著者
根津 朝彦 ネズ トモヒコ Nezu Tomohiko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.113-136, 2013-02

論説(Article)これまで看過されてきた1950年代の多田道太郎の仕事のもつ意味に注目し、彼に有する「非・反アカデミズムの視座」の特徴と変容を明らかにした。多田がこの視座を培ったのは、京大人文研と『思想の科学』、桑原武夫と鶴見俊輔との出会いが大きい。そして多田は学問に発想を重んじていくが、60年安保以降、アカデミズムへの志向はかげりを見せ、50年代に多田が目指していた研究者と実作者を橋渡しする学問の模索を断ちきってしまった。
著者
福田 智子 フクダ トモコ Fukuda Tomoko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.1-26, 2018-08-31

研究ノート(Note)『古今和歌六帖』は、約四千五百首の歌を、二十五項目、五百十七題に分類した類題和歌集である。収載歌には、『万葉集』『古今集』『後撰集』など、出典の明らかな歌もある一方、現在では出典未詳と言わざるを得ない歌もある。本稿では、「椎」から「山萵苣」までの題に配されている出典未詳歌、十首について注釈を施す。
著者
矢野 環 福田 智子 ヤノ タマキ フクダ トモコ Yano Tamaki Fukuda Tomoko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-25, 2018-05-31

資料(material)本稿は、「《資料》 竹幽文庫蔵『香道籬之菊』の紹介」(『社会科学』第46巻第2号、2016年8月)を受け、「同―同(三)―」(『社会科学』第47巻第1号、2017年5月)、「同―同(四)―」(『社会科学』第47巻第2号、二〇一七年八月)、「同―同(五)―」(『社会科学』第47巻第3号、二〇一七年十一月)、「同―同(六)―」(『社会科学』第47巻第4号、二〇一八年二月)に引き続き、竹幽文庫蔵『香道籬之菊』所載の組香について、とくに和歌を主題とする組香の翻刻と考察をおこなうものである。本書は、礼・楽・射・御・書・数の6巻6冊から成り、177の組香が掲載されているが、その半数近くは、和歌および歌集の序文など、特定の作品を素材として組み立てられている。そこで、本稿では、射の巻から、新時鳥香、蛙香、妻乞香、また御の巻から、重陽香、枝折香、八幡山香の、計六つの組香を取り上げた。
著者
永井 真也
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.75-88, 2005-09

1999年のPFI法の導入以来,2005年6月でPFIの取組件数は200件を越えた。社会資本整備手法として注目されているが,PFIの動向を分析し,今後の課題を探ってみた。今日までの傾向を分析すると、本来PFIに望まれていた民間事業者の資金の導入であるとか、ノウハウの導入はなおざりになっており、従来型の公共事業にPFIという名称を付けただけのようにも受け取れる。そうした全国的なデータの傾向を、徳島市の事例から検証をしてみた。徳島市議会の議事録から、うかがい知れる導入過程はPFIありきの議論であった。せめて、PFIを導入するのなら、京都市の御池中学校のような複合化による街づくりもふまえたモノにした方が、将来的にもよい事業ができるのではないだろうか。
著者
谷山 勇太
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.37-67, 2007

本稿は本誌第78号「近世の嵐山と日切茶店」に引き続き、天龍寺の寺務日誌『年中記録』を素材として、近世という時間のなかで名所嵐山をめぐって繰り広げられたさまざまな人びとの営みの跡をみつめようとするものである。本稿では、とくに渡月橋の記録を通して、近世の嵐山と法輪寺、十三詣り、渡月橋のそれぞれのかかわり合いと結びつきについて考えるとともに、近世の嵐山という名所文化の一面にまなざしを向ける。
著者
村上 亮
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.31-52, 2014-08

本稿は,ハプスブルク統治下ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいて展開された農業政策を事例として,ハプスブルク独特の二重帝国(アウスグライヒ)体制の一端を明らかにすることを目的とする。ボスニアは,帝国内唯一の「共通行政地域」として共通財務省の管轄下におかれ,その統治はオーストリアとハンガリーが共同対処する「共通案件」とされた。またこの地では,就業人口の9割近くが農業に従事しており,その中心をなす畜産は重要な意義をもっていた。今回はとくに,第一次世界大戦前夜に構想されたボスニア地方行政府官吏フランゲシュの農業振興法案が成立するまでの過程に着目し,次の点を明らかにした。第一は,フランゲシュの振興法案が,家畜の品種改良の促進,農業機関の設立,農業信用制度の創設を中心とするもので,ボスニアの事情と帝国本国とボスニアとの経済関係を勘案して作成されたことである。第二は,ボスニア統治が「共通案件」であったため,法案はその施行までに帝国中枢,とりわけハンガリー政府からの妨害に直面したことである。しかし,帝国中枢もボスニア議会(1910-14年)を始めとする現地の意向を勘案せざるを得ず,振興法案は縮減されたものの成立した。本稿の検証を通じて,「共通案件」をめぐる複雑な政策決定過程を跡づけた。
著者
米原 謙 ヨネハラ ケン Yonehara Ken
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.107-136, 2017-05

