著者
上原 由美 島田 美樹子 柳澤 和美 内山 和彦 竹内 茂 野際 英司 中里見 征央 鈴野 弘子 石田 裕
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.553-561, 2014 (Released:2014-09-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

慢性腎臓病の食事療法として, 病気の進行によりP・K・たんぱく質の制限が必要になる. 透析患者の高齢化も進み, 簡便で継続可能な食事療法が必要と考える. 一般的には栄養指導の際, P・K含有量を抑えた治療用米飯の利用を推奨するが, 自作米中心の地域においては, 高価な治療食の購入には至らないことが多い. そこで, 洗米条件を調整することによりP・K・たんぱく質の低減が可能か否かを検討した. また, 透析患者の米の使用実態を把握するためにアンケート調査を実施した. 洗米におけるPの洗出率は5回目までは回数ごとに有意差が認められ (p<0.05), Kおよびたんぱく質の洗出率は4回目まで有意差がみられた (p<0.05). したがって, 洗米回数5回まで低減効果が期待できることがわかった. 5回洗米までにPの洗出率は, 50.2±3.02%, Kは46.0±3.89%, たんぱく質は5.40±0.42%となった. 透析患者のアンケート結果では, 洗米回数は3~4回の回答者が多く, 水を取り換えるまでの洗米時間も10秒前後とP・Kの低減を目的とした洗米条件としては不十分であった. 洗米において, 1回20秒間, 水を換えて5回行うことによってP・Kの低減効果があることが認められた. この方法は, 食品の制限や量の調整など多くのストレスを抱えている患者にとって, 簡便で持続可能な食事管理の一手段となり得ると考えられた. さらに毎日行う洗米に際し, 「P・Kを除去する」という意識を持つことによって, 怠慢になりがちな日常の食事管理に対する意識の醸成もなされ, QOL向上の一助となると思われた.
著者
藤倉 恵美 秋保 真穂 中道 崇 山本 多恵 佐藤 博 宮崎 真理子
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.407-411, 2017 (Released:2017-06-29)
参考文献数
6

輸血を拒否する患者に医療を行う際には, 救命を第一義とする医学の基本理念に反する判断を迫られることがある. 待機治療において患者本人の自己決定による輸血拒否や治療拒否は認められるべきであるが, 生命に危険が及ぶような緊急時の対応については医学的, 倫理的, 法的に議論が残る. このような重大な判断を行う際には個人の価値観だけでなく, 組織としての方針を決定しておくことが必要である. 今回われわれは輸血を拒否する慢性腎不全患者に緊急血液透析導入を行った. 病院のリスクマネジメントを展開するうえで, 患者の信仰上の価値観が治療方針に影響を及ぼすことの重大性を示した症例であった.
著者
吉田 省造 岡田 英志 土井 智章 中島 靖浩 鈴木 浩大 田中 卓 福田 哲也 北川 雄一郎 安田 立 水野 洋佑 宮﨑 渚 森下 健太郎 牛越 博昭 竹村 元三 白井 邦博 豊田 泉 小倉 真治
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.129-135, 2015

症例は50歳代の男性, キノコ狩りに行きキノコを焼いて食べた翌日に下痢・嘔吐などの消化器症状を自覚し近医を受診. 血液検査にて肝逸脱酵素上昇を認め入院となった. 翌日の採血で肝逸脱酵素の著明な上昇 (AST 5,000台, ALT 5,000台) を認め, 当院に搬送となった. 問診によりドクツルタケ摂取による肝障害を疑った. 入院当日より肝性脳症を認め, 昏睡型急性肝不全と診断. 挿管・人工呼吸管理として, 肝不全治療と同時に毒素除去, 高分子除去を目的として急性血液浄化療法を行った. 入院5日後に肝性脳症は改善し呼吸状態は良好で抜管, 経過良好にて入院9日後に転院となった. ドクツルタケ中毒における血液浄化療法は否定的な意見が多いが, 今回は肝不全を呈したドクツルタケ中毒に対し, 血液浄化療法を行い救命し得た. ドクツルタケの中毒を疑った場合には, 早急な血液浄化療法が有効である可能性が高いと考えられた.

