著者
中村 亮平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.5-7, 2017-03-31 (Released:2017-06-08)
参考文献数
1

旭川市旭山動物園で行っている研究・教育・保全活動について紹介する。獣医療分野からはシンリンオオカミの皮膚移植と頻回麻酔によって断脚を防ぎ,個体のQOL向上につながった症例,繁殖生理分野からはホッキョクグマのカテーテル法による採精の取り組み,また,飼育担当者が行ったチンパンジーの行動観察およびクマタカの介添え給餌についての報告を紹介する。動物園における教育および保全活動についても事例を紹介する。動物園という現場で獣医師および飼育係がどのような活動を行っているかを伝えたい。
著者
石川 創 重宗 弘久
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.21-28, 2008-03

(財)日本鯨類研究所は,国際捕鯨取締条約第8条に基づき日本政府が発給した特別許可による鯨類捕獲調査を,南極海(JARPA)および北西太平洋(JARPN)で行っている.鯨類捕獲調査では,致死的調査における動物福祉を向上させるため,詳細なデータ収集と解析に基づく鯨の致死時間(TTD)短縮および即死率(IDR)向上の努力が払われている。漁具改良による致死時間短縮を目指し,2000年から2004年にかけて鯨の捕獲に用いる爆発銛に搭載する銛先(グレネード)の改良実験を行った。ノルウェーが1999年に開発した新型グレネードおよび,日本の旧型グレネードの信管を改良した改良型グレネードを,旧型グレネードとともに比較実験した。ノルウェーグレネードおよび改良型グレネードは旧型と比較してTTDおよびIDRを有意に改善した。人工標的射撃実験及び洋上での検死結果から,その理由は両者ともに銛命中から爆発までの距離が短縮されたこと,および不発率が減少したことにより,グレネードの鯨体内での爆発率が大幅に向上したためと考えられた。ノルウェーグレネードと国産改良型グレネードを比較した場合,前者は小型個体の即死率が高い一方,後者は致死時間が短く不発率が低いなど,両者は捕殺手段として優劣つけがたかったが,コストと安定供給の側面からは将来の捕鯨漁具として国産改良型グレネードが推奨された。
著者
坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.27-33, 2015-06-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
7

1995年に設立した日本野生動物医学会は20周年を迎え,毎年の大会開催や学会誌およびニュースレターの発行に加え,認定専門医協会の設立,スチューデントセミナーコースの開催,感染症専門家の現地派遣,アジア野生動物医学会のサポート,各種ガイドラインの制定など,活発な活動を続けている。この20年間に野生動物に関連する出来事は数多くみられ,例えば環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の影響,ワシ類の鉛中毒の発生,ツキノワグマの人里への大量出没,トキやコウノトリの野生復帰,高病原性鳥インフルエンザの発生などは社会の関心も高かった。これらの問題に対応する学問として保全医学が台頭し,今やOne Healthと同じコンセプトとして重要な学際的分野として注目を集めている。今後もこの分野の重要性はますます高まるものと予想され,日本野生動物医学会の発展とともに他関連組織との連携を深めながら生物多様性の保全に貢献していくことが社会から求められている。
著者
小倉 剛 野中 由美 川島 由次 坂下 光洋 仲地 学 織田 銑一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.7-14, 2001 (Released:2018-05-04)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

