著者
新見 將泰 中島 祥夫 坂本 尚志 遊座 潤 伊藤 宏文 三浦 巧 鈴木 晴彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.97-104, 1994

近年,運動関連脳電位については手指の単純な屈伸運動に関する詳細な研究はあるが,発声に関する報告は少ない。本研究では,ピッチ変化と母音の変化における発声関連脳電位の変化を等電位図法と双極子追跡法(頭部均一媒質による)を用いて解析することを目的とした。18-35歳の健康な男女10名(右利き)を対象とし,高低数種類のピッチで母音を自己のペースで発声させた。脳波は頭皮上においた21個の表面電極より導出した。喉頭前面皮膚上においた加速度計波形の立ち上がりをトリガーとして用い,発声前2.5s,発声開始後2.5sの脳波を加算平均し,等電位図の作成と双極子追跡法により電源位置の推定計算を行い,被験者のMRI画像を用いて電源位置を検討した。発声に約1200ms先行して両側の中側頭部に緩徐な陰性電位が認められた。これは正常のヒト発声時の大脳皮質の準備状態を反映する発声関連脳電位と考えられた。この陰性電位は,分布範囲,強度とも左半球優位の場合が多かった。また発声のピッチを高く変化した場合には,右側の振幅の変化が,より大きくなる傾向があった。一般にヒトの発声において言語中枢は(左)優位半球に広く存在すること,発声周波数(ピッチ)の変化は(右)劣位半球の関与が大きいことが知られている。上記の結果はこの説に一致すると考えられた。発声に先行する陰性電位の電源部位は双極子追跡法により両側の中心前回下部付近に限局して分布した。発声のピッチや母音を変えても電源位置に変化は認められなかった。
著者
島 正之
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-9, 2005-02-01
参考文献数
41

わが国では硫黄酸化物による大気汚染は改善されたが,自動車交通量の増加に伴い,二酸化窒素や浮遊粒子状物質による大気汚染が問題となっている。とりわけ交通量の多い大都市部の幹線道路沿道部における大気汚染物質の濃度は高く,住民の健康に及ぼす影響が憂慮されている。われわれが千葉県で行った疫学研究では,学童の気管支喘息症状の有症率及び発症率は幹線道路沿道部において高かった。アレルギー等の多くの関連要因の影響を調整しても沿道部における喘息の発症率は統計学的に有意に高く,大気汚染が学童の喘息症状の発症に関与することが示唆された。近年,欧米諸国においても道路に近いほど呼吸器疾患患者が多いこと,大気汚染物質が喘息や気管支炎症状を増悪させることが数多く報告されている。幹線道路の沿道部に多くの人々が居住しているわが国にとって,自動車排出ガスによる大気汚染への対策は早急に取り組むべき喫緊の課題であり,自動車排出ガスと健康影響との因果関係を解明するために大規模な疫学研究を実施することが必要である。
著者
石出 猛史
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.139-149, 2011-08-01

千葉大学医学部の源は,明治7年(1874)に創設された共立病院とそれを継いだ公立千葉病院である。病院の設立は千葉県の衛生行政の一環として行われた。旧幕時代の慶応3年(1867)佐倉藩では,主として下級藩士と領内の窮民を対象とした洋式病院が設立運営されたが,共立病院は千葉県民を対象とした洋式病院の嚆矢でもあった。千葉県では新たに医師になる者に対して,洋式医学を教育するための機関として,公立千葉病院に医学教場を設置した。一方従来の開業医を対象として,県内各地に医学講習所を設けて,洋式医学の教育を行った。共立病院・公立千葉病院の医師は通常の診療のみならず,医学生の教育・住民に対する種痘・梅毒検疫などの多種多様な業務をこなした。医学教場の卒業生は,公立千葉病院で診療にあたるか地域での診療に従事した。千葉県における近代の医療は,当初このような医師たちによって担われた。またこの時代の数少ない知識人として,地方の行政において指導的な役割を果たす医師も少なくなかった。
著者
三木 隆 佐藤 武幸
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-6, 1987
著者
黒田 啓子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.67-74, 1989

古来,中国並びに本邦では,十字花科植物なずなは薬用植物として食されまたは利用されてきたが,その成分や薬理効果についての研究は,今世紀の初め,若干行われたにすぎない。我々の研究から,その抽出物が子宮収縮作用,抗胃潰瘍,抗炎症作用等いくつかの有用な薬理作用を持つことがわかった。次いで抽出物がマウスにおけるエーリッヒ固型癌の成長を抑制することも見出され,抗癌作用や抗胃潰瘍作用の有効成分としてフマール酸を単離,同定した。有効な抗癌性物質マイトマイシンCは副作用も強いがフマール酸と併用投与することにより,副作用のみが選択的に軽減される。フマール酸は,又,化学物質による発癌,例えば,ニトロフランによる胃癌や肺癌の誘発,アゾ色素やチオアセタミドによる肝癌の誘発を抑制する。これらフマール酸の活性は組織DNA合成を促進してこれら毒物による組織損傷を修復することを助けることに基づくものと考えられる。
著者
阿不拉 地里夏提 中島 祥夫 下山 一郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.347-357, 2001-10-01

