著者
向井 千夏 奥野 誠
出版者
日本哺乳動物卵子学会
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.176-182, 2010 (Released:2011-07-26)

体内受精を行う哺乳類では、精子鞭毛は射精にともない運動を活性化し、雌生殖器官内での受精能獲得時には超活性化と呼ばれる運動を示す。精子は卵に出会うまで、鞭毛運動を維持するためにATPが必須であるとともに、活性化や超活性化の運動変化を引き起こす細胞内シグナル伝達においても、cAMPの生成やタンパク質リン酸化にATPが必要となる。ATPの供給経路としては解糖系と呼吸系の2つがあげられるが、従来、精子の形態やその生産効率からミトコンドリアによる呼吸系が主であると考えられてきた。しかし、近年の研究成果により、鞭毛主部における解糖系によるATP供給が主要な働きをしていることが明らかとなってきた。本稿では、マウスでの知見を中心に、精子の鞭毛運動とシグナル伝達に関わるATP供給について解説する。
著者
柳田 薫 片寄 治男 鈴木 和夫 近内 勝之 菅沼 亮太 佐藤 章
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.93-98, 2001 (Released:2002-05-31)
参考文献数
16
被引用文献数
6

卵細胞質内精子注入法(ICSI)の際の卵細胞膜穿破様式と卵の生存率,受精,分割率,ICSI前の卵の形態学的評価との関連性を検討した.ニードル先端の鋭利性による影響を除外するために,先端が平坦なニードルを使用できるピエゾマイクロマニピュレーターを用いてICSIを行った.ニードルによって卵細胞膜が穿破される様式を細胞膜の伸展性から4タイプに分類した.ICSIを行う成熟卵の約8%は卵細胞膜の伸展性が不良(type A)で,それらの50%はcytolysisを起こした.しかし,生存卵に対しての受精率,受精卵に対しての分割胚率に有意差がなかった.卵内に空胞が認められる不良卵と穿破様式との間にも関連性が認められなかった.
著者
宮 香織 渡邉 英明 有地 あかね 菅 かほり 石川 聖華 門前 志歩 河村 真紀子 許山 浩司 依光 毅 矢内原 敦 河村 寿宏
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.135-141, 2007 (Released:2007-12-06)
参考文献数
63

体外受精胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization embryo transfer)に代表されるART(assisted reproductive technology)の歴史は1978年から始まり約30年の間に目覚しく進歩してきた.現在では体外受精で誕生した子が親になる世代である.ARTの遺伝的安全性の検証は極めて重要であり,ART実施者は出生児のフォローアップも行うことが義務とも言える.しかし,本邦においては,体外受精によって妊娠・誕生した児についてのその後の詳細な追跡調査は多くはない.この総説では体外受精(conventional IVF)と顕微授精(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)によって妊娠・誕生した児についての先天異常について自験例を紹介するとともに,文献的に考察を行いたい.先天異常の発生頻度は,自然妊娠とARTによる妊娠の間で統計学的有意差はないとする論文もあるが,先天異常の増加を指摘する論文があるのも事実であるため,治療を開始する際にはそのような情報を正しく患者に説明することが大切であろう.また,最近では生殖医療分野に遺伝学的要素も加わり複雑化しているが,治療を行う側はこれらの知識も必要不可欠である.
著者
葉梨 輝 金野 俊洋 櫻井 敏博 今川 和彦
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.214-220, 2009-10-01
参考文献数
28
被引用文献数
1

レトロウイルスは新しい遺伝子を取り込み,その機能を獲得,発揮することが出来る.実際,レトロウイルスの一種であるラウス肉腫ウイルスは宿主に感染することによって,宿主の持つがん遺伝子srcを取り込み,それを自らのゲノムの一部にしたことは良く知られている.このようにレトロウイルス側が宿主細胞側の遺伝子を取り込み利用することが可能であれば,それとは逆に,細胞生物側がレトロウイルス由来の遺伝子を取り込んで利用することがあっても不思議ではない.脊椎動物のゲノム上にはレトロウイルス由来と思われる配列が数多く存在しており,内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus, ERV)と呼ばれている.そして,それら遺伝子の発現は,哺乳類において特徴ともいえる"胎盤"で高いことが知られている.このようなレトロウイルス由来タンパクの組織特異的な発現とその機能を考えれば,レトロウイルス由来の遺伝子が胎盤の形成機構に関与している可能性は高い.本論文では,哺乳類,特にヒトにおける胎盤形成のメカニズムと内在性レトロウイルスの関係について,胎盤に発現するERV由来タンパクsyncytinを中心に,今後の展望を交え述べていく.<br>
著者
藤田 陽子 島田 昌之
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.96-101, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
29
被引用文献数
1

