著者
辻井 弘忠 吉田 元一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.p37-48, 1984-07

昭和28年に報告された(昭和23年時)の調査データーと比較し,35年間で木曾馬の体型がどのように変化したかを調べた。開田村,上松町,田立村,名鉄木曾馬牧場の4才以上の木曾馬牝30頭について体高,体長,尻高,頭幅,腰幅,尻幅,頭長,尻長,胸深,胸囲,管囲を測定した。毛色等は牡5頭を含む総計45頭について測定した。毛色は鹿毛色が圧倒的に多く,月毛や芦毛はみられなかった。背に鰻線を有するものが17頭もおり,額に刺毛,星等を有する馬はいなかった。木曾馬種,木曾系種ともに昭和28年時と比べて殆どの部位で差が認められ,後軀に対する前軀の充実がみられた。これから木曾馬の体型に近付きつつあることが推察された。まだ明治時代の体型よりひとまわり大きいものの,大正,昭和23年時より明治時のそれに近付く傾向がみられた。
著者
辻井 弘忠 吉田 元一
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.103-110, 1984 (Released:2011-03-05)

木曾馬は,戦後外部からの移入を完全に閉じた閉鎖繁殖集団を形成し,体型を昔の形に戻そうとする努力と,母集団が小さいことも手伝って近親交配がかなり行われている。本調査は,1969年から1984年までの登録簿からの各馬の3代前の先祖が明らかな牡5頭,牝26頭と,一部先祖が不明な牡4頭牝43頭についてWrightの式によって各近交係数を算出した。その結果,先祖が明らかなものにおける平均近交係数は木曾馬種牡で0.156,木曽系種牝で0.070と木曾馬種で特に近交係数が高まっていた。一部先祖が不明なものにおける平均近交係数は木曾馬種牝で0.030,木曽系種牝で0.032であった。登録馬全体の平均近交係数は0.066,現存する馬全体の平均近交係数は0.081,また,牡馬の平均近交係数0.095,牝馬の平均近交係数0.060といずれも近交係数が高まっているのが判明した。産年次別に平均近交係数をみると,ほぼ一直線に増加していた。今後,これらの結果を参考にして近交係数の高い馬同士の交配を避けなければならない。
著者
辻井 弘忠 吉田 元一
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.37-48, 1984 (Released:2011-03-05)

昭和28年に報告された(昭和23年時)の調査データーと比較し,35年間で木曾馬の体型がどのように変化したかを調べた。開田村,上松町,田立村,名鉄木曾馬牧場の4才以上の木曾馬牝30頭について体高,体長,尻高,頭幅,腰幅,尻幅,頭長,尻長,胸深,胸囲,管囲を測定した。毛色等は牡5頭を含む総計45頭について測定した。毛色は鹿毛色が圧倒的に多く,月毛や芦毛はみられなかった。背に鰻線を有するものが17頭もおり,額に刺毛,星等を有する馬はいなかった。木曾馬種,木曾系種ともに昭和28年時と比べて殆どの部位で差が認められ,後軀に対する前軀の充実がみられた。これから木曾馬の体型に近付きつつあることが推察された。まだ明治時代の体型よりひとまわり大きいものの,大正,昭和23年時より明治時のそれに近付く傾向がみられた。
著者
有馬 博 高橋 敏秋
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.p37-52, 1975-12

1 前報3)のSU-74型加工トマト収穫機試作にひき続き,1975年にSU-75 FS型加工トマト選果機を試作し実験した。2 この選果機は歩行型クローラ台車にホッパー,さん付きバーコンベア,平ベルト逆転式選別コンベア,選果台その他からなる選果装置を搭載した小型の一挙収穫用作業機である。3 作業車は2~8名としうち1~3名がホッパーへ果実を振り落とす。果実はバーコンベアで搬送され逆転コンベアできよう雑物を除去されたのち選果台に達する。他の作業車は,選果台附近にいて熟度選果を行い出荷可能果を畦上のコンテナへ収容する。4 台車から選果装置を取り外し,代わりに荷台を搭載すればコンテナ運搬車として利用できる。5 ほ場実験の結果,果実収穫作業,コンテナ運搬作業とも従来の作業方法の約2~3倍の作業能率(kg/人/分または箱/人/分)をあげることができ,果実の損失もなかった。6 この選果機は単純小型の構造で品種や栽培条件に制約を受けることが少ないので国内の栽培地へただちに導入できるであろうと推察された。
著者
大井 美知男 磯村 由紀
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.49-55, 2000-10

