著者
牧田 登之 Henry WIJAYANTO
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.31-35, 1998 (Released:2018-05-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ジャワのジョクジャカルタのスローロリスは, 手の第2指が短小化し, 足の第2指のみがかぎ爪になって, 把握には第2指が余り機能していないようであった。
著者
大野 晃治 福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-16, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
18

ゴマフアザラシ(Phoca largha),24歳齢,雌が慢性の吐出,嘔吐,食欲不振を示した。ミダゾラムとブトルファノールによる鎮静下で造影CT検査を行ったところ,食道と肝臓およびその周囲に多発する腫瘤が認められ,剖検と病理組織検査により,肝臓と膵臓への転移を伴う食道原発の扁平上皮癌(SCC)と診断した。鰭脚類の造影CT検査の報告は少なく,本症例は食道SCCの生前診断につなげるための貴重な報告である。
著者
岡野 司 大沼 学
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.145-151, 2012 (Released:2013-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

長崎県対馬において野生の雄チョウセンイタチ19頭を1997年8月から2011年4月にかけて収集し供試した。精巣と陰茎骨を計測し,精巣組織を採取し組織学的に観察した。亜成獣において,精巣サイズと精細管直径は11月から急激に増大する傾向があり,2月ごろに最大となった。成獣において,精巣サイズと精細管直径は2月から6月に増大する傾向があり,9月から1月頃に縮小する傾向にあった。若い個体において4月以降から精巣上体に精子が認められたため,生まれた翌年の4月頃に性成熟に達していると考えられた。成獣の陰茎骨は発達したかぎ状の先端とこぶ状の基部を呈していた。
著者
若松 小百合 中村 美里 松代 真琳 角川 雅俊 嶋本 良則 遠藤 大二 郡山 尚紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.71-80, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
16

海棲哺乳類の排泄物は海洋環境において重要な栄養源となっているが,飼育下の海棲哺乳類はその水質によって健康を損なう可能性がある。本研究ではその水質に着目し,細菌の群集解析を行うことで,それぞれの動物種の飼育水の細菌学的特徴を明らかにすると共に感染症を引き起こす原因菌のスクリーニングを行うことを目的とした。おたる水族館で飼育されている鰭脚類と鯨類を含む計10の飼育水と元の海水について次世代シークエンサにて細菌の塩基配列を調べ,細菌の群集解析を行った。その結果,飼育水の特徴としては,Proteobacteria,Bacteroidetes,Firmicutesが元海水と共通して見られたが,FusobacteriaおよびOD1・GNO2といった培養不能細菌門は飼育水に特徴的であった。各動物の飼育水細菌叢は鯨類や鰭脚類においてそれぞれ特徴的であったが,鰭脚類においてワモンアザラシは他との類似性が低かった。飼育水には環境中に存在する日和見菌がわずかに見つかったが,伝染性細菌やその他公衆衛生上特に注意すべき細菌は認められなかった。今後,他の水族館の飼育水についても調べることで,より理想的な海棲哺乳類の飼育環境づくりに繋がることが期待される。
著者
宇根 有美
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.117-123, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
19

感染症対策に関連する動物園の特性として,動物園という管理された環境下では,感染症の発見,その発生状況,病原体保有状況などが把握しやすく,感染症対策も立てやすいといった点があげられる。その一方で,生息地域や生態も異なる多種多様の動物が飼育されており,自然界では起こりえない動物種の間接的・直接的接触が,病原体に新たな宿主を提供することになったり,動物種による病原体への感受性の差が感染症の流行に結びついたりすることがある。また,飼育環境も,必ずしも自然界における生息環境を忠実に反映しているわけではなく,不適切な飼育環境が感染症発生の要因になることがある。そして,往々にして個体密度が高くなり,病原体の伝播および大量暴露を容易にし,流行のスピードを加速することもある。さらに,汚染された飼料などによる感染症の発生も起こり得る。ここでは,動物園における「感染症」について,いくつかの事例を提示して紹介する。
著者
伊藤 英之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.109-113, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)

