著者
犬伏 和之 堀 謙三 松本 聰 梅林 正直 和田 秀徳
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.318-324, 1989-08-05
被引用文献数
13

堪水土壌中で作られたメタンが水稲体を経由して大気へ放出されることを確かめ,この過程を解析することを目的としたポット実験を行った.水稲体以外からのメタンの放出をできるだけ除外した方法を用いて,以下の結果を得た. 1)水稲を経由したメタン放出量は,それ以外の経由からのメタン放出量に比べ2〜10倍多く,0.16〜23 mg C/h/m^2 の範囲にあった.測定期間中(8月後半以降)では9月上〜中旬にメタン放出量のピークが認められた.またメタン放出量には日変化のある可能性が認められた. 2)日中に遮光すると,自然条件に比べメタン放出量が1.6〜5倍に増加した. 3)土壌にあらかじめ稲わら麦わらを混合した場合メタン放出量は2〜10倍に増加した.供試した土壌種別にみると,グライ土>灰色低地土>褐色低地土の順になった. 4)水稲根圏へメタン溶存水を注入すると,ただちに水稲地上部から大量のメタンが放出された.一方,水稲根圏へ酢酸ナトリウム溶液を注入すると,22日後に水稲地上部からのメタン放出量が極大に達した. 5)水稲を地上約 10cm で切断し切断面からのメタン放出量を経時的に測定したところ,切断直後に放出量は一時減少したがその後漸増し4時間後には切断直後の1.5〜4倍になった.
著者
庄子 貞雄 三枝 正彦 後 藤純
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.264-271, 1986-06-05
被引用文献数
3

本研究は,夏畑作物栽培における下層土の重要性(機能)を明らかにするため,2か年にわたって東北大学農学部川渡農場で実施したものである。試験区は,作土として熟畑化した川渡黒ボク土を,下層土としては強酸性の非アロフェン質黒ボク土(未耕地の川渡黒ボク土と焼石黒ボク土)と弱酸性のアロフェン質黒ボク土(未耕地の蔵王黒ボク土と十和田黒ボク土)を使用した。供試作物には耐旱性が強いが,耐酸性の弱いソルガムを使用し,施肥栽培を行った。なお窒素の行方を追跡するために,重窒素硫酸アンモニウムを使用した。得られた結果は以下のとおりである。1)基肥窒素の土壌中での挙動は,梅雨期の降雨量によって大きく左右された。空梅雨の1982年の場合には,基肥窒素由来の無機態窒素は,下層土へほとんど移動することなく消失したのに対して,梅雨期の降雨量の多かった1983年の場合には,急速に下層土へ移動した。2)ソルガムの根の生育をみると,強酸性下層土区では,作土下で強い酸性障害を受け,下層土への伸長が抑制された。これに対して弱酸性下層土区では,ソルガム根は下層土深くまで伸長した。3)地上部の生育は,1982年の場合はいずれの区でも順調で,下層土の酸性状態の影響が小さかった。これに対して1983年の場合には,酸性下層土区で著しく不良であった。この理由は,初期から梅雨によって,無機態窒素が作土から下層土へ移動したためと,強酸性下層土区では,ソルガムの窒素吸収が著しく減少したことによるとみられる。4)ソルガムによる基肥窒素の利用率は,1982年の場合は42〜49%で,試験区間の差が小さかった。これに対して1983年の場合は,弱酸性下層土区は前年並であったが,強酸性下層土区では11〜18%と著しく低かった(その理由は3)のとおり)。ソルガムの地上部の生育は,基肥窒素の吸収量によって大きく左右された。5)追肥窒素の利用率は,2か年とも大差なく,53〜69%と高い値となった。この理由は,追肥時期のソルガムは養分吸収能が大きくなっていること,また追肥直後に大雨がなかったことによるとみられる。6)作土で無機化される土壌窒素も雨水によって下層土へ移動するため,雨の多かった1983年の場合には,ソルガムはかなりの量の土壌窒素を下層土から吸収していることがうかがわれた。7)本研究ならびに先の著者らの冬作物を供試した研究結果から,下層土は畑作物による水分とともに,窒素(施肥および土壌由来)養分の重要な吸収の場所である。したがって畑作物の生育は下層土の良否に大きく左右されることが明らかとなった。
著者
本城 淳子 安藤 豊 角田 憲一
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.480-487, 2000-08-05
被引用文献数
2