長野県在来のダイコン13品種の形態調査を26項目について行った。得られた結果をもとにクラスター分析を行ったところ,以下の3グループと5サブグループに分類された。グループ1,サブグループA:「灰原大根」,「信州地大根」,「ねずみ大根」,「切葉松本地大根」,「戸隠大根」,「上平大根」,「牧大根」サブグループB:「上野大根」サブグループC:「前坂大根」グループ2,サブグループD:「たたら大根」サブグループE:「大門大根」サブグループF:「赤口大根」グループ3,「親田辛味大根」 さらに,長野県在来のダイコン品種が多様な変異を持ち合わせていることが明らかになった。
著者
伊藤 精晤
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.p73-86, 1994-12

山村農家の敷地と農家の庭園趣味について,研究Iでは,敷地内の建物配置,境界はいくつかの型が見られた。研究IIでは,農家の趣味生活で,家族構成員のそれぞれが庭園を楽しんでおり,庭園の植物の豊富な種類と維持管理や栽培の自前の実行などから,その趣味の程度は高く,庭園の役割として,生活の実用を含めた心理的楽しみの効果が複合的に期待されていることが明らかになった。本論文では,農家庭が新たな敷地計画のもとに作られることは少なく,元来の農作物のための庭を別として敷地境界と建物配置によって生じる空き地が庭園建設の場に展開してきたことを考察する。また,農家が農業主体から住宅主体に敷地を利用するように変化しており,この敷地の機能面の変化と庭園化の関連を考察していく。敷地に庭園を作る空間的条件は建物の配置によって決まり,境界と建物間の隙間の部分の庭園化,空き地として作業庭に使われた部分の庭園への転換によって,20年から30年前に庭園の建設が行われている。この庭園の建設は趣味生活の拡大が原因となっている。敷地内の庭園部分は玄関の前庭,作業庭,表の座敷庭,裏の座敷庭,路地庭,勝手庭に区分できる。作業庭は半数が座敷庭として庭園化され,半数が作業庭として維持されている。裏の座敷庭は古くから作られることもあったが,庭園趣味と生活のゆとりの中で楽しみとして,表の座敷庭まで作られることが多くなったことが考察される。勝手庭は物干し,洗い場など設置されている。周囲の境界と建物との隙間に路地庭が作られている。玄関前庭,作業庭(主庭),裏庭,前庭,路地庭,勝手庭といった庭園配置に分化した戸外敷地を家族構成員で使い分けが行われていることが考察される。以上から,従来の農家庭の機能と骨格が存在し,これに現代生活と趣味に適合した庭園建設が行われていると結論づけられる。
著者
南 峰夫 豊田 美和子 井上 匡 根本 和洋 氏原 暉男
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-49, 1998 (Released:2011-03-05)

トウガラシ果実中の辛味成分であるカプサイシノイド含量の経時的変化を明らかにするために,C.annuumとC.frutescens-chinense complexの各2系統を供試し,開花後20日おきに果実を収穫し,カプサイシノイド含量を測定した。開花後20日目からカプサイシノイド3成分(capsaicin,dihydrocapsaicin,nordihydrocapsaicin)が検出され,含量の系統間差,種間差が認められた。登熟ステージ(開花後日数)により含量は大きく変化し,経時的変化のパターンには系統間差が認められた。したがって,カプサイシノイド含量の評価にあたっては,果実の登熟ステージのばらつきを考慮した果実サンプリング法が必要と考えられた。また,いずれの系統も果実の成熟期とは無関係に開花後40日目前後に最大含量を示したことから,カプサイシノイド含量の最大値を評価するためには,開花後40日目頃の果実を収穫,測定することが必要と結論した。カプサイシノイド3成分の組成比に系統間差がみられたが,登熟ステージによる変化は認められなかった。
著者
山本 省
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51-60, 1996-12

