著者
金築 優
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PA-010, 2021 (Released:2022-03-30)

知覚制御理論(perceptual control theory:PCT;Powers, 1973)と自由エネルギー原理(free energy principle:FEP;Friston, 2010)は共に,計算論的に行動の機能を説明する理論である。PCTとFEPは,ある程度の共通点もあるが,異なる点も多々あり,この2つの理論を比較することによって,両理論における新たな研究課題を見出すことが期待される。PCTは,脳は制御する対象を特定化する役割を果たしていると考えるが,FEPは,脳はサプライズを最小化させる役割を担っていると考えている。PCTにおける制御の特徴は,行動によって知覚を制御すると捉える点である。一方,FEPにおいて,予測(prediction)が重要な役割を果たしており,予測誤差の最小化が重視される。PCTは,予測なしに,制御が可能であることを主張する。FEPは,知覚と運動によって,予測誤差を最小化させていると主張する。予測の定義をどのように捉えるかによって,両理論がオーバーラップする部分は異なってくると考えられる。
著者
藤田 益伸 小林 龍生
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PE-013, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

目的:教誨師とは刑務所等の矯正施設において受刑者の育成や精神的救済を目的とした講話や面接活動をする聖職者を指す。職業としての宗教教誨は一定の方法的自覚に基づき行われているが,教誨が心理学化していくとの指摘もある。本研究では対人援助の基本姿勢を比較しながら,教誨師の対面関係における態度の類似性と相違性について探究した。方法:2019年12月から3月に,教誨師1名を対象に半構造化面接を行った。面接は対面1回,電話4回で,所要時間は1回あたり1時間前後であった。調査内容は,教誨師としての活動状況,エピソード,心構え等である。得られたデータのうち対人援助能力に関連する内容を抽出,カテゴリー化してまとめた。倫理的配慮は所属機関の倫理規程を遵守し,秘密保持,個人情報の保護に努めた。結果:傷つき不信感をもった少年に対して,時所位・慈悲・灯明をもって接して感応道交へ至らしめていた。考察:教誨師の3姿勢が無条件の肯定的関心,共感,自己一致に対応していたことに加え,自他一如の価値観が根底にみられた点が特徴的といえる。
著者
石原 俊一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PR-001, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究は,心身の健康にポジティブな影響があるアニマル・セラピーについて,実際に動物とのふれあう条件を設定し,自律神経系反応へのリラクセーション効果を実験的に検討した。犬愛着尺度が高得点の文教大学生28名を対象とし,犬とのふれあう犬条件14名と犬介在がない統制条件14名にランダムに割り当てた。生理指標として心拍数,低周波成分(LF成分),高周波成分(LF成分),パワー比であるLF/HF成分,収縮期血圧,拡張期血圧,心理指標として日本語版PANASをそれぞれ測定した。犬条件では,犬とのふれあいによって,LF成分およびLF/HF成分,が実験期で有意に上昇を示し,その後の回復期で有意な低下を示した。また,PANASのポジティブ感情尺度では実験期に上昇した。すなわち,生理指標では,実験期に交感神経が活性化し,そこから回復期にかけて低下することでリラクセーション効果が生じ,心理指標では,犬介在がポジティブ感情を有意にすることが認められた。犬条件において,犬介在によるリラクセーション効果・ポジティブ効果が認められた。
著者
菊池 聡
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-119, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

科学的な主張のように見えながら正当な科学としての要件を欠く疑似科学的は,医療・健康・教育・環境など幅広い領域でしばしば社会的な問題を引き起こしている。こうした中には,疑似科学ユーザーが,さまざまな「善意から」,よかれと思って使用や推奨を行い,批判を受け入れない態度が多く見られる(菊池,2012)。こうした無自覚の善意が,正当な科学知識の欠如と結びついて疑似科学を促進するという一般的な言説を検証するため,疑似科学信奉と,愛他的向社会的行動や科学リテラシーの関連について検討した。大学生325人(男171,女154)人に対して,疑似科学信奉尺度(超常・日常),超常信奉尺度,向社会的行動尺度,科学技術基礎リテラシー知識テストなどを実施した。その結果,性別や専攻を統制しても,疑似科学(超常)信奉は向社会的行動と正の関係が認められた。ただし,科学知識レベルと交互作用は見られなかった。また,一般的な超常信奉と向社会的行動の関連が見られ,疑似科学信奉においても超常的なスピリチュアルな要素が向社会行動に影響する可能性が推測された。
著者
松本 みゆき 金井 篤子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PQ-010, 2021 (Released:2022-03-30)

