著者
山 祐嗣
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.11-18, 1999-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7
被引用文献数
1

Wason選択課題の抽象的標準版と否定版 (例えば, もしpならばqではない) が36名の被験者に課せられ, 各カードを調べる必要があるか否かとその判断の確信度を5件法で評定することが求められた。さらに課題終了後, 被験者は各決定の理由を質問されるという形式で, 追観プロトコルが求められた。その理由に矛盾が見いだされると, 被験者の心の中で矛盾が解決されるまで, プロンプト質問が行われた。選択データによれば, 被験者は条件文に明示されているカードを選択する傾向にあり, マッチングバイアス説 (Evans & Lynch, 1973) を支持した。しかし, 何名かの被験者は, プロトコルデータから, 肯定文において関連性判断の後, 確証を行ったり, 双条件解決を行っていることが推察された。
著者
垣花 真一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.241-251, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

清音文字の呼称と濁音文字の呼称の間には, 弁別素性[voice]の価が負から正へ変化するという関係がある。濁音文字習得に際し, 子どもがこの有声化の関係を利用しているかが3つの研究により検証された。研究1では, 4-5歳の濁音文字初学者が, 有声化の基底事例として清音文字-濁音文字の呼称 (例か (ka)→が (ga)) を提示された場合に, 与えられた清音文字の呼称 (例た (ta)) から, 対応する未知の濁音文字 (だ (da)) の呼称を推測できるかが検証された。その結果, 半数近くの者にこれが可能であることが示された。研究2では, 4歳児の濁音文字習得の中後期群に対して, 非文字の清音文字一濁音文字対を目標事例とする類推課題 (例X (pa)→X (ba)) を実施し, 9割程度の者に非文字の濁音文字呼称の推測が可能であることが示された。研究3では4-5歳の濁音習得途上の子どもの読字検査データを分析し, [voice] の関係に違反した“ば行”の習得が他の濁音文字に比べて困難であることが示された。3つの研究から, 子どもは濁音文字の呼称を単純な対連合ではなく, 既習の清音文字一濁音文字の関係を基にした類推によって習得していることが示唆された。
著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.523-533, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
4 8

本研究は, 冗談に対して親和的意図を知覚せずに, 聞き手に怒りを感じさせる冗談を過激な冗談として取り上げ, こうした過激な冗談の話し手が, 親和的意図が聞き手に伝わるという期待を形成する過程を関係スキーマの観点から検討した。大学生159名を対象とした予備調査から, 過激な冗談として,“倫理的・性的タブーに関する冗談”,“聞き手の悩みに関する冗談”,“聞き手の外見や行動に関する冗談”,“聞き手の好きな人や物に関する冗談”が同定された。次に大学生251名を対象とした本調査を行い, これらの過激な冗談の親和的な意図が聞き手に伝わるという期待は, 冗談関係の認知 (“冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感”と“冗談に対する被受容感”) に基づいていることが明らかとなった。特に,“冗談に対する被受容感”は全ての冗談において親和的意図が伝わるという期待に正のパスが見られた。“冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感”は性的タブーに関する冗談と聞き手の友人や恋人に関する冗談にのみ正のパスが見られた。また, 本研究から, 冗談関係の認知は, 冗談行動に相手が笑った頻度を背景として形成されることが示唆された。
著者
尾形 和男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.335-342, 1995-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

This paper elucidates the difference between the fathers' care of children in single income families and double income families, and the relationships between the fathers' care of children and their social adaptability. Subjects consist of members of single income families and double income families. Both families are unclear ones. Children are of the pre-school age. Major results are as follows: 1) The fathers of double income families tend to participate more in the care of their sons than the fathers of single income families. The fathers of single income families tend to participate more in the care of their daughters than the fathers of double income families; 2) Home discipline by the fathers is related to their sons' social adaptability from 1 to 3 years of age in double income families, and it is related to social adaptability of the sons and daughters aged 1 to 3 in single income families; 3) The home environment that is the result of the mutual understanding of the father and mother on the policy toward their children's care is related to the social adaptability of their daughters in the 4 to 6 year -old bracket.
著者
上野 行良 上瀬 由美子 松井 豊 福富 護
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.21-28, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
7 5

