著者
香川 秀太
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.167-185, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 従来の学内学習と現場実践との関係に関する議論を, 状況論の立場から検討し, 従来の徒弟制重視説や学内学習固有機能説に代わる, 緊張関係説を示した。これに基づき, 学内学習から臨地実習への看護学生の学習過程を調査した。学内学習を経て臨地実習を終えた学生に半構造化面接を行い, グラウンデッドセオリーアプローチによる分析を行った。その結果, 看護学生は, 学内学習では, 教員の指導にかかわらず, 架空の患者との相互行為を通して, ほぼ教科書通りの実践にとどまっていた。しかし, 臨地実習で, 本物の患者や看護師との, 学内とは異なる相互行為を通して, 教科書的知識を「現場の実践を批判的に見せるが柔軟に変更もすべき道具」と見なすように変化した。これを本研究では, 学内-臨地間の緊張関係から生まれる, 第1の学内学習のみにも, 第2の臨地での学習にも還元できない独特な知識, つまり「第三の意味(知)」ないし「越境知」として議論した。また, 学内と臨地の各場面での相互行為過程を, 「異なる時間的展望同士が交差・衝突し変化する過程(ZTP)」として考察した。最後に, 結果に基づき, 省察やリアリティ豊かな学習を促進する, 「越境知探求型の学習」を提案した。
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 VAUGHN SHARON
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30

Response to Intervention/Instruction (RTI)を基にした,通常の学級における多層指導モデル(Multilayer Instruction Model:MIM 〔ミム〕)の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が,学習につまずく危険性のある子どもをはじめ,その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず,参加群,統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし,25,50,75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に,パーセンタイルで分けた群内で,教研式全国標準読書力診断検査A形式,MIM-Progress Monitoring (MIM-PM),特殊音節の聴写課題の得点について,参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果,4つ全てのパーセンタイルの群で,読み書きに関する諸検査では,参加群が高く,有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果,MIM導入後では,指導形態の柔軟化や指導内容,教材の多様化がみられ,クラス内で約90%の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
吉田 寿夫 村山 航
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.32-43, 2013
被引用文献数
5

これまで, 「学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していない」ということが, 学習方略の研究者によって示唆されてきた。本研究では, こうした実態について定量的に検証するとともに, なぜこうしたことが起きるのかに関して, 「コスト感阻害仮説」, 「テスト有効性阻害仮説」, 「学習有効性の誤認識仮説」という3つの仮説を提唱し, 各々の妥当性について検討を行った。また, その際, 先行研究の方法論的な問題に対処するために, 学習方略の専門家から収集したデータを活用するとともに, 各学習者内での方略間変動に着目した分析を行った。中学生(<i>N</i>=715)と専門家(<i>N</i>=4)を対象にした数学の学習方略に関する質問紙調査を行い, それらのデータを分析した結果, 実際に学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していないことが示された。また, 学習有効性の認識に関して専門家と学習者の間に種々の齟齬があることが示されたことなどから, 学習有効性の誤認識仮説が概ね支持され, どのような方略が学習に有効であるかを学習者に明示的に伝える必要性が示唆された。
著者
前田 啓朗 田頭 憲二 三浦 宏昭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.273-280, 2003-09-30
被引用文献数
3

本研究では,日本の高校生英語学習者による語彙学習方略(以下VLS)の使用に焦点を当て,VLS使用の一般的傾向と異なる学習成果の段階における傾向を明らかにすること,簡便にVLS使用を測定できる質問紙を提供すること,英語学習をより促進できるようなVLS指導への示唆を導くこと,を目的とした。先行研究で示された高校生英語学習者のVLSを用いて調査を行い,15高等学校からの1,177の回答を分析し,先行研究に示される「体制化方略」「反復方略」「イメージ化方略」の3因子を仮定するモデルが確認された。同時に学習成果を測定し,上位・中位・下位に分割して分析を行った結果, VLS使用の強さが上位・中位はあまり異ならないがそれら2群と下位では顕著に異なり,異なるVLS間の相関は中位と下位ではあまり相違ない一方で上位ではイメージ化方略と他の2方略が比較的独立している,という結果が得られた。このことから,VLS指導や語彙指導の際に,学習成果の度合いに応じて効果的なVLSは異なるという点に留意する必要性が示唆された。
著者
小浜 駿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.325-337, 2010-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,大学生が学業課題を先延ばししたときに,その前・中・後の3時点で生じる意識の感じやすさを測定する先延ばし意識特性尺度を作成し,その信頼性および妥当性を検討することであった。研究1では,先延ばし意識特性尺度の作成と尺度の内的整合性および構成概念妥当性の検討を行った。研究2では,尺度の再検査信頼性の検討を行った。探索的因子分析によって先延ばし意識特性尺度の7因子構造が採択され,確認的因子分析でその構造の妥当性が確認された。同尺度とこれまでに作成された先延ばし特性尺度との関連から弁別的証拠が,同尺度と認知特性,感情特性との関連から収束的証拠が得られ,構成概念妥当性が確認された。先延ばし意識特性尺度と他の尺度との関連から,否定的感情が一貫して生起する決断遅延,状況の楽観視を伴う習慣的な行動遅延,気分の切り替えを目的とした計画的な先延ばし,の3種類の先延ばし傾向の存在が示唆された。考察では3種類の先延ばし傾向と先行研究との理論的対応について議論され,学業場面の先延ばしへの介入に関する提言が行われた。
著者
中川 恵正 新谷 敬介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-33, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

