著者
大西 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.340-351, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
24
被引用文献数
4 5

本研究では, 一般的な学生の学業領域に固有の知覚された無気力について探索的な検討を行った。研究1では, 学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し, 学業への取り組みの実際との関連から妥当性を検討した。研究2では, スチューデント・アパシーと抑うつとの相関から作成した尺度の特徴を検討し, クラスタ分析を用いて学業領域固有の知覚された無気力を類型化した。2つの研究の結果, 労力回避, 葛藤, 達成非重視という3つの知覚された無気力と, 無気力群, 低無気力群, 中間群, 達成非重視低群という4つの群が得られた。達成非重視は, これまでの無気力研究では検討されていないものである。その特徴は無気力的な行動が狭い範囲にとどまり, アパシー的な感情を感じることも少なく, 病的なモラトリアムではなく, アイデンティティの確立にむけて将来を考えている状態であることが示された。一方で学業課題の達成を非重視できない一群の学生は病的なモラトリアムの状態に固着しており, アイデンティティの確立に課題を抱きやすいことが示唆された。
著者
山口 利勝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.284-294, 1997-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

The purpose of this study was to examine the relations between conflicts with the hearing world and deaf identity in college students with hearing impairments. First, 48 college students with hearing impairments were asked to describe conflicts with the hearing world in order to collect questionnaire items. Second, a questionnaire regarding conflicts with the hearing world and deaf identity was administered to 141 college students with hearing impairments. Third, a scale of conflicts with the hearing world and deaf identity scale was constructed. Conflicts with the hearing world were divided into 5 factors: “Nonacceptance of disability”,“Lack of confidence”,“Feeling of alienation”,“Separation from the hearing”,“Conflicts with parents”; and the deaf identity was divided into 3 factors: “Deaf person identity”,“Hearing person identity”,“Integrated identity”. Fourth, relations between conflicts with the hearing world and deaf identity were examined. Multiple regression analyses showed that an integrated identity was the most desirable one.
著者
浜田 恵子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.129-141,189, 1963

(1) 大衆社会といわれる今日の社会状況では, 大衆社会的職業観の浸透が著しい。この職業観は, 個人を社会状況に「適応」させるけれども, 個人が職業をとおして社会を変革するという意味での, 職業の社会的意義をまつたく無視している職業観である。しかも, 中学校の進路指導では, 大衆社会的職業観を, 問題の多い適性概念によつて, むしろ積極的にうえつけようとしている。<BR>(2) 本研究では, 各階層の中学生のもつている職業観を質問紙調査法により明らかにしようと試みた。調査対象の中学3年生を, 親の職業を指標として階層I II IIIに分類した。<BR>(3) その結果, 第1には, 中学生の職業選択の基準には階層差がみられず, その基準としては, 大衆社会的職業観に基づいた基準があげられていることが明らかになつた。たとえば, 選択基準としては, 適しているか好きか, やりがいがあるか, 収入が多いか, 収入が安定しているか, などがあげられており, また, なりたい職業と, 収入の多さ, 地位の高さ, スマートさ, らくな程度, とは相関が高い。<BR>(4) 第2には, 中学生の学歴志望と職業志望には, 階層差があり, また, 将来の生活のイメージにも, 階層差の傾向がみられた。しかし, 自己の選択職業の評価に階層差はみられなかつた。<BR>(5) さらにいくつかの事例研究により, 中学生の社会状況に対する姿勢を, 状況へむしろ積極的に「適応」しようとするタイプから, 状況に対決していく志向をもつたタイプまでの, いくつかのタイプに類型化した。<BR>(6)以上の結果から, 中学生は, 現実には, 状況へ「適応」せざるをえないために, 大衆社会的職業観によつて, むしろ積極的に状況に「適応」しようとする構えをもつているといえよう。
著者
長濱 文与 安永 悟 関田 一彦 甲原 定房
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.24-37, 2009
被引用文献数
1 14