1 0 0 0 OA (5)過剰血流

出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.917-920, 2011-09-28 (Released:2011-10-26)
参考文献数
34
著者
鈴木 一裕 鈴木 翔太 本田 周子 新田 浩司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.153-156, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
7

スクロオキシ水酸化鉄 (以下SO) を使用した症例について検討した. 鉄剤投与を行っていない当院透析患者リン吸着薬内服21例について同用量のSOに切り替え, 切り替え前と12週後での血清リン値, 鉄関連検査値, 副作用発現頻度, 血清fibroblast growth factor 23 (FGF23) 値の変化につき検討を行った. SOを継続して内服できた18例のリン値は有意に低下した. 副作用中止例は3例 (下痢が2例, 軟便が1例) が内服中止した. 鉄関連検査値については投与前後で差を認めず, 血清FGF23値の変化は透析前血清リン値に依存した.
著者
吉田 泉 駒田 敬則 森 穂波 安藤 勝信 安藤 康宏 草野 英二 大河原 晋 鈴木 正幸 古谷 裕章 飯村 修 小原 功裕 高田 大輔 梶谷 雅春 田部井 薫 NIKKNAVI研究会
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.909-917, 2010-11-28
被引用文献数
1

われわれは,透析患者の除水による循環血液量の変化をモニターする機器(Blood Volume Monitoring system:BVM)を日機装社(静岡)と共同開発し,多施設共同研究において臨床的にドライウエイト(DW)が適正と判断された患者の循環血液量の変化(BV%)の予想範囲を設定し,すでに報告した(Ther. Apher. Dial. in press).本論文では,その予想範囲が適正な除水量設定に有用か否かを検討した.維持透析を行っている9施設の144名を対象とし,採血日を含む3回の透析日に,BVM搭載装置を用いて透析を行った.DWが適正と判断された患者のBV%予想範囲は,上限ライン:BV%/BW%後=-0.437t-0.005 下限ライン:BV%/BW%後=-0.245ln(t)-0.645t-0.810.BV%は循環血液量変化率,BW%後は透析による除水量の前体重に対する比率,tは透析時間(h).今回の検討では,DW適正の可否を問わずに144例を抽出し,430データを集積した.プロトコール違反の94データを除外した336データを解析対象症例とした.各施設の判断によりDW適正と判断された230データで,BVMでも適正と判断された適正合致率は167データ(72.6%)であった.臨床的にDWを上げる必要があると判断された45データで,BVMでもDWを上げる必要があると判断されたのは10データ,逆に臨床的にDWを下げる必要があると判断された61データで,BVMでも下げる必要があると判断されたのは37データであった.その結果,BVMによる判定と臨床的判定の適合率は63.7%であった.不適合の原因としては,バスキュラーアクセスの再循環率(VARR),体位変換,体重増加量が1.0kg以下などであった.PWI(Plasma water index)による判定との適正合致率は71.6%で,適合率は58.0%であった.hANPによる判定との適正合致率は68.8%で,適合率は48.7%であった.循環血液量のモニターは,透析患者の除水設定管理の一助になり,われわれが設定したBV%予想範囲は臨床的にも妥当性が高いと考えられた.
著者
牧田 慶久
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.1445-1449, 1999-12-28
被引用文献数
1

長期透析患者の副甲状腺機能を検討する目的で, 10年以上観察し得た安定期維持透析患者38例を対象にc-PTHなどを各種パラメーターとして検討した. 透析導入時の年齢とc-PTHとの関係では, 高齢になるにつれてc-PTHが低値となる傾向が認められた (p<0.05). c-PTHが10ng/m<i>l</i>以上を二次性副甲状腺機能元進症として検討すると充進症の頻度は経年的に増加し, 透析開始10年後には38例中17例 (44.7%) が機能亢進症に陥った. 機能亢進症に影響を与える諸因子の検討では, (1) 透析期間中の平均血清Ca値が9.0mg/d<i>l</i>以上の群では9.0mg/d<i>l</i>未満の群に比し, 機能亢進症が有意に低頻度であった (p<0.0005). (2) 活性型ビタミンD (VitD) 投与期間が透析期間の60%以上の群では60%未満の群に比し機能亢進症が有意に低頻度であった (p<0.0005). (3) 活性型VitD投与期間と血清Ca値の間には正相関が認められた (r=0.452, p<0.005). (4) 血清P値と機能亢進症の間には有意な相関を認めなかった.<br>以上から, 血液透析期間が長期化するにつれc-PTHは漸増し重篤な骨合併症を惹起する副甲状腺機能亢進症に陥る危険性が高まることが示唆された. またこれを予防するには活性型VitDを投与し, 血清Ca値を9.0mg/d<i>l</i>以上に保つことが有用と思われた.
著者
平島 知圭 和泉 雅章 三角 文子 川越 英子 末光 浩太郎 成山 真一 福本 裕美 許林 友璃 中西 健
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.105-110, 2006-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
13
被引用文献数
2

