著者
横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.445-455, 2007 (Released:2007-10-06)
参考文献数
32

多くの局所麻酔薬のなかから硬膜外麻酔の用途に応じて薬剤を選択することは理想である. しかし, 心毒性, 神経毒性などが明らかとなり, 危険性の少ない薬剤が登場した今, 安全性は第一に考慮される選択基準である. さらに局所麻酔薬の効果の増強目的でさまざまな薬剤の添加が報告されているが, 効果と副作用のバランスを考慮した場合, その選択はごく限られる. また, 医療経済および事故防止の面から多種の同効薬剤を使用することは問題となりうる. その意味ではテスト注入に短時間作用性の薬剤を使用し, そのほかには安全性の高い局所麻酔薬を選択し, 用途に応じた濃度を使用すべきと思われる.
著者
古家 仁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.160-167, 2012 (Released:2012-04-25)
参考文献数
14

欧米諸国では,麻酔薬を投与する症例はすべて麻酔科医が管理することが基本である.しかしわが国では全身麻酔に関してさえも麻酔科医以外の医療従事者が管理している場合が見受けられる.国民にとってそのような麻酔科医療は避けるべきであり,この問題は早急に解決されねばならない.また,わが国では麻酔科医は単独で術中薬剤の調整,投与を行っており,医療安全上避けるべきである.この解決策として欧米において一般的であるanesthesia care team,わが国では周術期管理チームを普及させ,そのチームメンバーを教育,認定し,麻酔科専門医の責任下でチームメンバーを使って,術前術後の麻酔科医療への関与,術中の麻酔の並列管理,薬剤投与のダブルチェックを可能にすることが必要であると考える.
著者
松川 正毅
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.807-812, 2011 (Released:2011-10-22)
参考文献数
17

本稿では,不法行為責任(契約責任も含めて)の概説から始めて,医療過誤訴訟の法理論の特徴を明らかにした.「違法性」などの考え方を例にして,不法行為責任の要件の変遷をたどり,過失概念の客観化について述べた.そして,わが国の医療過誤訴訟では,「医療水準論」が重要な役割を果たしつつあることを,判例を題材にして示した.この分野でも,要件の客観化が進んでいることを過失の推定や因果関係の推定理論を例にして記述した.さらに加えて,通説によれば慰謝料請求の対象となる「説明義務違反」による責任について説明した.
著者
山口 重樹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.460-470, 2004 (Released:2005-05-27)
参考文献数
41

血液ガス分配係数が小さく, 刺激臭が少ないセボフルランは吸入麻酔薬による導入法に適した麻酔薬である. 高濃度セボフルランによる麻酔導入法は, 静脈麻酔薬による麻酔導入法に取って代わるものではないが, 麻酔導入から維持への移行が速やかで, 循環動態が安定しており, 筋弛緩薬の作用発現を促進するなどの利点を有するため, 有用な麻酔導入方法として選択肢の一つと考えられる. そのためには, おのおのの症例に適した高濃度セボフルランによる麻酔導入の手法を選択する必要がある. 本稿では, 高濃度セボフルランによる麻酔導入のさまざまな手法をいろいろな角度から検討し, その特徴を述べた.
著者
菊地 研
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.517-522, 2015-07-15 (Released:2015-09-18)
参考文献数
12
被引用文献数
1

「医療安全」では医療従事者は緊急事態に備えてBLS/ACLS(一次および二次救命処置)を修得しておくべきで,チームで行うシミュレーションでのBLS/ACLSトレーニングが有用である.蘇生では専門知識や専門技能の熟達に加えて,有効なコミュニケーションとチームワークが重要で,有効なコミュニケーションはエラーを最小限にし,良好なチームワークは蘇生の質を確保してくれる.そのようなチームで行う蘇生は救命の可能性を高めてくれる.この有効なコミュニケーションと良好なチームワークは,まさに「医療安全」での最重要事項である.このため,BLS/ACLSトレーニングは「緊急事態への備え」であると同時に,「医療安全」の推進に重要である.
著者
松本 美志也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.723-731, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

局所麻酔薬は, 電位依存性ナトリウム (Na) チャネルに作用し, 活動電位の伝播を遮断することで局所麻酔作用を発揮する. 最近の研究で, 電位依存性ナトリウムチャネルの3次元の形態が明らかにされつつある. この電位依存性ナトリウムチャネルには現在少なくとも9種類のサブタイプが知られている. 電位依存性ナトリウムチャネルの研究の進展は, 局所麻酔薬の作用機序や難治性疼痛疾患の病態の解明に新たな知見を与えると思われる.
著者
細井 卓司 山田 高成 森崎 浩 浦上 研一 楠原 正俊 玉井 直
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.407-417, 2017-07-15 (Released:2017-08-26)
参考文献数
54
被引用文献数
1 2