本研究の目的は, 協同作業の認識を測定する尺度を開発し, その信頼性と妥当性を確認することであった。まず研究1において, 大学生と専門学校生1,020名を対象として探索的な因子分析をおこなった。その結果, 協同作業の認識は, 協同効用, 個人志向, 互恵懸念の3因子18項目で構成されていることが示された。確証的因子分析をおこなった結果, 3因子モデルの十分な適合度が示された。そこで, この3因子からなる尺度を協同作業認識尺度とした。研究2では, 大学生と専門学校生2,156名を対象に調査をおこない, 3因子の併存的妥当性を検討した。また, 研究3では, 協同学習を導入した授業を受講した97名の大学生を対象に, 3因子の介入的妥当性と予測的妥当性を検討した。研究2と研究3の結果より, 協同作業認識尺度を構成する3因子の妥当性を確認することができた。最後に, 協同学習の実践場面における協同作業認識尺度の活用法や今後の課題について考察した。
著者
森 重敏
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1-11,60, 1969
被引用文献数
2

普通の1小学校における知的優秀児の検出によってその存在率を確認し,そこで試みたいろいろな調査によって,優秀児の発達的な特徴を検討した。それぞれの調査面において,少なからず知的優秀児の優位が認められたが,その他にも,傾向としてみられるかれらの優秀性が暗示された。と同時に,同等性も少なからず示された。そこには,調査法や実施面その他についての難点もいくらか反省点として見出されるのであるが,この調査を基礎として,残された次の課題,とくに性格特徴の把握へ進み・知的優秀児の本質の解明へ接近しようとするものである。付記:末尾ではあるが,本研究の遂行にあたってあたたかい御助言を賜わった山下俊郎先生,および調査実施に際して快く御協力くださった三光小学校校長遠藤五郎先生ならびに積極的に御尽力くださった外村近教諭その他の先生方に対して心から感謝の意を表したい。なお,実施に多大の労を要した諸種の検査および調査は,東京家政大学児童学研究室の上原万里子,伊藤礼子両助手の手によるものである。あわせて深謝したい。
著者
井関 龍太 川崎 惠里子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.464-475, 2006-12
被引用文献数
5

物語文と説明文から形成される状況モデルは異なるのか,異なるとすればどのように異なるのかを検討した。研究の枠組みとして,状況モデルに5つの状況的次元(同一性,時間性,空間性,因果性,意図性)を仮定するモデルを採用した。このモデルによれば,各状況的次元において連続的なイベントは互いに強く連合されるはずである。本研究では,イベント間の連合の強さを動詞分類課題における分類パターンによって測定した。実験1では,昔話と説明文を比較した。分析の結果,物語文と説明文では状況的次元の寄与が異なること,特に,空間性と意図性において異なることが示唆された。実験2では,昔話を小説に変えて追試を行い,空間性,意図性,距離の要因に異なる寄与を仮定する複数のモデルの適合度を比較した。その結果,空間性と意図性の寄与において差があるとするモデルが最もよい適合を示した。物語文では空間性の寄与が見られないのに対して,説明文では負の効果が認められた。また,物語文では意図性が連合を強めたのに対して,説明文ではほとんど効果が見られなかった。最後に,この結果の理論的意義及び実践的意義について論じた。
著者
伊藤 正哉 小玉 正博
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.74-85, 2005-03
被引用文献数
1

本研究では, 自分自身に感じる本当らしさの感覚である本来感を実証的に取り上げ, 自尊感情と共に本来感がwell-beingに与える影響を検討した。自由記述調査から尺度項目が作成され, 大学生男女335名を対象とした因子分析により7項目からなる本来感尺度が構成され, その信頼性と一部の妥当性が確認された。そして, 重回帰モデルの共分散構造分析により, 本来感と自尊感情の両方が主観的幸福感と心理的well-beingというwell-beingの高次因子に対し, それぞれ同程度の促進的な影響を与えていることが示された。また, well-beingの下位因子に与える影響を検討したところ, 抑うつと人生における目的には本来感と自尊感情の両方が, 不安・人格的成長・積極的な他者関係に対しては本来感のみが, 人生に対する満足には自尊感情のみがそのwell-beingを促進させる方向で有意な影響を与えていた。さらに, 自律性に対しては本来感が正の影響を与え, 自尊感情は負の影響を与えていた。以上の結果から, 本来感と自尊感情のそれぞれが有する適応的性質が考察された。
著者
本田 真大 大島 由之 新井 邦二郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.336-348, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
23
被引用文献数
11 3

