著者
吉永 尚紀
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 = Chiba medical journal (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.251-256, 2017-12

[要旨] 抗うつ薬を用いた薬物療法は,社交不安症(対人恐怖症)に対する標準的な初期治療として国際的に最も普及している。しかし,この治療では多くの患者が十分な改善を示さないことが指摘されており,次の有効な治療法を確立することが急務の課題であった。筆者らはこれまで,(1)社交不安症に対する認知行動療法マニュアルの開発と有用性の検討(探索的試験),(2)標準治療(抗うつ薬)で改善しない社交不安症に対する認知行動療法の効果研究(検証的試験)に取り組んできた。また本研究成果により,2016年度の診療報酬改定において,認知行動療法の対象疾患に「社交不安症」が加わった。本稿では,筆者らが取り組んできた社交不安症に対する認知行動療法の臨床研究および普及促進に向けた今後の展望を概括する。[SUMMARY] Antidepressants are the most commonly used standard treatment for social anxiety disorder (SAD). However, a significant proportion of patients fail to remit following antidepressant treatment, and no standard approach has been established for managing such patients. The authors have performed the following studies: (1) developed a treatment manual for cognitive behavioral therapy(CBT) for SAD and evaluated its feasibility in an exploratory study; (2)valuated the clinical effectiveness of CBT for patients with SAD who remain symptomatic following antidepressant treatment. Based on our findings, CBT for SAD has been covered by national health insurance in Japan from FY2016. In this paper, the authors will give an overview and summarize the clinical trials mentioned above, and describe the future prospects for disseminating CBT for SAD patients.
著者
上山 滋太郎 佐藤 弥生 木村 康
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.389-393, 1974-12
著者
松野 義晴 川端 由香 小野 祐新 佐藤 浩二 足達 哲也 小宮山 政敏 門田 朋子 森 千里
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.203-207, 2002-10-01
参考文献数
2
被引用文献数
2

肉眼解剖実習は,医歯科大学生にとって人体の構造および機能を学ぶ上で,重要な基礎科目の一つである。本学において,解剖実習に供される遺体は千葉白菊会会員から提供いただいている。ところで,本学の解剖実習施設は,本学医学生およびコメディカル学生以外には公開していなかった。以前より,実習施設に関しては,会員から「死後自らのご遺体を預ける施設について見学したい」といった要請があったが,その機会を実現するには至らなかった。しかし,平成13年3月に解剖実習施設内の面会室および実習室の改装が終了したことを機に,要請に応えることおよび施設の現状を会員に知っていただくことを目的として,同年10月に開催された千葉白菊会総会時に希望者に対して見学会を実施するに至り,その成果を含めここに報告する。見学会には112名が参加し,見学箇所への移動に支障のない会員を10名程度のグループに分け,面会室,霊安室,遺体保管室および解剖実習室の順に見学を行った。なお,移動の困難な会員については待機場所において映像による見学を行った。後日,見学会に関するアンケート調査を行ったところ,参加いただいた8割の会員から返答をいただき,見学会全体を通して肯定的な回答をいただいた。特に,実際に施設見学を行った会員の回答によって(1)スタッフの対応,(2)見学時間,(3)見学内容,さらには映像による見学を行った会員の回答にみられるとおり,(1)映像の出来映え,(2)映像に関する説明,(3)放映時間については,その肯定的な回答を約6割の会員から得た点からすれば,及第点をクリアーしているといっても過言ではなかろう。
著者
高野 光司
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.53-64, 2001-02-01

