著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-23, 2014
被引用文献数
1

本研究の目的は, いわゆる「仲間はずれ」とよばれる, 異質な他者を集団から排除することについての判断の発達を検討することであった。研究1では, 小学生, 中学生, 大学生を対象に, 私的集団(遊び仲間集団)と公的集団(班)のそれぞれにおいて, 社会的領域理論の3領域(道徳, 慣習, 個人)に対応した行動の特徴を持つ他者に対する排除判断(集団から排除することを認めるか), その理由, 変容判断(その他者の特徴は変わるべきか)を求めた。その結果, 年齢とともに, 排除自体の不公平性に注目し排除される他者の特徴を区別しない判断から, 集団機能に注目し他者の特徴を細かく区別する判断へ変化した。小学生は2つの集団を区別して判断する一方で, 他者は変わるべきであると考える傾向が見られた。研究2では, 小学生と中学生を対象に, 友人への志向性の差と排除判断の関係を検討した。閉鎖的, 固定的な集団への志向性および友人への同調欲求が高いと, 集団排除を認めることが示唆された。最後に, 本研究の限界と今後の課題が議論された。
著者
本田 ゆか 佐々木 和義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.278-291, 2008-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究では, 小学校1年生の学級づくりに関する担任教師から児童への個別的行動介入の効果について検討した。4月から5月にかけての22日間の授業日において, 当初の3日間をベースライン期, 19日間を介入期, 7月・9月・11月の各3日間をフォローアップ期として教室内での授業場面における教師と児童の行動観察を行い, その記録について分析を行った。その結果, ベースライン期に急激に増加していた児童の問題エピソード数が, 担任教師による複数カテゴリーからの介入によって有意に減少していること, フォローアップ期においても効果が維持されていうことが明らかになった。また, AD/HD児の問題エピソードが, 学級全体の問題エピソード数の減少に影響されて改善されることが示された。さらに, 問題エピソードが多い場合は複数の教師による介入が効果的であること, 教師のプロンプトについては, その回数よりも質やタイミング, フィードバックの方法による効果が大きいことが考察された。
著者
守屋 慶子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.26-32, 1970-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8

非言語的認識から言語的認識への発達の過程で, 非言語的認識内容は言語的認識内容へ移行, すなわち言語化されてゆくが, 「言語化」ということの心理学的意味はどのようなものなのかという問題から出発して実験を行なった。作業仮説は以下のとおりである。(1) あるものに性質Qがないということの認識は「Qがない」という「言語化」によるQの「対象化」が行なわれないかぎり不可能である。(2×1) の仮説が正しいとすれば, 「対象化」としての「言語化」を外から行なつてやるとき, Qがないことの認識は可能になるはずである。(3) 認識主体とにつて「言語化」が「対象化」としての意味を獲得してゆく過程には一定の発達がみられる。実験の結果, 以上3つの仮説はいちおう検証された。さらに (3) の発達については以下のような段階がみられた。まず「言語化」が「対象化」としての意味をもちえず, 認識は外的な個々のものに直接依存している段階があり, このあと, 「言語化」が認識主体にとつて「対象化」の意味をもつ段階となるが, この段階にはその質のちがいによつて3つの段階が区別される。第I段階: 外からの言語化が対象化を可能にする段階第II段階:「対象化」そのものは外からの言語化を必要とするが, 同時に認識主体内部での「言語化」が, 外からの「言語化」によつて可能になる段階第II段階:識主体が外からの言語化を必要とせず, みずからの内で「言語化」が可能となる段階。この発達の過程は認識のさい必要とされる対象的行為の発達の過程と考えることができる。つまり対象的行為は, ものに対する直接的対象的行為から内言を介した対象的行為へと発達してゆくのである。
著者
山名 裕子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.446-455, 2002
被引用文献数
2

