著者
安田 正次 大丸 裕武
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.1-16, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
25

奥利根・奥只見の中央に位置する平ヶ岳の山頂周辺に分布する湿原は,多雪による多湿化によって成立したとされてきた.しかし,実際の調査データに基づいて湿原の成立を検討した研究はなく,湿原の形成要因は不明瞭なままであった.本研究では,湿原の分布と夏期の積雪の分布との対応を,衛星写真および現地調査によって詳細に検討した.また,積雪の分布に影響を与える冬季の風向を,偏形樹と雪庇から調査した.これらの調査の結果,積雪と湿原の分布は一致しており,積雪による日光の遮断や低温・湿潤な環境のために,樹木が生育できず湿原となっていることが確かめられた.湿原の一部では乾燥地に適応した植物種が認められたが,それらは冬季の強い風によって積雪が吹き飛ばされて積雪が消失するのが早い場所に成立していることが明らかとなった.こういった場所では,冬期に積雪による保護効果が得られないために乾燥害が起きて樹木が生育できないと考えられる.
著者
平野 淳平 大羽 辰矢 森島 済 財城 真寿美 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.451-464, 2013-09-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
32
被引用文献数
3 5

本研究では,東北地方南部に位置する山形県川西町において1830年から1980年までの151年間,古日記に記されていた天候記録にもとづいて7月の月平均日最高気温を推定し,その長期変動にみられる特徴について考察した.推定結果からは,1830年代と1860年代,および1900年代に寒冷な期間がみられ,これらの寒冷な時期が東北地方における飢饉発生時期と対応していることが明らかになった.また,20世紀後半には,1980年代から1990年代前半にかけての時期は寒冷であり,この時期の寒冷の程度は,1830年代や1900年代に匹敵する可能性があることが明らかになった.一方,温暖な時期は1850年代,1870年代~1880年代,および1920年代にみられた.1850年代前半には現在の猛暑年に匹敵する温暖な年が出現していたことが推定された.
著者
中村 努
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.288-299, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本稿では,川崎市北部において,医薬分業が大病院で実施されるのに伴い,ICTを活用して医薬品を安定供給できるシステムがどのように整備されたのかを明らかにした.流通システムの整備には,差別化の手段として流通システムへの大規模投資を行った医薬品卸の経営戦略と,薬局へのICTの導入率を高める役割を担った薬剤師会による仲介が不可欠であった.川崎市北部は医療サービスに対する需要が大きい,人口に比して薬局,病院,入院病床などの医療資源が不足している,医療資源の多くを大病院に依存している,といった大都市圏特有の医療環境を有する.こうした環境を踏まえ,医薬品卸は情報システムへの大規模投資を行い,薬剤師会はすべての薬局が医薬品にアクセスできるよう,個々の薬局の利害を代表して,ICTの導入を間接的に支援した.こうした環境に対応した関係主体の行動によって,医薬品の安定供給においてICTの機能が発揮されることが明らかになった.
著者
大石 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.248-269, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究では,荒茶取引における品質決定のあり方を考察することによって,静岡県牧之原市東萩間地区における荒茶供給構造を明らかにした.荒茶取引は荒茶工場の経営形態に規定されることから,荒茶工場の経営形態ごとに,茶商との取引形態を分析した.東萩間地区における荒茶工場は,個人自園工場,個人買葉工場,茶農協工場,株式会社工場に分類され,個人自園工場や個人買葉工場は特定の範囲の茶商との直接取引や斡旋業者を介した取引によって,茶商との密な取引関係を構築し,それが比較的高品質な荒茶供給につながっていた.一方で茶農協工場や株式会社工場は,斡旋業者を介した取引や農協共販による取引によって,広範囲にわたる茶商との経済的な関係を構築し,質よりも量を重視した荒茶供給を行っていた.その結果,東萩間地区では,荒茶工場に対する茶商の関与度および,生葉生産農家に対する荒茶工場の関与度によって,製品の質が規定されるという荒茶供給構造が形成されていた.
著者
佐藤 善輝 小野 映介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.270-287, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
46

