著者
浜村 俊傑 Jack Mearns
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PD-078, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

本邦では60-69歳の飲酒割合が最も高いが(国税庁,2020),独りでの多量飲酒と他者との多量飲酒で精神健康への影響に違いがあるのかは明らかでない(April, et al., 2015; Gonzalez & Skewes, 2013)。そこで本研究では高齢者において過度な単独飲酒と社交飲酒でアルコール使用障害や気分障害の症状に違いがあるのかを検証した。65歳以上の飲酒者(N=500)より飲酒行動,アルコール使用障害(AUDIT),孤独感,うつ・不安(K10),情動制御期待(NMRE)を測定した。サンプルの22.5%は過度な社交飲酒者,39.4%は過度な単独飲酒者であった。2群の比較にはBrunner-Munzel検定を用いた。単独飲酒者は社交飲酒者よりも,AUDIT (効果量=.78, 95%CI [.73 .84]) および孤独感(効果量=.59, 95%CI [.53 .66])が高かった。K10およびNMREにおいては差は有意でなかった。高齢者の過度な単独飲酒は社交飲酒よりもアルコール使用障害が中程度に,孤独感が小程度に高いことが示唆された。うつ・不安および情動制御期待に関しては違いは確認されなかった。社会的孤独が課題となりうる高齢者において,他者との関わりはアルコール使用障害の発症リスクを低める上で重要であることが考えられる。
著者
瀧川 諒子 福川 康之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PO-090, 2021 (Released:2022-03-30)

Trivers-Willard仮説によると,状態のよいときに息子を,状態の悪い時に娘を多く産む母親は,より多く自身の遺伝子を残すことができる。本研究は出産年齢により胎児への栄養供給に性差が見られるかを検討することで,Trivers-Willard仮説を検証することを目的とする。NFHS(National Family Health Survey:インドの世帯を対象とした健康に関する大規模横断調査)より抽出した双子ペア6444名(男性3378名,女性3066名)を対象に,出生体重を従属変数とし,母親が出産適齢期(18歳以上35歳未満)であるか否か,同性双子か異性双子か,児の性別を独立変数とした階層的重回帰分析を行った。母親の出産歴は統制した。その結果,母親が非出産適齢期であるとき,女児ではペアが異性の場合にペアが同性の場合と比べて出生体重が重かった。これは,女児への投資が優先されているとき,同性双子の女児では二人ともが同じだけ栄養を受け取ることになるが,異性双子の女児ではペアの男児よりも優先されて余分に栄養を受け取ることになった結果であることが考えられる。
著者
北村 英哉 三浦 麻子 松尾 朗子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-051, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

清浄志向/穢れ忌避(POPA)傾向は,人の道徳基盤のひとつをなし,しかも直観的に日常的態度に反映される。穢れ意識が差別行為と結びつくことが指摘されてきたが(礫川,2007),現代においても移民排斥態度,不安感が関連を有するのか検討を行う。体系的な各年代サンプルで,高年齢層ほどPOPA傾向が高いかの検討も合わせてWeb調査を行った。チェックを通過した402名(うち女性211名,年齢M=46.78)から有効な回答を得た。4因子(精神清浄・信心尊重・身体清浄・感染忌避)の中で,精神清浄と身体清浄において高年齢ほどPOPA傾向が高かった。さらに,移民不安を目的変数とし,POPA各因子と年齢,性別その交互作用を説明変数として重回帰分析を行った。その結果,精神清浄以外の効果が有意で仮説は概ね支持された。また,男性の方が移民不安をより示す傾向があり,特に信心尊重傾向が高いと移民不安が高い傾向が見られた(性別×信心尊重交互作用β=-.128)。信心尊重や感染忌避傾向が移民排斥態度に通じる重要な知見を示し,外集団との関係において,こうした個人差変数,あるいは特定状況下で上昇しやすい傾向性に着目した検討も有効性と意義のあることが示された。
著者
高野 了太 澤田 和輝 野村 理朗
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-054, 2021 (Released:2022-03-30)

畏敬は,現在の認知的な枠組みが更新するような広大な刺激に対する感情反応である。従来,雄大な自然等の刺激から生じる畏敬が自己主体感を低下させ,目の前の超越的な出来事を説明するための新たな意味体系(神等)を見出すよう動機づけること等が指摘されている。これらの知見は,畏敬が「人は行いにふさわしい成果をこの世界で与えられる」という公正世界信念(Belief in a just world,以下BJWとする)と関わる可能性を示唆する。BJWは対象を自己としたBJW-自己と,他者としたBJW-他者の2種からなり,例えば,BJW-自己は,自分の運命をコントロールする点から自己主体感と正に関わる一方,BJW-他者は,世界に意味体系をもたらす点から宗教的信仰心と正に関わることが示されている。ゆえに本研究では,日常的に畏敬を経験する傾向(気質畏敬)とBJW-自己・他者の関連を検討した。結果,他のポジティブ感情の効果を統制した際,気質畏敬は,BJW-自己を負に,BJW-他者を正に特異的に予測した。これらの結果は,畏敬が,自他の対象によって異なる形で,世界を理解するための枠組みとしての信念と関わることを示唆する。
著者
石井 辰典 中分 遥 柳澤 田実 五十里 翔吾 藤井 修平 山中 由里子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.SS-017, 2021 (Released:2022-03-30)

