著者
島田 英昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.296-306, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
29
被引用文献数
3

本研究は, 従来の教材研究が精読を前提とした内容理解を目指していることに対し, 読解初期の動機づけ効果に着目した。典型的な教材の構成要素であるタイトル・サブタイトルの有無, 挿絵・写真の有無, および, 挿絵・写真のモノクロ・カラーを操作した防災教材を作成した。教材の2秒間の一瞥の後, 動機づけと主観的わかりやすさについて, 5段階評定を求めた。その結果, 上記の構成要素は, いずれも動機づけ, 主観的わかりやすさの向上に寄与していた。また, 挿絵・写真・カラーの効果が, タイトル・サブタイトルに比較して大きかった。動機づけ効果のプロセスについて共分散構造分析により分析した結果, 挿絵・写真・カラーについては主観的わかりやすさを介さない感性的要因による動機づけの向上が大きかったが, サブタイトルについては主観的わかりやすさを介する認知的要因による動機づけの向上が大きく, タイトルについてはほぼ同等であった。
著者
小野田 亮介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.121-137, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
35
被引用文献数
4 7

マイサイドバイアスとは, 反対立場に有利な理由に比べ, 賛成立場に有利な理由が多く産出される傾向を指す。マイサイドバイアスが強い意見文は説得力, 信頼性ともに低く評価される傾向にある。そこで本研究では, 児童の意見文産出におけるマイサイドバイアスの低減を目的とし, 目標提示とそれに伴う方略提示, および役割付与の効果を検証した。4年生65名を対象とした予備実験の結果, 反対立場の読み手を想定するという条件下において, 児童は反論を想定するものの, その反論に対する再反論は十分に行わないことが示された。そこで, 5年生90名を対象とした本実験では, 反論への再反論を促すため, (1) 反対立場の優勢性の検討, (2) 理由の明確化, (3) 読み手に対する意識, を促進するための目標を与え, 目標提示のみが行われる「対照群」, 目標に加えて目標を達成するための方略が示される「方略提示群」, 目標と方略の提示に加え, 目標達成を義務とする役割が与えられる「方略・役割群」とで産出される意見文の比較を行った。その結果, 方略提示によって反論に対する再反論の産出数が増加し, さらに役割付与がその効果を促進することが明らかになった。
著者
坂本 篤史
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.584-596, 2007-12-30
被引用文献数
2

本研究は,現職教師の学習,特に授業力量の形成要因に関し,主に2000年以降の米国での研究と日本での研究を用いて検討し,今後の展望を示した。現職教師の学習を1)授業経験からの学習,2)学習を支える学校内の文脈,3)長期的な成長過程,という3つの観点から包括的に捉えた。そして,教師を"反省的実践家"と見なす視点から、現職教師の学習の中核を授業経験の"省察(reflection)"に据えた。授業経験からの学習として教職課程の学生や新任教師の研究から,省察と授業観の関係や,省察と知識形成の関係が指摘された。学校内の文脈としては教師共同体や授業研究に関する研究から,教師同士の葛藤を通じた相互作用や,校内研修としての授業研究を通じた学習や同僚性の形成が示唆された。長期的な成長過程としては,教師の発達研究や熟達化研究から,授業実践の個性化が生じること,"適応的熟達者(adaptive expert)"として発達を遂げることを示した。今後の課題として,現職教師の個人的な授業観の形成過程に関する研究,教師同士が学び合う関係の形成に関する実証的研究方法の開発,日本での教師の学習研究の促進が挙げられた。
著者
出口 拓彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.219-229, 2001-06-30

本研究は, グループ学習に対する指導を独立変数, グループ学習の効果および問題点に対する児童の認知を従属変数として, 複数の指導の組み合わせの効果について検討することを目的とした。16名の小学校高学年の教師にはグループ学習に対する指導について尋ね, 495名の児童にはグループ学習の効果および問題点に対する認知について尋ねた。グループ学習に対する指導をクラスター分析により「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」に分類し, 各指導の効果を分散分析によって検討した。その結果, (a)「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行っている学級において, 最も肯定的な認知がなされていること, (b)「討議に関する指導」のみを多く行い「参加・協力に関する指導」はあまり行わなかった学級において, 最も否定的な認知がなされていること, などが示された。このことから, グループ学習の指導の際には, 「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行うことの重要性と, 「討議に関する指導」のみを行うことの問題が示唆された。
著者
益川 弘如
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.331-343, 2004-09-30
被引用文献数
8