沖縄島に移入された雌のジャワマングースについて,雌の繁殖状態と体サイズの関係を検討し,性成熟に達する際の体サイズを確認した。また,妊娠個体と乳汁分泌個体の捕獲結果および生殖器系臓器の大きさの周年推移から,繁殖周期を推定した。その結果,頭胴長が240mm以下の雌の多くは性的に未成熟で,成長が早い個体では,頭胴長が255mmの頃に春機発動が始まり,性成熟には頭胴長が265mmの頃に達するものと推察された。体重を指標にした場合,体重が約230g以下の雌は性的に未成熟で,最も小型の個体では,体重が230g〜240gの頃に春機発動に入り,体重が265gになる頃には性成熟に到達すると考えられた。また,沖縄島の雌の多くは,2月から交尾期に入り,4月から9月までを主な出産期とし,授乳期は11月頃まで続くものと考えられた。妊娠雌の捕獲の推移は一峰性で,ほとんどの雌は年一産と考えられた。また,非繁殖期と考えられる12月から1月にも,少数個体によって繁殖活動が行われている可能性が示唆された。妊娠個体が捕獲された期間をもとに算出した妊娠率は32.3%であった。1腹産子数は2頭まれに3頭と推定された。胎盤痕の数より,同時に4頭あるいは5頭の着床が可能と考えられたが,胎盤痕の痕跡の程度と胎子数が3頭以下であったことより,4頭以上が着床しても全てが出産に至らない確率が高いことが示唆された。
著者
岸本 真弓
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-37, 2002-03
被引用文献数
6

生態系を構成する野生動物に対しての畏敬の念を持つことがフィールドでの野生動物捕獲の心構えの基本である。野生動物の捕獲はそれによってもたらされるマイナス影響につりあうだけの結果が得られる場合にのみ認められるものであり,明確な目的のないまま行われてはならない。先人達の経験を生かし,対象動物の生理・生態のみならず地域生態系の特性をも踏まえ,研究計画を立てなくてはならない。方法を選択する場合には,個体の安全,作業員の安全,周辺環境への最低限の影響を念頭におき,目的を達成するために最小の危険性で最大の効果が得られるよう手段と時期と場所を選ぶことが重要である。捕獲作業における責任の所在と役割分担を明確にし,作業工程のシミュレーションをし,最低限必要な道具や薬品,人手の準備だけでなく予測されるトラブルに対応できる準備をして捕獲に臨むべきである。
著者
森光 由樹
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.61-66, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
21

日本野生動物医学会で扱う対象種は,脊椎動物全般と多岐にわたり,それぞれの種で生命倫理の考えは異なっており,すべての種で統一した倫理規定を策定することは難しい状況にある。日本野生動物医学会では,「野生動物医学研究における動物福祉に関する指針」を2010年度施行している。しかし,近年の国際動向と合わない内容も含まれており,野外研究におけるガイドラインの改訂は急務である。
著者
赤木 智香子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.49-55, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
20

動物の福祉とはその個体の身体的・精神的健全性を指す用語であり,「5つの自由」や「5つの領域モデル」がその世界的な基本として知られている。欧米各国の動物福祉基準のベースである動物福祉法は,英国では全脊椎動物が対象であるのに対して,米国では基本的に哺乳類のみである。救護動物の福祉に関しては,救護施設の最低要件全般をまとめたもの,あるいは動物群別に各種要件を記載したものなどNGOによる詳細な基準が欧米には存在している。一方,優れた救護施設の基準が国の基準として採用されているケースもある。個別に発展してきた動物の福祉と倫理ではあるが,現在では両者は複雑に絡み合い切り離すことはできないとの認識であり,動物倫理からさらに大きな枠組みの環境倫理へと視点が移りつつある。このような欧米の状況と比較して,日本の救護動物の福祉は後れを取っている。法律や福祉基準が十分に整備されておらず,収容動物のQOL改善もままならないケースも少なくない。今後はフリーレンジの野生動物としての尊厳を担保しつつ,良い動物福祉の達成を生物多様性保全へとつなげていけるよう,安易な終生飼育の回避などの救護動物の最終処遇も含め,広い視野に立った救護動物の福祉への取り組みが求められる。
著者
淺野 玄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.67-70, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