本研究での目的は,均等配分が幼児期に成立するのか,またするならば,どのような発達的な変化があるのか検討することであった。12個のチップを数枚の皿に配分させていく個別実験には,3歳から6歳までの幼児288名が参加した。主な結果は以下のようなものであった。(1)年齢の上昇に伴い正答率は上昇し,選択される配分方略が変化した。(2)どの年齢においても,チップを何回にも渡って皿に配分する数巡方略が選択されていたが,その方略を正答が導くように選択できる人数は,年齢の上昇に伴い増加した。この方略は従来指摘されていた方略であったが,(3)1個あるいは複数個のチップをそれぞれの皿に一巡で配分する一巡方略と,配分されない皿が残っている空皿方略が本研究で明らかになった。(4)また一巡方略の中でも特に配分前に皿1枚当たりのチップの数を把握する「単位」方略が明らかになった。この単位方略は数巡方略ほど,年齢の上昇との関係が明確ではなかった。
著者
角南 なおみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.323-339, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
41
被引用文献数
6 4

教師は日々, 子どもといかに関わればよいのかという点について模索しながら教育実践を行っている。だが, これまで介入が必要とされる問題場面での子どもとの関わりについて教師の視点から実践的意味を問い直し整理されることはほとんどなかった。そこで, 本研究は, 小学校教師34名に対し, 子どもに肯定的変化が見られた関わり経験について半構造化面接から得られた66データをグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。その結果, 【問題解決】【指導】【受容的関わり】【周囲への協力要請】【居場所と関係作り】の5つのカテゴリーが導出された。つぎに, 問題場面における教師の関わりの特徴を「教師主体の解決方略」「子ども主体の解決方略」「受容的関わり」の3種と関わりの場面を整理した。これらの分析結果をまとめ, 場面別の機能構造と問題の主体を仮定した仮説モデル1と, 時間の経過と問題の程度の連関を仮定して2次元配置した仮説モデル2を生成した。最後に, 教育現場での教師の指導と受容的関わりの相補的関与の可能性と, 子どもに肯定的変化を促す関わり要因について検討した。
著者
清水 健司 岡村 寿代
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.23-33, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
33
被引用文献数
5 4

本研究は, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark & Wells, 1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて, 認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果, 分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ, 適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして, 分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と, DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.247-254, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は, ジェンダーに関する認知的な枠組みとしての性差観とジェンダーに関わる他の意識との関連を検討し, その関連から性差観のジェンダー・スキーマの測度としての構成概念妥当性を検証しようとするものである。747名の女子高校生と726名の男子高校生に, 性差観, 異性意識, 性役割指向性, 性差に対する自覚の経験, 性差の原因帰属を尋ねた。その結果, 性差観の弱いことは次のことと関係していた。(a) これまでの生育過程で内面的な特性について性差を意識した経験がほとんどない,(b) 異性への関心や異性からどのようにみられているかということへの関心が薄い,(c) 女性の職業や社会的地位における男性との差を社会の仕組みに帰属させる,(d) 性役割指向性はアンドロジニーないし異性に向いている。このように性差観の弱さはジェンダーに関する意識や事態の脱性別化と関係しており, 性差観の構成概念妥当性が検証された。
著者
吉崎 一人 河合 優年 内田 照久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.95-103, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24

Using a dichotic listening test, the effects of attention on the right-ear-advantage (REA) for word recognition in 4-6 year children was analyzed. In Experiment 1, ear differences for word recognition was measured under free recall condition. The results showed REA in all year groups and suggested that the degree of left hemisphere advantage for word recognition did not change over 4-6 year group. In Experiment 2, ear differences during attentional condition was measured with the same children as Exp. 1. Attention was manipulated by requiring children to report from left or right ear first. In 4-5 year group, REA was obtained in both left- and right-ear-first conditions, but REA was not obtained in left-ear-first condition in 5-6 year group. These suggested the difference of attentional effects on REA between two year groups. In Experiment 3, ear differences during both left- and right-ear-first conditions was re-examined, six months later, with 4-5 year group. The results showed that REA was obtained in right-ear-first condition, but ear difference was not observed in left-ear -first condition. These findings suggested the possible effects of attention on the dichotic REA for word recognition even in preschool children.
著者
高橋 あつ子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-112, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

