著者
金 玉実
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.332-345, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
18
被引用文献数
14 15

中国におけるアウトバウンド観光は,経済発展と規制緩和によって大きく発展しており,日本を訪れる中国人観光客も著しく増加している.本研究の目的は,日本における中国人旅行者の観光行動にみられる空間的特徴を明らかにすることである.中国の旅行会社が企画する訪日パッケージツアーの旅程を分析した結果,空間的には,東京と大阪を結ぶ中心軸が明らかになり,両都市における買物と名所見物が観光行動の中心となっている.これに,大都市近郊の温泉や火山,景勝地などを周遊する観光行動が付加されている.中国人の訪日観光に対しては,依然としてさまざまな制約が存在し,そのため,1回の旅行で多数の観光地訪問と観光体験が求められている.
著者
木村 広希 川島 英之 日下 博幸 北川 博之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.323-331, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

気候学研究においては,特定の気圧配置を示す事例を選ぶ必要から,過去の気圧配置を分類することがある.気圧配置の分類は多くの場合,目視で行われており,長期間かけて行うことや複数人で行うことがある.これらの場合,判断にぶれが生じたり,分類結果が研究者の主観に左右されたりする可能性がある.本稿では,この気圧配置の分類に,パターン認識手法であるサポートベクターマシンを用いて,分類を自動化することを提案する.本研究では,日々の気圧配置からの西高東低冬型の検出を目的とし,実験により提案手法の有用性を検討した.JRA-25のデータを用い,1981~1990年を学習期間,1991~2000年を検証期間として実験を行った結果,最良で90%以上の適中率で西高東低冬型を検出できることがわかった.これより,学習データの与え方に主観が影響するものの,分類の際の負担を軽減でき,判断基準が変わることなく,ある程度の精度で気圧配置を分類できると考えられる.
著者
大橋 めぐみ 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.91-117, 2009-03-01 (Released:2011-05-31)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

従来型の食料供給体系に対するオルタナティブな流通としてショートフードサプライチェーン(SFSCs)が注目を集めている.本研究では,1991年の牛肉輸入自由化以降2004年までの岩手県産短角牛肉流通の動態を,供給連鎖の短縮・単純化,密な主体間相互作用,特定の場所との密な相互作用というSFSCsの動的システムとしての三つの特徴の効果発現の条件に焦点を当てて分析し,SFSCsの安定的な存立のための条件を探った.本研究の事例は特に,特定の場所との関係強化という方向で安定化を図ってきたが,ローカル性による差別化は容易ではなく,消費者の嗜好への対応や行動原理への地道な働きかけが必要であった.同時に,需給調節や資源循環型技術の実現といった課題を克服し,三つの特徴の効果発現を通じてSFSCsの安定的な存立を図るには,流通業者や生産者の公益性や助け合いを重視する行動原理の維持・強化が重要であった.
著者
佐藤 峰華 岡 秀一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.144-160, 2009-03-01 (Released:2011-05-31)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

シラビソAbies veitchii,オオシラビソA. mariesiiの優占する日本の亜高山針葉樹林帯には,いわゆる縞枯れ現象wave-regenerationが発現する.これは,天然更新の一つのパターンであり,特に北八ヶ岳にはその広がりが顕著である.北八ヶ岳・前掛山南斜面における亜高山帯針葉樹林で,空中写真判読を行い,いくつかの更新パターンを検出した.さらに,その違いが何に由来するのかを検討するために,現地で林分構造,齢構造,ならびに土壌条件について調査を行った.その結果,成熟型更新林分,縞枯れ型更新林分,一斉風倒型更新林分,混生林型更新林分という構造と更新パターンを異にする四つの林分が識別された.これらの林分が出現する範囲はほとんど固定されており,縞枯れ型更新林分は,南向き斜面のごく限られた領域にしか生じていなかった.これらの林分の配列は土壌の厚さや礫の混在度ときわめてよい対応関係を持っており,縞枯れ現象を発現させる自然立地環境として,斜面の向き,卓越風向などとともに,土壌条件が重要な役割を果たしていることが明らかになった.
著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.26-45, 2009-01-01 (Released:2011-05-12)
参考文献数
53