精子の凍結では,融解後の運動性は動物種や個体間で大きな違いがある.したがって,安定的に良好な凍結精液を作成し受精に用いるため,動物種毎に最適化した精子凍結法を開発しなければいけない.さらに,凍結精液技術は,精液処理,凍結,融解に区分されることから,それぞれの工程を最適化する必要がある.我々は,凍結前処理では,精液中の細菌性内毒素に着目し,ヒトではIsolate法,ブタでは中和剤の添加を行った.また,凍結時には,高張液によって効果的に脱水を行うことにより,凍結保護剤であるグリセロール濃度を可能な限り低くすることが可能となることを示した.これらの凍結方法により,融解直後の精子運動性を向上させることができたが,長時間培養後には著しく運動性が低下した.その原因として,融解直後の精子細胞膜からのCa 2+の流入が,一過的なキャパシテーションを誘導していることが明らかとなった.そこで,Ca 2+キレート剤を融解液に添加した結果,Ca2+の流入を防ぐことにより急激な運動性の上昇が抑制され,長時間にわたって運動性が維持された.これらの凍結,融解方法を用いることにより,融解後の精子の精子細胞膜を保護,運動の持続性,精子DNA断片化率の低下に成功した.ブタにおいては.人工授精での受胎率の増加が認められており,ヒトでもその応用が期待される.
著者
李 殷松 鄭 然吉 荒木 真 福井 豊
出版者
日本卵子学会
雑誌
日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.19-23, 1996
被引用文献数
6 3

ウシ血清アルブミンを含む合成卵管培養液(SOFM)に添加したヒトまたはマウス白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor; LIF)が単一または集団培養したウシ桑実胚の体外発育に及ぼす影響およびLIFの最適添加用量について検討した.ウシ未成熟卵子を体外成熟,30時間体外受精後2~4細胞期へ分割した受精卵を体外培養し,受精後124時間目に桑実胚を回収した.桑実胚は0(対照区),500,1,000,2,000,4,000または6,000 U/mlのヒトまたはマウスLIFを添加したSOFMを用い,単一(1個/30 <i>&mu;</i>l microdrop)または集団(4~5個/30 <i>&mu;</i>l microdrop)培養した.その結果,集団培養は単一培養に比べ孵化胚盤胞への発生率が有意に(p<0.01)増加した.ヒトおよびマウスLIFは単一培養した桑実胚の孵化胚盤胞への発生率を有意に増加させたが(p<0.05),集団培養では有意な発育効果がみられなかった.マウスLIFでは1,000 U/mlが最も高い拡張および孵化胚盤胞への発生率を示したが(p<0.05),ヒトLIFでは500~6,000 U/mlの添加用量による発生率には有意差がみられなかった.以上の結果より,受精卵の集団培養は単一培養に比べ胚発育に効果的であり,SOFMに添加したヒトまたはマウスLIFは単一培養したウシ桑実胚の孵化胚盤胞への発育を改善することが示唆された.
著者
小林 秀行 中島 耕一 上村 修一 永尾 光一 石井 延久
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.204-207, 2010 (Released:2010-12-03)
参考文献数
25