術後悪心・嘔吐は,麻酔関連合併症の中で最も頻度が高く,また重篤な病態を惹起する危険性がある.その原因はさまざまな要因が指摘され,また嘔吐に関わる伝達経路も複数存在している.世界的にはこれらのさまざまな伝達経路に対処可能な制吐薬あるいは嘔吐予防薬が開発されているものの,わが国においては保険適用が限定され,高額な制吐薬を術後悪心・嘔吐には処方できない状況にある.今後は術後悪心・嘔吐を併発しやすい患者群をより精度の高い評価法や非侵襲的指標により把握し,効率的に予防することが望まれる.
著者
川井 康嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.041-050, 2013 (Released:2013-03-12)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

トラマドールは世界で広く使用されているオピオイド鎮痛薬で,わが国では中等度~高度のがん性疼痛と術後痛の適応で注射剤が,また非がん性慢性疼痛と抜歯後疼痛の適応で経口剤(アセトアミノフェン配合剤)が用いられている.主な作用機序はμオピオイド受容体への作用と,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用である.トラマドールはがん性疼痛管理においては,世界保健機関(WHO)の三段階除痛ラダーの第2段階に属する弱オピオイドとして位置づけられている.モルヒネをはじめとする強オピオイドと比較すると,副作用が軽微で依存性が少なく,麻薬および向精神薬の指定がないなど,比較的安全性が高く使用しやすいのが特長である.近年は非がん性慢性疼痛に対して有効かつ安全に投与することに注目が集まっている.
著者
橋爪 圭司 渡邉 恵介 藤原 亜紀 佐々岡 紀之 古家 仁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.141-149, 2011-01-14
参考文献数
12

  髄膜が破れて髄液が漏れると低髄液圧性頭痛が発症する.代表的なものに硬膜穿刺後頭痛がある.特発性低髄液圧性頭痛(特発性脳脊髄液減少症)は頚・胸椎からの特発性漏出が原因で,造影脳MRI,RI脳槽造影,CT脊髄造影などで診断される.自験ではCT脊髄造影での硬膜外貯留が最も確実であった.むちうち症が髄液漏出であるとの意見があり(外傷性脳脊髄液減少症),RI脳槽造影における腰椎集積が漏出と診断される.われわれはRI脳槽造影とCT脊髄造影を43症例で比較したが,腰椎集積はCT脊髄造影では正常神経根鞘であった.CT脊髄造影を診断根拠とした291症例では,1症例の外傷性脳脊髄液減少症も発見できなかった.
著者
田和 聖子 内本 亮吾 藤田 文彦 北 仁志
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.600-605, 2018-09-15 (Released:2018-11-08)

全身麻酔の覚醒時に,患者が夢を見ていたと発言することがあるが,その頻度と内容を,アンケート方式により調べた.夢を見ていたと言えるには,まず夢を見ることとそれを思い出すことが必要になる.夢を見た人は23%で,その中には内容を思い出せる人と,夢は見たが内容は思い出せない人がいた.夢を見た群は見ない群に比べ平均年齢が約10歳若かった.夢を見た群の3人と見ない群5人の脳CT(またはMRI)を計測すると,見た群では脳萎縮が少ない傾向だった.また,思い出せた夢の内容は94%が普通の夢だった.
著者
廣瀬 宗孝
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.264-269, 2020-05-15 (Released:2020-06-26)
参考文献数
19

手術侵襲による侵害受容刺激は脊髄から大脳に伝わり侵害受容をきたすが,同時に自律神経反応や体動をきたす.また手術侵襲は炎症反応や組織の損傷をきたし,血中C反応性蛋白質(CRP)濃度を増加させるが,術後早期CRP値は重篤な術後合併症の発症と関連がある.一方,侵害受容を抑制する全身麻酔中の侵害受容のモニターは,自律神経反応や脳波の変化を用いて侵害受容の強さと抑制のバランスを数値化しているが,この術中の侵害受容モニター値は,手術侵襲の客観的指標となる可能性がある.
著者
伊藤 健二 渡部 浩栄 金沢 正浩 村田 智彦 松田 光正 鈴木 利保
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.136-139, 2004 (Released:2005-03-31)
参考文献数
7