2008年に京都市と京都大学は,京都市動物園と京都大学野生動物研究センターをそれぞれの中核として,「野生動物保全のための研究と教育に関する連携協定」を締結した。本協定に基づき,京都大学の教員が京都市動物園に常駐し,研究・教育活動を実施してきた。2013年に学術研究と環境教育をより一層推進するために動物園内に研究・教育機関「生き物・学び・研究センター」を設置するとともに,当時京都大学野生動物研究センターの准教授が京都市動物園生き物・学び・研究センター長として着任した。2017年6月には文部科学省の競争的学術研究費である科学研究費等補助金(科研費)を申請できる「学術研究機関」として同省の指定を受けることを目指し,「生き物・学び・研究センター」に職員を増員し,博士号取得者5名の体制となった。2018年1月に科研費取扱規程に規定する研究機関の指定を受け,科研費への申請が可能となった。今後は,科研費等の外部資金を獲得し,希少動物の研究を一層推進し,その成果を,飼育動物の長寿命化や繁殖の成功率向上等の種の保存の取組,動物福祉の向上に生かしていくことが目的となる。研究体制を構築したことにより,京都市動物園は国内で有数の動物園研究機関になったと思われる。本稿では,京都市動物園における研究・教育体制,研究機関としての現状と課題について紹介する。
著者
中津 賞
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.43-47, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

体重200g程度の鳴禽類の脛足根骨の骨折において,骨折後3~4日以内であれば,牽引によって整復が可能である。十分に牽引しながら,シアノアクリルレートを羽毛に塗布することで骨折部位を固定する。塗布は遠位および近位の関節運動を阻害しない範囲に留める。エリザベスカラーを装着し,直ちに止まり木のあるケージに収容して自由運動をさせる。10日後にエリザベスカラーを除去する。この新しい手技は鳴禽類の大腿骨,中足骨,指骨の骨折時にも応用できる。体重が200gを超える鳥では骨髄内釘固定法,創外固定法が強度の点から推奨される。
著者
松本 直也 伊藤 めぐみ 山田 一孝 豊留 孝仁
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.101-107, 2020-09-30 (Released:2020-11-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

飼育下の鳥類においてアスペルギルス症は重要な疾患であるが,その予防策や診断方法,治療法は確立されていない。アスペルギルス症の主な起因菌であるAspergillus fumigatusは自然環境中に普遍的に存在するため,ときとして飼育鳥類に感染し,死に至らしめる。登別マリンパークニクス飼育下のキングペンギン(Aptenodytes patagonicus),ジェンツーペンギン(Pygoscelis papua),ケープペンギン(Spheniscus demersus)のA. fumigatus感染を防ぐことを目的とし,本研究では飼育環境中に存在するA. fumigatus汚染源の調査を行った。エアーサンプリングおよび土壌サンプリングのデータから主な汚染源が土壌であると推定されたため,土壌とペンギンの接触を最小限とする対策を行った。その結果,アスペルギルス症の発症は認められなくなった。本研究から,A. fumigatusの感染予防において,予め飼育環境下の汚染源を推定することは有効であり,屋内での対策とともに屋外の環境への対策も重要であることが確認された。
著者
米田 久美子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.55-61, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1

日本の野鳥においては過去4回,H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス感染があった。2004年のハシブトガラスの感染は家禽からの二次感染と考えられたが,2007年のクマタカ,2008年のオオハクチョウの感染からは野鳥の間で感染が起きていることが示唆された。このため2008年10月以降,全国的に死亡野鳥調査が実施されるようになった。その結果,2010年10月から2011年5月までの間に約5,600羽の野鳥の死体が調査され,12月から3月の間に全国17道府県において水鳥類と猛禽類の7種63個体から当該ウイルスが検出された。そのうち在来種ではないハクチョウ類3個体は飼育下個体であった。過去4回の感染確認事例ではいずれも,ウイルスの性状から韓国やモンゴル,中央ロシアなどの地域との関連性が推測された。また日本の死亡野鳥調査においては,ハクチョウ類とキンクロハジロが早期に感染を検出しやすい種類と考えられた。2010~2011年に野鳥の感染が認められたのは27地域あったが,5羽以上の感染が確認されたのは鳥獣保護区など5地域のみで,感染個体のうち死亡するのは一部のみではないかと考えられた。飼育下の野生鳥類が野鳥と混在する飼育環境では,感染を防ぐのは不可能であり,抜本的な管理方法の見直しが必要と考えられた。
著者
松本 令以
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-5, 2013-03-29 (Released:2018-05-04)
参考文献数
14