本稿は,宇部興産の企業城下町である山口県宇部市を事例として,産学官連携による主体間関係の変容に関する実態解明を通じて,産学官連携が産業集積の質的変化に果たしつつある役割を考察する.従来の主体間関係は,宇部興産とその下請企業から成る垂直的な構造であった.一方,1950年代の産学官連携による公害の克服や1980年代のテクノポリスの指定など,大学と企業・自治体との関係も構築され,今日の産学官連携の基盤となった.1990年代以降,産学官連携の進展により,宇部興産に加えて山口大学が主体間関係の中核になっている.宇部興産は,山口大学と包括的連携を結び,製品開発の高付加価値化を進めている.一方,中小企業は,技術等を獲得し,取引相手や共同研究相手を拡げている.特に宇部興産の下請企業にとって,産学官連携は,脱下請化を促進させる可能性がある.このように産学官連携は,産業集積のロックインを解放し,それを水平的構造に転換させるという重要な意味がある.
著者
堀 和明 清水 啓亮 谷口 知慎 野木 一輝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.193-203, 2020-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
19

石狩川下流域には自然短絡で生じた小規模な三日月湖が多数分布する.本研究では調査者自身が容易に扱える,エレクトリックモーターを取り付けたゴムボートおよびGPS付き魚群探知機を用いて,5つの湖沼(ピラ沼,トイ沼,月沼,菱沼,伊藤沼)の測深をおこない,湖盆図を作成した.また,表層堆積物を採取し,底質分布を明らかにした.すべての湖沼で水深の大きい箇所は河道だった時期の曲率の大きな湾曲部付近にみられた.ピラ沼や菱沼,伊藤沼の湾曲部では内岸側に比べて外岸側の水深が大きく,蛇行流路の形態的特徴が保持されている.一方,トイ沼北部や月沼は最深部が外岸側に顕著に寄っておらず,全体的に水深や湖底の凹凸も小さい.このような特徴は埋積開始時期の違いを反映していると考えられる.すべての湖沼でシルトや粘土による埋積が進んでおり,特にピラ沼と菱沼の水深の大きな地点では有機物を多く含む細粒土砂が表層に堆積していた.
著者
青山 雅史 小山 拓志 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.128-142, 2014-03-01 (Released:2019-07-12)
参考文献数
48
被引用文献数
2 1

2011年東北地方太平洋沖地震で生じた利根川下流低地における液状化被害の分布を詳細に示した.本地域では河道変遷の経緯や旧河道・旧湖沼の埋立て年代が明らかなため,液状化被害発生地点と地形や土地履歴との関係を詳細に検討できる.江戸期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道や,破堤時の洗掘で形成された旧湖沼などが,明治後期以降に利根川の浚渫砂を用いて埋め立てられ,若齢の地盤が形成された地域において,高密度に液状化被害が生じた.また,戸建家屋や電柱,ブロック塀の沈下・傾動が多数生じたが,地下埋設物の顕著な浮き上がり被害は少なかった.1960年代までに埋立てが完了した旧河道・旧湖沼では,埋立て年代が新しいほど単位面積当たりの液状化被害発生数が多く,従来の知見とも合致した.液状化被害の発生には微地形分布のみならず,地形・地盤の発達過程や人為的改変の経緯などの土地履歴が影響を与えていたといえる.
著者
平松 晃一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.283-302, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
57
被引用文献数
1

本稿は,建造物や景観の保存によって過去を示すとされるヘリテージの創出において,保存建造物はどのように選択されるか,また過去がどのように示されるかを明らかにする.事例とする象の鼻パークは,2009年,「横浜港発祥の地」をテーマに創出されたヘリテージである.象の鼻パークは,さまざまな公的事業によって,次々と新たな役割を課せられた.このため,個々の建造物の存廃決定過程において,歴史的な価値づけは,美的,経済的な価値づけとの対立を回避するよう,柔軟に変化しながら行われた.その結果,保存建造物の選択は,ヘリテージ全体にはたらく意図にのみ従うのではなく,流動的なものになり,個々の選択との整合性を図るためにヘリテージ全体の価値づけが見直されることもあった.また,象の鼻パークで示される過去は,計画の途上いつでも,さまざまな基準で取捨選択でき,さまざまなかたちで示すことができる可鍛性の高い資源として利用された.
著者
三浦 尚子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.234-249, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
61
被引用文献数
5