著者は, 1971年3月24日ゲッティンゲン大学医学部終身職教授, 運動神経生理部長(後部名改定により病態生理部長)に任官し, 1996年3月31日定年により部長職を解任された。以下は同年4月12日に行なわれた最終講義である。破傷風により現今, 全世界で1年に百万人のヒトが死んでいる。破傷風毒素はボツリヌス毒素とともに地球上で人類が知っている物質のうちで, 最も毒性が高い。ゲッティンゲン大学の若い医師A. Nicolaierによる最初の破傷風近代的研究, 同大学外科教授J. Rosenbachの実験, 北里柴三郎による病原菌の嫌気性培養の成功, 免疫の発見, Faberによる毒素の証明など19世紀後半の破傷風研究史とSherringtonの「抑制の興奮への変化仮説」など20世紀前半の神経生理学的研究を概観した。Brooks, Curtis, Eccles (1957)の脊髄運動神経細胞脱抑制説を簡単に紹介し, これが病因解明にはならないことを説明した。破傷風には, 局所性破傷風と全身性破傷風がある。脱抑制説による現在の教科書的病因論によれば, 全身性破傷風は, 局所性破傷風の総和であるが, 著者は, 臨床破傷風は, 局所性破傷風と全身性破傷風の和であるとする。また救命できるような破傷風は, 主としてガンマ運動系の活動冗進であり, ガンマ運動系を抑制するDiazepamの類が第1選択薬として全世界で使用されている理由を明解に示した。
著者
石出 猛史
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.97-106, 2004-06-01
被引用文献数
1

本学医学部の起源とされる共立病院は,明治7年(1874),千葉町の醤油醸造業者近江屋事柴田仁兵衛の倉庫を借りて開始された。一方,当時の院長二階堂謙の県知事に対する熱心な慟きかけが功を奏し,共立病院においても遺体の解剖実習を行うことが可能となった。当初,解剖は千葉新田にあった墓地内の小屋で行われた。第一高等中学校医学部時代に入ると,「長尾文庫」が創設され,近隣の住民にも解放された。文庫は,後に,本学図書館亥鼻分館に吸収されたと考えられている。医学部がある亥鼻山は,中世には千葉氏の本城があったとされている。数次にわたる発掘調査が行われており,城郭の遺構は確認されているものの,大規模な建造物の遺跡は見出されていない。近世以降繰り返されてきた畑地としての耕作,佐倉藩陣屋等の構築により,遺跡が破壊されてきたことも推定される。七天王塚の石碑群も風化等による破損が進んでいる。明治初頭の地籍調査記録中,千葉町に「千葉七俗霊神塚」の記述がみられる。七天王塚の原型と考えられるが,実態は不明である。
著者
鈴木 信夫
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.109-118, 2011-06-01
被引用文献数
2

即効を促す科学・技術の風潮などの様々な要因により,基礎医学の存続とその理念の継承が危ぶまれております。せめて,科学精神の神髄は刻印されるべき時のようです。そこで,そのような懸念と対策に適うか否かは後世の判断に委ねるとして,また,亥鼻台にて40数年間の学究活動をさせていただいた感謝の意を込めて,千葉医学へ過去に掲載した記事の補足をすることとします。 ワトソンの著書を読破した医学生時代に始まり,生化学第二講座(現 環境影響生化学)と微生物学講座(現 分子ウイルス学)での月火水木金金金の生活記録です。生命現象の神秘さに魅了され,無目的心境からスタートした大腸菌を用いた研究体験を踏まえて,ヒト個体には"突然"変異を"必然"変異とする新規の生理機能(SOS応答)があることを予感する悪戦苦闘の記録でもあります。前編では,その苦闘の末開発した培養ヒト細胞実験システムを紹介します。後編では,SOS応答探しの実証実験の過程を紹介します。将来,先天性疾患やがん,あるいはウイルス感染症などの変異に基づく様々な疾病が根本から絶滅されることを夢見ながら,ヒトの過去と未来を宇宙レベルから問う"宇宙進化医学"とでも称すべき基礎医学の開花を願うこととします。
著者
田川 まさみ 田邊 政裕
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.299-304, 2006-12-01
被引用文献数
2

コンピテンスとは専門職業人が,知識,技術を統合してある状況において専門職業人として業務を行う能力であり,倫理感や態度も求められる。PBLやOSCE導入の背景となっているコンピテンス基盤型教育は,教育プログラムの到達目標として一人前の医師に求められる能力であるコンピテンスを設定し,コンピテンス修得のための実践を伴う教育と,コンピテンス修得の程度を学習評価として行うものである。海外では医学部教育,研修医教育にこのコンピテンス基盤型教育が積極的に導入推進される動きがあることを概説する。
著者
杉本 元子 清水 栄司 SUGIMOTO Motoko 清水 栄司 シミズ エイジ SHIMIZU Eiji
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 = Chiba medical journal (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.199-208, 2015-10