精巣組織に含まれる精原幹細胞は,精子の源となる細胞であり,一生の間に自己複製および精子への分化を絶えず行っている.最近,マウスにおける精原幹細胞に関しては, in vitroでの培養が可能となったが,ヒト精原幹細胞に関しては,まだまだ不明な点が多く,謎に包まれている.最近,体細胞に特定の遺伝子を導入することにより多能性幹細胞を誘導することが可能となり,人工多能性幹(iPS)細胞と呼ばれている.また,ヒト精巣組織から培養条件を変えることによって多能性幹細胞が誘導されたとの報告がなされた.このように,ここ5年間で幹細胞に関する研究分野は急速に発展している.これら幹細胞に関する研究は,将来的に男性不妊症の解明や治療に大きく貢献することが期待されている.今回,ヒト精原幹細胞およびヒト精巣組織由来の多能性幹細胞について最新の知見を含めて報告する.
著者
足立 由深 竹下 千恵 若槻 有香 岩田 京子 加藤 由加里 上野 ゆき穂 見尾 保幸
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.64-70, 2005 (Released:2005-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
7

ヒト初期胚発生過程の非侵襲的連続観察を目的に,Time-lapse cinematographyを構築した.倒立顕微鏡ステージ上に純アクリル製ミニチャンバーを置いた.ミニチャンバー周囲の水槽を通してCO2ガスを加温加湿後注入した.培養用マイクロドロップ(3 μl)を作製し,ミニチャンバー内に静置した.マイクロドロップが至適培養条件(37℃,pH: 7.45±0.02)に維持できるよう設定温度,CO2ガス流量を調節した.ICSIの適応で,本研究に同意の得られた症例(n=65)のICSI後卵子1個を無作為に選択し,非侵襲的一定条件下に40時間連続観察した.ICSI卵子(n=65)中84.6%(n=55)が正常受精し,分割卵に発育した.形態良好胚(G1, 2)率は76.4%(n=43)であった.形態良好胚群と不良胚群に分け,胚発生の時間経過,核小体前駆体配列および卵細胞質辺縁透明領域(halo)出現の有無を比較した.胚のクオリティと胚発生過程の時間経過,NPB配列には一定の傾向はなく,halo出現が初期胚のクオリティとの関連性を認めた.
著者
吉田 淳 田中 美穂 向田 哲規
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.246-253, 2008 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6

Conventional IVFでは,精子はnatural selectionを経て卵子の中に入るが,ICSIではエンブリオロジストの目によって精子が選ばれる.受精卵(胚)の質にもっとも大きな影響を与えるのはその基本となる卵と精子の質であるため,ICSIではより良い精子を選別する必要がある.精子のサイズは胚や卵と比べて20分の1しかないにもかかわらず,精子は卵や胚を通常観察する際に用いる400倍の倒立顕微鏡下で観察・評価され,ICSIに使用されている.最近,ICSIに用いる倒立顕微鏡の倍率を上げ,解像度を高めることで,細かく精子の形態(特に精子頭部における空胞の有無)を観察しながら精子を選別し,それを顕微授精に用いるIMSI(Intracytoplasmic Morphologically selected Sperm Injection)の技術が注目されるようになってきた.IMSIは精子選別の際倍率が高く視野が狭くなるため,細かい顕微鏡操作が必要になるなど,技術的に難しいところがある.しかし,臨床的な有用性に関しては認められつつある.今回の総説では,IMSIの海外における状況と木場公園クリニックでのIMSIの実際について述べる.
著者
鈴木 達也 柴原 浩章 鈴木 光明
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.166-175, 2010 (Released:2010-12-03)
参考文献数
67
被引用文献数
3

哺乳動物において射出精子は,透明帯との結合,先体反応および卵子との受精のために雌性生殖路内で複雑な生理学的,機能的変化をとげねばならない.この精子が受精可能となる変化を受精能獲得(capacitation)と呼ぶ.capacitationを完了した精子は,透明帯を貫通するための特殊な鞭毛運動である超活性化(hyperactivation)と呼ばれる変化を示す.またcapacitationの過程で,精子表面や精子細胞膜の変化,Ca 2+やHCO3–イオンの変化,アデニル酸シクラーゼ/cAMP/PKA経路そして精子タンパク質リン酸化の変化を起こす.将来的に,詳細なcapacitationのメカニズムの解明により男性不妊症における精子機能検査法や男性不妊治療法を開発できるかもしれない.
著者
河野 菜摘子 吉田 恵一 原田 裕一郎 大浪 尚子 竹澤 侑希 宮戸 健二
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.191-197, 2010 (Released:2010-12-03)
参考文献数
22