研究ノート(Note)日本型社会民主主義とは、英国労働党やドイツ社会民主党のような西欧社会民主主義、ボルシェヴィキのような前衛党を否定し、マルクス主義を堅持しながら民主主義の拡充を通じて社会主義革命を実現しようとする考えかたである。それは1920年代の山川均が試行錯誤の末にたどり着いた結論だった。山川は1920年代初めにはロシア革命とレーニンを支持し、第一次日本共産党の理論的中心だったが、20年代半ばから徐々に小ブルジョアを含む「協同戦線」を主張し、前衛党という考えかたを批判するようになる。
著者
渡辺 恭彦 ワタナベ ヤスヒコ Watanabe Yasuhiko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.239-258, 2016-05-30

論説(Article) 本論では、戦後日本の哲学者廣松渉の著作『生態史観と唯物史観』(1986)を扱った。同書は、1957年に梅棹忠夫が発表した「文明の生態史観」を批判的に検討したうえで、廣松渉自身の歴史観を打ち出したものである。生態学の遷移(サクセッション)理論を文明論的な歴史の展開に援用した梅棹の生態史観を、廣松は人間社会と自然環境との相互作用を対象化していないとみている。廣松は、両者を媒介するのは人間の歴史的営為であるという。 We are concerned with "The ecological view of the history and the historical materialism" (1986) by Japanese philosopher Hiromatsu Wataru. This writing describes his perspective of history, examining " an ecological vie of the history" (1957) by Umesao Tadao. Umesao applies the ecological succession theory to development of the history. However, Hiromatsu points out that Umesao's theory doesn't explain how the human society and the environment interact each other. Hiromatsu claims that what mediate both of them is historical action of human kinds.
著者
矢野 環 福田 智子 ヤノ タマキ フクダ トモコ Yano Tamaki Fukuda Tomoko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.47-72, 2017-09-11

資料(Material)本稿は、「《資料》 竹幽文庫蔵『香道籬之菊』の紹介」(『社会科学』第46巻第2号、2016年8月)を受け、「同 : 同(三)」(『社会科学』第47巻第1号、2017年5月)に引き続き、竹幽文庫蔵『香道籬之菊』所載の組香について、とくに和歌を主題とする組香の翻刻と考察をおこなうものである。本書は、礼・楽・射・御・書・数の6巻6冊から成り、177の組香が掲載されているが、その半数近くは、和歌および歌集の序文など、特定の作品を素材として組み立てられている。そこで、本稿では、楽の巻から、皐月香・大井川香・外山路香・新六歌仙香、また、射の巻から、深山香・宇治拾遺香の、計6つの組香を取り上げた。
著者
福田 智子 フクダ トモコ Fukuda Tomoko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.27-46, 2017-09-11

研究ノート(Note)『古今和歌六帖』は、約四千五百首の歌を、二十五項目、五百十七題に分類した類題和歌集である。収載歌には、『万葉集』『古今集』『後撰集』など、出典の明らかな歌もある一方、現在では出典未詳と言わざるを得ない歌もある。本稿では、「檀」から「紅梅」までの題に配されている出典未詳歌、九首について注釈を施す。
著者
戸田山 祐 トダヤマ タスク Todayama Tasuku
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.33-64, 2016-05

論説(Article)本稿は,1940年代末から50年代にかけての米墨両国政府の移民・国境警備政策およびテキサスからの反応について論じた。メキシコ人非合法移民の流入を抑えるため,米墨両国はメキシコ人短期移民労働者の雇用を同州の農場経営者に促す一方で,米国移民帰化局は1954年に大規模な非合法移民の送還を実施した。1950年代後半には,短期移民労働者プログラムの拡充と国境警備の強化を両輪とする両国合同の政策枠組みにテキサスは完全に組み込まれたのである。This paper examines immigration and border control policies of Mexico and the United States from the late 1940s to the 1950s as well as reactions from Texas to such policies. While the United States and Mexico encouraged Texan growers to employ temporary workers from Mexico instead of undocumented workers, the U.S. Immigration and Naturalization Service initiated mass deportations of undocumented immigrants in the mid-50s. By the late 1950s, Texas was fully incorporated into the binational policy framework, which was comprised of expansion of the temporary worker program and stricter control of the U.S.-Mexico border.特集 ラテンアメリカにおける国際労働移動の比較研究(Special issue: Comparative study of international labor migration in Latin America)
著者
佐藤 夏樹 サトウ ナツキ Sato Natsuki
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.121-146, 2016-05