【目的】学生などの若者を対象に,デート中の暴力(デートDV)の予防教育を行うための,約20分のe-ラーニング・コンテンツ「デートDV防止教育プログラム」を開発し,コンテンツ視聴前後のデートDVに関する知識の理解度質問票によって,その効果検証を行うことを本研究の目的とした。 【方法】18歳以上の大学生・専門学校生131名,平均年齢19.8歳を対象とし,研究内容の説明の後,書面での同意を得た。コンテンツ視聴前後に16項目のデートDV理解度質問票の回答を得た。使用したe-ラーニング・コンテンツは「デートDV防止教育プログラム」(約20分)である。コンテンツの内容は,第1章はデートDV・配偶者DVの基本知識,第2章はデートDVに巻き込まれた時の対応,第3章は,短いアサーティブネス・トレーニングの3章から成るフラッシュアニメ動画である。また,デートDV被害経験等の質問票の回答を封筒に入れて回収し,解析を行った。 【結果】16項目デートDV理解度質問票の総得点は,視聴前の21.85点から視聴後の25.73点と有意な上昇がみられた(P<0.001)。また,2種類以上の暴力を受けたと回答した者(デートDV被害者)21名(16.0%)に限定した解析によっても,視聴前後で同様に有意な上昇がみられた。 【考察】今回開発したe-ラーニング・コンテンツによって,視聴前後で有意な知識の向上をみた。今後,今回の予備的研究をさらに発展させるため,より多くの被験者を対象に,コンテンツ視聴者群と視聴無し群を設定し,2群に割り付けたランダム化比較試験を行っていく必要がある。また,我が国におけるデートDV被害状況を踏まえ,このコンテンツについて以下のWebサイトで自由に視聴してもらうことで普及を進めていく。 (https://www.stop-violence-chiba.jp./el/)
著者
落合 武徳
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.173-176, 2007-10-01
著者
Hoshino Masami Haraguchi Yoshikura Hirasawa Hiroyuki Mizushima Iwanori Tanaka Chie Morita Yasumasa Yokoi Takehito Sakai Motohiro 星野 正己 ホシノ マサミ 水島 岩徳 ミズシマ イワノリ 田中 千絵 タナカ チエ 森田 泰正 モリタ ヤスマサ 横井 健人 ヨコイ タケヒト 酒井 基広 サカイ モトヒロ 原口 義座 ハラグチ ヨシクラ 平澤 博之 ヒラサワ ヒロユキ
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.149-161, 2006-06-01
被引用文献数
1 3

Seven non-septic and twenty-two septic ICU patients with glucose intolerance were investigated by using bedside-type artificial pancreas (AP). IC was measured by the glucose clamp method (GC) in which BG level was clamped at 80mg/dL with two step insulin infusion rate (IIR) of 1.12 and 3.36mU/kg/min. Results: 1) IC could be estimated by the following formula: IC (mL/kg/min) =⊿IIR/⊿I≒2240/(I3-I1), (⊿IIR (mU/kg/min): difference of the amount of exogenous insulin infusion, ⊿I (mU/L): difference of the blood concentration of exogenous insulin, I1 (I3): blood concentration of insulin when IIR is 1.12 (3.36) mU/kg/min), because the difference between blood concentration of endogenous insulin when IIR was 1.12 mU/kg/min and that when IIR was 3.36mU/kg/min was small enough to be neglected. 2) IC was increased in 11 septic patients (50%) and was within normal limits in 8 septic patients (36%). 3) Among the factors which have been reported to influence IC in chronic diseases (age, body mass index, hyperlipidemia, blood lactate level, thyroid hormone, growth hormone, cortisol, organ dysfunction and its related parameters, etc.), only cardiac index was positively correlated with IC (y=3.3x+4.0, n=22, r=0.63, P<0.002).Conclusions: Measurement of IC on critical patients was established with our modified GC with two step insulin infusion. Hyperdynamic state was considered to be closely related to the increased IC.
著者
角南 祐子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.313-321, 1992-12-01