術中に低血圧を伴う発作性心房細動(Paroxysmal atrial fibrillation : Paf)を発症した2症例に超短時間作用型β-ブロッカーであるランジオロールを投与した. いずれの症例も投与開始後5分で心拍数の減少を認め, 10分後には洞調律に回復し, 血圧も安定し, 以後心房細動は出現しなかった. 2症例とも術中術後の循環動態や呼吸状態は良好に経過し, 血液検査上も異常を認めなかった. ランジオロールはPafに有効であり, 安全に使用できる可能性が示唆された.
著者
重見 研司
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.511-514, 2021-09-15 (Released:2021-11-05)
参考文献数
4

今回,プロポフォールとレミフェンタニル,ロクロニウムの3剤を,脳波モニタと筋弛緩モニタ,シリンジポンプ,パソコンで構成されたフィードバック機構で自動投与する装置を開発した.本装置は,ヒューマンエラーを減少させ,薬剤の適正使用を促進し,患者の安全と医療経済に貢献することを目的として開発された.本装置は,ノイズに強く,鎮痛のモニタを必要とせず,新しい筋弛緩モニタを導入したことに特徴がある.しかし,血圧や心拍数,輸液量や輸血の選択などについては,麻酔科医の判断に委ねられている.本装置によって,より安全に,いつでも,どこでも,だれにでも,安心して麻酔を受けてもらえる体制が整備されることを期待する.
著者
中本 達夫
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.258-264, 2018-03-15 (Released:2018-04-07)

超音波解剖学の発展によって,腰神経叢とそれに由来する大腿神経,閉鎖神経,外側大腿皮神経,およびそれらの終枝のブロックは,より多くのアプローチが可能となった.腰神経叢は,Shamrock viewにより超音波画像上で周囲の解剖を鮮明に観察して実施できる.大腿神経は内転筋管ブロックまたは縫工筋下管アプローチにより,伏在神経とそれ以外の神経の分枝への効果を調節できる.閉鎖神経はその走行に基づいてさまざまなアプローチが報告された.下肢の神経ブロックは,術中鎮痛であれば中枢,術後鎮痛であればより末梢知覚枝を選択的に遮断する方法を選択できるようになってきた.
著者
芳賀 繁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.954-960, 2012 (Released:2013-02-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1

事故が起き,被害が生じた場合,わが国では警察が捜査して責任者を特定し,刑事裁判で裁くということが行われている.本稿では,ヒューマンエラーと刑事罰の現状を紹介し,ミスを結果論で裁くことが安全性向上に寄与しないどころか,マイナスの作用をすることを解説する.東日本大震災などで,マニュアルを超えた臨機応変な対応の重要性が再認識されるに至った.安全文化の一要素に「柔軟な文化」があり,それは近年ヒューマンファクターズの分野で注目される「レジリエンス工学」の概念に通じる.組織や個人の柔軟性,レジリエンスを支えるためにも,ヒューマンエラーを結果論で処罰しない「公正な文化」が必要なことを論じる.
著者
大村 繁夫
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.732-740, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

局所麻酔薬の血中濃度が上昇すると, 中枢神経毒性ならびに心毒性が発現する. なかでもブピバカインによって引き起こされる心毒性は重篤で, 蘇生困難な心停止が引き起こされる危険性が指摘されている. 従来, 決定的な蘇生法はなかったが, 近年, 有望な蘇生法としてLipid Therapyが提唱された. ブピバカインに代わる長時間作用性局所麻酔薬として, ロピバカインならびにレボブピバカインが開発されてきた. これらはいずれもS体のみから構成され, ブピバカインと比較して安全性の高い薬剤である. しかしながら, 局所麻酔薬中毒が引き起こされる可能性は依然として存在するので, その使用に際しては注意を怠ってはならない.
著者
田中 克明
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.347-352, 2011 (Released:2011-05-02)
参考文献数
14

灌流指標Perfusion Index(PI)とはマシモ社のパルスオキシメータRadical-7TMで計測可能な末梢灌流の定量的な指標であり,脈波変動指標Pleth Variability Index(PVI)とはPIの呼吸性変動をもととした循環血液量の動的指標である.従来の動的指標は侵襲的で測定が煩雑であったが,PVIは非侵襲的で測定が簡便であり,実用性が期待されている.一方で痛みや呼吸状態,測定部位の違いなどにより,PI・PVIの測定値は大きく影響される.今後,基礎的・臨床的データの蓄積が進めば,PI・PVIのモニタリングは麻酔中の血行動態の最適化に大きく寄与するものと考えられる.