著者
中村 玲子 越川 房子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.129-142, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3

いじめはその深刻さが指摘されており, 学校現場での対応が求められている問題である。いじめの減少困難や助長の要因として傍観者が挙げられており, 傍観者層の多寡は, 被害者の多寡と最も強い有意な相関を示すことが見出されている(森田, 1990)。本研究では中学生を対象としたいじめの抑止を目的とする心理教育的プログラムを開発し, その効果の検討を行った。プログラムは, いかなるいじめも容認されないとする心理教育と, いじめへの介入スキルの学習から構成された。プログラムの所要時間は授業1回分であり, 対象校生徒の実情に合った内容を用いての, ソーシャル・スキルス・トレーニングの技法に基づくロール・プレイングを含むものであった。事前・事後分析の結果, 本研究で開発されたいじめ抑止プログラムは, いじめ停止行動に対する自己効力感といじめ否定規範の向上, いじめ加害傾向の減少に一定の効果をもつことが示された。また, いじめの抑止のためには, いじめ否定規範の高い生徒にはいじめに介入するためのスキルの学習が, いじめ否定規範の低い生徒にはスキルの学習と同時にいじめ否定規範を高める指導・支援を行うことが有効である可能性が示された。
著者
岡田 いずみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.287-299, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
2

学習者の学習意欲を高めることは難しい。本研究は, 学習者の学習意欲を高めるために介入研究を行い, その効果を検討したものである。学習意欲と関連の深いものに学習方略がある。学習意欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなされることが多かった。それに対して, 本研究では「方略を教授されることで意欲が高まる」という仮説の下, 介入を行った。対象は高校生であり, 内容は英単語学習であった。英単語学習のなかでも, 特に体制化方略を取り上げた。研究1では授業形態で介入を行った結果, 学習方略の教授により, ある程度は学習意欲が高まったことが示されたが, 十分とは言えなかった。そこで研究2では, 方略の学習がより確実なものになるよう, 教材を改訂し, 介入を行った。また, 研究2では, 個人差を捉えるために検討項目として, 方略志向という学習観と, 英単語に対する重要性の認知が学習意欲の変化に及ぼす影響を検討した。その結果, 方略志向の高低や, 英単語に対する重要性の認知にかかわらず, 学習意欲が高まったことが確認された。
著者
田中 瑛津子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.23-36, 2015 (Released:2015-08-22)
参考文献数
24
被引用文献数
4 10

理科における種類の異なる興味を弁別可能な尺度を作成し, それぞれの興味の特徴について検討することを目的とし, 小学5年生から高校1年生まで1,998名を対象とした質問紙調査を行った。結果, 理科に対する興味は「自分で実験を実際にできるから」などの項目からなる「実験体験型興味」, 「実験の結果に驚くことがあるから」などの項目からなる「驚き発見型興味」, 「わかるようになった時うれしいから」などの項目からなる「達成感情型興味」, 「色々なことについて知ることができるから」などの項目からなる「知識獲得型興味」, 「自分で予測を立てられるから」などの項目からなる「思考活性型興味」, 「自分の生活とつながっているから」などの項目からなる「日常関連型興味」, 以上6つに分類されることが示された。また, 「思考活性型興味」や「日常関連型興味」は, 「意味理解方略」や「学習行動」と関連のある重要な種類の興味であるにもかかわらず, どの学年においても他の種類の興味に比べて低い, ということが示唆された。
著者
濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.248-264, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
54
被引用文献数
5

