著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.447-467, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

社会調査の回収率は,標本から母集団の傾向や地域差を適切に推定するための重要な指標である.本研究では,回収率の地域差とその規定要因を明らかにすることを目的として,全国規模の訪問面接・留置調査を実施しているJGSS(日本版総合的社会調査)の回収状況個票データを分析した.接触成功および協力獲得という二段階のプロセスを区分した分析の結果,接触成功率・協力獲得率には都市化度や地区類型によって大きな地域差がみられた.この地域差は,個人属性や住宅の種類などの交絡因子,さらに調査地点内におけるサンプルの相関を考慮した多変量解析(マルチレベル分析)によっても確認された.したがって,回収状況は個人だけでなく地域特性によっても規定されていることが示された.しかし,接触成功率・協力獲得率には説明されない調査地点間のばらつきが残されており,その理由の一つとして,ローカルな調査環境とでも呼びうる地域固有の文脈的要因の存在も示唆された.
著者
岡部 遊志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.193-213, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
35

本稿ではフランシュ・コンテ地域圏を事例として,多層化した政府間関係に注目しながら,競争力に重点を置いた地域政策の展開を分析する.地域政策の制度的側面に関して,権限は地域圏政府とグラン・ブザンソンに配分されているが,予算的な裏付けは地域圏政府のみにあり,政府間関係は地域圏政府を中心に成り立っている.実際においては,地域圏政府が競争力発揮の可能性が高い地域を支援し,他の地域には,その他の主体が予算負担することで配慮がなされ,結果として,地域圏内全体として競争力の向上が図られるかたちになっている.逆に実際の産業の転換に際しては,地域圏政府以外の主体も大きく関わっている.地域の中心的産業であった時計産業の衰退に対して,フランシュ・コンテ地域圏では多くの行政主体が関わってマイクロテクニクス産業への転換を促している.こうした方向への合意は必ずしも十分ではなかったが,地域圏政府などに刺激され,企業や研究機関,地方行政主体などが産地形成に向かって一体となって動いている.
著者
宋 明杰 阿部 康久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.214-235, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
40
被引用文献数
2

本稿では,中国の自動車メーカーにおける部品の発注方式の変化について明らかにした上で,このような変化がサプライヤーの選択や分布にどのような影響を与えたのかという点について検討した.調査対象として大手民営メーカーである吉利汽車の低価格車と中高級車を事例として分析を行った.中国メーカーの発注方式は,サプライヤー間の競争を促し,調達コストを下げるために複数のサプライヤーから調達する複社発注が一般的であった.これに対して吉利では,近年,開発・生産を始めた中高級車の場合,外資系(特に日系)完成車メーカーと同様に,各部品に対して一つのサプライヤーから部品を調達する一社発注を行う例が増加している.加えて,高い技術力を持つ大手サプライヤーから一次部品に近いものを一括発注する例が増えており,品質が向上した反面,調達コストは上昇している.サプライヤー分布を見ると,特に高付加価値部品については,省内の中小サプライヤーからの調達は減少し,長江デルタ内外にある外資系等の大手サプライヤーから調達するようになっており,サプライヤーの分布は広域化している.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.22-39, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
28
被引用文献数
5 6

本稿は,2006年の介護保険制度改正に伴い新設された地域密着型サービスの地域差の実態とその要因について明らかにした.地域密着型サービスの地域差は,従来の介護保険サービスに比べて大きく,小規模市町村を中心としたサービスの未実施市町村と,充足指数の高い人口1~5万人程度の中規模町村の存在が要因となって生じていた.サービスの未実施市町村は小規模市町村に多いが,これは市町村による整備目標の未設定という,市町村の意向が反映された結果である.一方で大都市圏の中核都市では整備目標を設定したにもかかわらず,事業の採算性を考慮した事業者の消極的な参入という,事業者の地域的な参入行動が大きく影響していた.このように,サービスの地域差には市町村施策が少なからず影響しているものの,最終的なサービス供給量を規定している事業者の参入行動が大きな影響を与えていることが明らかとなった.
著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.40-57, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
115
被引用文献数
2 2

