著者
伊藤 寿茂 北野 忠 唐真 盛人 藤本 治彦 崎原 健 河野 裕美
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.77-87, 2014

2006年に国内で初めて記録された石垣島のドブガイモドキについて,幼生の採集を試み,幼生が寄生している魚種を調査するとともに,実験飼育下で宿主として機能する魚種を確認した。島内の生息地においてプランクトンネットをひき,幼生の採集を試みるとともに,採集した成貝を継続飼育し,放出した幼生を採集した。幼生の殻の形状は亜三角形で腹縁に鉤を持つAnodonta型であり,殻長,殻高,殻幅の平均はそれぞれ221.5 μm,228.0 μm,108.3 μmであった。次に,現場で採集した幼生の寄生を受けていると想定される6魚種(ギンブナ,グッピー,タイワンドジョウ,ティラピア類,オカメハゼ,タウナギ)と,飼育下で放出された幼生を人為的に寄生させた12魚種(コイ,キンギョ,タイリクバラタナゴ,ドジョウ,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類)を実験水槽内で継続飼育して,魚体から離脱してきた幼生を観察,計数した。その結果,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類の8魚種より,変態を完了させた稚貝が出現した。寄生期間中に幼生サイズの増大や外形の著しい変化は見られなかった。全離脱数に占める稚貝の出現率は魚種によって差があり,タイワンキンギョ,グッピー,ヨシノボリ類において,特に出現率が高かった。次に,同生息地において採集した6魚種(ギンブナ,カダヤシ,グッピー,ティラピア類,オカメハゼ,タナゴモドキ)を10%ホルマリン水溶液で固定して,魚体に寄生した幼生の状態を観察,計数したところ,グッピーとティラピア類の体に寄生が見られた。寄生は鰓や各鰭のほか,鰓蓋の内側,鰓耙にも見られた。幼生の相対寄生密度および被嚢率はグッピーの方が高かった。石垣島を含むドブガイモドキの生息地においては,その幼生の宿主として,在来種,外来種を含む複数の魚種が宿主として機能している可能性がある。特に,石垣島では,生息する魚の大部分を外来種が占めており,中でもグッピーが主な宿主として機能していることが判明した。このことから,石垣島内における宿主魚類の移入による分布拡大が,ドブガイモドキの分散に寄与した可能性がある。
著者
酒井 治己 高橋 俊雄 古丸 明
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1-4, pp.109-121, 2014-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
54

Allozyme variability in the androgenetic freshwater clams Corbicula leana from Japan and the exotic C. fluminea were investigated. A total of 462 individuals of C. leana from 19 localities throughout the distribution range of the species were monomorphic at three allozyme loci as well as in purple inner shell color. Corbicula fluminea from three localities, on the other hand, was variable in shell color; with white, purple, white with purple flash, or deep purple examples. The present results suggest that they may include several clonal lines with different shell colors and allozyme genotypes. We discuss possible diversification of freshwater clams among bisexual species and hermaphroditic clones through clonal capture, genome capture, or ploidy elevation.
著者
奥谷 喬司 小島 茂明 金 東正
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.29-32, 2004-06-30
被引用文献数
1

シロウリガイ属はこれまで北東・北西太平洋から多様の種類が知られてきたが,南西太平洋からはニュージーランド沖とラウ海盆からこの属の出現が予報的に報じられているのみで,分類学的な詳細は公表されていない。ところが,1994年にドイツのゾンネ号が行ったニューアイルランド海盆の調査中,リヒル島沖のエジソン海山から本属の標本を採集していた。今回その後同地点から採集された標本の形態学的および分子系統学的研究(Kojima et al.,未発表)を行った結果,我が国本州沖の南海トラフに棲むナンカイシロウリガイに近似の未記載種であることが判ったので記載した。Calyptogena(Archivesica) edisonensis n. sp.エジソンシロウリガイ(新種・新称)殻長99.8mm(ホロタイプ)。殻頂は前方1/4〜1/5くらいに偏っていて,殻の後域は僅かに広がる。殻皮は薄く,殻頂域では剥離している。〓歯は放射状。浅い殻頂下洞がある。前足牽引筋痕は明らか。エジソン海山の水深1450m。あらゆる点でナンカイシロウリガイに似るが,ナンカイシロウリガイでは前足牽引筋痕が深い孔状になる特異性がある。
著者
奥谷 喬司 藤原 義弘 藤倉 克則 三宅 裕志 河戸 勝
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.61-64, 2004-06-30
被引用文献数
4

