著者
中山 大成
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.46-48, 2012

和歌山県立自然史博物館に所蔵されている永井誠二氏のコレクション中の不詳種を検討中に見出された日本産イトカケガイ科の1新種を記載する。なお同種は同博物館に寄贈された小山安夫氏のコレクションにも見出された。Opalia calyx n. sp. ウテナイトカケガイ(新種,新称)殻は10~12 mmの小型で厚く,尖塔形。灰白色。各層に不規則な縦張肋をなす。胎殻は平滑で円錐形,浸蝕されていることが多い,体層は弱い底盤を形成する。次体層は9層内外で,殻表は繊細な微穴からなる螺列と非常に弱い縦肋を持ち縦肋は直上の縫合を蕚状に覆う。殻口は2重,楕円形で外唇厚くなるが著しい張り出しにはならない。タイプ標本:ホロタイプ,殻高 10.3 mm; 殻径3.5 mm(WMNH-Mo-Na-46);パラタイプ1,殻高10.0 mm,殻径 3.2 mm(WMNH-Mo-Na47);パラタイプ2,殻高11.0 mm,殻径 4.0 mm(WMNHMo-Ko-1)。タイプ産地:和歌山県串本町沖,水深160 m。分布:紀伊半島沖水深80~160 m。比較:本種に最も近似するカタイトカケガイOpalia levis Nakayama, 2010は体層に明瞭な底盤をもつが,本種は底盤が不明瞭,また本種では縫合まで伸びる縦肋が蕚(うてな)状に覆うことが大きく異なる。本種の和名はこの特徴により命名した。
著者
矢野 重文 多田 昭 松田 春菜
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.29-37, 2013

徳島県阿南市の石灰岩地で採集されたムシオイガイ亜科貝類を精査したところ,クチキレムシオイガイ属Cipangocharaxの未記載種と判断されたので,これを記載した。Cipangocharax ananensis n. sp. アナンムシオイガイ(新種,新称)殻高 2.16 mm,殻幅 3.79 mm(ホロタイプ)。殻は扁平な円錐形で螺管は円く膨らむ。胎殻は1.7層,平滑で黄白色~薄い赤褐色を呈する。後生殻は2.0層で成長脈が密に現れる。頸部のくびれは緩く,頸部から比較的長い呼吸管が縫合に沿って後方に伸びる。殻口は大きく,斜めのハート形を呈し,殻口縁は肥厚してやや外方に広がる。殻口上部は湾曲した外唇縁によってやや扁圧される。内唇の壁唇部は体層に密着し,軸唇縁に向けて屈曲する。蓋は石灰質で厚く,直径約 1 mm,厚さ 0.4 mmの円柱形を呈し,周縁に溝を有する。内側はキチン質の膜で覆われ,光沢を持ち,中央部には僅かな突起様のふくらみが見られる一方,外側は角質の膜で覆われ,中央部がわずかに凹む。本種は,同じく徳島県で採集されるクチキレムシオイガイ属のクチキレムシオイガイC. biexcisus及びトウゲンムシオイガイC. kiuchiiと殻形が類似するが,これらに比べて僅かに大型で,上部が扁圧されたやや横広で大きな殻口を有する点,目立たない突起を中央に持つ石灰質の厚い蓋を有する点によって区別でき,クチキレムシオイとは殻口壁唇部と体層が接合する点でも区別できる。本新種の発見により,日本には本種を含めてクチキレムシオイガイ属6種が認められることになり,このうち徳島県からのみ見つかっている種は3種となる。殻形の比較に用いたクチキレムシオイガイについては,徳島県指定希少野生生物に指定されているため,許可を得て採集を行った。
著者
白井 亮久 近藤 高貴 梶田 忠
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.151-163, 2010

琵琶湖固有の絶滅危惧種イケチョウガイと中国からの移入種ヒレイケチョウガイの交雑の実態を探るため,分子マーカーを用いて解析を行った。ミトコンドリアのCox遺伝子と核rRNA遺伝子のITS1領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,両種はいずれの分子マーカーでも区別されることが分かった。遺伝的組成を調べたところ,琵琶湖と霞ヶ浦の淡水真珠養殖場では両種の交雑に由来すると考えられる個体がみつかった。琵琶湖の養殖場は自然環境とは完全には隔離されていないため,逸出した養殖個体とイケチョウガイの野生個体との交雑が懸念される。姉沼の野生集団は移植された養殖個体の逸出に由来するものの,唯一交雑の影響を受けていない純粋なイケチョウガイの集団であると考えられるため,保全上非常に重要である。
著者
豊原 哲彦 仲岡 雅裕 土田 英治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.27-36, 2001-06-30