本稿の目的は,進化経済地理学の主要業績を読み解くことを通じて,進化経済地理学の発展経路を探索し,今後の可能性を検討することである.進化経済学は,ルーティンを鍵概念として議論を展開しており,議論の特徴の一つである方法論的な多様性や開放性は,進化経済地理学に受け継がれている.重層的空間スケールにおける経済システムの進化を議論する進化経済地理学のうち,本稿では,経路依存性と一般ダーウィニズムのアプローチの議論動向を取り扱った.前者のアプローチでは,地域の発展経路を描く手法が開発される一方で,経路依存性と均衡・非均衡との関係が再考されている.後者のアプローチでは,生物学の概念が導入され,特に「関連した多様性」は関心を呼んでいる.今後の可能性として,理論と実証をつなぐ中間概念の整備,有意義な事例研究の蓄積と既存研究の再評価,重層的な空間スケールにおける多様な主体の進化を取り扱うことを指摘した.
著者
高阪 宏行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.572-591, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
22
被引用文献数
5 3

本研究は,東京都のNTTタウンページデータベースに掲載されている164種類の約25万店舗に対し,近接性と集積量の2基準から商業集積地を設定し,GISを利用して商業集積地の規模,機能構成,分布を解明することを目的とする.東京都では1,143の商業集積地が設定され,規模に基づき5階層に区分された.最高位の商業集積地数は10,高位が13,上位が46,中位が269,低位が805識別された.階層ごとに商業集積地の機能構成を分析した結果,階層の制約を受けて立地する機能が125種類存在した.階層の制約を受けずに立地する店舗種類は39種類見出され,いずれの階層においても店舗の約40%を占めていた.さらに,立地パターンとしては,区部では最高位・高位・上位の商業集積地は分散分布をとり,区部と多摩地域の低位の商業集積地は,集塊分布であった.また,豊島区を例に,供給の地理を商店街レベルと店舗レベルで再現できた.
著者
市川 康夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.324-344, 2011-07-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
31
被引用文献数
6 5

本稿は,長野県飯島町を事例に農業集落という限られた範囲を超えて設立された広域的地域営農の存立形態を,それを構成する多様な主体の役割やそれら相互の連関の分析から明らかにすることを目的としている.研究対象地域では,農業従事者の高齢化が進み,農外就業機会に恵まれていることから小規模兼業農家が多く存在している.また,中山間農業地域で特徴的な傾斜地水田が卓越していることから,草刈りを中心とした畦畔管理が,飯島町の農業生産性向上を阻害している.この地域では,複数の農業集落から構成される地区を単位に,多様な主体を取り込んだ広域的地域営農が展開している.各主体がそれぞれの役割を担いながら相互に連携していること,さらに小規模兼業農家や高齢者,非農家の労働力を農作業・農地管理作業に積極的に活用することが,広域的地域営農存立の重要な基盤となっている.
著者
堀 和明 廣内 大助
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.358-368, 2011-07-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

2004年7月の福井豪雨は足羽川の谷底低地に大きな被害をもたらした.特に人工堤防の決壊は, 多くの地点に破堤堆積物を残した.本研究では現地調査や空中写真判読にもとづき, 福井市高田町における破堤堆積物の特徴を記述した.また, 低地上の過去の農地配列や低地を構成する地層をもとに, この地域で生じてきた洪水の性質も検討した.破堤堆積物の特徴は以下の通りである.(1)人工堤防や河床から供給された可能性の高い巨礫が破堤箇所前面にローブ状あるいは舌状に広がる.(2)砂質堆積物は洪水流の流下方向に200 m以上にわたって分布する.層厚は最大80 cm程度であり, 下流側への層厚の減少は顕著ではない.(3)砂質堆積物が分布する南側では乾裂のみられる泥質堆積物が地表面付近を覆う.また, 耕地整理前の農地配列は今回と同様の洪水が繰り返しこの低地で生じてきたことを示唆する.
著者
前田 洋介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.220-241, 2011-05-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
114
被引用文献数
3 4

