著者
草野 浩幸 丸山 寿晴 野澤 幸成 高山 英一 浜田 寛昭 須藤 祐司 丸山 高史 里村 厚司 川本 進也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.281-286, 2015 (Released:2015-05-28)
参考文献数
9

血液透析患者258名における遊離カルニチン濃度と各種検査値との関連を調査した. 健常者125名の遊離カルニチン濃度と検査値の関連を調査し, 健常者と血液透析患者の検査値を比較検討した. 血液透析患者190名を4群に分け, カルニチン静注, 栄養指導による効果を各種検査値で比較する前向き研究を実施した. 透析患者の年齢と遊離カルニチン濃度は負の相関を示していた. 遊離カルニチン濃度とプレアルブミン, 筋肉量/身長2は正の相関を示した. 透析患者と異なり, 健常者では遊離カルニチン濃度は年齢と正の相関を示した. カルニチン静注により, 血液透析患者で遊離カルニチン濃度の著明な上昇を認めた. 栄養指導のみでも遊離カルニチン濃度は有意に上昇した. そのほかエリスロポエチン抵抗性指数, 下肢つれなども調査したが, カルニチン補充療法の効果には限界があると考えられ, その使用には症例を選ぶ必要があると考えられた.
著者
浪江 智 浜辺 定徳 川冨 正治 川冨 正弘 小田 英俊 中沢 将之 西野 友哉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.169-177, 2015 (Released:2015-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
3 9

炭酸ランタンを服用中の70例の血液透析患者の腹部単純CTにおける胃のhigh density area (HDA) について検討した. 70例に173回のCT検査を行ったが, そのうち明らかなHDAを認めたものは42例 (60%) に計67回 (39%) であった. HDAを認めた群 (42例) はHDAを認めない群 (28例) と比較して, 炭酸ランタンの服用期間が有意に長かった. また, 服用期間が長いほどHDAの程度が有意に強かった. 胃内視鏡検査を施行した4例の内視鏡所見は胃粘膜の白色肥厚が特徴的にみられ, 組織所見は胃粘膜固有層に沈着物を認め, マクロファージの浸潤と貪食像を認めた. 胃組織中のランタン定量分析では, ランタンの存在が確認された. 炭酸ランタンを服用中止して8か月後に経過をみた2例の腹部CTでは, HDAは残存し, 1例の胃内視鏡所見では胃粘膜の白色肥厚が残存した. 炭酸ランタンが胃粘膜に与える影響について, 注意深い観察が必要であると考えられた.
著者
佐々木 信博 上野 幸司 白石 武 吉村 章 久野 宗寛 武田 真一 斎藤 孝子 安藤 康宏 草野 英二
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.723-730, 2008-10-28
被引用文献数
2 5

近年われわれは,高精度体成分分析装置(InBody S20)を用いた生体電気インピーダンス(BIA法)が血液透析患者の体液量評価に有用であることを報告し,特に浮腫値(細胞外水分量(ECW)/体水分量(TBW))やInBody S20でのDW(BIA-DW)が,臨床的DW(Cl-DW)の一つの指標となることを報告した.今回われわれは,糖尿病,心不全,低アルブミン血症,透析低血圧例,肥満患者,透析期間,尿量維持患者などの各種疾患や病態別に透析後の浮腫値を中心に具体的なDW設定基準について検討を行った.対象は当院で維持透析を施行している57名で,透析前後でInBody S20による各種体液量と血液一般検査,透析後にhANP,BNP,胸部X線による心胸郭比(CTR),心臓超音波検査による下大静脈(IVC)径,左室駆出率(EF)などを測定した.全ての病態で浮腫値は透析後に有意に低下した(p<0.0001).透析後浮腫値は,血清Alb値と負の相関を示し(r=-0.720,p<0.0001),糖尿病群では非糖尿病群にくらべ有意に高値を示した(p<0.0001).そこで,糖尿病と低Alb血症の有無による4群での検討を行った.透析後浮腫値は,I群(DM(-),低Alb(-)):0.384±0.005にくらべ,II群(DM(-),低Alb(+)):0.397±0.013,III群(DM(+),低Alb(-)):0.398±0.011で有意に高値を示し(p<0.001),IV群(DM(+),低Alb(+)):0.404±0.012で最も高値を示した(p<0.0001).InBody S20で求められる理想的なDW(BIA-DW;浮腫値0.380のBW)と実際の臨床的DW(Cl-DW)は,強い正相関(r=0.996,p<0.0001)を示し,I群においてはその値はほぼ一致し,II群,III群においてはBIA-DWよりも0.5~0.8kg程度上乗せした体重が,IV群では1kg程度上乗せした体重がCl-DWとなることが示された.一方,浮腫値は,血圧,心機能,透析期間,尿量とは相関を認めなかった.InBody S20で求められる透析後浮腫値は,原疾患の有無にかかわらず,透析患者のDWの一指標となりうると考えられた.
著者
脇川 健 峰 恵理子
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.723-729, 2014 (Released:2014-12-22)
参考文献数
30