生涯木を植え続けることによって荒れ果てた地方を再生させた老人の物語は,作者ジオノが子供時代に父親とドングリの実を植えたという体験に根ざしており,木を植えるという喜びは彼にとってきわめて親しいものであった。生きる喜びは傑作『喜びは残る』のなかで縦横無尽に展開されたテーマである。この架空の物語を書くことによってジオノは読者に森の大切さを納得させる。虚構の物語が事実より雄弁なことがある。それが小説家の仕事である。
著者
唐沢 豊 久保田 徹
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.p79-86, 1986-12

本研究は,ニワトリヒナに給与する大豆粕飼料の大豆粕を酵母で全量置換することが可能かどうかについて検討した。実験に供試した酵母はA,B,C(粗蛋白質含量はそれぞれ57.1,48.5および55.3%)の三種で,対照飼料の蛋白質源は大豆粕とし,全飼料のCPは21.3%,必須アミノ酸組成はNRC飼養標準を満足するようアミノ酸を添加して補正した。その結果,酵母飼料は全て0.563%のプリンを含有した。飼料摂取量とME摂取量は,A,B両区とも対照区と差がなく,ME/GE比はA,B両区とも対照区より有意に低くなった(P<0.05)。体重増加量と飼料効率はA区は対照区と等しく,B区は対照区より高くなった(P<0.05)。これに対しC区の飼料摂取量,ME摂取量,体重増加量は,対照区より低くなる傾向があった。しかしC区の飼料効率とME/GE比は対照区とほぼ等しかった。窒素摂取量,総窒素排泄量ともに対照区と比べA区とB区で高く,C区で低い傾向が認められた。尿酸窒素の排泄量は,対照区と比べ各区とも低くC区との間に有意差が認められた(P<0.05)。総排泄窒素中の尿酸窒素の割合は,各区とも対照区より有意に低く(P<0.05),A区では特に対照区の半分以下であった。摂取窒素の尿酸窒素への転換率は,同様に各区で対照区より低かった(A区,C区,P<0.05)。しkしながら,摂取窒素の利用率は対照区と各区の間に有意差は認められなかった。以上の結果から,供試した酵母AとBは,ヒナの飼料蛋白質源として大豆数と同等かそれ以上の栄養価を持つものと考えられる。またこれらの酵母は,尿酸生成を抑制する作用を持っていることが示唆された。
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.p43-52, 1979-07

The distribution of the Japanese mountain mole, Euroscaptor mizura is limited on the main land in Japan. However, the closely related species to the E. mizura distributes on the south-west part in China and its vicinity. Therefore, the Japanese mountain mole distributes as a spotted pattern. E. mizura should be the oldest form of the Talpinae on the main land in Japan. Since specimen of E. mizura collected is quite few, the distribution is remained uncertain. About 10 specimens of E. mizura have been obtained from various mountainous zones in Nagano District, i. e. , the Hida Mountains, the Mikuni Mountains, the Akaishi Mountains, the Yatsugatake Mountain Mass and the Chikuma Mountain Region. But there is no any record of collection in the Kiso Mountains at all. The authors could fortunately obtained a dead female specimen on the peak of the Mt. Kiso-Komagatake. It is suggested that E. mizura may be able to live in the Kiso Mountains. Measurement of the specimen obtained was done on some morphological features. The results were as follows.From the previous record, it may be said that the Japanese mountain mole distributes on forest and grassland in alpine and subalpine zones in Nagano District. On the other hand, as the collection record has been found in Yamanashi, Aomori, and Hiroshima Districts, E. mizura may be described, in the future, on the low land zone in Nagano District.
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 志田 義治 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.p21-42, 1976-06
被引用文献数
2