The relationship between the establishment of seedling directly sown on well-drained paddy field and reduction condition and/or temperature was investigated without coated calcium peroxide. The experiment was conducted in an incubation box under two different temperature conditions (15 and 17℃) and two moisture conditions (flooded and unflooded) under lighted conditions. There were four plots, i.e. high temperature and flooded plot (HTF), low temperature and flooded plot (LTF), high temperature and unflooded plot (HTU), and low temperature and unflooded plot (control, C). Change of the conditions (15 to 17℃ and/or unflooded to flooded) was carried out in 3-d intervals from 0 d after sowing (DAS). Emergence percentage (number of emerged seedlings/number of seeds sown), establishment percentage A (number of established seedlings/number of seed sown) and establishment percentage B (number of established seedlings/number of emerged seedlings) were elucidated. 1) The earlier the change of conditions, the lower the emergence and establishment percentages were observed in HTF as compared with HTU. Higher emergence and establishment percentages were obtained in HTF than LTF when flooding and temperature changes were conducted before 15 DAS. 2) Effect of the beginning time of flooding on establishment percentage B related on the growth stage of rice seedling. Establishment percentage B was divided into 3 groups by the beginning time of flooding, i.e. the lowest was 0 to 3 DAS, medium was 6 to 12 DAS and the highest was 15 to 21 DAS. 3) Consequently, the time after emergence of seedling was the suitable stage for the start time of flooding to obtain high and stable establishment of seedlings of rice plant.
著者
堀口 毅
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.226-232, 1989-06-05

1) トウモロコシの品種の中からアントシアニンを集積しやすいイエローデント(YD)とアントシアニンを集積しにくいゴールデンクロスバンタム(GC)を選び,窒素,リンおよびマンガンを欠除させた培養液を用いて,これらの養分が全フェノール,アントシアニンおよびその他のフェノール性化合物の含有率に及ぼす影響について検討した。全フェノールおよびフラバノール含有率は,YD,GCともにリン欠除もしくは窒素欠除によって増加し,窒素欠除による増加はリン欠除による増加よりも著しかった。アントシアニンについては,とくにYDのリン欠除区において著しく増加したが,GCでは処理により変化はわずかであった。ロイコアントシアニンについては,YD,GCともにリン欠除区で含有率が高かった。イエローデントをマンガン欠除処理すると,アントシアニン生成が抑えられ,リン欠除の場合にもアントシアニンがほとんど集積しなかった。 2)赤レタスと赤キャベツを用いてフェノール代謝に及ぼすマンガンの影響を検討した。植物はマンガン欠除培養液で水耕培養したのち,葉身のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)活性,全フェノール,アントシアニンあよびクロロフィル含有率を測定した。対照区の赤レタス,赤キャベツは赤色に着色したがマンガン欠除区のものは緑色であった。赤レタス,赤キャベツともにマンガン欠除によって,PAL活性,全フェノールおよびアントシアニン含有率が低下し,とくにアントシアニン生成は,マンガン欠除によって著しく抑制された。マンガン欠除区の赤キャベツ上位葉のクロロフィル含有率は対照区とほとんど変わらなかったにもかかわらず,アントシアニン含有率は著しく低下した。マンガンのフェノール代謝とアニン生成への影響は,光合成への影響とは異なる直接的なものであることが示唆される。
著者
小原 洋 中井 信
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.59-67, 2004-02-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
15
被引用文献数
31

可給態リン酸は,定点調査実施期間において全国的に明瞭な増加を示した.地目別には,施設と茶園が非常に高いレベルにあり,水田と牧草地が低かった.土壌群別では,水田としての利用が多い土壌群と黒ボク土グループが低い含量を示し,樹園地や普通畑に多く使われている岩屑土,非黒ボク土グループの褐色森林土,赤色土,黄色土,褐色低地土,砂丘未熟土が高い含量を示した.地域的には,瀬戸内から中部地域で高い含量を示した.また,地域区分によると中部,東海地域が高い含量を示した.経年的には,地目別,土壌別,地域別などによる区分の多くで1巡目から3巡目までは明瞭な増加傾向が認められた.しかし,3巡目から4巡目には増加率が低いなど,減少傾向を示す区分が多く,水田を中心に可給態リン酸の増加傾向が鈍化していた.これには化成肥料のリン酸投入量にみられるようなリン酸施肥量の減少が貢献していた.改善目標値と比較すると,目標値以下の部分は水田や普通畑では改善されつつあるが,4巡目でもまだ2割程度は不足域にある.一方,目標値の適正域を超える地点は,水田・牧草地では少ないが,その他の地目では10〜78%程度とかなりの割合を占め,増加傾向にある.
著者
中村 隆一 日笠 裕治 村口 美紀
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.317-322, 2003-06-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

To clarify the relationship between nutrient concentration in heads of broccoli and the occurrence of head rot, N and Ca application experiments were carried out. 1) The increased N application promoted the occurrence of head rot. N concentration was higher in rotted heads compared with healthy ones. Foliar spray of Ca increased Ca concentration in heads and suppressed head rot. 2) Both N and Ca concentration had influence on head rot. The Ca/N ratio of heads had negative correlation with the occurrence of head rot, and with a ratio of more than 0.2, frequency of head rot was less than 10% ; with a ratio of more than 0.3, head rot didn't occur. 3) Split application of N increased Ca amount in heads compared with basal application, and was effective to control head rot. 4) In low land soil, head rot mainly occurred in thin layer or poor drainage land. Based on these results, we concluded that i) concentration of N and Ca have influence on the occurrence of head rot and ii) improving N application method, improvement of soil physical property and Ca foliar spray are effective to control head rot.
著者
結田 康一 駒村 美佐子 小山 雄生
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.165-172, 1990-04-05 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
2