血液透析患者90名のHelicobacter pylori (H.pylori) 感染率を調査し, 除菌成功率の評価を行った. 血清抗H.pylori IgG抗体 (抗HP-IgG抗体) を測定したところ, 透析患者21名 (23.3%) がH.pylori陽性と診断された. 除菌治療に同意された抗体陽性患者17名に, ランソプラゾール (LPZ) 30mg/日, クラリスロマイシン (CAM) 200mg/日, アモキシシリン (AMPC) 500mg/日の3剤を7日間投与し, CAM耐性患者3名には, CAMに変えてメトロニダゾール (MNZ) 250mg/日を用いた. 除菌判定の糞便中H.pylori抗原検査は, 17名中16名 (94.1%) が陰性を示した. 血清抗HP-IgG抗体は, 除菌前24.8±26.4U/mLが6か月後13.9±24.3U/mLと有意に低下した (p<0.05). 今回, 通常除菌の半量以下の服用量でも, 副作用を認めず高率に除菌された.
著者
仲山 實 知念 隆之 山里 将浩
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1163-1169, 2011-12-28

60代の男性.維持血液透析患者で,アレルギー疾患の既往はなく,炭酸ランタン(La)の慎重投与とされる肝機能障害,消化管疾患はなかった.炭酸Laを内服後,高度の低アルブミン(Alb)血症が出現したが,炭酸Laの中止後,急速に改善した.<SUP>99m</SUP>Tc-HSA蛋白漏出シンチグラフィーで回腸からの蛋白漏出が確認され,蛋白漏出性腸症(PLE)と診断された.造影CTスキャンで蛋白漏出部位と一致する回腸に,壁肥厚と内腔の狭小化が認められた.また上部,下部消化管の内視鏡検査と生検,検便などから,寄生虫疾患は除外された.低Alb血症から回復した時の造影CTスキャンでは,回腸の肥厚所見は消失していた.また,回復後の炭酸Laの再投与によって,末梢血好酸球増多が確認された.臨床経過からPLEの発症に炭酸Laの関与が考えられたが,炭酸Laの投与で好酸球増多が起こること,CT画像で好酸球性腸炎に特徴的な小腸壁の肥厚が認められたこと,寄生虫など他の疾患が除外されたことなどから,PLEの原因として好酸球性腸炎が疑われた.塩化ランタンのラットへの投与実験で胃粘膜下に高率に好酸球の浸潤と末梢血の好酸球増多が観察され,また回腸の絨毛上皮にあるTight junction(TJ)の電子顕微鏡観察の染色剤としてランタンは一般的に使用され,TJから透過することが<I>in vitro</I>の実験で認められている.さらに炭酸Laの動物実験でも腸管への蓄積が認められ,薬剤の臨床使用の有害事象に好酸球増多があるなどの知見も炭酸Laによる好酸球性腸炎の発症の可能性を示唆している.自験例も,薬剤の中止で軽快した臨床経過から炭酸Laによる好酸球性腸炎と考えられた.炭酸Laによる蛋白漏出性腸症を伴った好酸球性腸炎の報告はまだないが,使用にあたって念頭におく必要があると考え報告した.
著者
渡邉 廉也 高橋 宏治 多田 和弘 石村 春令
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.755-759, 2014 (Released:2014-12-22)
参考文献数
8
被引用文献数
1

