著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002
被引用文献数
16

本研究の目的は, 学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川 (1995) によって提案されているが, 本研究ではその尺度の問題点を指摘し, 学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに, その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを, 学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に, 学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は, 精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが, モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として, どれか1つの学習観には大いに賛同するが, それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
竹島 克典 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.158-168, 2013-06-30 (Released:2013-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
3 1

本研究は, 小学校において, 抑うつ症状を示す児童の仲間との社会的相互作用を行動観察し, その対人行動の特徴と機能的関係を検討することを目的とした。自己記入式の抑うつ評価尺度を用いて抽出した抑うつ症状を示す高学年児童10名について, 学校内の2つの場面で行動観察を実施し, 仲間との相互作用について低抑うつ児童10名との比較を行った。観察1では, 学校の休憩時間に抑うつ症状を示す児童の自然観察を行った。観察2では, グループの問題解決課題場面を設定し, 抑うつ症状を示す児童と仲間との相互作用を観察した。その結果, 抑うつ症状を示す児童は, 自然場面において孤立することが多く, 仲間との相互作用が少ないことが明らかになった。また, 観察2の結果から, 抑うつ症状を示す児童は, グループ場面においても孤立・引っ込み思案行動が多く, 仲間とのポジティブな行動のやり取りが少ないことが明らかになった。さらに, 相互作用の逐次分析から, 抑うつ児の孤立・引っ込み思案行動の下では, 仲間の攻撃行動が起こりにくいことが示された。 これらの結果から, 児童の対人行動および仲間の行動との機能的関係について考察し, 子どもの抑うつに関する対人モデルを検討した。
著者
伊藤 武彦 田原 俊司 朴 媛淑
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.75-84, 1991-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2 3

In a Japanese agent-patient-action type sentence, an agent is marked by the nominative particle GA and a patient is marked by the accusative particle 0. The aim of the present study was to compare the cue strength of 0 with that of GA in sentence comprehension of agent-patient relations and to find their developmental process. Because 0 is semantically simpler than GA, it was hypothesized that (1) the cue strength of 0 was stronger than that of GA and (2) the acquisition period of the former particle was earlier than that of the latter in Japanese children. Eighty Japanese native speakers of 5, 6, 7, 9, 11, 13, 15 years old and adults were instructed to listen to simple sentences and to judge which noun was the agent in an act out method by using miniature animals and objects. Stimulus sentences consisted of 27 sentence types composed of word order×particle×noun animacy combinations. The results were compared with Ito and Tahara (1986). The hypotheses were both verified.
著者
小塩 真司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.261-270, 2002-09-30
被引用文献数
25

本論文の目的は理論的に指摘される2種類の自己愛を考慮した上で,自己愛傾向の観点から青年を分類し,対人関係と適応の観点から各群の特徴を明らかにすることであった。研究1では511名の青年(平均年齢19.84歳)を対象に,自己愛人格目録短縮版(NPI-S),対人恐怖尺度,攻撃行動,個人志向性・社会志向性,GHQを実施した。NPI-Sの下位尺度に対して主成分分析を行い,自己愛傾向全体の高低を意味する第1主成分と,「注目・賞賛欲求」が優位であるか「自己主張性」が優位であるかを意味する第2主成分を得た。そして得られた2つの主成分得点の高低によって被調査者を4群に分類し,各群の特徴を検討した。研究2では,研究1の各被調査者のイメージを彼らの友人が評定した。384名を分析対象とし,各群の特徴を検討した。2つの研究を通して,自己愛傾向が全体的に高い群を,理論的に指摘される2種類の自己愛に類似した特徴を示す2つの群に分類可能であることが示された。
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.38-47, 1980-03-30