本論文では, 大学学部生を対象に学生自身が協調的な活動を通して知識を構成していく2つの授業の実践と評価を報告する。認知科学研究の基礎資料を理解させる1998年度学部3年生の授業では, 学生自身が担当した研究事例を調べて発表し, 互いの研究事例を関連付け, 全体を統合する3つのフェイズが段階的に含まれるカリキュラムで, これらの学習活動を協調活動作業支援ツールで支援した。理想的な協調学習が起きた場合を想定した学習者モデルを作成し, その学習者モデルとシステムログデータを照らし合わせて分析した。結果, 想定していた積極的な他人のノート参照, 関連付け活動が確認された。特に活発なグループは, 個々の研究例の繋がりを挙げつつ問題解決の特徴をまとめた質の高いレポートを提出していた。この授業成果を元に, 2000年度は授業に段階的に関連付け活動を入れて, 幅広い対象領域においても相互に関連付ける活動を促進させる工夫をした。結果, 統合型のレポートを提出する割合が増加した。以上より, 研究事例の関連付け活動をシステムとカリキュラムで工夫して導入したことで学習者自身による協調的な知識構成活動を促進させることができたと言える。
著者
萩原 俊彦 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-13, 2008

本研究の目的は,大学生の職業選択に関連すると考えられる"やりたいこと探し"の動機を明らかにし,その動機の自己決定性と進路不決断との関連を検討することであった。まず,どの程度自己決定的な動機で職業選択に関わる"やりたいこと探し"をしているかを測定する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討した。尺度項目の因子分析の結果から,やりたいことを探す動機として,非自己決定的な「他者追随」,自己決定性においては中間的な「社会的安定希求」,自己決定的な「自己充足志向」の3因子が抽出され,尺度の信頼性と妥当性が確認された。作成された"やりたいこと探し"の動機尺度を用いて,"やりたいこと探し"の動機の個人差と進路不決断との関連を検討したところ,"やりたいこと探し"の動機のうち,非自己決定的な動機である「他者追随」が相対的に高い非自己決定的動機群は,進路不決断の面で問題を抱えている可能性が示唆された。本研究で得られた結果は,現代青年のキャリア意識として広く支持されている"やりたいこと"志向と職業選択との関連を検討する上で意義があると考えられる。
著者
大野 久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.p100-109, 1984-06
被引用文献数
1

The purpose of the present research is to investigate the structure of fulfillment sentiment in contemporary adolescence, and to confirm to what extent the sentiment model for contemporary Japanese adolescence proposed by Nishihira(1979)explains the structure of fulfillment sentiment. For the first study, 280 subjects rated 53 items that constituted the fulfillment sentiment instrument. The data were analysed by means of factor-analyses. Results of the analysis revealed that the fulfillment sentiment consisted of 4 factors, thus confirming the model proposed by Nishihira. Four factors were named(1)fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness, (2)jiritsu-jishin(independence and self-reliance)vs.amae and lack of self-reliance, (3)solidarity vs.isolation, (4)trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. An examination on the pattern of correlations among four scales indicated the followings: the scale for fulfillment vs.boredom-emptiness showed significant positive correlation with the scale for jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, the scale for solidarity vs.isolation, and the scale for trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results provided positive evidence to support the Nishihira's model. However, it was found that that the Nishihira's model might require a certain modification on the basis of results. The second study was designed to examine stability of each factor of the fulfillment sentiment scale by using the identical factor score method proposed by Bentler(1973). It was found that stability of the fulfillment vs.boredom-emptiness scores was lower than that of jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, solidarity vs.isolation, and trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results suggested that the scale of fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness represented an aspect of mood, while the other scales did the aspect of an ego-identity.
著者
羽野 ゆつ子 堀江 伸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.393-402, 2002-12-25
被引用文献数
3

