著者
宗像 昭子 鈴木 利昭 新井 浩之 横井 真由美 深澤 篤 逢坂 公一 松崎 竜児 三浦 明 渡辺 香 森薗 靖子 権 京子 金澤 久美子 宮内 郁枝 鈴木 恵子 久保 和雄 尾澤 勝良 前田 弘美 小篠 榮
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1525-1533, 2001-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
14

今回我々は, 当院で維持血液透析を施行している安定した慢性腎不全患者59名を対象患者として, ベッドサイドにて簡便に使用できるアイスタット・コーポレーション社製ポータブル血液分析器i-STATを用いて, 透析前後で全血イオン化Ca (i-Ca) 濃度を測定し, 血清T-Ca濃度との関係について検討し, 以下の結果を得た.1) 透析前後における血清T-Ca濃度, 全血i-Ca濃度は, それぞれ9.43±0.90→10.54±0.70mg/dl (p<0.05), 1.26±0.10→1.30±0.07mmol/l (p<0.0001) と, いづれも有意な増加を示した. 2) Caイオン化率は, 53.43±0.03→49.55±0.04% (p<0.001) へと透析後有意に低下した. この原因として, 血液pHの変化の影響が考えられ, 血液pHとCaイオン化率との間には明らかな負の関係が認められた. 3) 透析前後における, 血清T-Ca濃度と全血i-Ca濃度の関係について検討したところ, 透析前ではy=7.507x+0.015 (r=0.839; p<0.001) と強い正の相関が認められたが, 透析後においては, 全く相関が認められなかった. この点について, pHならびにAlbを含めた重回帰分析法を用いて検討したところ, T-Ca=3.369×i-Ca+5.117×pH-32.070 (r=0.436, p=0.0052) と良好な結果が得られた. 4) 透析前後の全血i-Ca濃度の測定結果から, 容易に血清T-Ca濃度を換算できるノモグラムならびに換算表を作成した.以上の結果より, ポータブル血液分析器i-STATを用いた, ベッドサイド (“point-of-care”) での全血i-Ca濃度の測定とノモグラムの利用は, 透析室においてみられるCa代謝異常に対して, 非常に有用であると考えられる.
著者
本西 秀太 小林 静佳 田中 仁英 古屋 徹 小澤 尚
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-9, 2022 (Released:2022-01-28)
参考文献数
25

炭酸ランタン(L)とスクロオキシ水酸化鉄(S)のリン吸着効果と,制酸薬内服によるその変動について明らかにするため,本法人4施設の維持血液透析患者163名を対象として調査した.2017年4月1日から2019年12月31日の間に,前述2種類の薬剤いずれかを内服開始・増量した症例を対象とし,背景因子と薬剤変更前後の血清リン濃度の変化量を調査した.S開始・増量群では副作用による内服中止症例が多かったが,250 mgあたりのリン低下量はLに比して有意に大きかった.両薬剤の250 mgあたりのリン変化量を制酸薬の有無で比較すると,Lでは制酸薬内服症例の変化量が非内服症例の約66%と有意に小さかったが,Sでは有意差を認めなかった.Lのリン低下効力は制酸薬による胃内pH上昇で減弱するが,Sでは減弱しないことが示唆された.制酸薬内服患者におけるリン吸着薬の選択や結果の解釈には十分な注意が必要である.
著者
中西 祥子 中西 員茂 藤堂 恵 久保 和雄 二瓶 宏
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.1135-1141, 1999-08-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
14