本研究は3コの実験からなっている。実験Iでは,併行弁別訓練事態において過剰訓練によって手掛り結合が形成されるか否かが,実験IIでは,手掛り結合に基づいて2コの弁別課題遂行間に相互作用が生じるか否かが,実験IIIでは,3コの弁別課題が併行して訓練される事態においても過剰訓練によって手掛り結合が形成され,そして相互作用が生起するか否かが検討された。 実験Iでは,32名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,そして過剰訓練(24試行または0試行)を受けた後,テストを受けた。テスト条件: 群Iは2コの弁別刺激対の負刺激が互に入れ替る条件であり,群IIIは2コの弁別刺激対とともに原学習時の正刺激が残存し,負刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IVは2コの弁別刺激対ともに原学習時の負刺激が残存し,正刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IIは群Iと同じ条件だが,過剰訓練を受けない条件である。主要な結果は次の通りである。1,群I,IIIおよびIVの弁別遂行間に差がみられなかった。しかもこれら3群のテストでの弁別遂行は過剰訓練期間中の弁別遂行に比べてそこなうことがなかった。 2,群IIは他の3群に比べて弁別遂行が劣っていた。 実験IIでは,64名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,過剰訓練(20試行または10試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件: 全体逆転群は2コの弁別課題ともに同時に逆転された。部分逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。分離逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は除去された。統制群は原学習,逆転学習ともに1コの弁別課題の訓練を受けた。主要な結果は次の通りである。1,過剰訓練を受けたとき,全体逆転群は他の3群より早く,また分離逆転群と統制群は部分逆転群に比べて早く逆転学習を完成した。2,全体逆転群の逆転学習は過剰訓練によって促進され,分離逆転群および統制群の逆転学習も促進される傾向がみられたが,部分逆転群の逆転学習は遅延された。 実験IIIでは,60名の幼児は3コの弁別課題を用いて併行訓練を受け,過剰訓練(30試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件:全体逆転群は3コの弁別課題ともに逆転された。部分逆転-I群は1コの弁別課題のみ逆転され,残りの2コの弁別課題は逆転されなかった。部分逆転-II群は2コの弁別課題がともに逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。主要な結果は次の通りである。1,標準訓練条件下と過剰訓練条件下とにおいて,全体逆転群の学習の速度と部分逆転群(IおよびII群ともに)のそれとが逆関係になった。2,部分逆転群(IおよびII群ともに)の逆転されない弁別課題における誤反応は過剰訓練によって増大した。
著者
金田 茂裕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.212-222, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2 1

本研究の目的は, 減法の求残・求補・求差の場面理解の認知過程について, 先行研究で使用された文章題に加え, 新たに作問課題を用いて調べ, それらの場面理解の難しさの程度と理由を明らかにすることであった。研究1(N=110)では, 式(6-2)と絵(求残・求補・求差の場面)を併せて提示し, 両方を考慮して適切な話を文章で記述することを小学1年生に求めた。その結果, 求残より求補, 求差の場面で正答率が低いことが示され, これらの場面理解は難しいという従来の研究の知見が確認された。さらに, 誤答内容を分析した結果, 場面間でその傾向が異なることが示され, 求補の場面では絵と対応しない誤答が多く, 一方, 求差の場面ではそれに加え, 式と対応しない誤答も多くみられた。同様の結果は, その4ヶ月後に実施した研究2(N=109)でも得られた。以上の結果から, 求補の場面では絵に表わされた全体集合と部分集合の包含関係を理解することが難しいこと, 求差の場面では式と絵の対応関係を考えることが求められる点が難しいことが示唆された。
著者
深谷 優子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.78-86, 1999-03
被引用文献数
1 2

本研究では, 生徒の学習を促進させる記述に改善するための, 実際的なテキスト修正の手法を提案する。ここで用いた手法はBritton & Gulgoz(1991)に由来するが, 本研究においてはそれを日本語のテキストにも適用可能で実用的となるように調整した。予備研究においては, その手法を中学校の歴史の教科書からの抜粋に適用し, 局所的な連接性がオリジナルテキストよりも高まるようにした修正テキストを作成した。実験では, テキスト該当箇所の内容をまだ学習していない中学1年生115人を2群に分け, 1群にはオリジナルテキストを, もう1群には修正テキストを呈示して学習させた。そして彼らの遂行成績を直後条件と遅延条件とで測定した。結果は, 修正テキストを読んだ群の方がオリジナルテキスト群よりもよい成績であった。この研究からの教育的示唆は以下の2点である。a) 新しい事項をテキストで学ぶときには, 局所的な連接性がよい(配慮されている)テキストを用いる方が, そうでないテキストを使うよりも生徒にとって恩恵がある。b) 本研究で用いた局所的な連接性の修正手法は, 教科書にも実際に適用可能であろう。
著者
柴田 玲子 高橋 惠子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.37-47, 2015 (Released:2015-08-22)
参考文献数
41
被引用文献数
2