チェルノブイリ原発事故によって我が国にもたらされたI-131のコムギ地上部および土壌汚染に対する降雨の影響について,圃場での測定結果より解析した.1)コムギ地上部のI-131汚染に最も関与するのは,降雨に取りこまれない大気中のI-131である.非降雨期にはコムギ地上部のI-131濃度は経日的に増加していったが,降雨があると減少傾向を示し,とくに日降雨量が10mm以上の場合は前日より7〜35%の減少率を示した.2)土壌のI-131汚染に最も関与するのは,コムギ地上部の汚染の場合と異なり降雨に取り込まれたI-131である.表土中I-131濃度は降雨があると増加(大気中I-131濃度が低下した5月下旬は除く)しており,その増加率は前日比で9〜90%であった.増加率の幅が大きいのは,降雨中I-131濃度×降雨量で決まるI-131降下量に大きな違いがあるためである.一方,非降雨期には大気中I-131濃度が高くても表土中I-131濃度は減少傾向を示した.3)5月8日から10日にかけての表土中I-131濃度の50%もの減少は,表土から大気中へのI-131の揮散が降雨後の快晴,高温という気象条件によって促進されたためと推測された.4)地方面に降下したI-131はかなりの降雨があっても下層へ浸透しにくく,降下が始まった5月3日より48日後の6月20日においても0〜1cmまでの表層に57%が残留し,残り43%も1〜7cmの層に留まっていたCs-137,Cs-134に比べると土壌吸着力が弱く浸透しやすかった.5)コムギ地上部沈着I-131の水洗浄による除去率も同レベルと推測された.6)降雨中のI-131の存在形態はIO_3が主体で,次いでI^-であり安定ヨウ素の存在形態とも近似していた.
著者
山口 千仁 高橋 智紀 加藤 邦彦 新良 力也
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.174-181, 2021-04-05 (Released:2021-04-13)
参考文献数
19

アブラナ科根こぶ病などの土壌病害の防除には弱アルカリ性(pH 7.5程度)への土壌pHの矯正が有効である.土壌によってアルカリ資材添加に応じたpH上昇程度は異なるため,矯正に必要なアルカリ資材添加量の把握は煩雑で,より簡易な推定法が求められる.本研究では,東日本および北海道の水田土壌約230点にアルカリ資材として転炉スラグまたは消石灰を加え,土壌pH緩衝曲線を描いた.そして,この曲線を簡易なシグモイド曲線として数式化し,土壌pH緩衝能の指標である定数部分を,土壌調査によって知ることができるパラメータで表すことを試みた.定数部分を粘土含有量と全炭素含有量で表した回帰式の決定係数は転炉スラグで0.333, 消石灰で0.429だった.両含有量から推定したpH緩衝曲線に資材添加量を代入し算出されるpH値と実測値との関係を調べた.転炉スラグの場合,資材投入量がアルカリ分換算量で0.025~0.25 g/10 g乾土のとき,回帰式の決定係数は0.609–0.810と高く,この時のpHは酸性~弱アルカリ性に相当した.消石灰の場合,回帰式の決定係数が0.5より高いのは資材投入量がアルカリ分換算量で0.025~0.05 g/10 g乾土のときであり,pHは酸性~弱アルカリ性に相当した.このことから,作成した推定式は酸性改良や弱アルカリ性への土壌pH矯正に用いることができると考えられた.
著者
井上 克弘 張 一飛 板井 一好 角田 文男 趙 静
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.223-232, 1995-06-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
35
被引用文献数
7

Seasonal changes of water-insoluble, soluble and gaseous F concentrations of aerosols in day and night times from June, 1988 to April, 1989 in a non-industrial area, were investigated in Morioka, Northeast Japan. The water-insoluble and soluble F concentrations were higher from November to April than from June to October. On the contrary, the gaseous F concentration was high in summer, probably because of influences of the steel industrial area in the Pacific coast region and wind-blown sea salt from the Pacific Ocean. The water-soluble F concentration of aerosols from Changchun, Northeast China in March and July to December, 1991,which are mainly due to coal soot, was extremely high in the winter season and was 116 times higher than that from Morioka. In addition, Holocene, Malan and Lishi Loesses, loess-derived soils, and saline soils from Xinjian Uygur Zizhiqu, the Loess Plateau, and Northeast China, where there is a high incidence of endemic fluorosis, contained a considerable amount of water-soluble F. However, the amount of water-soluble F in loess-derived soils from Korea and Japan was very low, indicating that F was leached out by heavy rainfall. The aerosols collected at Morioka from winter to spring contained a significant amount of coal soot and eolian dust. The F concentration of aerosols in Japan, therefore, could be influenced by coal soot and eolian dust transported from the Asian continent. These airborne particles could affect the water-insoluble and soluble F concentrations of aerosols in Japan.