著者
黒田 起吏 高橋 茉優 亀田 達也
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-001, 2021 (Released:2022-03-30)

メンバー全員が集団意思決定に参加(投票)する場合,多数決は高い正答率をもたらす。しかし,投票がコストを伴い,そのため投票しない誘因がある場合でも,集合知が成立するかは不明である。本研究では「能力に自信がある人は,投票せずに個人として意思決定したほうが利益が見込めるため多数決に参加しない」と予測し,実験室実験を行った。参加者は知覚課題に取り組み,個人として回答するか,投票して多数決に従うかを選んだ。また,実験結果をもとにシミュレーションを行い,メンバー全員が投票した場合の多数決精度を計算した。分析の結果,自信のない参加者ほど投票しやすいことがわかった。この投票バイアスの結果,本実験での多数決は,全員が投票した場合(シミュレーション結果)よりも一貫して劣っていた。また,課題が難しい場合,投票する人数が多いとむしろ正答率は下がった。個人の自発的な選択から生じる投票バイアスに対して多数決が脆弱である可能性を,本研究は示唆している。
著者
国里 愛彦 小杉 考司
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.TWS-012, 2021 (Released:2022-03-30)

再現可能性を高める上では,データから論文までをシームレスに接続して研究を行うことが推奨される。それによって,データの前処理から統計解析への移行時のミス,解析結果を論文内に記載する際のミスを防ぐことができ,研究の再現可能性を高めることができる。これを可能にするソフトウェアとしてR Markdownがあり,主要な学術雑誌のテンプレートが用意されている。国際誌の場合は既存のテンプレートを活用して論文執筆ができるが,国内誌の場合は日本語の処理や引用文献処理の問題もあり,適切なテンプレートが存在しない。そこで,我々は『心理学研究』などの国内誌に対応したjpaRmdパッケージを開発した。jpaRmdパッケージを使うことで,データの前処理,統計解析,論文執筆を1つのソフトウェア内でシームレスに扱うことができる。また,jpaRmdは投稿規定に沿った出力ができるので,フォーマット調整にかける労力を減らし,論文執筆に注力できる。本チュートリアルでは,各種ソフトウェアの導入からスタートし,再現性を高めるフォルダ構造の設定,そして実際にjpaRmdを使って論文執筆ができるようになることを目指す。
著者
野村 亮太
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PI-011, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

2020年には,ソーシャルディスタンシングという用語が一般化し,多くの人が集まる会議は制限されている。それらの代替手段として,企業や大学ではweb会議がこれまでにないほど高い頻度で行われるようになった。web会議では,画面中の相手に注意を向けなければならないことに加え,時に通信状況に起因した遅延が生じるなど,通常の会議では経験しない出来事も生じやすい。あるタイミングで会話中にふと静まり返り,誰も言葉を発しない時,フランスのことわざで「天使が通る Un ange passe.」と表現される。こうした少々の気まずい瞬間の生起頻度について,著者の知る限り正確な統計はないが,体験的にはweb会議での方が多いようだ。本研究では,会議で円滑にターンテイキング状況とぎこちない場合で何が異なるかを比較できるように,行動指標の定量化を目指した。具体的には,多人数が参加するweb会議を想定して,画面から人の顔を検出し,瞬目タイミングを同定するプログラムを作成した。また,瞬目生起タイミングの一致度について比較できる統計量を定義した。今後は,通信による遅延が生じない360度カメラでの映像とweb会議で統計量を比較する予定である。
著者
中川 威 安元 佐織 樺山 舞 松田 謙一 権藤 恭之 神出 計 池邉 一典
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PR-013, 2021 (Released:2022-03-30)

疲労感は加齢の兆候として知られる。睡眠不足は疲労感を生じさせるが,過眠と疲労感の関連は明らかではない。そこで本研究では,地域在住高齢者を対象に日誌調査を行い,今夜の睡眠と翌日の疲労感の関連を検討した。ベースラインで,年齢,性別,居住形態,精神的健康,身体的健康を尋ねた。7日間にわたり,起床後に,就寝時刻,起床時刻,睡眠の質を,就寝前に,1日に経験した疲労感,ポジティブ感情,ネガティブ感情を尋ねた。分析対象者は1日以上回答した58名(年齢82-86歳;女性37.9 %)である。調査参加者は,朝に平均6.8回(SD=1.0),晩に平均6.9回(SD=0.7)回答した。睡眠時間は平均8.0時間(SD=1.0)で,2.0時間少ない日も2.4時間多い日もあった。マルチレベルモデルを推定した結果,個人間レベルでは,睡眠時間が多い人と少ない人では,疲労感に差は認められなかった。個人内レベルでは,睡眠時間の二乗項と疲労感の関連が統計的に有意であり,睡眠時間が少ない日と多い日では,平均的な日に比べ,疲労感が高い傾向が示された。高齢者では,睡眠不足に加えて過眠もまた疲労感を生じさせることが示唆された。
著者
川人 潤子 岡久 玲子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PD-111, 2021 (Released:2022-03-30)

問題:本研究は,テキストデータから,体型による成人女性の自己認知の違いを比較検討する。方法:282名の成人女性(平均年齢52.97歳)を対象に調査した。調査項目は,年齢,身長,体重,自己認知を測定する特性語分類課題であった。結果:やせ(BMI≤18.5)32名,標準体型(18.5≤BMI<25.0)199名,肥満(25.0≤BMI)51名に分類し,特性語分類課題の記述を比較した。“協力的な”は,やせ43.7 %,標準64.8 %,肥満58.8 %であり,“陽気な”は,やせ43.7 %,標準58.2 %,肥満56.8 %と,標準と肥満で多い。一方で“心配性の”は,やせ50.0 %,標準40.2 %,肥満50.9 %とやせや肥満に多い。また,“社交的な”は,やせ25.0 %,標準37.1 %,肥満50.9 %と肥満に多かった。考察:Blaine & Johnson(2005)と同様,肥満の者は社交的な自己認知が認められたが,やせと肥満で心配性の自己認知が高かった。アジア人には極端なBMI値の者は少ないが,今後ネガティブな自己認知と食行動との関連の精査が必要であろう。