人間関係をソーシャル・ネットワークとしてとらえて, 小学生の人間関係についての母子の報告のズレを検討するとともに, 母子の報告のズレと子どもの適応との関連を検討した。研究協力者は小学2~6年生(女児が47%)とその母親337組である。子どもの人間関係は集団式絵画愛情の関係テストで測定することにし, 子どもとその母親から独立に回答を得て母子の報告のズレを検討した。子どもの適応は小学生版QOL尺度によった。その結果, (1) 母子ともに愛情の要求の対象とする重要な他者を複数種あげたが, 子どもより母親の方があげた種類が多かった, (2) 子どもが報告した以上に母親は子どもにとって母親が重要だとし, 特に, 生存や安心を支える中核的な心理的機能を果たしているであろうとした, (3) もっとも頻繁に挙げられた対象が誰であるかを指標にして親しい人間関係を類型化すると, 類型についても母子の報告のズレは大きく, 母親の58%が子どもは母親型であろうとしたが, 子どもは24%にすぎなかった, (4) 母子の報告のズレの大きさは子どものQOLの低さと関連した。これらの結果にもとづいて, 子どもの人間関係における母子のズレの意味について論じた。
著者
吉野 巌 山田 健一 瀧ヶ平 悠史
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.83-83, 2015

62巻2号に掲載された「音楽鑑賞における演奏者の映像の効果―音楽心理学研究に基づく仮説の実践授業での検討―」の英文要約の中の誌名が誤っていたため,修正いたしました。
著者
水品 江里子 麻柄 啓一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.573-583, 2007

日本文の「~は」は主語として使われるだけではなく, 提題 (~について言えば) としても用いられる。従って日本文の「~は」は英文の主語と常に対応するわけではない。また, 日本語の文では主語はしばしば省略される。両言語にはこのような違いがあるので, 日本語の「~は」をそのまま英文の主語として用いる誤りが生じる可能性が考えられる。研究1では, 57名の中学生と114名の高校生に, 例えば「昨日はバイトだった」の英作文としてYesterday was a part-time job, を,「一月は私の誕生日です」の英作文としてJanuary is my birthday. を,「シャツはすべてクリーニング屋に出します」の英作文としてAll my shirts bring to the laundry. を提示して正誤判断を求めた。その結果40%~80%の者がこのような英文を「正しい」と判断した。これは英文の主語を把握する際に日本語の知識が干渉を及ぼしていることを示している。研究2では, 日本語の「~は」と英文の主語の違いを説明した解説文を作成し, それを用いて高校生89名に授業を行った。授業後には上記のような誤答はなくなった。
著者
黒丸 正四郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.48-53, 1956-03-25

It is not long since clinical psychology became a popular subject of study in Japan. Therefore, studies on the method of diagnosing and treating the patients have not been sufficiently made. The writer of this article wants to comment on methodology of clinical psychology. 1. Needless to say, clinical psychology aims to treat and cure the patients. Its practice calls for specific techniques as well as careful examination of general (or theoretical) psychology. 2. "To diagnose" means to detect the cause of the illness for treatment. To give correct diagnosis, clinicians should be versed with Jaspers' theory of method. Jaspers contends that it is most important in psychopathological studies to apply understanding (verstehende) psychology and explaining (erklaerende) psychology independently. 3. There are three methods in psychotherapy : namely, directive, non-directive and psychoanalytic. Only in actual practice, should one decide which of the three methods is desirable.
著者
藤友 雄暉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.66-69, 1981