約1年半前に鹿児島県野間岬沖の水深約200〜250mに沈下されたマッコウクジラの死体に形成される生物群集の調査を行った結果,鯨骨上にはヒラノマクラ(少数のホソヒラノマクラ混在)の濃密な群生がみられた。本種の外套膜後端は筒状に丸まり,極めて長い"入水管"を形成し,また完全な管状になった出水管を持つほか,足もよく発達して活発に動き回るというイガイ科としては極めて特異な機能形態を持つことが判った。長い水管のため,本種が群生しているとあたかも鯨骨が細いマカロニで被われているようにさえ見える。ヒラノマクラの生体の観察は今回初めてと思われるので,速報する。
著者
石田 惣
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3-4, pp.105-118, 2020-09-25 (Released:2020-10-10)
参考文献数
50

Citizen science is a powerful way to survey the distribution of alien species in a broader area and is effective in promoting public awareness. I conducted a citizen science project to survey the distribution of the alien Decollate Snail Rumina decollata in Osaka, central Honshu, Japan. This species has spread over the Prefecture in recent years. As a first step I set up ‘train station survey' in which each volunteer selects a train station in Osaka and looks for the snail on foot for 1 hour within a 1-km radius from the station. This survey revealed that the snail inhabits mainly the Senboku area (the northern part of southern Osaka). The next step aimed to investigate in greater detail the snail's distribution in the Senboku area using the following methods: 1) Grid survey: each volunteer selects a focal grid (conforming to the third-order-unit grid defined by the Statistics Bureau of Japan, ca. 1 km square) and looks for the snail within the grid for 1 hour. 2) Gathering observations from residents: fliers are handed out to municipal elementary school children and library visitors in the Senboku area, or a social networking service is used to gather snail observations from the residents. Integration of the results of these surveys revealed that the Decollate Snail occurred in fifty-one third-order-unit grids in Osaka Prefecture at the end of November 2019. Information from residents indicated that the snail had been introduced between 2000 and 2010 in Osaka and that one probable dispersal route was via gardening or agricultural materials such as soil or seedlings. The train station survey is an effective way to screen a high-density area. Observations were provided continuously for four months by residents who had found out about this project from the fliers distributed to the elementary school children. This suggests that fliers in schools may be effective in collecting observations of alien species.
著者
湊 宏
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1-2, pp.75-78, 2015-01-15 (Released:2016-05-31)
参考文献数
8

これまで鳥取県において,ゴマガイ科貝類は4種類しか報告されていなかったが,鳥取県西部からオオゴマガイと同所的に生息する未記載種を確認したので,ここに新種記載した。Diplommatina (Sinica) nakashimai n. sp. ダイオウゴマガイ(新種・新称)貝殻はこの亜属の中では大形(7個体の平均殻長4.65 mm ),右巻き,殻表は淡黄白色からオレンジ色,丸みをおびたさなぎ形を呈し,殻頂に向けて塔状に細くなる。螺層は7.5層,各層はよく膨れ,その縫合は深い。次体層は最も殻径が太いが,体層はかすかに狭くなる。胎殻は2層で平滑,他の螺層には繊細な板状の縦肋が規則的に配列しているが,最終の2層はほとんど平滑,かつ光沢がある。殻口は円形,殻軸側に歯状突起が出ている。殻口縁は全縁で白色,反曲し,第2口縁が殻口背面にあって,その間隔は広い。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置している。臍孔は閉じる。腔襞は完全に欠く。タイプ標本:ホロタイプ, NSMT-Mo 78788, 殻長4.5 mm,殻径 2.2 mm。タイプ産地:鳥取県日野郡日野町船地。分布:鳥取県:三朝町(2ヶ所),琴浦町(2ヶ所),倉吉市(3ヶ所),南部町(1ヶ所),江府町(5ヶ所),日野町(3ヶ所),島根県:松江市(5ヶ所),出雲市(1ヶ所),雲南市(1ヶ所),飯南町(1ヶ所),岡山県:真庭市(3ヶ所)。比較:本種は日本産ゴマガイ科貝類の中では,貝殻の殻長が最も大きい種の一つである。そして,腔襞を欠くことで日本産本科の中では比較されうる種類がない。本種のタイプ産地において,同所的に出現するオオゴマガイD. (S.) collarifera hirasei Pilsbry, 1909 は,本新種よりも小形であること(殻長3.84 mm,n = 5),短い腔襞が存在することによって本種から識別される。さらに,兵庫県から記載され,中国地方で広く知られているオオウエゴマガイD. (S.) c. tenuiplica Pilsbry, 1900 は,殻口縁が単純で二重唇でないこと,小形であること(殻長3.75 mm,n = 7),短い腔襞があることで本新種とは容易に識別できる。
著者
酒井 治己 栗原 善宏 古内 友樹 岡田 あゆみ 竹内 基 柿野 亘 須田 友輔 後藤 晃
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3-4, pp.47-66, 2022-08-26 (Released:2022-08-26)
参考文献数
21