動物園は,レクリエーション施設としてだけではなく,社会教育施設として,調査研究機関として,また自然環境や野生生物の保全のための中核施設として社会的に位置づけられており,飼育係,獣医師,教育普及担当者などの動物系技術職員がそれぞれの専門業務を行うとともに,動物学,獣医学,教育学などの分野の様々な研究を自ら,あるいは大学などの研究機関と共同して行っている。横浜市立動物園では,(独)国際協力機構(JICA)の支援を得たウガンダ野生生物教育センターへの技術協力,同じくJICAの支援を得たインドネシア・バリ島へのカンムリシロムクの野生復帰,横浜市内で野生絶滅したミヤコタナゴの飼育下繁殖など,いくつかの野生生物保全活動も行っている。一般市民からは,動物園は単なるレクリエーション施設として捉えられがちであり,飼育係といえば,単に動物の世話をする人というイメージも強い。しかし動物園は,立派な自然科学系博物館であり,そこに働く動物系技術職員は学芸員と同等の業務を行っている。特に公立動物園では,管理運営の大部分が市民の税金を用いて行われているため,市民に対する社会教育,自然環境や野生生物の保全思想の普及啓発などの公益的成果をあげることが期待されている。
著者
佐鹿 万里子 森田 達志 的場 洋平 岡本 実 谷山 弘行 猪熊 壽 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.125-128, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
16

2005年2月,北海道北広島市にて腰部から尾部にかけ著しい脱毛と痂皮を形成したアライグマProcyon lotor雄幼獣一個体が捕獲され,当該病変部から多数の小型ダニ類が検出された。形態および2nd internal transcribed spacer(ITS-2)の塩基配列から,これらのダニ類はSarcoptes scabieiと同定された。本症例は日本産アライグマのS.scabieiによる疥癬の初報告となった。
著者
Shannon L. LADEAU Barbara A. HAN
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.53-58, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
32

ここ数十年間,ヒトや家畜,野生動物において新たに確認される疾病の数は増加している。これらの疾病の多くは,環境条件が変化した結果,生物種間の接触頻度が変わることで“emerge現れる”のである。従来の疾病生物学あるいは疫学研究は,対象となる1つの生物種におけるアウトブレイクパターンを理解しようとするものである。しかしながら,疾病管理対策には,野生動物,ヒト,家畜,そして潜在的な媒介動物集団にまたがる生態学的相互作用について,より包括的な理解が必要であることが,ますます明らかになってきている。本論文では,生態系における病原体動態の根底にある生態学的原則について紹介し,“disease ecology”分野の最前線の研究について取り上げる。病原体や寄生虫は,生態系に固有のものであるというよりはむしろ生態系を乱すものと考えられがちであるが,“disease ecology”の基本原理は,個体群および群集生態学の古典論に由来するものである。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-25, 1999 (Released:2018-05-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ニホンコウノトリ(Ciconia boyciana)の生息数がわずかとなった1950年〜60年代, 兵庫県但馬地方では官民一体となって, この稀少鳥種のための様々な保護対策を展開した。餌となるドジョウを全国から集める『ドジョウ一匹運動』や, 営巣中の個体を守るための『そっとする運動』などはその代表的なものである。野生動物のために講じられたこれらの保護活動は, 現在でも学ぶところの多い先駆的なものとして評価できる。江戸時代に出石藩が瑞鳥(兆)として手厚く保護してきたことが, この地域でとくに保護活動がさかんであった理由のひとつである。コウノトリ保護に対する地域住民の思いは現在も確実に受け継がれており, 兵庫県が主宰する野生復帰計画の励みともなっている。コウノトリが水田で採餌できるように, 完全無農薬を目的としたアイガモ農法が徐々に広がりつつある。餌生物を増やすためにビオトープづくりを行っているグループや, 生物観察会などの環境教育を行っているグループもある。その一方で, 開発による環境破壊はなおも進行中である。野生復帰したコウノトリが餌場とするであろう河川の護岸はコンクリートで固められ, 水田地帯を縦断する広域農道が建設されようとしている。圃場整備された水田は生物の生息に適さない環境となっている。コウノトリが絶滅した1970年当時よりもはるかに悪化している自然環境に, 果してこの鳥を野生復帰できるのかどうか疑問を感じずにはおれない。経済発展か野生動物保護かという2者対立の構図は, 過去においても現在においても大きな問題である。コウノトリの野生復帰を成功させるためには, 今すぐにでも現状の開発技術を自然環境復元のために転用し, 人間が野生動物と共生できる妥協点を模索する努力を始めなければならい。そのためには, 地元住民の協力を得ることが最重要課題である。望まれるのはライフスタイルの変革である。だがこれは, 地元住民だけではなく, 多くの環境問題を身近に抱えているすべての市民が目標としなければならない課題でもある。
著者
岡元 友実子 袁 守立 林 良恭 李 佳琪 鐘 立偉 安藤 元一 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.17-26, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
36
被引用文献数
2

