著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06
被引用文献数
21

本研究の目的は,批判的思考の態度構造を明らかにし,それが,結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に,426名の大学生を対象に調査を行い,批判的思考態度は,「論理的思考への自覚」,「探究心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし,態度尺度の信頼性,妥当性を検討した。第2に,批判的思考態度が,対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて,大学生85名を用いて検討した。その結果,証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また,適切な結論の導出には,証拠評価段階が影響することが分かった。さらに,信念バイアスは,批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ,この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
山森 光陽 萩原 康仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.555-568, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

クラスサイズパズルと呼ばれる, 学級規模が児童生徒に及ぼす影響を検討する研究群で一貫した結果が得られない現象が見られる背景には, 学級規模と学級規模以外の要因との交互作用の存在が考えられる。学級編制基準は学級規模のみならず, 学年学級数の多少も決定するため, 本研究では学級規模の大小, 学年学級数の多少及びこれらの組合せによって過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討した。そのために, 小学校第4, 6学年4月に実施された国語の学力調査得点についての67校分の2時点のパネルデータに, 対象児童が第4, 5学年時に在籍した学年の学級数及び学級の児童数を組合せ, 階層的線型モデルを適用した分析を行った。この結果, 過去の学力調査得点が低かった児童について見れば, 学級数の多い学年で小規模な学級に在籍した児童の方が, 学級数の少ない学年で小規模な学級に在籍した児童と比べて後続の学力が高いといった学力の底上げが見られた。この背景について, 学級規模と学年学級数によって異なる学級の質, 学年学級数によって異なる教師同士の協同による教材研究等の頻度の点から考察した。
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
7 2

本研究では, 算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が, 児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と, 授業時のビデオ記録とワークシートの分析から, 以下の3点が明らかになった。1) 倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて, 授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2) 授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には, 他者の方法を形式的に適用した者に比べて, 洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3) 授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も, 発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて, 教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。
著者
下村 英雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.145-155, 1996-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
1

The present study was intended to examine strategies of information search used in vocational decision making. Third and fourth-year undergraduate students were selected as subjects. Regarding the amount of information search, high and low group of vocational readiness were found to be different among third-year students who did not have any job hunting experience whereas no difference was observed between the two groups among fourth-year students who had a job hunting experience. With regards to strategies of information search, third-year students tended to use strategies-search within alternatives across attributes in first part of vocational decision making process and search within attributes across alternatives in a second part of the process. On the other hand, fourth-year students tended to search within attributes across alternatives in the first part and search within alternatives across attributes in the second part. Fourth-year students used information search strategies which were more rational and analogous to decision making in other areas of daily life.
著者
堤 亜美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.323-337, 2015-06-30 (Released:2015-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
5 6

本研究では, 一般の中学・高校生を対象とした, 認知行動療法的アプローチに基づく抑うつ予防心理教育プログラムの実践を行い, その効果を検討した。プログラムは全4セッション(1セッション50分)からなり, 主な介入要素は1)心理教育, 2)感情と思考の関連, 3)認知の再構成, 4)対反芻, であった。中学3年生および高校2・3年生を対象に本プログラムを実施したところ, 分散分析の結果, 中学生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に有意に抑うつの程度と反芻の程度が低減したこと, 高校生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に反芻の程度が有意に低減し, 抑うつの程度が有意に低減した傾向が示された。また, 中学生では実施6ヶ月後, 高校生では実施3ヶ月後の時点において, プログラム実施後の抑うつ・反芻の程度を維持していることも示された。そして感想データの分析の結果, 自分自身や周囲の人たちの抑うつ予防に対する積極性の獲得など, 一次予防や二次予防につながる様々な変化が見出された。これらのことから, 本プログラムは抑うつ予防に対し継続的な有効性を保持するものであることが示唆された。
著者
湯澤 正通 湯澤 美紀 関口 道彦 李 思嫻
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.60-69, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

本研究では, 日本人幼児, 中国人幼児, 国際幼稚園の日本人幼児による英語非単語反復を比較し, 日本人幼児における英語音韻習得の制約を検討した。非単語反復とは, ある言語の典型的な音韻から構成された非単語を子どもに聴覚提示し, 即時反復させるものであり, その言語の音韻習得能力の指標と見なされている。2~5音節の英語非単語が反復刺激として, 日本人幼児46名, 中国人幼児63名, 国際幼稚園の日本人幼児29名に与えられた。その結果, 中国人幼児では, 非単語の音節数が増加するとともに, 完全正答数が減少し, 逆に, 音節再生数が増加した。一方, 日本人幼児では, 非単語の音節数の増加に伴う完全正答数の減少や音節再生数の増加は, 3音節で天井または床効果を示した。また, 国際幼稚園の日本人幼児では, 完全正答数や音節再生数は, 多かったが, 音節再生数の増加は, 一般の日本人と同様, 3音節で天井効果を示した。これらの結果から, 日本人幼児が, 英語の非単語の反復に, より多くの負荷をかけるような処理を行っていること, また, このような制約が早期の英語経験によって変化しにくいことが示唆された。
著者
村山 航 及川 恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.273-286, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
83
被引用文献数
7 10

