著者
高田 利武
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.339-348, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3 14

In order to clarify the dominant mode of self-knowledge formation of Japanese college students, their favorite self-evaluative standards were compared with those of Japanese middle ages (Study I) and with American students (Study II). Thier individual difference were also examined (Study III). Respondents were asked to evaluate twelve aspects of their self-concept. They were then required to indicate what standards they used to evaluate themselves: (a) social comparison with similar others,(b) social comparison with dissimilar others, and (c) temporal comparison. In Study III, respondents also evaluated to what extent they agreed with an independent or interdependent construal of self (Markus & Kitayama, 1991). It was found that Japanese students used social comparison with similar others as standards more than middle ages (Study I) or American students (Study II), especially on the social and physical aspects of self-concept. The tendency that these aspects formed an undifferentiated cluster regarding the self-evaluative standard was dominant in Japanese students. Furthermore, these characteristics were found remarkably higher among those who strongly agreed with the interdependent construal of self (Study III).
著者
若松 養亮 大谷 宗啓 小西 佳矢
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.219-230, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
3

本研究は, 小・中学生を対象に, 学習意欲と「現在の学習活動が自身の成功や幸福の実現のために有効であるとの認知」(学習の有効性認知) との関係について検討した。学習の有効性認知は,「学習内容や活動の意義や正統性を認める (a)」,「将来の職業や生活で役立つ (b)」,「進学や就職の試験で役立つ (c)」,「有効性を認めない (d)」という4カテゴリーを設定した。分析の結果, 小・中学生どちらにおいても,(1) 学習の有効性認知と学習意欲の間には正の関係があること,(2) 各カテゴリーの有効性認知を強く有する人を比較すると, a, b, c, dの順で学習意欲が高いこと,(3)「好きな教科の多少」で統制しても, 学習意欲は有効性認知a, b, c, dの順に高いこと, が明らかとなった。
著者
岡本 直子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.199-208, 1999-06-30

本研究の目的は, 1)親密な他者の存在と成功恐怖との関係, 2)成功恐怖の性質における性差, 3)性役割観すなわち, 男女が自分の性別に対する社会の期待をいかに認知しているかという「役割期待の認知」や, 成功者にどの様な性役割像を抱くかという「成功者イメージ」と, 成功恐怖の出現との関係, の3点を検討することである。大学生を対象に, I)性・対人関係の違いによる成功恐怖の出現の仕方を調べるための, 刺激文を与えそれに関する質問に自由記述で回答させる投影法的方法の課題, 2)役割期待尺度, 3)成功者に対するイメージ尺度, の3つからなる質問紙を配布し, 302名(男性149名, 女性153名)から有効なデータが得られた。データの分析結果から, 男性は競争場面において, 親友や恋人など,自分と親密な相手を負かして成功した場合に成功恐怖が高くなること, 一方, 女性は恋人を負かす場合に成功恐怖が高まることがうかがわれた。また, 女性が, 成功は女性としての伝統的なあり方に反するものであると感じる場合に成功恐怖を抱く傾向にあるのに対し, 男性は, 「失敗の恐れ」をもつ場合に成功に対して逃げ腰になる, というような, 男性と女性との成功恐怖の性質の違いが示された。また, 女性は, これまでの研究で男性的であるとされていた活動的な特性をもつことを望ましくないと評価すればするほど, 成功恐怖を抱きやすいことがうかがわれた。一方男性は, 望ましい男性的役割とはかけ離れたイメージを成功者に抱く場合に成功恐怖を抱きやすいことが示唆された。
著者
道田 泰司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.193-205, 2011
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 大学での半期の授業の中でさまざまな形で質問に触れる経験をすることが, 質問に対する態度や質問を考える力に効果を及ぼすかどうかを検討することであった。授業では毎回, グループで質問を作ること, 個人で質問書を書くことに加え, 半期に1回グループで発表させることで, 質問することが必要となる場面を作った。授業初回と学期の最後に, 質問に対する態度の自己評定と, 文章を読んで質問を出す課題を行った。2年度に渡る実践の両方において, 学期末の調査で質問に対する態度が全般的に向上しており, 質問量も増加していた。質問量の増加は, 事実を問う質問や意図不明の質問によるものではなく, 高次の質問の増加である可能性が示唆された。その変化がどのように生じたのかを知るために, 質問量と質問態度それぞれについて, 事前テストでの成績によって学生を4群に分けて事後テスト結果を検討した。その結果, 事前テスト上位群以外の学生の質問量および質問態度が向上していることが示された。以上の結果より, さまざまな形で質問に触れる経験をさせた本実践の効果が示された。
著者
奥村 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.403-413, 2008-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
5 8