本稿は日本の精神医療改革の新たな理念となる「地域移行」を,M. セールのエクスティテューションextitutionという施設/制度の対置概念を用いて,病院施設/医療制度の「内」と「外」を組み合わせて考察するものである.「地域移行」とは,長期在院者が相談員などの病院外の制度に帰属する者と共に,「閉鎖性」の病棟から「開放性」の病棟,病院近隣,前住地へと向かう多元的なプロセスであり,長期在院者は外の日常世界に慣れることでトラウマを軽減させ,人間としての尊厳を回復させている.ただし,「地域移行」は実際のところ行きつ戻りつの進捗で,国が想定する支援期間よりも時日を要するものであった.「地域移行」に参与する相談員の不足,基礎自治体ごとに異なる対応に加え,精神科病院の偏在とそれを活用した「転院システム」が存在する東京都では,長期在院者や相談員らの努力と偶有的な状況に依拠することで「地域移行」の実現が可能となっている.
著者
石原 潤
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.73-90, 2009-03-01 (Released:2011-05-31)
参考文献数
47
被引用文献数
1

中国の集市(伝統的市)は,定期市と毎日市からなり,長い歴史の中で発展をとげ,民国期には5万余が存在していた.革命後の社会主義化の流れの中で,集市には一定の規制が加えられ,集市の数は次第に減少し,特に左寄りの政策が実行された時期には取引が衰退した.しかしながら改革開放期に入ると,集市取引はむしろ奨励され,多数の集市が復活・新設され,集市取引高も年々急拡大した.都市部では出稼農民や失業者が,農村部では兼業農民が市商人に参入した.ところがこのような集市の繁栄にも,近年,明らかに陰りの傾向(集市数の減少,集市取引高の停滞,小売販売総額に対する集市売上高の割合の低下)が見て取れる.常設店舗の叢生,モータリゼーションの進展,退路進庁政策,スーパーマーケットの普及等が影響していると考えられる.
著者
川又 基人 土井 浩一郎 澤柿 教伸 菅沼 悠介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.1-16, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
48
被引用文献数
1

日本南極地域観測隊の測地定常観測による有人航空機で撮影されたアーカイブ空中写真に対し,Structure from Motion多視点ステレオ写真測量(Structure from Motion with Multi-View Stereo Photogrammetry: SfM–MVS)処理を行うことで,精密な数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)の作成を試みた.その結果,東南極宗谷海岸のスカルブスネスにおいて,氷食微地形や基盤岩の節理といった微起伏をも判読可能なDSMを作成できた.作成したDSMには,SfM-MVS処理特有の歪みが確認されたが,歪みの3次元曲面トレンドを推定し補正することによって,歪みを軽減することができた.また,今回作成したDSM(画像取得年1993年)と国土地理院作成のDSM(画像取得年2009年)の比較から,露岩上の氷河湖において各DSMの平均二乗誤差を大きく上回る20 m以上の水位変動が起きたことが明らかとなった.本手法で作成したDSMは,地形研究はもちろん氷床質量収支や氷床縁監視などの地球環境変動研究の基礎データとして応用が期待できる.
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.364-380, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
3

本稿の目的は,スポーツの地理学および教育の地理学の観点から,高校運動部と地域社会の機能的結びつきの実態を把握し,過疎地域における高校運動部の位置づけを明らかにすることにある.宮崎県の山間部に立地する高千穂高校の剣道部は,保護者や卒業生,町内関係機関や県教育委員会の支援を得て充実した練習環境を確保して競技力の向上を図り,すぐれた競技成績を残してきた.その活躍は町民の誇りとなり,多くの町民が剣道部を同校を代表する部活動として,そして高千穂町を「剣道の町」と認識するにいたっている.剣道部は同校にとって経営資源の1つとなっており,さらに近年は地域経営においても活用すべき地域資源の1つとみなされている.過疎地域の高校運動部は学校の魅力の向上と地域活性化の有効な手段となりうるといえるが,その推進にあたっては,学力・進路保障を中心とする生徒や保護者からの期待に応える教育の実践を前提とする必要がある.
著者
申 知燕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.1-23, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究は,ニューヨーク大都市圏におけるコリアタウンを事例に,グローバルシティにおけるトランスナショナルな移住者の移住行動を明らかにしようとした.戦後の資本主義と新自由主義経済,アメリカの移民政策の変化は,ニューヨークにおいてさまざまな韓人移住者集団を発生させた.彼らは,アメリカでの永住を目標に1980年代までに移住した旧期移住者と,1990年代からトランスナショナルな移住を行った高学歴・高所得の新期移住者に分類できる.旧期移住者は集住地を経て郊外へ再移住しており,生活全般においてコリアタウンに依存する.一方で,新期移住者は大都市圏各地に分散して居住しながら,人的ネットワークの交差点,もしくは韓国式のサービスを得る場所としてコリアタウンを利用する.このような動きは,新興国の経済成長段階が移住者集団の性格を変化させ,その多様な移住者集団によって,グローバルシティの都市空間が変化していることを意味する.
著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.269-270, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
3