幼児のことばの研究は, 幼児の生活場面において, メモや録音器を用いてことばを採集し, それを分析することが主流をなしてきた。しかし, このような資料は, 対象児の数が少数とならざるを得ないこと, 対象児によって採録した時の環境が異なり, 資料を直接比較できない場合があること, 対象児間に個体差が大であること, 資料が記述的なものになり勝ちなこと, 実験的に再現し, 追試により実証をすることが困難であることなどが短所として存在していた。それに対して, このような短所を克服する方法として, 全くの実験的手法, 特に学習実験によるものが考えられ, 実施されてきた。しかしながら, 実験的手法によるものは, 幼児の生活場面におけることばとは, かけ離れ過ぎたものが多く, したがって, 得られた結果は現実の幼児については, ほとんど何も言及することができないというような新たな問題を生じた。このような2つの方法が持つ短所を補うものとして, ある程度統制した条件下において, 幼児のことばを採集し, 分析する方法が考えられる。藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) は, 幼児に絵カードを提示し, 口頭作文を作らせるという統制条件下において, 幼児のことばを研究した。用いられた被験者は, 4歳児, 5歳児, 6歳児各34名, 計102名, 用いられた絵カードは21枚の採色がほどこされたものであった。得られた資料の分析には, FIG. 1に示された品詞の分類規準が用いられた。自立語の11品詞について, 藤友 (1979a) では4 歳児, 藤友 (1979d) では5歳児, 藤友 (1978) では6歳児の品詞別語彙数と総語数, 及び品詞別語彙表を得た。藤友 (1977a) では, 動詞・助動詞, 形容詞, 接続詞, 名詞の誤用例が分析された。藤友 (1977b) では, 幼児が作った口頭作文の内容分析, 助詞の誤用, 語音の脱落, 構音の誤りが分析された。藤友 (1979b) では, 正しく使用された助詞を分析の対象として, 幼児の助詞の習得に関する発達的研究が行われた。藤友 (1979c) では, 藤田・藤友 (1975) によって得られた93名の4・5歳児の助詞の理解に関する資料と, 藤友 (1979b) によって得られた68名の4・5歳児の助詞の生成に関する資料とが, 比較研究された。本研究は, 藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) と同一の資料を用いて, 正しく使用された助動詞を分析の対象として幼児の助動詞の習得に関する発達的研究を行うものである。<BR>大久保 (1967) は, 1人の幼児の1歳から3歳までの発話資料における助動詞を分析して,(1) 「た」「ない」「ん」「う」「よう」「ます」「です」「だ」「れる」「られる」「せ」「させ」「そうに」「そうな」「ように」「みたいに」「たい」などを3歳までに使用している。(2) 大部分の助動詞が3歳までに初出し, 過去, 現在, 未来, 可能, 命令, その他様々の表現が出来るようになってきている。(3) 助動詞全体では終止形がいちばん早く使われ多用され, 連用形, 未然形, 連体形の使われかたは少なかった。初出もおそい。との結果を得た。<BR>また, 竹田・望月・丸尾 (1969) は, 1歳, 1歳6か月, 2歳, 2歳6か月の幼児各20名と3歳児11名の発話資料における助動詞を分析して,(1) 発話内容を品詞別に分類して得られる助動詞の出現率は, 1歳6か月で 1.4%, 2歳0か月で5.7%, 2歳6か月で9.0%, 3 歳0か月で14.3%である。(2) 1歳6か月では完了・過去の夕の使用が稀にみられる。2歳では打消しのナイ, 断定ダ, デス, 2歳6か月では意志を表わすウ, ヨウの使用が増加している。2歳6か月以後, 僅かではあるが, 受身, 可能のラレル, 使役のサセルなどの助動詞も用いられる。(3) 活用形の上からみると終止形が最も多く, 連用形, 未然形の順になり, 仮定形, 連体形は殆ど使用されていない。との結果を得た。<BR>藤友 (1977a) では, 助動詞の誤用例が分析研究されたが, 使役「せる・させる」, 受身「れる・られる」, 可能「れる・られる」, 断定「だ」, 確認・過去「た」に関連する誤用がみられた。<BR>以上引用してきた研究はいずれも助動詞を独立の単語とみとめる立場に立つものであるが, 鈴木 (1968) 「学校文法のいわゆる付属語 (助詞, 助動詞) は, ここでは独立の単語と認めず, 語尾 (単語のおわりの部分), あるいはくっつき (付属辞) とみとめ, ともに単語の文法的な形あるいは文法的な派生語をつくるための文法的な道具とみる。」の立場に立つことも可能であることを付記しておきたい。
著者
山本 真理子 松井 豊 山成 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.64-68, 1982-03-30
被引用文献数
36
著者
磯部 美良 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-21, 2003-03-30

本研究の主な目的は,関係性攻撃を顕著に示す幼児の社会的スキルの特徴を明らかにすることであった。年中児と年長児の計362名の攻撃行動と社会的スキルについて,教師評定を用いて査定した。関係性攻撃得点と身体的攻撃得点によって,関係性攻撃群,身体的攻撃群,両高群,両低群の4つの群を選出した。社会的スキルについて群間比較を行った結果,両低群に比べて,関係性攻撃を高く示す子ども(関係性攻撃群と両高群)は,規律性スキルに欠けるものの,この他の社会的スキル(友情形成スキルと主張性スキル)については比較的優れていることが明らかになった。また,関係性攻撃群は,教師に対して良好な社会的スキルを用いていることが示された。さらに,関係性攻撃群の男児は友情形成スキルが全般的に優れているのに対して,関係性攻撃群の女児は友情形成スキルが一部欠けていることが見出された。これらの結果から,関係性攻撃の低減には,規律性スキルの習得を目指した社会的スキル訓練が効果的であることなどが示唆された。
著者
湯澤 正通 山本 泰昌
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.377-387, 2002-09-30
被引用文献数
8