The distribution of small mammals on the eastern slope of the Mt. Kiso-Komagatake, the peak of the Japanese Central Alps was described in the previous report (Suzuki, Miyao et al, 1975). In the present paper, the authors made clear the food habit of the Japanese martens (Martes melampus melampus) in the upper part of low mountainous zone (1,200-1,600m above the sea level) on the eastern slope of the Mt. Kiso-Komagatake. From late August 1975 to late February 1976, total 193 scat samples were collected in the area and their content were analyzed. As to the flora in the area, afforestation of Larix kaempferi is predominating, and secondary forests containing Quercus crispura, Betula platyphylla, Fagus crenata, Cercidiphyllum japonicum and Tsuga diversifolia are scattered here and there. The results of scat analysis are as follows; 1) Scats containing both animal and vegetable foods were predominant, indicating the omnivorous habit of the Japanese marten. Those exclusively containing animal foods increased in winter (January to February), thus suggesting their stronger tendency towards flesh-eating in the cold season. 2) Kinds of animals eaten by the Japanese marten covered seven classes, and among them insects and small mammals were mainly eaten. Mammals eaten with the highest predilection were Lepus brachyurus and murinae rodents, and especially the former may become the basal animal foods for the Japanese marten. Insectivora in scats were found more frequently in winter. A mass of hairs ofthe Japanese serow (Capricornis crispus crispus) was found in one scat. In insects, Coleoptera was frequently eaten but they entirely disappear in winter season. 3) As to the vegetable foods, buccas and drupes from plants of seven orders of class Dicotyledoneae were found and buccas from Actinidia arguta and A. holomikta of order Parietales were mainly eaten. Scats contained 85-99% of fruits collected from August to December, however, its percentage decreased and the frequency of the small mammals increased in winter season (January to February). Besides Parietales, buccas and drupes of Akebia quinata, Rubus, Vitis coignetiae, Viburunum furcatum, Diospyros kaki, Aralis cordata A. elata were also eaten. 4) The mean number of different order of foods found in one scat was 2.5 for the total period of investigation, 2.8 for August to September, 2.2 for October to December and 2.1 for January to February. In August to September, buccas of Actinidia arguta, A. holomikta and Akebia quinata were more frequently eaten in combination with Lepus brachyurus. In January to February, Lepus brachyurus was the major food. 5) It arouses great interest to know what difference may exist in the food selection among the Japanese marten, Martes melampus melampus, the Japanese red fox, Vulpes vulpes japonica and the Japanese weasel, Mustela itatsi itatsi, which live sympatrically in the same area. This problem will be studied in the near future.
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.p147-177, 1977-12
被引用文献数
4

長野県木曽駒ヶ岳東斜面におけるホンドテンの食性を明らかにしたいと考えて,著者らは1975年4月以来調査を続行中である。本報では,1976年3月下旬から1977年1月下旬にわたって,低山帯上部(海抜1,200mから1,600m)ならびに亜高山帯(海抜1,700mから2,600m)において採集されたホンドテン(Martes melampus melampus)の糞内容物の分析結果からその食性の低山帯上部における秋季および冬季の1975年度・1976年度間の差異,春季および夏季と秋季および冬季との季節的な差異,さらに低山帯上部域と亜高山帯域との差異について,比較論及した。1)低山帯上部において採集できた糞数は,8月までは少ないが,9月からは急増した。亜高山帯においてもこれらの傾向は,ほぼ同一である。しかしながら,こうした現象の原因については未だ解明し得ないでいる。2)低山帯上部においては,3月から6月まではほとんど動物性食物に依存しているが,9月以降1月まではむしろ植物性食物の比重が大きい。7月・8月は前記した両期の中間的な状態を示していた。亜高山帯においては,9月から12月の間は動物性食物のみの糞はほとんどなく,植物性のみまたは植物性ならびに動物性の両食物を含むものが主となっていた。3)低山帯上部における3月から6月の期間の糞は,動物性食物のみによって成り立っており,しかも動物性食物はほとんどがノウサギだけである。4)低山帯上部の9月から12月は,動物性食物のみによって構成される糞がほとんどなく,植物性のみ,または植物性および動物性の双方の食物を含むものによって大多数が占められる。7月および8月の食物構成は,6月までと9月以降との状態の移行的な形態を示す。5)低山帯上部における植物性食物は,7月・8月にはイチゴ類(Rubus),9月・10月には側膜胎座目(サルナシ・ミヤママタタビ),12月・1月にはナナカマド類(Sorbus)となる。6)低山帯上部においては,1975年度(鈴木・宮尾ほか,1976)にみられなかったナナカマド類が,1976年度には11月から1月にかけて,植物性食物としてほとんど独占的に食べられていて。1976年度における,特に6月から9月の間の冷温が両年度間の植物性食物の種類の差異の原因になっているのかも知れない。7)低山帯上部においては,動物性食物としてノウサギとネズミ類が最も主要であるが,両者の間には相互補完的な関係が認められ,両者は姉妹食物の関係にある。8)亜高山帯の7月・8月には動物性食物(ノウサギおよび鞘翅目昆虫)のみによって構成される糞の頻度が高い。9月には動物性および植物性の両食物を含むものが大部分を占める。11月・12月には,植物性食物(ナナカマド類)のみによって構成される糞の頻度が約半数を占めるようになる。9)亜高山帯においては,低山帯上部に比較すると動物性食物の比重が大で,植物性食物の比重が小さい。10)亜高山帯における動物性食物はノウサギが中心となる。
著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.p47-79, 1978-07