野生動物における動物福祉に関する法律や規則の整備は,家畜や実験動物に比べて遅れているといっても過言ではないだろう。日本野生動物医学会では,野生動物の福祉や倫理の現状と課題についての議論を重ね,「野生動物医学研究における動物福祉に関する指針」(2010)を策定している。しかし,野生動物福祉に関する近年の国際動向の変化などから,現在の指針の改定が求められていた。本学会が対象種とする野生動物は,魚類から哺乳類まで多種に及ぶだけでなく,研究・飼育動物実験・飼育展示・傷病鳥獣・教育・愛玩飼育などの取り扱いの状況も多様である。そのため,対象とする野生動物の種や取り扱いの状況によらない基本的な指針を策定した後,分類群や取り扱い状況に応じた個別のプロトコルを順次策定する予定である。改定にあたっては,国内外の関係学術団体や教育・研究機関との連携も必要だろう。
著者
齊藤 慶輔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.57-60, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
8

猛禽類医学研究所が活動拠点としている環境省釧路湿原野生生物保護センターには,絶滅の危機に瀕した猛禽類が様々な原因により傷病収容されており,一命を取り留めたものの後遺症により野生復帰が困難になったものも多い。国内希少野生動植物種については,重要感染症に罹患しているなどの特別な理由がない限り,安楽殺という選択肢が無いに等しい。動物園などに譲渡を打診しているものの,外見上明らかに後遺症がわかる動物についてはほとんど引き取り手がないのが実情だ。動物福祉の観点から,終生飼育となった個体が可能な限り快適な余生を過ごせるよう努力しているが,これらの動物の飼育管理に割り当てられる専用の予算は環境省から支給されていない。2017年4月,同研究所は終生飼育個体を環境省の事業対象から切り離す手続きを経て,個体の活用許可と引き替えに,飼育管理や餌に要する費用一切を独自に調達することを引き受けた。現在,これらの個体を用いて,事故防止器具の開発や輸血のドナーとして活用している。平成30年に種の保存法が改定された際,同法の施行規則で傷病個体の殺傷(殺処分)が適用除外行為として位置づけられた。致死的研究や殺処分が種の保存法において明文化されたものの,安易な希少種の殺傷が行われることの抑止として,根拠に基づく適切な判断が運用段階で行われるためのガイドラインの策定が早急に求められている。
著者
石原 涼子 畠間 真一 内田 郁夫 的場 洋平 浅川 満彦 菅野 徹
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.107-109, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

北海道に生息するアライグマにおけるコロナウイルス感染状況を血清学的解析により調査した。血清379検体中,1型の伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)および犬コロナウイルス(CCoV)に対してそれぞれ11および5検体が中和抗体陽性を示した。2型の牛コロナウイルス(BCoV)に対しては全て陰性を示した。これらからアライグマには1型コロナウイルスに感染している個体が存在すると考えられた。
著者
濱﨑 愛子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.7-10, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
12

ツキノワグマにおいて,年輪構造の観察による年齢査定に選択すべき歯を検討する目的で,飼育下にある0歳のツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)9頭を対象に,永久歯の萌出時期を観察した。その結果,歯の種類によって生え換わりの時期が異なることが明らかになった。最も早く萌出した永久歯は下顎第一前臼歯であった。最も遅く2月に萌出した犬歯を最後に,飼育下のツキノワグマでは生後約1年間ですべての永久歯が萌出することが確認された。これにより,生体からの年齢査定を目的とした抜歯には,最初の年輪(暗層)に先立って形成される明層が広く判読が容易な下顎第一前臼歯を第一選択肢とすべきであることが示唆された。
著者
三根 恵 松本 淳 加藤 卓也 羽山 伸一 野上 貞雄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.101-104, 2010-09-01
参考文献数
17

2006年~2007年に,神奈川県逗子市および葉山町で捕獲されたアライグマ<I>Procyon lotor</I>から直腸便と消化管内容を採取し,消化管内寄生蠕虫相を調査した。検出された寄生蠕虫種は合計8種で,その内訳は,不明線虫が2種,棘口吸虫科の吸虫類が2種,鉤頭虫類が<I>Southwellina hispida</I>,<I>Porrorchis oti</I>,<I>Sphaerirostris lanceoides</I>,不明鉤頭虫の4種であった。調査地域のアライグマの寄生虫相は比較的単純であり,アライグマの原産地(北アメリカ)で認められる寄生虫種は確認されなかった。
著者
豊嶋 省二
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-2, 2012-03-30 (Released:2018-07-26)