28歳, 女性. 15週で妊娠判明時に血清クレアチニン4.4mg/dlを指摘され, 慢性腎不全の診断にもかかわらず患者の強い希望により妊娠継続した. 血液透析を行いながら32週で経膣分娩にて1790gの男児出産し, 産後8日目の血液透析を最後に離脱した. その後外来経過観察中徐々に腎機能低下, 産後1年10か月にて血液透析再導入となり, 週1回4時間の透析療法を行っていたが, 再び妊娠した. 透析時間延長, 回数を増やし38週にて経膣分娩にて2764gの女児を出産. 産後は週2回各4時間の血液透析となる. その後徐々に高窒素血症進行し, 週3回各4時間の血液透析を行っているが, 大きな合併症なく今日に至っている.2児とも奇形なく, 発育については第1子のみ生後8か月までは標準を下回ったがそれ以後は支障なく, それぞれ10歳, 8歳となり日常および学校生活を順調に過ごしている.
著者
齊藤 正和 佐藤 智秋 後藤 真希 坂本 薫 宮本 みづ江 田畑 陽一郎 伊東 春樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.421-426, 2014 (Released:2014-08-02)
参考文献数
26

【目的】外来血液透析 (HD) 患者の身体活動量に関連する因子を検討するとともに, HD施設までの通院方法と身体活動量および身体機能との関連について検討した. 【方法】外来HD患者53例 (男性34例, 女性19例, 平均年齢62±13歳) を対象とし, 基本情報, 合併症の重症度指標であるComorbidity Index, 栄養状態の指標であるGeriatric Nutrition Risk Index (GNRI), 身体機能の指標であるHD患者移動動作評価表, 身体活動量の指標であるLife Space Assessment (LSA) を調査した. 各調査項目とLSA得点との相関係数を算出し, LSA得点と有意な相関関係を示した因子を独立変数, LSA得点を従属変数とした重回帰分析を実施した. また, HD施設までの通院方法により通院自立, 送迎 (歩行) および送迎 (車いす) に分類し, HD施設まで通院が自立しているか否かを予測するLSA得点ならびに移動動作得点のカットオフ値をROC曲線より決定した. 【結果】LAS得点と有意な相関を認めた因子は年齢, GNRI, 透析期間, Comorbidity Index, 移動動作得点であり (p<0.05), LSA得点の規定因子として身体機能および年齢が抽出された (R2=0.54, p<0.01). また, 通院自立, 送迎 (歩行), 送迎 (車いす) の順で移動動作得点およびLSA得点は有意に低値を示し (p<0.05), HD施設までの通院方法が自立か否かを規定するLSA得点は, 63点 (ACU : 0.861, p<0.01, 95%CI 0.760-0.962), 移動動作得点は, 44点であった (ACU : 0.912, p<0.01, 95%CI 0.835-0.990). 【結語】HD血液透析患者の身体活動量の規定因子として, 年齢ならびに移動動作能力が抽出された.
著者
山中 望 藤森 亜希 南部 正人 阪 聡 櫻井 健治 守屋 利佳 東原 正明 鎌田 貢壽
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.97-107, 2002-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
29

【目的】CRIT-LINETMモニター (CLM) を用いたplasma refilling rate (PRR) の測定法は研究者毎に異なり, 確立された方法がない. そこで本研究では, 11通りのPRR測定法の有用性と限界について検討し, 臨床的に利用価値の高いPRR測定法を明らかにすることを目的とした. 【対象および方法】慢性腎不全患者で, 透析中の血圧が安定している患者を対象とした. 透析条件は, 除水速度以外は透析中一定とした. 除水は, 異なる3種類の除水方法 (UF-A, -B, -C) で行った. 透析開始時の有効循環血液量 (BV(0)) は, 生体計測法 (8%法) と回帰I法 (Hct I法, ΔBV% I法), UF-A, -B, -C法の組み合わせから推定した. PRRの測定は, 生体計測法と回帰I法, 回帰II法 (Hct II法, ΔBV% II法), UF-A, -B, -C法を組み合わせた11通りの方法を行い比較検討した.【結果】8%-A法で測定されたPRR値は, 8.7±1.6mL/minであった. 種々のBV(0)測定法とUF-C法との組み合わせで得られたPRRは, 8%-A法のPRRと有意差を認めなかった. UF-B法で測定したPRRは, UF-A, -C法で測定したPRRに比べ有意に低値 (p<0.01, n=13) であった. 【考察】UF-A法より得たPRRは, 除水施行中のPRR値であるといえる. UF-B法より得たPRRが低値を示した理由は, 除水が行われない条件下の測定であったためであるといえる. UF-C法は, PRR測定直前に大きな除水をかけるため, 適用できる患者が限られるという欠点があるが, 膠質とPRRの関係について検討することが可能である.【結論】透析中の除水を考慮したPRRを測定する場合には8%-A法が, 非除水時のPRRを測定する場合には8%-B法が臨床的に有用である. 8%-C法では, 膠質のPRRへの効果を検討することができる.
著者
川西 秀樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.509-514, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
26