本研究は自記式能動的・反応的攻撃性尺度(大学生用: SPRAS-U)を作成し, 因子構造, 信頼性, 妥当性を検討するとともに, 身体的攻撃, 言語的攻撃, 関係性攻撃との関連を明らかにすることが目的とされた。SPRAS-U原版は, 能動的攻撃性として他者支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執, 反応的攻撃性として, 易怒性, 怒り持続性, 怒り強度, 報復意図, 外責的認知の合計9下位尺度, 合計75項目から構成された。1短大・5大学の学生616名(男子294名, 女子322名)から妥当性検討の尺度が異なる2種類の質問紙に対する回答を得た。因子分析の結果, 想定された9因子が得られ, α係数による信頼性は7下位尺度で.70以上の値を示し, 概ね使用可能な範囲にあった。反応的攻撃性の下位尺度の殆どがBAQの敵意や怒り喚起・持続性尺度, FASの報復心と中程度以上の正の有意相関が見られ, 能動的攻撃性の各下位尺度は一次性サイコパシー尺度やFASの支配性と中程度の正の有意相関を, 共感性とは負の有意相関を示し, 併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 身体的攻撃は主に反応的攻撃性と, 言語的攻撃は主に能動的攻撃性と, 関係性攻撃は能動的・反応的両攻撃性の下位尺度と有意な関連を示した。
著者
中村 玲子 越川 房子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.129-142, 2014
被引用文献数
3

いじめはその深刻さが指摘されており, 学校現場での対応が求められている問題である。いじめの減少困難や助長の要因として傍観者が挙げられており, 傍観者層の多寡は, 被害者の多寡と最も強い有意な相関を示すことが見出されている(森田, 1990)。本研究では中学生を対象としたいじめの抑止を目的とする心理教育的プログラムを開発し, その効果の検討を行った。プログラムは, いかなるいじめも容認されないとする心理教育と, いじめへの介入スキルの学習から構成された。プログラムの所要時間は授業1回分であり, 対象校生徒の実情に合った内容を用いての, ソーシャル・スキルス・トレーニングの技法に基づくロール・プレイングを含むものであった。事前・事後分析の結果, 本研究で開発されたいじめ抑止プログラムは, いじめ停止行動に対する自己効力感といじめ否定規範の向上, いじめ加害傾向の減少に一定の効果をもつことが示された。また, いじめの抑止のためには, いじめ否定規範の高い生徒にはいじめに介入するためのスキルの学習が, いじめ否定規範の低い生徒にはスキルの学習と同時にいじめ否定規範を高める指導・支援を行うことが有効である可能性が示された。
著者
佐藤 愛子 岩原 信九郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.232-235,254, 1962-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
5

某県の高校入学者の女子について,入学試験,入学時の知能検査結果,および入学後の学業成績間の相関を求めたところ,入試と学業の相関がきわめて高く,また学業成績は学年がすすんでもあまり相対的位置をかえないにもかかわらず,知能と成績との相関は意外に低く,しかも学年のすすむにつれて低下の傾向を示した。このことは入学後の成績の予言には入試のもつ重みはきわめて高いが,知能の重みは無視できるほど低いことと,学業成績は年とともに知能の因子を含む割合が減少する傾向のあることを示している。この点,大学入学のときの学科試験や進学適性検査のもつ意味といちじるしく異なる。なぜなら大学の場合はこれら2つの変数は入学に適さないものを落すという意味はあるかもしれないが,入学後の成績を予言することは非常に困難であるからである。
著者
都筑 学
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-86, 1982-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
136
被引用文献数
6
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001-06-30

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を, (1)心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと, (2)心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで, (2)に重点を置いて概観する。(2)の立場からの研究の課題は, さらに, a.心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b.そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb.のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
竹下 浩 奥秋 清次 中村 瑞穂 山口 裕幸
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.423-436, 2016
被引用文献数
4

近年日本の製造業で生産技術者の育成が急務となっており, 高等教育でも「ものづくりPBL」の取り組みが増加している。しかし実際のチームワーク形成過程は解明されておらず, 効果的な授業評価法を確立するために, その解明が求められている。そこで本研究は, ものづくり型PBLのチームワーク形成プロセスを説明・予測できる理論モデルを提示する。6校13名からデータを収集, 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果, 42の概念が生成された。ものづくり型PBLにおけるチームワークの形成プロセスは, ものづくり・チーム活動・スキル蓄積という3つの過程で構成されており, 主な特徴は以下の3点である。(1) 製作段階ごとにスキルが試される結果, ものづくり過程はチームワーク形成過程に強制力を有していた。(2) チーム活動課程は, サブチーム(製作物の専攻科別担当チーム)の形成から発達し, 協業あるいは孤島化へと至る。(3) 成員はものづくりを目的としてチーム活動する一方, チーム活動の派生物としてスキルを習得していく。考察では, 先行研究では説明できない点を議論する。さらに, 高等教育や企業の人材育成への示唆を提示する。
著者
丸野 俊一 高木 和子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-26, 1979-03-30
被引用文献数
6