母国語,外国語の認知過程における脳機能局在差異を明らかにすることを目的に,TVモニターに呈示された,1)母国語として漢字単語を外国語として英単語々黙読したとき,2) 2桁のアラビア数字を母国語と外国語で黙読したときの21チャンネル事象関連脳電位を記録し,解析した。1)での被験者は右利き健常成人9名(日本人5名,中国人4名),2)では右利き健常成人10名(日本人6名,ウイグル人4名)であった。その結果,単語認知及び数字認知の両タスクにおいて,刺激後200-300msの間で陰性電位が見られ,その振幅は外国語認知で母国語認知より大きかった。漢字と英単語を黙読したとき,漢字では両側側頭葉及び中心部に陰性電位活動が見られ,英語では左側側頭葉により大きい陰性電位活動が観察された。アラビヤ数字を母国語と外国語で黙読したときは全ての被験者で両側側頭葉及び後頭葉に陰性電位が観察された。これらの結果から,単語及び数字認知時の脳活動は母国語よりも外国語処理で強く,視覚呈示後200-300msで認知処理が最大となると考えられた。また,母国語(漢字と数字)の認知過程には右脳のイメージ処理と左脳の言語処理が同時に関わり,外国語(英語)の認知過程では従来指摘されている言語中枢との関連で左半球が優位であることが示唆された。
著者
本多 瑞枝
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.187-197, 1985-06-01

Duchenne型進行性筋ジストロフィー症(DMP)の心機能を3年間にわたって観察し,生存例と死亡例を比較検討した。対象はDMP35例(平均年齢16歳,骨格筋運動機能障害stageV〜VIII)で,観察期間中10例(28.6%)が死亡した。その死因は,心不全(6例)と呼吸不全(4例)であった。これらに原則として年1回心機図および心超音波検査を行ない,駆出時間と前駆出期の比(ET/PEP),左室拡張末期径,平均左室後壁収縮速度(mPWV),最大左室後壁拡張速度(maxDPWV)を計測し,心超音波断層像より左室局所壁運動を観察した。死亡前の検査では,死亡例は生存例よりET/PEP,mPWV,maxDPWVの低下と左室拡張末期径の増大を示した。特に心不全死例は心機能障害が著明であった。3年間の心機能の経過をみると,生存群ではET/PEP,mPWV,maxDPWVなどが軽度に低下した。心不全で死亡した症例は,死亡の2〜3年前は生存群と区別が困難であった。しかし,その後心機能障害が急激に進行し,死亡前には著明な心拡大と広範な左室壁運動低下をみとめた。剖検所見は高度の心筋線維化を示した。これに対し,呼吸不全で死亡した症例の経過は心不全死例に比べ緩徐であった。呼吸不全死例はいずれも骨格筋病変が重症で,著明な肺機能障害を特徴とした。このようにDMPでは心筋病変と骨格筋病変の進展は必ずしも並行せず,心機能障害が急速に進行する場合がある。しかも,心不全症状は死亡直前まで明らかでないことが多い。しかし,心超音波法と心機図を併用して,心機能を経年的に観察することにより心不全の早期発見が可能であり,これらはDMPの治療上有用な検査法と考えられた。
著者
吉田 孝宣 岡崎 伸生 荒木 英爾
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.167-170, 1988

必須脂肪酸欠乏状態にあるドンリュー系雄ラットに腹水肝癌細胞AH130(以下,無脂肪食AH130細胞)を継代移植して,その脂肪酸構成の変化を観察し,宿主の栄養環境の変化が腫瘍細胞に与える影響について検討した。その結果,無脂肪食AH130細胞の脂肪酸組成は普通食で飼育したラットに移植したAH130細胞のそれに比べ,18:1(n-9)の増率と18:2(n-6)の減率,および,20:3(n-9)の出現と20:3(n-6)の消失が見られた。一方,無脂肪食で飼育したラットの肝と血清では,これらの変化に加え20:4(n-6)の減率も認められた。無脂肪食AH130細胞に見られたこれらの脂肪酸組成の変化は,宿主の肝と血清における変化と同方向の変化で,AH130細胞の脂肪酸組成は宿主であるラットの栄養環境の影響を強く受けていることを示している。しかし,20:4(n-6)が宿主の肝においてのみ有意に減率していた事実は,AH130細胞独自の脂肪酸代謝機構の存在を示唆しているものと推定される。
著者
小林 進 落合 武徳 堀 誠司 鈴木 孝雄 清水 孝徳 軍司 祥雄 剣持 敬 島田 英昭 岡住 慎一 林 秀樹 西郷 健一 高山 亘 岩崎 好太郎 牧野 治文 松井 芳文 宮内 英聡 夏目 俊彦 伊藤 泰平 近藤 悟 平山 信夫 星野 敏彦 井上 雅仁 山本 重則 小川 真司 河野 陽一 一瀬 正治 吉田 英生 大沼 直躬 横須賀 収 今関 文夫 丸山 紀史 須永 雅彦 税所 宏光 篠塚 典弘 佐藤 二郎 西野 卓 中西 加寿也 志賀 英敏 織田 成人 平澤 博之 守田 文範 梁川 範幸 北原 宏 中村 裕義 北田 光一 古山 信明 菅野 治重 野村 文夫 内貴 恵子 斎藤 洋子 久保 悦子 倉山 富久子 田村 道子 酒巻 建夫 柏原 英彦 島津 元秀 田中 紘一
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.231-237, 2000-10-01
被引用文献数
1

今回,千葉大学医学部附属病院において,本県第1例目となるウイルソン病肝不全症例に対する生体部分肝移植の1例を実施したので報告する。症例(レシピエント)は13歳,男児であり,術前,凝固異常(HPT<35%)とともに,傾眠傾向を示していた。血液型はAB型,入院時の身長は176.0cm,体重は67.0kgであり,標準肝容積(SLV)=1273.6cm^3であった。ドナーは姉(異父)であり,血液型はA型(適合),身長は148.0cm,体重は50.0kgと比較的小柄であり,肝右葉の移植となった。術後は極めて良好な経過をたどり,肝機能は正常化(HPT>100%)し,術後72病日で退院となった。