臨床・教育心理学の分野で,“回避方略”は, ストレス状況の解決や不快情動の緩和, 学業達成などを阻害するものとして, 非適応的な方略だと主張されてきた。しかし, 気晴らし, 援助要請行動の回避, セルフハンディキャッピングといった回避方略を取り上げて実際の先行研究を概観する限り, 結果は一貫しておらず, この命題が確実に支持されているとは言い難い。そこで本稿では, 上記の命題を批判的に検討した上で, 回避方略の非適応性を捉えるための視点を提出することを目的とした。具体的には, 同じ“回避方略”であっても,“目標・意図レベルの回避”と“行動レベルの回避”を分けて考える必要性を示唆した。その上で, 従来の研究の非一貫性を説明するため,“たとえ行動レベルで回避的な方略であっても, 目標レベルで回避的でなければ非適応的にならない”という仮説を提出した。この仮説を検証するため, 先行研究を改めて概観し, いくつかの支持的な証拠を得た。また, 著者らが直接実施した調査データからも, この仮説が支持された。最後に, 臨床・教育実践の観点から, 本稿の意義が検討された。
著者
石津 憲一郎 安保 英勇
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.442-453, 2009-12-30
被引用文献数
7 8

過剰適応はいわゆる「よい子」に特徴的な自己抑制的な性格特性からなる「内的側面」と,他者志向的で適応方略とみなせる「外的側面」から構成されている。これまでこの2つの高次因子は並列的に捉えられてきたが,内的側面は具体的な行動を生起させる要因として想定することができる。そこで本研究では,幼少時の気質と養育者の態度を含め,因子間の関連性を再検討することを第1の目的とし,過剰適応の観点を含めた包括的な学校適応のモデルの構築を第2の目的とした。1,025組の中学生とその母親を対象にした調査の結果,養育態度や気質から影響を受けた「内的側面」によって「外的側面」が生起するモデルの適合度が相対的に高いことが示された。また,過剰適応の内的側面である「自己不全感」や「自己抑制」が「友人適応」や「勉強適応」に負の影響を与える一方で,「自己不全感」や「自己抑制」が過剰適応の外的側面に繋がった場合には,外的側面はそれらの適応を支えるべく作用していたが,抑うつ傾向には影響を与えていなかった。個人が過剰適応することで社会文化的には適応していく可能性があるが,心理身体レベルでの適応とは乖離がなされていくことが想定される。
著者
佐々木 万丈
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.69-80, 2001
被引用文献数
3

本研究の目的は, 中学生の体育学習における能力的不適応経験時のコーピング形態を測定できる尺度を開発することであった。まず, 男女中学生827名に対するコーピング記述の因子分析結果に基づいて3下位尺度・26項目 (ストラテジー追求, 回避的認知・行動, 内面安定) の中学生用体育学習ストレスコーピング尺度 (SCS・PE) が作成された。次に, クローンバックのα係数とテストー再テスト法によって信頼性が, 構成概念的妥当性, 基準関連妥当性, 交差妥当性および弁別力の検討によって妥当性の検証がそれぞれ行われ, いずれも満足できる結果が得られた。以上によりSCS-PEはコーピング尺度として信頼性と妥当性を有することが確かめられた。さらにSCS-PEの5段階評価基準が設定され, 尺度としての有用性と今後の課題が討論された。まず, SCS-PEは生徒のコーピング状況を予測・査定でき, また, 体育嫌いや運動嫌いになることを認知的側面から予防する資料を提供できるという点で有用であることが指摘された。次に, 今後の課題として, 実践場面との関連からも信頼性と妥当性の検討が行われなければならないことが指摘された。
著者
鈴木 有美 木野 和代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.487-497, 2008-12-30
被引用文献数
17