動物園獣医師の仕事といって真っ先にあげられるのは,動物園で飼育展示する動物がケガや病気になった際の治療行為=臨床業務である。飼育されてはいるが,動物園動物は外敵から身を守る本能を身につけた野生動物である。外的から襲われるおそれのない動物園動物だが,異常を隠す傾向が強く,病気であることを早期に発見することは難しい。それゆえに動物園動物の健康を守るためには,動物が病気になることを予防すること,動物が異常な状態になったこと(病気,ケガ)を早期に発見して治療することが大切となる。動物を病気から予防するためにワクチネーションや抗菌剤の予防的接種,飼育場所の衛生管理,動物の栄養管理なども行っている。動物園では,動物の移動に伴う外部からの病原体の侵入を防止するための取組みとして,外部から導入する全ての動物で自主的に検疫を行い,健康であると確認された動物が,飼育展示施設に移動し展示に供される。園内で死亡した飼育展示動物は全て病理解剖を実施し,死因を究明している。
著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.105-112, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
44

動物園が飼育展示動物を適切に健康管理する上で,動物衛生・公衆衛生対策は重要課題である。その対象は,飼育動物のみならず,家畜,野生動物およびヒトに共通に感染する病原体に及ぶ。動物園では,自然界との完全な境界はなく,感染症の園外からの侵入防止対策や予防医学プロトコールを含むバイオセキュリティ対策が日々実践されている。例えば,北米の動物園の多くでウエストナイルウイルスの侵入以来,カのサーベイランスや防除は一般的な対策となっている。一方,飼育動物の感染症を自然界へ拡散させない注意も必要である。また,動物園の敷地(zoo ground)内で野生動物が保護されたり,死体が見つかったりすることがあるが,それらの検索はその地域の野生動物感染症のモニタリングとリスクマネジメントにつながり,ひいては基本的な予防医学プロトコールの一部となる。実際に,2008-2009年冬に旭川周辺で発生したスズメ(Passer montanus)の集団死事例では,初発例が一動物園の敷地内で死亡した野生スズメ1羽で,その検索から始まったサーベイランスにより,死因がサルモネラ症の流行によるものと究明されている。動物園は,今後,バイオセキュリティ対策と野生動物感染症のモニタリング機能のさらなる強化を目指し,ヒト,家畜および野生動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診断および維持する保全医学的機能を備えた野生動物保全センターとしての発展が期待される。
著者
亀崎 直樹
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.87-90, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)

近年,水族館における研究活動が停滞している。そこで,水族館での研究活動の必要性や停滞する原因を分析した。国内では,1960年代に多くの水族館が設立され,集客の目的もあったが,設立者の理念としては,海や海洋生物を博物学的・生物学的に一般に普及したいとする教育的目的があった。また,当時は海洋生物の生態に関する情報も少なく,多くの市民の関心を呼んだ。ところが,ある時代からか水族館がアミューズメントパークとして機能し始める。目的が教育からビジネスに移行したのだ。そしてビジネスを目指す人材がトップにたつと,研究は必要ではなくなり,むしろ邪魔なものになった。海洋生物についての研究は,社会全体で見れば活発ではあるが,その予算の大部分は主として食料となる水産資源となる生物を対象とした研究に費やされる。水産資源として価値のない生物はほとんど無視され,研究スピードは遅々としている。しかし,生物多様性の価値観は近年見直すべきだとする思想は,現代社会の潮流となっている。水産資源ではない海洋生物を,純粋な博物学的な価値観で扱える施設は水族館だけである。水族館は海や川に関する学問を一般に普及するために重要な役割を担っている。また,それを実行するためには研究が必要不可欠である。
著者
遠藤 秀紀 岡の谷 一夫 松林 尚志 木村 順平 佐々木 基樹 福田 勝洋 鈴木 直樹
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.69-73, 2003
参考文献数
8

