著者
瀬岡 和子 Kazuko Seoka
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-34, 2014-05-30

戦後日本の小売業態革新に貢献したひとりとして、昭和30年代における吉田日出男の意識と行動に焦点を当てて、彼が日本初のスーパーマーケット「丸和フードセンター」を誕生させていく経緯と,その後、スーパーマーケットのボランタリーチェーン活動=「主婦の店」運動を展開していく過程を、長戸毅(日本NCR)や喜多村実(公開経営指導協会)との関係に注目しながら,ミクロの視点から明らかにした。また、ダイエー創業当時の中内功と吉田との交流関係や、中内が吉田の主婦の店運動をどのように見ていたのかについて考察した。
著者
板垣 竜太 Ryuta Itagaki
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.37-68, 2023-02-28

本論文は,黄海道平山郡の刑事訴訟記録(1946~47年の94件)の分析を通じて,日本の植民地支配から解放されて間もない時期の北朝鮮社会における社会規範の急速な変化の様態を明らかにすることを目的としている。この時期、裁かれる側だけでなく,罪を認め,裁き,罰を与える側も,その根拠となる法令も,ともに流動的な状況にあった。新たな予審制度の導入や、公判への参審員の参加、公判の即日宣告制など、裁く方式にも大きな変化が見られた。民衆の新たな政治的要求にある程度応じながら,「人民」の名においておこなわれていった刑事司法では,ときに厳しい,ときに寛大な判断がくだされた。これは<罰>が与えられるべき<罰>だ,これは<罰>が与えられるべきものではない,という判断が繰り返されるなかで,社会の「ノーマル」(標準,正常)が徐々に形成されていった。
著者
谷川 竜一 Ryuichi Tanigawa
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.3-35, 2023-02-28

本稿では、1946年5月21日から55日間にわたって、金日成らの指導の下、平壌で行われた普通江改修工事を扱う。それを通じて工事計画の推移や実施の背景、実際の建設場所や動員計画、そして労働現場の実相を解明する。議論の前半では植民地期に遡って工事の経過を確認するとともに、後半では新資料を用いて動員方法や「突撃隊」の意義などを検討する。最終的には植民地期の建設工事が、解放後に脱植民地化されていくプロセスに迫る。
著者
川満 直樹 Naoki Kawamitsu
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.337-355, 2023-02-28

1947年に、パキスタンは英領インドより分離独立し誕生した。パキスタンの経済は、分離独立当初より、いくつかの財閥にけん引され現在に至っている。それらの財閥傘下企業は、現在でも特定の一族により支配されている。本論では、アトラス財閥、ビボージー財閥、ダーウード財閥とラークサン財閥の4つの財閥を取り上げ、それぞれの財閥傘下企業と一族の関係を検討する。具体的には、2000年代から2020年までの期間を対象に、財閥傘下企業が毎年発行しているAnnual Reportを分析の手掛かりとして、一族の中で誰がもっとも財閥傘下企業に対して影響力があるのかを検討した。
著者
林 葉子 Yoko Hayashi
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.31-55, 2021-11-30

本稿は,1900年以降に全国的に大流行したストライキ節(東雲節)に関する史料の検証を通じて,娼妓や芸妓にとっての自由廃業運動の意義について考察するものである。本稿では,ストライキ節の発祥地が東京であったことや,演歌師ではなく娼妓や芸妓らがストライキ節の流行の主要な担い手であったことを明らかにし,流行唄に表現された遊廓内の女性たちの性の自由を求める思いが,自由廃業運動を根底で支えた原動力だったと論じた。
著者
田中 和男 Kazuo Tanaka
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.1-29, 2011-08-26

高田保馬は青年期から貧困などの社会問題に関心を持っていた。20世紀初頭に学んだ五高時代には校友会雑誌に社会主義を紹介する論文を書き、トルストイの非戦論を紹介していた。同級生の一高転校問題を発端とする栗野事件に対しても、特権者を優遇する学校当局の姿勢を批判した。社会運動のための理論構築のために入学した京都帝国大学では、社会学の指導教授米田庄太郎により運動論的な視座が打ち砕かれ、地道な理論的探求の道を選んでいくことになった。
著者
田中 圭子 Keiko Tanaka
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
no.80, pp.43-58, 2008-03-11

