著者
岡田 一義 天野 泉 重松 隆 久木田 和丘 井関 邦敏 室谷 典義 岩元 則幸 橋本 寛文 長谷川 廣文 新田 孝作
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.817-827, 2010-09-28
参考文献数
3
被引用文献数
1

社団法人日本専門医制評価・認定機構が設立され,学会ではなく,第三者機関が専門医を認定する構想も浮上してきており,現状の専門医制度の問題点を早期に改善し,誰からも評価される専門医制度に改訂しなければならない時期に来ている.全会員と現行の専門医制度の問題点を共有するために,今回,専門医制度の現状を分析するとともに,意識調査を実施した.専門医制度委員会が把握しているデータを2009~2010年の各時点で集計した.さらに,認定施設または教育関連施設が2施設以下の7県の専門医180名および指導医50名を対象に,無記名アンケート調査を2009年10月に実施し,12月までに回収した.2009年9月1日時点での施設会員は3,778施設であり,認定施設は420施設(11.1%),教育関連施設は456施設(12.1%)であり,合格期より認定を継続している認定施設数は45.1%であった.正会員数は11,303人であり,専門医は4,297人(38.0%),指導医は1,620人(14.3%)であった.認定施設における専門医在籍数は,専門医0人0施設(0%),専門医1人(代行)11施設(2.6%),専門医2人256施設(61.0%),専門医3人以上153施設(36.4%)であった.施設コード別の認定施設数と教育関連施設数は私立病院が最も多く,大学附属病院の多くは認定施設であったが,教育関連施設も12施設認めた.認定施設が指定している教育関連施設は,0施設が39.4%,1施設が24.2%,2施設が19.6%,3施設が12.1%,4施設が3.7%,5施設が0.9%であった.意識調査の回収率はそれぞれ専門医38.9%と指導医76.0%であった.専門医は,指導医の申請について申請予定あり:17名(24.3%),申請予定なし:44名(62.9%),未記載:9名(12.9%),指導医は,指導医の更新について更新予定あり:36名(94.7%),更新予定なし:1名(2.6%),未記載:1名(2.6%)であった.低い施設認定率,低い認定施設継続率,低い専門医認定率,低い指導医認定率,認定施設継続のための余裕の少ない専門医在籍数,代行施設認定,基幹病院の非認定施設化,教育関連施設指定のない認定施設,専門医の低い指導医申請予定率,地域格差など解決しなければならない問題があり,専門医制度委員会において議論を継続している.
著者
大田 真理 大貫 隆子 潮平 俊治 矢吹 恭子 赤尾 正恵
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.497-502, 2008-08-28
被引用文献数
1 1

症例は78歳,男性.近医へ外来透析通院中の患者で,2006年6月中旬より頭痛が出現したため21日近医の救急外来を受診した.頭部CTを施行し,脳出血や梗塞巣などの異常所見は認められず鎮痛薬を処方され帰宅した.しかしその後も頭痛は消失せず,6月26日見当識障害にて当院へ入院.当初の頭部CTでは異常所見は認められず,意識障害,ごく軽度の項部硬直,髄液所見(単核球優位の細胞増加83/3mm<SUP>3</SUP>,蛋白増加295mg/dL)よりウイルス性髄膜脳炎と診断し,アシクロビルの投与を行った.しかし呼吸状態も悪化してきたため一時人工呼吸管理となり,さらにステロイドパルス療法も併用し治療を行った.2週間後には人工呼吸管理から離脱でき,意識状態も完全に回復しリハビリ病院への転院を考慮するほどになっていた.しかし9月より再び意識状態が悪化し,頭部CT上造影剤で増強される腫瘤様陰影を認めたため,単なる髄膜脳炎ではなく中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮し,2回目のステロイドパルス療法を施行した.これらの治療にもかかわらず11月よりさらに意識レベルは低下し,CT上の陰影も増大傾向となった.血清IL-2レセプター919IU/mL,髄液中IL-2レセプター259IU/mLと高値を示し,髄液細胞診上classIIIb,クロマチン増加の高い異型リンパ球を認めたため,画像所見などから中枢神経原発悪性リンパ腫が最も疑われると判断した.その後の治療にも反応せず12月26日永眠された.本症例のように当初はウイルス性髄膜脳炎様症状のみであり,後に画像所見上造影剤にて増強される腫瘤陰影の変化が現れ,中枢神経原発悪性リンパ腫が強く疑われた症例を経験した.亜急性の意識障害を呈する患者の鑑別診断のひとつとして,一般的な髄膜脳炎のみならず,中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮する必要があると考えられた.
著者
菊地 博 川崎 聡 中山 均 齋藤 徳子 島田 久基 宮崎 滋 酒井 信治 鈴木 正司
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.461-466, 2010-05-28
被引用文献数
1

ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルは,インフルエンザAおよびB感染症の治療,予防に有効な薬剤である.慢性維持透析患者に対する,治療,予防に関する報告は少なく,その推奨量は決定されていない.2007年2月19日~20日,火木土昼に透析を受けている患者9人のインフルエンザA発症を確認した.発症患者の病床は集積しており,施設内感染が強く疑われた.透析患者は感染のリスク,重症化のリスクが高いと考えられ,感染の拡大を防ぐため,オセルタミビルの治療投与のほか,予防投与も行った.385名の透析患者に,十分なインフォームドコンセントを行い,同意が得られた患者にオセルタミビル75 mg透析後1回経口投与を行った.アンケート等の協力が得られた339名を調査対象患者とした.9人が治療内服,299名が予防内服を行い,31名が内服しなかった.治療内服後,全員が速やかに解熱し,重症化例を生じなかった.予防内服者には,インフルエンザ感染を生じなかったが,非予防内服者に2名の感染を認めた.この2名も同様の内服により,速やかに解熱,軽快した.内服者において,報告されている臨床治験時にくらべ,消化器症状の発症率が低かったが,不眠を訴える割合が多かった.また,内服者は非内服者にくらべ,臨床検査値異常は多くなかった.血液透析患者におけるオセルタミビル75 mg透析後1回投与は,健常者の通常量投与にくらべ,血中濃度が高値となると報告されている.過量投与による副作用の報告はなく,また,今回の透析患者339名の検討でも,安全性には概ね問題がないと考えられた.予防投与は有効で,当施設におけるインフルエンザAアウトブレイクを収束させた.
著者
田中 宏明 小原 真美 高田 健治 山田 啓子 生井 友農 山縣 邦弘
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.395-400, 2008-06-28
被引用文献数
3 1

72歳,男性.糖尿病性腎症による慢性腎不全にて維持血液透析を施行されていた.2006年1月歯周炎にて近医で抜歯されたが,その後左頸部の強い疼痛が出現し2月1日当院受診.頸部CT検査でガス産生蜂窩織炎と診断し,同日緊急で切開排膿術を施行した.膿の培養で<I>Streptococcus anginosus/milleri</I>と<I>Prevotella intermedia</I>を検出し,非クロストリジウム性蜂窩織炎と診断した.γ-グロブリン製剤投与に加えて,ABPC/SBT 3g/日,CLDM 1,200mg/日連日投与,および1日3回の創洗浄を行い,2月13日,壊死組織の除去,創閉鎖術および,抜歯・腐骨除去術を施行した.術後も創洗浄の継続にて排膿量は減少し,培養検査も陰性化したため,3月9日ドレーンを抜去した.左側頭部痛,頸部・顎下部の腫張は速やかに改善,経口摂取も可能となり3月10日退院した.退院1か月後のCTでは,abscessは消失していた.歯周炎から蜂窩織炎を発症した血液透析症例で,糖尿病合併などcompromised hostであったために重篤と思われたが,早期の切開排膿と適切な術後管理により救命しえた.
著者
金子 友香 徳山 博文 脇野 修 木田 可奈子 林 松彦 林 晃一 伊藤 裕
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1047-1052, 2011-10-28
被引用文献数
1