台湾の金門島に生息するユーラシアカワウソ(Lutra lutra chinensis以下,カワウソ)は,比較的長期間にわたり人為的影響を受けなかったことや豊富な人為的水環境の存在により幸運にも絶滅を免れてきた。2018年の糞便痕跡および赤外線カメラの映像に基づく調査から過去の文献同様金門島の西南部はカワウソの利用率が顕著に低いことが判明したが,その他の各エリアの利用頻度について論じるためにはより長期的なデータが必要である。さらに,2017年から2年間実施した赤外線カメラ映像に基づく行動観察から,繁殖や捕食に関する行動に加え,カワウソの人工物利用状況についても明らかになった。またカワウソに脅威を与える存在である野良猫および野良犬については未だ多くがカワウソの生息域内を行動していることが判明した。現在カワウソは台湾内の法律においても厳重に保護されており,人為的影響を殆ど受けることはない。また調査に加え様々な保全の取り組みも行われているが,その保全活動は地元自治体に委ねられており,常に楽観視することができない状態である。地元住民からは経済発展を望む声も多く聞かれ,食害も発生しているため,今後長期的に保全活動を持続するためには地域還元型のカワウソ保全システムを確立する必要がある。そして,将来的な日本の対馬におけるカワウソ保全においては,諸外国の同種の保全活動と課題を参考にし,より効果的な取り組みを行っていくことが肝要である。
著者
野田 亜矢子 畑瀬 淳 屋野丸 勢津子 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-8, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
36

動物園で飼育している成獣の雌ホンドギツネVulpes vulpes japonica 2頭の糞中および血中の性ステロイドホルモン濃度の測定を行い,繁殖期の外貌変化や行動の変化を観察した。その結果,血中エストラジオール-17β(E2)濃度については1月中に1回のみピークが認められ,その後急減した。血中および糞中プロジェステロン(P4)濃度は血中E2濃度の上昇に連動して急増し,急激なピークの後漸減しながらおよそ2ヵ月間比較的高い値を維持した。血中E2濃度の上昇が見られた1月下旬には陰部の腫脹が認められ,1週間程度継続した。2月下旬には乳腺の腫脹,3月上旬には乳腺周りの脱毛が見られるようになり,その後は乳汁様の白色の液体の分泌が認められた。 4月上旬には「人の腕を巣箱に運び込もうとする」,「巣箱に差し入れた人の腕を抱きかかえてなめ続ける」などの行動が見られるようになった。性ホルモン動態から,ホンドギツネは季節性の単発情動物で,妊娠,非妊娠に関わらず黄体期が妊娠期と同様に続く,他のイヌ科動物と同様の特徴が認められた。また,P4濃度増加期の後半からイヌで見られる偽妊娠と同様の行動が認められ,ホンドギツネでも偽妊娠が存在する可能性が示唆された。群れ動物ではないホンドギツネの偽妊娠の意義については,育子の際のヘルパー行動との関連性が考えられた。
著者
進藤 英朗 鍬崎 賢三 立川 利幸
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.159-162, 2019-12-20 (Released:2020-02-20)
参考文献数
11

下関市立しものせき水族館では2001年のオープンから約18年間,飼育鯨類20頭(バンドウイルカ12頭とスナメリ8頭)のうちスナメリ1頭の血液培養から豚丹毒菌Erysipelothrix rhusiopathiaeが陽性となった以外に同菌の発生記録はない。また,2018年4月時点で飼育していた飼育鯨類12頭の血清の豚丹毒菌生菌発育凝集反応による抗体価はすべて16倍未満であった。その一方,2018年2月時点に使用中であった冷凍餌料(カラフトシシャモ,ホッケ,マサバ,マアジ)からは豚丹毒菌特異的遺伝子断片が検出されている。当館では解凍後の餌の冷蔵保存に中性電解水を用いており,同菌の増殖抑制に一定の成果を挙げていた可能性が考えられた。
著者
上田 海那人 原藤 芽衣 白井 幸路 米山 州二 戸﨑 香織 宮﨑 綾子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.53-59, 2021-06-14 (Released:2021-08-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2020年5月,栃木県内の動物飼育施設で飼育しているカイウサギ(Oryctolagus cuniculus)15羽中11羽が相次いで死亡した。肉眼所見では全羽に重度の肺出血が認められ,病理組織学的検査で肝細胞壊死ならびに腎臓および肺における播種性血管内凝固が確認された。死亡したウサギの肝臓でRT-PCR法により兎出血病ウイルス(RHDV)遺伝子が検出され,VP60遺伝子の分子系統樹解析により RHDV2(Lagovirus europaeus GI.2)に分類された。以上のことから,本症例をRHDV2感染による兎出血病と診断した。
著者
高橋 力也 小林 希実 比嘉 克 酒井 麻衣
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.143-146, 2021-12-24 (Released:2022-02-28)
参考文献数
10