本研究の目的は集団社会的スキル訓練(以下, CSST)が不適応状態にある生徒に与える効果を検討することであった。訓練対象は6学級の生徒228名であった。ターゲットスキルを決定するにあたり, 教師と生徒にニーズ調査を行い, その結果を生徒対象のオリエンテーションでフィードバックした。ターゲットスキルは「上手な聴き方」と「心があたたかくなる言葉」であり, それぞれ授業(50分)で1回ずつ, 合計2回の訓練が行われた。効果の検討にはターゲットスキルの自己評定, 教師評定, 仲間評定を用いた。分散分析で効果を検討した結果, 不適応状態にある生徒の仲間評定のスキル得点と仲間からの受容得点が増加した。3年生では仲間評定のスキル得点に加えて自己評定のスキル得点も一部増加したが, 教師評定のスキル得点は一部低下した。これらの結果から, ターゲットスキルの決定に生徒のニーズを考慮する実践の有効性, 不適応生徒に対するCSSTの効果の限界, 評定者間の結果の違いに関して考察され, 中学校でCSSTをより効果的に行うための方法が提案された。
著者
桜井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.29-35, 1989-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1

The purpose of this study was to investigate the effects of the instruction of evaluation (Experiment1) and the expectation of extrinsic rewards (Experiment2) on children's intrinsic motivation.In Exp.1, subjects were divided into evaluative and non-evaluative instruction groups.The former group was instructed to add the outcome to their academic achievement.After doing tasks in both groups, the method of free task choice (Sakurai, 1984a) was conducted.Four kinds of tasks were constructed in two dimensions: difficulty (easy-difficult) and curiosity (old-new). Evaluative instruction group preferred new tasks while the other group had a tendency to prefer difficult tasks.Between the groups, there was significant preference in curiosity of tasks but no significant preference in difficulty. In Exp.2, subjects were divided into expected and non-expected reward groups. The former group was instructed to give the performance-contingent rewards during doing tasks.In the situations of free task choice, both groups preferred difficult tasks, and only expected reward group preferred new ones.Between the groups, there was significant preference in curiosity of tasks but no significant preference in difficulty.Most of these results supported the Self Evaluative Motivation (SEM) Model proposed by Sakurai (1984a).
著者
藤本 愉
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.37-48, 2005

本研究では, 療育カンファレンスにおいて, いかに療育スタッフらは〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へとアクセスしているのか, 主に正統的周辺参加論 (Lave & Wenger, 1991) における「透明性」概念に基づいて談話分析を行った。その結果, 子どもが抱える問題を特定の「心理学的言語」 (Mehan, 1993) によって記述することは, スタッフ間の概念の共有化を円滑にする反面, 子どもが抱える問題への多元的なアクセスを制限してしまう可能性があることが示唆された。そして, 〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へのアクセスにおいて, 問題についての語り方が異なる場合, スタッフ問にコンフリクトが生じていた。また, 療育カンファレンスにおいて, スタッフによる主観的印象と, 心理検査によってもたらされた客観的結果との間のズレという形で, コンフリクトが生じたことが明らかになった。以上の分析から, 談話理論としての正統的周辺参加論の可能性と限界点が示された。
著者
寺尾 敦 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.461-472, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
50
被引用文献数
4 2

本レビューは数学的問題解決 (特に代数文章題の解決) における転移を促進する知識の獲得に焦点を当てたものである。数学の問題には「類似」目標課題と呼ばれるある難しい問題のクラスが存在する。どのような知識がこの類似目標課題への転移を促進するのかという問題の検討が本レビューの目的である。研究を整理するために, 獲得される知識の違いに関して,「例題アプローチ」「解法構造アプローチ」「構造生成アプローチ」という類別を用いた。「例題アプローチ」では, 獲得すべき知識は多数の例題とその解法であるとされる。このアプローチは類似問題への転移という問題に答えるものではなかった。「解法構造アプローチ」では, 獲得すべき知識は解法構造すなわち等式の形レベルの抽象的知識であるとされる。このアプローチにはこれを支持する実験的証拠が不足していた。「構造生成アプローチ」では, 獲得すべき知識は等式レベルより抽象的な解法生成のアイデアであるとされる。このアプローチは, まだ実験的証拠が十分でないものの, 最も有望なアプローチであると考えられた。我々は解法生成の知識の獲得に関して今後の研究課題を議論し, 獲得のプロセスを明らかにすることが必要であると主張した。
著者
田村 修一 石隈 利紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.291-300, 2002-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