異文化適応は,海外で生活する人びとが現地生活にどれくらい馴染んでいるかを示す概念であり,彼らの精神的健康や行動のパフォーマンスを促進することが示されている。海外派遣者の女性配偶者は,その多くが海外帯同のため仕事を辞めたり,帰国後も就職をためらったりするなど,キャリア意識の構築が難しい。一方,異文化適応がキャリア意識に影響を及ぼす可能性が指摘されている。しかし,彼女らの異文化適応が帰国後のキャリア意識に影響を及ぼし,キャリア意識がどのように変化するかについて着目した研究はこれまでにない。本研究はこれらについて明らかにするため,帰国した海外派遣者の女性配偶者に対してインタビュー調査を実施した。分析の結果,直近の帯同で滞在していた国における異文化適応が高い人は低い人に比べて,ポジティブなキャリア意識を持っていることが明らかになった。また帯同前と比べて,キャリア意識が変化したと考えていることが示された。異文化適応は帰国後のキャリア意識に影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
松本 みゆき ゴパル バイジュ
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PQ-005, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

海外駐在員配偶者は,配偶者の海外赴任に伴って海外で生活する海外駐在員の家族のことで,その大半が女性であり,現在の状況ではその多くが海外転居に伴い,仕事を辞めている。そこでキャリアの分断を経験するため,帰国後復職する者が少ないことが指摘されている。このような状況のなか,海外駐在員配偶者は海外滞在中や帰国後に,自らのキャリアについて悩むことが多く,彼らの異文化適応にも影響を及ぼすことが考えられる。海外駐在員配偶者ついての先行研究はいくつかあるが,その問題は海外駐在員配偶者が持つライフキャリアに対する視点が欠けていることである。異文化適応は仕事や家庭,社会でどう生きるかという人生の見通しである「ライフキャリア観」にも大きな影響を及ぼすと考えられるが,それについて扱った先行研究は国内外でもほとんどない。このことは海外駐在員配偶者の異文化適応を把握する上では問題が大きい。そこで本研究では,海外駐在員配偶者の異文化適応について,仕事や家庭,社会でどう生きるかという人生の見通しである「ライフキャリア観」の観点から検討する。
著者
高橋 知也 村山 陽 山﨑 幸子 長谷部 雅美 山口 淳 小林 江里香
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-160, 2021 (Released:2022-03-30)

社会的孤立には健康リスクがあることが示されており,特に中高齢者では孤立死のリスクにもなり得るが,「周囲からの孤立」の認識に着目した研究は乏しい。そこで,単身中高齢者において主観的な孤立を感じやすい者の特徴を検討した。方法:東京都A区の台帳上の単身者50-70代から無作為抽出した4000名に郵送調査を実施し(有効票1829),実際は同居人がいる者や分析項目に欠損のある者を除く1290名を分析対象とした。分析項目は周囲からの主観的な孤立感尺度(1因子4項目,4-16点,点数が高いほど孤立を感じやすい)(高橋ら,2020),基本属性(性別・年代・暮らし向き等5項目),主観的健康感,精神的健康度,客観的な社会的孤立(別居親族や友人との接触頻度),外出頻度,参加グループの有無,相談相手の有無とし,主観的な孤立感を従属変数,その他を独立変数とする重回帰分析を行った。結果:暮らし向き,主観的健康感,精神的健康度が良好でない単身中高齢者は周囲からの主観的な孤立感を深めやすいことが示唆された。他方,客観指標に基づく社会的孤立や参加グループおよび相談相手の有無等との間に有意な関連はみられなかった。
著者
橋本 唯
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-096, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究の目的は,とらわれ型の愛着スタイルは日本の文化的環境に適応的であるかどうか検討することであった。日本の大学生256名(男性89名,女性167名,平均年齢19.4歳,SD=1.33)を対象にして,4分類の愛着スタイル,アサーション,過剰適応,抑うつについて質問紙による回答を求めた。その結果,安定型78名(30.6 %),拒絶型22名(8.6 %),とらわれ型111名(43.5 %),恐れ型44名(17.3 %)でとらわれ型が最も多く,安定型が最も多い欧米の割合とは異なっていた。分散分析の結果,理論的にネガティブな愛着スタイルと考えられてきた,とらわれ型と恐れ型の愛着スタイルは,アサーションのポジティブな側面である他者配慮は,安定型と拒絶型と比較して有意に高かった。しかし,過剰適応および抑うつは安定型,拒絶型と比較して有意に高い結果になった。つまり,とらわれ型の愛着スタイルは,日本の文化的環境に求められる対人関係スタイルに最も近い型であるが,内的不適応に陥りやすい結論に至った。最終的にとらわれ型の愛着スタイルが日本に多い理由について考察された。