The purpose of this study was to investigate the relation between adolescents' views on friendship and personality characteristics. Six hundred twenty (620) randomly- sampled high-school students completed a questionnaire. Hayashi's Quantification Method of the Third Type showed two more-or-less ind ependent dimensions for the views: friends as a source of conformity and preferred psychological distance to them. The students, in accordance with the above two d imensions, were classified into four types: independent, individual, surface, and close friendship seekers. Analyses indicated that these types were related to such personality characteristics as inferiority, family-adjustment, public self-consciousness, frequen cy of problem-behavior thoughts, and purposes in life. Surface friendship, with high conformity but more psychological distance to each other, might characterize contemp orary youth relationship in Japan. The students who viewed friendship in th is way, in general, loved family more and were better socially adjusted, but the males of thi s category felt inferiority and thought about problem behaviors more frequently.
著者
杉本 希映 遠藤 寛子 飯田 順子 青山 郁子 中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.149-161, 2019-09-30 (Released:2019-11-14)
参考文献数
39
被引用文献数
4

本研究の目的は,“保護者による教師の信頼性認知”を測定できる尺度を作成し,その尺度と関連が予想される要因について検討することであった。目的1において,予備調査により原案34項目の尺度が作成された。その尺度を用いて,小学生と中学生の子どもを持つ保護者516名を対象に因子分析を行った。その結果,「教師の役割遂行能力」,「規律的指導」,「子どもに合わせた指導」,「子どもが示す好意」の4下位因子と1つの上位概念から構成される「保護者による教師の信頼性認知」尺度が作成された。目的2において,学校,子ども,保護者の各側面と「保護者による教師の信頼性認知」との関連を検討した。その結果,子どもにトラブルが生じたときの学校対応に対する満足度が「保護者による教師の信頼性認知」にも関連していることが明らかにされた。さらに,「保護者による教師の信頼性認知」が低く,トラブル時の学校対応満足度も低いと,教師に援助を求めることへの心配が高いことも明らかとなり,「保護者による教師の信頼性認知」は,保護者と教師の協働に関与している可能性が示唆された。
著者
三島 浩路 黒川 雅幸 大西 彩子 吉武 久美 本庄 勝 橋本 真幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.518-530, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
29
被引用文献数
5 5

高校ごとの生徒指導上の問題の発生頻度認知や携帯電話に対する規制と, 携帯電話に対する生徒の依存傾向等との関連を検討した。13の高校に所属する教師約500人と生徒約1,700人を対象に調査を行った。その結果, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が高い高校に在籍している生徒ほど, 携帯電話に対する重要度認知が高く, 携帯電話に対する依存傾向が強いことが示唆された。生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校に関しては, 携帯電話に対する規制の強弱により, 生徒の携帯電話に対する依存傾向が異なることが示唆された。具体的には, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校の中では, 携帯電話に対する規制が強い高校に在籍している生徒の方が, 規制が緩やかな高校に在籍している生徒に比べて, 携帯電話に対する依存傾向が強いことを示唆する結果が得られた。
著者
相良 順子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.174-181, 2000-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1

従来の性役割発達研究では, ステレオタイプの知識の獲得に重点が置かれていたが, 本研究では, そのステレオタイプをどう評価するか, という態度を扱った。本研究の目的は, 1. 子どもの性役割態度の発達を認知的, 感情的側面から明らかにし, 2. 性役割態度の発達に関連する要因を検討することである。542名の小学2年生, 4年生, 6年生を対象に, 質問調査を実施した結果, 1) 2年生から6年生の間, 性役割ステレオタイプに対する認知的態度, 感情的態度は年齢とともに柔軟になった。2) 4年生と6年生について, 男子は, 視聴するTV番組の数, 父親の家事参加が認知的態度の柔軟性と関連し, 親のしつけが感情的態度の柔軟性に関連していた。女子は, 親が男性的な職業を期待することが認知的, 感情的態度の柔軟性に関連していた。
著者
高木 亮 田中 宏二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.165-174, 2003-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
16 8