この研究は, 教師の「被援助志向性」と「自尊感情」との関連を明らかにし, 教師への効果的な援助のあり方を検討するために行われた。日本の中学校教師214名から質問紙を回収した。分析の結果, 以下のことが明らかになった。女性教師は, 男性教師に比べ「被援助志向性」が高かった。男性教師は, 女性教師に比べ「自尊感情」が高かった。「被援助志向性」と「自尊感情」は共に, 年齢による差はなかった。また, 45歳以下の男性教師においては, 「自尊感情」が高いほど「被援助志向性」も高い傾向が見られた。一方, 41歳以上の女性教師においては, 「自尊感情」が高いほど「被援助志向性」が低い傾向が見られた。この結果から, 教師へのサポートをどのように供給したらよいかについて考察された。
著者
遠藤 由美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.p157-163, 1992-06

Traditionally, discrepancies between positive ideal-self and real-self have been associated with low self-esteem. The basic idea of general positiveness of real-self is considered an index of self-esteem. But Rosenberg (1965) emphasized two different meanings, that is, 'good enough' and 'very good' being involved in self-esteem. His self-esteem scale favored the former. In the present study, it was hypothesized that not a general positiveness, but a personalized positiveness together with a non-negativeness were correlated with self-esteem (Rosenberg). Personalized standard were defined as high rating scores of positive and negative ideal selves. The results of the present study supported the hypothesis, especially in a negative ideal-self. It was suggested that self-esteem was more a function of distance how far I am from the person who I won't to be.
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004
被引用文献数
47

本研究の目的は, 批判的思考の態度構造を明らかにし, それが, 結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に, 426名の大学生を対象に調査を行い, 批判的思考態度は, 「論理的思考への自覚」, 「探究心」, 「客観性」, 「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし, 態度尺度の信頼性・妥当性を検討した。第2に, 批判的思考態度が, 対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて, 大学生85名を用いて検討した。その結果, 証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また, 適切な結論の導出には, 証拠評価段階が影響することが分かった。さらに, 信念バイアスは, 批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ, この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
一柳 智紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.361-372, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
20
被引用文献数
5 1

本研究の目的は, 児童による話し合いを中心とした授業における児童の聴き方の特徴が, 学級や教科の課題構造の違いによりどう異なるか明らかにすることである。小学5年生2学級において, 担任教師による児童の聴く力の評価と, 社会科と国語科の授業を対象に直後再生課題を行い, 児童による再生記述について, 学級(2)×評価群(高・中・低)×教科(社会・国語)の3要因分散分析を行った。結果, 1)授業中の発言の有無にかかわらず, 「よく聴くことができる」と教師から認識されている児童は, 能動的に発言内容と発言者に注目し, つながりを意識しながら, 自分の言葉で発言を捉えていること, 2)学習課題の違う教科により, 発言のソースモニタリングや話し合いの流れを捉えるといった児童の聴き方の特徴が異なること, 3)学級により, 2)の教科による聴くという行為の特徴は異なることが示された。これにより, 学級や課題構造に伴う話し合いの展開の違いが, 児童の聴くという行為に影響を与えていることが示唆され, 今後より両者の関連を考察することが課題として示された。
著者
文野 洋
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.498-509, 2008-12

