著者
永田 靖
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.93-108, 1998-10-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
17
被引用文献数
7 8

統計的多重比較法の適用において,実務家から寄せられた疑問点を材料にして,「多重比較法に関する誤解・誤用」,「多重比較法を用いる際の注意点」などについて検討する.取り扱う内容は,「分散分析と多重比較法との関係」,「ノンパラメトリック法にっいての誤解と注意」,「Scheffeの方法やDuncanの方法について」,「対照群が複数個ある場合の考え方」,「検出力とサンプルサイズの設計について」,「毒性試験・薬効試験における多重比較法の適用の妥当性」などである.
著者
岩崎 学
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1-2, pp.43-54, 2022 (Released:2023-01-12)
参考文献数
36

昨今,統計・データサイエンスが大いに広がりを見せ,データ分析に携わる人々の数も増加しつつある.その中で,統計学の教育や訓練がやや不足がちの人たちもいることから,「因果」と「相関」について,特に回帰分析の枠組みで考える.また近年,オープンデータの利活用が話題となっている.この種のデータの特徴は,集計データであることである. そこで,集計データから個人の行動を推論する方法論としてのエコロジカルインファレンスが重要性を帯びてくる.本稿では,身近な例を取り上げ,それらの分析結果を提示すると共に,その解釈について詳しく議論する.特に,回帰分析の3つの役割である「記述」,「予測」,「制御」の違いを明確にすべきであることを強調する.また,それらのデータは集計データであることから,エコロジカルインファレンスのいくつかの技法を適用した結果も示す.例を2つ示したが,それらは全く同じ数値でありながらコンテクストが違うものである.したがって,解析の数値的な結果は全く同じであってもその解釈が異なっている. 本稿で伝えたいメッセージの第一は,データは数値と背景情報からなることという認識である.コンピュータのできるのは「数値解析」であり,「データ解析」を行うためには背景情報を十二分に吟味しなくてはいけないことを改めて伝えたい.
著者
松田 孟留
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-11, 2020 (Released:2020-08-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

競技かるたとは,百人一首の札を取る速さを競うスポーツである.上の句が詠み上げられるのを聞いて対応する下の句の札を取り合うが,どの札が詠まれたか一意に定まる最初の数文字のことを決まり字とよぶ.たとえば,「ち」で始まる札は3枚あり,決まり字はそれぞれ「ちは」「ちぎりき」「ちぎりお」である.しかし,実際には決まり字を聞くよりも早い段階で札が識別できるという選手も多い.そこで本研究では,ベイズモデルを用いた音声解析によって,札による詠み音声の違いがどの時点で生じるかを調べた.選手が詠み音声を聞いて札を識別する過程を逐次ベイズ推定として定式化し,詠み音声の生成過程を隠れマルコフモデルでモデル化した.すなわち,選手は詠み音声を聞きながら札の事後分布を逐次更新し,事後分布が1つの札に集中した時点で札を識別すると仮定し,札の事後分布の更新には隠れマルコフモデルの周辺尤度を用いるとした.このモデルを用いて「おおえ」「おおけ」「おおこ」の3枚の詠み音声データで実験した結果,「おお」の段階でこれらの札を識別できることが確認された.
著者
五所 正彦 丸尾 和司
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.53-65, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
46
被引用文献数
1

データの欠測は,臨床試験の結果をゆがめ,解釈を困難にする重大な問題である.mixed-effects models for repeated measures(MMRM)は,線形混合効果モデルの一種で,不完全な経時測定データを解析するために利用される統計モデルである.特に医生物学の分野で急速に普及しており,臨床試験においては主要な解析に採用されることも多い.本論文では,MMRMに基づく解析を取り上げ,この方法の原理や性質,固定効果パラメータの推定ならびに統計的推測の方法を概観する.また,実際のデータにMMRMを適用する際の具体的な指定方法や注意点を紹介する.
著者
丹後 俊郎
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.81-96, 1989-01-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
13
被引用文献数
7 3

衛生統計学,疫学などの公衆衛生の分野では,地域の死亡状況を表す比較可能な指標として,年齢分布の違いを調整した,年齢調整死亡率,標準化死亡比などが良く利用されている.また,疾病地図と称して,地域別の死亡状況の大小をこれらの指標を利用して,数区分に色分けして視覚的に表示することが良く行われる.しかし,これらの指標は,人口の地域変動に基づく標本誤差の影響を強く受け,人口の小さい地域の指標のバラツキが大きく,わずかな死亡数の変化が見かけ上の指標を大きく変化させるという問題がある.とくに,年齢調整死亡率では,この影響を受けて,時には,異常な高値を示す欠点も指摘されている.この小論では,この問題の一つの解決策として,経験的ベイズ推定量を導入し,その妥当性を具体例で議論する.
著者
篠崎 信雄
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.59-76, 1991-12-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1