長野県木曾山脈の主峰,木曾駒ヶ岳(海抜2,956m)の東側斜面小黒川流域に位置する信州大学農学部付属演習林およびその隣接地域において,1975年5月より1977年1月にわたって,ニホンカモシカの食性調査を行った。調査地は海抜1,200~1,600mの低山帯上部(冷温帯)に相当する天然生林である。ニホンカモシカによる採食痕の調査から,食植物を同定し,食植物の周年的変かをほぼ明らかにすることができた。ただし,本調査では,主として食植物の種名を明らかにする定性的段階にとどまった。また,3月および4月の資料は少数であるため省いてある。結果の概要は次の如くである。1)ニホンカモシカの採食痕をみると,草・木本の先端をひきちぎって食べていることがわかり,ニホンカモシカはbrowsing herbivoreまたはsnip feederであると云える。2)ニホンカモシカの食植物として189種を同定することができた。そのうち草本は27科94種,広葉樹は29科85種,針葉樹は2科7種,ササ類が1科3種であった。食植物の種類数は7月に最も多く(106種),11月に最も少なかった(43種)。3)5月から11月までは草本と広葉樹の種類数がほぼ半数ずつを占め,食物はこの2植物群によって供給される。12月から2月の期間には,上記2植物群のほかに常緑針葉樹とササ類の2植物群が加わり,草本の種類数は極めて少なくなる。広葉樹はこの時期に一層重要性を増し,2月には83.1%が広葉樹によって占められている。常緑針葉樹は種類数で約5%,ササ類は約2%程度である。本調査地域には常緑針葉樹の現存量が少ないため,冬季にも副次的な食物源の地位にとどまる。4)周年的にどの月(ただし3・4月は未調査)にも採食痕がみられた植物(周年型食物物)はノリウツギ,タマアジサイ,ヤマアジサイ,クリチゴ,クマイチゴ,マユミ,ハナイカダ,リョウブ,ニワトコ,オオカメノキの10種で,これらはいずれも落葉広葉樹である。春~秋には枝・葉が,冬には越冬芽をつけた枝先が摂食される。これらの次いでほぼ周年的に採食されるのはイタドリ,クサボタン,ノハラアザミ,ヨモギ,ヤマブドウであった。これらの植物は,ニホンカモシカにとって最も基本的な食物源になっていると考えられる。5)早春型食植物としてはフキ(花茎),シロバナエンレイソウ,エンレイソウ,ツクバネソウなどがあげられる。一般の植物に先駆けて緑葉を展開する植物群で,周年型食植物を補充するものとなっているようである。6)夏型食植物はきわめて多様な草本と広葉樹から成る。周年型食植物が夏~秋にも多食され,そのほかにはハナウド,ミヤマゼンゴ,ヨブスマソウ,モミジハグマ,ヨツバヒヨド,リバナ,ミズナ,アカソなどの草本が量的に多く摂食されている。7)晩秋型食植物としてはフキ(葉),広葉樹の落葉,枯草,ミズナラの堅果などをあげることができる。夏・秋から冬への移行期に,短時間ではあるが摂食の対象とされる。8)冬型食植物は常緑針葉樹とササ類の枝・葉で,周年型食植物の不足を補う。冬季(12月~2月)以外には,常緑針葉樹およびササ類は食べられることが殆どない。9)ハシリドコロ,ヤマトリカブト,ヤマオダマキ,コバイケイソウ,ネジキ,トチノキ,フジウツギなどの,いわゆる有毒植物も稀にはあるが摂食されていた。10)本調査地域においてニホンカモシカによる採食痕が認められなかった植物は,アズマシャクナゲ,レンゲツツジ,タケニグサ,スズラン,イワカガミ,マムシグサ類,クサソテツ,シシガシラなどであった。
著者
根本 和洋 西川 芳昭
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.73-81, 2007-03
被引用文献数
3