メシル酸ナファモスタットは, 出血性病変を有する症例の血液透析施行時の抗凝固薬として広く用いられている. われわれは維持透析患者12名において, 同薬の先発品と後発品使用時における血液透析回路内の析出物の量, および抗凝固薬としての作用をそれぞれクロスオーバー法により比較検討した. 抗凝固薬としての作用は両者で差がみられなかったが, 回路内析出物の量に関しては, 後発品使用時の方が有意に大量であった. 析出物の量に違いが生じた原因としては, 先発品と後発品の添加物の違い, 不純物混入量の違いなどが考えられた. 後発医薬品導入の際には, それが先発品と完全に同じ薬剤とはいえない場合がありうることを考慮して, 作用の強さや副作用に関して慎重に検討する必要がある.
著者
岡田 一義 今田 聰雄 海津 嘉蔵 川西 秀樹 菅原 剛太郎 鈴木 正司 石川 勲 佐中 孜 奈倉 勇爾 松本 紘一 高橋 進
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1315-1326, 2003-08-28
被引用文献数
5 7

本邦では, 透析患者の終末期において, 血液透析 (HD) が安定して施行できている患者の自己決定を尊重し, HDを中止することについての生命倫理学的研究は殆どない. 今回, われわれは, 透析医 (552名) を対象として, 安定したHDを受けている悪性腫瘍終末期症例を提示し, いくつかのシナリオに対して, HDを中止するか, 継続するかの意識調査と, advance directives (AD), 尊厳死, 尊厳生についてどのように考えているかの意識調査を全国的規模で行った.<br>434名 (78.6%) から回答が得られたが, 有効回答は427名 (77.4%) であった. ADおよび尊厳死が法的に認められていない現状において, ADの有無で比較すると, (1) 家族がHD中止を申し出た場合, (2) 家族がHD継続を申し出た場合とも, ADがあるとHDを中止する回答は有意に増加した ((1) 48.0%→78.9%, (2) 0.2%→2.6%). さらに延命療法を中止しても法的責任は問われないと仮定すると, ADがあるとさらにHDを中止する回答は増加した ((1) 90.9%, (2) 11.9%). ADと尊厳死を必要であると回答した透析医はそれぞれ74.0%, 83.1%であったが, 法制化も必要と回答した透析医は56.4%, 63.7%に減少した. 尊厳死と尊厳生の比較では, 尊厳生を支持する透析医は, 尊厳死を支持する透析医よりも多かった (47.1%, 15.9%).<br>今回の結果は, 現状でも, 透析医および家族が患者の自己決定を尊重すると, ADによる尊厳死が行われる可能性があることを示唆し, 多くの透析医がADや尊厳死を必要と考えている. 一方, 尊厳生は人間にとって非常に大切なことであり, 尊厳死よりもこの言葉を支持する透析医が多かったと考える. すべての国民は個人として生きる権利を認められており, 本邦では, 終末期にも自分が考える尊厳ある生き方を貫くということから始め, 家族および社会が納得する範囲で, 先ず尊厳生によるADが自己決定のために重要であると認識させる努力をすべきである.
著者
中島 昭勝 東福 要平
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1475-1481, 1994