カムチャツカ・サハリン・千島・日本列島地域から記載されたカワシンジュガイ属 Margaritifera 担名タクサのタイプ標本を調査した結果,この地域を通して2種の存在が確認され,それぞれカワシンジュガイMargaritifera laevis(Haas, 1910)及びコガタカワシンジュガイM. kurilensis(Zatravkin & Starobogatov, 1984)に同定された。前種は前閉殻筋痕上縁が丸く擬主歯が比較的小さいこと,一方後種は前閉殻筋痕上縁が角張っており擬主歯が比較的大きく頑丈なことによって特徴づけられる。コガタカワシンジュガイにしばしば適用されてきたM. middendorffi (Rosén, 1926)は M. laevisの新参異名であると判断された。また,M. middendorffi の新参異名とされてきた M. togakushiensis Kondo & Kobayashi, 2005 は,M. kurilensis の新参異名と判断された。
著者
濱谷 巌 窪寺 恒己
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.113-120, 2010-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
11

深海性後鰓類シンカイウミウシ属Bathydorisの1種1個体が,北海道釧路沖の日本海溝の深海(3108~3265m)から採集された。本属の既知種は世界に9種あるとされ,何れも深海産で,本記録が追加され10種となる。シンカイウミウシ属は咽頭部が強大な顎板によって保護される。触角は左右が離れ,非退縮性で,触角鞘を欠く。鰓葉は個々に独立し非退縮性である。Bathydoris japonensis n. sp. ヤマトシンカイウミウシ(新種・新称)生時の背面は淡紫色を呈し,触角と鰓葉の基部は黒褐色の輪状色で囲まれる。固定標本は大形(体長125 mm)で楕円形。鰓葉は約12葉で約6群にまとめられ,円形に配列する。外形はB. ingolfianaに似るが,本種の雌性生殖門の外部の襞には切れ込みが無く平滑である。口球は大きく,歯式は49×n・1・n。中央歯は概ね台形で通常歯尖を欠くが,歯尖を有するものが稀にある。本種の側歯はすべて歯尖を有し歯尖は斜立する傾向があり,鋸歯を欠く。第1側歯は中央歯よりやや大きい。側歯列は外側歯に移るに従って,基板は次第に縦長の長方形を呈する。しかし数個の最外側歯の基板は次第に幅広く,縦方向が短くなる。歯尖は歯列の中程のもの程細長く,数個の最外側歯の歯尖は次第に短くなる。タイプ産地:北海道釧路沖の日本海溝(水深3108~3268 m)。
著者
狩野 泰則 佐々木 猛智 石川 裕
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.129-140, 2001-09-30 (Released:2018-09-01)
参考文献数
23

鹿児島県上甑島の汽水湖(貝池 : 模式産地)ならびに高知・愛媛県の3河川(赤野川・仁淀川・蓮乗寺川)河口域の礫下から得られたコハクカノコ科の新種Neritilia mimotoiツバサコハクカノコ(新称)を記載する。貝殻は白色半透明, 殻径2 mm内外で, 殻形は変異に富み, 内唇滑層後端には時にツバサカノコ(アマオブネ科)同様の翼状突起を備える。本種はジャマイカ産のNeritilia pusillaに近似するが, サイズがより大きく, また殻口がより広がる点で区別される。同属のその他の既知種はすべて有色(赤褐色∿黄褐色)の殻をもち, 本種と容易に区別される。
著者
狩野 泰則 佐々木 猛智 石川 裕
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.129-140, 2001-09-30
被引用文献数
1