The present study investigated which factors facilitated solving arithmetic word problems in fifth graders by comparing five training techniques: (1) Self controlinterpretation training(SCI) that was to acquire both the self regulated uses of solving skill and strategy and the self control ability of evaluating one's own solving process, correcting it and interpretating it to others; (2) Blind training(BT) expected to enhance the awareness of solving skill and strategy; (3) Error finding training (EF) that was to monitor the other's solving process; (4) Ordinary teaching training(C) used in a public elementary school, and (5) 30-SCI training(30-SCI) that children had been given the SCI training for 30 hours before the basic learning had begun. In Experiment 1, fifth graders were trained under a given condition for three hours and then given four posttests. Group 30-SCI did better performance on each posttest than the 4 other groups. Group SCI also did better performance on posttests 1, 2, and 3 than Group BT. Experiment 2 using four training techniques confirmed the superiority of the SCI technique to the others found in Experiment 1 in third graders.
著者
久芳 忠俊
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.37-43,55, 1969

一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当である。若しそのように考えないとしたならば性格陶冶とか性格教育と言われているものを否認することになる。それであるから気質性格は内在的な要因の発達や外力によつて変化するものであると言う立場から意志気質検査を 10才から14才に至る5力年間実施してその結果を要因の上から吟味したのである。<BR>(1) 要因の上から概括的に言うならば年少時では思慮を現わす要因が支配的であるのに対して運動の速度, 決断速度の要因は比較的消極的である。12才~19才頃ではどのような要因が気質性格において支配的であるかは容易に捉えることができない。従つてそれ以後の年令になつて始めて明確なものとなつてくると考えられる。<BR>(12) 類型上からは, 同一型を終始維持している場合は極めて僅少で, このTable8を算出する前に検査の各項目について整理を行つて変動を見たのであるが一定の型に嵌つたような場合は大して見られなかつたが然し低学年では比較的運動速度能力を現わす項目において変動の幅が広く, 精密細心を現わす場合が幅が小さい傾向がうかがわれ, その他拡張, 自信等では幅広い変化が見られた。また男女差を見たのであるが殆んど一致して特に著しく目立つた場合は発見されなかつた。総体的には (±0~±3) の範囲の変動が最も多く全体の75%を示している。そして (±4) の範囲より急に減少している。してみると気質性格は例え変化するとしても逐年的には幅の狭い範囲で変化するもののようである。V要約一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当その他は各人各様で複雑である。<BR>(3)段階点の変動は (±0~±3) の範囲の場合が多数で, 従つて気質性格は狭い範囲で変化するのであつて, その小範囲の変化の累積によつて人格の或る一部を形成するものであると思われる。
著者
田村 節子 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.328-338, 2003-09

本研究では,不登校生徒15例に対する援助チームの実践をもとに,次のことを明らかにすることを目的とした。(1)保護者を含む援助チームの実践モデルを提案し有用性を検討する。ただし,有用性とは援助チームにより援助が促進されることを意味する(2)保護者の状況に応じた援助チームの実践例について,その形態を分類し,その特徴や実践に当たっての問題点を分析・検討する。実践の結果,援助チームは次の4タイプに分類された。タイプ1(典型例)…担任・保護者・スクールカウンセラーの3者で相互コンサルテーションを行う。タイプ2…担任・スクールカウンセラーの2者が相互コンサルテーションを行いながら,それぞれ保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ3…担任がスクールカウンセラーと相互コンサルテーションを行いながら,担任が保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ4…スクールカウンセラーが担任と相互コンサルテーションを行いながら,スクールカウンセラーが保護者ヘコンサルテーションを行い,同時にカウンセリングも行う。このように,担任・保護者・スクールカウンセラーが,核(コア)となって援助を主導し,相互コンサルテーションおよびコンサルテーションを行い,子どもへ援助する形態を"コア援助チーム"と定義し,学校教育においてチーム援助のモデルのひとつとして意義があることを示唆した。
著者
後藤 宗理
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.85-93, 1979-06-30

