著者
角田 憲治 三ッ石 泰大 辻 大士 尹 智暎 村木 敏明 堀田 和司 大藏 倫博
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.516-523, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
29
被引用文献数
5 8

目的:高齢者の身体活動量に関連する重要な要因として,外出形態,抑うつ度,ソーシャルネットワークに焦点を当て,これらの要因と余暇活動量,家庭内活動量,仕事関連活動量との関連性について明らかにすることを目的とした.方法:茨城県笠間市の住民基本台帳を用いて,65歳から85歳の高齢者2,100名を無作為抽出し,有効回答の得られた340名(有効回答率16.2%)を分析対象とした.身体活動量の評価には,Physical Activity Scale for the Elderly,抑うつ度の評価にはGeriatric Depression Scale(GDS),ソーシャルネットワークの評価には,Lubben Social Network Scale(LSNS)を用いた.主要な分析には,重回帰分析(強制投入法)を用いた.目的変数には各身体活動量を,説明変数には仮説として身体活動量と関連すると想定した項目および基本属性に関する項目を設定した.結果:重回帰分析の結果,余暇活動量は,自転車利用頻度(β=0.17),LSNS得点(β=0.17)と有意に関連した.家庭内活動量はLSNS得点(β=0.21)と関連した.仕事関連活動量は乗物利用頻度(β=0.25)と関連した.総活動量は,自転車利用頻度(β=0.10),乗物利用頻度(β=0.23),GDS得点(β=-0.16),LSNS得点(β=0.23)と関連した.結論:本研究では自転車や乗物の利用頻度が,余暇活動量および仕事関連活動量を反映することを示した.また,ソーシャルネットワークは,余暇活動量と家庭内活動量の両方と関連する重要な因子であることを明らかとした.
著者
佐谷 修 水越 正人 羽野 卓三 有田 幹雄 上野 雄二 西尾 一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.110-113, 1997-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20

永久ペースメーカーを植え込んだ連続297例について, 高齢者と非高齢者における臨床的特徴とペースメーカー管理上の問題点を検討した. 平均年齢は67±13歳で75歳以上が30.9%を占めていた.原因疾患は洞機能不全症候群36.7%, 房室ブロック58.9%, 徐脈性心房細動4.4%であった. 植え込み時の電圧閾値, 心内R波と年齢には明らかな相関を認めなかった. ペースメーカージェネレーター交換時には非高齢者において初回に比べ電圧閾値の上昇, リード抵抗値の低下を認めたが両者ともに心内R波には明らかな変動は認められなかった. 術後の長期経過中にはテレメトリーを行い慎重な対応が必要ではあるが, 高齢者においても永久ペースメーカーは安全に管理できると考えられた.
著者
杉浦 美砂 青木 昭子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.415-420, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1

両肩関節炎を呈したことから一時リウマチ性多発筋痛症(PMR)と診断した慢性結節性痛風の症例を報告する.85歳の男性.高血圧,狭心症,不整脈,糖尿病など複数の疾患を有し,複数の診療科が処方した多数の薬剤を内服中であった(多剤併用;ポリファーマシー).X年8月両下腿の腫脹,発赤,疼痛と発熱が出現し,下腿蜂窩織炎の診断で入院した.抗菌薬を投与され解熱し,下腿の症状は改善したが,1週間後に両肩の疼痛と可動域制限が出現した.血清CRP高値,リウマトイド因子,抗CCP抗体陰性,全身ガリウムシンチグラフィーで肩関節を含む多関節部に集積が認められ,PMRと診断した.プレドニゾロン(PSL)10 mgにて症状は改善し退院したが,退院直後に左肩と左膝の疼痛のため,続いて右前腕と手指の疼痛と腫脹のため,1カ月間に2回入院した.左母趾基部に小結節が見られたため穿刺したところ,白色ペースト状物質が吸引され,偏光顕微鏡で針状結晶が認められたことから痛風結節と診断した.約30年前に痛風発作の既往があり,以後アロプリノールを継続服用していたが,2年前の入院後にその処方が中断していた.さらに,肥満,飲酒,糖尿病,脂質異常症,うっ血心不全,不規則な服薬,利尿薬内服など痛風の複数の危険因子を有していた.アロプリノール中断の理由と高齢者のポリファーマシーの弊害について考察を加え報告する.
著者
横内 正利
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.725-727, 2000-09-25
被引用文献数
1
著者
花岡 陽子 山本 寛 飯島 勝矢 大賀 栄次郎 神崎 恒一 大内 尉義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.444-449, 2005-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