本研究の目的は, 自己肯定感を高めることをねらった実験授業プログラムを小学校の児童に実施し, その効果を自己意識と行動面から探ることであった。加えて, 自己を対象化する体験がネガティブに影響しないかどうかを吟味した。5年児童6学級206名のうち実験群4学級に4回の実験授業を行い, 前後と1ヶ月後に「Who am I?」による自己記述と各記述に対する感情評定・重要度評定をとり, その推移を統制群2学級と比較した。その結果, 実験授業を受けた児童は, 受けなかった児童より, 肯定的な記述が増え, 否定的な記述が減り, 肯定的な自己意識を高めたが, 行動面への影響は見いだせなかった。なお, 成功を内的に帰属しにくく, 失敗を内的に帰属しやすい帰属スタイルを持つ児童は, 自己意識を刺激する実験授業で, 最も慎重な配慮が必要と考えられるが, そのような帰属スタイルである自己卑下群において, 他者を拒否的にとらえる記述が有意に減少するなど, 意識面ではポジティブな変化が見られたが, 授業のみだと他者共生性が低下するなど行動面でネガティブな変化も見られた。
著者
深谷 達史 植阪 友理 太田 裕子 小泉 一弘 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.512-525, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
40
被引用文献数
1 5

近年の教育界では,基礎的な知識・技能の習得と活用に加え,自立的に学習を進める力として学習方略の習得が求められている。「教えて考えさせる授業」は,この両者の育成を目指したもので,(a)教師が意味理解を重視して基本事項を説明する,(b)ペア説明などで学んだことを生徒が確認する,(c)発展的事項を協同で解決する,(d)授業で学んだことをふり返るという4段階からなる。本研究では,研究授業や講演を含む,教えて考えさせる授業を中心とした算数の授業改善に取り組んだ公立小学校において,導入間もない1年目と導入から時間が経った2年目の比較を通じて,児童の学力と教師の指導がどう変わったかを検証した。全国学力・学習状況調査の結果,2年目の方が,算数A問題とB問題の成績が高く,算数Aの標準偏差が低かった。また,問題解決時の図表活用方略の使用を調べたところ,2年目の方が,図を使わずに不正解のケースが少ない一方,図を使って正解に至るケースが多かった。さらに,教師が指導案を作成する課題において,的確な働きかけを表す指導案得点が2年目の方が高い傾向が見られた。考察では,これらの成果を生んだ理由などを考察した。
著者
坂西 友秀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.403-414, 1994-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31

In a first study, teachers were asked to nominate the students who had either egoistic or altruistic charachteristics in their thinking and behavior in their everyday lives. The students chosen by the teachers completed the questionnaires concerning egoistic or altruistic thinking and behavior. The major findings were as follows; 1. Considerable discrepancies were found among the chosen students. 2. As for self-evaluation, the “egoistic students” considered themselves to be less egoistic than did the “altruistic” and “other students”. These results could be seen as reflecting the immaturity of the psycho-social skills of the egoistic students as compared to the altruistic students. The second study was carried out to prove the above assumption. Questionnaires about the social and psychological skill of the students were distributed to the teachers. After analysing the results, the assumption proved to he accurate. The results also indicated that it was more difficult for the teachers to discover the underlying causes behind the behaviors of “egoistic” students than those behind the “altruistic” students.
著者
神長 伸幸 大石 衡聴 馬塚 れい子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.531-543, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
3 3

視覚文脈を見ながら文を理解する際の処理の逐次性を5歳・6歳児および成人を対象に検討した。実験では, 「緑の猫はどれ」のように形容詞と名詞の組み合わせを含む文を聴覚提示し, 視覚文脈から指示対象となる事物を選ぶよう被験者に教示した。視覚文脈は, 指示対象を形容詞または名詞の提示により特定できる場合があった。課題中の眼球運動測定データより指示対象となる事物の注視頻度と瞳孔径を求め, 視覚文脈と年齢群の効果を検討した。成人群では, 名詞で指示対象を特定できる場合より形容詞で特定できる場合で指示対象の注視頻度の上昇が早かった。しかし, 5・6歳児では, 視覚文脈の注視頻度への影響が統計的に有意でなかった。瞳孔径を指標とすると, 6歳児は名詞で指示対象を特定できる場合に比べて形容詞で特定できる場合に瞳孔径の拡張が早かった。成人では, 名詞で特定できる場合に形容詞で特定できる場合よりも瞳孔径の拡張が大きい傾向が見られた。5歳児は視覚文脈の効果が瞳孔径に現れなかった。これらの結果より, 少なくとも6歳以降は視覚文脈に合わせた形で指示対象を逐次的に特定できると考えられる。ただし, 幼児は眼球運動制御が未熟で, 注視頻度のみから文理解の逐次性を安定的に検出するのは難しく, 瞳孔径が補完的な指標となり得ることが示唆された。
著者
細野 美幸
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.62-72, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