鳥取平野北西部に位置する湖山池南岸の高住低地を主な対象として,完新世後期の地形環境変遷を明らかにした.高住低地ではK-Ahテフラ降灰以前に縄文海進に伴って低地の奥深くまで海域が拡大し,沿岸部に砂質干潟が形成された.また,K-Ahテフラの降灰直前には砂質干潟から淡水湿地へと堆積環境が変化した.その後,湿地堆積物や河川からの洪水堆積物などによって湿地の埋積が進行し,5,200 calBP頃までには陸域となって森林が広がった.一方,埋積の及ばなかった低地の北部では5,800 calBP頃までに内湾環境が形成された.以後,内湾は河川堆積物による埋積によって汽水湖沼へ変化し,4,600 calBP頃に淡水湖沼化した.湖山池沿岸部では縄文時代後期までに内湾から淡水湿地への環境変化が生じたことが共通して認められ,閉塞湖沼としての湖山池の原型はおよそ4,000~4,600 calBP頃までに完成したと推定される.
著者
加藤 央之 永野 良紀 田中 誠二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.95-114, 2013-03-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

将来の地域気候予測に用いる統計ダウンスケーリング手法に利用するため,東アジア地域における海面気圧分布パターンの客観分類を行い,寒候期を対象として,平均分布型,出現の卓越季節,従来手法による分類結果などを参照し,得られた各パターンの特徴を明らかにした.本手法は,分布パターンを主成分スコアという客観指標に置き換え,主成分空間内でクラスター分析によりこれを分類するものである.対象領域における30年間(1979~2008年: 10958日)の午前9時の海面気圧分布パターン分類を行った結果,寒候期のパターンは強い冬型(3グループ),弱い冬型(3),低気圧型(1),移動性高気圧型(2),移動性高気圧・低気圧型(2),その他(1)の12のグループに分類された.各グループの継続性,グループ間の移行特性(特定のグループから特定のグループへの移行しやすさ,しにくさ)について,確率を用いて定量的に明らかにした.
著者
古川 智史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.135-157, 2013-03-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,1990年代以降の広告産業を取り巻く環境の変化の中で,東京における広告産業の組織再編の実態と地理的集積の変容を考察することである.広告関連企業の分布を1980年と2010年で比較した結果,銀座や神田を中心に,依然として都心部5区に集中する傾向が強いものの,グローバル化による外資系広告会社の立地の増加や,渋谷周辺にインターネット広告企業の新たな集積の形成がみられた.このうち,大手広告会社は,2000年以降,従来外部化していた広告制作の垂直統合,積極的な専門広告会社の設立,他企業の買収を進め,グループの競争力を強化している.その結果,都心部にグループ企業の集積が形成されている.広告制作会社は,広告主のニーズに対応するため,Webを中心として業務範囲を広げ,外注先と柔軟な関係を形成する傾向にある.そのため,広告制作会社にとって都心部に立地する利点は大きく,このことが地理的集積の維持に寄与していると考えられる.
著者
中井 信介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.38-50, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
43

本稿では東南アジア大陸部の山村で広く行われている豚の小規模飼育について,タイ北部ナーン県におけるモンの山村の事例に基づいて,その実態を明らかにした.特に,1)豚の形質,2)豚への給餌,3)豚の利用形態,の3点を明らかにすることから,山村における現在の豚の小規模飼育の継続要因を考察した.その結果,タイ北部の山村において豚が継続して飼育される要因として,年に一度行われる祖先祭祀での供犠利用に基づく宗教的要請と,正月祝いなどの慶事の宴会利用に基づく他家との関係を確認するための社会的要請が定期的にあることが示された.さらに,小規模な飼育が成立している要因として,豚の餌についての技術的・労働力的要請が示された.すなわち,豚の餌はバナナの葉と茎など山村周辺の自然に由来するものであり,これらは潤沢に存在するが長期貯蔵が不可能であり,毎日自力で採取する必要があるために,各戸の飼育規模が規定されていることが明らかとなった.
著者
任 海
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.51-64, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