胸部エックス線写真の大動脈弓部石灰化所見は,一般に動脈硬化の指標として広く認められている。そこで今回大動脈弓部石灰化の年齢別変化を調べ,かつ今後の検診の参考にするため,住民検診時の間接写真を利用して大動脈弓部石灰化の年齢別分布,性差,地域差について検討した。さらに動脈硬化の諸要因と石灰化との関係も調べた。大動脈弓部石灰化出現率(以下石灰化率)は年齢とともに高率となり,高齢者では男性に比し女性の石灰化率が高かった。男女の石灰化出現のオッズ比(相対危険度)を算出すると,男性の女性に対する石灰化出現の危険性は有意に低かった。地域別に石灰化率をみると,農村部で最も高率で,漁村部,都市部の順に低率となり,その差は高齢者ほど顕著であった。動脈硬化の危険因子のうち,高コレステロール血症群,拡張期血圧高値群,喫煙群の三因子正常群に対する石灰化出現のオッズ比を性年齢別に算出したところ,女性では危険因子を有する群で有意に石灰化出現の危険性が高かった。石灰化の危険因子が単一の場合に比し,重複するとさらに石灰化出現の危険性が高くなる傾向が認められた。地域別に高血圧性疾患,虚血性心疾患,脳出血,脳梗塞等の動脈硬化性疾患の訂正死亡率をみると,都市部では他の地域に比し石灰化率と同様死亡率が低く,これらの関連が示唆された。石灰化出現は,大動脈系の内膜変化および動脈硬化性疾患の存在を示唆する所見であり,集団検診より診断できる所見として重要と考えられた。
著者
松田 兼一
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, 1999-06-01
著者
小林 進 落合 武徳 堀 誠司 宮内 英聡 清水 孝徳 千葉 聡 鈴木 孝雄 軍司 祥雄 島田 英昭 岡住 慎一 趙 明浩 大塚 恭寛 吉田 英生 大沼 直躬 金澤 正樹 山本 重則 小川 真司 河野 陽一 織田 成人 平澤 博之 一瀬 正治 江原 正明 横須賀 收 松谷 正一 丸山 紀史 税所 宏光 篠塚 典弘 西野 卓 野村 文夫 石倉 浩 宮崎 勝 田中 紘一
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.265-276, 2004-12-01