症例は76歳女性. 抗生剤 (CEZ, PIPC) が無効な不明熱に対する精査目的で2002年6月第1回入院. 39℃に至る発熱, CRP上昇, 汎血球減少を認めた. 貧血については, 骨髄穿刺で赤芽球癆と診断された. 原因の特定に至らないまま, 1カ月後に胆嚢腫脹, 胆道系酵素の上昇を認め, 胆嚢穿刺を行ったところ発熱は軽快, その後赤芽球癆も軽快し退院となった. しかし2003年4月, 再び発熱, CRP上昇, 汎血球減少を認めたため第2回入院. 検索の結果, 脾腫・異型リンパ球の出現とともに骨髄穿刺の所見からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (骨髄浸潤) の診断に至った. 高齢者は典型的な症状を示しにくく, 発熱のみを主症状とする節外性の悪性リンパ腫の場合には, 他疾患との鑑別がきわめて困難である. 高齢者の不明熱においては血液悪性腫瘍, とくに悪性リンパ腫が潜在している可能性を念頭におき, 精査を行うことが必要と考えられた.
著者
田宮 菜奈子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.274-277, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
6
被引用文献数
3 4
著者
原 修一 三浦 宏子 山﨑 きよ子 森崎 直子 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.391-398, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
22

目的:介護施設に入所する高齢者を対象とした横断研究により,健康関連QOLと音響学的分析による音声機能との関連性を明らかにした.方法:対象は,介護老人施設に入所する高齢者61名,平均年齢82.1±8.3歳である.質問紙による健康関連QOLの調査を,SF-8 Health Survey(SF-8)日本語版を用いて実施した.音声機能は,ソリッドステートレコーダーに録音した音声を,音響分析ソフトを用いて,基本周期変動指数(Pitch Period Perturbation Quotient:PPQ),振幅変動指数(Amplitude Perturbation Quotient:APQ)および,雑音成分の指標であるNoise-to-Harmonic Ratio(NHR)を算出し,健康関連QOLとの関連性を分析した.結果:SF-8の全体的健康感(GH)の得点が25%tile値未満の値を示した者(低下群)はPPQ・APQ・NHR全てにおいて,25%tile値以上の者(維持群)と比較して有意に高い値を認めた.また,活力(VT)においても,低下群は全ての音響分析の項目において,維持群と比較して有意に高い値を認めた.また,身体的サマリースコア(PCS)においても,低下群は維持群と比較して音響分析の測定項目全てにおいて,有意に高い値を認めた.年齢を共変量とした共分散分析による検討では,GHの低下はPPQ,APQ,NHR各値の増加と有意な関連性を認めた.また,VTの低下はAPQ値の増加との有意な関連性を,PCSの低下はAPQとNHR各値の増加との有意な関連性を認めた.結論:介護施設入所高齢者において,音響学的に分析された音声の音響学的要因は,身体的健康状態に関連したQOLスコアと有意な関連性を示した.音声の音響分析によるPPQ,APQ,NHRは,高齢者の健康調査とその経過を追跡する上で,一つの評価指標になりうる可能性がある.
著者
枝広 あや子 平野 浩彦 山田 律子 千葉 由美 渡邊 裕
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.651-660, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
30
被引用文献数
4 10