本研究は公立小・中学校教師の職業ストレッサーにはどのようなものがあり, どのようにストレス反応を規定するのかを検討することを目的とする。欧米の先行研究における職業ストレッサーの体系的な分類を参考に我が国の教師に見合った職業ストレッサーに関する質問項目群を設定した。これにストレス反応としてバーンアウト尺度を加えた調査を小中学校教師710名を対象に実施し検討を行った。その結果, 「職務自体のストレッサー」が直接バーンアウトを規定していることと, 「職場環境のストレッサー」は「職務自体のストレッサー」を通して間接的にバーンアウトを規定していることが明らかにされた。また, 「個人的ストレッサー」については相関分析で検討を行った。
著者
安達 知郎 安達 奈緒子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.317-329, 2019-12-30 (Released:2020-01-24)
参考文献数
41
被引用文献数
5

大学入学時,学生は新しい環境への適応,新たな自己像の確立という2つの課題と直面する。これらの課題に学生が向き合えるよう予防的に支援することが重要である。本研究の目的は,大学新入生に対してアサーション・トレーニングを実施した場合,実施しなかった場合に比べ,自己主張,他者尊重,視点取得,怒り表現,適応感,アイデンティティ,自己受容に正の影響がみられるか,および,アサーションに対する効果とそれ以外に対する効果との間に関連がみられるかを検討することであった。大学新入生を介入群28名,対照群33名に振り分け,質問紙調査をトレーニング実施直前,実施直後,2ヶ月後,6ヶ月後に実施した。分析対象者は介入群,対照群ともに最後まで調査協力が得られた26名であった。分散分析の結果,自己主張,怒り表現,適応感,アイデンティティ,自己受容に中から大の効果がみられた。最後に,結果をアサーション・トレーニングの理念,大学生の対人関係の特徴といった観点から考察した。
著者
三島 美砂 宇野 宏幸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.414-425, 2004-12-30
被引用文献数
2 2

小学校高学年の児童に, 1学期と学年末の2回, 「教師認知」と「学級雰囲気」についての調査を実施し, 教師が学級集団や学級雰囲気に如何に効果的に影響を及ぼすかということを検討した。因子分析の結果, 「教師認知」因子として, 「受容・親近」, 「自信・客観」, 「怖さ」, 「罰」, 「たくましさ」が, 「学級雰囲気」因子として, 「認め合い」, 「規律」, 「意欲」, 「楽しさ」, 「反抗」が抽出され, 重回帰分析の結果, 学級雰囲気と強い関連性をもっているのは, 教師認知因子「受容・親近」, 「自信・客観」の2つであることが示唆された。「受容・親近」は主に「意欲」・「楽しさ」の2つの雰囲気に影響を与えており, 早期よりその効果が顕在化していた。それに対し, 「自信・客観」は1学期にはどの雰囲気とも関連が認められなかったが, 学年末の学級雰囲気「認め合い」に正の, 「反抗」に負の大きな影響力をもつことが示された。
著者
鈴木 雅之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
28
被引用文献数
5 10

本研究では, テストをフィードバックする際にルーブリックを提示し, 評価基準と評価目的を学習者に教示することの効果について, 中学2年生を対象とした数学の実験授業によって実証的に検討した。また, 返却された答案とルーブリックだけで, 自身の答案内容とルーブリックの記述内容との対応関係が理解できるのかを検討するために, ルーブリックを提示し具体的な添削をする群と, 添削をしない群を設けた。さらに, ルーブリックがなくても具体的な添削があれば, ルーブリックの提示と同等の効果が得られる可能性を考慮し, ルーブリックを提示せずに添削だけを施す群を設定した。その結果, ルーブリックを提示された2群は, 提示されなかった群と比較して, 「改善(自身の理解状態を把握し学習改善に活用するためのものであるという認識)」テスト観や内発的動機づけが高く, 理解を指向して授業を受ける傾向にあり, 最終日の総合テストでも高い成績をおさめた。また, パス解析を行った結果, 動機づけと学習方略, テスト成績への影響は, ルーブリックの提示によって直接引き起こされたのではなく, テスト観を媒介したものであることが示唆された。さらに本研究では, 添削の効果がみられないことが示された。
著者
河村 茂雄 田上 不二夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.213-219, 1997-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