オルタナティブな農業のための種子供給システムについて,ドイツにおけるバイオダイナミック農業を事例として,(1)バイオダイナミック農業の研究および種子生産をおこなっている先進事例(initiative)Saatgutinitiative Bingenheimおよび(2)シュタイナー農業を実践する集団農場Dottenfelderhofを調査した。バイオダイナミック農業では,この農法によって採種されたOP品種のみを使用しており,ハイブリット種子を主力とする大規模な多国籍種苗企業とはニッチが異なるため,育種,品種維持,種子生産および流通において独自のシステムが確立されていた。このシステムは,消費者のニーズに応えるとともに,通常の農業よりも幅広い人々の参加を実現している。このことは,高度に商業化された農業においてもオルタナティブな種子供給システムが可能であることを提示する。
著者
野口 茜 武田 俊之 渡辺 剛 保井 久子
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.44, no.1-2, pp.1-8, 2008 (Released:2010-05-07)

毎年冬季に流行するインフルエンザ感染症は、主にA型インフルエンザウイルス(Flu)により発症する。A型Fluは、複数の亜型に分類されることやゲノム変異が頻繁に起こることから、その予防にワクチン接種は完全とは言えず、また抗Flu薬も問題が多い。一方、紅茶や緑茶等の茶フラボノイドは、高いFlu感染阻害作用を有することが注目されている。そこで、我々はアントシアニンなどのフラボノイドを多量に含む果実であるカシスに注目し、その抗Flu作用を検討した。その結果、カシスエキスはFluに対して高い赤血球凝集阻害作用を示し、Flu感染モデルマウスを用いた試験において、発症率を減少させ、生存率を高めた。これらのことから、カシスエキスはA型Fluの予防に有効であると考えられた。また、活性成分の探索のため、カシスエキスを合成吸着樹脂にて分画し、赤血球凝集阻害作用を調べた。その結果、アントシアニン以外の物質が含まれる画分に、強い吸着阻害作用を有する化合物の存在が示唆された。
著者
神 勝紀 大島 裕治 富田 くるみ 唐澤 豊
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.42, no.1-2, pp.9-16, 2006 (Released:2011-03-05)

開放型の間接熱量測定装置を作製した。この装置は体重2kg以下のニワトリにおけるエネルギー代謝研究に使用するものであり,給餌後の急速な熱生産反応にも対応できる応答速度を持たせるように設計した。作製後に装置の応答速度およびO2とCO2の回収率を測定し,さらに実際にニワトリを用いてHPを測定した。O2とCO2の濃度変化に対する応答の遅れはいずれも2分程度であり,O2とCO2の回収量はそれぞれ99.2%と96.2%であったが,この程度の応答の遅れやCO2回収率の低さは,HPを求める上では影響はほとんどないと考えられていた。ニワトリを用いた試験では,絶食時と自由摂取時のHPおよび給餌後のHPパターンとも過去の報告と類似した結果が得られた。以上から,本研究で作成した装置はニワトリのHPを測定するに十分な性能を持つと考えられた。
著者
有馬 博 高橋 敏秋
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.37-52, 1975-12

1 前報3)のSU-74型加工トマト収穫機試作にひき続き,1975年にSU-75 FS型加工トマト選果機を試作し実験した。2 この選果機は歩行型クローラ台車にホッパー,さん付きバーコンベア,平ベルト逆転式選別コンベア,選果台その他からなる選果装置を搭載した小型の一挙収穫用作業機である。3 作業車は2~8名としうち1~3名がホッパーへ果実を振り落とす。果実はバーコンベアで搬送され逆転コンベアできよう雑物を除去されたのち選果台に達する。他の作業車は,選果台附近にいて熟度選果を行い出荷可能果を畦上のコンテナへ収容する。4 台車から選果装置を取り外し,代わりに荷台を搭載すればコンテナ運搬車として利用できる。5 ほ場実験の結果,果実収穫作業,コンテナ運搬作業とも従来の作業方法の約2~3倍の作業能率(kg/人/分または箱/人/分)をあげることができ,果実の損失もなかった。6 この選果機は単純小型の構造で品種や栽培条件に制約を受けることが少ないので国内の栽培地へただちに導入できるであろうと推察された。
著者
佐藤 幸雄 熊代 克巳
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.p61-69, 1985-12