The two following experiments were carried out in order to point out that earlier studies of social reinforcement were defective in the way of presenting reinforcement, and to state that the social context should be chosen as a determinant of social reinforcement effectiveness. The manipulations in each experiment had much in common. First, day-nursery boys and girls were subjected to a 10-minute treatment session, in which they received the reinforcing stimuli either twice (deprivation) or 16 times (satiation) from a male experimeter. This was followed by a discrimination test made of 75 trials, in which the same reinforcing stimuli as in treatment session were given to all correct responses by the experimenter. At the end of the test, they were inquired about their awareness of response-reinforcement contingencies. The measure analyzed was the number of correct responses in the test. In experiment I, the partial replication of Massari (1971) study was carried out to point out that earlier studies of social deprivation-satiation were defective in the way of presenting reinforcement. Forty subjects were instructed to read picture books in treatment session, in which they received the reinforcing stimuli, either "orikou-san-dane" ("good child" in Japanese) or a sound of bell, on the fixed schedule. This was followed by a discrimination test. The dependent measure for the four experiment groups was subjected to an analysis of variance. The results of the analysis showed no significant effects for the type of reinforcement (social-nonsocial) and the treatment (deprivation-satiation). It was discussed that the mechanical presentation of reinforcement in treatment session caused these results. And it was proposed that social reinforvement, in order to find the social deprivation-satiation relation should be presented in social context, and that the procedure in treatment session should be modified Experiment II was carried out to show that social context was an important factor of social reinforcement effectiveness. One hundred and thirty-six subjects took part in playing with building blocks in a 10-minute treatment session, either with an experimenter (social interaction condition) or alone (no interaction condition). In this session, two-thirds of them received the stimulus words on the fixed schedule, but one-third of them received no words. This was followed by the test. In interaction condition, only boys made more correct responses in the deprivation group than in the satiation group. Among girls in interaction condition, Ss of the satiation group tended to make fewer responses than those in no word condition. These results suggested that the social deprivation-satiation hypothesis was supported only when reinforcement was given in the context of social situation, not when it was given according to the method used in earlier studies. In a general discussion, it was pointed out that social reinforcement ought to be presented in a social context.
著者
下仲 順子 中里 克治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.231-243, 2007-06-30

本研究は25〜84歳の地域住民(男187,女225)を対象にして,目的1)創造性の年齢差と性差要因を分析すること,目的2)創造性に影響を及ぼす要因を分析することを行った。創造性の測定はJ.P.Guilfordの指導の下に考案されたS-A創造性検査を用い,活動領域(応用力,生産力,空想力)と思考特性(流暢性,柔軟性,独創性,具体性)を測定した。目的1では教育年数を共変数として,5年齢群と性を要因とした共分散分析を行った。結果は,活動領域の応用力,生産力と思考特性の流暢性と独創性では年齢差はなかった。性差は生産力と流暢性で女性が男性よりも有意に得点が高かった。結果より,創造性の量的側面は加齢と共に低下するが,質的側面は成人期中維持され,創造性の成熟が示唆された。また,性差は創造性に余り影響しないことが結論された。目的2では,活動領域と思考特性に共通して開放性と実際的問題解決能力が寄与し,人格と日常生活上の経験によって育まれてゆく解決能力が創造性の基礎となっていた。自尊感情,病気の有無,社会的問題解決能力は創造性の種々の側面に異なって寄与することが示された。
著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-355, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 法律相談を題材として,「専門的相談がどのように遂行されるのか」を, 実践現場からのデータに基づいて明らかにすることである。データ収集においては, 弁護士及び相談者 (クライエント) の同意を得て, 12件の法律相談場面の会話を録音した。データ分析においては, 質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い, 分析の途中段階で法律家によるメンバー・チェックを受けた。分析の結果, 15の弁護士発言カテゴリーが見出され, それらはさらに【I問題共有】【II共鳴】【III判断伝達】【IV説得・対抗】【V理解促進】【VI終了】という6つの上位カテゴリーにまとめられた。分析結果からみるに, 専門的相談は, 問題をめぐる様々な情報を相談者との間で共有し, 専門的立場から判断を伝えることを中心として遂行される。加えて, かかわりの基本的態度としての共鳴, 相談者の不適切な解決目標や思い込みに対する対抗, 相談者の理解を促進する働きかけ, 相談の終了を導く働きかけなどが見出された。法律相談の実践現場から導かれた本研究のカテゴリーは, 既存の援助モデルで十分扱われていない専門的相談の特徴を明らかにしている。
著者
林 美樹雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-17, 1955-07-15