The purpose of this study was to investigate the relationship between teachers'compulsive beliefs on teaching activities and their pupils'school morale. The questionnaires were administered to teachers and pupils in 105 classes of public elementary schools in Tokyo. The results showed that the teachers of high compulsive beliefs on teaching activities might have limited cognitive frames or appraisal standard for pupils. It was also found that pupils'school morale was relatively low in those teachers'classes.
著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.325-337, 2010 (Released:2012-03-07)
参考文献数
35
被引用文献数
5 1

本研究の目的は, 大学生が学業課題を先延ばししたときに, その前・中・後の3時点で生じる意識の感じやすさを測定する先延ばし意識特性尺度を作成し, その信頼性および妥当性を検討することであった。研究1では, 先延ばし意識特性尺度の作成と尺度の内的整合性および構成概念妥当性の検討を行った。研究2では, 尺度の再検査信頼性の検討を行った。探索的因子分析によって先延ばし意識特性尺度の7因子構造が採択され, 確認的因子分析でその構造の妥当性が確認された。同尺度とこれまでに作成された先延ばし特性尺度との関連から弁別的証拠が, 同尺度と認知特性, 感情特性との関連から収束的証拠が得られ, 構成概念妥当性が確認された。先延ばし意識特性尺度と他の尺度との関連から, 否定的感情が一貫して生起する決断遅延, 状況の楽観視を伴う習慣的な行動遅延, 気分の切り替えを目的とした計画的な先延ばし, の3種類の先延ばし傾向の存在が示唆された。考察では3種類の先延ばし傾向と先行研究との理論的対応について議論され, 学業場面の先延ばしへの介入に関する提言が行われた。
著者
松本 明日香 小川 一美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.28-41, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
36
被引用文献数
4 5

本研究の目的は,大学で専攻する学問に対して,どのような価値を求めるのか,どのような価値評定をしているのかという専攻学問に対する価値と,大学教育を通じて培うべき力である批判的思考力との関連を探索的に検討することであった。批判的思考力として,質問力,質問態度,クリティカルシンキング志向性を測定した。専攻学問に対する価値を第1群,批判的思考力を第2群として正準相関分析を行った結果,以下の2点が示された。1点目は,専攻学問に対する4つの価値全てが高いと,質問態度やクリティカルシンキング志向性が高くなり,事実を問う質問数も多くなるという結果であった。2点目は,専攻学問の学びは他者から見て望ましいと思われているという価値である公的獲得価値は高いが,専攻学問は充実感や満足感を喚起する学問であると思うという興味価値が低いと,事実を問う質問数は多くなるが,クリティカルシンキング志向性および思考を刺激する質問数に負の影響を与えるという結果であった。専攻学問に対して価値を見出すことは,批判的思考力の獲得に有効な要素であることや,複数の価値を組み合わせて効果を検討することの意義などが考察された。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-23, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
21
被引用文献数
7 1