本研究の目的は,共感性の多次元的アプローチに従い,他者の心理状態に対する認知と情動の反応傾向をそれぞれ他者指向性-自己指向性という視点から弁別的に測定しうる多次元共感性尺度(MES)を作成し,その信頼性と妥当性を検証することであった。先行研究における概念定義の議論および既存尺度の構成を概観し,「他者指向的反応」「自己指向的反応」「被影響性」「視点取得」「想像性」の5つの下位概念を設定した。これらを測定する項目を作成し,質問紙調査を実施した。大学生871名から得られた回答について因子分析を行った結果,5つの下位概念に対応する5因子が得られた。α係数,I-T相関係数,再検査信頼性係数などの結果から信頼性を検討した。また,既存の共感性尺度および共感性との関連が予想される概念を測定する尺度との相関から妥当性を検討した。今後,自我発達との関連など認知・情動反応傾向の指向性を規定している要因の検討を進めることが,共感性に関する応用研究において有益と考えられる。
著者
佐田 吉隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.138-144, 2000-06-30
被引用文献数
3

本研究の目的は, 朗読による精神面での積極的休息が知覚-運動学習に及ぼす効果を検討することであった。テスト試行10試行間それぞれの, 1分間の休憩中における3つの技法の回復促進効果が比較された。3つの技法は次のようなものであった。(a)積極的休息(筋)群は, 回転板追跡学習(右手)の休止期間にタッピング(左手)に従事した。(b)積極的休息(心)群は, 実験とは無関係の書物を朗読した。(c)消極的休息群は, できるだけ体を動かさず実験に関する思索をしないように休憩した。その結果, 休憩中に朗読することが最も効果的な回復技法であった。朗読群の被験者は, 技能習得試行において, 他の2つの技法よりも接触時間で有意に優れていた。休憩中に朗読することはまた, フリッカー値の上昇をもたらした。しかし, 統計的には認められなかった。覚醒水準の上昇の可能性が考察された。
著者
村上 宣寛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.183-191, 1980-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

音象徴の研究には2つの流れがあり, 1つはSapir (1929) に始まる, 特定の母音と大きい-小さいの次元の関連性を追求する分析的なものであり, もう1つはTsuru & Fries (1933) に始まる, 未知の外国語の意味を音のみから推定させる総合的なものであった。本研究の目的は音象徴仮説の起源をプラトンのテアイテトス (201E-202C) にもとめ, 多変量解析を用いて日本語の擬音語・擬態語の音素成分を抽出し, それとSD法, 連想語法による意味の成分との関連を明らかにするもので, 上の2つの流れを統合するものであった。刺激語はTABLE1に示した65の擬音語・擬態語であり, それらの言葉から延べ300人の被験者によって, SD評定, 名詞の連想語, 動詞の連想語がもとめられた。成分の抽出には主因子法, ゼオマックス回転が用いられた。なお, 言葉×言葉の類似度行列作成にあたって, 分析Iでは言葉に含まれる音をもとにした一致度係数, 分析IIでは9つのSD尺度よりもとめた市街模型のdの線型変換したもの, 分析IIIでは6803語の名詞の反応語をもとにした一致度係数, 分析IVでは6245語の動詞の反応語をもとにした一致度係数を用いた。分析Vの目的は以上の4分析で抽出した成分の関係を調べるもので, Johnson (1967) のMax法が用いられた。分析1の結果はTABLE2に示した。成分I-1は/n/と/r/, I-2は/r/と/o/, I-3は/a/と/k/, I-4は促音, I-5は/o/, I-6は/a/, I-7は/i/, I-8は/p/, I-9は/u/, I-10は/b/, I-11は/k/, I-12は/t/に関連していた。分析IIの結果はTABLE3に示した。成分II-1はマイナスの評価, II-2, II-4はダイナミズム, II-3は疲労, に関連していた。分析IIIの結果はTABLE4に示した。成分III-1は音もしくは聴覚, III-2は歩行, III-3は水, III-4は表情, III-5は不安, III-6は液体, III-7は焦りに関連していた。分析IVの結果はTABLE5に示した。成分IV-1は活動性, IV-2は不安, IV-3は表情, IV-4は音もしくは運動, IV-5はマイナスの評価もしくは疲労, IV-6は液体, IV-7歩行, IV-8は落着きのなさに関連していた。分析Vの結果はTABLE6とFIG. 1に示した。音素成分と意味成分の関係として, I-5 (/o/) とIV-8 (落着きのなさ), I-7(/i/)とIII-7 (焦り), I-10 (/b/) とIII-6 (液体) が最も頑健なものであった。さらに, I-8 (/p/) とIII-2 (活動性), I-9 (/u/) とIII-5 (不安) 及びIII-6 (液体), I-12 (/t/) とIII-2 (歩行) 及びIV-8 (落着きのなさ) も有意な相関があった。日本語の擬音語・擬態語の限定のもとで, 音象徴の仮説が確かめられた。/o/が落着きのなさを, /i/が焦りを, /b/が液体を象徴するという発見は新しいものでありその他にも多くの関係があった。また, SD法によってもたらされた成分は狭い意味の領域しかもたらさず, 意味の多くの側面を調べるには不十分であり, 擬音語と擬態語の区別は見出されなかった。
著者
瀬戸 瑠夏
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.174-187, 2006-06-30