血液浄化法の目的は尿毒症毒素を除去することであり,とくに中分子量(MM)が目標になっている.HDF に代表される浄化法が開発され透析低血圧防止・生命予後改善などが示されているがいまだ確定されていない.MM は糸球体を通過する溶質である分子量0.5~58 kDa の範囲として定義され,新たな分類として「small-middle 0.5~15 kDa」,「medium-middle >15~25 kDa」および「large-middle >25~58 kDa」が提唱された.日本ではlarge-middle 領域であるα1 ミクログロブリン(αMG)除去が目標とされてきたが,αMG の生理機能として抗酸化作用が注目され,新たな除去理論が構築されてきている.この機序の臨床的証明がなされれば血液浄化法の更なる発展が得られるであろう.
著者
辻田 誠 押谷 創 杉山 豊 三村 哲史 浅野 靖之 成瀬 友彦 平山 幹生 渡邊 有三
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.403-408, 2009-05-28 (Released:2009-08-11)
参考文献数
12

ギラン・バレー症候群(以下GBS)は,急速に進行する四肢筋力低下を主症状とするニューロパチーである.一般的にGBSの治療については,単純全血漿交換(以下PE)や免疫グロブリン大量療法(以下IVIg,400mg/kg/日×5日間)が推奨されており,その効果は同等とされている.しかし,維持透析患者に合併する症例数は少なく治療方針についても一定の見解が得られていない.われわれは,GBSと診断された維持透析患者4症例を経験した.2症例に対しては,第一選択で施行したIVIgで効果がなく,PEを施行したところ,施行直後より筋力の改善を認めた.残りの2症例ではPEを第一選択とした.4症例ともにPE施行後順調な経過をたどった.維持透析患者のGBSの治療にはIVIgよりPEが有効であると考えられる.
著者
朝倉 伸司 佐々木 廉雄 足助 雄二 渡辺 弘規 加賀 誠 清水 ひろえ 川田 松江 播磨 晋太郎 長濱 裕 松田 道生
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.947-953, 2009-12-28 (Released:2010-01-27)
参考文献数
19