コーンビーム型CTを用いて,ハダカデバネズミとジャワマメジカの全身を観察し,腹腔壁の構造を検討した。その結果ハダカデバネズミにおいて,薄い腹壁と発達の悪い胸椎および腰椎が三次元画像として確認された。柔軟性のある腹壁は,同種が切歯を用いて掘削を行う際に,土を腹側の空間を利用して体の後方へ送る機能を果たしていることが示唆される。またジャワマメジカでも脆弱な腹壁が観察された。同種の柔軟な腹壁は、消化管で食物の発酵を進めたり,大きい胎子を妊娠したりすることへの適応であると推察された。ジャワマメジカでは肩甲骨の位置が三次元画像上で容易に確認されたが,コーンビーム型CTは同種より大きいサイズの動物において,軟部構造をデジタルデータ上で除去しながら全身骨格を観察するのに適していると考えられる。
著者
佐方 啓介 佐方 あけみ マチャンゲ ジュリアス H. 牧田 登之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.91-99, 1997
参考文献数
14

タンザニア南東部のキロンベロ野生動物管理区で18頭のアフリカスイギュウ(<i>Syncerus caffer caffer</i>)を中心とした草食獣のダニ寄生相を調査した。合計7種32頭の草食獣から7種類のマダニ, <i>Amblyomma eburneum</i>, <i>Amblyomma gemma</i>, <i>Amblyomma tholloni</i>, <i>Hyalomma truncatum</i>, <i>Rhipicephalus compositus</i>, <i>Rhipicephalus evertsi evertsi</i>および<i>Rhipicephalus simus simus</i>を採取した。捕獲したアフリカスイギジュウのうち成体雌1頭に水心嚢, 心筋や心内外膜の点状出血がみられ, 肉眼所見でダニ媒介性のリケッチア感染, 水心症(Heartwater)と診断された。
著者
大沼 学
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 2004 (Released:2018-05-04)
参考文献数
40

絶滅危惧種を飼育下で繁殖させることは,種の保全を行う上で重要な手法となっている。本研究では,現在マレイシア国サラワク州において飼育下にある21頭のマレーゲマ個体群が今後維持可能かどうかを個体群存続可能性分析(population viability analysis : PVA)により評価した。 PVAを行うためにはマレーゲマの繁殖学的情報と遺伝学的情報が不足していた。そのため,はじめにメスの繁殖周期を観察するとともに,ミトコンドリアDNAの塩基配列を指標とした系統の分析とマイクロサテライト座位の多型を指標とした遺伝的多様性評価を実施した。その結果マレーグマは生息地域では雨季に同調して繁殖している可能性が高いこと,この飼育個体群は飼育下繁殖を実施する場合の創設集団として利用できるほどの遺伝的多楡|生を保持していることが明らかとなった。これらの新知見を加えてPVAを実施した結果,メス1頭を5〜10年間隔で補充する必要はあるが,既存の施設や現地の飼育管理技術を利用して現在の個体数を維持しながら80%以上の確率で個体群を維持できるということが明らかとなった。したがって,飼育個体群を維持することは,マレイシア国サラワク州におけるマレーグマの保護策のひとつとして考慮するべきであると考えられた。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.53-57, 1997 (Released:2018-05-05)
参考文献数
8

抗ヒトCRPモノクローナル抗体による免疫多層フィルム法でサルCRP値の測定を試みた。試料として飼育下の霊長目6属12種47個体から採取した血清もしくは血漿67検体を用いた。マカク属, オナガザル属, テナガザル属およびチンパンジー属の健康個体はすべて1.0mg/dlを示した。よって, この境界値を本法によるCRP陽性値とするのが適当と考えた。抗ヒトCRP抗体を用いた本法によるCRP測定は簡便かつ迅速であり、霊長目の動物の臨床診断に利用できる。しかし, 腸炎や肝炎などを呈した疾病個体に1.0mg/dl以下の値のものが認められ, ヒヒ属では健康個体にも関わらずCRP高値を示していた。本法による診断と応用については, 動物種もしくは属別の検討が必要である。