著者
松浦 茂樹
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-71, 2018-04-01 (Released:2019-05-31)
参考文献数
13

綾瀬川は,埼玉平野の中央部を流れ,その開発と深く関わっている。今日では備前堤直下からの流れとなっていて,その上流の元荒川と分離されているが,元々は荒川が流下していた。戦国時代になって,備前堤と一体的に慈恩寺台地が開削され,荒川は元荒川筋に転流した。 備前堤の存在を前提にし,下流部では開発が進められた。近世になると,用水源として元荒川からとともに見沼溜井から導水されたが,享保年間には見沼代用水路が整備された。 備前堤には,荒川とともに利根川の氾濫水が襲ってきた。このため備前堤で防御され,その増強を図る下流部と,湛水するためそれを阻止しようする上流部との間で厳しい軋轢が生じた。大洪水のときには上流部は堤防切崩しを行い,自らの水害を少なくしようとした。両者間で堤防の高さを決めるなど調停が図られたが,近世では解決に至らなかった。 近代になると,利根川・荒川では国直轄により改修が進められ,それを背景に埼玉県は綾瀬川改修を行おうとした。だが下流部は東京府内を流下する。下流部を改修しないと埼玉県内では進められない。府県間で対立となったが,結局は,かなりの費用を埼玉県が負担し,埼玉県で事業は進められた。
著者
土屋 信行
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.11-34, 2012-12-01 (Released:2017-07-12)
参考文献数
23

The formation of the part of Tokyo East Lowland(below sea level area)and the uncertainties of flood hazards there: Tokyo East Lowland is characterized by the gather of mouths of the Tone,the Arakawa and the Sumida rivers in a narrow area. Therefore, Edogawa city at their down streams always fears flood disasters, which is the low land less than zero mean sea level. The heavy inundation will happen in the drainage area even pumping up water, in the coastal area by high tide and at any local areas with guerrilla rainfall. Tokyo East Lowland including Edogawa city is on the deep as the maximum of 40m alluvium soil layers, which are composed from loose sands and soft clays. The ground water used to be significantly pumped up for the industry and to obtain methane gas. The significant ground settlement by the dewatering made the land to be below the sea level. If the river dykes were collapsed by the earthquake, the 70% of Edogawa city would be flooded. As Japan is also located just on the course of the typhoons,the huger ones than ever might possibly attack Tokyo. Therefore, in this study the worse cases of the Kathleen typhoon in 1947 were assumed and several typhoon patterns were simulated in Kanto area for the uncertainties of flood hazards. Finally, it was found that the design flood at Yattajima of the Tone river might be exceeded in the case of shifting the course of Kathleen in 1947 by only 50km to the northwest. Therefore, the author has concluded that flood prevention works must be conducted for the such worse situations. It is concluded that Tokyo and Edogawa city are always feared by huge flood disasters never experienced and their dykes will be the key of life line for Tokyo and Japan.
著者
村上 茂樹
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-99, 2012-04-01 (Released:2017-07-12)
参考文献数
34
被引用文献数
1
著者
阿部 和夫
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.92-107, 2012

江戸時代末期の盛岡藩三本木原(現青森県十和田市)は,冷涼な風が吹き渡る不毛な所だった。この地が多くの人々が生きる豊かな大地と変わったのは,江戸時代末期~明治時代初期,盛岡藩士新渡戸傳が,奥入瀬川を水源に新田開発を行ったことによるものである。三本木原の用水開削事業が,その進展とともにどのような課題に出会い,またそれをどのように解決してきたかを検討した。
著者
今村 隆正
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.123-144, 2021-12-01 (Released:2023-08-22)

愛知県は,国土交通省が発表する都道府県別土砂災害発生状況で見ると,平成21年(2009)から平成30年(2018)の過去10年間における平均順位は,47都道府県中45位である。土砂災害履歴の比較的多い中部地方において,目立って発生状況の少ない県である。 本稿は,歴史資料(古文書,愛知県史,市町村誌等)調査,ヒアリング調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に愛知県で発生した,歴史に記録され,語り継がれる土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。
著者
松浦 茂樹
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.1-36, 2021-10-01 (Released:2023-01-11)

明治から今日までに治水を目的とする利根川改修計画は,7回策定された。 1886(明治19)年着工の計画,1900(明治33)年着工,1910(明治43)年着工,1938(昭和13)年着工,1949(昭和24)年着工の計画である。さらに1980 (昭和55)年着工,2005(平成17)年改訂の計画である。 これらを基準点である中田(栗橋)の計画対象流量でみると,1886(明治19)年の計画では定められず,1900(明治33)年計画では3,750m3/s,1938(昭和13)年計画では9,200m3/s,1949(昭和24)年計画では14,000m3/s(ただし上流山地部ダム群で3,000m3/sを調節)となった。1949(昭和24)年計画で,ダム群による調節が登場したのである。 1980(昭和55)年計画,2005(平成17)年計画でもダム群による調節が行わ れ,前者の計画では,6,000m3/sをダム群で調節し17,000m3/sであり,後者の計画では,5,500m3/s調節し17,500m3/sとなっている。 なぜこのように変遷していったのか。1949(昭和24)年計画までは計画直前に生じた洪水(既往洪水)を参考にしたのに対し,1980(昭和55)年と2005 (平成17)年の計画では,年超過確率によって机上計算をもとに定めていった。 計画手法が異なったのである。また,1949(昭和24)年計画までは既往洪水を参考にしたといっても,1938(昭和13)年・1949(昭和24)年計画ではピーク流量の最大値に基づいて定めていったのに対し,それ以前の計画では異なっていた。1886(明治19)年計画では,対象とする洪水がそもそも小さかった。 1900(明治33)年計画では,最大流量ではなく,それより小さい流量を対象と したのである。
著者
松浦 茂樹
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.211, pp.41-63, 1993 (Released:2011-03-05)