透析施行に際して動脈―静脈吻合を設置すると,その局所でのblood accessは高ずり応力の存在する動脈系から中あるいは低ずり応力が働くと考えられる吻合部遠位側(心臓側)へと移行するため,吻合部周辺での血栓形成の機序は必ずしも単純ではないと考えられる.さらにPTA(percutaneous transluminal angioplasty)による圧ストレスが血管内壁上で血液凝固線溶機構にどのように関連しているか,あるいは動脈硬化病変が血栓形成にどのように影響するか等については,十分に検討されてきていないのが現状である.今回,われわれはPTA施行前後の当該シャント部位での血液凝固線溶関連因子の変動を検討し,血栓形成の初期に形成される可溶性フィブリン(soluble fibrin, SF)が15例中4例が著明に上昇していることを見出した.また,SFとともにトロンビン―アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex, TAT)も上昇していたが,SFとは相関を示さず,両者の上昇は異なる反応によるものと推定された.SFはフィブリンモノマー1分子に対しフィブリノゲン2分子が結合した3分子複合体であることが示されており,そのフィブリンモノマーの中央に位置するE領域に接合している1対のalpha C globuleがトロンビンにより切断,遊離されることにより,alpha鎖(96-97)に存在するRGDドメインがフィブリンモノマーのE領域表面に露呈されること,また,これが細胞膜に存在し,フィブリノゲン受容体(fibrinogen receptor)として働くα5β1インテグリンおよびビトロネクチン受容体(vitronectin receptor)であるαvβ3をも巻き込みながら細胞伸展を促進することをわれわれはすでに報告しており,SFが単に血液凝固亢進を示す分子マーカーであるだけでなく,血管壁への血小板の強力な接着に貢献することが明らかになった.SFが著明に上昇していた4例(SF著明上昇群)では動脈硬化の指標であるpulse wave velocity(PWV)がSF非上昇群に比し有意に上昇していた.またSF上昇群は非上昇群に対しシャントトラブルの年間発生率が高いことから,SFの上昇はPTA後の血行動態,ことに血栓形成機序の解明ならびにシャントトラブル発生とその予後の予想に有用な分子マーカーとなることが期待される.
著者
三原 悠 門 浩志 黒瀬 亮 辻中 瑛里香 中村 匡志 足立 大也 山内 明日香 深井 邦剛 八田 告
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.265-269, 2022 (Released:2022-04-28)
参考文献数
23

症例は94歳,女性.入院1年4か月前に腎硬化症を原疾患とした末期腎不全に対し,長期型バスキュラーカテーテルを左内頸静脈に留置し血液透析を開始していた.入院2日前に転倒し,右肩を打撲した.右肩の疼痛増悪,血液透析時の血圧低下をきたしたため入院となった.入院10日目に脱血不良のためカテーテル抜去を試みたが,皮下のカフを剥離した状態にもかかわらず強い抵抗を認めた.入院11日目に透視下造影検査でカテーテルにガイドワイヤーを挿入し,血管壁の付着を剥離しカテーテルを抜去した.日本において,長期型バスキュラーカテーテルは血液透析患者の高齢化とともに使用が増加してきており,抜去困難となるケースにおいては慎重に対応する必要がある.
著者
佐藤 英麿 長尾 吉正 野々村 浩光 古田 昭春 猿井 宏 苅谷 達也 長田 紀淳 澤田 重樹 後藤 紘司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.51-56, 2015 (Released:2015-01-28)
参考文献数
21

塩酸セベラマー (セベラマー) はリン (P) を吸着するだけでなく, 透析患者の動脈硬化の進展を抑制するという可能性が指摘されている. 今回, セベラマーを7年以上, 血中P濃度を調節するため服用している血液透析 (HD) 患者の動脈硬化に与える影響について検討した. 対象は, セベラマーを7年間服用したHD患者 (投与群) 22名と年齢, 性, 糖尿病の有無, 透析歴を適合した非投与群22名である. 定期的に, 足関節/上腕血圧比 (ankle brachial pressure index: ABI), 脈波伝播速度 (brachial-ankle pulse-wave velocity: baPWV), non-high-density-lipoprotein cholesterol (non-HDL-C) を測定し, 動脈硬化に与える影響について検討した. 投与群では, ABI, baPWVともに経年的に有意な変化は認められなかった. 非投与群では投与群に比較して, ABIは3年後より低下し, baPWVは5年後より上昇した. Non-HDL-Cは投与群では1年後より低下し, 非投与群との間に有意差が認められた. ABI, PWVの変化とnon-HDL-Cの変化との間に相関はなく, CRPはABIと負の, PWVと正の有意な相関を認めた. 以上より, セベラマーは血液透析患者の血清Pを低下させるだけではなく, 脂質代謝と炎症に関連し, 動脈硬化指標の増悪を抑制する可能性が示された.
著者
池 睦美 中村 勝 小西 健一 津畑 豊 五十嵐 宏三 齋藤 徳子 森岡 哲夫 島田 久基
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.561-570, 2021 (Released:2021-11-28)
参考文献数
19