本研究では,小笠原村父島で行われたエコツアーの参与観察を行い,ツアー参加者へのインタビューにおける語りを社会文化的アプローチによって検討することにより,環境の学びのプロセスの特徴を明らかにした。持続可能性のための教育の視点からエコツアーにおける環境の学びの4つの側面を導き,これらがいかに語られるかを,ツアー経験の参照,他者の言及に焦点づけて分析した。その結果,1)エコツアーにおける環境の学びのきっかけとなるツアー経験の内容は一様ではなく,各参加者はさまざまな活動において学びを触発されていること,2)自分自身の生活環境を含む地域環境の持続可能性に関する語りは,交流を通じて見通すことが可能になった,エコツアーの活動に従事する人びとの小笠原の地域環境に対する認識や保護に取り組む姿勢を媒介としてなされることが示された。この結果から,エコツアーにおける環境の学びは,単線的なプロセスモデルでは適切にとらえられないこと,各参加者の学びのプロセスを把握する上で社会文化的アプローチが有効であることを論じ,最後に本研究の知見がエコツアーのプログラム編成に与える示唆について考察した。
著者
水本 深喜
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-126, 2018-06-30 (Released:2018-08-10)
参考文献数
36
被引用文献数
8

本研究では,青年期後期にある子が捉える親との関係について「精神的自立」と「親密性」から捉え,それらの父息子・父娘・母息子・母娘関係の差を明らかにした。首都圏の大学生に質問紙調査を行い,まず「親子関係における精神的自立尺度」および「親への親密性尺度」を作成した(分析Ⅰ)。これらの尺度を用いて親子関係差を分析すると,娘が捉える母親との関係は,他の組み合わせの親子関係と比較して信頼関係が高く,親密性が総じて高かった。加えて,娘は父親とは分離した認識を強く持っていた(分析Ⅱ)。精神的自立と親密性との関連をみると,親子関係の組み合わせにより,親との信頼関係の築き方が異なっていた(分析Ⅲ)。最後に「信頼関係」と「心理的分離」の2軸による親子関係の4類型を用い,親との関係が子の自尊感情,自律性,主体性に与える影響について検討すると,父親との関係においては,心理的に分離することが,子の適応や発達を高めていた。自尊感情において性差が見られ,母親と信頼関係を築かないままに心理的に分離している場合の娘の自尊感情は低かった(分析Ⅳ)。総合考察では,これらの検討から明らかになった親子関係の性差について論じた。
著者
勝井 晃
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.42-49, 1968-03

立体空間における方向概念の発達過程を明らかにするために,3才から11才までの児童を対象とし,かれらが上下・前後・左右のコトバ自体をその空間方向や対象物においてどのように把握しているかを発達的に検討した結果,下記の諸点が明らかにされた。 1. 自己身体を基準とした空間方向に対する客観的な理解の水準は各方向によって異なり,発達的にも明確な差が認められた。すなわち,上下方向は年令的にもっとも早く3&sim;4才において理解され,ついで前後方向が5&sim;6才において,さらに遅れて左右方向は7&sim;8才においてほぼ正確となる(Fig. 4)。 2. 方向判断の基準を対面人物に移動させたり,姿勢条件を変化させた場合には視点の移動が困難となり,多くの自己中心的な誤りを示す。この傾向は6才ないし7才までの児童において顕著であった(Table 2)。 3. 自己身体の左右および対面人物自体の左右に対する理解においても発達的に明確な差が認められ,年令的にみて両者間にはほぼ2年近くのずれが存在する。とくに,自己と対面者との相対的な逆関係が理解しうるのは8才ないし9才においてである(Fig. 4)。 4. 面前に定置された2個および3個の対象物相互の左右関係の理解において,3個の場合は,2個の場合にくらべてその相対的な関係判断が困難となる。発達的にみて7才ないし8才までは自己身体の左右を基準として絶対的判断をする傾向が強く,10才ないし11才において視点の移動が可能となり,対象物相互の相対的な左右関係が理解されうるようになる(Fig. 5)。 5. 自己と対面人物および対象物相互間の左右関係に対する理解能力と知能水準との間には正の相関関係が認められ,また,各被験者群間における地域差,学校差が認められた(Table 7, Table 8)。
著者
宮本 美沙子 福岡 玲子 岩崎 淑子 木崎 照子 中村 征子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.139-151,189, 1964