美的観照を力動的な対象把握過程と考え、その力動性を画面の均衡把握について吟味するために成人式及び中学校生徒男女587名を対象としてテストを行った。テストの内容は単純図形を、画面としての矩形の内部に定位し中央位及び両側偏位の3種の構図について順位づけを求めた。被験者が幾何学的均衡(中央構図)と力動的均衡(偏位構図)との何れを選ぶかを18図形につき分析した結果を要約すれば次の通りである。(1)一般的傾向として中央構図の選択率%は略々50%を占め相称構図が支持せられる。これは特に相称図形において著しい(80%)。(2)図形が方向性緊張をもつ場合には方向性と逆方向の偏位構図が支持せられる。抽象幾何図形群においても方向性が把握せられるがそれが意味づけによって強化せられた 場合に偏位支持率が顕著となる。(3) 上下方向の変位図形においては下方偏位構図が支持せられる。(4)構図選択傾向を数値化した場合発達差よりも性差が著しく又その値は略々一定している。この差は主として男子群の方向性偏位支持率が集中的であるのに対し女子群のそれが稍曖昧である点によると思われる。(5)このテストと他種アーティストとの相関は極めて低い。知能テストとの相関は0.318であった。以上の結果はこのテストが諸条件を単純化しているために一般的な構図選択や複雑な画面の観照に適用することは出来ないが、而もそれは幾何学的図形においても相貌的方向性が認められそれが構図的均衡に影響を与えること、偏位は図形の方向性と逆方向において支持せられる等の点を明かにし力動的異質的均衡を分析する手掛りを提供する。この発展としては稍複雑な図形と連続的偏位法を用いて画面の均衡点を見出す操作により群差及び性差を一層明瞭に規定することと、画面諸要素の重さ及び方向性を精細に吟味することによって力動的均衡の特性を明らかにする側面とが残されている。但しこの様なテスト形式では画面の左右上下による重さの不等性を含む力動性の分析には不適当でありこの目的のためには瞬間露出法が有利であると考えられる。
著者
遠藤 愛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.116-126, 2008-03-30

本研究では,特殊学級の教師を対象に,自閉性障害と診断された生徒に対する指導行動を改善する上で有効なフィードバックの検討を行った。具体的には,教師の抵抗感を高めないことを考慮し,教師の指導行動を評価対象とせず,教師の指導場面に類例した「放課後支援」を実施する学生支援スタッフの指導場面を評価対象として,教師に対し2種類の間接的フィードバック(書面によるフィードバックとビデオによるフィードバック)を実施した。その結果,ビデオによるフィードバックの導入後,教師の指導行動が肯定的に変容し,対象生徒の行動も改善した。同時に,教師が行った特定の生徒への指導により,指導効果が期待されていなかった他生徒にも積極的な授業参加が認められた。
著者
五十嵐 哲也 萩原 久子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.264-276, 2004-09-30

本研究では, 中学生の不登校傾向と幼少期の父母への愛着表象との関連を検討した。480名の中学生を対象とし, 以下の結果が得られた。1)「別室登校を希望する不登校傾向」は主に母親の「安心・依存」と「不信・拒否」, 「遊び・非行に関連する不登校傾向」は両親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。また, 「在宅を希望する不登校傾向」では異性親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。一方, 「精神・身体症状を伴う不登校傾向」は, 「分離不安」との関連が強かった。2)女子では, 幼少期の母親への愛着がアンビバレントな型である場合や, 父母間の愛着にズレが生じている場合に不登校傾向が高まる傾向が示された。女子はこうした家族内における情緒的不安定性への感受性が強く, 不登校傾向を示しやすいと言える。3)男子では, 「在宅を希望する不登校傾向」得点が高く, 幼少期の父母両者に対する愛着の「不信・拒否」と関連があることが特徴的であった。これは青年期以降の社会的ひきこもりに見られる状況と一致しており, 登校しながらも在宅を希望している男子の中に, 思春期時点ですでに同様の傾向が示されていると言える。
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010-12-30
被引用文献数
13