本稿は,英語圏地理学で展開されてきたボランタリー・セクター(VS)研究の歩みと論点を整理することで,日本における研究の方向性を探ることを目的とする.1970年代後半から1980年代にかけ,Julian WolpertとJennifer Wolchを中心に,地理学でVSが本格的に研究されるようになった.先進資本主義国において,福祉国家の再編に伴い,VSが公共サービスの提供主体として期待されるようになる中,地理学は第1に,VSの空間的特徴を示してきた.また,Wolchにより「シャドー・ステート」が議論されてからは,公的資金を通じた政府とVSの関係性に最も焦点があてられ,その背景にある新自由主義の進展とともに批判的に検討されてきた.しかし,最近では,シャドー・ステート概念ではとらえられない両者のより複雑な関係性も示される中,新たな枠組が求められているといえる.その中で,近年のボランティア等の担い手をめぐる研究は,地理学のVS研究を前進させる一つの鍵になると思われる.
著者
中窪 啓介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.274-289, 2011-05-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

沖縄農業では産地の水平的組織化による農産物の安定供給の体制は十分に機能していない.本研究は農協共販における商品のロットの確保と安定供給という視点から,農協の販売体制の構築と農協合併による変容,農家の流通選択に注目し,豊見城市のマンゴー産地の供給体制を明らかにした.市ではマンゴー導入当初から農家と農協との密な関係が築かれ,農協は高い集荷率を背景に共選共販の実施や市場外の販路開拓など生産者価格の向上と安定に向けた販売体制を構築していった.だが農協合併後の販売事業の変容により農協共販離れが顕在化し安定供給の体制は揺らいだ.農協外出荷では高品質のマンゴーが高価格で取引されており,特に篤農家には農協外出荷への強い誘因が働いていた.農協は集荷率維持のため農家を囲い込む共選参加の条件を課した.産地の課題としては,より有利な条件を引き出すためにさらに市場外での販路開拓を進めること,脆弱な営農指導の充実を図ることが鍵といえる.
著者
佐々木 亮道
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.145-159, 2011-03-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
25

庄内平野東縁に分布する活断層群のうち鳥海山南西麓(日向川以北)を調査対象とし, 当該地域における活断層の分布と変位地形の特徴を明らかにした.鳥海山南西麓付近では, 平野との境界付近に断続的に分布する小丘陵の西麓に比高の大きい断層崖が位置し, 東麓付近では地形面が逆傾斜したり逆向き低断層崖が存在したりする場合が多い.これらのことから, 小丘陵西麓には主断層である東傾斜の低角な逆断層が存在し, 東麓には副次的な西傾斜のバックスラスト(共役断層)が存在すると考えられる.一方, 酒田衝上断層帯の西側に隣接する連続性の良い丘陵(丸森丘陵)では, 東麓に比高の大きい断層崖が形成されていると推定される.平野沿いの断層群の第四紀後期の平均鉛直変位速度は, 北部では 0.5 mm/yr以下, 南部では0.7~0.8 mm/yr以上である.
著者
小川 滋之 沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.74-84, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

日本列島のヤエガワカンバ林は本州中部と北海道の一部に分布するが,分布を規定する要因には未解明な点が多い.本研究では,埼玉県外秩父山地において地すべり地の微地形と表層土壌に着目してヤエガワカンバ林の分布要因を検討した.ヤエガワカンバは,地すべりにより形成された緩斜面に多く,この中でも礫質土となる区域に集中して分布していた.礫質土区域は,数十年周期で発生する地すべりに由来する土砂礫が堆積した区域であり,外秩父山地で主要優占種となるコナラやミズナラの侵入が少なく抑えられている.地すべり地におけるヤエガワカンバの分布は,地すべりで緩斜面が形成されることにより,種子や実生が流失することなく定着しやすいことや,数十年周期で発生する地すべりにより開放地が形成されることが要因として考えられる.ヤエガワカンバは,この開放地にいち早く侵入して生長速度の速さから林分を形成していると結論付けた.
著者
吉田 真弥 高岡 貞夫 森島 済 Mario B. COLLADO
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.61-73, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