人は, 自分の怒りを恥ずかしいと感じたり, 自分の悲しみを大切なものと思うなど, 自己の情動に対して評価を抱くことがある。このような「自己が経験した情動に対する肯定・否定の価値づけを伴う評価」について, 本研究では「情動への評価」として取り上げ, 大学生ら558名に質問紙調査を行って検討した。分析1で, 情動への評価を測定する尺度を作成し, 信頼性・妥当性の検討を行った。この情動への評価尺度は,「他者懸念」「必要性」「負担感」の3つの下位尺度から構成された。次に分析2で, 情動への評価と情動認識困難および情動言語化困難との関連について検討した。その結果, 情動への否定的評価 (「他者懸念」と「負担感」) は, 認識困難・言語化困難傾向と正の関連を持っていた。これにより, 情動への評価は, 情動がシグナルとして適応的に機能するか否かに重要な役割を担っていることが示唆された。
著者
辻 和子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.43-47, 1973-03-31

要約本研究は中学生を対象とするカウンセリングにおいて,治療者の態度がどのように治療に影響を及ぼすかを研究したものである。中学生を対象にしたのは,中学生がプレイセラピーからカウンセリングに移った過渡期にあたり,プレイセラピー的な面を多く残し,大人のカウンセリングと比べると異質な面があると思われたからである。治療者の態度は,治療者の「関心の無条件性」,「関心のレベル」,「自分を知られることへの抵抗のなさ」,「共感的理解」,「自己一致」に分けられた。これらの要因に対する治療者自身あ認知とクライエントの認知が,本研究のために作成された質問紙で測定された。その結果,本研究の中学生のカウンセリングにおいては,治療者の「関心の無条件性」が最も治療効果と関係が深かった。これは,治療者が無条件的な関心をもっているとき,中学生のクライエントは脅威を感じずにどんな種類のことも自由に表現でき,それが治療効果に影響を及ぼすためと思われる。一方,この要因は治療者の熟練度とは関係がなく,例えば価値観だとか1お互いの好き嫌いといった,訓練によって得られないような種類のものと考えられる。したがって,どのような治療者がどのようなクライエントに無条件的になれるかを考えることは意味があるであろう。more expertな治療者はless expertな治療者よりもクライエントをより共感的に理解することがわかった。これは「共感的理解」が「関心の無条件性」とは逆に,治療者が訓練によって獲得しやすいものであることを示すと思われる。
著者
水間 玲子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.43-53, 2003-03
被引用文献数
1

自己嫌悪感にはその体験から自己形成に向かう可能性があると指摘される。本研究では,自己嫌悪感を体験する場面において,否定的な自己の変容を積極的に志向する態度を"変容志向"とし,それと他の変数との関係について検討した。変容志向は日頃の自己内省によって可能となること,未来イメージが肯定的なことと関連すること,同時に,それによって自己嫌悪感にとらわれる可能性もあること,また,日常の自己嫌悪感体験頻度によっても促進されること,を仮説として設けた。質問紙調査を行い,それらについて検討した。調査対象は大学生・大学院生255名(男子128名,女子127名)であった。その結果,自己嫌悪感場面における変容志向は,普段から自己内省の程度が低い者においては他よりも低いこと,未来イメージが肯定的である場合にも高くなっていることが明らかにされた。また,自己嫌悪感体験頻度が高い者において変容志向の程度も高くなっていたが,変容志向によって自己嫌悪感へのとらわれの程度が高まるわけではないようであった。
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.445-455, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

本研究の目的は, 学級規模の大小によって児童の過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討することである。対象児童を小学校2年生, 対象教科を国語とし, 全国の公立小学校のうち単式学級が2以上ある学校に属する児童を母集団とした児童数の大きさに応じた確率比例抽出により抽出された調査対象校のうち, 国語の少人数指導を実施した学校9校を外した48校を分析対象とした。調査対象校の児童に対して調査期間中2回(7月と12月)の学力検査を実施し, 2回目の学力検査の正答数を目的変数, 1回目の学力検査の正答数と学級規模を説明変数とした階層的線形モデルによる分析を行った。その結果, 過去の学力が平均程度であった児童で比較すると, 小規模学級に在籍した児童の方が後続の学力が高いことが示唆された。
著者
植木 理恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.277-286, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
5 5

本研究は,「自己モニタリング方略」の重要性および児童生徒への定着の困難さを問題として掲げ, これを解決するための介入方法の提案を目指したものである。一連の実験の結果,(1) 方略志向の学習観を促すだけでは自己モニタリング方略の使用には効果がないこと,(2) 方略知識を教授することによって, 自己モニタリング方略は一時的に使用されるようにはなるが, 教授後3ヵ月以上経過すると使用されなくなること, そして,(3) 方略知識と推論方略を併せて教授すれば, 7ヵ月後の時点においても自己モニタリング方略はよく記憶され使用され続けること, が明らかになった。
著者
帆足 喜与子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-74,126, 1961-08-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