岩手県大槌湾の海草藻場において, 本州以南では初記録となるキタノカラマツガイの生活史と個体群動態について調査した。野外調査は1995年10月から1996年11月までおよそ一ヶ月または一ヶ月半おきに行われた。貝はアマモとタチアマモの各群落からかぶせ網で定量的に採集された。海草の葉上に付着する卵塊の観察により, キタノカラマツガイの卵塊は11∿22個の卵が入ったカプセル型であり, 卵はプランクトン幼生期を経ずに底生発生することが示唆された。キタノカラマツガイの繁殖期は初夏であり, 寿命は一年であった。新規加入により5月から6月にかけて個体群密度が急激に増加し, 夏期は比較的高い密度が保たれているが, 8月から10月にかけて著しく減少した。密度の増加はアマモとその付着藻類の豊富な時期と一致しており, また密度の減少はアマモと付着藻類の減少と一致していたことから, 生息場所や餌量が個体数の制限要因になっていることが推察された。特に密度の減少期には個体の成長が停滞していたため, 餌不足が個体数減少の重要な要因であると考えられる。タチアマモ上の個体群密度はアマモ上に比べ年間を通して低く, また新規加入がタチアマモではほとんど見られなかったことから, キタノカラマツガイは生息場所としてタチアマモよりもアマモの方を好むことが示唆された。生息場所の選択に関しては海草2種の群落構造の違いが影響を及ぼした可能性がある。例えば, 平面的な形態的特徴を持つ本種にとって, 一年を通して茎部が少なく平たい葉が優占するアマモの方が付着基質として優れていること, また笠貝は一般に移動力が小さいため, 株密度が低く間隙の多いタチアマモ群落よりもより連続的に分布するアマモ群落の方が生息に好条件であることなどが考えられる。
著者
佐々木 猛智 小倉 知美 渡部 裕美 藤倉 克則
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1-2, pp.1-17, 2016-04-13 (Released:2016-04-15)
参考文献数
31

Provanna Dall, 1918ハイカブリニナ属は深海の化学合成生物群集に広く生息し多産するグループである。日本の近海では,ハイカブリニナ属にはP. glabra Okutani, Tsuchida & Fujikura, 1992サガミハイカブリニナ,P. abyssalis Okutani & Fujikura, 2002カイコウハイカブリニナ,P. shinkaiae Okutani & Fujikura, 2002シンカイハイカブリニナの3既知種が分布しており,種によって深度分布と底質が異なる。本研究では南西諸島海域から新たに発見された新種について報告する。貝殻の比較形態学的解析および分子系統解析の結果から,4新種の存在が明らかになった。(1)P. subglabra n. sp.ニヨリハイカブリニナ(似寄灰被蜷:和名新称)は膨らみのある平滑な貝殻で特徴づけられ,沖縄トラフの熱水噴出域では最も多産する。種小名と和名は,本種がかつてP. glabraサガミハイカブリニナに同定されていたことに由来する。(2) P. clathrata n. sp.コウシハイカブリニナ(格子灰被蜷:和名新称)は粗い格子状の彫刻を持ち,沖縄トラフ南部の熱水噴出域に生息する。(3) P. lucida n. sp.ミガキハイカブリニナ(磨灰被蜷:和名新称)の殻は平滑で縫合が深く,今のところ沖縄トラフ北部の南奄西海丘にのみ出現する。(4)P. kuroshimensis n. sp.クロシマハイカブリニナ(黒島灰被蜷:和名新称)の殻は平滑でオリーブ色の殻皮を持ち,黒島海丘に固有である。一方,歯舌の形態は4種の間で明確な差は見られなかった。この発見により,ハイカブリニナ属は南西諸島の狭い範囲で多様化していることが明らかになったが,その要因としては南西諸島海域の化学合成生態系形成域が多様な環境にあることが関係していると考えられる。
著者
大田 直友 渡慶次 陸範
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.261-271, 2002-01-31
被引用文献数
1