鹿児島県上甑島の汽水湖(貝池 : 模式産地)ならびに高知・愛媛県の3河川(赤野川・仁淀川・蓮乗寺川)河口域の礫下から得られたコハクカノコ科の新種Neritilia mimotoiツバサコハクカノコ(新称)を記載する。貝殻は白色半透明, 殻径2 mm内外で, 殻形は変異に富み, 内唇滑層後端には時にツバサカノコ(アマオブネ科)同様の翼状突起を備える。本種はジャマイカ産のNeritilia pusillaに近似するが, サイズがより大きく, また殻口がより広がる点で区別される。同属のその他の既知種はすべて有色(赤褐色∿黄褐色)の殻をもち, 本種と容易に区別される。
著者
山崎 友資 園田 武 野別 貴博 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-18, 2018

<p>サハリン~北海道,本州周辺海域から採集された標本に基づいて,モスソガイ属の分類学的再検討を行った。モスソガイ属は近縁のエゾバイ属の異名として扱われる場合もあるが,貝殻の形態の顕著な違いから,独立した属として扱った。</p><p>これまでモスソガイ属は研究者によって2種3亜種,あるいは1種に分類されていた。本研究においては,Habe & Ito(1980)により定義された5つの種および亜種タクサを操作上のタクサとして,主に貝殻,蓋と陰茎の形態,および地理的分布を比較した結果,以下の3種群に分類された。なお,歯舌形態は中歯の歯尖数に個体間変異が多く,本属において,種レベルにおける分類形質として有効ではないことが明らかとなった。</p><p>1)<i>ampullacea</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は丸みを帯びる。ベーリング海,オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクソンは,<i>ampullacea</i>のみ。</p><p>2)<i>nipponkaiensis</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は三角形。日本海,宗谷海峡に分布する。含まれるタクソンは<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>。</p><p>3)<i>perryi</i>種群:殻は大型,蓋の核は欠けていて裁断状,足後縁部のやや前側に位置し,陰茎の生殖口は鋭く尖る。オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクサは<i>perryi</i>と<i>ainos</i>。</p><p>同一種群に含まれる<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>,<i>pe</i>r<i>ryi</i>と<i>ainos</i>のそれぞれは,側所的に生息し,貝殻,特に殻皮の形態から不連続に区別できることから亜種として扱い,モスソガイ属は以下3種2亜種から構成されると結論づけた。</p><p><i>V. ampullacea ampullacea</i>(Middendorff, 1848)ヒメモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis nipponkaiensis</i> Habe & Ito, 1980 ナガモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980 ウスカワモスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>perryi</i>(Jay, 1856)モスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>ainos</i> Kuroda & Kinoshita, 1956 クマモスソガイ</p><p>ウスカワモスソガイ<i>V. n. limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980のタイプ産地は,北海道南部の岩代Iwashiro沖として記載されたが,北海道には岩代という地名は存在せず,岩内Iwanai沖であることが確認できた。しかしながら,ホロタイプの再調査により本タクソンのタイプ産地は詳細地名の特定されない北海道と訂正される。</p><p>本論文で取り扱った標本は全て北海道大学総合博物館分館水産科学館及び,蘭越町貝の館に所蔵されている。</p>
著者
岡野 元哉 和田 年史
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1-4, pp.58-62, 2012-07-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
21

We investigated size structure and reproduction of violet shell Janthina prolongata stranded on the coast of Iwami-cho in eastern part of Tottori Prefecture, southwestern Sea of Japan, on 27 September, 2010. Shell length (SL) exhibited a bimodal size distribution with a range of 6.08–40.36 mm. Our results also indicated that individuals of more than 27.4 mm SL laid egg capsules under their bubble raft. Moreover, there was a significant positive correlation between the length of egg capsules and SL. Larger individuals had shrunken and differently colored egg capsules on the forefront of bubble raft, suggesting that J. prolongata might lay egg capsules intermittently.
著者
Roland Houart
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.27-38, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
27