【背景】透析患者において睡眠障害の訴えの頻度は高いものの,その実態については十分に解明されていない.【目的・方法】透析患者の睡眠評価のため,維持血液透析患者41名に自記式ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)による主観的評価とアクチグラフによる客観的評価を行った.【結果】PSQIでは,睡眠薬群では全例,睡眠薬なし群でも40%が睡眠障害ありと判定された.アクチグラフでは,入眠障害・中途覚醒の指標が不良で,総睡眠時間が短縮していた.睡眠薬なし群は,睡眠薬群より中途覚醒が多く,これは日中の覚醒困難の訴えと関連していた.【考察】健常人の報告例と比較し,主観では中途覚醒が頻回で,客観には入眠障害を示し中途覚醒も頻回であった.【結論】透析患者の睡眠は不良であり,睡眠薬の服用は中途覚醒に一部奏効しているが,入眠障害は残っている.睡眠薬なし群では入眠障害の訴えが表れにくく,日中覚醒困難を伴う中途覚醒とともに問題となる.
著者
土井 洋平 下村 明弘 猪阪 善隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.477-485, 2020 (Released:2020-09-28)
参考文献数
9

スクロオキシ水酸化鉄は強力な血清リン低下効果を示す薬剤であるが, 透析患者のリン管理において服薬アドヒアランスも重要であるとされている. 今回スクロオキシ水酸化鉄チュアブル錠から顆粒剤へ切り替えた患者を対象にアンケート調査を行い, 臨床検査所見の推移についても検討した. 対象は92例で85例 (92.3%) が3か月以上切り替え後顆粒剤を継続していた. アンケート調査からは顆粒剤のほうが飲みやすく, 指示された用法・用量通りに服用できる患者が増加することが示唆された. 臨床検査データに関しては血清リン濃度を含めた骨ミネラル代謝, 鉄代謝パラメーター, ヘモグロビンなどに臨床的に有意な変動を認めなかった. スクロオキシ水酸化鉄顆粒剤はチュアブル錠と比較して臨床検査値に大きな変化はなく, 服薬アドヒアランスを考慮すると有用である可能性がある.
著者
富樫 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.485-491, 2022 (Released:2022-08-28)
参考文献数
15

透析患者において,原疾患が糖尿病性腎症と非糖尿病性腎症での冠動脈疾患・冠動脈石灰化の差異とその相関因子を比較検討した.糖尿病性腎症群154 名,非糖尿病性腎症群129 名の維持透析患者283 名を対象とした.冠動脈疾患の有無は冠動脈血行再建歴で,冠動脈石灰化は冠動脈CT でのAgatston らの方法による冠動脈石灰化スコアで評価した1).冠動脈疾患の有無は糖尿病性腎症群と非糖尿病性腎症群において有意に糖尿病性腎症群で多かったが(p <0.05),冠動脈石灰化スコアは有意差を認めなかった(p=0.396).冠動脈石灰化スコアに相関があったのは透析歴(相関係数0.344,p<0.05)とβ2MG(相関係数0.262,p<0.05)であった.以上より,透析患者における冠動脈石灰化スコアは糖尿病性腎症と非糖尿病性腎症での冠動脈病変の差に影響を与えていないこと,冠動脈石灰化スコアは透析歴と相関することがわかった.
著者
松本 哲哉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.67-70, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
6

