著者
高梨 信乃 齊藤 美穂 朴 秀娟 太田 陽子 庵 功雄 Takanashi Shino Saito Miho Park Sooyun Ota Yoko Iori Isao
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.29, pp.159-185, 2017-02

上級日本語学習者は文章作成などの産出レベルにおいてさまざまな文法上の問題点を抱えている。本稿は、彼らが文法の誤りを自己訂正できるようなモニタリング力を養成するための教材を作成することを最終目標に置いた基礎研究である。上級学習者の産出物である修士論文の草稿を取り上げ、その中に見られる文法的な誤用を、文法カテゴリおよび誤用の種類に基づいて精査した。今回の調査で見られた誤用の90%以上が旧日本語能力試験3 級以下の文法項目であったことからも確認できるように、上級学習者の誤用の大半は初級の文法項目である。それらの誤用の一部は、初級から上級に至るプロセスの中で指導が行われていない、もしくは指導が不十分であることに起因すると考えられる。
著者
出野 晃子 Ideno Akiko イデノ アキコ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.19, pp.67-96, 2007-02

二拍形式名詞コト・モノ・トキのアクセントは、アクセントに関する情報が記載された辞典類には、いずれも尾高型アクセントとして掲載されている。しかし、実際の発話の中では頭高型アクセントが生起する場合も多い。そこで、その実態を日本語話し言葉コーパスを用いて検討した結果、以下のことが明らかになった。(1)形式名詞コト・モノ・トキは、普通名詞よりも高い確率で、頭高型アクセントが生起している。(2)頭高型アクセントが生じるのは、前接する語が平板型アクセントの場合に現れやすい条件変異である。しかし、トキは特に頭高型アクセントが生起する割合が非常に多く、アクセント変化が生じ、ゆれているという可能性もある。(3)トキのみにアクセント変化が起こった要因の一つには、トキの最終モーラキが無声破裂音の狭母音を含むため、母音の無声化が生じやすい環境だからである。また、トキは、コト・モノと比べると、句末付近よりも句頭付近に出現することが多いという特徴も影響していると考えられる。(4)頭高型アクセントの生起の言語外的要因を検討した結果、個人差が大きいことが明らかになった。頭高型アクセントが生起する確率は、講演することに慣れていない話者の方が多い。また、原稿を見ずに自発的に話す講演の場合に多く、さらに、リラックスして話しているように聞こえる講演の場合にも多い。
著者
岡田 祥平 Okada Shohei オカダ ショウヘイ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-31, 2008-02

「標準語」は規範性を持った「唯一の正しい言語」であるという見方が、一般的、代表的なようである。そのような認識の背景には、「標準」という語に(強い)「規範性」の色彩が付随するうえに、殊日本においては、1945年以前の「標準語」強制教育の記憶も存在していると考えられる。しかし、近年になり、スタイルを軸にして「標準語」をとらえる立場の真田信治によって、「標準語」を「唯一の正しい言語」と見なすのではなく、「標準語」にも多様性が存在することを認める主張が提示されるようになった。ただ、先行研究ではほとんど取り上げられていないが、真田以前にも「標準語」の多様性を認める言説が発表されている。そこで本稿では、先行研究では看過される傾向にある真田以前の「標準語」の多様性を認める言説の中から、特に1940年前後に発表されたものを、彼らの「標準語」の定義とともに紹介する。本稿で取り上げる言説の筆者は、熊滞龍、崎山正毅、白石大二、服部四部の4人である。
著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu タノムラ タダハル
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.33, pp.33-60, 2021-02

コーヒーの名称の漢字表記「珈琲」は日本で作られたと多くの言語研究者が言う。そして、その考案者を蘭学者の宇田川榕庵として特定する説まであり、通俗書やインターネットを通じて広く流布している。しかし、そうした通説、俗説はすべて正当な根拠を欠く想像に過ぎない。言語の歴史を想像に頼って論じることはできない。ここでは、資料の調査と分析に基づいて、「珈琲」という表記の現在確かめ得る最初期相を明らかにするとともに、それがその後日中両国でたどった歴史を跡付ける。
著者
林 雅子 Hayashi Masako ハヤシ マサコ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.20, pp.33-59, 2008-02

現代日本語の「動詞テ形由来の副詞的成分」について、形態・意味・統語の三つの特徴に基づいてその「副詞度」を算出し、その連続相を多次元的に把握することを試みた。その結果、副詞度と副詞の種類との間には、以下のような相関が見出された。「陳述」と「時・頻度」の副詞度が最も大きく、次いで、「意志態度」「程度」「接続」がこの順で続き、「主体の心理」「主体の様子」「複数主体の様子」(「状態修飾成分」)の副詞度は小さい。また、「陳述」「時・頻度」「程度」「接続」は、これらを副詞と見なす研究者が多く、辞書で副詞として認定されるものが多いのに比べて、主体の心理・様子を表わす「状態修飾成分」は、これらを副詞とは見なさい研究者も多く、辞書でも副詞として認定されにくい、という傾向を得た。これらの結果は、「副詞度」の大きさと、「各研究者の副詞認識」「辞書編纂者の副詞認識」とが、一定の相関関係にあることを示している。
著者
真田 信治
出版者
大阪大学
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.149-163, 1998
著者
中井 好男 Nakai Yoshio ナカイ ヨシオ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.30, pp.93-110, 2018-02