本研究は,模擬授業および教育実習を経験することによる教員養成系学生の実践的知識の変容を明らかにすることを目的とした。2年次に模擬授業を行い3年次の教育実習に臨むというカリキュラムで教員養成が行われている滋賀大学教育学部をフィールドとし,模擬授業前,模擬授業後(演習後),教育実習後の3回に,同一の学生を対象として,「教材」メタファ生成課題を行った。その結果,以下の諸点が明らかになった。第1に,演習および実習と経験を重ねるにつれ「食」メタファが増え,その質は教材開発,学習,授業展開など多様な側面に言及されるように変化した。授業を複合的に理解するようになった。第2に,演習後以降,授業実践に対する能動性がみられたが自律性は生まれなかった。第3に,実習後は,教師が教える内容を子どもが吸収する授業イメージが強まった。同時に,教材に対する子どもの多様な思考に対応できない不安定さもみられた。第4に,授業における教材の機能として学生は「認知」と「授業展開」を重視しており,自己および関係形成の媒体としての教材の機能は重視されなかった。教員養成の課題として,教材開発演習および実習後の省察の充実が挙げられた。
著者
小橋川 彗慧
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-14, 1966-03-31

本研究の目的は(1)同性のモデルが異性玩具で遊んでいるのを被験児が観察した結果として,被験児の異性玩具に対する反応に脱制止の効果がみられるか否か,(2)異一性モデルが適切玩具(被験児にとっては非適切玩具)で遊んでいるのを被験児が観察した場合にも,脱制止の効果が見られるか否か,の2点を検討することであった。幼稚園男児45名,女児45名(年令範囲5才10か月から6才8か月)が,同性モデル,異性モデル,統制の3群に配置された。同性,異性モデル群は,モデルの行動を短時間観察した後に,統制群は観察なしで,異性玩具と中性玩具の置かれている部屋で10分間の自由遊びの時間が与えられた。幼児の行動は15秒ごとに観察室から観察され記録された。測定値として,幼児が異性玩具に反応するまでの時間(潜時)と,観察中に異性玩具で遊んだ割合(異性-%)が算出された。主な結果は,(1)男児同性モデル群の<潜時>は異性モデル,統制両群の測定値より有意に短く,<異性-%>は異性モデル,統制両群のものより有意に大であった。この結果は,異性役割行動に対するモデルの税制止効果を示すものである。女児のデータでは,税制止効果の傾向が認められただけで,3条件間に有意差は見られなかった。(2)適切な性役割行動をおこなっているモデルを観察した被験児には,税制止効果も禁止の効果もともにみられなかった。幼児の異性主役割行動に対するモデルの税制止効果は,モデルの偏倚的行動と,この行動に対して実験者が無反応であったこと(罰を与えなかったこと),その2つを,観察した結果として解釈された。
著者
柳井 晴夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.145-160,190, 1967
被引用文献数
2

1.大学における9つの系への適性診断検査を作成するために, 性格, 興味, 能力, 職業への関心, 高校教科の得意, 不得意の45の尺度からなる適性検査を大学の専門課程に学ぶ480名の学生に実施した。<BR>2.これらの被験者のうち, 現在学んでいる自分の専門にじゆうぶん適応していないとおもわれる人を除外し, 残つた人を9つの系の基準群として, これらの人が自分の所属している系に, 最も近く診断されるように多重判別関数方式, 因子分析方式による診断方式に従つて診断を行なつた。<BR>3.多重判別関数方式による診断によると, 9つの系は, 4つの因子でかなり明確に分離され, 各人の8つの因子得点と9つの系の重心との距離を測つて, 最も距離の短くなる系を最も適している系とする診断方式によつて, 基準群被験者360名のうちの76.1%が自分の所属する系に最も適していると診断される結果がえられた。<BR>4.因子分析の主因子解によつてえられた因子得点に基づく診断は, 多重判別関数方式による診断よりかなり精度が低いことが判明した<BR>5.距離の算出においては, 多重判別関数方式では市街モデルの方が, 因子分析方式がユークリッドモデルの方がより精度の高い診断がされた。<BR>6.多重判別関数と因子分析によつて得られる函子構成にはかなりの相違がみられる。<BR>6.自分の現在学んでいる専門にじゆうぶん適応できていない人の90%近くは, 自分の所属している系に遠いと診断され, 自分の現在学んでいる専門に比較的適応できていて, 自分の所属している系に遠いと診断された人は14名前後である。これらの結果から, 全体的にみてかなりの高い精度の診断の結果が得られたといえる。 (多重判別関数方式の市街距離モデルによる診断)<BR>7. 1人の例外もなく誤つた診断がされないようにしていくためには, テスト尺度の構成や新しい診断の理論方式についての検討が行なわれていかなければならない
著者
村上 達也 西村 多久磨 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.156-169, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
43
被引用文献数
1 10