新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)は世界に流行が広がって2年が経過しているにもかかわらず,いまだに収束の見通しが立っていない.変異株が次々に出現し,一度流行が収まってもさらに感染拡大が起こり,2022年に入ってオミクロン株による世界的な流行が認められる.その一方で,私たちはCOVID‒19に対抗する手段も獲得している.すなわち,PCRなどの遺伝子検査や抗原検査もさらに活用されるようになり,新たに内服の治療薬の特例承認も得られた.また,国内ではすでに約8割のワクチン接種が完了しているが,3回目の接種が開始されている.さらにウイルス伝播の特徴が明らかとなり,エアロゾルを含めた感染対策も重視されるようになってきた.今後,現在開発が進められている新たな治療薬やワクチンの承認も期待されることから,これまでよりもCOVID‒19による被害は抑えられる方向に進むと考えられるが,今しばらくの間は警戒を緩めず対処していく必要があると思われる.
著者
岡田 知也 櫻井 進 坂井 理絵子 渡辺 カンナ 岩田 あずさ 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.629-636, 2014 (Released:2014-10-28)
参考文献数
30

維持血液透析 (HD) 患者における残腎機能の低下に影響する因子について検討した. 対象はHD患者25名. 透析導入日より60±65日後から蓄尿検査を行い, 尿量200mL/日未満になった時点で残腎機能消失とした. 2年間の月当たりの尿量変化 (ΔUV), 推定糸球体濾過量 (eGFR) の変化 (ΔeGFR) を求め, 臨床指標との関係について検討した. 重回帰分析では2年間の基本体重の変化率がΔUVと有意, ΔeGFRと有意に近い関連を認めた. Cox比例ハザードモデルにより残腎機能消失に関連する因子は, 尿蛋白量, 基本体重の変化率, 初回蓄尿時尿量だった (hazard ratio, 3.30, 0.84, 0.995, p=0.004, 0.04, 0.007). HD患者において, 残腎機能の消失に尿蛋白量, 基本体重の減少が関連していた. 残腎機能の経過と体液, 栄養状態との関係について前向きに検討する必要があると考えられた.
著者
吉川 和寛 矢坂 健 諸岡 瑞穂 伊藤 貞利 小山 純司 後藤 泰二郎 中屋 来哉 渡辺 道雄 相馬 淳
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.387-393, 2018 (Released:2018-06-28)
参考文献数
16

糖尿病性末期腎不全で血液透析 (HD) 歴10数年の50歳代男性. 10年来の甲状腺腫 (6cm大) に対し甲状腺右葉切除を行い, 濾胞腺腫と診断された. しかし術後8か月のCTと骨シンチで多発骨転移が発見されたため, 濾胞癌と最終診断した. 右大腿骨転移部の疼痛に対し外照射と髄内釘を挿入し, 第11胸椎骨転移による高度脊髄圧迫に対し外照射と後方除圧固定術を施行した. その後放射性ヨウ素 (I-131) 内用療法を検討したが, 療法後約1週間は患者とその排泄物および透析排液により放射線第三者被曝が生じるため, 患者は個室隔離され, 透析室にも入室できないことが判明した. そのため, 内用療法を行うためにはHDを中断せざるを得ず, 事前に腹膜透析 (PD) に移行して対応した. 透析患者の甲状腺分化癌に対するI-131内用療法に関する報告は, 本邦では皆無であり, HDからPDへ移行する理由の一つとして認識される必要があると考えられた.
著者
鶴屋 和彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.431-439, 2022 (Released:2022-07-28)
参考文献数
55

わが国では急速に高齢化社会が進展しており,慢性腎臓病(CKD)患者や透析患者の増加と高齢化が進んでいる.それに伴って,認知機能障害者が増加し,その対策が喫緊の課題となっている.CKD 患者の認知症の特徴は脳血管型認知症の頻度が高いことで,その対策には高血圧や糖尿病などの動脈硬化の古典的危険因子の管理による予防が最も重要である.その他,レニン・アンジオテンシン系阻害薬や貧血対策,運動療法,生活習慣改善などの有効性が報告されている.透析法や腎代替療法の違いも認知機能に影響する可能性があり,長時間透析,低温透析,腹膜透析,腎移植による認知機能保持効果が報告されている.認知症対策では透析中止や非導入への対策も重要で,アドバンス・ケア・プランニングの普及と保存的腎臓療法の確立が望まれる.
著者
谷津 勲 朝倉 伸司 名倉 正明 福田 収 横山 公要 坂田 洋一 浅野 泰 目黒 輝雄
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.27, no.8, pp.1159-1167, 1994-08-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
35