本研究は,基本的な物語のシェマがどの年齢段階でどの程度できあがっているのか,また認知的枠組形成のための先行オーガナイザー情報が後続する物語の理解・記憶にどのような効果をもたらすのかを検討するために企画された。被験者は平均年齢6才2か月の保育園児42名と9才2か月の小学3年生42名である。刺激材料としては,33文からなり,7つの事象を含んでいる「ぐるんぱのようちえん」という短い物語が用いられた(TABLE1)。被験者は各年齢とも無作為に,順序提示群,ランダム提示群,統制群の3条件にふりわけられた。順序提示群とは,7つの事象を絵にしたものを先行オーガナイザー情報として物語の展開通りに被験者に提示される群である。ランダム群とは7つの絵画情報がランダムに提示される群であり,統制群とは,絵画情報が与えられない群である。 実験は3つの部分から成っている: (a)絵画的先行オーガナイザーによる枠組形成と物語の提示のセッション,(b)理解テストおよび事象の自由再生テストを含む直後テスト,(c)事象の自由再生のみを3目後に行う遅延テスト。(a)においては枠組形成後,"これから象さんの話をします。後でどんな話であったか私に話せるようによくおぼえて下さい」という教示のもとで物語が話された。主な結果は次のとおりである。 (1) 展開部,終末部および因果関係の叙述での6才児の得点は9才児の得点とほぼ同じであったが,9才児は6才児よりも開始部の理解がすぐれていた(FIG. 1)。 (2) 事象の初頭と新近性部位での再生率は中間部位の再生率よりも高いという系列位置の主効果が有意であった。さらに直後再生における初頭と新近性部位における再生率(それぞれ.97と.95)は,遅延再生における再生率(それぞれ.95と.93)と非常に類似していた(FIG. 2)。 (3) 9才児は6才児よりも事象の継続的順序性をよりよく再生した(TABLE4)。 (4) 直後テストにおける順序提示群での順序性把握の得点は,ランダム提示群や統制群よりも優れていたが,遅延テストでの3群間の成績には差異はみられなかった(FIG. 4)。
著者
渡部 雪子 新井 邦二郎 濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-27, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究は, 親からの期待の受け止め方を測定する尺度を作成し, 期待を感じる程度を統制した上で期待の受け止め方と内的適応との関連を検討することであった。研究1において, 積極的受け止め, 負担的受け止め, 失望回避的受け止めを含む3因子構造から構成される親の期待に対する子どもの受け止め方尺度(受け止め方尺度)が作成された。中学生383名のデータを分析したところ, 一定の信頼性と妥当性が確認された。研究2では, 中学生312名を対象として質問紙を実施し, 期待を感じる程度および交互作用を統制した上で親の期待の受け止め方と適応の関連を階層的重回帰分析を用いて検討した。本研究の結果から, 期待を感じる程度よりも期待の受け止め方が内的適応に対する説明力が大きいことが示唆された。積極的受け止めは, 自己価値といった適応を促進することが示され, 負担的受け止めは, 不機嫌・怒り, 抑うつ・不安, 無気力, 身体反応を含むすべてのストレス反応を促進する事が示された。
著者
佐々木 正人 渡辺 章
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.182-190, 1984-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
5 4