本研究は, 子どもは関係類似性を手がかりに類推のベースを想起するか否か, 関係類似性を手がかりに類推のベースを想起する場合いつ頃から可能か, について検討した。子どもにとって新しい概念(ターゲット)となじみのある概念(ベース)からなるアナロジーを用意し, 5歳前半から7歳後半の子ども184名に対して提示した。その際, ターゲットのみ提示するベース非明示条件と, ベースを提示してからターゲットを提示するベース明示条件を設けた。両条件ともに4つ組みのカード選択課題を行い, カード選択にあたっての理由づけを求めた。課題成績および理由づけ分析の結果から, ベースを明示されていれば6歳前半から関係類似性を手がかりに類推するようになるが, ベースを明示されていないと幼児にとっては難しく, 7歳前半頃から関係類似性を手がかりに類推のベースを思い出して類推するようになることが示された。このような発達的変化は, 抽象化された関係知識の獲得と関連するものと考えられる。
著者
藤崎 春代 木原 久美子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.133-145, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1

本論文は, 統合保育への支援の一貫として企画・運営した研修実践を, 協働による互恵性をキーワードとして分析した。研修実践は実践報告と実践交流から成り立つが, 報告準備段階から保育者と相談員 (心理の専門家) の協働作業が始まり, 一連の協働を通して, 次のようなふりかえりと互恵的な学びが行われることが分かった。第1は, 準備段階で, 相談員が保育者の保育意図や悩みに注目してその明確化を求めることにより, 保育者は保育意図や転換点をふりかえった。そのふりかえりを複数の立場の保育者間で行うことにより, 保育者は自分の立場に特化した専門性を意識化した。相談員も巡回相談活動が保育にどのように活かされたかを学んだ。第2は, 実践報告をテキストとした実践交流により, 異なる園の保育者同士の間でふりかえりの重要性への気づきがなされ, ふりかえりのモデル伝達がなされた。この保育者のふりかえり作業に立ち会うことにより, 心理の専門家をはじめ他専門家も保育者との連携を模索することを促された。最後に, 心理の専門家の研修への貢献を, 相談員としての側面と心理学研究者としての側面との2側面から考察した。
著者
鹿毛 雅治 藤本 和久 大島 崇
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.583-597, 2016-12-30 (Released:2017-02-01)
参考文献数
27
被引用文献数
4 8

「当事者型授業研究」とは, 教師集団による協同的な協議を通じて個々の教師の専門性を向上させるために, 当該授業者(教師), 当該学習者(子どもたち), 当該学校の教師集団を当事者として最大限尊重するようにデザインされた授業研究の一形態である。本研究では小学校での実践事例を取り上げ, 当事者型授業研究が教師たちの専門的な学習や成長に及ぼす効果について自己決定理論に基づいて検討した。談話分析, 質問紙法, インタビュー法を組み合わせたマルチメソッドアプローチによる分析の結果, 当事者型授業研究の実践によって, 当該授業の個別具体的な文脈を伴いながら教師や子どもに焦点化された写実的で精緻な情報が交流する協議会が実現するとともに, 教師がそのような協議会を繰り返し体験することを通じて, 授業研究において当事者をより重視すべきだという教師の信念(授業研究観)が形成され, 積極的な協議会参加と授業研究に関する成果に関する自己認識が促進されることなどが示された。本研究の結果は, 当事者型授業研究が教師たちの基本的心理欲求を充足することを通して, 彼らの動機づけや専門的学習, さらにはキャリア発達を促す可能性を示唆している。
著者
藤枝 静暁 相川 充
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.371-381, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
9 2