宗教は,人類史において私たちと切り離せないものであったと言える。宗教に関する学問は様々あるが,近年西洋圏で急速に発展してきたのが宗教認知科学,すなわち認知科学・進化科学の観点から,なぜ宗教が人間社会に普遍的に見られるのか,また世代を超えて受け継がれるのかを解明しようとする学際的分野である。ただその理論・仮説の文化普遍性は必ずしも検証が十分とは言えない。主に一神教世界の研究者たちが構築してきた理論を,非一神教世界の理解のために無批判に適用してよいのだろうか? そこには一神教的な自然観を前提とした文化的バイアスがかかっていないだろうか? これを問うために本シンポジウムでは,まず日本で宗教認知科学研究を進めてきた研究者に自身の研究を紹介してもらい知見を蓄積する。そして指定討論者には「超常認識」や「想像界の生きもの」の比較文化プロジェクトに携わり「人はなぜモンスターを想像するのか」について多くの論考をお持ちの山中由里子(専門:比較文学比較文化)を迎え,コメントをいただく。この異分野間の対話を通じて,宗教認知科学で問われる宗教的概念・信念の文化的相違点について議論を深めたい。
著者
高橋 綾子 北村 英哉 桐生 正幸
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-047, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究では,現代の人々において,日本の「伝統的価値観」と「認識」されているものの考え方,感じ方を整理し,それが文化的自己観といかに関係するかを検討する。伝統的価値観は予備調査において取り出すことのできた考えのうち,すでに別領域での研究の多い伝統的性役割観については除いた上で,自分自身の行動指針,行動規範となり得るものに焦点をあてることとした。また,おみくじをひく等の具体的な日常的宗教行為と伝統的価値観がいかに関わるかについても探索する。オンライン調査によって648名(女性430名,男性218名,M=33.94)から得た有効回答を用い,研究1では伝統的価値観尺度,日常的宗教行為尺度を構成し,それぞれ7因子,4因子構造であることと,信頼性・妥当性を確認した。さらに,研究2では文化的自己観との関連を探り,「祟りとばち(a kind of vitalism)」の伝統的価値観が空気信仰を高めることを通して文化的自己観に影響することが確認された。以上の結果から,現代日本においても伝統的価値観が社会的相互作用に対して重要な役割を果たしていることが示された。
著者
谷内 通 部家 司 西川 未来汰
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PJ-001, 2021 (Released:2022-03-30)

本研究はイシガメとクサガメの鏡に対する反応を検討した。実験1では,長方形の実験箱内の1つの壁に並んで設置した鏡と灰色の板に対して,カメが頭を向けたあるいは触れた時間を測定した。鏡と灰色板の左右位置は試行毎に交替した。8匹のカメは,灰色の板よりも鏡に対して有意に長く反応した。実験2では,灰色の実験箱の1面のみ透明な壁を設置し,透明な壁の先に同種他個体のカメが置かれた条件,透明な壁の先に何も置かれない条件,または透明な壁の前に灰色の板を設置する条件のいずれかと隣接する鏡に対する反応を比較した。カメは灰色の壁よりも鏡に対して有意に長く反応したことから実験1の結果が再現された。しかしながら,他個体の有無にかかわらず透明な壁と鏡に対する反応に有意な違いは認められなかった。本研究の結果は,カメが鏡に反応することを示した初めての知見である。しかし,本研究の結果からは,カメが鏡に反応したのは鏡の中に自己や同種他個体等を認識したからではなく,鏡の中に奥行きを認識し,おそらく実験箱から脱出することを目的として,鏡の向こう側へ行こうとしたからであることが示唆された。
著者
坂口 龍也
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PD-041, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

ペットロスとはペットの死亡や逸走など,様々な理由によるペットの喪失形態を指す。ペットと暮らす上では不可避の出来事であり,それによる心身への影響も大きいと予想される。日本においてペットロスに関する先行研究は少なく,その介入法についても十分な検討がなされていない。本研究では,ペットロス経験に対する意味の付与と体験の回避が自己成長感に及ぼす影響について検討することを目的とした。ペットロス経験者139名を対象に質問紙調査を実施した。尺度としては(1)日本語版BEAQ(2)ストレスに対する意味の付与尺度(3)ストレスに起因する自己成長感尺度を用いた。重回帰分析の結果,ペットロス経験に対して,日本語版BEAQとポジティブな側面への焦点づけが自己成長感に負の影響(β=-.30, p<.001, β=.28, p<.05)を及ぼすことが示唆された。ペットロス経験に対して体験の回避が生じることで,価値づけた方向や活動から逸れ,ペットロスの受容が遷延化し,その結果として自己成長感を導きにくくなると考えられる。また,対人喪失と異なり,ペットロスの持つメッセージ性から自己の在り方や将来に対する具体的なビジョンを持つことの困難さが示唆された。