中国では,1990年の土地使用権の譲渡に関する条例の制定とともに,急激に都市化が進行した.本研究は,中国上海市静安区大中里地域の市街地再開発を事例として,上海市内部での都市化の進展をミクロレベルで考察することを目的とする.再開発地域の居住者には,立退きに際し,金銭形式と住宅形式の二つの形式に基づく五つの補償方法が提示された.この再開発事業では,居住者に関するデータが一部公開されていることから,本研究では1,679世帯の里弄住宅居住者データを用い,居住者による五つの補償方法の選択状況を分析するとともに,移転先との関係を解明することを試みた.その結果,都市環状高速道路で形成される上海市の圏域構造が補償住宅の供給戸数の分布,居住者による補償方法の選択と移転先の決定と密接に関係していることが明らかになった.さらに,中心市街地の再開発と郊外新区の開発の連携は,都市人口分散の手段であることが裏づけられた.
著者
三浦 尚子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.65-77, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

本稿は東京都U区を事例地域に,障害者自立支援法施行後,精神障害者を対象とする作業所の新サービスへの移行状況とその利用実態に関する質的調査を行った.その上で,国家レベルの福祉施策の転換が地域レベルの障害者福祉サービス供給に及ぼした影響を,作業所という「ケア空間」の場が果たす役割に関連付けて考察した.その結果,移行先が就労継続支援B型のサービスに集中し,その一因に実際には就労支援に消極的な旧共同作業所が含まれており,「なんちゃってB」を自称していることがあると明らかになった.これらの事業者は,就労が困難な利用者のニーズに対応する一方で,経営基盤が安定する就労継続支援B型を選択して作業所の存続を図っている.自称「なんちゃってB」の出現は,障害者の自己責任を志向し,就労自立に傾倒した新制度に抵抗するための事業者の戦略であり,その結果旧共同作業所は,従前と変わらず精神障害者の居場所として機能している.
著者
宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.547-566, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
48
被引用文献数
3 3

本研究では,長崎市を事例地域に地域密着型サービスの介護事業所が取り組む地域交流・連携の実態を明らかにした.まず,外部評価報告書の内容を分析した結果,事業所から地域社会に積極的に働きかけるタイプの取組みに地域差が確認された.全体の傾向として事業所は,所在地の自治会をパートナーとして交流・連携に取り組むことでさまざまな効果を享受していたが,そこにも地域差が存在した.次に,その要因として①地域の環境条件と②事業所の運営方針を想定し,交流・連携に積極的な姿勢を示す複数の事業所と地域社会を調査した結果,各事業所はそれぞれの運営方針を反映した交流・連携の必要動機をもっていること,その実践形態には地域の環境条件が踏まえられていることが明らかとなった.このことは,地域交流・連携の深化には事業所の姿勢や体制を整えるとともに,地域の特性に配慮した交流・連携手法の採用が重要になることを示唆している.
著者
大呂 興平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.567-586, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
35
被引用文献数
2 1

日本の牛肉輸入自由化から20年が経過した.この間,豪州からの牛肉輸入量は急増したが,開発輸入を目的に豪州生産拠点を築いた日本企業はほとんどが撤退し,豪州産牛肉の大半は豪州企業との相対取引により調達されるに至った.本研究では,この取引形態の変動を説明すべく,開発輸入の前提となった生産条件,市場条件,および企業間の能力差の変化を,変化の動因たる主体の行動に注目して分析した.日本企業進出の根拠は,日豪間に大きな内外価格差があったにもかかわらず,豪州企業には日本市場が固有に必要とする品質を実現する能力がなかった点にあった.しかし,時間とともに,日本固有の中長期肥育牛肉の需要は急減し,日本の外食消費や豪州・東アジアにおける短期肥育牛肉の需要が増大した.日本では生産者による低コスト化・高品質化が進んだ一方,豪州では多国籍巨大パッカー傘下の企業が短期肥育牛肉の世界販売を本格化させた.これらの変化が積み重なり,日本企業は自社生産の合理性を失った.
著者
森田 匡俊 奥貫 圭一 塩出 志乃
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.608-617, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1

