- 著者
-
福井 大祐
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.4, pp.105-112, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
- 参考文献数
- 44
動物園が飼育展示動物を適切に健康管理する上で,動物衛生・公衆衛生対策は重要課題である。その対象は,飼育動物のみならず,家畜,野生動物およびヒトに共通に感染する病原体に及ぶ。動物園では,自然界との完全な境界はなく,感染症の園外からの侵入防止対策や予防医学プロトコールを含むバイオセキュリティ対策が日々実践されている。例えば,北米の動物園の多くでウエストナイルウイルスの侵入以来,カのサーベイランスや防除は一般的な対策となっている。一方,飼育動物の感染症を自然界へ拡散させない注意も必要である。また,動物園の敷地(zoo ground)内で野生動物が保護されたり,死体が見つかったりすることがあるが,それらの検索はその地域の野生動物感染症のモニタリングとリスクマネジメントにつながり,ひいては基本的な予防医学プロトコールの一部となる。実際に,2008-2009年冬に旭川周辺で発生したスズメ(Passer montanus)の集団死事例では,初発例が一動物園の敷地内で死亡した野生スズメ1羽で,その検索から始まったサーベイランスにより,死因がサルモネラ症の流行によるものと究明されている。動物園は,今後,バイオセキュリティ対策と野生動物感染症のモニタリング機能のさらなる強化を目指し,ヒト,家畜および野生動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診断および維持する保全医学的機能を備えた野生動物保全センターとしての発展が期待される。