要求水準とパーソナリティとの間に関係ありと認められた事柄は次のとおりである。(1) 安定感のあるものは, 成功すれば水準を上げ, 失敗すれば下げるというふうに適応的反応をする。(2) 失敗をまともにうけ入れるものも適応的反応をする。(3) 自分の地位に満足するものも適応的反応をする。(4) 妥協的, 協調的のものは場面によって設定態度を変化させる。(5) 競争心の強いものは目標を固執する傾向にある。(6) 本実験においては, 常にパーソナリティ評点のよいものの方がGDSが大きかった。個人について設定態度が比較的固定しているところから見ても, また特定のパーソナリティと特定の設定態度との関連性の存在から見ても, 要求水準には個性が相当にあらわれるといいうる。
著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09
被引用文献数
7

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を目的として高まるのではないかと考えられた。
著者
濱口 佳和 藤原 健志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.59-75, 2016
被引用文献数
6

本研究は, 高校生用の自記式能動的・反応的攻撃性尺度の作成, 能動的・反応的攻撃性と身体的攻撃・関係性攻撃との関連, 能動的・反応的攻撃性類型の心理・行動的特徴を明らかにすることを目的として行われた。高校1~3年生2,010名に対して, 中学生対象に開発された自記式能動的・反応的攻撃性尺度を実施し, 探索的因子分析を実施したところ, 中学生同様の6因子が得られた。検証的因子分析の結果, 仲間支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執からなる能動的攻撃性と報復意図と怒りからなる反応的攻撃性の斜交2因子モデルが高い適合度を示した。6下位尺度については, 攻撃肯定評価でやや低いものの, 全体として高い信頼性が得られ, 情動的共感尺度や他の攻撃性尺度等との相関により併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 性別と能動的・反応的攻撃性によって, 身体的攻撃の約40%, 関係性攻撃の約30%が説明されることが明らかにされた。クラスター分析の結果, 能動的攻撃性・反応的攻撃性共に高い群, 反応的攻撃性のみが高い群の2種類の攻撃性の高い群が発見され, Crapanzanoの重篤モデルを支持する結果が得られた。
著者
藤野 京子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.403-411, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

少年鑑別所に入所中の221名の男子少年を対象に, 最近一緒にいる友人一人を思い浮かべさせ, その交友関係について調査した。まず, 大半の少年が, その交友について, 親をはじめとする周囲が認めており, 今後もその関係を断つつもりがないことが示された。その友人と一緒にいる理由については,「信頼・親和」,「被受容・被理解」,「不快回避」の3因子が抽出され, その友人との実際の付き合い方については, 「内面共有」,「防衛」,「享楽」,「独立」の4因子が抽出された。これらの回答結果からは, その交友関係が, うわべを取り繕ったその時その場限りのものではないことが示された。また, これらの因子間の関係を分析したところ, 「内面共有」には「被受容・被理解」及び「信頼・親和」が,「独立」には「信頼・親和」及び「不快回避」が影響を及ぼしていることが明らかにされた。加えて, それぞれの因子に, 非行少年自身の年齢, 非行歴, 加えて, 友人の非行歴がいかに影響を及ぼしているかについても検討した。
著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.193-205, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本研究は, 注意欠陥/多動性障害児・者(以下, AD/HD者)の自己認識について, 自分のパフォーマンスに影響を与えた要因をどのように自身がとらえているのかという原因帰属スタイルの様相に焦点をあてた研究動向について検討することを目的とした。原因帰属は自己統制感や効力感に関する自己認識のひとつの側面であり, 抑うつ状態などの二次障害への心理的支援において重要な知見を提供している。研究方法としては, 呈示された項目についてどのような原因帰属をするかを対象者自身が評定していく質問紙による調査と, 対象者がある課題を実際に遂行しそのパフォーマンスについて自分自身がどのような原因帰属をするかを評定する実験的調査とに分類された。原因帰属については統制性, 安定性, 特殊性, 内在性の複数の次元にわたり検討されており, 定型発達者との比較検討の結果, 児童・思春期のAD/HD者では, 失敗状況に対しては安定的・全体的および外在的原因帰属スタイルがみられ, 成人期では安定的・全体的・内在的な原因帰属スタイルがみられたことが共通して示された。最後に, AD/HD者にとっての適応的な原因帰属スタイルと学習性無力感との関連が議論された。
著者
髙橋 高人 松原 耕平 中野 聡之 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.81-94, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,中学生における認知行動的な抑うつ予防プログラムの効果を標準群との比較,さらに2年間のフォローアップ測定から検討することであった。介入群を構成した51名の中学1年生が,プログラムに参加した。標準群は,中学生1,817名から構成した。介入内容は,全6回の認知行動的プログラムから構成した。プログラムの効果を測定するために,子ども用抑うつ自己評定尺度,社会的スキル尺度,自動思考尺度が,介入前,介入後,フォローアップ測定1(1年後),2(2年後)で実施された。結果から,抑うつについて介入前と標準群1年生の比較では差が見られなかったのに対して,介入群のフォローアップ測定1と標準群2年生の比較では,有意に介入群の抑うつが低いことが示された。また,社会的スキルの中のやさしい言葉かけとあたたかい断り方,ポジティブな自動思考に関して,介入前よりも介入後,フォローアップ測定において向上することが示された。ユニバーサルレベルの抑うつ予防プログラムが,中学生に対して効果的な技法であることが示唆された。
著者
浅野 志津子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.141-151, 2002-06-30
被引用文献数
6