高齢化に関して,都市部における老年人口の多さが社会的問題になりつつある.ところが,高齢化率のみを見ると,都市部では総人口も多いために問題を過小評価する可能性がある.そこで本稿では,愛知県を対象地域として,老年人口密度の分布を考慮した高齢化率の空間的分布パターンの把握を試みた.まず,高齢化率と老年人口密度についての階級区分図から,両値の空間的分布パターンを比較検討した.次に,2変量ローカル・モラン統計量を用いて両値の空間的相関関係に基づく地区の類型化を行った.その結果,老年人口密度の高い都市部における高齢化と,高齢化率のみが高い農山村部における高齢化とを,その性質の違いを踏まえて同時に把握できた.そのほか,都市部における高齢化を二つのタイプに分けて把握できた.また,可変地区単位問題による分析結果への影響を考察した結果,愛知県では,1 kmメッシュデータの利用が有効であった.
著者
村中 亮夫 瀬戸 寿一 谷端 郷 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.492-507, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26

本稿では,地域の防災・安全情報が記載されたWebマップをベースとした安全安心マップ(Web版安全安心マップ)について,利用者の活用意思とそれを規定する心理的な要因を分析した.分析資料としては,京都府亀岡市篠町のWeb版安全安心マップについて,紙地図ベースの安全安心マップ(紙地図版安全安心マップ)との対比から得られた利用者評価のデータを利用した.分析の結果,Web版安全安心マップでは紙地図版安全安心マップと比較して高い活用意思が表明され,Web版マップを積極的に活用する意義が示された.また,Web版マップを活用する意思の心理的な要因を検討する構造方程式モデリングの結果,Web版マップの利便性やそれを通して得られる地域の危険/安全箇所に関する認識の深まりの度合い,マップに掲載されている情報の充足性が,Web版マップの活用意思に正の影響を与えていることが示された.
著者
永田 玲奈 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.508-516, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

本研究では,1901~2000年の100年において北太平洋高気圧西縁部の東西・南北変動を示す指数を定義し,その長期変動について明らかにするとともに,日本の17地点における夏季気温変動との関係について解析を行った.その結果,北太平洋高気圧の西縁部は過去100年に南西方向にシフトしていることがわかった.また100年を前半50年と後半50年に分けて比較したところ,前半50年と比べて後半50年には,高気圧西縁部が北(南)にシフトすると気温が上昇(低下)するという有意な正相関を示す地点が多く見られた.1951年以降,Pacific-Japan (PJ)パターンの励起と関係が深い,南シナ海と熱帯太平洋西部との間の夏季海面水温の東西傾度と,高気圧西縁部の南北変動との関係が強まっており,PJパターンが多く発生することで,高気圧西縁部の南北変動と日本の気温との関係が強まったと考えられる.
著者
遠藤 貴美子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.342-361, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

東京城東地域におけるカバン・ハンドバッグ産業は,グローバル化に伴って海外への生産拠点移転が進んだものの,産地内における生産も依然として行われている.そこで本研究は,東京城東地域の当該産業における企業間連関をコミュニケーションの視点から分析し,集積の存立基盤を明らかにする.その際,主に企画・開発の機能を果たす問屋などと,実際の製造を行う各種加工業とを結節しているメーカーを分析の対象とした.その結果,同地域における当該産業では,(1)製品自体が規格化された量産製品ではなく,(2)皮革素材などの数値化がなされにくい情報を多数含み,(3)製造技術も平準化がなされにくい,といった理由によって,集積内の空間的近接性を活用した関連企業間の対面接触への依存度が高いことが判明した.また,同産業は製品モデルが短サイクルで変化するため,メーカーは短納期を強いられていることから,対面接触の重要性がより高められている.
著者
平野 淳平 大羽 辰矢 森島 済 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.275-286, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
22
被引用文献数
4 5