本研究の目的は, 学級単位の社会的スキル訓練 (Classwide Social Skills Training: CSST) を実施し, それが社会的スキルの程度の低い児童の社会的スキルの上昇に及ぼす効果を実験的に検証することであった。実験学級と統制学級を設定し, 各学級内の社会的スキルの程度の低い児童 (各10名) を対象とし, 彼らの社会的スキルを測定するために,(a) 社会的スキルの児童自己評定尺度,(b) 社会的スキルの教師評定尺度,(c) 5つの目標スキルの児童自己評定尺度を実施した。(a) と (b) は同一項目で構成され, 攻撃性・向社会性・引っ込み思案の3因子から構成されていた。これらの尺度は, CSST開始前から終了後まで計4回実施した。(c) は各目標スキルのCSST実施1週間前と1週間後に行った。(a) の結果からは, CSSTの有意な効果は証明されなかった。(b) の結果からは, CSSTの有意な効果が証明された。(c) の結果からは,「じょうずなたのみ方」スキル,「あたたかいことわり方」スキルにおいてのみ, CSSTの有意な効果が証明された。よって, 本研究ではCSSTの効果が明確に実証されたとは言い難かった。明確な効果が実証されなかった理由として, CSSTの実施方法, 目標スキルの選定方法, 夏休み期間中の児童への働きかけの欠如などが考察された。
著者
山口 剛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.380-391, 2012 (Released:2013-06-04)
参考文献数
26
被引用文献数
11 9

本研究は, 高校生における英単語学習方略使用の規定要因である, 認知的要因(方略の有効性の認知・コスト感, 学習観)と動機づけ要因(達成目標)のどちらがより方略使用を規定するかを検討した。また, 定期テスト後に方略使用の程度を変えようとするかという方略使用への意志の規定要因も検討した。その際に, 直前に実施された英語の定期テストに対する得点予想の高低における個人差によって規定要因が異なるかについても注目した。予想得点低群(84名), 中群(94名), 高群(112名)に分けて, 「学習方略の実際の使用」と「方略使用への意志」に対する各変数からのパスを仮定したパス解析を行った。その結果, 方略使用には一貫して有効性の認知から有意なパスがみられ, 方略使用への意志には方略使用と有効性の認知から有意なパスがみられた。しかし, 多母集団同時解析によるパス係数の大きさの比較を行ったところ, 得点予想高群はその他の群に比べてテスト前後では方略の使用程度を変えないのに対し, 低群では有効性やコスト感に介入することで使用程度が変わる可能性が示された。教育実践において, 動機づけ要因だけでなく認知的要因にも注目することが重要であろう。
著者
藤友 雄暉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.11-17, 1979-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1

The present study was designed to investigate the acquisition of Japanese “Joshis”, postpositional auxiliary words, in infants.The subjects were 102 infants age 4, 5 and 6 years. They were asked to make oral compositions, looking at the presented pictures. Twenty-one pictures were presented. Fourteen of them were concrete objects, and the others were geometric figures.The main results were as follows:(1) A group: developmental changes in the acquisition of Joshis were observed markedly between the ages of 4 and 5 years.Kaku Joshi...NI, GA, O, DE, EKakari Joshi...WA, MOFuku Joshi...KASetsuzoku Joshi...TE, DE, KARA, NONIKantou Joshi...YO(2) B group: developmental changes were observed markedly between the ages of 5 and 6 years.Fuku Joshi...MADESetsuzoku Joshi...TO, NODE(3) C group: the acquisition of Joshis developed gradually with age.Kaku Joshi...TO, KARA, YAKantou Joshi...NE
著者
杉本 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.153-162, 1991-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
4 1

This study was an attempt to investiga te why and how writers have reflections in writing opinion essays. This article focused on the processes of writers' examining, clarifying, and organizing knowledge in reflection. Previous studies had pointed out the importance of discourse knowledge in reflective writing. This study attempted to show the important role of task situation (i.e. relations between writers and readers, ideas they have, kind of text writers produce, content of the assertion) in reflection. In this experiment, Ss were assigned to one of three treatment groups (one writing with task situation, another writing without such situation but with the instruction to use discourse knowledge, and the control group) to examine effects of task situation and discourse knowledge. The major results were as follows: 1) Task situation activated persuasion schema which played a role as a perspective for writers to examine, to clarify and to organize knowledge in writing. 2) Given the instruction to use discourse knowledge without task situation, writers rarely organized knowledge coherently or held global reflective process.