ほぼすべての日本人成人に観察される空書行動 (単語等の想起時の手指による書字類似行動・動作) が漢字文化に起源を持つとする仮説を検討するために, 日本と同一の漢字圏, そして非漢字圏からの留学生を対象として 5つの実験が行われた。結果は以下のようであった。1) 日本と同様に母国語の文字体系に漢字を有する中国語話者では, すべての者 (21名) に漢字課題解決時の空書の自発が観察された。2) 中国語を母国語とする者においては, 日本人成人に見られたと同様な空書行動の漢字問題解決促進効果が確認された (FIG. 1)。3) 3種の英単語課題 (単語綴り順唱, 逆唱, 欠落英単語完成課題) 事態で日本人 (83名) と非漢字圏からの留学生 (23名) を対象に空書行動の出現の有無が観察された, 結果, 英単語事態での空書の自発は, ほぼ日本人に限定しうることが明らかとなった (FIG. 4)。4) 英単語完成課題を用い空書行動の機能を日本人と非漢字圏で比較した。結果は空書の英単語想起効果は同事態で空書の出現した日本人のみに見られることを示した。非漢字圏では空書行動を求める手続は, むしろ妨害的ですらあった (FIG. 2)。5) 中国語を母国語とする者を対象とし, 3) と同様な英単語課題事態で空書の出現が観察された。彼等にも日本人同様にすべての課題で空書の自発が見られたが, その出現率には日本人と微妙な差異が見られた (FIG. 4)。以上の結果が空書行動の「漢字文化起源説」及び比較文化認知心理学との関連で議論された。また, 日本人の漢字圏における特殊性が指摘された。
著者
室山 晴美 堀野 緑
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.298-307, 1991

The purpose of this study was to examine the factors affecting the losers' task cognition and the person cognition in a competitive situation. Two factors, the patterns of loss and winners' feedbacks to losers, were examined. The 2 x 2 experimental conditions were set. For the patterns of loss condition, winning a straight victory and winning a losing game were contained, and a positive and a negative feedbacks were contained for winners' feedbacks to losers. The subjects were 44 female university and graduate students participating in the othello game, in pairs. One of the pairs being an experimental assistant, subjects lost two games in all of three games. After each game was over, the manipulation of winners' feedback was done and then subjects were asked their evaluation about the task and the opponent in a questionnaire. The main results were as follows: 1) The pattern of loss affected both the task cognition and the person cognition as a partner of the game. 2) The winner's feedback affected the formation of the cognition for the partner's personal attraction and attitude.
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.256-267, 2008-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
11 11

本研究では, 事前に教科書を読むという予習が授業理解に与える影響とその個人差について, 中学2年生を対象とした歴史授業を用いて実験的に検討した。また, 予習の効果の授業内プロセスについて検討を行うため, ノートのメモなどの授業中の学習方略に注目した。さらに本研究では, 予習が授業への興味に与える影響や, 予習時の質問生成の効果についても併せて検討した。予習群, 質問生成予習群, 復習群を設定した実験授業を行い, 予習-復習, 質問生成あり-なしの対比を用いて検定を行った結果, 予習は歴史の背景因果の理解に効果を持つことが示された。ただし, 学習観を個人差変数とした適性処遇交互作用 (ATI) の検討の結果, そのような予習の効果は学習者の意味理解志向の高さによって異なることが明らかになった。また, 学習方略に注目した授業内プロセスの検討の結果, 予習が授業理解に与える影響とその個人差は授業中のメモを媒介して生起することが示された。さらに本研究では, 予習は授業への興味を下げないことや, 予習時の質問生成には効果が見られないことが示された。
著者
中西 昇
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.17-22,66, 1969

1)親子関係の研究に当たつては, 親の態度に関する有勘かっ操作的に定義された質問または観察項目ならびに範疇を決定することが重要である。この目的のために80名の母親に対する態度〔Radke(1936)にならう〕57項目に関する面接質問より得た結果に因子分析を行なつた。<BR>2)結果(i)第1, 権威的取扱い; 第2, 同胞不調和; 第3, 許容性; 第4, 子供らしさの奨励; の4因子が見出された。<BR>(ii)各因子間の相関係数(r)は第1と第3因子(-. 397), 第1と第4因子(-. 372), 第2と第4因子(-. 346)のみがそれぞれ有意な逆相関を示した。したがつていずれかひとっの因子から他のすべての因子の状況を推定することは不可能であり, また子供に対する親の一般的態度というものをいうことも困難である。<BR>(iii)上の各因子はFPBSによる資料に対して因子分析を行なったRoffの結果と似ているところが多い。これは本研究の妥当性を示すものといえよう。<BR>3)子供の行動特性に影響する要因としては単に子供に対する親の直接的態度のみならずその他の要因, たとえば親の人格特性, 知的水準, 社会経済階層なども考慮する必要があるように思われる。<BR>附記本研究に当たつて浅田ミツ君をはじめ教室員諸君の多大の助力を得たことを感謝する。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.560-574, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
69
被引用文献数
2