セイヨウナシの葉やけ発生要因と考えられる気孔運動機能の鈍化が,他の果樹にも認められるかどうかを知るため,ナシ,リンゴ,モモ及びブドウを用いて,葉の比較蒸散量及び蒸散抵抗を調べた。得られた結果の概要は次のとおりである。1.葉齢の進行にともなう気孔運動能の鈍化は,葉やけの発生しやすいナシ「バートレット」が最も著しく,6月下旬にすでにその微候が認められ,7月中旬から急速に進行した。しかし葉やけの発生が認められないモモ「缶桃5号」は,8月下旬においてもなお気孔の運動機能が鋭敏であった。ブドウ「コンコード」は,8月上旬以降に機能鈍化が認められたが,「バートレット」ほど顕著ではなかった。またリンゴ「ふじ」も8月上旬以降に機能鈍化の微候を示したが,その程度は比較的軽かった。2.ナシの品種別比較では,「バートレット」の機能鈍化が最も著しかった。「新水」は7月中旬に「バートレット」と同程度の機能鈍化を示したが,それ以降はさほど進行しなかった。また「幸水」は,8月中旬以降に急速に機能鈍化が進行し,9月上旬には「新水」とほぼ同程度となった。3.夏季の高温乾燥条件下における着生葉の蒸散抵抗は,「缶桃5号」が最も高く,次いで「ふじ」,「コンコード」,「幸水」,「新水」,「バートレット」の順に低下し,「バートレット」が最低であった。またいずれの果樹も新梢の基部葉は先端部葉に比べて低かった。4.葉やけ発生率と気孔の運動機能との関係をセイヨウナシについて調べた結果,発生率の高い品種ほど機能鈍化が著しい傾向がみられた。しかし「プレコース」のみは機能鈍化が著しかったが,葉やけ発生率は低かった。
著者
梅村 信哉 Tayutivutukul J. 中村 寛志
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.31-36, 2005-03

2003年10月19日から2003年10月30日にかけて,タイ国チェンマイにおける6つの調査地(チェンマイ大学,Mae Hia Station, Chang Kien Station, Nong Hoi Station, チェンマイ市郊外)においてスウィーピングとビーディングを用いてハムシ類の定性的調査を行った。調査全体を通じて8亜科24種(チェンマイ大学:11種,Mae Hia Station:3種,Chang Kien Station;2種,Nong Hoi Station:11種,チェンマイ市郊外;4種)のハムシ類を確認した。このうち,ヒメアカクビボソハムシLema coomani,ウリハムシAulacophora indica,ヒメクロウリハムシAulacophora lewisii,キイロクワハムシMonolepta pallidula,ヒメドウガネトビハムシChaetonema (Chaetocnema) concinnicollis,カミナリハムシAltica cyanea,ジンガサハムシAspidomorpha furcataの7種は日本にも分布する種であった。これらのデータをもとにハムシ類の目録を作成した。
著者
大井 美知男 磯村 由紀
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.49-55, 2000-10

長野県在来の大根13品種の形態調査を26項目について行った。得られた結果をもとにクラスター分析を行ったところ,以下の3グループと5サブグループに分類された。グループ1,サブグループA:「灰原大根」,「信州地大根」,「ねずみ大根」,「切葉松本地大根」,「戸隠大根」,「上平大根」,「牧大根」 サブグループB:「上野大根」 サブグループC:「前坂大根」 グループ2,サブグループD:「たたら大根」 サブグループE:「大門大根」 サブグループF:「赤口大根」 グループ3,「親田辛味大根」 さらに,長野県在来の大根品種が多様な変異を持ち合わせていることが明らかになった。