研究ノート(Note)1980年代に「ヒスパニック組織」となったLULACの視野はラテンアメリカ全域へと広がった。LULACは外交分野、特にエルサルバドル問題で合衆国政府を痛烈に批判し、そうした姿勢はラテンアメリカとの関係改善を望むイスラエル政府からの接触へとつながった。一方、LULACはイスラエル政府との関係を利用して合衆国内のユダヤ系コミュニティとの関係構築を目論んだ。「ヒスパニック組織」となったことで、LULACは新たな活動を展開していくこととなった。In 1980s, League of United Latin American Citizens (LULAC), the oldest and largest Mexican American Civil Rights Organization, expanded the scope of their activities to Latin America because they became "Hispanic" organization. LULAC criticized Reagan Administration's Foreign Policy in Latin America. LULAC's critical attitude to the U.S. policy in El Salvador attracted Israeli government's attention because they wanted to improve relations with Latin American Countries. Hispanic leaders including president of LULAC, Tony Bonilla, were invited by Israeli government and they planned to utilize this opportunity to build relations with Jewish community in the United States.特集 ラテンアメリカにおける国際労働移動の比較研究(Special issue: Comparative study of international labor migration in Latin America)
著者
三原 芳秋
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
no.90, pp.1-42, 2011

論説(Article)本論考は,T.S.エリオットの「伝統と個人の才能」(1919年)が,帝国日本の思想家・西田幾多郎および植民地朝鮮の「親日派」・崔載瑞というふたりの知識人によって「誤読」された事例をめぐって,そもそもエリオットのmetoikos(居留外国人)的主体性に潜在していたイデオロギー素の解析から,この不気味な「誤読」を生んだ政治的・理論的ドラマの絡まり合いを解きほぐし,その過程で生産され抑圧された「問題」を明るみに出すThis article deals with the two uncanny "misreadings" of T. S. Eliot's "Tradition and the Individual Talent" (1919) by Nishida Kitaro, leading philosopher of the Japanese Empire, and Choe Chaeso, "pro-Japanese" intellectual of Colonial Korea. Analyzing the ideologemes inherent in Eliot's metic [i.e., metoikos] "Tradition", the author attempts to unweave the intertwined political and theoretical dramas involved in these unpredictable disseminations, and to uncover the unique "problems," or "problematics," produced and suppressed through the process.
著者
渡辺 恭彦 ワタナベ ヤスヒコ Watanabe Yasuhiko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.239-258, 2016-05

論説(Article)本論では、戦後日本の哲学者廣松渉の著作『生態史観と唯物史観』(1986)を扱った。同書は、1957年に梅棹忠夫が発表した「文明の生態史観」を批判的に検討したうえで、廣松渉自身の歴史観を打ち出したものである。生態学の遷移(サクセッション)理論を文明論的な歴史の展開に援用した梅棹の生態史観を、廣松は人間社会と自然環境との相互作用を対象化していないとみている。廣松は、両者を媒介するのは人間の歴史的営為であるという。We are concerned with "The ecological view of the history and the historical materialism" (1986) by Japanese philosopher Hiromatsu Wataru. This writing describes his perspective of history, examining " an ecological vie of the history" (1957) by Umesao Tadao. Umesao applies the ecological succession theory to development of the history. However, Hiromatsu points out that Umesao's theory doesn't explain how the human society and the environment interact each other. Hiromatsu claims that what mediate both of them is historical action of human kinds.
著者
ハージ ガッサン 水谷 智[訳]
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.11-37, 2010-02

論説本稿の議論の対象は多文化主義的な統治性の限界である。とりわけ,現代オーストラリアにおいて,「統治不能なもの」がなぜ,いかにレバノン系のムスリム移民像に具現化されているかを検証する。This essay is concerned with the limits of multicultural governmentality. It investigates the spaces where this governmentality fails: the spaces where it comes face to face with the `ungovernable'. In particular, the essay examines how this `ungovernable' has become embodied in the figure of the Muslim immigrant in contemporary Australia.翻訳:水谷智
著者
佐藤 龍子
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.81-96, 2007

本稿では,高等教育政策の量的緩和の最たるものとして「期間を限った定員増」(臨時的定員)とその後の臨時的定員の5割恒常定員化を取り上げる。1992年をピークとした第2次ベビーブームの18歳は,205万人に達した.大学・短大の志願者は122万人にものぼった。当時の受験生にとっては,まさに地獄であったが,大学にとっては黙っていても受験生が集まる時代であり,1986年から1992年の7年間は「ゴールデンセブン」 (輝く7年間)であった。大学にとっては天国であり,「バブルの時代」でもあった。 当初の臨時的定員計画は44,000人であったが,最終的には112,443人になった。恒常的定員も当初計画は42,000人であったが,78,173人になった。その後,臨時的定員は5割恒常定員化されることになった。 「ゴールデンセブンの時代」と臨時的定員政策は,高等教育にどのような影響を及ぼしているのだろうか。大学大衆化の進展と関わりはどうなのか。今,改めて臨時的定員政策を振り返ってみたい。