多くの母平均を同時に推定するとき,平均2乗誤差の和を基準にすれば,Stein推定量が通常の推定量を改良することはよく知られている.ここでは,Stein推定量をさまざまな現実の問題に応用するために考えられてきたSteinタイプの縮小推定量について,その基本的考え方を明らかにし,どのような現実の問題に対して有効であり,どのような問題があるのかを論じる.また,経験的ベイズ推定量,平滑化との関連性をも明らかにし,信頼領域の問題についても触れる.さらに,応用例として都道府県庁所在都市の一世帯当りの平均教育費を推定する問題をとり上げ,回帰直線に向けて縮小する推定量とその有効性を示す.
著者
小池 宏明
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1-2, pp.19-29, 2022 (Released:2023-01-12)
参考文献数
12

Evidence-based medicineは,昨今,臨床医学の意思決定の重要な根拠となってきていますが,それは二重盲検プラセボ対照試験の統計学的解析に基づいています.そして,近年,その解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ,それにより臨床試験の参加者のヘテロジェネイティーの相違が,より詳細に解析結果に反映されるようになってきました.それにも拘らず,通常,ある試験で有意差をもって治療効果が認められた場合には,その試験と同様な患者群に普くその治療が行われています. しかし,その有意差が,その群の中の一部のみにその効果がもたらされた事,すなわち,レスポンダーの存在に由来する可能性は常にあり,しかも,ヘテロジェネイティーは全て既知の危険因子などから構成されているため,レスポンダーの存在が未知の交絡因子に由来している場合,通常のサブグループ解析ではその存在が不明なまま残ることになります. この論文は,レスポンダーの存在の有無を,赤池情報量規準(AIC)を用いて推定する方法を提案したものです.ただし,ここでは,治療群及びプラセボ群をセットとした統計量にそれを用いるためにひと工夫を要しました.
著者
岩崎 学
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.67-80, 1994-01-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
54
被引用文献数
3 2
著者
川野 秀一 村田 右富実 Shuichi Kawano Migifumi Murata
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1-13, 2019

万葉歌の研究において,歌の音の使用傾向から歌人の特徴を捉える場合がある.それぞれの歌人の使用している音の癖を読み取ろうとするものである.しかし,これまでは歌内で多く使用されている,もしくはほとんど使用されていない単一の音のみに着目した単変量的な解析や主観的な判断がほとんどであった.本論文では,複数の音を考慮に入れた統計解析を実行し,歌人の分類ならびにその音に基づいた特徴付けについて考察する.具体的には,まず,柿本人麻呂,山上憶良,大伴旅人の3 歌人の短歌に着目し,各短歌内で使用されている音節から特徴量を作成する.その後,得られたデータに対してスパース正準判別分析を適用することにより,歌人の分類と各歌人に特徴的な音節の選択を行う.
著者
濱崎 俊光 後藤 昌司
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.147-163, 1999-03-10 (Released:2009-06-12)
参考文献数
34

事象数の変換または「再表現」は,データ解析者が最も頻繁に行っていることである.例えば,変換後に誤差分散の均一性を狙うのであれば,Poisson分布に従う変数の場合に平方根変換,2項分布に従う変数の場合には逆正弦変換あるいは角変換を使用することが多い.本稿では,一般的に用いられている既知の離散分布または事象数に対する変換の妥当性を, Box and Cox (1964)が提案したべキ変換の枠組みの中で評価し直した.とくに,Poisson分布に対する分散安定化のための正規化変換に注目し,変換として対数変換と平方根変換をとりあげ,それらの性能を検討した.その結果,変数がPoisson分布に従うときに分散を安定化させるための変換として,Bartlett (1949)の分散安定化公式による平方根変換が, Box and Cox (1964)のべキ変換からも支持された.そして,Poisson分布に従う変数に対数変換を施したとしても変換後の変数の分散は一定でなく,分散の安定性と分布の正規性の両方の意味で,Poisson分布に従う変換には平方根変換が対数変換に比べて適していることが示唆された.
著者
白石 高章
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-17, 2011 (Released:2012-03-21)
参考文献数
15
被引用文献数
3 4

多群2項モデルにおいて,母比率の間の相違に関しての多重比較検定について論じる.比率の間のすべての差の同時区間推定法が,Hochberg and Tamhane (1987) で述べられている.この手法と同様なシングルステップのTukey-Kramer型検定方式を構築することができる.しかしながら,この検定方式は保守度が未知パラメータに依存し制御することができない.この論文では,逆正弦変換による多重比較検定法を提案し,保守度をサイズの比の関数として制御できることを示す.また対照群との多重比較法に関しては,白石(2009)と田中・垂水(1997)はBonferroniの不等式による手法が述べられている.逆正弦変換により,Bonferroniの不等式による手法よりも検出力の高いDunnnett型多重比較検定法を論じることができる.さらにテューキー・ウェルシュの方法とREGW法を改良する閉検定手順も論じる.
著者
D.R. Cox 竹内 啓
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.77-91, 1981-12-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
13

この文は1981年5月25日に行われたD.R.Cox教授の講演を,レジュメにもとついて翻訳し,かつ註と若干の補論をつけ加えたものである.標本Yが母数Θに依存する分布を持つとき,Θの推測において,もし分布がΘに依存しない統計量Cが存在するならば,YのCを与えたときの条件付分布にもとついて推測を行うべきであるというのが,条件付推測conditional inferenceの考え方である.この考え方を最初に強調したのはR.A.Fisherであるが,これについて補助統計量ancillary statisticと呼ばれるCをどのようにえらぶべきか,もしそのような統計量が存在しないときはどうすべきかなど多くの問題がある.ここではいろいろな問題点を概観するとともに,最近の研究の成果,とくに漸近理論の結果にもふれている.