目的:認知症高齢者では,食事の自立が低下することにより,食事量の減少,低栄養,脱水および免疫機能の低下,さらなる認知機能の低下や,誤嚥性肺炎および死亡率の上昇が起こることが知られている.しかし認知症高齢者の食行動障害の病態および重症度別把握は不十分であり,介護現場では食事の自立支援に苦慮している現状がある.そこで本研究は,認知症高齢者の多数を占めるアルツハイマー病(以下AD)と血管性認知症(以下VaD)を対象に,認知症の重症度別に食事に関する行動障害を比較分析することで,ADとVaDにおける食行動の特徴を明らかにすることを目的とした.方法:対象者は,施設入所の認知症高齢者計233名(AD150名,VaD83名)とした.対象者に対し食行動調査と認知機能検査,神経学的検査,生活機能調査,栄養学的調査(MNA-SF)を行い,AD,VaDの2群について食行動について詳細な検討を行った.結果:食事に関連した行動障害は重度認知症の者ほど増加する傾向がみられた.一方,「リンシング・ガーグリング困難」「嚥下障害の徴候」の認知症重症度別の出現頻度は,ADとVaDで違いがあった.軽度認知症ではVaDはADに比較して食事に関連した行動障害の出現頻度が高かった.ADでは食事開始困難や注意維持困難,巧緻性の低下等の認知機能障害の影響が大きい項目の出現が重度認知症において顕著にみられた.一方VaDの食事に関連した行動障害と嚥下障害は,認知症の重症度との関連は認めらず,軽度認知症でも神経脱落症状に起因した嚥下障害が認められた.結論:ADとVaDはどちらも認知症でありながら,食事に関連した行動障害の出現頻度が大きく異なっていた.認知症背景疾患や重症度による相違点を考慮した効果的な支援の確立が望まれる.
著者
葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.659-661, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
5
被引用文献数
3 1
著者
井門 ゆかり
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.356-363, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
20
被引用文献数
3

目的:簡便に認知機能低下の疑いのある患者を発見するためのスクリーニング検査(Imon Cognitive Impairment Screening Test:ICIS)を開発し,信頼性・妥当性を検討した.方法:検査は対面式で所要時間約3分,時間の見当識(年月日・曜日,各1点,計4点),3単語の遅延再生(各1点,計3点),柔軟性(語の流暢性)として,「か」で始まる言葉を1分間で出来るだけたくさん言う(2語以下0点,3~5語1点,6~9語2点,10語以上3点),構成失行の評価として,「指でキツネ・ハトの模倣」(キツネ左右各0.5点,ハトは迷わずできたもの1点,試行錯誤してできたもの0.5点,できないもの0点)を入れ,12点満点とした.対象は,健常高齢者(C群)30例,軽度認知障害患者(MCI群)34例,認知症患者(認知症群)76例(軽度51例,中等度18例,高度7例).結果:ICISの平均は,C群10.5点,MCI群8.3点,軽度認知症群5.5点,中等度認知症群3.0点,高度認知症群0.7点で,各群間で有意差を認めた.認知症群+MCI群を疾患群とし,ICIS 9点以下を検査陽性とすると,感度0.94,特異度0.93,正確度0.94,陽性尤度比14.0,陰性尤度比0.07であった.ICISとMMSEの得点には,有意な相関を認めた(r=0.82,p<0.0001).結論:ICIS 9点以下では,他覚的認知機能の低下があり,認知症精査に進む簡便な目安になると思われる.
著者
横内 正利
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.725-727, 2000-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
広田 千賀 渡辺 美鈴 谷本 芳美 河野 令 樋口 由美 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.647-654, 2008 (Released:2009-01-29)
参考文献数
25
被引用文献数
6 21