慢性腎不全維持血液透析中,低栄養,鉄過剰症,骨髄異形成症候群(MDS)など複数の免疫能低下に寄与する要因が重なり,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)によるシャント感染・敗血症を契機に多発膿瘍の合併に至った症例を経験した.透析患者のシャント感染を契機に,本症例のような重症多発性化膿性膿瘍を合併することはまれであり,文献的考察を加え報告する.症例は67歳,女性.慢性糸球体腎炎を原病として,慢性腎不全の進行に伴い,1988年に血液透析導入となった.1993年骨髄穿刺の結果骨髄異形成症候群と診断され(染色体異常なし),2007年から適宜赤血球輸血を施行されていた(合計40単位).2010年1月14日血液透析施行中40度の発熱があり,両下肢痛と腰部痛が出現した.インフルエンザ迅速試験陰性で解熱鎮痛薬を処方されるも改善せず,1月19日WBC 8,600/μL,CRP 46.75mg/dLであり,精査加療目的で同日当院へ緊急入院した.Vancomycin hydrochloride(VCM),meropenem hydrate(MEPM)を開始したが,第3病日,血液培養でMSSAが検出されたため,第4病日からcefazolin sodium(CEZ)へ変更した.Gaシンチグラフィ,MRI,CTなど各種画像検査および眼科検査で,シャント部皮下膿瘍,腰部硬膜外膿瘍,腰部脊椎炎・椎間板炎,多発化膿性関節炎,腰部化膿性筋炎・傍脊柱筋筋肉内膿瘍,多発性細菌性肺塞栓,右眼内炎が認められ,シャント皮下膿瘍から播種性に全身膿瘍をきたしたと考えられた.CEZを継続したところ,血液培養は陰性化し,各感染巣は縮小,消失した.本症例は維持透析,MDS,低栄養,鉄過剰症などのさまざまな易感染性の要素を有していたため,非常にまれな重症多発性感染巣が形成されたと考えられた.このような複数の易感染傾向を有する患者では特に日常の感染対策が必須である.今後,易感染性の末期腎不全患者の増加が見込まれるが,感染症の予防という点から,感染のリスク要因を極力排除し,症状出現時における早急な検査,診断を進めることが重要である.
著者
田邉 一成
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.135-136, 2011-02-28 (Released:2011-03-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 新田 孝作
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.317-323, 2010-03-28

慢性透析患者において,心電図(ECG)上のST-T変化と心臓超音波検査(UCG)上の異常所見は,それぞれ独立して心不全死の予測因子となることが報告されている.今回われわれは,維持透析患者を対象に安静時ECG上のST-T変化に関連する因子を同定した.対象は,吉川内科小児科病院の外来透析患者のうち,6か月以上安定した透析が行われUCGを施行している149例(男性88例,女性61例)である.安静時ECG上のST-T変化の有無を目的変数に,左房径(LADs),左室拡張末期径(LVDd),左室後壁壁厚(PWT),左室短縮率(%FS),左室心筋重量(LVM)のほか,年齢,性別,原疾患(糖尿病DM,非糖尿病nonDM),冠動脈疾患(CAD)の合併,透析歴,血圧,透析間の体重増加量,生化学末梢血検査値,使用薬剤を説明変数に用い多変量解析を行った.UCGは透析後もしくは透析翌日午前に施行され,検査値については6か月間の透析前平均値を用いた.多変量解析はステップワイズ法による多重ロジスティック解析を用いた.特定されたST-T変化関連UCG異常について,ST-T変化の有無により2群に分類し,重回帰分析を用い各群のUCG異常に影響する因子の抽出を行った.平均年齢は66.7歳で,平均透析期間は14.4年であった.原疾患はDMが41例で,26例にCADの合併が認められた.UCG所見は,平均LADs 42.4 mm,LVDd 52.4 mm,PWT 10.8 mm,%FS 36.3%,LVM 224.4 gであった.内服治療は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬8例,アンジオテンシンII受容体拮抗薬103例,βもしくはαβ拮抗薬52例,カルシウム拮抗薬(CCB)116例であった.ST-T変化は79例に認められ,多重ロジスティック解析ではCADの合併,LADsおよびCCBの使用が関連因子であった.オッズ比は,それぞれ5.141,1.087,0.339であった.ST-T変化を有する症例ではLADsがLVMと正に相関し,左室肥大を反映する可能性が示唆された.
著者
徳山 博文 鷲田 直輝 脇野 修 原 義和 藤村 慶子 伊藤 新 上山 菜穂 乃村 元子 林 晃一 伊藤 裕
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.649-653, 2010-08-28
被引用文献数
1