血液透析患者において, 致死的不整脈をきたしうる心電図QTcの延長について検討した. 対象および方法: 対象は, 維持血液透析患者のうち, 3か月以上症状が安定している維持透析群32名 (男24名, 女8名) で, 血液透析前後で, 心電図QTc, 血液ガス分析, 血清電解質, 血中イオン化カルシウム (Ca<sup>++</sup>), 血中HANP, 体重, 血圧などを測定し, またこれらの患者と年齢, 男女比をマッチさせた正常対照群32名 (検診受診者) について心電図QTcを測定した. 結果: 透析前で維持透析群のQTcは, 0.439±0.025secと正常対照群の0.396±0.021secと比較し, 有意に延長していた (p<0.01). 維持透析群の中で0.438sec (正常対照群の平均値+2標準偏差) 以上のものが15名 (46.9%) であり, これをA群, 0.438sec未満のものをB群として, 両群を比較すると, 血清Caは, A群で8.8±1.0mg/d<i>l</i>, B群で9.8±1.2mg/d<i>l</i>と有意差が認められ (p<0.05), 他の血清電解質, 血中Ca<sup>++</sup>, 血液ガス分析, 血中HANPには, 両群間で有意差は認められなかった. QTcの透析前後の変化量 (<i>Δ</i>QTc) は, 血清Ca, 血中Ca<sup>++</sup>, HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>の各変化量と相関したが, その他のデータとは相関しなかった. 透析後, A群において血清Caは平均9.6mg/d<i>l</i>まで上昇したが, QTcは平均0.450secと延長したままで, 短縮傾向は認められなかった. 結論: 慢性透析患者では, 透析前すでにQTcは延長を示す例が約半数を占め, 1回の血液透析で血清Caが正常化しても, QTcの延長の改善は認められなかった. そのQTcの延長については, 血清Ca以外に血液透析に伴う種々の原因による心筋自体の障害, 自律神経系の異常などについても検討する必要があると考えられた.
著者
笹本 洋子 松村 正 小林 由佳 内古閑 修 長澤 利彦 十川 裕史 佐々木 環
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.599-604, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

7X歳女性, 血液透析 (HD) 歴1年. 透析当日, 来院時から全身倦怠感と発熱 (37.5°C) を認め入院となった. 血液培養検査でG群β溶血性レンサ球菌を検出した. 一時40°C近い発熱と敗血症様の症状を呈し全身状態が悪化したが, 抗菌薬の点滴により全身症状は速やかに改善した. しかし同時に両眼の視力低下を認め, 敗血症による両眼の内因性細菌性眼内炎と診断された. 内因性細菌性眼内炎は, 視力予後不良な疾患として知られているが, 幸いにも速やかな診断の上で抗菌薬の全身投与と抗菌薬の頻回点眼により最終的には視力回復を得た. 今回, われわれは早期の診断と適切な抗菌薬の全身投与によりG群β溶血性レンサ球菌 (GGS) の敗血症から発症した内因性眼内炎から視力回復した症例を経験した.
著者
竜崎 崇和 松下 雅博 半田 みち子 古川 智洋 猿田 享男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.45-51, 1998

カルシウム拮抗薬ベシル酸アムロジピンの血液透析患者における有用性と血液透析による透析性を検討した. 対象は維持血液透析施行中の高血圧を合併した慢性腎不全患者で, 観察期透析前血圧が収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧95mmHg以上の外来患者19例. 2~4週間の観察期の後, アムロジピンを2.5~7.5mg/日の量にて投与開始. 服薬は夕食後の1日1回投与とし, 12週間の投薬期間中透析前後で血圧を測定し比較した. その間, 他の降圧薬を服用している患者では降圧薬の変更を禁止し, その後も除去率やクリアランスの測定を施行した例では薬剤の変更は行わなかった.<br>アムロジピンの血清濃度の測定を第1週および第2週目に透析前に施行, 4週以上投与された安定期-1と, 12週以上投与された安定期-2にクリアランステストを施行し, 除去率も計算した.<br>アムロジピン5mg/日服用の15例では, 観察期の透析前収縮期圧, 拡張期圧は, 199±4/95±3mmHgであった. アムロジピン服用開始1週後より有意に血圧は低下し, 12週後には170±5/83±3に低下した. また, 心拍数は観察期には81±2拍/分であったが, 服用開始1週間後に有意に減少し75±2となった. 服用開始2週目以降は観察期と比べ有意な変化は認められなかった. また, 透析後の血圧および心拍数の変動では服用開始1週以降に収縮期血圧で有意な低下を認めたが, 拡張期血圧は第4週と8週に有意な低下を認めただけであった. 透析後の心拍数については, 有意な変化は認められなかった.<br>透析前アムロジピン血清濃度は5mg/日服用者で, 第1, 2, 4週以降, 12週以降でそれぞれ, 6.8±0.8ng/ml, 7.1±0.7, 8.1±1.0, 8.6±1.2であったが有意な差は認められなかった.<br>透析後のアムロジピン血清濃度は透析前の値と比較しても, また, 透析が行われなかった場合の予測値と比較しても有意に低下していた. 透析による除去率は14%から18%であったが, 透析開始1時間という一時点でのクリアランスでは負の値を示した.<br>アムロジピン投与にて血液透析患者の透析前血圧は投与1週間後より12週間まで有意に低下した. また, 少なくとも投与12週間までの間では, 5mg/日の投与量では有意な蓄積傾向はなく, 血液透析による除去率は14~18%であった.<br>結論: ベシル酸アムロジピンは透析患者においても通常投与量で長期投与にても蓄積なく, 安全に降圧し得ると思われた.
著者
村本 弘昭 武藤 寿生 竹内 正義
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.467-473, 2013-05-28
被引用文献数
1