エントツヨウラク属Siphonochelus Jousseaume, 1880の日本産の2種,エントツヨウラクS. japonicus A. Adams, 1863とニッポンエントツヨウラクS. nipponensis Keen & Campbell, 1964の同定には著しい混乱があった。これはS. nipponensisのパラタイプの誤同定に寄るところが大きい。本タクソンのホロタイプは寺町コレクションに(現在は鳥羽水族館所蔵),パラタイプはスタンフォード大学の地学コレクションに保管されているが,後者の方がのちの多くの論文に図示されている。このたび,鳥羽水族館所蔵のS. nipponensisのホロタイプの写真を基に再検討を行った結果,パラタイプは未記載と考えられる別種の未成熟個体であることがわかった。一方のS. japonicusの方もホロタイプが失われていることで,混乱している状況があったため,ネオタイプを指定することで同定を確定させた。さらに,モザンビークからエントツヨウラクに近似した1新種を記載し,日本産の2種を含む既知種と比較を行った。Siphonochelus japonicus A. Adams, 1863エントツヨウラク本種は南アフリカのS. arcuatus(Hinds, 1843)の異名とされることが多かったが,より小型で膨らみが強く,縦張肋は尖らず丸みが強いことで区別される。波部(1961:続原色日本貝類図鑑)は初めて本種を正しく図示している。土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)がこの名前で図示しているのは,未記載の別種と思われる。Siphonochelus nipponensis Keen & Campbell, 1964ニッポンエントツヨウラク従来しばしばエントツヨウラクと混同されており,例えば土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)が本種として図示しているのは,エントツヨウラクである。エントツヨウラクと比較して,貝殻はより細長く伸び,後水管がやや平たく伸長する。Siphonochelus mozambicus n. sp.(新種)殻は本属としては小型,殻長/殻径比2.0,やや幅広い槍の穂先形。縫合下の段差は非常に狭く,弱く凹状となる。原殻はやや大きく1.5~1.75層,平滑で幅広い。成殻は最大4層。各螺層に4本の断面が丸い縦張肋がある。後水管は基部がやや平たく,開口部は丸く細まり,殻軸に対して70°の角度となる。殻口は小さく卵形で連続する。前水管は短く,殻長の19~21%,基部は太く,先端に向かって急激に細まり,直線的あるいは弱く背部へ曲がる。タイプ標本:ホロタイプMNHN IM-2000-33180,殻長6.1 mm。タイプ産地:モザンビーク海峡,25°11´S, 35°02´E,水深101~102 m。著者は当初本種をエントツヨウラクに同定していたが,のちに追加標本を調査することにより,種レベルで区別されることが分かった。エントツヨウラクは本種よりも明らかに大型で膨らみが強く,縫合下の括れが浅い。
著者
幡野 真隆 石崎 大介
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3-4, pp.99-104, 2016-11-17 (Released:2016-12-10)
参考文献数
20

Feeding experiments on juveniles of the freshwater pearl mussel Hyriopsis schlegeli were conducted using upwelling chambers. Growth of juveniles mainly fed with a mixture of two green algae, Chlorella homosphaera and C. vulgaris, in 2013, was compared with that of specimens fed only with C. vulgaris in 2012. Juveniles in 2013 grew much faster than those in 2012 and their mean shell length exceeded 20 mm, achieving record maximum size. The result implied that using upwelling chambers and feeding small green algae are effective for successful culture of H. schlegeli.
著者
森井 悠太
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1-4, pp.15-26, 2019-05-15 (Released:2019-06-06)
参考文献数
33

森林の皆伐は森林生態系へ壊滅的な損害を与えうる。皆伐によって森林生態系の生物量や種多様性が著しく減少することが知られている。しかしながら,皆伐の長期的な影響を評価した研究は少ない。本研究では,原生林と二次林の林床土壌中の陸産貝類相を定量的に調査し,過去の皆伐の影響の評価を試みた。北海道,黒松内低地帯に位置するブナの優占する原生林と二次林をそれぞれ2箇所ずつ調査地とし,調査地それぞれの林床に50-cm × 50-cmの区画をそれぞれ6箇所,林床に設置した。リター層中の陸産貝類を目視で摘出したのち,双眼実体顕微鏡を用いて種を同定した。原生林と二次林との間で種密度と個体密度を比較したところ,種密度・個体密度共に二次林よりも原生林において有意に高い値が示された。原生林2箇所のうちのひとつ,歌才ブナ林では特に陸産貝類相の多様性が高く,50-cm × 50-cmの区画で平均239.2個体・7.2種もの陸産貝類が採集された。一方,二次林では2箇所の平均で12.3個体・4.8種を記録するのみであった。その中でも,殻長2.0 mm以下の微小貝の個体密度が二次林において有意に低かった。加えて,成長錐を用いて二次林の樹齢を推定した結果から,調査対象とした2箇所の二次林はいずれも100~150年前に伐採されたことが示された。これらの結果は,森林伐採が100年以上にも渡って林床の陸産貝類相に影響を与えることを示している可能性がある。
著者
陳 充 奥谷 喬司 梁 前勇 邱 建文
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1-4, pp.29-37, 2018-06-08 (Released:2018-06-29)
参考文献数
34