症例は糖尿病歴10年の65歳女性. 2014年2月上旬, 近医にてインフルエンザBと診断され, オセルタミビル, クラリスロマイシンの内服治療を開始した. 2週間後, 徐々に尿量が低下し, 嘔吐, 全身倦怠感が出現したため, 2月中旬, 当院夜間内科外来を受診した. 来院時検査にて著明な高K血症, 腎機能障害を認め, 緊急透析を施行し入院となった. 2回目の透析後より徐々に, 尿量が改善し血液透析を2回施行し離脱した. その後, 全身状態が軽快し退院となった. 急性腎障害の原因はさまざまであるが, 本症例は受診までの経過, 来院後の検査結果からオセルタミビルとクラリスロマイシンを被疑薬とする薬剤性腎障害が最も考えられた. 両薬剤とも日常診療で頻繁に使用される薬剤であり, 投与後の経過には注意が必要である.
著者
福永 昇平 石田 千尋 中岡 明久 伊藤 孝史
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.563-568, 2014 (Released:2014-09-28)
参考文献数
13

本邦では抗MRSA薬はバンコマイシンの他5種類が認可されている. 今回重症MRSA感染症に対してダプトマイシン+リネゾリドの併用によって救命できた1例を経験したので報告する. 症例は47歳男性. 血液透析歴は13年. 近医にてカテーテル感染症を発症し, 当院へ緊急搬送となった. 敗血症性肺塞栓症および全身に感染巣があり, 血液培養でMRSAを認めたため, バンコマイシンによる治療を行ったが改善しなかった. このため, 腸腰筋膿瘍ドレナージおよびダプトマイシンとリネゾリド併用に変更した. その後炎症反応改善しCT上肺炎・膿瘍が改善したため, リネゾリド, ダプトマイシンを中止した. 以後再発は認めず, 透析用人工血管移植術施行後にリハビリ転院した. 現在MRSA感染症に対してはバンコマイシンが第1選択となることが多いが, 組織移行性が悪いという問題がある. 今回, 全身にMRSA感染巣を認めたため, ダプトマイシンとリネゾリドを併用し, 救命することができた. 重症MRSA感染症に対しては抗MRSA薬併用療法も選択肢となりうることが示唆された.
著者
松村 実美子 今井 恵理 多田 真奈美 加藤 麻美 濱野 直人 佐々木 絵美 勝木 俊 勝馬 愛 柴田 真希 日ノ下 文彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.387-393, 2014 (Released:2014-06-28)
参考文献数
29

症例は73歳女性. 69歳のとき腎硬化症による慢性腎不全のため, 腹膜透析を導入した. 73歳のときランソプラゾールの内服を開始し, 3か月後, 3回目の腹膜炎で入院となった. セファゾリンとセフタジジムを経静脈, その後腹腔内投与に切り替え計2週間投与し, 軽快退院した. 入院中に軟便であったが便Clostridium difficile抗原は陰性であった. 退院後から水様~泥状便が持続し, 外来にて便Clostridium difficile抗原陽性となり, 偽膜性腸炎の診断でメトロニダゾールを14日間内服した. その後も下痢は持続し, 食思不振, 炎症反応高値を認めたため, 精査加療目的に当科入院となった. 絶食・中心静脈栄養を開始した. 大腸内視鏡検査を施行し, 肉眼で上行結腸に炎症瘢痕を認めた以外は異常所見を認めなかったが, 直腸, 盲腸, および結腸の粘膜生検で粘膜表層上皮下にリンパ球浸潤を認め, Masson Trichrome染色で特徴的なcollagen bandの形成を認めたため, collagenous colitis (CC) と診断した. CCは慢性水様性下痢の原因として知られ, 本邦での報告数はまだ少ないが, 年々増加傾向にある. 原因は不明だが, 薬剤や自己免疫の関与などが考えられている. 本例では被疑薬であるランソプラゾールを休薬し下痢が消失したことから, その関与が考えられた. 透析患者は消化管出血のリスクが高いためプロトンポンプインヒビター (proton pump inhibitor : PPI) を内服していることが多いが, 文献上, 国内外において腹膜透析患者におけるCCの報告はなく, 慢性下痢の鑑別疾患の一つとして念頭におくことが重要であると考え, 報告した.
著者
河原 純子 兵藤 透 太田 昌邦 平良 隆保 日台 英雄 石井 大輔 吉田 一成 馬場 志郎
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.695-698, 2011-08-28