本研究の目的は, いわゆる「仲間はずれ」とよばれる, 異質な他者を集団から排除することについての判断の発達を検討することであった。研究1では, 小学生, 中学生, 大学生を対象に, 私的集団(遊び仲間集団)と公的集団(班)のそれぞれにおいて, 社会的領域理論の3領域(道徳, 慣習, 個人)に対応した行動の特徴を持つ他者に対する排除判断(集団から排除することを認めるか), その理由, 変容判断(その他者の特徴は変わるべきか)を求めた。その結果, 年齢とともに, 排除自体の不公平性に注目し排除される他者の特徴を区別しない判断から, 集団機能に注目し他者の特徴を細かく区別する判断へ変化した。小学生は2つの集団を区別して判断する一方で, 他者は変わるべきであると考える傾向が見られた。研究2では, 小学生と中学生を対象に, 友人への志向性の差と排除判断の関係を検討した。閉鎖的, 固定的な集団への志向性および友人への同調欲求が高いと, 集団排除を認めることが示唆された。最後に, 本研究の限界と今後の課題が議論された。
著者
小塩 真司
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.280-290, 1998
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己愛傾向と自尊感情との関わりを検討すること, そしてその両者が, 青年期における友人関係とどのように関連しているのかを検討することであった。自己愛人格目録(NPI), 自尊感情尺度(SE-I), 友人関係尺度が265名(男子146名, 女子119名)に実施された。NPIの因子分析結果から, 「優越感・有能感」「注目・賞賛欲求」「自己主張性」の3つの下位尺度が得られた。NPIとSE-Iとの相関から, 自己愛は全体として自尊感情と正の相関関係にあるが, 特に「注目・賞賛欲求」はSE-Iと無相関であり, SE-Iの下位尺度との関係から, 高い自己価値を持つ一方, 他者の評価に敏感であり, 社会的な不安を示すといった特徴を有していることが明らかとなった。これらの結果は, NPIの妥当性を示す1つの結果であると考えられた。また, 友人関係尺度の因子分析結果から, 友人関係の広さの次元と浅さの次元が見出され, その2つの次元によって友人関係のあり方が四類型された。この友人関係のあり方とNPI, SE-Iとの関係が分析された。結果より, 広い友人関係を自己報告することと自己愛傾向が, 深い友人関係を自己報告することと自尊感情とが関連していることが明らかとなった。このことから, 青年期の心理的特徴と友人関係のあり方とが密接に関連していることが示唆された。
著者
黒田 祐二 桜井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.86-95, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
12 6

本研究は, 友人関係場面における目標志向性と抑うつとの関係に介在するメカニズムを明らかにすることを目的として行われた。両者に介在するメカニズムとしては, Dykman (1998) により提唱されたディストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してネガティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うつが促進 (ないし抑制) される) に加えて, 新たにユーストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してポジティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うっが抑制 (ないし促進) される) を提唱し, この2つのモデルを検討した。重回帰分析による結果から, 3つの目標と抑うつとの関係はいずれもユーストレス生成モデルで説明できることが示された。すなわち,(1) 「経験・成長目標→関係構築・維持行動及び向社会的行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(2)「評価一接近目標→関係構築・維持行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(3)「評価一回避目標→関係構築・維持行動の不足→ポジティブな出来事の非発生→ 抑うつ」,という結果が示された。本研究の関連する既存の研究領域及び教育的介入に対する示唆が論じられた。
著者
深谷 達史 戸部 栄子 立見 康彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.414-428, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
3

説明行為に関する知識である説明スキーマは, 説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識である。例えば, 説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識に基づき, 説明的文章の内容を整理して読んだり, 書いたりできると想定される。本研究では, 小学4年生の1学級を対象に, 説明スキーマに基づく方略使用を促し, 論理的な読み書き能力を育成することをねらいとする, 2つの説明的文章の単元の実践を行った。2つの実践では, 単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し, 問いの文を同定した上で, 説明と問いへの答えをまとめるなど, 説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では, 問い-説明-答えの要素に基づき, 授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また, 実践においては, ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明, 質問しあう言語活動を行い, 内容の精緻化を図った。質問紙やテストによる調査結果から, 実践後には説明スキーマを活用する態度やスキルを表す得点が高くなったことが示された。今後, 他教科や探究的な学習においても説明スキーマに基づく指導を展開していくことが期待される。
著者
原岡 一馬
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.29-40, 1957-02-25
被引用文献数
2

