著者
杉崎 健太郎 中林 巌 小島 糾 冨安 朋宏 明石 真和 伊保谷 憲子 吉田 雅治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.969-975, 2011-09-28 (Released:2011-10-26)
参考文献数
21

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は重度の視神経炎と脊髄炎を特徴とする炎症性脱髄性疾患である.抗アクアポリン4(AQP4)抗体は2004年にLennonらによって報告され,NMOの診断に有用な抗体として知られている.今回経験した2例はともに抗AQP4抗体陽性であり,NMOに特徴的とされている3椎体以上の病変を伴うが,視神経炎の所見は乏しく,NMO関連疾患であった.急性期にはステロイドパルス療法が有効とされているが,無効な場合は血漿交換療法が有効であるとの報告もあり,今回経験した2例ともステロイドパルス療法に抵抗性であったため,血漿交換療法を行った.血漿交換療法としては,単純血漿交換(PE)に比べて血漿補充を必要としない免疫吸着療法(IAPP)を選択した.IAPP開始後より,2例とも速やかに症状の改善を認め,ステロイドを含めた免疫抑制剤の減量が可能であった.IAPPはステロイド治療抵抗性のNMOに有効な治療法の一つであると考えられた.
著者
福井 真二 鳥本 一匡 影林 頼明 森本 勝彦 山口 惣一 濱野 一將 三馬 省二
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.865-869, 2009-11-28
参考文献数
11

症例は76歳,男性.1995年4月に右腎細胞癌に対して右腎摘除術を受けた後,徐々に腎機能が低下し,2006年2月に血液透析が導入された.前医で維持透析中,右副腎腫瘍およびエリスロポエチン抵抗性貧血が出現し,2008年5月に当科へ紹介された.副腎腫瘍は転移性と考えられた.また,MRI T2強調像で肝は著明な低信号を示し,肝ヘモクロマトーシスが疑われた.血清フェリチン値は2,314ng/mLと高値で,前医での輸血および鉄剤投与による鉄過剰症が考えられた.右副腎腫瘍摘除術(病理所見:腎細胞癌の転移)後,骨髄生検が行われた.所見は骨髄異形成症候群で,環状鉄芽球の割合が20%であったことから,鉄芽球性不応性貧血と診断された.高齢かつ複数の重篤な合併症のため,免疫抑制療法より輸血療法の安全性が高いと判断し,2008年6月より鉄芽球性不応性貧血による貧血に対しては赤血球濃厚液2単位/週の輸血,鉄過剰症に対しては経口鉄キレート剤(デフェラシロクス:エクジェイド<SUP>&reg;</SUP>)投与を開始した.デフェラシロクスは500 mg/日から,血清フェリチン値が減少傾向を示すまで徐々に増量し,血清フェリチンが1,000 ng/mL未満となった時点で減量した.副作用は下痢のみで,整腸剤投与により緩和された.投与開始9か月後の2009年2月には,血清フェリチン値が467 ng/mLまで低下したため,デフェラシロクス投与を中止した.本邦では透析患者への本剤投与の報告はないが,自験例では重篤な副作用もなく9か月以上投与可能であった.透析症例における鉄過剰症に対して,経口鉄キレート剤投与は積極的に試みるべき治療法になると考えられた.
著者
栗山 哲 中山 昌明 友成 治夫 沼田 美和子 林 文宏 疋田 美穂 川口 良人 細谷 龍男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.30, no.12, pp.1369-1373, 1997-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