南シナ海北部,中国海南島南西沖で新しく見つかったメタン湧水域“海馬湧水”(水深1,372 m~1,398 m)からシロウリガイ類の未記載種が発見されたので新種として記載した。“Calyptogena” marissinica n. sp. ハイナンシロウリガイ(新種・新称)ホロタイプの殻長は103.7 mmであるが,パラタイプの一つ(死殻)は殻長188.0 mmに達する。この類としてはやや太短く,殻高は殻頂の後方で最大となり殻長の20%前後。殻皮は光沢のある藁色で,成長脈が著しい。月面も楯面も無い。靭帯は後背縁の1/2に達する。右殻の中央主歯(Fig. 3: 1; 以下同様)は三角錐状で殻頂下主歯前肢(3a)は弱いが後肢(3b)は強く,前肢と150°をなす。左殻の中央主歯は二叉し(2a, 2b),殻頂下前主歯は不明瞭であるが,後主歯(4b)は放射状に配置する。歯丘(nr)はよく発達する。殻頂下洞は無い。備考:本種のミトコンドリアCOI領域のデータから,本種は南海トラフの水深2,084 mから記載されたニヨリシロウリガイCalyptogena similaris Okutani, Kojima & Ashi, 1997と同じクレードに入ることが明らかである。ニヨリシロウリガイとは一層細長く湾入した腹縁を持つことなどから一見して区別ができるが,現在いわゆる広義のCalyptogenaは形態よりも分子系統解析によって属が細分化されつつあるのにも拘らず,ニヨリシロウリガイは何れの既存の“属”にも配置されていない現状から,本新種の属位は敢えてCalyptogenaのままとして扱った。
著者
山崎 友資
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1-2, pp.41-52, 2008-08-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
32