終末糖化産物(AGEs)は糖尿病や尿毒症において生成が促進され,血管合併症の発現に深く関与していると考えられている.われわれは既報で炭酸カルシウムからセベラマー塩酸塩に変更することにより血清AGEs濃度が低下し,透析患者の血管合併症が軽減する可能性について報告した.しかし,副作用である便秘は無視できない問題と考えられ,今回セベラマー塩酸塩の少量投与による血清AGEs濃度への影響を検討した.3か月以上安定して週3回透析を施行している患者21例を対象に,炭酸カルシウム投与量は変更せずセベラマー塩酸塩1.5 g/日を上乗せ投与し,血清AGEs,脂質,リン,カルシウムおよびインタクトPTH値を経時的に検討した.AGEsは食品中に多く含まれるglucose由来のGlc-AGEsおよび生体内で生成され強い毒性を呈するglyceraldehyde由来のGlycer-AGEsをELISA法で測定した.Glc-AGEsは16.03±10.53 U/mLから24週後5.57±4.40 U/mLと有意に低下した.Glycer-AGEsは開始時の平均値で2群に分けて検討したが,高値群で8.49±1.12 U/mLから24週後6.74±0.84 U/mLと有意に低下し,低値群では変化を認めなかった.Non-HDLコレステロール値は有意に低下し,HDLコレステロール値は有意に上昇した.血清リン値は約0.8 mg/dL低下し,血清カルシウム値には変化を認めなかった.Glc-AGEsは経口的に体内に取り込まれ強毒性のGlycer-AGEsの産生を増強することが報告されており,血清AGEs値の低下はセベラマー塩酸塩による食事中のAGEsの吸着除去効果も考えられるが,そのほかオキシダントなどさまざまな物質の除去による酸化ストレス軽減も影響している可能性が考えられている.今回の検討で,腹部症状を起こしにくい量のセベラマー塩酸塩投与でも有意な血清AGEs値の低下や血清脂質の改善を認め,透析患者の血管合併症を軽減させる可能性を示した.生体へのカルシウムの過剰な負荷を避けるためにも,まず基礎薬として服薬可能な量のセベラマー塩酸塩を投与することは透析患者にとって十分有用性があると考えられた.
著者
濱田 真宏 森川 貴 山崎 大輔 竹内 由佳 大野 良晃 柴田 幹子 岸田 真嗣 今西 政仁 北林 千津子 小西 啓夫
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.297-303, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
21

症例は66歳男性. 32歳から2型糖尿病, 52歳時に慢性C型肝炎による膜性増殖性糸球体腎炎からの末期腎不全で血液透析導入となった. X年2月, 腰痛の出現後から左下肢の筋力低下と両下肢痛が出現し歩行困難となったため入院となった. MRIにて胸椎2-3レベルの脊髄の腫大を認め, 左側よりにT1, T2強調画像で淡いhigh intensity areaを認めた. 髄液検査にて水痘帯状疱疹ウイルスを認めたが, 皮疹を認めないことから無疹性帯状疱疹に伴う脊髄炎と診断した. 免疫能が低下していると皮疹が現れにくいといわれており, そのため診断に苦慮することが多い. 本例は糖尿病, 肝硬変, 腎不全などによる免疫不全状態がその要因と考えられた.
著者
天野 栄三 水田 耕治 橋本 寛文 今冨 亨亮
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1549-1553, 2001-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
19