ルソン島中央平原に位置するパイタン湖の湖底堆積物において植物珪酸体分析を行い,過去およそ2,500年間の植生変遷について検討した.本地域では,堆積物の上位よりゾーン1~5の局地植物珪酸体帯が認められた.すなわち,コゴンを中心とする草本植生が卓越したゾーン5(2,460~1,410年前),草本植生とともに針葉樹による植生が増加したゾーン4(1,410~1,240年前),コゴン以外の草本種から成る植生が成立し木本種による植生も増加したゾーン3(1,240~1,150年前),コゴンやそれ以外の草本から成る植生とゾーン3とは異なる木本植生が成立したゾーン2(1,150~350年前),木本植生が著しく減少し栽培イネが卓越するゾーン1(350年前~現在)の五つである.森林に乏しい現在の植生景観の成立には人間活動が深く関わっていると考えられる.また,ゾーン5においてコゴンの草原が卓越することは,乾燥化などの人間活動以外の要因の影響も考えうる.
著者
足達 慶尚 小野 映介 宮川 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.493-509, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2 5

本稿では,ラオス中部のヴィエンチャン平野に立地するドンクワーイ村を対象として,1952年以降の水田の拡大過程と世帯増加・自然条件・農業政策との関連性を検討した.同村では,2005年時点で約90%の世帯が自給的な天水田稲作に従事している.天水田の開田は世帯数の増加に対応して進められ,その面積は1952年から2006年の54年間に約4.3倍に増加した.特に1980年代から1990年代にかけて急速に開田が進行し,雨季の河川の増水による湛水リスクのある低地へも天水田域が拡大した.政府による農業の集団化政策を受けて,村では1979年に農業組織の一形態である水田協同組合が組織されたが,生産米の分配方法に対する不満から大半の世帯は1年で脱退したため,同政策による天水田面積の増減は生じなかった.ただし,組合に残った一部の世帯は河川の氾濫原を利用した浮稲栽培や乾季の灌漑水田稲作を開始し,稲作形態が多様化した.浮稲栽培や灌漑水田稲作は,組合の解散後も受け継がれ,多くの村民が携わるようになったが,1997年以降の灌漑水田面積は微増にとどまっている.乾季作の作付面積は,割高な灌漑設備の維持・使用の費用と,雨季作の収穫状況を踏まえて増減調整がなされており,雨季作の不作時におけるセーフティー・ネットとしての性格を有する.
著者
渡辺 雅樹 岡 秀一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.465-478, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
27

本稿では,埼玉県南東部見沼田圃の耕作放棄地に注目し,植生分布の特徴とその成立要因を解明した.空中写真判読および植生調査を行った結果,1998年には調査地の大部分をヨシ群落が占めていたが,それ以降多くがセイタカアワダチソウ群落に変わり,ヨシ群落は水域の周辺に限定的に出現していた.地下水位,微地形,および土壌特性を対照すると,ヨシは地下水位が高いところ,セイタカアワダチソウは地下水位が低いところで群落を形成しており,地下水位が高くても,地表面の勾配や土壌硬度が大きいところには,セイタカアワダチソウ群落が出現することがわかった.こうした植生分布の変化は,水田耕作放棄による影響,2000年に造成された水域の影響,ならびに踏圧の影響によって生じたものと考えられた.
著者
佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.131-150, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