2001年度以降,公立中学校へのスクールカウンセラー(以下,SC)全校配置が決定された。これに対応して,学校コミュニティに根ざした活動のあり方について,より詳細に検討していく必要がある。本研究では,学校組織全体を援助する方略の一つであるオープンルームに焦点を当て,その活動の場としての面接室(スクールカウンセリングルーム;以下,ルーム)が,どのような機能構造を有しているのかを検討した。方法として公立中学校でのフィールドワークを行い,質問紙調査(研究1)・観察調査(研究2)・面接調査(研究3)を通して,生徒の視点からルームの機能構造を探った。その結果,「開かれた異空間」「私的な異空間」から成る重層的二空間構造を見出した。さらに,研究1〜3によって深めた仮説的知見に基づき,11の機能カテゴリーを重層的二空間モデルとして再構成した。これにより,オープンルーム活動を通して問題解決が可能であることが示唆され,「スクールカウンセリングにおいて特徴的な,個人面接とも日常生活とも異なる中間領域」としての意義が明らかになった。
著者
竹内 朋香 犬上 牧 石原 金由 福田 一彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.294-304, 2000-09
被引用文献数
1

不眠, 不充分な睡眠や付随する疲労は, 行動問題や情動障害に関連し, 二次的な学業問題, 集中力欠如, 成績悪化などに結びつく。そこで本研究では, 睡眠問題発現の予防学的側面をふまえ第1に, 睡眠習慣調査の因子分析により大学生の睡眠生活パタンを総合的に把握する尺度を構成した。第2に, 尺度得点のクラスター分析により睡眠習慣を分類し, 大学生の睡眠衛生上の潜在的問題点を検討した。因子分析により睡眠に関する3尺度-位相関連(朝型・夜型と規則・不規則関連9項目), 質関連(熟眠度関連6項目), 量関連(睡眠の長さと傾眠性関連6項目)-を抽出し, 通学など社会的要因との関連を示唆した。分類した6群のうち4群は, 睡眠不足, 睡眠状態誤認, 睡眠相後退など睡眠障害と共通点を示し, 時間的拘束の緩い大学生活から規則的な就業態勢への移行時に睡眠問題が生じる危険性を示唆した。また本研究のような調査票による, 医学的見地からみた健常範囲内での睡眠習慣類型化の可能性を示唆した。分類結果に性差を認め, 短時間睡眠で高傾眠群, 睡眠の質が悪いが朝型, 規則的で平均睡眠量の群で女子の, 夜型, 不規則, 睡眠過多な群, 夜型, 不規則で睡眠の質が悪い群では男子の割合が高かった。従来の知見をふまえ生物学的要因の関与を推測した。
著者
海津 亜希子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.241-255, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
55
被引用文献数
8

早期の段階での算数に焦点を当て通常の学級で実施するアセスメントを開発した。本研究では多層指導モデルMIM(海津, 2010; 海津・田沼・平木・伊藤・Vaughn, 2008)のプログレス・モニタリング(PM)としての機能を有するかについて検証した。対象は小学校1年生400名。MIM-PM算数版を年間通じて定期的に実施した。妥当性の検証では反復測定による分散分析の結果, 実施回における主効果が認められ, 回を経るごとに得点が高くなる傾向が示された。標準化された学力検査算数とも比較的高い相関があった。また, 既存のMIM-PM読み版とテスト・バッテリーを組み, 双方の得点傾向から3群(算数困難群, 高学力群, 低学力群)に分類し, 比較分析を行った。3群の学力検査算数の得点でも差異がみられた。算数困難群は全体の5.15%であった。実施回×学力特性群の2要因混合計画の分散分析を行った結果, 有意な交互作用, 2要因とも主効果が認められた。MIM-PM算数版の実施により把握できた算数困難群や低学力群は, 高学力群のような有意な得点上昇が一貫してみられなかったが, 当該学習に関する直接的な指導が実施されている期間では有意な伸びが確認された。MIM-PM算数版の活用でつまずきの早期把握の可能性が示唆された。
著者
谷村 圭介 渡辺 弥生
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.364-375, 2008
被引用文献数
1