本稿は、日本で留学を経て就労している中国出身の王さん(仮名)の学習経験に関するライフストーリーから、日本語学習、学習者オートノミーを社会的文脈から捉えようとするものである。分析の結果、生活者としての王さんは、日本語は社会的実践のために必要なツールであり、日本語学習は日本語を用いた社会的実践の遂行に伴って起こるものであると捉えていることが分かった。そして、王さんにとっての日本語学習は、社会的アイデンティティをもたらす声となることばのジャンルの習得であり、非線形的なシステムである複雑系理論の中で様々な要因によって創発されることが明らかになった。さらに、この創発の原動力となるのが学習者オートノミーであり、学習者オートノミーは、王さんを取り巻く社会的文脈に潜む要因と王さんとの社会的相互作用を通して構築される主体性であることが示された。王さんの学習経験のストーリーには、周囲の要因が持つアフォーダンスを活用し、自身の声を獲得することで、自己実現を図るだけではなく、社会的文脈の中で受ける不利益を利益へと転換してきた過程が示されており、日本語学習支援や学習者オートノミー育成を考える上で重要な示唆が得られたと言えよう。
著者
岡本 和恵 Okamoto Kazue オカモト カズエ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.22, pp.205-235, 2010-02

近年、外国語教育の世界では、長年支配的だったネイティブ至上主義が批判され、「ネイティブ」教師を「ノンネイティブ」教師より評価する現状を見直す動きが高まっている。本稿では、中国人日本語教師である研究協力者ラナさんと共にティーム・ティーチングを行い、実践を通して明らかになった彼女と筆者の意識と筆者の学びを描いた。ラナさんは、「外国人」で「正しい日本語」が使える日本人教師を最もいい教師だとみなしているが、筆者は彼女の日本人教師像と異なる自分に戸惑った。さらに自分が学生を理解できておらず、自分と学生との間に「外国人の壁」があることも分かった。ラナさんは「教師およびネイティブは間違えない存在」だというプレッシャーに苦しめられ、自信が持てないでいるものの、実は媒介語の使用や学生への理解というL2ユーザーの強みを生かして、素晴らしい実践をしている。彼女のようにL2ユーザーとして教室の「quality of life」への理解を深め、より良い実践を模索する教師から、「ネイティブ」教師が学ぶことは大きいだろう。
著者
脇坂 真彩子 Wakisaka Masako ワキサカ マサコ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.25, pp.105-135, 2013-02

タンデム学習とは、母語の異なる2人がペアになり、互恵性と学習者オートノミーの原則に基づいて、互いの言語や文化を学び合うという学習形態である(Brammerts, 2005)。 本 稿 で は 、ドイツと日本でのインターネットを介した遠隔のタンデム学習(Eタンデム)で学習を続けたドイツ人日本語学習者の動機がどのような要因によって変化したのかを検討した。研究方法には手段的なケース・スタディを用いた。研究協力者はEタンデムを実践したドイツ人日本語学習者Davidさんである。分析の結果、Eタンデム・プロジェクトにおけるDavidさんの動機は、1)自由に自己表現ができたこと、2)母語話者とのやり取りで言語使用や相手の文化を学べたこと、3)日本語の上達が感じられたことによって高められており、また、Eタンデム・プロジェクトとは直接関係のない要因からのストレスやプロジェクトの枠組みの負担によって下げられていたことが明らかになった。
著者
平塚 雄亮 Hiratsuka Yusuke ヒラツカ. ユウスケ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.24, pp.55-74, 2012-02

本稿では、自然談話資料を用い、福岡市方言のアスペクトマーカにみられる言語変化について論じた。そのなかで、肯定形では伝統方言形ヨル・トルの使用が多いものの、高年層から若年層にかけて非伝統方言形テルも使用が多くなり、否定形では若年層において非伝統方言形テナイ専用へと変わりつつあることがわかった。後者の変化についてはすでに先行研究の指摘があったが、このような変化が引き起こされた要因として、本稿では、①肯定形に比べ否定形の使用が圧倒的に少ないこと、②テナイがトランの意味領域に侵入し、取って代わるという変化が起き、さらにヨル/トルの意味対立がなくなってきたところに、両者をカバーする存在としてテナイが現れたこと、の2 点を指摘した。