透析時残血発生機序の検討の一つとして再生セルロース膜に吸着されるマトリックス蛋白質の動態および血液凝固反応の関与を検討した. 血液凝固反応に関しては血液凝固亢進の分子マーカーであるTAT複合体の変化を検討した. 合併症のない慢性腎炎より腎不全へ移行した安定した血液透析患者を対象とした. そのうち透析時残血の存する群 (残血群n=4), 残血のない群 (非残血群n=5) に分けてマトリックス蛋白質であるFbg, VNの透析時血漿中濃度の推移および透析器膜よりの50mM Tris HCl-1M NaCl, pH 7.4による溶出分画中の濃度, 分子パターンを検討した. TAT濃度に両群間で差はなくまた正常範囲内であり残血群でも血液凝固反応が進行している所見はない. このことより残血は血小板の膜への接着を中心とする一次止血機構に似た反応が推定された. マトリックス蛋白質であるFbgの血漿中濃度の推移は両群間で差は認められなかった. しかしVNの血漿中濃度の推移は残血群でより高値の傾向を示した. Immunoblotting法による分子パターンは大きな差は認められなかった. しかしながら透析器膜の1M NaCl-Tris buffered saline (TBS) による溶出分画中の蛋白質には他のマトリックス蛋白質に比しVNが多く含まれていた. またそのimmunoblotting法による分子パターンではVN-multimerが残血群でより多く認められた. この溶出分画中にはFibrinおよびFibrin-bound FNは認められなかったことから, このVN-multimerはFibrin由来とは考えられず, 従って残血の結果生じたものではなく, むしろ残血発生の原因の一つと考えられた. これらの結果より透析時残血発生機序の一つとしてVN-multlmerが強く関与していることが推定された.
著者
皆川 明大 酒井 理歌 福留 慶一 久永 修一 年森 啓隆 佐藤 祐二 藤元 昭一
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.685-690, 2014 (Released:2014-11-28)
参考文献数
15

血液透析患者において適正体液量の維持は心血管合併症や生命予後改善の点で重要である. 今回われわれは, 健常者および血液透析患者に体組成分析装置を用いて透析前後に体液過剰・不足量 (OH) の測定を行い, 有用性の検証について横断的研究を行った. 219名の健常者 (平均年齢68.8±8.4歳, 男性69名) と64名の慢性維持血液透析患者 (平均年齢61.7±12.8歳, 男性37名) を対象とした. 健常者平均OHは0.7±0.8L (平均±SD) であり, 海外での健常者のOH基準値 (−1.1~1.1L) に相当した参加者は全体の76.3%であった. 血液透析患者の透析前平均OHは2.9±1.5L, 透析後平均OHは0.6±1.7Lであった. 透析前後でのOH変化量と体重変化量は有意な相関関係を認めた (r=0.61, p<0.05). 一方, 透析前あるいは透析後OHと透析前血圧・心胸郭比との間には, 有意な相関関係は認められなかった. 透析後血中ANP濃度と透析後OH値との間に正の相関関係を認めた (r=0.48, p<0.05). 透析後血中ANP濃度で3群 (高値群>60pg/mL, 中間群40~60pg/mL, 低値群<40pg/mL) に分類し, 透析後平均OHを比較したところ, 血中ANP濃度が高値になるほどOHも高値となった, p<0.05). これらの結果から血液透析患者において, 潜在的に体液過多となっている患者の存在が示唆された. 目標体重検討の際に考慮する心胸郭比や血圧との有意な相関関係は認められなかったが, 透析前後での劇的なOHの変化や血中ANP濃度との関係をみると, OHは血液透析患者の体液量の指標として有用な可能性がある. 今後OHと心機能との関連性など検証し, 有用性についてさらに具体的に検討していく必要があると思われた.