現在, 除水不全を呈するCAPD患者に有効に作用する薬剤はない. 本研究では, 除水不全を認めるCAPD患者において, 抗プラスミン剤であるトラネキサム酸 (tranexamic acid: TNA) が改善効果を有するか否かを検討した.限外濾過不全I型の除水不全を認めるCAPD患者5例において, 先行するCAPDスケジュールを変更せずにTNA 1500mg/日を2週間経口投与し, その薬理効果を検討した. その結果, 1) TNA投与で一日総除水量は全例で有意に増加した. また, 体重は5例中3例で有意に減少した. 2) TNAはCAPD排液中の電解質, UN, Cr, アルブミン等の総除去量に影響を与えなかった. また, PETのD/PcrやKT/V, PCRにも影響を与えなかった. 3) TNA投与により血中およびCAPD排液中のブラジキニン濃度, 血中の組織プラスミノーゲンアクティベーター (tPA) 濃度は有意に低下した.以上, TNAは除水不全を呈するCAPD患者で除水量を増加させる. その機序は不明であるが, ブラジキニン, tPAの抑制を介した腹膜透過性の変化が関与している可能性が示唆された.
著者
中司 敦子 神崎 資子 高木 章乃夫 岩田 康義 池田 弘 福島 正樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.163-168, 2004
被引用文献数
2

慢性腎不全患者の意識障害として尿毒症性脳症が知られているが, 透析療法が普及した昨今ではこの病態を経験することはまれである. 今回われわれは緩下剤の連用中に高マグネシウム (Mg) 血症による意識障害をきたした慢性腎不全の2症例を経験したので報告する.<br>症例1は77歳, 男性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全で加療中, 食欲不振と意識混濁が出現し入院. 血清Cr 4.31mg/dL, BUN 64mg/dL, 血清Mg 7.3mg/dLと上昇. 血清カルシウム値は5.8mg/dLと低下. 皮膚の潮紅, 肺炎および呼吸抑制による呼吸不全を認めた. 血液透析で血清Mg値は低下したが, 翌日再分布によると考えられる再上昇をきたしたため血液透析を再度行い軽快した.<br>症例2は78歳, 女性. 慢性関節リウマチ, 腎機能低下で加療中に尿路感染症により腎機能が増悪し, 全身倦怠感, 見当識障害が出現したため入院. 血清Cr 6.56mg/dL, BUN 96mg/dL, 血清Mg 7.1mg/dLと上昇. 血液透析を3日間連続して行い軽快した.<br>いずれの症例もMg製剤の服用歴を有し, 高度な高窒素血症が存在しないにもかかわらず意識障害を呈した. 当院で2年間に血液透析導入時に血清Mgを測定した78例中, 中毒域の高Mg血症をきたしたのは今回提示した2例のみであった. その他に, 意識障害をきたした症例は低血糖の1例のみで, 尿毒症性脳症による意識障害はなかった. 今回の症例では緩下剤の連用および感染による慢性腎不全の急性増悪が重篤な高Mg血症の原因と考えられた. 治療として血液透析が有効であったが, 再分布による血清Mg値の再上昇に注意が必要である.
著者
堀田 祐紀
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.147-152, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

バスキュラーアクセス (vascular access : VA) 病変に対する経皮経管的血管形成術 (percutaneous transluminal angioplasty : PTA) は第一選択の治療法として普及しているが, 慢性期の高い再狭窄率が問題である. 再狭窄機序として, バルーン拡張後に生じる内膜・中膜などの亀裂あるいは剝離に対して, 損傷血管修復のため平滑筋細胞活性化などの内膜増殖により再狭窄が生じる. したがって拡張後の内膜損傷軽減が重要であり, 内膜性状評価の可能な光干渉断層法 (optical coherence tomography : OCT) を用いて各種バルーン拡張前後の評価を行った. Non-compliant balloonおよびsemi-compliant balloonでの短時間加圧では, 拡張後に内膜解離などの大きな内膜損傷を認めた. これに対してnon-compliant balloonおよびscoring balloon (Cutting balloon・NSE balloon・AngioSculpt balloon) による低圧からの徐々な加圧では, 拡張後の内膜損傷は比較的軽微であった. VA再狭窄病変に対するPTA後の内膜損傷評価に, OCT画像は有用であると考えられた.
著者
大山 恵子 大山 博司 藤森 新 渡部 敦子 渡辺 晃矢 古谷 裕恵
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.349-356, 2019 (Released:2019-06-28)
参考文献数
15