転石潮間帯にすむ同属の肉食性貝類イソニナ・シマベッコウバイの個体群特性について, コドラートによる定量調査を行い, その時空間的変化を明らかにした。2種は類似の生活史をもち, 1994年7月から1995年10月にかけて安定的な密度で存在した。世代解析により両種は少なくとも4年間生きることが推察され, 安定的に個体群の加入が続いていた。新規加入個体は, 8月に6 mm程度の採集可能サイズになり, 暖かい季節により多くの成長が観察された。イソニナは1年で11 mm, 2年目に17 mm, 3年目には22 mmに, 一方, シマベッコウバイは1年で13 mm, 2年目に20 mm, 3年目には26.5 mmに成長すると推察された。小型個体の加入と産卵は垂直分布の中部に多くみられ, 成長に伴い分布域が高・低潮位に, とくに低潮位域に広がっていった。また, 分布パターンの解析から, 垂直分布の端の部分ではより集中した分布がみられた。
著者
本間 義治 牛木 辰男 武田 正衛 中村 幸弘
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.345-353, 2007-02-28

浮遊遠洋性の珍蛸アミダコ(♀)が, 2004年11月から2005年2月下旬にかけて,上・中越地方を中心に新潟県沿岸へ漂着したり捕獲されたりして,34個体が記録された.これらの中で,2月15日に掬われ,上越水族博物館へ収容され,18日に死亡した全長53cmの個体を10%フォルマリンで,次いでブアン氏液で固定し,卵巣・卵管の組織標本を作成して,観察した.卵巣重量は40g,抱卵数は60,000個以上であった.卵巣は中央に卵巣腔があり,多数の包嚢からなり,嚢内には様々の発育段階の卵巣卵(非同時発生型)が存在していた.若い卵母細胞は,それぞれ結合組織性の薄膜(層板)に付着していた.初期の卵母細胞には,円形の核(生殖胞)が明瞭であるが,発育が進むと卵は長楕円形となり,卵胞上皮が随所から陥入し始め,複雑に入り組み,卵黄形成が盛んとなる.さらに成熟が遊むと,卵母細胞は大きく球状化して,最大径1.2 mmに達する.卵膜には放射線帯,卵胞膜,莢膜の分化が明瞭となり,卵黄は板状化する.近位卵管内壁の粘膜は高く,複雑にひだ打っているが,遠位卵管壁は厚い結合組織と筋肉層で覆われ,内壁の粘膜は低く,ひだ打ちの程度は小さかった.浮遊遠洋性アミダコ卵母細胞の成熟過程は,沿岸性のマダコや深海性のメンダコ類などと変わらず,多回産卵を行うと推定された.
著者
伊谷 行 加藤 真
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.193-202, 2002-12-31
参考文献数
36
被引用文献数
1

南西諸島を含む西日本に分布するオオノガイ科二枚貝類のクシケマスオガイについて, アナジャコ下目甲殻類の巣穴への共生と殻形態の変異を調査した。底質中の正確な位置を確認できた数個体のクシケマスオガイは, アナジャコ, ヨコヤアナジャコ, ミナミアナジャコ, ニホンスナモグリの巣穴の近くから採集された。その個体は, いずれも水管のある殻後部を巣穴に向けていたこと, 堆積物中深くに分布していたことから, この貝はアナジャコ類の巣穴に水管を開口する懸濁物食者であることが示唆された。巣穴への開口は確認できなかったが, クシケマスオガイはバルスアナジャコ, ナルトアナジャコ, Upogebia pugnaxの巣穴が多く存在する堆積物中からも採集された。殻形態の計測により, クシケマスオガイは成長とともに, 殻高/殻長比および殻幅/殻長比が大きくなるように成長することが分かった。これはこの貝が共生生活によって長い水管を必要としないことによるものかもしれない。また, 奄美大島産の個体は本州, 沖縄本島, 石垣島の個体より, サイズが小さく, 殻幅が厚い傾向が見られた。
著者
岡野 元哉 和田 年史
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.58-62, 2012

We investigated size structure and reproduction of violet shell <i>Janthina prolongata</i> stranded on the coast of Iwami-cho in eastern part of Tottori Prefecture, southwestern Sea of Japan, on 27 September, 2010. Shell length (SL) exhibited a bimodal size distribution with a range of 6.08–40.36 mm. Our results also indicated that individuals of more than 27.4 mm SL laid egg capsules under their bubble raft. Moreover, there was a significant positive correlation between the length of egg capsules and SL. Larger individuals had shrunken and differently colored egg capsules on the forefront of bubble raft, suggesting that <i>J. prolongata</i> might lay egg capsules intermittently.
著者
岡野 元哉 和田 年史
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.58-62, 2012

We investigated size structure and reproduction of violet shell Janthina prolongata stranded on the coast of Iwami-cho in eastern part of Tottori Prefecture, southwestern Sea of Japan, on 27 September, 2010. Shell length (SL) exhibited a bimodal size distribution with a range of 6.08–40.36 mm. Our results also indicated that individuals of more than 27.4 mm SL laid egg capsules under their bubble raft. Moreover, there was a significant positive correlation between the length of egg capsules and SL. Larger individuals had shrunken and differently colored egg capsules on the forefront of bubble raft, suggesting that J. prolongata might lay egg capsules intermittently.
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.157-172, 2001-09-30
被引用文献数
4