児童の興味を, 単に興味の種類や領域の実態をとらえるだけでなく, 条件場面を設定し, そこから展開する知的興味の種類と深さが, 児童の能力や内的成熟により, 興味の展開にどのような機能をもつて働きかけるのか, その質的なありかたを分析究明する方法を開発することを目的とした。<BR>まず, 児童の知的興味がどのような方向にあるのかを知る手がかりを得るため, 予備研究として, 小学2・3・4年児約850名を対象に疑問調査を行なつた。その結果児童の疑問の種類11項目を選出した。<BR>予備研究によつて得た項目の, それぞれの内容を代表するテーマを選び, 写真および絵により11枚の図版を作成した。小学3年児男子20名, 女子20名, 計40名を対i象に, 個人面接法により図版を提示し, 「知つているごと」「知りたいと思うこと」の2面から, 知的興味の展開を自由に口述させた。<BR>児童の知的興味の展開を, その反応を種類別に分類するのでなく, なぜ知的興味をもつに至つたのか, 児童の考えかたの展開の面から, 児童の反応の質的差異を中心にして分類し, 次の6分類項目を選出した。すなわち,(1)画面の説明 (画面に固執してそれ以上に発展しないもの),(2)自分の感情・感じていること,(2)自分の経験 (2)および(3)は, 画面からやや離れた考えかたをしていながら, 自分というわくから脱け出せないもの),(4)単に事象・現象のみをとらえた考えかた (画面から発展し, 目に見える現象や事象を, そのものの分類・性質・定義の面からとらえているもの),(5)事象・現象の原因や起る過程をとらえた考えかた (4)よりは発展しているが, まだ機能的な考えかたとしては説明不十分なもの),(6)事 象・現象を, 子どもなりに機能的にとらえた考えかた (現象を機能的に把握して考えを進めているもの) の6 分類項目が設定された。<BR>各個人のなまの反応を, 各図版ごとに上記の6つの分類項目にはめて区分整理し, 1枚の表に全貌がわかるように書きこみ, 個人の知的興味の展開が一目でとらえられるようにした。<BR>児童の反応の結果を,(1) 分類項目別, 図版別,(3) 男女別,(4) 学業成績との関係, から考察した。<BR>その結果, 小学校3年児は多くの疑問をもつており, その領域も広範囲にわたつていることがわかつた。また知的興味の展開には個人差がみられた。この年令では, おおむね物事を事象や現象の原因や起る過程をとらえた考えかたをする傾向があり, 興味の集中したテーマからみると, 知的興味の方向が社会へと拡大している姿がみられた。この研究からは知的興味における男女差はみられなかつた。知的興味の展開における発達的段階と学業成績の良さとは, 必ずしも平行していなかつた。このことから, 適切な指導と教育により, 児童の疑問や興味をとおして, 学業成績などには現われない児童の潜在的な能力をのばしうることが, 可能であるし必要であると思われる。また教科の内容のありかたを検討し, 指導の方針を考えてみることも必要であると思われる。いいかえれば, 児童の興味・関心を, より総合的, 体系的に方向づけることにより, 断片的な興味としてとどまるだけでなく, 学問的な態度へと発展させてゆく可能性もあるものと考えられる。<BR>以上の結果から, 児童の知的興味の展開をこのように質的に分析することにより, いままでに接近できなかつた角度を究明することができると考えられる。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.338-347, 2010
被引用文献数
3

本研究の目的は, 青年の友人関係における"異質な存在にみられることに対する不安"(被異質視不安)と"異質な存在を拒否する傾向"(異質拒否傾向)について, 青年期における変化と, 友人関係満足度との関連を明らかにすることであった。中学生260名, 高校生212名, 大学生196名を対象に, 被異質視不安項目, 異質拒否傾向項目, 友人関係満足度項目について回答を求めた。被異質視不安項目と異質拒否傾向項目をあわせて因子分析を行ったところ, 「被異質視不安」と「異質拒否傾向」に相当する因子が抽出された。友人関係満足度を含めて, 青年期における変化を検討したところ, 異質拒否傾向は変化せず, 被異質視不安は減少し, 友人関係満足度は高校生女子が低いことが明らかとなった。さらに, 異質拒否傾向, 被異質視不安, 友人関係満足度の関連をパス解析にて検討した結果, 女子及び高校生男子において, 異質拒否傾向が友人関係満足度を低め, 大学生男子以外で, 異質拒否傾向が被異質視不安を高め, さらに, 高校生女子と大学生男子において, 被異質視不安が友人関係満足度を低めていることが明らかとなった。