生涯学習に参加し続けるためには,学習に意欲的に取り組む「積極的関与」のみならず,長期的に学習を続けようとする「継続意志」も必要となる。研究1では,これら2つがどのような要因によって促進されるのかを学習動機を中心に検討する。放送大学と一般大学学生等計879名に質問紙調査を行い,「積極的関与」「継続意志」「学習動機(5尺度)」の各尺度を構成した。「積極的関与」「継続意志」は,放送大学学生が一般大学学生よりも高く,生涯学習参加における重要な側面であることが示唆された。重回帰分析の結果,「積極的関与」を強化する主な学習動機は「特定課題志向」であり,「継続意志」に関しては「自己向上志向」と「特定課題志向」であった。研究2では,これらの学習動機がどのように生涯学習を促進するようになったのかその過程を検討するために高齢の放送大学学生13名に面接を行った。その結果,「自己向上志向」の学習動機は青少年期の学習不充足感に端を発し,仕事上の挑戦,すぐれた人との比較を経て強められ「継続意志」につながり,「特定課題志向」は青少年期の学校または仕事外で課題に取り組む経験を経て,現在の課題に対する「積極的関与」を高めている傾向が示唆された。
著者
小野田 亮介 鈴木 雅之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.433-450, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
48
被引用文献数
5

本研究では,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響について,影響の論題間差と評価方法による差異に着目して検討した。アーギュメント構造としては,主張への賛成論だけを示す「反論なし文」,賛成論に加えて反論を想定する「反論文」,賛成論と反論想定に加えて再反論を行う「再反論文」の3構造を設定した。また評価方法としては,1つの論題について構造の異なる3つの意見文を相対的に評価する「相対評価法」と,1つの論題について単一の構造の意見文のみを評価する「独立評価法」の2つを設定した。実験1では,大学生41名を対象に相対評価法による説得力評価を求めた。混合効果モデルによる分析を行った結果,論題にかかわらず再反論文は他の構造の文章よりも高く評価され,反論文が他の構造の文章よりも低い評価を受けた。実験2では,大学生123名を対象に独立評価法による説得力評価を求めた。その結果,平均すると,アーギュメント構造による説得力評価の差異はみられなかったが,アーギュメント構造の影響の方向性は論題によって異なっていた。以上より,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響は論題や評価方法によって異なることが示唆された。
著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30
被引用文献数
4

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接(AAI)から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法(AQS)により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
坂上 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30
被引用文献数
4 3

本研究では,人格特性と認知との関連を検討するため,大学生169名を対象に,個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として,5つの個別感情(喜び,興味,悲しみ,怒り,恐れ)の日常の経験頻度を尋ねた。また,感情解釈の実験を行う直前に,被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては,被験者に,人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し,各図版について,状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ,喜びを除く全ての感情特性と,それぞれに対応した感情の解釈との間に,正の相関が認められた。すなわち,被験者は,自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また,特定の感情(悲しみと怒り,恐れと悲しみ,恐れと怒り)については,感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は,感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより,感情特性は,感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
島田 英昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.296-306, 2016
被引用文献数
3

本研究は, 従来の教材研究が精読を前提とした内容理解を目指していることに対し, 読解初期の動機づけ効果に着目した。典型的な教材の構成要素であるタイトル・サブタイトルの有無, 挿絵・写真の有無, および, 挿絵・写真のモノクロ・カラーを操作した防災教材を作成した。教材の2秒間の一瞥の後, 動機づけと主観的わかりやすさについて, 5段階評定を求めた。その結果, 上記の構成要素は, いずれも動機づけ, 主観的わかりやすさの向上に寄与していた。また, 挿絵・写真・カラーの効果が, タイトル・サブタイトルに比較して大きかった。動機づけ効果のプロセスについて共分散構造分析により分析した結果, 挿絵・写真・カラーについては主観的わかりやすさを介さない感性的要因による動機づけの向上が大きかったが, サブタイトルについては主観的わかりやすさを介する認知的要因による動機づけの向上が大きく, タイトルについてはほぼ同等であった。