千葉大学医学部附属病院において2000年3月から,2003年8月まで8例の生体部分肝移植手術を施行した。5例が18歳未満(7ヶ月,4歳,12歳,13歳,17歳)の小児例,3側が18歳以上(22歳,55歳,59歳)の成人例であった。2例(7ヶ月,4歳)の小児例は左外側区域グラフトであるが,他の6例はすべて右葉グラフトであった。2側が肝不全,肺炎のため移植後3ヶ月,2ヶ月で死亡となったが他の6例は健存中であり,元気に社会生活を送っている。第1例目は2000年3月6日に実施した13歳男児のウイルソン病性肝不全症例に対する(ドナー;姉22歳,右葉グラフト)生体部分肝移植である。現在,肝移植後4年3ヶ月が経過したが,肝機能,銅代謝は正常化し,神経症状も全く見られていない。第2例目は2000年11月23日に実施した12歳男児の亜急性型劇症肝炎症例である(ドナー;母親42歳,右葉グラフト)。術前,肝性昏睡度Vとなり,痛覚反応も消失するほどの昏睡状態であったが,術後3日でほぼ完全に意識は回復し,神経学的後遺症をまったく残さず退院となった。現在,術後3年7ヶ月年が経過したがプログラフ(タクロリムス)のみで拒絶反応は全く見られず,元気に高校生生活を送っている。第3側目は2001年7月2日に実施した生後7ヶ月男児の先天性胆道閉鎖症術後症例である。母親(30歳)からの左外側区域グラフトを用いた生体部分肝移植であったが,術後,出血,腹膜炎により,2回の開腹術,B3胆管閉塞のためPTCD,さらに急性拒絶反応も併発し,肝機能の改善が見られず,術後管理に難渋したが,術後1ヶ月ごろより,徐々にビリルビンも下降し始め,病態も落ち着いた。術後6ヵ月目に人工肛門閉鎖,腸管空腸吻合を行い,現在,2年11ケ月が経過し,免疫抑制剤なしで拒絶反応は見られず,すっかり元気になり,精神的身体的成長障害も見られていない。第4例目は2001年11月5日に行った22歳男性の先天性胆道閉鎖症術後症例である(ドナー:母親62歳,右葉グラフト)。術後10日目ごろから,38.5度前後の熱発が続き,白血球数は22.700/mm^3と上昇し,さらに腹腔内出血が見られ,開腹手術を行った。しかし,その後敗血症症状が出現し,さらに移植肝の梗塞巣が現れ,徐々に肝不全へと進行し,第85病日死亡となった。第5例目は2002年1月28日に行った4歳女児のオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症症例である(ドナー;父親35歳,左外側区域グラフト)。肝移植前は高アンモニア血症のため32回の入院を要したが,肝移植後,血中アンモニア値は正常化し,卵,プリンなどの経口摂取が可能となり,QOLの劇的な改善が見られた。現在2年5ヶ月が経過したが,今年(2004年)小学校に入学し元気に通学している。第6例目は2002年7月30日に行った17歳女性の亜急性型劇症肝炎(自己免疫性肝炎)症例である(ドナー:母親44歳,右葉グラフト)。意識は第2病日までにほぼ回復し,第4病日まで順調な経過をたどっていた。しかし,第6病日突然,超音波ドップラー検査で門脈血流の消失が見られた。同日のCTAPにて,グラフトは前区域を中心とした広範囲の門派血流不全域が示された。その後,肝の梗塞巣は前区域の肝表面領域に限局し,肝機能の回復が見られたが,多剤耐性菌による重症肺炎を併発し,第49病日死亡となった。第7例目は2003年3月17日に行った59歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HCV陽性)症例である(ドナー:三男26歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S8に4個,S5に1個,計5個の小肝細胞癌を認めた。ドナー肝右葉は中肝静脈による広い環流域をもっていたため,中肝静脈付きの右葉グラフトとなった。術後は非常に順調な経過をたどり,インターフェロン投与によりC型肝炎ウイルスのコントロールを行い,移植後1年3ヶ月を経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。第8例目は2003年8月11日に行った55歳男性の肝癌合併肝硬変症例(HBV陽性)症例である(ドナー;妻50歳,右葉グラフト)。Child-Pugh Cであり,S2に1個,S3に1個,計2個の小肝細胞癌を認めた。グラフト肝は470gであり過小グラフト状態となることが懸念されたため,門脈一下大静脈シヤントを作成した。術後はHBV Immunoglobulin,ラミブジン投与により,B型肝炎ウイルスは陰性化し,順調に肝機能は改善し合併症もなく退院となった。現在移植後10ヶ月が経過したが,肝癌の再発も見られず順調な経過をとっている。ドナー8例全員において,血液及び血液製剤は一切使用せず,術後トラブルもなく,20日以内に退院となっている。また肝切除後の後遺症も見られていない。
著者
高橋 弦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.209-213, 1999-08-01

動物実験より決定した感覚神経の分節性支配領域(皮節)の分布の規則性を報告し,その規則性を根拠として既存のヒト皮節図の再評価を行なった。あらかじめEvans blueを静注投与したラットの,前肢・後肢の脊髄神経を感覚神経のC線維の興奮強度で電気刺激すると,その脊髄神経の支配領域の皮膚に色素漏出が発生した。この方法を用いてラットのC1-T1(前肢),T12-S1(後肢)脊髄神経を刺激し四肢の皮節図を決定した。四肢の皮節は体幹部の皮節と同様に,原則として体幹前後輪を集回するループ状構造を示し,そして腹側面・背側面では中枢側に向かい四肢の中心軸へ収束し,前側面・後側面では末梢に向かい四肢の中心軸に沿って伸長していた。ラットとヒトの四肢は解剖学的に相同関係にあり,骨・筋・末梢神経の空間的位置関係も同一である。さらに,今回ラットに認められた皮節分布の原則性は,霊長類を含めた他の哺乳類においてもすでに報告されており,ヒトの皮節分布もこの原則性に従うことが演繹的に推論される。そこで,この原則性をもとに仮説的なヒト皮節図を描き,この仮説図からヒト皮節図を再評価した。その結果,神経根切断症例より得られた野崎の図(1938年)や,神経ブロックより決定したBonicaの図(1990年)などがこの皮節分布の規則性を比較的によく示しており,臨床応用にふさわしい図であると結論した。