津軽海峡より採集されたシャクシガイ科の新種を記載する。ホロタイプは2003年に津軽海峡北海道側大陸斜面から採取され,その後,2006年に北海道大学水産学部練習船うしお丸がおこなった津軽海峡本州側大陸斜面の底生生物群集の調査からも確認した。本種はAllen & Morgan (1981) の分類に従って,シャクシガイ属 Cuspidaria の Rhinoclama 亜属に分類される。しかし,最近の研究では Rhinoclama 亜属を属として扱う傾向があること(Krylova, 1994; Coan et al., 2000; Marshall, 2002; J. Poutiers, pers. comm.,2007),さらに Rhinoclama 亜属の嘴部形態を比較・検討したところ3グループに分類できることから,著者は Rhinoclama を属として扱った。以下に,3グループの特徴と所属する種を記述する。1) brevirostris species-group (= Austroneaera 亜属):嘴部の発達は微か。所属する種は abrupta, aupouria, brevirostris, brooki, dorsirecta, finlayi, raoulensis, similis, tangaroa。2) alta species-group (= Rhinoclama 亜属の1部分):嘴部は直線的に発達する。所属する種は alta, dubia, halimera, semistrigosa, testai。3) adamsi species-group (= Rhinoclama 亜属の1部分):嘴部は上を向く。所属する種はadamsi, benthedii, filatovae, nitens, notabilis, rugata, simulans, teres, tsugaruensis n. sp., valdiviae。現在,以下の3種については,分類学的位置づけが不明確なため,これら3グループには含めない; imbricata, semipellucida, trailli。土田・黒住(1996)によって岩手県大槌湾中央部から Rhinoclama sp. として無図版で報告された種類(CMB-ZM 114012)は,本種と同一種であることが判明したので,この標本もパラタイプに指定した。ウシオシャクシガイ(新種・新称)Rhinoclama (Rhinoclama) tsugaruensis n. sp.貝殻は本属としては小型,殻長は 5.87 mm,球形,膨らむ,滑らか,白褐色。嘴部は短く,上を向き,新鮮な標本では,淡い黄色の殻皮をかぶる。成長線は共心円状で弱く,嘴部に向かうにつれて強くなる。殻頂は中心より外れ,後ろに傾く。原殻1はおおよそ 200 μm,楕円型で滑らか。原殻2はおおよそ10 μm,滑らか。前縁は丸く,滑らかに縁取られる。前腹縁は弱く膨らむ。嘴状部には2つの稜角があり,背稜角はたいてい背縁と平行で,腹稜角は殻頂から腹縁の後部境界へ斜めに走る。背稜角はたいてい不明瞭であるが,明瞭となるものもある。右殻には明瞭な前鉸歯と背鉸歯があり,内部の腹縁は,左殻の狭い腹縁と一致して重なる。左殻には前鉸歯も背鉸歯もない。内部の外套痕は広く湾曲し,深く凹み,深い部分でさらに凹むことで特徴付けられる。貝殻は膨らみ,後部は平坦で両殻の境界は,腹縁の共心円状の成長線によって区別できる。和名のウシオは,北海道大学水産学部練習船うしお丸に由来する。学名の tsugaruensis は,採集地の津軽海峡に由来する。タイプ産地 : 津軽海峡北海道側斜面水深 25 m。分布 : 津軽海峡北海道側斜面水深 25 m ~本州側斜面 80 m ~200 m。岩手県大槌湾中央部水深 52 m ~55 m。
著者
沼子 千弥 築山 義之 小藤 吉郎
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.153-163, 2006
参考文献数
13

ヒザラガイ類は歯舌の中に主成分として磁鉄鉱(Fe_3O_4)を持つことで知られている。先行研究では無機成分により鉱物化された第二側歯の形成過程から,ヒザラガイ類を2,3のタイプに分類していた。本研究では,ヒザラガイAcanthopleura japonicaの歯冠部に含まれる鉱物成分とそれらの2次元分布を求めるために,X線回折(XRD)とX線マイクロプロープアナライザー(EPMA)を用いて研究を行った。XRDにより磁鉄鉱(Fe_3O_4),針鉄鉱(α-FeOOH),鱗鉄鉱(γ-FeOOH),ハイドロキシアパタイト(Ca_5(PO_4)_3(OH))など複数の結晶成分が検出された。EPMAにより歯冠断面の2次元分布においてFeと(Ca,P)の分布が異なることがあることが示された。これらの結果は,歯の構成成分について,どのような種類の鉱物を,歯舌の形成過程の中のどのタイミングで,歯冠の内部のどこにどのような状態で形成するかを緻密にコントロールした,ヒザラガイの生体鉱物化システムを明らかにした。また,これらの結果より,ヒザラガイの第二側歯の形成過程は,5つの段階に分類できることが分かった。
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.53-64, 2018

<p>熱帯および亜熱帯の河口域では複数種のアマオブネガイ類が共存している。同所的に分布する4種のアマオブネガイ類(シマカノコ,ドングリカノコ,ツバサカノコ,イガカノコ)について石垣島のマングローブ域において調査を行い,微細な分布パターンを把握した。調査は2006年の1月と7月の2回行い,28 m<sup>2</sup>の調査地を25 cm毎に碁盤目状に区切り,各々の枠内にいたアマオブネガイ類の個体数を種ごとに計数した。Moranの<i>I</i>指数より,両月とも4種の分布は正の空間的自己相関を示すことがわかった。次に,空間的なランダム効果と固定効果として枠ごとの潮位高を考慮にいれた条件付き自己回帰モデルを4種の微細分布に適合させた。その結果,種間および調査時期で微細分布に違いがあることがわかり,潮位高は4種の分布に有意に影響するが,1月のシマカノコと7月のツバサカノコの場合以外では空間的自己相関の効果が卓越することがわかった。マングローブ域のアマオブネガイ類の個体数を推定する際には,空間的自己相関の影響を考慮しないと誤差が大きくなると考えられた。</p>