蛍光眼底造影剤は,眼科領域では網脈絡膜疾患の診断,治療効果の判定に不可欠な検査である.今回,糖尿病性腎症にて血液透析中の44歳女性に対し眼底出血の疑いのため蛍光造影剤(フルオレサイト<SUP>®</SUP>静注500mg,以下一般名フルオレセインと記す)を使用した.造影後に透析を行った際,透析液排液ラインに造影剤の蛍光色が視認できたため,独自に作製したカラースケールを用いて廃液ラインの排液色の変化による造影剤除去動態を1週間経過観察した.結果,カラースケール値では,1日目開始時90,1日目終了時50,3日目開始時20,3日目終了時10,5日目開始時0,5日目終了時0であったが,5日目終了時500mL程度排液を集めると,僅かに色を確認することができた.
著者
中井 滋 政金 生人 秋葉 隆 井関 邦敏 渡邊 有三 伊丹 儀友 木全 直樹 重松 隆 篠田 俊雄 勝二 達也 庄司 哲雄 鈴木 一之 土田 健司 中元 秀友 濱野 高行 丸林 誠二 守田 治 両角 國男 山縣 邦弘 山下 明泰 若井 建志 和田 篤志 椿原 美治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-30, 2007-01-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
12
被引用文献数
7 7

2005年末の統計調査は全国の3,985施設を対象に実施され, 3,940施設 (98.87%) から回答を回収した. 2005年末のわが国の透析人口は257,765人であり, 昨年末に比べて9,599名 (3.87%) の増加であった. 人口百万人あたりの患者数は2,017.6人である. 2004年末から2005年末までの1年間の粗死亡率は9.5%であった. 透析導入症例の平均年齢は66.2歳, 透析人口全体の平均年齢は63.9歳であった. 透析導入症例の原疾患毎のパーセンテージでは, 糖尿病性腎症が42.0%, 慢性糸球体腎炎は27.3%であった.透析患者全体の血清フェリチン濃度の平均 (±S.D.) は191 (±329) ng/mLであった. 血液透析患者の各種降圧薬の使用状況では, カルシウム拮抗薬が50.3%に, アンギオテンシン変換酵素阻害薬が11.5%に, アンギオテンシンII受容体拮抗薬が33.9%に投与されていた. 腹膜透析患者の33.4%が自動腹膜灌流装置を使用していた. また7.3%の患者は日中のみ, 15.0%の患者が夜間のみの治療を行っていた. 腹膜透析患者の37.2%がイコデキストリン液を使用していた. 腹膜透析患者の透析液総使用量の平均は7.43 (±2.52) リットル/日, 除水量の平均は0.81 (±0.60) リットル/日であった. 腹膜平衡試験は67%の患者において実施されており, D/P比の平均は0.65 (±0.13) であった. 腹膜透析患者の年間腹膜炎発症率は19.7%であった. 腹膜透析治療状況に回答のあった126,040人中, 676人 (0.7%) に被嚢性腹膜硬化症の既往があり, 66人 (0.1%) は被嚢性腹膜硬化症を現在治療中であった.2003年の透析人口の平均余命を, 男女の各年齢毎に算定した. その結果, 透析人口の平均余命は, 同性同年齢の一般人口平均余命のおよそ4割から6割であることが示された.