以上の結果を要約すれば,〔一〕から,1知能以上の成績を上げた子も,無能以下の成績1しか上げ得なかった子も,家庭環境を一定とすれば知能と学業成績とは相当高い相関関係を示す(.7〜.8)し,学業成績は知能と環境との重相関では,ほとんど完全に近い相関係数を示す(.88〜.99)。又どちらも,知能と環境との相関はほとんどOであった(.018〜.039)。2知能以上の学業成績を上げた生徒は,知能以下の成績を上げた生徒よりも,家庭環境得点において有意に高く(田中研究所・家庭環境診断テスト使用),中でも「子供のための施設」「文化的状態」「両親の教育的関心」が特に大きな差を表わし,次に「家庭の一般的雰囲気」が重要だと云える。3オーバー・アチーバーのグループでの知能,学業成績及び家庭環境の関係と,アンダー・アチーバーのグループでのそれらの関係とでは,オーバー・アチーバー内では学業成績を上げるに環境の影響が少なく,アンダー・アチーバー内での学業成績に対する環境の影響は高かった。4叉各項目について,オーバー・アチーバーとアンダー・アチーバーとの有意な差を示すもの16を取り上げてみると,(1)同胞数について,1人子と6人以上の兄弟を持っているものは,アンダー・アチーバーの方が多かった。(2)家を引越した数はオーバー・アチーバーの方が多かった。(3)教科書以外の本が6冊以上ある家は,オーバー・アチーバーの方が多い。(4)一人当りの部屋数では.60以上がオーバー・アチーバーの方に多かった。(5)家に字引が二種類以上あるのは,オーバー・アチーバーの方が多かった。(6)家で決って子どものために雑誌を取ってもらったことのないのは,アンダー・アチーバーの方が多かった。(7)新聞を取っていない家庭は,アンダー・アチーバーが多かった。(8)両親が月に一回以上教会やお寺,お宮に参るかということについて,「時にはすることがある」というのにオーバー・アチーバーが多く,「お参りする」「全然しない」の両端は,アンダー・アチーバーの方が多かった。(9)家庭のお客様の頻度では「普通」がアンダー・アチーバーに多く,「比較的に少ない」と「比較的に、多い」との両端が(8)の場合とは丁度逆にオーバー・アチーパーに多かった。(10)家庭がいつもほがらかだと感ずるのは,アンダー・アチーバーであった。(11)お母さんの叱り方では,「全然叱らない」のが多いのはアンダー・アチーバーであった。(12)子どもが家でじゃまもの扱いにされていると全然思わないのは,オーバー・アチーバーが多かった。(13)両親とも働きに外に出ているのは,アンダー。一アチーバーが多かった。(14)両親が服装や言葉遣い等に全然注意しないのはアンダー・アチーバーが多かった。(15)子どものことについて,両親が口げんかをほとんどしないのはオーバー・アチーバーが多かった。(16)叉誕生日に何か送りものやお祝を「たいていする」のはアンダー・アチーバーに多く,「全然しない」「時にはすることがある」にはオーバー・アチーパが多かった。5以上のことから考えられることは,知能以上の学業成績を上げるには文化社会的家庭環境の影響が大であることが多くの研究結果と同様に示された。6次に推論出来ることは全体としてオーバー・アチーバーがアンダー・アチーパーより家庭環境はよいが,成就指数が高くなるに従って学業成績に及ぼす環境の影響度は少なくたって行くと云うことであり,連続的に見れば成就指数と環境との関係グラフは成就指数を横軸に,環境を縦軸に取れば,指数曲線状を描きその変化率が次第に減少すると仮定することが出来よう。7ここではオーバー・アチーパーとアンダー・アチーバーの両端を取って調べたため,その連続的傾向を見ることが出来なかったので,次に全体調査を行って上の推論を検証することとした。次に〔二〕から1 努力係数(FQ)と家庭環境得点とは正の相関(γ_<FQ・En>=302)を有すること,、(但しこの場合,その関係グラフは指数曲線状であり,相関係数は直線を仮定する故低い値となったであろう)。これに比して,学業成績はFQと高い相関(γ<FQA>=.71)を有し,知能はそれとほとんど無関係である。(γ_<FQ1>=111)2 オーバー・アチーパーがアンダー・アチーパーより一般に高い環境得点を有しているが,その関係の程度は努力係数が高くなればなる程低くなる。即ち努力係数と環境との関係は指数曲線状を描く。3 努力係数の変動の大部分は学業成績・環境・及び学業成績と知能との交互作用にあり,知能にはほとんどないのである。しかしながら,環境か努力係数の変動の中で無視されないほどの変動を有し,叉努力係数と.302の相関を有するということから,努力係数を構成するには,FQやAQのように知能と学業成績だけから作成されたイソデックスだけでは不充分ではなかろうか。そこには当然環境という要素をその重要度に応じて入れることが必要でh</abst>