本研究は,(1)ソーシャルスキルの自己認知と他者評定との関係,(2)自己の印象とソーシャルスキルとの関連,(3)ソーシャルスキルの自己認知と実際の行動との違いを明らかにすることを目的とした。質問紙によって113名の大学生を2つのグループに分け,ソーシャルスキル高群10名,低群10名(それぞれ男性5名・女性5名ずつ)を研究対象者とした。研究対象者は実験室で初対面の人物と対面し,「関係継続が予期される初対面場面」として共同作業場面を実験場面とし,実験を行った。そのやりとりの内容は,ワンウェイミラーを通して観察した。その結果,ソーシャルスキルの自己認知は他者評定とかなり一貫していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は他者評定によっても高く評定されていた。また,相手の人に対してよい印象を与えていると自負していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は初対面場面において,質問などをすることによって会話を展開,維持する傾向にあることがわかった。また,相手が異性であるか,同性であるかということが行動に影響を及ぼしたことが推測された。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.462-469, 1993-12-30
被引用文献数
1 3

The purpose of this study was to clarify developmental changes of the conceptions (evaluations and meanings) and feelings about book-reading, and to examine relations between conceptions, feelings and behavior frequency. Five hundred and six children of 3rd, 5th, and 8th grades answered the questionnaire about reading. Three major findings were as follows. First, all children shared the same evaluation that reading was a good activity. Second, three meanings of reading were identified: an exogenous meaning of "getting praise and good grades" (PRAISE), a cognitive endogenous meaning of "having a fantasy world and getting knowledge" (FANTASY), and a physiological endogenous meaning of "refreshing and killing time" (REFRESHING). Older children evaluated the cognitive endogenous meaning of FANTASY more and the exogenous meaning of PRAISE less. Third, positive feelings were predicted from 3 variables: grade, evaluation and FANTASY meaning. Behavior frequency was predicted from 3 variables: grade, positive feelings and the REFRESHING meaning.
著者
工藤 与志文
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-50, 1997-03

College students numbering 206 were examined on their beliefs of the movement of sunflowers, and 112 students who had the false belief participated also in the experiment. The subjects were asked to read the science text which explained the facts that contradicted their beliefs in the following three conditions : (a) the photosynthetic rule was instructed, and the contradictory facts were referred to as examples of the rule ; (b) the photosynthetic rule was instructed, but the facts were referred independently from the rule ; and (c) only the facts were presented. The subjects were then put to some reading comprehension tests. The frequencies in the occurrence of belief-dependent misreading (BDM) on the tests were analysed. The following results were obtained : (1) There were less BDMs in the condition of the rule and example than in the other two conditions ; (2) there were no less BDMs in the condition of the rule and facts than in the condition of the facts only. There findings suggested that the instruction in the relation of the rule and example was useful in order to avoid BDM.
著者
柏木 恵子 永久 ひさ子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.170-179, 1999-06-30
被引用文献数
8

子どもの価値は普遍・絶対のものではなく, 社会経済的状況と密接に関連している。近年の人口動態的変化-人口革命は, 女性における母親役割の縮小と生きがいの変化をもたらし, 子どもをもつことは女性の選択のひとつである状況を現出させた。子どもは"授かる"ものから"つくる"ものとなった中, 子どもの価値の変化も予想される。本研究は, 母親がなぜ子を産むかその考慮理由を検討し, 子どもの価値を明らかにするとともに, 世代, 子ども数, さらに個人化志向との関連を検討することによって, 子どもの価値の変化の様相の解明を期した。結果は, 子どもの精神的価値として社会的価値, 情緒的価値, 自分のための価値が分離され, さらに子ども・子育てに関連する条件依存, 子育て支援の因子も抽出された。子どもの価値はいずれも世代を超えて高く評価されているが, より若い世代, 有職, 子ども数の少ない層では, その価値が低下する傾向と条件依存傾向の増大が認められた。家族のなかに私的な心理的空間を求める傾向-個人化志向は, 世代を超えて強く認められたが, 若い世代, 有職, 子ども数の少ない層でより強まる傾向が認められ, さらに, 子どもを産むことへの消極的態度と関連していることも示唆された。この結果は, 人口革命と女性のライフコースと心理との必然的関連, また子産みや子育てに関わる家族および社会規範との関連で論じられた。