目的:Trail Making Test(以下TMT)は,欧米において遂行機能の指標として研究されてきた.しかし,日本においてTMTに関する研究は少ない.本研究では地域在住高齢者の健康づくり支援を目指して,TMTの特徴と身体機能との関連を明らかにし,TMTの有用性について検討することを目的とした.方法:大都市近郊T市に在住している65歳以上の高齢者175人(男57人,女118人)を対象とした.TMTと8項目の身体機能を測定した.身体機能は介護予防項目として通常歩行,Timed Up & Go test(以下TUG),開眼片足立ち,握力の4項目,移動·歩行機能項目として最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の4項目である.TMTの評価には⊿TMTを用い,身体機能との関連は性と年齢を共変量とした多項ロジスティック回帰分析を行った.結果:⊿TMTの中央値は男性58.61秒,女性65.67秒で,男女とも年齢群間に有意な差を認め,特に80歳以上が高値であった.性差は観察されなかった.身体計測項目と⊿TMTとの関連について,⊿TMTの不良なものはTUGと握力の成績が有意に低かった.移動·歩行機能項目では,⊿TMTの不良なものは,最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の成績が有意に低かった.また,最大歩行の「中間/高い」比較でも,⊿TMTの不良なものは有意に成績が低かった.結論:TMTはより認知の必要な複雑な歩行機能と関連したことから,高齢期の健康づくりにおける遂行機能の評価指標としての有用性が示唆される.
著者
宮岸 隆司 東 琢哉 赤石 康弘 荒井 政義 峯廻 攻守
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.219-223, 2007 (Released:2007-05-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

目的 高齢者において終末期における治療と人工栄養に関する実態調査を実施し,栄養摂取方法選択ガイドライン作成の基礎資料とする.方法 対象は西円山病院(918床)における,2004年4月から2005年3月の死亡症例である.入院時の状況,経口摂取困難に至った原因と経過,終末期医療に対する意向,実際に選択された栄養摂取方法と平均余命について後ろ向き調査を行った.結果 155例(男性66例,女性89例)の死亡症例があり,死亡時平均年齢は86.2±9.0歳であった.うち95例で,肺炎などの感染症を契機に経口摂取が困難となり,栄養摂取方法が検討された.95例中,人工栄養は63例で選択され,経管栄養選択症例16例,経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例14例,中心静脈栄養選択症例33例.人工栄養非選択症例は32例であった.死亡時の栄養摂取方法と平均余命の比較では,経管栄養選択症例;827±576日,中心静脈栄養選択症例(経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例および中心静脈栄養のみの症例);196±231日,人工栄養非選択症例(末梢静脈栄養);60±40日であった.結論 今回の調査では,人工栄養導入後の平均余命は経管栄養にて有意に長かった.当院では経管栄養にて発熱が続く症例や消化管の機能不全が疑われる症例では中心静脈栄養に変更することが多いため,経管栄養の平均余命が長かったものと考えられる.32例では,人工栄養が選択されなかった.終末期高齢者の医療については,家族の意向が大きく影響し,多くは「患者の負担とならない治療」を希望するが,人工栄養導入をとっても結論はさまざまである.治療方針の決定に際して高齢や認知症という理由で医療行為が差し控えられることなく,初期より患者本人の意向を尊重できる体制を整える必要がある.終末期への移行の目安として,経口摂取困難を取り上げることの妥当性が示唆された.
著者
山本 幹枝 和田 健二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.547-552, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

わが国のみならず世界的に認知症者数が増加し,社会経済的な問題となっている.2015年の全世界認知症者数は4,680万人と推定され,2050年には1億3,150万人にのぼることが予測されている.欧州や北米では認知症有病率は低下しているものの,アジアやアフリカなど特に低中所得国での増加が顕著である.わが国では,2012年時点での65歳以上高齢者における認知症有病率は15%(462万人)と推計されている.とくに80歳以降に多く人口の高齢化や生存率の改善を反映していると考えられる.超高齢化社会においては認知症の診断が難しい場合も多く,繰り返し正確な疫学調査が必要である.また,認知症による社会的負担の軽減のためにも,治療法や予防法の確立に向けて世界的に一層の取り組みが進むことが期待される.