われわれの施設では有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせ, 音楽に合わせて透析中に行う運動療法 (Tsubasa Music Exercise: TMX) を行い, 透析患者の運動耐容能向上に成果を上げている. 透析患者は末梢動脈疾患の合併が多く, 下肢挙上を伴う運動によって下肢血流の低下を引き起こすことが懸念される. 独自のフットリスク分類法に従って分類した, ノーマル, リスクⅠ, リスクⅡ, リスクⅢの患者各10名を対象に15分間のTMXを実施し, 運動前, 運動直後, 運動終了10分後にそれぞれ下肢の皮膚灌流圧 (skin perfusion pressure: SPP) を測定し比較した. 検討した4群すべてにおいて, SPPの平均値は運動による有意な変化は観察されなかったが, 運動後にSPPが50mmHg未満に低下した患者が散見された. 透析中の運動療法を実施する場合は, 運動後の下肢状態を詳細に観察する必要があると考えられた.
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.405-411, 2011-05-28 (Released:2011-06-29)
参考文献数
64
著者
野口 佑太 伊藤 真里奈 伊藤 卓也 川村 直人
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.141-147, 2021 (Released:2021-03-28)
参考文献数
23

軽度認知障害を呈する血液透析(HD)患者8名に対し,N‒backトレーニングを1回20分,週3回,HD中に5か月間実施した.Mini‒Mental State Examination(MMSE),日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA‒J),ベントン視覚記銘検査(BVRT),視覚性抹消課題(VCT),Symbol Digit Modality Test(SDMT),Paced Auditory Serial Addition Task(PASAT)を介入前と介入5か月後,介入終了から6か月後(フォローアップ)の計3回評価した.PASATにおいて介入前から介入後,介入前からフォローアップで有意な改善を認め,BVRTでは介入前からフォローアップで有意な改善を認めた.透析中のN‒backトレーニングは,MCIを呈するHD患者のワーキングメモリの改善に有用であることが示唆された.
著者
池田 弘 櫻間 教文 黒住 順子 大森 一慶 荒木 俊江 真鍋 康二 福島 正樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-122, 2019
被引用文献数
1

<p>銅欠乏症による種々の血球減少症を併発した透析患者5例を経験した. 男女比は1 : 4, 平均年齢は76歳, 平均透析歴は5.2年, 原疾患は糖尿病2例, 多発性囊胞腎1例, 腎硬化症1例, 不明1例, 併存症は誤嚥性肺炎3例, 脳神経障害2例, アクセス感染2例, 大腸癌術後の低栄養状態1例, 化膿性脊椎炎1例であった. 1例で経腸栄養, 4例で亜鉛製剤投与が行われていた. 診断時の血中銅, セルロプラスミンの平均濃度は26.6μg/dL, 12.6mg/dLで, 汎血球減少症2例, 貧血+血小板減少2例, 貧血のみ1例であった. 3例に硫酸銅, 1例に純ココア, 1例に銅サプリ投与を行い, 全例, 血球減少が改善した. 透析患者ではリン制限に伴う銅摂取量減少, 亜鉛補充による腸管での銅吸収抑制から健常人より銅欠乏をきたしやすいと考えられる. ESA抵抗性の貧血や複数系統にわたる血球減少症をみたときは, 銅欠乏も念頭において診療を行う必要があると考えられた.</p>
著者
小野 満也 小山 恒男 山口 博 佐藤 博司 寺島 重信 渡辺 俊一
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.27, no.8, pp.1155-1158, 1994-08-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1

当院血液透析患者90例, CAPD患者14例, 計104例に対して上部消化管内視鏡を施行し, 当院人間ドック受診者の内視鏡所見6,623例を正常コントロール群として比較した. 透析患者80例に107の病変がみられ, 特に胃粘膜点状出血が19.2%と多く, 透析患者に特異的な所見と思われた. 胃癌は5例に認められた. 血液透析患者の正常群22例と点状出血群20例の比較では, 年齢, 透析歴, 透析前血清カルシウム値, 透析前血中β2ミクログロブリン値, KT/V, 動脈硬化度に差はみられなかったが, ステロイド・NSAID投与の有無では点状出血群が有意に高率であり, 点状出血へのプロスタグランジン抑制の関与が考えられた.
著者
伊藤 富良野 大山 聡子 齋藤 快児 堀 賢一郎 佐々木 奈都江 田村 博之 冨田 公夫
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.45-49, 2021 (Released:2021-01-28)
参考文献数
14