本研究の目的は, 小学生および中学生を対象とした対象別向社会的行動尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から中学3年生までの1,093名を対象とし質問紙調査を実施した。探索的因子分析の結果, 家族に対する向社会的行動, 友だちに対する向社会的行動, 見知らぬ人に対する向社会的行動の3因子を抽出した。加えて, 確認的因子分析により, 向社会性という高次因子を仮定したモデルが最終的に採択された。対象別向社会的行動尺度の内的一貫性および再検査信頼性係数は十分に高いことが確認された。中高生版向社会的行動尺度, 共感性尺度, 自己意識尺度, 学級生活満足度尺度といった同時に測定した外的基準との関連が概ね確かめられた。また, 尺度の内容的妥当性についても確認された。尺度得点に関しては, 男女差がみられ, 女子の得点の方が男子の得点よりも高いことが確認された。また, 学年差に関して, 概ね, 小学生の得点の方が中学生の得点よりも高いことが確認された。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の向社会的行動研究に関して議論された。
著者
市川 玲子 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.228-240, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
39
被引用文献数
3

自己愛傾向と対人恐怖心性は, 自己愛性パーソナリティ障害の下位概念との近似性があり, 共通して恥の感じやすさとの関連が考えられる。本研究は, 特に恥が喚起されやすい他者の面前での失敗場面において, 自己愛傾向と対人恐怖心性の高低による5類型間の, 自己呈示欲求(賞賛獲得欲求, 拒否回避欲求)が失敗経験後に生じる感情(恥, 敵意, 抑うつ)に及ぼす影響の差異を明らかにすることを目的とした。大学生を対象とした質問紙調査を実施したところ, 368名が分析対象者となった。分析の結果, 失敗場面は2因子に分類され, “自分の失敗場面”と“他者からの指摘・叱責場面”が抽出された。そして, “他者からの指摘・叱責場面”では, いずれの類型においても失敗経験後の恥が抑うつに寄与するが, 自己愛傾向のみが高い誇大型と, 対人恐怖心性のみが高い過敏型において特に拒否回避欲求が恥に強く影響していることが示された。これらの結果から, 自己愛傾向か対人恐怖心性のいずれかが高い類型では特に, 他者の面前での失敗経験後の恥は評価過敏性の影響を強く受けており, 失敗を自己全体に帰属することで自己評価が著しく傷つけられ, その結果として抑うつが強く喚起されることが示唆された。
著者
竹内 謙彰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.47-53, 1992-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
7 28

The purpose of this study was to construct Sense of Direction Questionnaire-Short Form (SDQ-S), and investigate its relationship with geographical orientation, personality traits and mental ability. 532 undergraduate students (female 373, male 159) were administered SDQ-S, and the results were factor-analyzed using the principal factor method and varimax rotation. Two factors, i.e., awareness of orientation Factor I, and memory for usual spatial behavior Factor II, could be identified from 17 items (9 items to Factor I and 8 items to Factor II). The reliability of the questionnaire was tested on the same subjects using internal consistency and split-half methods. The relations between sense of direction and geographical orientation based on 70 subjects suggested the concurrent validity of SDQ-S. Also, 47 subjects (female only) helped examining the influence of personality traits and mental ability on sense of direction.
著者
坪井 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.110-121, 2005-03-31
被引用文献数
4 4