症例は58歳男性, 原疾患は糖尿病. 1995年4月, 血液透析導入. 導入時より慢性C型肝炎, 肝硬変を合併していた. 1997年7月頃よりエリスロポエチン抵抗性の貧血が持続. 定期的上部消化管造影・内視鏡にて下部食道表在癌と診断され, また, 腹部造影CT, 選択的腹腔動脈造影にて肝細胞癌と診断された. 食道癌に対しては放射線療法を行い, 肝細胞癌に対してはSMANCS (styrene maleic acid neocarzinostatin)/TAE (transcatheter arterial embolization) 療法を計3回施行した. 治療後, 上部消化管造影では隆起性病変は消失し, SMANCS/TAE後のCTではリピオドール集積像が比較的良好に認められたが, 次第に肝機能障害増悪, 維持透析継続困難となり, 1999年2月死亡した. 透析患者は細胞性免疫能の低下により, 一般的に悪性腫瘍の発生頻度が高く, 自験例のような重複癌や多発癌の発生する可能性は十分に予想される. 早期診断, 早期治療のためには積極的な定期検査の重要性が強調される.
著者
中島 惠仁 小池 清美 深水 圭 楠本 拓生 玻座真 琢磨 松元 貴史 上田 誠二 奥田 誠也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.493-499, 2013-05-28 (Released:2013-06-08)
参考文献数
32

ロサルタン,フロセミドによる中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)を発症し救命しえた1例を経験した.症例は76歳,男性.慢性腎不全と高血圧の教育入院中にTENを発症した.原因薬剤中止後も改善せず,ステロイド内服とステロイド外用薬に加え,ステロイドパルス療法,血漿交換を施行し,口腔内膿瘍合併に対しヒト免疫グロブリン大量静注療法(Intravenous immunoglobulin:IVIg)を併用した.リンパ球幼弱化試験(DLST)陽性と臨床経過よりロサルタン,フロセミドを原因薬剤と判断した.TENの原因薬剤としてロサルタンは本邦初,さらにフロセミドもまれであるため報告する.腎不全患者で薬疹が疑われた場合は速やかに被疑薬を中止し,薬疹が改善しない場合は重症薬疹を考え迅速に対症することが重要と考えられた.
著者
松橋 秀典 若佐 友俊 田北 貴子 古橋 三義
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.381-385, 2014

漏血警報は透析膜の破損により, 血液と透析液が透析膜の壁を隔てずに直接接触することを意味する重大な警報である. 近年, 透析液清浄化の技術が広く普及し, 透析液の水質は多くの施設で清浄化レベルが確保されてきているが, 透析液の水質の確保されていない透析施設での漏血事故は, 血液へのエンドトキシンや細菌混入などをひき起こす危険な事故である. 今回われわれは目視にて透析液ダイアライザー出口側より赤褐色様濾液が確認できる漏血警報発生時に, ダイアライザーを交換しても警報を回避できず, 偽漏血が疑われた1例を経験したので報告する. 症例は77歳女性, 心不全に伴う腎機能悪化にて維持透析を実行. 透析治療はHD3時間とECUM1時間の4時間治療を行っていた. 除水の多かった治療日に, HDからECUMに変更後, 漏血警報が発生. ダイアライザーを同器種に交換し治療を再開したが, 再度漏血警報が発生した. さらにダイアライザーを他種膜に変更したが, 再び漏血警報が発生し, 漏血警報が回避できなかった. 漏血警報発生の原因として, 使用していたダイアライザーに膜破断などの異常は認められなかった. 当日の装置漏血検知器の状態にも問題はなく, 誤警報である可能性はなかった. 血中ハプトグロビンの値が10mg/dL未満であり, 溶血が起こっていると考えられたが, 透析由来の溶血は否定的であり, 心臓の人工弁による機械的溶血が原因となる偽漏血であると考えられた. 心臓の弁置換の行われている透析患者で漏血警報が発生した場合には, 溶血による偽漏血の可能性も考慮する必要があると考えられた.
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 佐倉 宏 新田 孝作
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.287-294, 2015 (Released:2015-05-28)
参考文献数
30

透析患者に広く使用されるRenin-Angiotensin系抑制薬 (RASI) のうちAngiotensin変換酵素阻害薬 (ACEI), AT1受容体拮抗薬 (ARB) と生命予後との関連を当院databaseにより検討した. 2006年4月以降databaseに登録された透析患者を対象とした. 対象の傾向スコア (PS) を算出し3群 (ACEI, ARB, 非RASI群) からPS近似例を抽出した. 疾患死をエンドポイントとした3群の生存曲線を作成し比較した. 対象の347例から31組93例が抽出, 3群間に有意差なく4.2年で全死亡30例, 心血管死19例であった. 全死亡はACEI群7例, ARB群14例, 非RASI群9例でACEI群が予後良好であったが心血管死は有意差を認めなかった. 透析患者においてACEIによる全死亡抑制を認めたがARBは予後に影響しなかった. 今後多施設での前向き研究が必要と考えられた.