近年の自己概念に関する研究では, 人が自己評価する際に用いる準拠枠の重要性が指摘されている。能力的には同様の生徒であっても, 個人が自分自身を評価する際に使う準拠枠によって, 異なった学業的自己概念が形成される。本稿では, 社会的比較という準拠枠を用いた学業的自己概念の形成, つまり Marsh (1987) が提唱した“井の中の蛙効果”に関する研究を概観する。Marsh (1987) は, 個人の学業水準をコントロールした場合, 学業的自己概念は学校やクラスの学業水準とは負の関係にあることを見いだし,“井の中の蛙効果”と呼ばれる概念を提唱した。これは, 同じ成績の生徒であっても, 良くできる生徒ばかりの学校あるいはクラスの中では, 優秀な生徒たちとの比較のために否定的な学業的自己概念を形成し, あまりできない生徒ばかりの学校やクラスの中では, レベルの低い生徒たちとの比較のために好ましい学業的自己概念を形成しやすいという現象のことである。本稿では, Marshが提唱した“井の中の蛙効果”について広く概観した後に,“井の中の蛙効果”研究についての問題点と今後の展望について述べていくことで,“井の中の蛙効果”に関する諸研究を統合的に検討することを目的とした。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.452-463, 2010-12-30
被引用文献数
4

本研究では,高校生の英語学習を対象として,予習時に使用される学習方略と,授業中に使用される学習方略の関係について検討を行った。まず,予備調査を実施し,予習時の学習方略,授業中の学習方略に関する質問紙尺度を作成した。因子分析の結果,予習方略については「準備・下調べ方略」,「推測方略」,「振り返り方略」,「援助要請」の4因子,授業内方略については「要点・疑問点把握方略」,「メモ方略」,「受動的方略」の3因子が抽出された。高校生1,148名に本調査を実施し,パス解析を用いて英語学習動機,予習方略,授業内方略の関係モデルの構築を行った結果,予習時の準備・下調べ方略は授業中の要点・疑問点把握方略やメモ方略と正の関連を持つことが示された。また,予習時の推測方略は授業中の要点・疑問点把握方略と正の関連,受動的な方略と負の関連を持つことが示された。また,予習方略と授業内方略の間に直接のパスを想定しないモデルよりも,そのようなパスを想定したモデルの方がデータに対して高い適合度を示したことから,予習方略と授業内方略の間には,学習者の動機づけによって説明できない直接の関係が存在する可能性が示唆された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。
著者
東山 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.359-369, 2007-09-30

本研究では,Wellman & Liu (2004)の主張する多面的な"心の理論"の発達が,日本の子どもにおいても同じように見られるかを追試すると共に,誤答した子どもの説明を分析することによって,より詳細に日本の子どもにおける"心の理論"の発達を検討することにした。すなわち,誤信念課題において指摘されてきたような通過率の遅れがこの尺度でも見られるか否か,日本の子どもがWellmanらの結果と同じ順序で段階的に心の理解が進むか否か,誤答分析によって"心の理論"課題を誤る原因を明らかにすること,を目的とした。3〜6歳の子ども120名にWellmanらの多面的な"心の理論"課題を実施したところ,Wellmanらと同様に年齢と共に段1皆的な発達が見られたが,誤信念課題において従来指摘されてきたように,多面的な概念を含む"心の理論"課題においても,日本の子どもは通過率が低かった。誤答の説明を分析すると,4,5歳児の3割近くが信念課題をどのように考えたかうまく説明できない場合と,理解できていない場合とが含まれていると考えられた。最後に,Wellmanらの課題の可能性と今後の課題について論じた。