M型の者は社会的価値指向が,H型の者は個人内価値指向が強い。 7) 男性および女性の役割観を大きく規定する要因群は,学歴・職業などのデモグラフィックな要因,役割形態に関する要因,および自己の価値観を反映する要因であった。
著者
内田 伸子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.p211-222, 1982-09

学術雑誌論文
著者
遠藤 由美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.157-163, 1992-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

Traditionally, discrepancies between positive ideal-self and real-self have been associated with low self-esteem. The basic idea of general positiveness of real-self is considered an index of self-esteem. But Rosenberg (1965) emphasized two different meanings, that is, ‘good enough’ and ‘very good’ being involved in self-esteem. His self-esteem scale favored the former. In the present study, it was hypothesized that not a general positiveness, but a personalized positiveness together with a non-negativeness were correlated with self-esteem (Rosenberg). Personalized standard were defined as high rating scores of positive and negative ideal selves. The results of the present study supported the hypothesis, especially in a negative ideal-self. It was suggested that self-esteem was more a function of distance how far I am from the person who I won't to be.
著者
栗原 慎二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.243-253, 2006-06-30
被引用文献数
1

本研究は,摂食障害で不登校に陥った女子高校生に対して教員が支援チームを作って関わり,無事卒業していった事例を通じて,学校教育相談における教員によるカウンセリングやチーム支援のあり方について検討することを目的とした。本事例の検討を通じてチーム支援の有効性が確認されるとともに,以下の点が示唆された。(1)学校や教員の特性を生かしたチーム支援の有効性と可能性(2)学校カウンセリング独自の目標設定と方法選択の重要性(3)コアチームのメンバー構成の重要性,(4)学校における秘密保持のガイドライン作成の必要性。
著者
越中 康治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.479-490, 2005-12

本研究では, 挑発的攻撃, 報復的攻撃, 制裁としての攻撃の各タイプの攻撃行動に関する幼児の認知を比較検討した。4, 5歳の幼児を対象として, 主人公が他児に対して各攻撃行動を示す場面を紙芝居で提示し, (1)主人公が示した攻撃行動の善悪判断, (2)攻撃行動を示した主人公を受容できるかの判断, (3)幼児が日常, 主人公と同様の攻撃行動をするかの報告を求めた。結果として, (1)幼児は挑発的攻撃は明らかに悪いことであると判断するものの, 報復的攻撃及び制裁としての攻撃に関しては善悪判断が分かれており, 全体として良いとも悪いともいえないという判断を示した。また, (2)幼児は挑発的攻撃を示す主人公を明らかに拒否していたが, 報復的攻撃及び制裁としての攻撃を示した主人公とは一緒に遊んでもよいと判断した。さらに, (3)挑発的攻撃及び報復的攻撃に関して, ほとんどの幼児は日常示すことはないと回答したものの, 制裁としての攻撃に関しては示すと回答した者も少なからずいた。本研究から, 報復的公正に関する理解は4, 5歳児にも認められることが明らかとなった。幼児が報復や制裁のための攻撃を正当化する可能性が示唆された。
著者
外山 美樹 湯 立
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.295-310, 2020-09-30 (Released:2021-02-18)
参考文献数
45
被引用文献数
4

本研究の目的は,小学4―6年生646名を対象に1カ月間の短期縦断研究を行い,いじめ加害行動の抑制に関連する個人要因としていじめ観ならびに罪悪感の予期を,学級要因として学級の質を取りあげて検討することであった。本研究の結果より,いじめを根本的に否定する考え方を有している小学生は,いじめ加害行動の抑制につながりやすいことが示された。一方で,罪悪感の予期は,いじめ加害行動の抑制につながらなかった。さらに,友達関係雰囲気,学級雰囲気,承認雰囲気,いじめ否定雰囲気といった子どもが所属している学級集団の質の要因が,いじめ加害行動の抑制につながることが示された。最後に,Time 1の加害行動とTime 2の加害行動の関連の強さが学級集団の質によって調整されることが明らかとなり,学級集団の雰囲気が良い学級においていじめ加害行動が多くみられる児童は,その傾向が長期化しやすいことが示された。いじめの問題を取りあげる際には,教室環境の要因を加味し,個人要因と教室環境の要因のダイナミクスを検討する必要性が示唆された。
著者
道田 泰司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.193-205, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

本研究の目的は, 大学での半期の授業の中でさまざまな形で質問に触れる経験をすることが, 質問に対する態度や質問を考える力に効果を及ぼすかどうかを検討することであった。授業では毎回, グループで質問を作ること, 個人で質問書を書くことに加え, 半期に1回グループで発表させることで, 質問することが必要となる場面を作った。授業初回と学期の最後に, 質問に対する態度の自己評定と, 文章を読んで質問を出す課題を行った。2年度に渡る実践の両方において, 学期末の調査で質問に対する態度が全般的に向上しており, 質問量も増加していた。質問量の増加は, 事実を問う質問や意図不明の質問によるものではなく, 高次の質問の増加である可能性が示唆された。その変化がどのように生じたのかを知るために, 質問量と質問態度それぞれについて, 事前テストでの成績によって学生を4群に分けて事後テスト結果を検討した。その結果, 事前テスト上位群以外の学生の質問量および質問態度が向上していることが示された。以上の結果より, さまざまな形で質問に触れる経験をさせた本実践の効果が示された。