受精は,新しい生命の誕生には必要不可欠で,多段階の過程を経て細胞融合にいたる現象である(図1).その多段階の過程のうちの1つでも異常が認められると,受精の進行が妨げられ,次世代の個体ができなくなる“不妊”という生命のサイクルにとって致命的状況を招いてしまう.不妊は動物,植物を含めたすべての生物種の集団としての存続を脅かす難治性疾患とも考えられ,環境および内在性因子の影響から,診断法,治療法など,数々の未解明な問題を含んでいる.Izumoは精子側因子として1),CD9は卵側因子として膜融合に必須であり2–4),精子および卵子の細胞膜に存在すると考えられてきた(図2).しかし最近の研究から,CD9は卵子から放出されるナノサイズの膜構造体の主要な構成成分であることが明らかになった5).本稿では,CD9を介した配偶子融合の分子メカニズムについて紹介したい.
著者
家田 祥子 桑山 正成
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.220-224, 2004 (Released:2004-12-25)
参考文献数
6

ヒトIVF周期において,高妊娠率を維持し,かつ多胎を防止する有効な治療法として,胚盤胞移植が普及しつつある.当院においても,IVF周期の約70%に適応され,成果を挙げている.物理現象および衛生管理の徹底した培養室内において,マルチガスインキュベーターにより市販のヒト胚連続培養用培地を用いることにより,安定して胚盤胞へ発生させることが可能となった.
著者
河村 悠美子 栗原 裕基
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.161-169, 2012 (Released:2012-11-03)
参考文献数
50

初期胚発生は正常な代謝調節のもとに成立している.着床前胚では受精から胚盤胞に至る短期間にダイナミックに代謝経路が変化するが,その攪乱は胚発生の異常のみならず,生後の生理状態や病態形成にも影響を及ぼすことが指摘されている.ミトコンドリアは酸化的リン酸化反応による主要なエネルギー産生源として機能しているが,一方で活性酸素種を副産物として産出するため,酸化ストレスの産生源ともなりうることから,その機能調節は初期胚発生にとって非常に重要である.近年,ミトコンドリアに局在するタンパク質の多くがアセチル化修飾による制御を受けていることが明らかになってきた.本稿では,ミトコンドリアタンパク質の脱アセチル化酵素であるSirt3の機能に注目し,初期胚発生期における脱アセチル化酵素を介したミトコンドリア機能調節に関して紹介する.
著者
小柳 深 柳田 信也
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.31-35, 2004-04-01
参考文献数
24
被引用文献数
3

ポリビニルアルコール(PVA)がマウス初期胚の発生に及ぼす影響を検討した。その結果、0.1mg/mlおよび1.0mg/ml PVA添加培地において牛血清アルブミン(BSA)添加培地と同様マウス初期胚は高率に拡張胚盤胞に発生した。しかし、10.0mg/ml PVA添加培地では、胚盤胞への発生はみられなかった。したがって、PVAは適当な濃度であれば、1細胞期胚の拡張胚盤胞までの発生を支持することが明らかとなり、PVA添加培地は限定培地としてマウス胚の培養に用いることが可能であると考えられる。さらに、本研究ではPVA添加培地を用いて1細胞期、2細胞期、8細胞期および初期胚盤胞のどのステージから培養を開始しても拡張胚盤胞への発生率および拡張胚盤胞期までの各ステージへの発生速度は、BSA培地のものと同じであった。これらのことはPVA培地で各胚は正常な発生過程を経て拡張胚盤胞にまで発生することを示し、PVAは拡張胚盤胞期までの各過程にそれぞれ有効に作用するものと推察される。しかしながら、1細胞期から初期胚盤胞のどのステージから培養を開始しても、脱出中および脱出胚盤胞に発生する割合はBSA添加培地にに比べて減少した。In viroにおける胚盤胞の透明帯脱出には蛋白質分解酵素が関与していると考えられているので、胚盤胞の低い透明帯脱出率は蛋白質分解酵素の生成・分泌能の低下に起因している可能性が考えられる。
著者
鈴木 達也 柴原 浩章 鈴木 光明
出版者
日本卵子学会
雑誌
日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.166-175, 2010
被引用文献数
3