3 0 0 0 OA 父,田口玄一

著者
田口 伸
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.189-195, 2013 (Released:2014-12-16)
著者
竹内 啓 広津 千尋
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.39-50, 1980-01-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
12

2重に分類された計数データに関する検定問題で,行,列またはその両方に順序がある場合を考える.二つの多項分布の比較,いくつかの2項分布の比較,いくつかの多項分布の比較,分割表における独立性の検定,等で傾向のある対立仮説を想定する場合がこれに含まれる.本論文ではこれらの問題に適用できる累積カイ2乗法を提案し,その漸近的な検出力が点数法あるいはタイのある場合のWilcoxonの条件付検定法よりも秀れていることを示す.ここでの累積カイ2乗法は,田口の累積法を修正したもので,Wilcoxon統計量と同じ次元を持っている.
著者
杉浦 成昭
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-52, 1981-08-31 (Released:2009-06-12)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

昭和55年度共通1次試験総合得点の分布は,杉浦[8]によりJohnson systemのSB分布がよく適合することが示された.昭和54,56年度について同様に調べるとSB分布ではなく,負のWeibull分布を負の方にトランケートした分布が良く適合することがわかった.昭和56年度についてはBeta分布も同じ位よく適合するので分布の両すその階級をそれぞれ2分し自由度を2増して調べるとトランケートWei-bull分布よりもBeta分布がよく適合することがわかった.
著者
久保川 達也
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.139-161, 2007-03-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

標本調査では,調査区全体からデータがとられ全体の母集団特性が調べられる.同じデータを用いて市町村レベルの母集団特性を求めようとすると,市町村によっては取られたデータが少ないため標本平均などの推定値は推定誤差が大きくなってしまうという問題が生ずる.これを小地域問題といい,注目している地域(市町村)の周辺地域からデータを上手に取り込むことによって推定精度を高めることができる.そのための代表的なモデルが線形混合モデルであり,そこから導かれる経験最良線形予測量が小地域問題を解決する手法になっている.本稿では,線形混合モデルを利用した小地域推定について解説する.特に,線形混合モデルのもつ(共通母数)+(変量効果)という構造が推定精度を高めるためにどのように働くのかについて説明し,実際どの程度誤差が抑えられているのかに関して平均2乗誤差の推定と信頼区間の構成についてまとめる.最後に,空間データ等を分析するための様々なモデリングの方法を紹介し,一般化線形混合モデルと死亡率推定への応用についても説明する.
著者
椿 広計
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1-2, pp.17-30, 2015 (Released:2016-01-22)
参考文献数
12

本フォーラムは,ビジネスのアウトプットを 幾つかの入力変数で説明する入出力システムモデル,すなわち支配法則を 形成する際に必要な基本的視点を議論する.このために, 日本の財務多変量データ解析を事例として用いる.先ず, 労働生産性のような単純な比例関係に誤差が含まれる形で ビジネスの静的法則が記述されることを紹介する. 次に,その法則は適切な分類を通じて正当化されることに注意する. 更に,動的法則の記述のためには,入出力の適切な差分に対して構造を 計量するのが簡便な接近であることを示す.一方, これらの法則当てはめの残差分布は,見かけ上裾の重い分布に従う.しかし, それから外れたデータ群が原入力変数群で説明可能な場合があり, それによってハイパフォーマンスやローパフォーマンスのフロンティアを 形成するデータ群に対する要因解析がランクロジットモデルを 通じて可能となることを示す.最後に,単一方程式モデルを 連立方程式モデルに拡張することで, 利益など財務パフォーマンスに関わる指標の向上に資する ビジネスモデリングが可能となることを示す.
著者
竹澤 邦夫
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.81-86, 2011 (Released:2012-03-26)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

誤差が互いに独立で同一の正規分布に従っているときのAIC (Akaike's Information Criterion, 赤池の情報量基準) においては,誤差分散として最尤推定量を用いる.しかし,不偏推定量を用いることもできる.そのときの AIC を AIC' と呼ぶとする.また,誤差分散を可変にすると,最尤推定量とも不偏推定量とも異なる誤差分散が得られる.
著者
椿 広計
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2-3, pp.89-98, 2018 (Released:2019-02-13)
参考文献数
29

日本の統計的品質管理活動は,虚偽のデータを企業から無くすことを目的の一つとして掲げてきた.しかし,2017年以降生じた品質データ改ざんは,データ駆動型社会に向かうわが国にとって大きな課題を突き付けた.本フォーラムでは,日本がデータ駆動型社会に向かう際に,必要な品と質と人財に関するマネジメントの在り方について議論する.特に,どのようなデータサイエンティストを育成すべきか,またデータがもたらす経済価値とは何か,そのデータが改ざんされた場合の社会損失はどのようなものかについて議論したい.