九州天草の傾斜の緩やかな転石地潮間帯において, 同所的に生息する9種類の藻食性貝類の日周期活動を観察した。観察は夏期に4回(うち2回を大潮時, 2回を小潮時に)行った。3種類の巻貝類(スガイ・アマガイ・タマキビ)では, 転石上面で移動中の個体を「活動中」, 転石上面で停止しているものを「停止中」として記録した。5種類のカサガイ類(コウダカアオガイ・クモリアオガイ・アオガイ・ホソスジアオガイ・ヒメコザラ)と1種類のヒザラガイ類(ケハダヒザラガイ)では, 移動の有無に関わらず, 転石上面に出現している個体を「活動中」として記録した。昼夜および潮汐の状態と関連して, 活動パターンの種間変異が認められた。アマガイとタマキビは, おもに夜間の干出状態で活動した。ケハダヒザラガイとアオガイ類は, おもに夜間の干出状態と波に洗われている状態で活動した。スガイとヒメコザラは夜間によく活動し, 潮汐とは無関係であった。このような活動パターンを2つに類別すると, 活動期が限定されている種(ケハダヒザラガイ・アオガイ類・タマキビ・アマガイ)では貝の排泄した糞中の無機質含有量が少なく, 活動期が広範囲な種(ヒメコザラ・スガイ, およびイシダガミガイ)では糞中の無機質含有量が多い, という関連性が見出せた。活動期が広範囲な種は, 限定されている種と比較して, 冠水中の活動時に転石上面に沈殿した無機質粒子を摂食する機会が多いものと推測される。
著者
風呂田 利夫 須之部 友基 有田 茂生
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.15-23, 2002-06-30
被引用文献数
2

東京湾ならびにその近隣の干潟において, ウミニナ科ならびにキバウミニナ科に属する腹足類の地域個体群がホソウミニナを除いて消滅しつつある。埋め立てにより閉鎖状態で孤立化して存在する東京湾奥部の谷津干潟には, ウミニナ科のウミニナBatillaria multiformisとホソウミニナB. cumingiが生息する。この干潟でのウミニナ類の個体群調査結果から, ホソウミニナは新規加入による個体群の急激な増加傾向が認められたが, ウミニナは長年にわたり老齢個体がわずかに残るのみで, 絶滅が危惧される。ウミニナを水槽飼育したところ卵鞘を生産し, その中からプランクトン幼生が孵化した。谷津干潟は干潮時にはほぼ前面が干出するため, 干潟で孵化したウミニナのプランクトン幼生は東京湾水中に移送されると考えられる。東京湾ではウミニナの生息地である干潟は埋立により孤立的にしか残っておらず, また幼生が放出される夏期は底層の貧酸素化が著しい。したがって, 東京湾水に移送された幼生が干潟に回帰し着底できる可能性は低く, このことがウミニナの新規加入を抑制していると推察される。これに対して, 直達発生により親の生息場に直接加入できるホソウミニナ(Adachi & Wada, 1997)では, 親個体群が形成された後は同所的再生産により個体群は比較的容易に継続もしくは拡大されると推察される。これらのことは, 孤立化した干潟におけるウミニナ類の個体群維持において, プランクトン発生は不利に, 直達発生は有利に機能する可能性が高いことを示唆している。
著者
加藤 真 大須賀 健
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.291-297, 2007-02-28

琉球列島のサンゴ礁のウミヒルモ海草藻場で,ニッコウガイ上科の新種が発見された。この二枚貝は,左右やや非相称で,著しく扁平で小さな殼と,垂直方向に伸びるよく発達した弾帯,痕跡的な外靫帯,間隔のあいた顕著な成長脈,伸長した入水管・出水管,三角形の内・外半鰓によって特徴づけられる。この貝の属の所属については,ニッコウガイ科やアサジガイ科の近縁属の分類の再検討が必要であるが,私たちはこの貝をSemelangulus lacrimadugongiがn. sp.ザンノナミダ(新種・新称)として記載する。この貝の産地はいずれも,ジュゴンが現在でも生息しているか,または近年まで生息していた場所にあたる。
著者
奥谷 喬司 宮崎 淳一
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.49-55, 2007-07-31