症例は46歳,女性.41歳時に骨盤部胞巣状軟部肉腫の治療に伴い右骨盤半裁,人工股関節置換術を施行された.2005年に腎動脈狭窄に対して経皮的腎血管拡張術を施行されたが徐々に腎機能が悪化し,2007年1月に腹膜透析(CAPD)が導入された.2008年3月に転倒し,右大腿骨骨折にて当院整形外科に入院,観血整復固定術・自家腓骨移植術を施行された.5月15日より腹痛を認めたが腹膜炎の所見は認めず,5月21日退院となった.5月29日外来受診時は血液検査所見に異常所見はなかったが,5月30日より腹痛出現,徐々に症状増悪し,6月5日当院を受診し腹膜炎疑いにて緊急入院した.抗生剤の点滴静注(ceftazidime hydrate(CAZ)1 g/日,cefazolin sodium(CEZ)1 g/日,vancomycin hydrochloride(VCM)1 g/日)および腹腔内投与CAZ 1 g/日,CEZ 1 g/日)を施行したが,症状改善せずCAPD排液細胞数は540/μLから940/μLへ上昇した.第5病日,排液細菌培養にて複数菌が判明し,第6病日には腹痛が増悪し,排液は黄色混濁し排液細胞数5,200/μL,腹部CTにてfree airを認め緊急手術となった.大腿骨頭置換のボルトの背側の骨盤腔の間隙に小腸が嵌頓し,回腸末端部より30 cm口側に嵌頓部の穿孔を認めた.術後は集中治療室にて持続的血液透析濾過を施行し,同時にエンドトキシン吸着を施行した.術後経過は順調であり,腹膜透析から血液透析へ移行した.本症例では抗生物質の無効,CAPD排液の色調異常,CAPD排液培養から複数菌の検出などから,通常の細菌性急性腹膜炎ではないと判断し,腹部CTで確定診断に至った.骨盤あるいはその支持組織への侵襲手術後の骨盤内間隙に腸管嵌頓を誘発し,CAPDの中止を余儀なくされた症例を経験した.
著者
金井 秀夫 野口 俊治 小柳 光 丸橋 恭子 猿谷 真也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.905-910, 2009-11-28 (Released:2009-12-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

クローン病は,比較的若年に好発する腸管全層の炎症を主体とする疾患で,腹痛・下痢・下血などの症状が緩解と再燃を繰り返す慢性非特異性炎症性疾患である.今回われわれはクローン病の初発から40年を経過したのち再燃をおこし,mesalazineおよびprednisoloneの投与にもかかわらず頻回の下血を繰り返した症例に対して,infliximabの投与を試みた透析施行症例を経験した.症例は69歳,男性.25歳時よりクローン病と診断され5~6年の間に計5回の手術歴がある.その後消化器症状はみられず,2005年,慢性腎不全によるうっ血性心不全のため透析導入となった.当院に転院後約3年間著変なく週3回の維持透析を施行していた.今回,配偶者の突然死の4日後に突然の大量下血をおこした.大腸内視鏡所見より縦走潰瘍およびアフタが多発しておりクローン病の再発と診断された.当初mesalazine 1,500mg/日の投与および栄養療法を行ったが効果はみられなかった.次に,prednisolone 30mg/日を併用したが,下痢・下血が連日みられ,頻回の輸血が必要となったことよりinfliximabの投与を行った.初回および2週目と2度のinfliximabの点滴治療を行ったがinfusion reactionはみられなかった.一方,2度目の投与2週間後にニューモシスチス肺炎の合併が認められ,ステロイドパルス療法およびST合剤にての加療を要した.そのため現在,2度のinfliximabの投与にて経過観察しているが,再発後約6か月を経過した後もクローン病の再燃はみられていない.抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体infliximabは当初慢性関節リウマチの治療薬として開発されたが,クローン病およびベーチェット病でもその効果が期待されている.今回の症例においては,治療中にニューモシスチス肺炎の合併を認めたが,クローン病に対してのinfliximabの効果は認められており,特に感染症の合併に注意しながら使用することが有効であると考えられた.
著者
津畑 豊 田邊 繁世 安城 淳哉 津畑 千佳子 秋山 史大
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.687-693, 2009-09-28