哺乳動物において射出精子は,透明帯との結合,先体反応および卵子との受精のために雌性生殖路内で複雑な生理学的,機能的変化をとげねばならない.この精子が受精可能となる変化を受精能獲得(capacitation)と呼ぶ.capacitationを完了した精子は,透明帯を貫通するための特殊な鞭毛運動である超活性化(hyperactivation)と呼ばれる変化を示す.またcapacitationの過程で,精子表面や精子細胞膜の変化,Ca <sup>2+</sup>やHCO<sub>3</sub><sup>&ndash;</sup>イオンの変化,アデニル酸シクラーゼ/cAMP/PKA経路そして精子タンパク質リン酸化の変化を起こす.将来的に,詳細なcapacitationのメカニズムの解明により男性不妊症における精子機能検査法や男性不妊治療法を開発できるかもしれない.<br>
著者
金児 石野 知子 石野 史敏
出版者
日本哺乳動物卵子学会
雑誌
Journal of mammalian ova research = 日本哺乳動物卵子学会誌 (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.16-23, 2013-04-01

PEG10,PEG11/RTL1は胎盤形成に必須の機能を果たす遺伝子である。どちらもLTRレトロトランスポゾンに由来しており,PEG10は胎生の哺乳類(有袋類と真獣類),PEG11/RTL1は真獣類にのみ保存されている。すなわちこれらの遺伝子はレ卜ロトランスポゾンが祖先のゲノムに挿入後,内在遺伝子化し,自然選択を受けたものであることが分かる。遺伝子機能を考えあわせると,これらの遺伝子獲得が胎盤形成を通じて,胎生という生殖様式をとる獣類,真獣類というそれぞれ哺乳類の亜綱,下綱の形成に重要な寄与をはたしたことも確かであろう。LTRレ卜ロトランスポゾンが内在遺伝子化するイグザプテーション機構は,「ほぼ中立説」に従うプロセスと自然選択による「ダーウィン進化」の2段階のステップから構成されると考えられる。また,イグザプテーションの起きる場所として,DNAメチル化レベルが比較的低い胎盤は好条件下にある。「胎盤は哺乳類進化の実験場として機能した」という仮説を提唱したい。
著者
中野 由起子
出版者
日本卵子学会
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.99-104, 1996 (Released:2007-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2

ICSIによるヒト着床前期胚の性染色体モザイシズムをFISH法で分析し,非侵襲的着床前性別診断法の信頼性を検討した.2PNを確認した2から8細胞期のICSIによる着床前期胚を分離した割球を検体とし,DXZ1,DYZ1を用いdual color FISHで分析した.正常男性および女性の末梢リンパ球間期核で検討した.シグナル検出感度は,XY92.0%(460/500),XX89.4%(447/500)で,単一割球の固定率は88.7%(86/97)であった.同一胚内の割球の分析結果がすべて一致した胚は20/25個(80%)で残りの5個(20%)の胚に性染色体モザイクを認めた.2個の割球の結果が正常で一致しても,残りの胚がモザイクである可能性は12%(3/25個)であった.したがって1個の割球を生検して胚全体の性別を診断するよりも2個の割球を分析すれば88%の信頼性でモザイシズムも否定でき,より正確な判定が可能であることが示唆された.
著者
Haruhiko Sago
出版者
日本卵子学会
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.18-21, 2004 (Released:2004-05-20)
参考文献数
12
被引用文献数
6

The incidence of major chromosome abnormalities in newborns is about 0.7 percent and increases with maternal age. Amniocentesis is the most common invasive prenatal procedure for the detection of fetal chromosomal abnormalities. Amniocentesis is a relatively safe procedure and fetal loss related to amniocentesis is about 0.5%. An advanced maternal age is the most common reason for using amniocentesis. The use of amniocentesis because of abnormal fetal ultrasound findings has increased recently. Fluorescence in situ hybridization (FISH) is currently a powerful tool in the area of prenatal cytogenetics. The number of amniocentesis procedures in Japan is about ten thousand per year and it is generally recognized to be a great benefit for pregnant women who have a risk of fetal chromosomal abnormalities.