本研究では,理科と数学の関連づけの仕方を変えた授業が,生徒の学習にどのように影響するかを調べた。公立中学校の2年生が金属の酸化に関して定比例の法則(化合する物質の質量比は一定である)を2種類の授業方法で学習した。実験群の生徒は,最初に,定比例の法則を原子モデルから演繹した後,数学で学習した比例の知識を用いて,酸化前後の金属の質量比を求める課題を2回行った。その際,理科と数学の教師がチームで指導に当たった。他方,統制群の生徒は,マグネシウムの酸化の実験を行い,そこから,定比例の法則を帰納した。また,酸化前後の金属の質量比を求める課題を1回行い,すべて理科の教師から指導を受けた。その結果,成績高群の場合,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,授業後のテストで,数学の関数の知識を用いて,酸化前後の金属の質量関係を予測し,計算する得点が高かった。また,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,誤差のある測定値を適切に理解することができた。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を,(1) 心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと,(2) 心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで,(2) に重点を置いて概観する。(2) の立場からの研究の課題は, さらに, a. 心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b. そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb. のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
藤原 健志 村上 達也 西村 多久磨 濱口 佳和 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-196, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
38
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, 小学生を対象とした対人的感謝尺度を開発し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から6年生までの1,068名を対象とし, 対人的感謝, ポジティブ感情, ネガティブ感情, 共感性, 自己価値, 友人関係認知, 攻撃性を含む質問紙調査を実施した。主成分分析と確認的因子分析の結果, 1因子8項目から成る対人的感謝尺度が構成された。対人的感謝尺度は高いα係数を示し, 十分な内的一貫性が認められた。また, 対人的感謝尺度は当初の想定通り, ポジティブ感情や共感性, 友人関係の良好さと正の関連を, 攻撃性と負の関連を有していた。以上より, 対人的感謝尺度の併存的妥当性が確認された。さらに, 尺度得点については, 男女差が認められ, 女子の得点が男子の得点よりも有意に高かった。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の感謝研究に関して議論された。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.293-301, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

Two concepts: social orientedness and individual orientedness, relating to two-dimensionality of self-consiousness, were proposed in order to grasp personality traits and adjustmental level and developmental level. Three questionnaires: an orientedness scale, a SD self-concept scale, and a self-esteem scale were administered to adolescent and adult subjects. The results showed that orientedness scores rose with increasing age, but a difference between males and females on both changing phase and process was found. Each orientedness changed in content, such as social orientedness following the next process: from dependency and others-direction to coexistence; on the other hand, individual orientedness followed the next process: from egocentrism to autonomy. These orientednesses mean the content of horizontal axis and vertical axis of two-dimensional developmental schema. From the relation with self-esteem, and discrepancy scores between real self image and two ideal-images: ‘social ideal self’,‘individual ideal self’, by SD self-concept scale, it was clear that the individuation process on emotional aspect, and the socialization process on the cognitive one could be observed.
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 SHARON VAUGHN
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
65
被引用文献数
2 10

Response to Intervention/Instruction (RTI) を基にした, 通常の学級における多層指導モデル (Multilayer Instruction Model: MIM〔ミム〕) の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が, 学習につまずく危険性のある子どもをはじめ, その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず, 参加群, 統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし, 25, 50, 75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に, パーセンタイルで分けた群内で, 教研式全国標準読書力診断検査A形式, MIM-Progress Monitoring (MIM-PM), 特殊音節の聴写課題の得点について, 参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果, 4つ全てのパーセンタイルの群で, 読み書きに関する諸検査では, 参加群が高く, 有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果, MIM導入後では, 指導形態の柔軟化や指導内容, 教材の多様化がみられ, クラス内で約90% の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
落合 良行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.332-336, 1983-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
3 7

孤独感の構造を解明した研究に基づいて, 孤独感の類型判別を行う手がかりとして, 2下位尺度からなる孤独感尺度 (LSO) が作成された。尺度項目の選出は, 因子分析の結果に基づいて行われ, 16項目 (LSO-U 9項目, LSO-E 7項目) がLSOの尺度項目として選定された。妥当性の検討は, 孤独感研究の現状から, 今後検討されるべき点も残されているが, LSOはかなり妥当性のある尺度であることが明らかにされた。また信頼性の検討は, 安定性の観点から行われ, LSOの信頼性は高いことが明らかにされた。以上の検討を経て作成された孤独感尺度LSOは, 孤独感 (とくに青年期の孤独感) の類型を判別する上でひとつの有効な手がかりとなるであろう。