【背景】近年,患者自己決定権の尊重や終末期医療におけるさまざまな問題とともに事前指示書への関心が高まっているが,その管理運用には経時的な意思確認や更新,判断能力判定など解決すべき問題が多い.透析施設と生涯関係を持ち続ける透析患者ではそれらの問題点の多くを解決できると考え,透析患者が事前指示書の対象として適しているか検討するため当院維持血液透析患者(透析群)と当院外来に通院する保存期慢性腎臓病患者(非透析群)に対して終末期医療に関する意識調査を行った.【対象と方法】2009年1月および3月に透析群85名および非透析群96名に対して無記名,回答選択方式の意識調査を行った.【結果】事前指示書を知っていたのは透析群22.6%,非透析群11.1%で透析群に多く(p=0.022),機会があれば事前指示書を書いてみたい人は透析群48.8%,非透析群41.8%であった.終末期になったときのことについて誰かと話し合ったことがある人は透析群21.7%,非透析群19.8%であった.また意思疎通ができなくなり回復不能と判断された際の人工栄養の希望有無いずれかの意思を示した人は透析群54.6%,非透析群22.5%で透析群に多く(p=0.001),透析群において上記状況での透析治療継続もしくは中止の希望を示した人は60.7%であった.【結論】透析群での事前指示書作成希望者は約5割に達し,終末期医療について自身の希望を示せる人が非透析群より多く認められることから,透析患者は事前指示書の対象として適していると考えられた.
著者
塚田 有紀子 中村 眞 中尾 正嗣 鈴木 孝秀 松尾 七重 山本 亮 濱口 明彦 花岡 一成 若林 良則 小倉 誠 横山 啓太郎 細谷 龍男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.871-875, 2007-10-28
被引用文献数
2

潰瘍性大腸炎 (ulcerative colitis : UC) は若年女性に好発し, 患者の妊孕性は健常人と差がない. また, 妊娠によってUC自体が増悪しやすいこともあり, 患者の妊娠時の治療が問題になる. 症例は24歳時にUCを発症した35歳経産婦. 30歳時には治療薬を中断中に妊娠8週で流産しており, 32歳時にはステロイド療法を継続しながら第1子を得ている. 2006年7月, Prednisolone (PSL) 5mg/日とmesalazineの内服中であり, UCの活動性は臨床重症度分類で中等症であったが, 妊娠のため自己判断で内服を中止した. 同年9月妊娠8週0日で排便回数10回以上, 腹痛, 顕血便が増悪し入院となった. PSL20mg/日を使用し, 絶食と中心静脈栄養により腸管安静をはかったが症状は改善せず, 腹部の反跳痛も出現して開腹手術の適応が検討された. 10週2日からPSL50mg/日の静注を行い, 加えて11週1日から顆粒球除去療法 (granulocytapheresis : GCAP) を週2回計10回施行した. GCAP3回施行後から諸徴候は好転し, GCAP5回施行時 (14週1日) には, CRP0.5mg/dLと陰性化し, 解熱して緩解に至った. PSLは漸減し, 16週1日にPSL20mg/日で退院した. 退院時点で胎児の大横径・大腿骨長はいずれも16週相当であった. 治療に難渋したUC合併妊娠症例に対してGCAPを併用したところ, 速やかに緩解し妊娠継続が可能となった. UC合併妊娠では, 通常の薬物療法に加えて, 胎児への影響が問題とならないGCAPを積極的に活用するべきである.
著者
鈴木 一之 井関 邦敏 中井 滋 守田 治 伊丹 儀友 椿原 美治
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.7, pp.551-559, 2010-07-28
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