日本の球体関節人形は、1960年代に澁澤龍彦、瀧口修造らシュルレアリストたちによって紹介されたハンス・ベルメールの人形写真との邂逅に始まる。人形には「人形としてのかたち」があるという発見から生まれた四谷シモンの人形は、それまでの叙情的で愛らしい創作人形の概念を覆すものであった。70年代の四谷シモン、土井典らの活躍によって、球体関節人形は工芸の一部としては収まりきらないものとの認識が高まり、新たな文脈の中で独自の発展を遂げてゆく。80年代、天野可淡、吉田良らが制作した耽美で幻想的な人形作品と写真集は、その後の人形表現に大きな影響を及ぼし、多くの追随者を生むこととなった。また、球体関節人形に関する出版物の増加、人形教室の開設などにより、球体関節人形制作は短期間で全国に波及し、多くの作家を輩出していった。近年では、西欧のビスクドールに影響を受けた恋月姫の登場以降、玩具性やファッション性を重視する傾向が強まり、球体関節人形文化はサブカルチャーと係わりあいながら新たなひろがりを見せている。
著者
藤原 秀夫
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
no.92, pp.1-39, 2011

歴史的には信用創造・貨幣創造モデルは部分的なモデルとして確かに存在していたし、テキストにもしばしば現れるが、従来の信用創造および貨幣創造の説明の本質的な弱点は、この部分的モデルがマクロの同時決定モデル(一般均衡モデル)にどのように結合されるのかという点を、不均衡調整過程も含めて全面的に明らかにしていないということであった。部分的な信用創造・貨幣創造モデルをマクロ信用創造一般均衡モデルへと展開していく上で、歴史的にみて、重要な方法の1つは、フィッシャー=フリードマンの貨幣乗数の定式化であった。多くのモデルがこれを踏襲している。もう1つは、預金供給に関して、民間銀行部門の預金需要への受動的行動態度を仮定する方法である。いずれも、貨幣供給の構成要素である預金供給がマクロ経済でどのように決定されるのかが、核心的な論点である。本稿では、部分的な信用創造・貨幣創造モデルを一般均衡モデルへと展開していく上で、基本的には、上記の2つの方法を検討している。これらの方法によって、部分的な信用創造・貨幣創造モデルを一般均衡モデルへと整合的に展開することは十分に可能であったが、部分的な信用創造モデルが持つ本源的預金と派生預金の区別を重視した展開は、民間銀行部門の預金供給に関する受動的な行動態度を仮定するモデルであった。多くの論者が、一方では部分的な信用創造モデルでは本源的預金と派生預金を区別しながら、他方、一般均衡モデルでは、フィッシャー=フリードマンの定式化に従って、派生預金供給のみとして、その代替的な方法を試みないことは、整合的な議論であるとはいえない。
著者
田村 雲供 Unkyo Tamura
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
no.83, pp.127-151, 2009-02-28

ナチズムのユダヤ人迫害を逃れ、アメリカに渡り、生涯をアメリカで過ごしたハンナ・アーレントの思考は、社会的なものと政治的なものとを分け、後者の復権こそがナチズムのような社会現象を防ぐとみる。したがって、リトルロックの公立校での黒人・白人共学実施をめぐっての暴動のなかで、アーレントは教育という社会的な場に権力がはいって共学を実施しようとすると非難し、分離教育を主張した。しかし、その論理には第三の要素「身体」が大きく作用していたことを追う。
著者
川満 直樹 Naoki Kawamitsu
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.53-68, 2020-08

本稿の目的は、パキスタンに存在する財閥がどのようにして誕生したのかを検討することである。1947年に英領インドから分離独立したパキスタンの経済発展を担ってきたのがいくつかの財閥である。現在でもいくつかの財閥は、パキスタン経済に多大な影響を与えている。パキスタンの経済発展を担ってきた財閥が、パキスタンという社会、制度の中でどのようにして財閥化したのかを「地域的な要因」と「ヒューマンネットワーク的な要因」から検討する。特集 経済制度と社会秩序の形成に関する理論実証分析論説(Article)