【症例】81歳,女性.4年前に維持透析導入となる.透析中に呼吸困難,ショック,汎血球減少,DICをきたし,入院となる.第1病日より抗菌薬にて治療を開始した.血液培養にて大腸菌が検出された.第5病日に上下肢,鼠径,背部に辺縁に紫斑を伴う灰白色斑を認め,徐々に壊死が進行し電撃性紫斑病(purpura fulminans: PF)と診断した.第8病日にはプロテインC活性35%と低値であったため新鮮凍結血漿(FFP)投与を開始したが,その後も皮膚の壊死は進行し第15病日に永眠した.【考察】本症例は過去にシャント閉塞を繰り返しているがプロテインC/Sの欠乏は認めていなかったことにより敗血症による急性感染症性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans: AIPF)と考えた.AIPFは敗血症の最重症型であり致死率が高い.本邦透析患者で大腸菌によるPFの報告はみられず貴重な症例と思われる.
著者
川尻 将守 渡邊 尚 井上 愛 岩谷 理恵子 平塚 明倫 保科 斉生 山本 泉 丸山 之雄 大城戸 一郎 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.31-35, 2021 (Released:2021-01-28)
参考文献数
14

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID‒19)が世界中で拡大し,感染による急性腎障害(acute kidney injury: AKI)の発生に伴い透析を必要とする患者が増加している.血液浄化装置を介した感染拡大を防ぐ必要があるが,装置の汚染状況が不明確なため,現在は約10日間装置をウイルスから隔離した状態で静置した後,他の患者へ使用する運用を行っている.今回,COVID‒19患者の血液透析に使用した直後の血液浄化装置に新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS‒CoV‒2)が存在するか調査し,今後の装置の運用に役立てることを目的とした.血液浄化装置の9か所で採取した検体において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction: RT‒PCR)検査はすべて陰性であった.COVID‒19患者に使用後の装置待機期間短縮は慎重に検討すべきであり,検体の採取箇所や環境等の条件を変更した追加調査が必要と考える.
著者
楢村 友隆 佐藤 和弘 堀内 賢一 吉田 周理 井出 孝夫
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.85-90, 2009-01-28
参考文献数
17
被引用文献数
1

透析液の製造工程管理において,細菌の汚染状態を把握し対策を講じることが,透析患者への悪影響を防ぐために重要である.細菌検出の手段として,高感度に細菌の汚染状態を把握するためにはメンブレンフィルター法(以下,MF法)を用いて検査することが必要である.今回われわれは,MF法製品である日本ポール社製37mmクオリティモニターおよびマイクロファンネルを,R2A/TGE寒天および液体培地使用下にて用いた.標準菌2菌種(<I>Pseudomonas fluorescence, Methylobacterium extorquens</I>)と臨床現場の透析液中から単離された1菌種(Wild type)のそれぞれを透析液中に播種した試験液を用いて,各種MF法における細菌の測定精度を,細菌コロニー数の計測結果を基にして,平板塗抹法(R2A寒天培地)と比較した.その結果,今回用いたMF法製品と培養方法との組み合わせの全てが,基準となるR2A寒天培地上のコロニー数(<I>Pseudomonas fluorescence</I>(59.3cfu/枚),<I>Methylobacterium extorquens</I>(62.5cfu/枚),Wild type(38.6cfu/枚))に対して,細菌回収率に必要な70%以上を上回っており,良好な回収率を得ることが可能であった.今回評価したMF法製品は,各工程の細菌管理に有効なツールとして十分に活用できるものと考えられた.

1 0 0 0 OA 4. 栄養

著者
長澤 康行 長井 美穂
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.763-767, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
6