透析条件・透析量と生命予後の関係を明らかにするため,日本透析医学会の統計調査結果を用いて,後ろ向き・観察的な研究を行った.2002年末の週3回施設血液透析患者を対象に,事故・自殺を除く死亡をエンドポイントとして,患者の透析条件・透析量と2003年末までの1年死亡リスク,および2007年末までの5年死亡リスクについて,ロジスティック回帰分析を行った.2002年末の平均的透析条件は,透析時間239分,血流量(Qb)192 mL/分,ダイアライザ膜面積(膜面積)1.55 m<SUP>2</SUP>,透析液流量(Qd)486 mL/分であった.また,尿素の標準化透析量(Kt/V urea)は平均1.32,指数化しない透析量(Kt urea)は平均40.7 Lであった.予後解析の結果,透析時間は240分以上270未満を基準として,それより透析時間が短い患者群で死亡リスクが高く,透析時間が長い患者群で死亡リスクが低い傾向を認めた.Qbは200 mL/分以上220 mL/分未満を基準として,それよりQbが少ない患者群で死亡リスクが高く,Qbが多い患者群で死亡リスクが低い傾向を認めた.膜面積は1.2 m<SUP>2</SUP>未満の患者群で死亡リスクが高かったが,それ以外の膜面積と死亡リスクの関係は明確ではなかった.透析量はKt/V urea 1.4以上1.6未満またはKt urea 38.8 L以上42.7 L未満を基準として,それより透析量が少ない患者群では死亡リスクが高く,それより透析量が多い患者群で死亡リスクが低かった.以上の傾向は,残腎機能がないと仮定が可能な,調査時点で透析歴5年以上の患者で顕著であった.一般的な週3回血液透析では,平均的な透析条件・透析量よりも,透析時間の延長やQbの増加によって透析量を増大させることが,患者の生命予後の改善につながる可能性が示唆された.
著者
中井 滋 政金 生人 秋葉 隆 井関 邦敏 渡邊 有三 伊丹 儀友 木全 直樹 重松 隆 篠田 俊雄 勝二 達也 庄司 哲雄 鈴木 一之 土田 健司 中元 秀友 濱野 高行 丸林 誠二 守田 治 両角 國男 山縣 邦弘 山下 明泰 若井 建志 和田 篤志 椿原 美治
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-30, 2007-01-28
被引用文献数
19 7

2005年末の統計調査は全国の3,985施設を対象に実施され, 3,940施設 (98.87%) から回答を回収した. 2005年末のわが国の透析人口は257,765人であり, 昨年末に比べて9,599名 (3.87%) の増加であった. 人口百万人あたりの患者数は2,017.6人である. 2004年末から2005年末までの1年間の粗死亡率は9.5%であった. 透析導入症例の平均年齢は66.2歳, 透析人口全体の平均年齢は63.9歳であった. 透析導入症例の原疾患毎のパーセンテージでは, 糖尿病性腎症が42.0%, 慢性糸球体腎炎は27.3%であった.<br>透析患者全体の血清フェリチン濃度の平均 (±S.D.) は191 (±329) ng/mLであった. 血液透析患者の各種降圧薬の使用状況では, カルシウム拮抗薬が50.3%に, アンギオテンシン変換酵素阻害薬が11.5%に, アンギオテンシンII受容体拮抗薬が33.9%に投与されていた. 腹膜透析患者の33.4%が自動腹膜灌流装置を使用していた. また7.3%の患者は日中のみ, 15.0%の患者が夜間のみの治療を行っていた. 腹膜透析患者の37.2%がイコデキストリン液を使用していた. 腹膜透析患者の透析液総使用量の平均は7.43 (±2.52) リットル/日, 除水量の平均は0.81 (±0.60) リットル/日であった. 腹膜平衡試験は67%の患者において実施されており, D/P比の平均は0.65 (±0.13) であった. 腹膜透析患者の年間腹膜炎発症率は19.7%であった. 腹膜透析治療状況に回答のあった126,040人中, 676人 (0.7%) に被嚢性腹膜硬化症の既往があり, 66人 (0.1%) は被嚢性腹膜硬化症を現在治療中であった.<br>2003年の透析人口の平均余命を, 男女の各年齢毎に算定した. その結果, 透析人口の平均余命は, 同性同年齢の一般人口平均余命のおよそ4割から6割であることが示された.
著者
森 英恭 小森 政嗣 藤崎 雅史 中村 晃二 安芸 雅史 桑原 守正 藤崎 伸太 藤崎 大整 米満 伸久
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.711-716, 2009-09-28

症例は57歳,男性.腎硬化症に伴う末期腎不全にて2000年5月に血液透析が導入された.2008年1月,経過観察中のCTにて左腎に造影効果のある嚢胞性腫瘤を認め,後天性嚢胞腎に発生した腎癌の可能性が高いと診断し,同年2月22日,後腹膜鏡下左腎摘除術を施行した.摘出組織の病理診断はAcquired cystic disease-associated eosinophilic renal cell tumorであり,その組織学的特徴は大型の好酸性細胞が充実性に増殖し,シュウ酸カルシウムの沈着を認めるという従来の腎癌の組織分類に当てはまらないものであった.