本研究は,脅威アピール研究の枠組みから,小学生を対象とした防災教育が,児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性,および,これらの感情や認知の変化が,保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に,防災教育の前後,3ヵ月後の恐怖感情,脅威への脆弱性,脅威の深刻さ,反応効果性を測定した。また,防災教育直後の保護者への効力感,保護者への教育内容の伝達意図と,3ヵ月後の保護者への情報の伝達量,保護者の協力度を測定した。その結果,教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが,3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果,恐怖感情と保護者への効力感は,保護者への防災教育内容の伝達意図を高め,伝達意図が高いほど実際に伝達を行い,伝達するほど保護者の防災行動が促されるという,一連のプロセスが示された。考察では,防災意識が持続しないことを理解したうえで,定期的に再学習する機会を持つこと,そして,保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。
著者
安永 和央 石井 秀宗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.296-309, 2012 (Released:2013-02-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究では, 国語読解テストにおける設問の問い方を操作し, 設問設定の違いが受検者の能力評価にどのような影響を及ぼすかを比較検討した。具体的には, 1)一文抜き出し問題に対して, 多枝選択式問題と記述式問題を設定し, 2)会話文中の空所の形及び数を操作し, また, 図の空所の関係を表す「=」の有無を操作し, 3)空所前における単語の説明の有無を操作したものを中学3年生703名に実施した。項目分析の結果, 1)では, 設問形式は評価に影響を及ぼさないことがわかった。2)では, 図に空所の関係性を提示しない場合, 空所の形は同一にしない方が, 得点率及び識別力の値を高くすることがわかった。また, 空所の形が異なる場合, あるいは, 空所の形が同一で空所数が少ない場合, 図に空所の関係性を提示しないことが, 前者では得点率を高くし, 後者では識別力の値を高くすることがわかった。さらに, 空所の数が多く, 形が同一に表記されているなど, テキストが複雑な構成となる場合には, 図に関係性を示す「=」を添えることが, 受検者にとって正答を導く手がかりとなる可能性が示された。3)では, 性別及び群別の検討において, 低群と高群で性差が確認された。これらの結果から, わずかな設問の操作によって受検者の回答傾向に変化が生じることが示された。このことは, 設問などテストの構造的性質について実証的検討を行うことの意義を示している。
著者
岡田 いずみ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.287-299, 2007-06-30
被引用文献数
1

学習者の学習意欲を高めることは難しい。本研究は,学習者の学習意欲を高めるために介入研究を行い,その効果を検討したものである。学習意欲と関連の深いものに学習方略がある。学習意欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなされることが多かった。それに対して,本研究では「方略を教授されることで意欲が高まる」という仮説の下,介入を行った。対象は高校生であり,内容は英単語学習であった。英単語学習のなかでも,特に体制化方略を取り上げた。研究1では授業形態で介入を行った結果,学習方略の教授により,ある程度は学習意欲が高まったことが示されたが,十分とは言えなかった。そこで研究2では,方略の学習がより確実なものになるよう,教材を改訂し,介入を行った。また,研究2では,個人差を捉えるために検討項目として,方略志向という学習観と,英単語に対する重要性の認知が学習意欲の変化に及ぼす影響を検討した。その結果,方略志向の高低や,英単語に対する重要性の認知にかかわらず,学習意欲が高まったことが確認された。
著者
藤井 恭子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.146-155, 2001-06-30
被引用文献数
3

本研究では, 青年期の重要な友人との関係における心理的距離をめぐる葛藤について検討する。具体的には, 青年が友人との心理的距離をめぐり, 「近づきたいけれども近づきすぎたくない」, 「離れたいけれども離れすぎたくない」というように, 「適度さ」を模索して生じる葛藤である。本研究ではこの葛藤を, 「山アラシ・ジレンマ」として捉え, (1)青年期の友人関係における「山アラシ・ジレンマ」を抽出する, (2)「山アラシ・ジレンマ」に対する心理的反応の仕方を明らかにする, (3)「山アラシ・ジレンマ」とそれに対する心理的反応の仕方の関係について, 心理的距離の程度から明らかにする, ことを目的として研究を行った。その結果, 近づくことに対するジレンマ, 離れることに対するジレンマにおいて, 心理的要因がそれぞれ2つずつ抽出された。それらは, 対自的要因によるジレンマと, 対他的要因によるジレンマであると整理された。また, 生じた「山アラシ・ジレンマ」に対して, 「萎縮」, 「しがみつき」, 「見切り」という3つの心理的反応があることが明らかとなった。さらに, 対自的要因による「山アラシ・ジレンマ」ほど, 心理的反応に結びつきやすく, その傾向は相手との心理的距離を遠く認知しているほど強まることが明らかとなった。