本研究は,ミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus) における生理学的知見の蓄積を目的として,餌の消化管通過速度を測定する実験を行った。実験は飼育下のミナミハンドウイルカのオス1頭を対象とし,3日間1日1回行われた。赤色色素を粉のままゼラチン製の薬用カプセルに梱包し,餌のカラフトシシャモの体内に挿入し給餌した。着色餌の給餌後,水中観察窓から連続観察を行った。着色餌の給餌から,初めて糞に赤色が確認されるまでの期間をIPT (Initial Passage Time) と定義した。着色糞は3日間全ての実験で確認された。着色糞が最初に観察されるまでの経過時間(IPT) は平均254 ± 20.4 分(n=3)であった。先行研究における同属のハンドウイルカの平均IPTと比べ近い値となった。本研究により,ミナミハンドウイルカは摂餌から最短で4時間から6時間程度で排泄し,加えて餌が消化管内に20時間以上留まる可能性があることが通常色の糞の観察から示唆された。
著者
稲葉 智之 高橋 和明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.87-92, 1996 (Released:2018-05-05)
参考文献数
28
被引用文献数
5 7

ジャイアントパンダの疑似母指は"パンダの親指"として有名であるが, レッサーパンダの疑似母指骨格に関する報告はほとんどみられない。本報告では2例のレッサーパンダを用いて, 主要骨格の所見ならびに手根部骨格のひとつである橈側種子骨の形態とそれに付着する筋肉などについて調べた。手根部骨格は, 他の食肉目と同様に7種の骨からできており, 中間橈側手根骨の外側には1個または2個の種子骨がみられた。この橈側種子骨は第一中手骨の2分の1程度の長さがあった。2例から橈側種子骨の発生過程を考察すると, 初めから大きな種子骨ができるのではなく, 2種類の筋肉内で各々に発生, 成長した種子骨が合体して形成されると考えられた。橈側種子骨には, 短第一指外転筋と短第一指屈筋ならびに長第一指外転筋が付着していた。また, 橈側種子骨の外側を固定する靱帯としては, 手根種子骨外側靱帯と中手種子骨背側靱帯があり, 手掌側を固定する靱帯として手根横断靱帯と手根種子骨手掌靱帯が認められた。レッサーパンダの橈側種子骨は, ジャイアントパンダと同じように疑似母指として機能可能な運動性を有することが示唆された。
著者
坪田 敏男 溝口 紀泰 喜多 功
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.17-24, 1998
参考文献数
35
被引用文献数
2 3

ニホンツキノワグマ<i>Ursus thibetanus japonicus</i>は, 本州, 四国および九州に生息する大型哺乳動物の一種である。しかしながら, 最近では, 九州はほぼ絶滅状態となり, さらに四国山地, 西中国地域, 東中国山地および紀伊半島が絶滅のおそれのある地域となっている。1990年から1994年にかけて岐阜県白川村において直接観察, 痕跡調査(糞分析)およびラジオトラッキングといった生態調査が行われた。その結果, ツキノワグマの春と秋の食物種がブナ林という生息環境と密接に関係していることが示された。すなわち, ツキノワグマは, ブナ豊作年にはブナの花芽や種子を食べ, 一方ブナ不作年には他の食物を利用していた。また, 1992年から1993年のツキノワグマの行動圏が求められ, その平均値は雄で6.4km^2, 雌で3.4km^2であった。主に飼育下でのツキノワグマの繁殖生理学的研究により, 雄では季節繁殖性が顕著に認められること, また雌では着床遅延や冬眠中の出産といったクマ類特有の繁殖生理機構を有していることが解明された。これらの結果より, 将来にわたってツキノワグマを保護していくためには, 繁殖の成功につながる十分な食物環境を確保することが肝要であると結論づけることができる。