1992年に深海潜水調査船「しんかい6500」によって鳥島海山の水深4037mで発見されたニタリクジラの遺骸を2005年再訪して調査した。その鯨骨上に優占的に固着群生しているイガイ科の貝類を研究した結果,形態上からも,また分子情報からもBenthomodiolus属の未記載種と思われるのでBenthomodiolus geikotsucola n. sp.ゲイコツマユイガイ(新種)の名を与え記載した。本種の殻は浅海の鯨骨に付くヒラノマクラAdipicola pacificaや沈木に付くツマリキザミバマユイガイIdasola washingtoniaに似るが,交板上に刻みめがなく,筋肉系の配置が異なる。本属にはこれまで沈木に付くB. abyssicolaとB. lignocolaの2種が知られているが,それらとは殻皮毛と放射線状彫刻を欠くこと及び後部足糸牽引筋束が著しく長く,その左右束が極めて接近して走る点で既知種と区別できる。本種は今のところ鳥島海山の鯨骨(水深4020-4036m)からしか採集されていない。
著者
小澤 宏之
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.173-181, 2001-09-30
被引用文献数
1

生殖巣の組織学的観察をもとに, 沖縄島金武湾の海草藻場のホソスジヒバリガイ個体群の繁殖と産卵について調査を行った。生殖巣の発達する7月から10月の期間中に顕著な産卵のピークが3回確認され, それぞれの産卵ピークの間隔は約45日間であった。また, この期間中(7-9月)に台風が襲来し, その影響により急激な水温の低下が確認された。しかし, 本研究では, 産卵と台風襲来による物理的環境変化(急激な水温の降下)との間に, また産卵と月齢との間に, 密接な関連性を確認できなかった。
著者
生形 貴男
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.149-160, 2004-01-31
参考文献数
26
被引用文献数
3

イタヤガイ科(二枚貝)の63種について,楕円フーリエ解析を用いて,殻の輪郭を族(tribe)及び生活型の間で比較した。その結果,足糸付着型のものと自由生活型のものとの間でも,また族の間でも,フーリエ係数やその主成分の分布に差異が検出された。祖先的な生活型と考えられる足糸付着型のもの同士で比較すると,イタヤガイ亜科に属するものの方が,カミオニシキ族やヒオウギ族のものよりも,丸くて対称性の高い輪郭成分の割合が大きい傾向にある。一方,自由生活型のものは,キンチャクガイ族の一部を除いて,従来言われていた通り,丸くて対称性の高い輪郭成分が卓越する。以上の結果は,カミオニシキ亜科よりもイタヤガイ亜科の方が,もともと自由生活に適した丸くて対称性の高い形態を獲得しやすかったことを示唆する。このことは,自由生活者がイタヤガイ亜科に多くカミオニシキ亜科に少ないことの理由のひとつであるかもしれない。また,本研究で扱った材料の中でカミオニシキ亜科唯一の自由生活者であるホタテガイ(カミオニシキ族)は,イタヤガイ亜科の自由生活者の多くのものよりも,高さ/長さ比がやや大きくて縦長である。これは,カミオニシキ族に顕著な縦長の輪郭要素が,自由生活型に進化したホタテガイにおいてもなお祖先形質として保存されているからだと考えられる。
著者
奥谷 喬司 橋本 惇 三浦 知之
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.91-96, 2004-01-31
被引用文献数
1

鹿児島湾の水深100m前後の海底には,古来から漁業者が「たぎり」と呼ぶ噴気孔がある。その周辺には有鬢動物の1種サツマハオリムシの大群集の存在が知られているが,それに伴って出現するキヌタレガイ科の1種を研究した結果,Solemya(Solemya)に属する新種と考えられるので記載する。Solemya(Solemya) tagiri n. sp.タギリキヌタレガイ(新種・新称)殻長2cm前後,外見は他のキヌタレガイ類と似ていて,細長い亜方形,殻頂はほとんど聳えず,後位7/9付近。漆塗り様の殻皮の色はややうすく,放射状彫刻に沿って細い赤褐色の色帯がある。靱帯は後位,外からは見えず後背縁と靱帯受との間にある。後背縁は僅かに持ち上がる。内部に支柱はない。消化管を欠き,鰓は著しく大きい。鹿児島湾の水深76〜116mの「たぎり」付近。備考:日本産の小型種,アサヒキヌタレは明らかな外靱帯があり(Acharax),またキヌタレガイでは靱帯は内在し(Petrasma),靱帯受にひだがある点で異なる。東太平洋のSolemya reideiはやや大きく(6cm)で,内面に靱帯葉と弾帯受に支柱を持つ点で区別される。