地方自治体は現在,行財政運営の効率化の手段の一つとして公共サービス民営化を進めているが,自治体の地域特性に起因して民営化導入は地域差が見られる.特に周辺地域の自治体は専門サービス業者の不足を中心に,民営化導入は困難である点が指摘されてきた.本研究は青森県三戸町の包括業務委託を事例に,周辺地域の自治体の地域特性に応じた民営化後のサービス供給体制の変化とその要因を考察した.三戸町の包括業務委託ではサービス内容の維持と,サービス供給に携わる現業部門従業者の増加が進められた.一方で,包括業務委託の目的の一つである経費削減は進んでいない.三戸町では委託開始後,町と民間企業との間で長期的なサービス運営の協力体制の構築を行う協働的関係が築かれる一方で,町がサービス内容の設定を行い続けている.こうした委託方式や運営が採られた理由として,雇用機会の確保とサービスの持続の二点を町が重視したことが大きい.
著者
高岡 貞夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.104-115, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
36

山地の斜面発達と植生構造との関係性を明らかにするために,梓川上流部のブナ林分布上限域を対象として,ブナ林冠木の分布の特徴を検討した.ブナの出現頻度は,斜面方位では南向き成分を持つ斜面で高く,地形的には尾根や山腹斜面上部を占める平滑斜面よりも,遷急線をはさんでその下方に位置する開析斜面において相対的に大きかった.南向き斜面にブナが多いのは,方位による気候条件の違いだけでなく,地質構造を反映して調査地の一部で斜面の開析が北向き斜面より南向き斜面に卓越することも関係している.平滑斜面と開析斜面とでブナの出現頻度が異なる原因の一部は土壌条件の違いであるが,調査地域全体で常にこの違いが認められるわけではなかった.林分構造に着目すると,緩傾斜の平滑斜面と急傾斜の開析斜面とでギャップ形成様式が異なることが,両斜面間でのブナの優占度の違いに関係していることが示唆される.
著者
小田 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.422-441, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿は,欧米都市社会における新自由主義的な政治経済政策の転換を背景に,NGO・NPOによる公益サービスが,都市の諸政策遂行に重要な役割を果たすようになった点に着目し,米国ミネソタ州ツインシティに流入した難民集団の定住過程を事例として,ホスト社会側のNPOによる,難民に対する職住斡旋支援とインナーシティ問題解決に向けた諸活動の実態を考察した.まず,統計分析の結果,インナーシティ問題や職住の空間的「ミスマッチ」が確認され,難民が,そうした都市問題に陥っている現状を明らかにした.また,支援活動を「郊外職住支援型」と「インナーシティ再活性化型」に分類して分析したところ,支援主体のNPOは,資金調達の柔軟性,現場との近接性,活動域の広範性等のNPOとしての特性を活かし,難民定住問題を都市貧困問題と読み替え,貧困層一般を対象とした制度や財源を利用しながら難民定住を支援していることが判明した.
著者
淺野 敏久 金 枓哲 伊藤 達也 平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.277-299, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
21
被引用文献数
10 6

韓国全羅北道のセマングム地域で大規模な干拓事業が行われている.同国最大の干潟を失うことや事業目的が不明確な公共事業の必要性への疑問などから,セマングム干拓問題は大きな社会問題となった.本稿ではこのセマングム干拓問題を事例として,地域開発に関連した環境問題論争が持つ空間的な特徴を,市民・住民運動団体の主張に焦点を当てて検討した.新聞記事による出来事の整理と5年間の断続的な現地調査(環境運動関係者への聞取り)に基づいた分析の結果,全国・道・地区という三つの空間スケールごとの「セマングム問題」の存在と,その時間的な変化が明らかになった.また,異なる空間スケールを射程に入れた環境問題の争点が,地域的に異なる論争の場において複層的に存在しており,全体としての「セマングム問題」は,各運動体の事情や思惑に応じて,交流や連帯という手段によって,構成・提起され続けていることも確認した.