本研究では,東北地方南部に位置する山形県川西町において1830年から1980年までの151年間,古日記に記されていた天候記録にもとづいて冬季平均気温を推定し,その長期変動にみられる特徴について考察した.まず,古日記天候記録から推定した気温の変化を古気象観測記録にもとづく冬季気温の長期変動と比較したところ,両者の変動傾向はよく類似しており,本研究による推定結果の信頼性の高さが裏付けられた.また,気温の推定結果からは,従来の研究で,定性的に暖冬であったことが示唆されていた幕末期について,1)1840年代後半~1850年代前半と2)1860年代後半に,気温が現在の平年値とほぼ同程度である暖冬年が一時的に存在していたことが推定された.一方,これらの暖冬年を除くと,19世紀中頃以前の大部分の年では冬が現在よりも寒冷であったことが推定された.
著者
福島 あずさ 高橋 日出男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.127-137, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

ヒマラヤ南面のネパールにおいて,長期の日降水量データを用い,降水量と降水特性の季節変化およびその地域性を調べた.クラスター分析によって降水量季節変化の地域性に基づく地域分類を行った結果,西部ミッドヒル・テライ,西部山岳,東部ミッドヒル,東部テライの4地域に分類された.平均日降水量の季節変化の特徴として,4~5月のプレモンスーン季の降水量の増加が,東部地域を中心に顕著であった.また,西部山岳地方では年間を通じて日降水量が少ない.各地域における降水特性の季節変化の比較から,西部山岳地方を除き,夏季に月降水量,降水日数,降水強度の増大期が見られ,ピークは7月であった.また西部の全域と東部ミッドヒル地方の一部では,冬季の降水量,降水日数,降水強度が大きい傾向にある.さらに東部テライ地方は,9月を除く4~11月の降雨強度が他地域と比べて最も大きく,11~3月は最も小さいことから,降水量の季節変化が最も大きい地域といえる.
著者
野尻 亘 兼子 純 藤原 武晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.1-21, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1

日本における自動車部品の中・長距離のジャスト・イン・タイムによる物流システムは,特にオイルショック以降,多品種生産,フレキシブルな生産への移行,通信情報システムの発達,完成車工場立地の広域化を背景として,完成車メーカー,部品サプライヤー,その物流子会社やサード・パーティー・ロジスティクス(3PL)相互の協力により形成された.各部品サプライヤーからミルクラン方式で集荷する集散地の集荷物流センターと,完成車工場近くで,部品の仕分け・定時多回納入を行う配送納入センターを設け,その間は大型車で幹線集約輸送をする.それは,積合わせによる幹線輸送における規模の経済の実現と,きめ細かな仕分けや多頻度配送を可能とする範囲の経済を同時に実現するフレキシブルな物流システムである.各部品メーカーが物流コストを負担し,多様な物流が展開している本田技研熊本製作所と,完成車メーカー側が物流コストを負担して,3PLを元請にして集荷している三菱自動車水島製作所の具体的事例について比較,考察した.
著者
瀬戸 芳一 高橋 日出男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.529-552, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

一般には,地上風の収束域では上昇流,発散域では下降流の存在が大気下層で期待される.本研究では,関東平野の夏季日中における局地風構造の把握を目的として,海風日の地上観測風から発散量分布を求め,顕著に認められた収束域と発散域との出現位置や時間的関係について検討した.その際に,風速の観測高度が観測点ごとに異なるため,周囲の土地利用状況をもとに各観測点における地表面粗度を推定し,対数則に基づいて統一高度における風速を求めた.午前中には,水平規模が10~30km程度の典型的な局地循環として,東京湾付近に海風循環,関東北部には谷風循環がそれぞれ独立して存在することが示された.午後になると,谷風循環に伴う群馬・埼玉県境付近の発散域は弱まって,関東北部の谷風循環は不明瞭となり,広域海風の発達に対応した循環構造の変化を観測風の解析からもとらえることができた.