本研究の目的は児童養護施設に入所している虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにすることであった。児童養護施設に入所中の子ども142人(男子: 4〜11歳40人, 12〜18歳45人, 女子: 4〜11歳25人, 12〜18歳32人)を対象に, Child Behavior Checklist (CBCL)の記入を職員に依頼した。その結果, 女子は男子に比べて内向尺度得点が高く, 特に高年齢群女子は身体的訴えと社会性の問題の得点が高かった。被虐待体験群(n=91)と被虐待体験のない群(n=51)に分けて比較したところ, 社会性の問題, 思考の問題, 注意の問題, 非行的行動, 攻撃的行動の各尺度と外向尺度, 総得点で, 被虐待体験群の得点が有意に高かった。被虐待体験群は, 社会性の問題, 注意の問題, 攻撃的行動, 外向尺度, 総得点で臨床域に入る子どもの割合が多かった。虐待を受けた子どもの行動や情緒の問題が明らかになり, 心理的ケアの必要性が示唆された。
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.206-219, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
62
被引用文献数
3 4

学級規模, 学習集団規模, 児童生徒—教師比の問題は教育政策上大きな関心が寄せられている問題であり, 諸外国では教育心理学をはじめとした教育に関係する様々な学問領域における知見の蓄積と, それらの政策への反映が見られる。しかし, 日本の教育心理学においては, これらの問題について十分に論じられてきたとはいえない。この展望論文では, 児童生徒の学習行動や個人差とそれらの変化を研究対象の一つとしている教育心理学においてこそ, 学級規模等の研究に取り組む必要があることを議論する。そのために, 日本における学級規模等の縮小を目的とした政策の展開を概観し, 国内外の学級規模等に関する研究のうち, 特に児童生徒に与える影響を検討した研究の動向をまとめ, 日本の学校の特質を考慮すると諸外国の知見の日本における適用可能性が低いことを指摘する。そのうえで, 望ましい学級規模や学習集団編制の在り方の検討材料となり, また指針を示しうる教育心理学的研究を実現するための着眼点を提示し, 今後取り組まれるべき研究課題を展望する。
著者
中西 信男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.8-16,65, 1969
被引用文献数
1

(1) 反抗の行動類型は1かんしやく型 (1:0~1:11が最高), II攻撃型 (3:0~3:11が最高), III言語型 (9:3~10:2が最高), IV緘黙型 (11:3~12:2が最高) の順にあらわれ, IVはその後, 青年期にまで持続される傾向を示している。<BR>(2) I, IIの行動的反抗とIII, IVの言語的反抗の類型は5才台では両型とも40~50%の出現率を示しているが, その後, 行動的反抗は漸次減少し, 言語的反抗がしだいに顕著になる。<BR>(3) I, IIの行動類型が児童後期まで持続されるときは神経症的反抗または逸脱した問題行動と考えることができる。<BR>(4) しばしば反抗がくり返される場面は睡眠, 排泄, 食事, 離乳, 服装, 生活空間の拡大, 経済, 遊戯, 非行, 家事, 学業, 娯楽の選択などの各領域においてみられる。<BR>(5) このうち, 1才児においては睡眠, 排泄, 食事習慣, 離乳, 行動空間の拡大などの基本的身体的習慣形成に関する反抗がみられ, 3才児では経済, 遊戯, 家事などに関する反抗がそれに加わる。4才になれば1才児にみられた身体的習慣形成に関する多くの反抗が消失するが, 5才以後, 衣服の選択, 学業, 家事, 娯楽の選択などに関して反抗が増加する。<BR>(6) しかし同じ食事場面の反抗でも1才児では基本的食事習慣に関するものがみられ, 4才以後ではこれらのかわりに食物の嗜好に関する不平が増加する。同様なことは生活空間の拡大についてもいえる。子どもの行動半径が拡大されるにつれて, 寝台から子供部屋へ, 家の周辺部へ, さらに近隣へと葛藤場面が移行している。<BR>(7) 反抗が頻発する場面の発達的変化は児童の運動能力の成長, 社会性の発達, それにともなう子供に対する親の期待の変化, 児童の成長にともなう決定領域の拡大とそれによつておこる家族内の不安定な力関係とに密接な関係がある。<BR>なお本研究は昭和32年度民主教育協会調査研究援助費によつて行われたものである。
著者
栗山 直子 上市 秀雄 齊藤 貴浩 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.409-416, 2001-12-30

我々の進学や就職などの人生の意思決定においては,競合する複数の制約条件を同時に考慮し,理想と現実とのバランスを満たすことが必要である。そこで,本研究では,高校生の進路決定において,意思決定方略はどのような要因とどのような関連をもっているのかを検討することを目的とした。高校3年生359名に「将来の目標」「進学動機」「考慮条件」「類推」「決定方略」についての質問紙調査を実施した。各項目の要因を因子分析によって抽出し,その構成概念を用いて進路決定方略のパスダイアグラムを構成し,高校生がどのように多数存在する考慮条件の制約を充足させ最終的に決定に達するのかの検討を行った。その結果,意思決定方略には,「完全追求方略」「属性効用方略」「絞り込み方略」「満足化方略」の4つの要因があり,4つの要因間の関連は,「熟慮型」と「短慮型」の2つの決定過程があることが示唆された。さらに,「体験談」からの類推については,重視する条件を順番に並べて検討する「属性効用方略」の意思決定方略に影響していることが明らかになった。
著者
井上 正明 小林 利宣
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.p253-260, 1985-09
被引用文献数
29 35

This paper presents a survey of the research domain and scale construction of adjective-pairs in a Semantic Differential Method in Japan. 233 papers or articles using Semantic Differential to measure the meanings or images of the concepts were collected. Among the collected articles 99 papers using factor analysis on scales were examined. From the point of factor analysis on the adjective-scales 382 pairs were collected. Also 68 effective scales having high frequencies in the Semantic Differential study were examined. On the bases of these results, 68 proper scales fitting to measure the meanings or images of self-concepts, ideas of children, and personality cognition were hypothetically constructed.
著者
長濱 文与 安永 悟 関田 一彦 甲原 定房
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.24-37, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
44
被引用文献数
10 14

本研究の目的は, 協同作業の認識を測定する尺度を開発し, その信頼性と妥当性を確認することであった。まず研究1において, 大学生と専門学校生1,020名を対象として探索的な因子分析をおこなった。その結果, 協同作業の認識は, 協同効用, 個人志向, 互恵懸念の3因子18項目で構成されていることが示された。確証的因子分析をおこなった結果, 3因子モデルの十分な適合度が示された。そこで, この3因子からなる尺度を協同作業認識尺度とした。研究2では, 大学生と専門学校生2,156名を対象に調査をおこない, 3因子の併存的妥当性を検討した。また, 研究3では, 協同学習を導入した授業を受講した97名の大学生を対象に, 3因子の介入的妥当性と予測的妥当性を検討した。研究2と研究3の結果より, 協同作業認識尺度を構成する3因子の妥当性を確認することができた。最後に, 協同学習の実践場面における協同作業認識尺度の活用法や今後の課題について考察した。
著者
山内 香奈 菊地 史倫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.131-143, 2016 (Released:2016-04-11)
参考文献数
47
被引用文献数
4

本研究は, 鉄道輸送障害時における鉄道従業員のアナウンス業務にみられる慣習的行動を目標行動へと主体的に変容させるための職場研修(DVD教材の視聴)を取り上げ, 研修の効果の持続性を高めるフォローアップのあり方を不等価4群事前事後テストデザインの準実験により検証した。首都圏の鉄道会社1社の543名に対し, 4つのフォローアップ条件(GS : 教材視聴直後に目標設定を要請, FB : 教材の視聴前後の同僚の意識や行動の変化を視聴から3か月後に提示, 併用 : GSとFBの併用, 統制 : フォローアップなし)のいずれか1条件を職場単位で実施し, 目標行動に対する態度, 主観的規範, 行動意図の3つの心的変数と目標行動の実践状況を質問紙調査により複数回, 測定した。研修前と研修から6か月後を比較した結果, (1) 心的変数の変化量はいずれも統制群に比べGS, FBの各群で有意に大きくなり, (2) 目標行動の実践率は, 研修前に目標行動がとれているか否かにかかわらずFBによる促進効果が他の条件に比べ高い可能性が示された。最後に, 心的レベルと行動レベルでの有効性が示唆された本研究で実施したFBの効果を更に高めるための教育的工夫について提案した。